JP3671134B2 - タイヤパラメータ推定装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、タイヤパラメータ推定装置に係り、特に、車両走行の制御に用いて好適なタイヤパラメータ推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
車両のタイヤに関するタイヤパラメータを推定し、このタイヤパラメータを用いて車両走行を制御することが行われている。タイヤパラメータとしては、例えばタイヤ摩耗量やタイヤ温度などがある。
【0003】
タイヤ摩耗量を推定するものとして、例えば特開平5−332762号公報においてタイヤ異常摩耗検知装置が開示されている。このタイヤ異常摩耗検知装置は、タイヤの摩耗によりタイヤの動的半径が小さくなったときのタイヤ回転数の変化からタイヤの異常摩耗を判定している。具体的には、タイヤの空気圧による動的半径の変化を考慮して、車輪速センサから求めた共振周波数(空気圧に依存)とタイヤ回転数との相関関係をマップとして求めておき、相関関係から外れる回転数を検出した場合にタイヤが摩耗していると判定するものである。
【0004】
しかし、このタイヤ異常摩耗検知装置は、タイヤが一様に摩耗して動的半径が均一に小さくなった場合しかタイヤの摩耗を検出することができない問題があった。例えば、タイヤショルダー部の摩耗によってもタイヤグリップ力が低下するが、そのような摩耗を検出することができなかった。
【0005】
また、タイヤ温度を推定するものとしては、例えば特表平11−504585号公報において、タイヤハウジング内部に温度センサを設け、この温度センサによる温度計測値を車室内又は車外に送信する装置が開示されている。しかし、この装置は、タイヤの温度計測のためにスリップリングや温度センサなどの専用部品を必要とし、コスト増を招くとともに、耐久性及び信頼性の面で問題があった。
【0006】
一方、例えば路面摩擦等の外部環境の影響を受けるタイヤパラメータについては、車両側及び道路環境側両方の特性の影響を受け、さらに環境側と車両側の影響を厳密に区別するのは困難であることから、車両挙動や状態量だけで推定するのは困難である。
【0007】
一般的に、タイヤの状態をある程度限界領域(最大摩擦領域)近辺までにもっていかないと、路面状態を判定するのは困難である。しかし、そのような制御を行えば車両挙動変化が生じると共に、振動や音等が生じて、乗り心地や操作性の劣化に繋がる。
【0008】
路面状態は、道路側を直接計測することにより実現することもできる。しかし、道路全体にセンサを設置することは、コストがかかってしまうという問題がある。また、部分的に提示することも考えられるが、摩擦特性は場所により大きく変動するので、部分的に行ってもあまり意味がない。
【0009】
本発明は、上述した問題点を解消するためになされたものであり、コストを抑制し、かつ、車両側及び道路環境側の状態を考慮しながら正確にタイヤパラメータを推定することができるタイヤパラメータ推定装置を提供することを目的とする
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、前記車輪速度検出手段で検出した車輪速度に基づいて、タイヤと路面との間の摩擦状態を示す路面μ勾配を生成する路面μ勾配生成手段と、前記路面μ勾配生成手段が生成した路面μ勾配を記憶する記憶手段と、前記記憶手段が記憶した路面μ勾配と、前記路面μ勾配生成手段が新たに生成する路面μ勾配とに基づいて、タイヤと路面に関するタイヤパラメータを推定するタイヤパラメータ推定手段と、を備えたことで前述した課題を解決する。
【0011】
この発明によれば、路面μ勾配生成手段は、車輪速度に基づいて路面μ勾配を生成する。ここで、路面μ勾配と路面とは相関関係があり、車両が基準路面を走行しているときの路面μ勾配は基準値となる。さらに、路面とタイヤとの関係を示すタイヤパラメータは、路面μ勾配の変化に依存する。そして、基準値となる路面μ勾配を記憶しておき、この路面μ勾配と新たに推定された路面μ勾配とに基づいて、タイヤパラメータを推定することができる。
【0012】
