JP3670442B2 - 狭視野サーミスタボロメータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非接触で物体温度を測定するもので、主に測定温度範囲に室温付近を含む低温域用の放射温度計等に用いるサーミスタボロメータに係り、特に、検知エリアを狭視野とすることができる狭視野サーミスタボロメータに関する。
【0002】
【従来の技術】
温度によって電気抵抗が大きく変化するサーミスタを赤外線を通す窓を設けたパッケージに封止して構成し、入射した赤外線による温度上昇で抵抗値が変化することに基づき赤外線量を計測でき、温度に変換して出力することができるようになる。
このようなサーミスタボロメータを用いた非接触の温度検出においては、距離が離れるに従い視野が広くなるが、この温度検出しようとする検知エリアを限定したい要望がある。このように狭視野とすることでこの限定された検知エリア内での物体温度の測定精度を向上させることができるようになるとともに、物体周囲からの影響を低減化できるようになる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来のサーミスタボロメータの検知エリアを狭視野とするためには、このセンサのパッケージ外部にレンズ、ミラー等による集光光学系や、しぼりが用いられており、全体構成が大型でかつ高価になる問題があった。
【0004】
また、センサ側からみた場合、レンズ、ミラー、しぼりなどの構造物からの赤外線放射も受け取ることになり、誤差要素が多くなる。
センサの受光部分と構造物の温度が等しい場合は問題とならないが、例えばこのサーミスタボロメータを温かい室内から氷点下の冷凍庫に持ち込んですぐに測定する場合など機器の温度変化が激しい場合は、センサ受光部分と構造物の温度変化に過渡的なずれが生じるため、これが誤差として出力に現れる問題もある。
【0005】
また、この種、熱型センサに分類されるサーミスタボロメータは、物体が放射している赤外線エネルギーの受光量と、センサの受光部自身が放射しているエネルギーの差し引き分の赤外線エネルギーによって受光部分が温度変化することで、物体と受光部自身の温度差に基づき赤外線量(温度)を出力する構成となっている。
このため、例えば室温付近(25℃)で体温などを測定しようとした場合、これらの温度差が少ないため出力が小さく、正確な温度出力を得にくくなる(温度出力の分解能に相当)。したがって、より少ない入射エネルギーでも状態変化の大きい材料や受光部分の温度変化が大きくなるよう小型化を図り十分な分解能が得られる構成が望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、検知エリアを狭視野にでき、これを簡単かつ小型に構成でき温度ドリフトの特性が良好な狭視野サーミスタボロメータを提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の狭視野サーミスタボロメータは、請求項1記載のように、赤外線を通す所定径の窓が開口形成されたパッケージと、
前記パッケージ内部に設けられ、前記窓に対応した形状を有し該窓を介して入射した赤外線による温度上昇で抵抗値が変化するサーミスタ膜が形成され、入射角度が平行光のとき(α0)最も大きな受光レベルを出力し、臨界角(α3)に至るまで入射角度に対応する受光レベルを出力するメインエレメントと、
前記パッッケージ内部に設けられ、前記メインエレメントと同面積で前記窓の開口径より大径な内径を有する環状でサーミスタ膜が形成されており、入射角度が所定角度範囲(α0<α<α3)の赤外線を検出するサブエレメントと、
前記メインエレメントの出力から前記サブエレメントの出力から前記サブエレメントの出力の差分を出力する出力手段と、
を具備する狭視野サーミスタボロメータであって、
前記メインエレメント及びサブエレメントのサーミスタ膜は、単一の基板を挟むように該基板の表裏にそれぞれ位置合わせして形成された後に該サーミスタ膜部分の基板をエッチング処理で除去されることにより、互いが基板の厚さ分の間隔で微小な架橋構造とされたことを特徴としている。
【0009】
メインエレメント2はパッケージ1の開口部1bを介して検出対象からの赤外光を検出して対応する受光レベルの信号を出力し、入射光が平行光α0のとき最も高い受光レベルの信号を出力する。
サブエレメント3は、入射光が平行光(α0)以外で臨界角α3に至るまでの間の赤外光を検出する。
出力手段7は、メインエレメント2の出力からサブエレメント3の出力の差分を出力することにより、入射光が狭視野な角度のみを出力する。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の狭視野サーミスタボロメータの構成を示す図である。(a)は全体斜視図、(b)は側断面図である。
