JP3672506B2 - アルミニウム合金の表面処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウム及びアルミニウム合金(以下、アルミニウム合金という)の表面を陽極酸化処理した後に、クリヤー塗装を施す表面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、アルミニウム合金は、軽量で加工性や耐食性に優れていることより、家庭用品や建材等、幅広い用途で用いられている。また、自動車等の車両においても、軽量化という観点のみならず、金属調の光沢や光輝性といった意匠性も重視されたアルミニウム合金製品が注目されている。その製造方法としては、例えば、成形されたアルミニウム合金を鏡面やヘアライン仕上げ、脱脂処理等の前処理をした後、クロメート処理を施し、そのクロメートの皮膜上にクリヤー塗装を行い、焼付処理をしている。しかし、意匠性を重視すると十分に耐食性が満足できない恐れがあることや環境面で問題がある。そこで、クロメート処理に代わる塗装前処理として、陽極酸化処理を施すものが提案されている。これは、陽極酸化処理により陽極酸化皮膜を形成し、湯洗等の後、更にクリヤー塗装を行い、焼付処理をすることにより、陽極酸化皮膜と塗装の複合皮膜を形成するものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記した複合皮膜を形成したアルミニウム合金においては、陽極酸化皮膜上にクリヤー塗装した塗膜の外観に曇りや白濁が生じ透明性や光沢感を確保できない恐れや、塗膜の密着性が低下し剥がれが生じる恐れがあった。その原因としては、陽極酸化皮膜の形成される微細孔に電解液である硫酸等の酸や水分が残留し、それがクリヤー塗装した後に分解・蒸発することでクリヤー塗装した塗膜に曇りや白濁を生じさせ、更に、塗膜を押し退けて陽極酸化皮膜と塗膜との界面に剥離を発生し易くさせていると考えられる。
【0004】
そこで、例えば、特開平9−143793号公報には陽極酸化皮膜を温水中で超音波洗浄し、更にメチルアルコールに浸漬する方法が開示されているが、この場合、処理工程が複数になったり従来の表面処理工程にない設備が必要になったりすることにより、コスト増加に繋がるという問題があった。
【0005】
それゆえ、本発明は、アルミニウム合金に陽極酸化処理を施し、その後にクリヤー塗装を行うことにより複合皮膜を形成する方法において、陽極酸化皮膜にクリヤー塗装された皮膜の透明性や光沢感を十分に確保することができ、陽極酸化皮膜と塗膜の密着性に優れたアルミニウム合金の表面処理方法を提供することを、その技術的課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記した技術的課題を解決するために講じた本発明による陽極酸化皮膜にクリヤー塗装された塗膜の透明性に優れ金属光沢を有するアルミニウム合金の表面処理方法は、アルミニウム合金の表面に陽極酸化皮膜を形成し、この陽極酸化皮膜にクリヤー塗装を行うアルミニウム合金の表面処理方法において、電解処理することにより前記陽極酸化皮膜に形成される微細孔を洗浄する中和処理と、前記クリヤー塗装の前に湯洗及び前記陽極酸化皮膜を強制乾燥する乾燥処理とを行うことを特徴とする。
【0007】
上記した本発明によるアルミニウム合金の表面処理方法においては、陽極酸化処理の後に電解処理することにより中和処理を行うことにより、陽極酸化皮膜の微細孔に残留した電解液である硫酸等の酸を除去することができる。また、クリヤー塗装の前に湯洗及び強制乾燥を行うことにより、陽極酸化皮膜の表面のみならず微細孔に残留した水分をも除去することできる。従って、陽極酸化皮膜の微細孔に残留した酸や水分が分解・蒸発することで生じる塗膜の曇りや白濁及び塗膜の界面剥離を防止することが可能となる。よって、クリヤー塗装された皮膜の透明性や光沢感を十分に確保することができ、更に、陽極酸化皮膜と塗膜の密着性に優れたアルミニウム合金の表面処理方法を提供することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0009】