請求項2記載の発明は、車両の基準走行状態を検出する基準走行状態検出手段を更に備え、前記記憶手段は、前記基準走行状態検出手段が車両の基準走行状態を検出したときの路面μ勾配を基準パラメータとして記憶し、前記タイヤパラメータ推定手段は、前記基準パラメータに対する路面μ勾配とタイヤ温度との特性を用いて、前記路面μ勾配生成手段が新たに生成した路面μ勾配に対応するタイヤ温度をタイヤパラメータとして推定する。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、車両が基準走行状態の時の路面μ勾配を基準パラメータとして記憶する。ここで、タイヤ温度が変化すると路面μ勾配が変化するという特性がある。タイヤパラメータ推定手段は、このような特性を用いて、車両の走行中に新たに推定された路面μ勾配に基づいてタイヤ温度を推定する。
【0014】
請求項3記載の発明は、車両の基準走行状態を検出する基準走行状態検出手段と、前記車輪速度検出手段が検出した車輪速度に基づいて、車両の走行開始を検出する走行開始検出手段と、前記走行開始判定手段が車両の走行開始を検出し、かつ、前記基準走行状態検出手段が車両の基準走行状態を検出する毎に、前記路面μ勾配生成手段が生成した路面μ勾配を記憶手段に書き込む書込み手段を更に備え、前記タイヤパラメータ推定手段は、前記記憶手段に記憶されている複数の路面μ勾配の変化に基づいてタイヤの摩耗量をタイヤパラメータとして推定する。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、前記走行開始判定手段が車両の走行開始を検出し、かつ、前記基準走行状態検出手段が車両の基準走行状態を検出する毎に、前記路面μ勾配生成手段が生成した路面μ勾配を記憶手段に書き込んでいる。ここで、路面μ勾配が変化するに従ってタイヤ摩耗量は変化する特性がある。タイヤパラメータ推定手段は、この特性を用いて、記憶手段に記憶されている路面μ勾配の低下量に基づいてタイヤ摩耗量を推定する。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は、VSC(Vehicle Stability Control)、ABS(Antilock Braking System)、TRC(TRaction Control system)、AT(Automatic Transmission)、ACC(Adaptive Cruise Control)、ITS(Intelligent Transport System)等の車両走行制御のために用いて好適なものである。
【0024】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るタイヤパラメータ推定装置1の構成を示すブロック図である。タイヤパラメータ推定装置1は、車両の走行制御等に用いられるタイヤパラメータを推定するものである。
【0025】
タイヤパラメータ推定装置1は、車輪速度を検出する車輪速検出回路11と、スリップ率に対するμの勾配である路面μ勾配(以下、「μ勾配」という。)を検出するμ勾配検出回路12と、車両が直進走行状態であることを検出する直進状態検出回路13と、車両が一定速度で走行していることを検出する一定速検出回路14と、車輪の振動を検出する回転振動検出回路15と、振動レベルから車両が平坦路を走行しているかを判定する振動レベル判定回路16とを備えている。
【0026】
車輪速検出回路11は、車両の各タイヤにそれぞれ備えられ、そのタイヤの車輪速度を検出し、この検出結果をμ勾配検出回路12,直進状態検出回路13,一定速検出回路14,回転振動検出回路15及び走行開始判定回路17に供給する。
【0027】
μ勾配検出回路12は、車輪速検出回路11で検出された車輪速度に基づいて、μ勾配を検出し、このμ勾配を基準走行状態検出回路20、μ勾配初期値記憶回路30及び勾配値比較回路40に供給する。
【0028】
直進状態検出回路13は、車輪速検出回路11からの車輪速度に基づいて左右輪の車輪速度の差を求める。直進状態検出回路13は、この差が所定値より小さい場合は車両が直進していると判定して論理H(1)を出力し、この差が所定値以上の場合は車両が曲っているものと判定して論理L(0)を出力する。
【0029】
一定速検出回路14は、車輪速検出回路11からの各輪の車輪速度を微分し、この微分値が所定の閾値以下の場合は、一定速度で走行していると判定して論理Hを出力する。また、この微分値が所定の閾値より大きい場合は、一定速度で走行していないと判定して論理Lを出力する。