略円筒形状のパッケージ1内部には、メインエレメント2と、サブエレメント3が収容されている。
このパッケージ1は、必要に応じて内部が真空あるいはガスで封止されるもので、上面1aには、開口部1bが開口径L1で円形に開口形成され、この開口部1bには窓4が設けられている。窓4には、赤外光の表面反射防止処理、あるいは所定波長(赤外光)のみ透過させるフィルタ処理が施されたものが用いられる。
【0011】
メインエレメント2は、前記開口部1bの開口径L1程度の外径L2を有する円形に形成される。
このメインエレメント2は、単結晶シリコンなどのウェハーを用いた基板表面に所定のサーミスタ膜2aが形成されてなる。このメインエレメント2に入射した赤外線エネルギー量と自己輻射によって放出された赤外線エネルギーの差を反映した温度変化により抵抗値が変化するサーミスタボロメータとなる。
【0012】
このメインエレメント2は、外縁から4方に十分細い梁部2bによってパッケージ1内のヒートシンク(不図示)に支えられている。ここで、メインエレメント2は、パッケージ1の開口部1bの同軸位置上で所定距離H1離れて配置されている。
【0013】
開口部1bの同軸上で所定距離H2(H1<H2)離れた箇所にはサブエレメント3が配置されている。ここで、メインエレメント2とサブエレメント3は所定距離H3(H2−H1)だけ離れている。
このサブエレメント3は、メインエレメント2と同様の製法により基板上にサーミスタ膜3aを形成してなる。
サブエレメント3は、パッケージ1の開口部1bの開口径L1以上の内径L3で、所定径の外径L4を有する環状に形成されていて、メインエレメント2の面積と等しい面積を有している。
【0014】
このサブエレメント3は、外縁から4方に十分細い梁部3bによってパッケージ1内のヒートシンク(不図示)に支えられている。
尚、メインエレメント2,サブエレメント3は、3方の梁部2b,3bで支えられる構成とすることもできる。
【0015】
ここで、メインエレメント2と、サブエレメント3の形状の有効範囲を記載しておく。
▲1▼サブエレメント3の内径L3>パッケージ1の開口部1bの開口径L1であること。
▲2▼入射光が臨界角(後述する図7のα3)のとき、開口部1bの縁と、メインエレメント2の縁と、サブエレメント3の縁が同一線上に位置すること
▲3▼メインエレメント2とサブエレメント3の面積が同一であること。
【0016】
これらメインエレメント2と、サブエレメント3のリードパターン2c,3cは、それぞれ梁部2b,3b部分に延出されワイヤボンドを介してリード線5a,5bに接続され、パッケージ1外部に導出されている。
図2は、このメインエレメント2、及びサブエレメント3を示す平面図である。各エレメント2,3のサーミスタ膜2a,3aは、例えば図示のようにそれぞれ交差する櫛歯状に形成されてなる。同図には、サブエレメント3の内径L3がパッケージ1の開口部1bの開口径L1及びメインエレメント2の外径L2より大径なものが記載されている。
【0017】
このリード線5a,5bは、図3に示す出力手段7に接続されている。
上記メインエレメント2とサブエレメント3の出力である抵抗値は、出力手段7に入力される。
出力手段7は、ブリッジ回路7aと、減算手段7bで構成されている。ブリッジ回路7aは、パッケージ1内部のメインエレメント2とサブエレメント3の各抵抗値Rm ,Rs 、及びパッケージ1外部に設けられるブリッジ抵抗R1,R2がブリッジ接続されてなり、メインエレメント2の受光レベルV1、サブエレメント3の受光レベルV2をそれぞれ出力する。
減算手段7bは、これらメインエレメント2の受光レベルV1と、サブエレメント3の受光レベルV2とが入力され、両者の差分(V1−V2)を出力端子Vout から出力する。この減算手段7bは、コンパレータを用いたり、CPUと減算処理ソフトウェア等を用いる等して構成できる。
【0018】
次に、上記構成による狭視野の作用について説明する。図4乃至図7は、この狭視野サーミスタボロメータの視野角度別の検知状態を示す説明図である。以下には動作原理を説明する。
図4は入射光の入射角度がα0のときの受光状態を示す図である。
入射される赤外光(入射光)の光軸となる角度を入射角αとした場合、入射光の入射角度がα0(平行光:メインエレメント2の面に対して入射光が直角に入射される状態)のときには、メインエレメント2は最大の受光エネルギーを得ることになる。このとき、サブエレメント3の内径L3は開口部1bの開口径L1以上であるため、平行光である入射光は、開口部1bに遮られてこのサブエレメント3には入射しない。(メインエレメント2の受光レベル=max,サブエレメント3の受光レベル=0)
【0019】