陽極酸化処理は、アルミニウム合金の表面に多孔質の陽極酸化皮膜を化成するのが目的である。従って、通常はアルミニウム合金の表面を必要に応じてバフ研磨を行った後に脱脂洗浄し、アルカリエッチング又は化学研磨を行い、酸洗処理を施す。これを陽極にし、鉛板・グラファイト等を陰極にして用い、直流又はパルス波形にて電解される。また、用いられる電解液としては、硫酸・シュウ酸・クロム酸・リン酸・芳香族スルホン酸などが広く知られている。
【0010】
陽極酸化処理の後に、必要に応じて、電解着色を施してもよい。電解着色は、従来の二次電解や三次電解等と同様にして行う。
【0011】
中和処理は、陽極酸化処理の後に、陽極酸化皮膜の微細孔に残留している酸を洗浄除去することを目的とする。中和処理に使用する処理浴は、pH5.5〜8に調整された無機酸または有機酸の水溶液が、浴温度15〜30℃の範囲で用いられる。この処理浴に、陽極酸化処理したアルミニウム合金を2〜10分の範囲で浸漬させると、陽極酸化皮膜の微細孔に残留した酸を十分に除去することができる。また、この処理浴に浸漬して電解処理することにより、作業時間を短くする方法もある。このときの電解処理の条件は、交流(50〜60Hz)電解で、電圧10〜20V、電流密度50A/m2以下で調整し、電解時間は1〜6分、望ましくは2〜5分とする。浸漬時間及び電解時間が短い場合には、陽極酸化皮膜の微細孔に残留した酸を十分に除去することができず、反対に、長い場合には、生産性が低下するとともに、陽極酸化皮膜の封孔が過度に進行してしまう恐れがある。
【0012】
次に、水洗後に湯洗を行うこと(及び前述の中和処理)により、陽極酸化皮膜の微細孔が適度に封孔されて、化学的結合及びアンカー効果の発現により陽極酸化皮膜と塗膜との密着性が高められる。湯洗は、温度70〜90℃のイオン交換水を使用し、処理時間は、陽極酸化皮膜の膜厚1μmあたり0.5〜2.5分とする。尚、酢酸ニッケル水溶液等を使用して短時間で湯洗を行う方法もあるが、湯洗温度や処理時間等の条件管理が難しい。
【0013】
湯洗の後、クリヤー塗装する前に、陽極酸化皮膜を強制乾燥する。従来も塗装前には、陽極酸化皮膜の表面に付着した水滴を除去することを主たる目的として、湯洗の熱を利用して自然乾燥させたり、一時的にエアブローや温風を吹き付けたりして乾燥処理を行っている。しかし、本発明においては、陽極酸化皮膜の表面のみならず、微細孔に残留した水分をも除去するための強制乾燥を行う。本発明の乾燥処理は、高温雰囲気中に放置すること、又は温風を吹き付けることにより行う。いずれも乾燥処理時間は、5分以上が望ましい。乾燥温度は、温度が低いと十分に水分の除去ができないので、40℃以上とし、反対に、温度が高いと水和反応が生じて陽極酸化皮膜が変質するため、70℃以下とする。更に、乾燥処理によるアルミニウム合金の加熱速度は、3℃/分以上であることが好ましい。
【0014】
ここで、強制乾燥させたアルミニウム合金は、直ちに塗装を行うことが好ましいが、例えば相対湿度60%以下の乾燥環境に保持することにより、強制乾燥の効果を維持することも可能である。
【0015】
その後、陽極酸化皮膜の上にクリヤー塗装を行い、更に、所定の焼付処理をする。本発明においては、クリヤー塗装を電着塗装にて行う場合でも十分に効果を奏することができるが、スプレー塗装にて行う場合は、より効果的に、塗膜の透明性や光沢感を確保して陽極酸化皮膜と塗膜の密着性に優れた複合皮膜をアルミニウム合金に形成することができる。
【0016】
【実施例】
次に、本発明の実施例について、比較例と対比して具体的に説明する。
【0017】
アルミニウム合金A6063−T5(JIS)の押出形材(55mm×200mm×2mm)を、従来の方法と同様に脱脂、アルカリエッチング及び酸洗等の前処理を施した後、150〜200g/lの硫酸水溶液を用い、電流密度100A/m2 で陽極酸化処理を行うことにより膜厚5μm及び10μmの陽極酸化皮膜を形成させた。
【0018】
中和処理は、pH6.5、浴温度20℃、電導度2mS/cm、1.5g/lの酢酸アンモニウム水溶液を使用した。次に、1分間の水洗後、イオン交換水(電導度20μS/cm以下)で湯洗を行い、その後、速やかに、温風を吹き付けることによる強制乾燥を行った。強制乾燥後、熱硬化型アクリル樹脂クリヤー塗料を膜厚が20〜25μmになるようにスプレー塗装を行い、140℃で30分間の焼付処理をした。このときの中和処理や湯洗、強制乾燥の処理時間等の条件を表1に示す。
【0019】