【0030】
回転振動検出回路15は、車輪速度の回転振動数を検出して、検出結果を振動レベル判定回路16に供給する。振動レベル判定回路16は、回転振動数が所定の閾値を超えたかを判定する。そして、振動数が閾値以下の場合は平坦路であると判定して論理Hを出力し、振動数が閾値より大きい場合は凹凸路であると判定して論理Lを出力する。
【0031】
また、タイヤパラメータ推定装置1は、車両が走行を開始したかを判定する走行開始判定回路17と、ワイパが作動しているかを検出するワイパ作動検出回路18と、外気温を検出する外気温検出回路19とを備えている。
【0032】
走行開始判定回路17は、車輪速検出回路11からの車輪速度に基づいて車両が走行を開始したかを判定し、走行を開始したと判定したときは論理Hを出力し、走行を開始していないと判定したときは論理Lを出力する。ワイパ作動検出回路18は、車両に設けられている図示しないワイパが作動しているかを検出し、作動していると判定したときは論理Hを出力し、作動していないと判定したときは論理Lを出力する。なお、外気温検出回路19は、車両外部の外気温を検出し、外気温が所定の温度より高いときは論理Hを出力し、外気温が所定の温度以下のときは論理Lを出力する。
【0033】
また、タイヤパラメータ推定装置1は、各回路の検出出力に基づいて車両の基準となる走行状態を検出する基準走行状態検出回路20と、μ勾配の初期値を記憶するμ勾配初期値記憶回路30とを備えている。
【0034】
基準走行状態検出回路20は、図2に示すように、各回路の検出出力の論理積を出力するANDゲート21と、μ勾配と信号「0」とを切り換えて出力する切換回路22と、車両が高μ路を走行しているかを検出する高μ路検出回路23とを備えている。
【0035】
ANDゲート21は、直進状態検出回路13、一定速検出回路14、振動レベル判定回路16、ワイパ作動検出回路18、外気温検出回路19の各出力の論理積を演算し、この演算結果を切換回路22に供給する。
【0036】
切換回路22は、ANDゲート21から論理Hの信号が供給されたときは端子aに切り換わり、論理Lの信号が供給されたときは端子bに切り換わる。切換回路22は、端子aに切り換わったときはμ勾配を、端子bに切り換わったときは信号「0」を出力して高μ路検出回路23に供給する。
【0037】
さらに、高μ路検出回路23は、μ勾配を閾値αと比較するμ勾配比較回路24と、μ勾配に基づいてカウント値を更新するカウンタ更新回路25と、カウント値をクリアするクリア信号を出力するクロック回路26と、カウント値を所定値と比較するカウント値比較回路27と、高μ路フラグ又は非高μ路フラグを出力するフラグ切換回路28とを備えている。
【0038】
μ勾配比較回路24は、切換回路22から供給されるμ勾配が閾値αより大きいかを判定し、μ勾配が閾値αより大きいときは論理Hを、μ勾配が閾値α以下のときは論理Lをカウンタ更新回路25及びクロック回路26に供給する。ここで、図3に示すように、μ勾配が大きいとき場合では車両はドライ路を走行しており、μ勾配が小さいとき場合では車両は氷上路を走行している。閾値αは、高μ路走行時のμ勾配最大値近傍の値に設定されている。
【0039】
カウンタ更新回路25は、初期値として、カウント値i=0に設定する。カウンタ更新回路25は、μ勾配比較回路24から供給される信号が論理Hのときに限り、所定時間毎にカウント値iをインクリメントして更新し、このカウント結果をカウント値比較回路27に供給する。なお、カウンタ更新回路25は、論理Lの信号が供給されたときは、カウント値iを更新しない。
【0040】
クロック回路26は、μ勾配比較回路24からの信号を監視し、この信号が論理Hから論理Lになった時にクロックの計数を開始する。そして、クロック回路26は、所定クロック数を計数しても(所定時間経過しても)μ勾配比較回路24からの信号が論理Lのままである場合は、クリア信号をカウンタ更新回路25に供給する。カウンタ更新回路25は、クリア信号が供給されると、カウント値iをクリアして0に再設定し、再びカウントを開始する。なお、クロック回路26が所定時間経過後にクリア信号を出力しているのは、一瞬だけ非高μ路を走行していると検出した場合を除くためである。
【0041】
カウント値比較回路27は、カウンタ更新回路25のカウント値iと所定値Nとを比較し、i>Nのときに論理Hを出力し、フラグ切換回路28に供給する。なお、カウント値比較回路27は、カウント値i>Nでないときは、論理Lを出力する。
【0042】
フラグ切換回路28は、カウント値比較回路27から供給される信号が論理Hのときは端子aに切り換え、論理Lのときは端子bに切り換わる。そして、カウント値比較回路27は、端子aに切り換わったときは高μ路を走行することを示す高μ路フラグ(論理H)を出力し、また、端子bに切り換わったときは非高μ路を走行していることを示す非高μ路フラグ(論理L)を出力する。
【0043】
一方、μ勾配初期値記憶回路30は、図4に示すように、ANDゲート31と、μ勾配の平均値を算出するμ勾配平均値算出回路32と、μ勾配の初期値を記憶するμ勾配初期値記憶回路33とを備えている。
【0044】
ANDゲート31は、基準走行状態検出回路20からのフラグと走行開始判定回路17からの信号との論理積を演算し、この演算結果をμ勾配平均値算出回路32に供給する。
【0045】
μ勾配平均値算出回路32は、μ勾配検出回路12からのμ勾配に基づいてその平均値を算出する。なお、μ勾配平均値算出回路32は、ANDゲート31から論理Hの信号が供給されたときに限り、μ勾配の平均値を算出する。したがって、μ勾配平均値算出回路32は、車両が実際に高μ路を走行している場合に限り、μ勾配の平均値を求める。μ勾配初期値記憶回路33は、μ勾配平均値算出回路32で算出された最初のμ勾配平均値(以下、「μ勾配初期値μI」という。)を記憶する。なお、このμ勾配初期値μIは、次の走行開始判定まで更新されずに、そのまま記憶される。
【0046】
また、タイヤパラメータ推定装置1は、μ勾配初期値μIと現在のμ勾配とを比較するμ勾配値比較回路40と、勾配値比較回路40の比較結果に基づいてタイヤ温度を推定するタイヤ温度推定回路51と、タイマ信号を出力するタイマ回路52とを備えている。
【0047】
ここで、勾配値比較回路40は、図5に示すようにμ勾配の平均値を算出するμ勾配平均値算出回路41と、スイッチ回路42と、μ勾配比較回路43とを備える。勾配平均値算出回路41は、μ勾配検出回路12から供給されるμ勾配に基づいてその平均値(μ勾配平均値μr)を算出し、μ勾配平均値μrをスイッチ回路42に供給する。この平均化処理は移動平均等を用いてもよい。
【0048】
スイッチ回路42は、タイマ信号が供給されたときにオンになり、タイマ信号が供給されないときはオフになる。なお、タイマ回路52は、走行開始判定回路17から論理Hが供給されたときに動作を開始して、所定時間毎にタイマ信号を出力している。そして、スイッチ回路42は、オンになると、勾配平均値算出回路41で算出されたμ勾配平均値μrをμ勾配比較回路43に供給する。μ勾配比較回路43は、μ勾配初期値記憶回路33から供給されるμ勾配初期値μIに対するμ勾配平均値μrの比率Rate(=μr/μI)を算出する。
【0049】
タイヤ温度推定回路51は、図5に示すように、比率Rateとタイヤ温度Tとの関係を示すテーブルを記憶している。なお、タイヤ温度Tが上昇するとトレッドゴムが柔らかくなり、剪断力の低下によりμ勾配が低下する。ここで、μ勾配(スリップ率に対するμ勾配)は、次式の関係がある。
【0050】
(μ勾配)=(1/2)・k・w・L2
k:トレッド弾性係数、w:トレッド幅、L:接地長
トレッド弾性係数kは、タイヤ温度Tの上昇によって変化する。したがって、タイヤ温度Tの上昇によりμ勾配は低下する。タイヤ温度推定回路51は、このような特性をテーブルとして記憶する。そして、μ勾配比較回路43で算出した比率Rateに対応するタイヤ温度Tを求め、タイヤ温度Tを出力する。
【0051】
また、タイヤパラメータ推定装置1は、μ勾配初期値μIを記憶するμ勾配記憶回路60と、毎日のμ勾配を記憶するμ勾配記憶値比較回路71と、タイヤ摩耗量を推定するタイヤ摩耗量推定回路72と、タイヤパラメータを変更するタイヤパラメータ変更回路73とを備えている。
【0052】
μ勾配記憶回路60は、具体的には図6に示すように、μ勾配初期値μIを記憶するμ勾配メモリ61と、日にちを判別するカレンダ回路62とを備えている。勾配メモリ61は、μ勾配初期値記憶回路30から供給されるμ勾配初期値μIを記憶する。なお、勾配メモリ61は、カレンダ回路62の日付判別に従って、1日1回だけμ勾配初期値μIを記憶する。
【0053】