このようにして得られた、陽極酸化皮膜と塗膜の複合皮膜を形成したアルミニウム合金の外観、耐水密着性、耐衝撃性を評価した。外観は、目視にて観察し、透明性が良好で曇り等が認められないものを○、僅かに曇り等が認められるものを△、明らかに曇り等が認められるものを×と判定した。耐水密着性は、温度40℃のイオン交換水に240時間浸漬後、JIS K 5400の碁盤目テープ法(1mm×1mm×100)に準じた付着性を試験し、塗膜剥離なしを○、塗膜剥離ありを×とした。耐衝撃性は、JIS K 5400のデュポン式(おもりの質量500g、おもりの高さを20、50cm)に基づいて試験し、塗膜の割れ・剥がれのないものを○、塗膜の割れ・剥がれのあるものを×とした。これらの評価結果も表1に併せて示す。
【0020】
【表1】
【0021】
表1に示すように、本発明における中和処理、強制乾燥を行ったアルミニウム合金の表面処理方法の実施例1〜9は、いずれも、透明性の良好なクリヤー皮膜が得られ、耐水密着性・耐衝撃性に優れた陽極酸化皮膜と塗膜の複合皮膜を形成することができた。それに対して、比較例10〜14は、中和処理を行わなかったり、強制乾燥ではなく時間の短い従来の乾燥処理しか行わなかったりしたので、塗膜の外観に曇りが生じたり、耐水密着性や耐衝撃性に劣っていることが明らかになった。
【0022】
尚、実施例1〜9は、明確な外観評価等を行うために陽極酸化皮膜に電解着色を施してないが、必要に応じて従来と同様の二次電解や三次電解を行ってもよい。例えば、実施例5におけるアルミニウム合金の表面処理方法において、陽極酸化処理の後、バリヤー層調整工程を経て、陽極酸化処理と同じ浴内で交流電圧2.5V、電流の一次微分値のピークに達した時点を基点としてそれ以降の積算電荷量を9200C(一定)になるように通電を制御した陽極酸化皮膜の調整を行い、更に、硫酸第一スズ10g/l、酒石酸20g/l、硫酸15g/lを含む水溶液を用い、浴温25℃、交流電圧10Vで120秒間の電解着色を行うと、シルバー調の鈍い金属光沢を有するブルー色の着色皮膜が得られた。つまり、電解着色とクリヤー塗装を組み合わせることで、意匠性にも優れた複合皮膜を形成することが可能である。
【0023】
【発明の効果】
以上の如く、本発明によるアルミニウム合金の表面処理方法によれば、アルミニウム合金に陽極酸化処理を施し、その後にクリヤー塗装を行うことにより複合皮膜を形成する方法において、陽極酸化皮膜にクリヤー塗装された皮膜の透明性や光沢感を十分に確保することができ、陽極酸化皮膜と塗膜の密着性に優れたアルミニウム合金を得ることができ、意匠性も重視された自動車用外装部材等のアルミニウム合金製品に使用することが可能となる。
Claims (4)
- アルミニウム合金の表面に陽極酸化皮膜を形成し、この陽極酸化皮膜にクリヤー塗装を行うアルミニウム合金の表面処理方法において、pH5.5〜8の処理浴に浸漬して電解処理することにより前記陽極酸化皮膜に形成される微細孔を洗浄する中和処理と、前記クリヤー塗装の前に湯洗及び前記陽極酸化皮膜を強制乾燥する乾燥処理とを行うことを特徴とする陽極酸化皮膜にクリヤー塗装された塗膜の透明性に優れ金属光沢を有するアルミニウム合金の表面処理方法。
- 前記陽極酸化皮膜の形成後で前記クリヤー塗装を行う前に、前記陽極酸化皮膜を電解着色することを特徴とする請求項1に記載の陽極酸化皮膜にクリヤー塗装された塗膜の透明性に優れ金属光沢を有するアルミニウム合金の表面処理方法。
- 前記中和処理における電解処理の条件は、交流電解で電圧10〜20V、電流密度50A/m 2 以下で調整し、電解時間は1〜6分とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の陽極酸化皮膜にクリヤー塗装された塗膜の透明性に優れ金属光沢を有するアルミニウム合金の表面処理方法。
- 前記中和処理に用いられる前記処理浴はアンモニウム塩を含む水溶液であり、前記湯洗は前記乾燥処理の前に温度70〜90℃のイオン交換水で陽極酸化皮膜の膜厚1μmあたり0.5〜2.5分とすることを特徴とする請求項3に記載の陽極酸化皮膜にクリヤー塗装された塗膜の透明性に優れ金属光沢を有するアルミニウム合金の表面処理方法。
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