μ勾配記憶値比較回路71は、勾配メモリ61に記憶された1日毎のμ勾配初期値μIに基づいて、タイヤの経年劣化による平均的なμ勾配低下量Δμを算出する。ここで、図6に示すように、横軸に日にち、縦軸にμ勾配初期値μIをとり、毎日のμ勾配初期値μIの近似曲線を求める。そして、μ勾配低下量Δμは、図6に示すμmaxと近似曲線上の点との差によって求められる。このように近似曲線を求めるのは、μ勾配が積載荷重等により日々変化し、ある1日のデータだけでは正確にタイヤ摩耗量を推定することができないからである。
【0054】
タイヤ摩耗量推定回路72は、勾配低下量Δμとタイヤ摩耗量との関係を示すテーブルを記憶している。タイヤ摩耗量推定回路72は、このテーブルを参照し、μ勾配記憶値比較回路71で求めた勾配低下量Δμに対応するタイヤ摩耗量を求める。
【0055】
なお、タイヤ摩耗は、長期間にわたる経年的なμ勾配の変化をもたらす。これに対して、タイヤ温度Tの上昇は、短期間でμ勾配の変化をもたらす。そこで、車両走行開始直後の温度上昇のない状態でμ勾配を毎日比較することによって、タイヤ摩耗量を推定している。
【0056】
タイヤパラメータ変更回路73は、タイヤ温度推定回路51で推定したタイヤ温度及びタイヤ摩耗量推定回路72で推定したタイヤ摩耗量とから、タイヤパラメータを変更する。そして、このようにして変更されたタイヤパラメータは、VSC,ABS,TRCなどの車両の走行制御に使用される。
【0057】
以上のように、タイヤパラメータ推定装置1は、比較的簡易な構成でタイヤ温度及びタイヤ摩耗量を推定することができ、車両のタイヤパラメータを変更することができる。さらに、タイヤ摩耗量が所定値を超えたときに警報をするようにすれば、タイヤの摩耗による事故を未然に防止することができる。
【0058】
なお、本実施の形態ではタイヤパラメータとしてタイヤ温度及びタイヤ摩耗量を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、路面とタイヤに関するパラメータとして、例えばスタッドレス・タイヤの装着の検出(トレッド弾性係数の低下を検出する)等にも同様にして適用することができる。
【0059】
(第2の実施の形態)
図7は、路面判定装置80の構成を示すブロック図である。路面判定装置80は、車両に設置され、車両走行時に路面を判定するものである。
【0060】
路面判定装置80は、車両の走行状態等を検出する車両状態検出回路81と、路面計測装置90を駆動させる駆動回路82と、車両制御装置91を制御する制御回路83とを備えている。なお、車両制御装置91はこの車両の走行を制御し、路面計測装置90はこの車両走行時の路面を計測するものである。
【0061】
車両状態検出回路81は、例えば車輪速度に基づいて、車両が走行を開始したか、車両が直進しているか、車両が一定速度で走行しているか、タイヤを交換したか等、車両がどのような状態であるかを検出する。
【0062】
駆動回路82は、路面計測を行うタイミングを計り、そのタイミングになると、車両制御装置91の駆動を指示する駆動指示信号を制御回路83に供給する。なお、駆動回路82は、車両状態検出回路81が検出した車輪速度の変動や上下加速度に基づいて路面の状態が悪いと判断した場合(例えば、左右輪で路面が大きく違う場合、操舵角信号から急操舵をしていると判定した場合)には、駆動指示信号を出力しなくてもよい。これにより、車両が安定して走行している場合のみ、路面測定を行うことができる。
【0063】
制御回路83は、この信号を受けると、例えばブレーキ制動を行ったり、アクセルのスロットル制御等を行うように車両制御装置91を制御する。このとき、制御回路83は、制御時間を短くかつ制御量も小さくして、車両状態に変化が生じないように車両制御装置91を制御する。また、制御回路83は、一輪以上の輪に制動等をかけると同時にその制動の車両挙動への影響を打ち消すように駆動や操舵等を行うことによって、車両の挙動変動を抑えるようにしてもよい。さらに、制御回路83は、駆動制御するときに生じる音を消すために、ワイパやエアー・コンディショナ、オーディオ等の駆動と同期して、ブレーキ等の駆動制御を行ってもよい。また、制御回路83は、駆動制御時の振動を抑えるために、車両が路面の突起物に乗り上げたときにブレーキ等の駆動制御を行ってもよい。これにより、路面判定時の車両の変動量を少なくして、乗り心地が悪くなるのを抑制することができる。
【0064】
駆動回路82は、上述のように駆動指示信号を制御回路83に供給する一方、路面計測を開始するように路面計測装置90を駆動する。これにより、路面計測装置90は、車両に所定の制御が行われている時の路面を計測する。
【0065】
また、路面判定装置80は、路面状態の計測結果を得るための路面状態計測回路84と、路面状態の推定値を算出する路面状態推定回路85と、基準値を求める基準化回路86と、必要に応じて基準値を変更する基準値変更回路87と、基準値と推定値とに基づいて路面状態を判定する路面判定回路88とを備えている路面状態計測回路84は、制御回路83が路面状態の判定のための制御を行っていることを認識すると、このとき車両状態検出回路81が検出した車両状態に基づいて、路面摩擦状態を計測する。路面状態計測回路84は、例えば、以下の式に基づいて路面摩擦係数μを求める。
【0066】
μ={I・(dω/dt)+K・Pb}/m
Pb:ブレーキ圧、dω/dt:車輪加速度、m:車輪荷重
I:車輪慣性、K:ブレーキパッド摩擦係数
路面状態推定回路85は、車両状態検出回路81で検出した路面状態に基づいて、タイヤと路面間の摩擦状態を示す指標を推定し、その推定値を基準化回路86及び路面判定回路88に供給する。摩擦状態を示す指標としては、例えば車両の定常走行状態でのμ勾配(速度変動に対するμの変動量)を推定する。
【0067】
基準化回路86は、車両状態検出回路81からの路面状態と、路面状態推定回路85からの推定値との対応付けを行い、この関係を基準値として基準値変更回路87に供給する。基準化回路86は、例えば、計測した路面μと推定値であるμ勾配とを対応付けて、基準値として(μ,μ勾配)を出力する。
【0068】
基準値変更回路87は、基準化回路86で得られた基準値を記憶する図示しないメモリを備えている。基準値変更回路87は、基準化回路86で得られた基準値とメモリに記憶されている従来の基準値との比較を行い、差があるようであれば従来の基準値を補正し、この補正結果を路面判定回路88に供給する。例えば、従来の基準値(μ,μ勾配)があり、さらに新たな基準値(μ,μ勾配)が得られたとする。従来の基準値と今回の基準値のμが同じであるときにμ勾配が異なっていれば、μ勾配を入れ替える。すなわち、基準値変更回路87は、μ勾配のみを入れ替えた(μ,μ勾配)を新たな基準値として変更し、この基準値をメモリに記憶すると共に、路面判定回路88に供給する。
【0069】
路面判定回路88は、基準値を求めた路面と異なる路面を走行しているときの当該路面状態の判定を行う。路面判定回路88は、具体的には、路面状態推定回路85で得たμ勾配の推定値と基準値変更回路87からの基準値(μ,μ勾配)とを対応させて、現在車両が走行している路面μを判定する。
【0070】
以上のように、路面判定装置80は、タイヤの交換、経年劣化、積載量のような車両特性の変動を考慮して基準値を変更するので、タイヤと路面間の摩擦状態を精度よく推定することができる。また、路面判定装置80は、路面状態計測の際の車両制御を最小限に抑えているので、車両挙動量を少なくして乗り心地が悪化するのを防止することができる。さらに、車両が基準路面と同一とみなせる路面を走行している場合には、推定値の変化を比較することによって、車両の特性変化も精度よく推定することができる。
【0071】
(第3の実施の形態)
図8は、路面判定装置100の構成を示すブロック図である。路面判定装置100は、基準区間の道路に設けられている道路環境発信装置110からの情報を受信して路面状態を示す指標である基準値を求め、必要に応じてその基準値を補正し、他の区間を走行するときにはその基準値を用いて正確に路面状態を判定するものである。
【0072】
具体的には、路面判定装置100は、道路環境発信装置110からの情報を受信する基準路面情報受信回路101と、車両の走行中の状態や挙動を検出する車両状態/挙動量検出回路102と、推定値を基準化するのに最適な条件であるかを判断する推定条件判断回路103と、推定値を算出する推定回路104とを備えている。
【0073】
さらに、路面判定装置100は、従来の推定値と新たな推定値とを比較する比較回路105と、比較回路105の結果に応じて基準値を修正する判定基準修正回路106と、修正後の基準値を記憶する状況判断基準記憶回路107と、基準値と推定値とから路面状況を判定する状況判定回路108とを備えている。
【0074】
一方、道路環境発信装置110は、走行中の車両に道路環境情報を発信するものであり、認識した道路環境情報を記憶する道路環境認識/記憶回路111と、道路環境認識/記憶回路111に記憶されている情報を送信する基準路面情報送信回路112とを備えている。
【0075】
道路環境認識/記憶回路111は、例えば、道路の基準区間の開始位置や終了位置、基準区間の距離、路面摩擦係数μ、路面傾斜角、雨量等の路面状態に関連する道路環境情報を計測して認識し、その結果を記憶する。そして、基準路面情報送信回路112は、道路環境認識/記憶回路111に記憶されている環境情報を走行中の各車両に送信する。
【0076】
基準路面情報受信回路101は、道路環境発信装置110から道路環境情報を受信し、この道路環境情報を推定条件判断回路103及び比較回路105に供給する。なお、基準路面情報受信回路101は、車両が基準路面を走行していなければ、道路環境情報を受信することができない。車両状態/挙動量検出回路102は、車輪速度、操舵角、車体加速度などの車両状態及び挙動に関する車両状態/挙動情報を検出し、この情報を推定条件判断回路103及び推定回路104に供給する。
【0077】
推定条件判断回路103は、基準路面情報受信回路101から供給される道路環境情報と、車両状態/挙動量検出回路102から供給される車両状態/挙動情報とに基づいて、路面状態を推定し、それが基準化するのに適した状態であるかを判断する。例えば車両の直進状態を基準とする場合においては、推定条件判断回路103は、車両状態/挙動量検出回路102が操舵中であることを検出したときは、基準化を行わない。また、基準路面情報受信回路101が悪天候であること、道路に落下物が存在すること、既に同様の路面で基準化を行ったばかりであること等を受信したときも、推定条件判断回路103は基準化を行わない。推定条件判断回路103は、基準化を行うときは推定回路104にその指示を行い、基準化を行わないときは基準化を中止する。なお、推定条件判断回路103は、基準化を行わなくても、基準路面以外の路面を判定するときはその指示を状況判定回路108に行う。
【0078】
推定回路104は、推定条件判断回路103から基準化を行う旨の指示があったときに、車両状態/挙動量検出回路102からの車両状態/挙動量に基づいて、路面摩擦状態を示す指標を推定する。例えば、車輪速度の変動から、定常走行状態でのμ勾配(速度変動に対するμの変動量)を推定する。
【0079】
比較回路105は、基準区間道路を走行している場合に路面状態を示す指標の比較を行う。具体的には、比較回路105は、基準路面情報受信回路101からの環境情報に基づいて路面状態を示す指標を得て、この指標と推定回路104で得た推定値とを比較し、この比較結果を判定基準修正回路106に供給する。比較回路105は、例えば、基準路面μに対する「従来のμ勾配」と、基準路面μに対する「今回推定したμ勾配」との差を出力する。
【0080】
判定基準修正回路106は、比較回路105で得られた比較結果から、基準路面状態に対する路面状態の指標の修正を行うように、状況判断基準記憶回路107に指示する。判定基準修正回路106は、例えば、基準路面μに対応するμ勾配を必要に応じて今回推定した値に修正するように指示する。
【0081】
状況判断基準記憶回路107は、状況判定を行うための基準値として例えば(μ,μ勾配)を記憶する。なお、μは基準路面情報受信回路101が受信する道路環境情報から得られたものであり、μ勾配は推定回路104で推定されたものである。そして、状況判断基準記憶回路107は、判定基準修正回路106からの修正指示があった場合にはその指示に従って推定値を修正して、この修正された推定値を基準値として記憶する。状況判断基準記憶回路107は、例えば、μ勾配の修正指示があった場合には、基準値(μ,μ勾配)のμ勾配を新たに推定回路104で推定されたμ勾配に変更する。
【0082】
状況判定回路108は、車両が基準区間路面以外を走行している場合に路面判定を行う。具体的には、状況判定回路108は、推定回路104で得た推定値と状況判断基準記憶回路107に記憶されている基準値に基づいて、路面の状態を判断する。例えば、基準路面区間における(μ,μ勾配)、すなわちμとμ勾配の対応関係を用いて、基準区間路面以外のμ勾配の推定値から路面μを推定する。
【0083】
以上のように、路面判定装置100は、車両自体の状態や挙動だけでなく、道路環境発信装置110からの道路状態も考慮して基準値を変更するので、刻々と変わる道路状態に対応して正確に路面状態を判定することができる。
【0084】
また、路面判定装置100は、道路環境を管理する基準区間だけに道路環境発信装置110が設置されていれば、他の区間では基準区間で求めた基準値を用いて路面状態を判定することができる。これにより、すべての区間に道路環境発信装置110を設置することなく路面を判定することができるので、道路側の設備投資の負担を軽減しながら、路面状態を精度よく推定することができる。
【0085】
なお、本実施の形態では従来のμ勾配と新たに得られたμ勾配とに差があったときにμ勾配を更新していたが、基準路面情報受信回路101が新たに道路環境情報を受信する毎にμ勾配を更新するようにしてもよい。
【0086】
【発明の効果】
本発明に係るタイヤパラメータ推定装置は、記憶手段が記憶した路面μ勾配と、路面μ勾配生成手段が新たに生成する路面μ勾配とに基づいて、タイヤと路面に関するタイヤパラメータを推定することによって、コストをかけることなく簡単な構成でタイヤパラメータを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るタイヤパラメータ推定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】タイヤパラメータ推定装置の基準走行状態検出回路の具体的な構成を示すブロック図である。
【図3】μ勾配の大きさと車両が走行しているときの路面の状態との関係を示す図である。
【図4】タイヤパラメータ推定装置のμ勾配初期値記憶回路の具体的な構成を示すブロック図である。
【図5】タイヤパラメータ推定装置の勾配値比較回路の具体的な構成を示すブロック図である。
【図6】タイヤパラメータ推定装置のμ勾配記憶回路、μ勾配記憶値比較回路、タイヤ摩耗量推定回路を説明するための図である。
【図7】 路面判定装置の構成を示すブロック図である。
【図8】 路面判定装置の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 タイヤパラメータ推定装置
11 車輪速検出回路
30 μ勾配初期値記憶回路
40 勾配値比較回路
51 タイヤ温度推定回路
71 μ勾配記憶値比較回路
72 タイヤ摩耗量推定回路

Claims (3)

  1. 車輪速度を検出する車輪速度検出手段と、
    前記車輪速度検出手段で検出した車輪速度に基づいて、車輪と路面との間の摩擦状態を示す路面μ勾配を生成する路面μ勾配生成手段と、
    前記路面μ勾配生成手段が生成した路面μ勾配を記憶する記憶手段と、
    前記記憶手段が記憶した路面μ勾配と、前記路面μ勾配生成手段が新たに生成する路面μ勾配とに基づいて、タイヤと路面に関するタイヤパラメータを推定するタイヤパラメータ推定手段と、
    を備えたタイヤパラメータ推定装置。
  2. 車両の基準走行状態を検出する基準走行状態検出手段を更に備え、
    前記記憶手段は、前記基準走行状態検出手段が車両の基準走行状態を検出したときの路面μ勾配を基準パラメータとして記憶し、
    前記タイヤパラメータ推定手段は、前記基準パラメータに対する路面μ勾配とタイヤ温度との特性を用いて、前記路面μ勾配生成手段が新たに生成した路面μ勾配に対応するタイヤ温度をタイヤパラメータとして推定する請求項1記載のタイヤパラメータ推定装置。
  3. 車両の基準走行状態を検出する基準走行状態検出手段と、
    前記車輪速度検出手段が検出した車輪速度に基づいて、車両の走行開始を検出する走行開始検出手段と、
    前記走行開始検出手段が車両の走行開始を検出し、かつ、前記基準走行状態検出手段が車両の基準走行状態を検出する毎に、前記路面μ勾配生成手段が生成した路面μ勾配を記憶手段に書き込む書込み手段を更に備え、
    前記タイヤパラメータ推定手段は、前記記憶手段に記憶されている複数の路面μ勾配の変化に基づいてタイヤの摩耗量をタイヤパラメータとして推定する請求項1記載のタイヤパラメータ推定装置。
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