図5は入射光の入射角度がα1(α0<α1<α2)のときの受光状態を示す図である。メインエレメント2の面に対してやや角度を有した状態のときには、開口部1bとメインエレメント2との間の距離H1によりメインエレメント2に入射される受光エネルギーはやや減少する。このとき、サブエレメント3に対し入射光は、このサブエレメント3の一部に入射する。(メインエレメント2の受光レベル>サブエレメント3の受光レベル)
【0020】
図6は入射光の入射角度がα2(α1<α2<α3)のときの受光状態を示す図である。メインエレメント2の面に対して角度を有した状態のときには、開口部1bによってメインエレメント2に入射される受光エネルギーは半減する。このとき、入射光はサブエレメント3に対しても部分的に入射する。(メインエレメント2の受光レベル≧サブエレメント3の受光レベル)
【0021】
図7は入射光の入射角度がα3(α2<α3)のときの受光状態を示す図である。メインエレメント2の面に対して臨界角を有した状態のときには、入射光は開口部1bによってメインエレメント2、及びサブエレメント3のいずれにも入射されない。(メインエレメント2の受光レベル=0,サブエレメント3の受光レベル=0)
【0022】
上記図4乃至図7に示したように、メインエレメント2とサブエレメント3は、それぞれ入射光の入射角度α別に異なる受光状態となる構成とされており、特に、図3に示すような入射角度α0のときにはメインエレメント2のみが受光状態となることに基づき、この入射角度α0の方向に位置する物体から放射される赤外線を限定して検出できるようになる。
【0023】
図8は、入射光の角度と受光レベルを示す図である。
メインエレメント2の受光レベルは、同図(a)中実線で示すように入射光の入射角度αが平行光の状態α0(図3記載)のとき最も高く、以降角度が大きくなりα3に至るまで次第に低くなっている。
一方、サブエレメント3の受光レベルは、(a)中点線で示すように、入射光が入射角度α0であるとき最も低く、入射角度が大きくなるにつれ次第に高くなり入射角度α2のとき最も高く、以降、入射角度α3に至るまで次第に低くなっている。
【0024】
したがって、出力手段7は、メインエレメント2の出力からサブエレメント3の出力を差し引くことにより、入射角度αの大きい部分の受光出力をキャンセルすることとなり、入射角度の小さいα0の方向からの入射光のみ限定して検出でき狭視野な検出を行えるようになる(同図(b)参照)。
同時に、メインエレメント2とサブエレメント3は、同一の材質、製法、面積で形成されたものであるため、両エレメント2,3のノイズ成分や温度変化の時間軸成分はほぼ同等と見做すことができるため、上記差分演算によってこれら誤差成分を除去することができる。
【0025】
上記説明では、メインエレメント2、及びサブエレメント3がそれぞれ異なる基板上に設けられた構成として説明したが、これに限られることはない。
単結晶シリコンなどのウェハーを用いた基板の表面(上面)にメインエレメント2のサーミスタ膜2aを形成し、裏面(下面)にサブエレメント3のサーミスタ膜3aを形成する。ここで、基板の厚さは前記距離H3としておく。
サーミスタ膜の製法を説明すると、蒸着、スパッタリング又はCVD等の薄膜形成法により熱伝導性の低い酸化シリコンや窒化シリコンなどの絶縁膜を形成し、その上に同じく薄膜によって抵抗温度係数の大きいサーミスタ膜と電極金属膜を形成・パターニングして微小なサーミスタ膜2a,3aを形成する。
その後、サーミスタ膜2a,3aが設けられた部分の基板を、腐食液によるウェットエッチング法または腐食ガスによる反応性イオンエッチング法などにより取り除いて、微小な架橋構造とする。
これにより、サーミスタ膜2a,3aは互いに距離H3だけ離れた状態で配置させることができ、また、両エレメント2,3は熱容量を十分に小さくでき、また、その周囲構造との熱的な絶縁を取ることができるようになる。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、簡単な構造で検知エリアを狭視野とすることができ、これにより検知対象を絞った検知を行え、また、検知対象周囲からの影響を除くことができる。
また、本発明は、メインエレメントとサブエレメントの差分を取るだけで狭視野な検知エリアの出力が得られる構成であるため、簡単かつ小型に構成でき、同時に温度ドリフトの特性も良好にできる。また、ミラーやレンズを用いずとも狭いエリアの検知を行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の狭視野サーミスタボロメータを示す図。
【図2】サーミスタ膜を示す図。
【図3】出力手段を示す図。
【図4】入射光の入射角度別の受光状態を示す図(その1)。
【図5】入射光の入射角度別の受光状態を示す図(その2)。
【図6】入射光の入射角度別の受光状態を示す図(その3)。
【図7】入射光の入射角度別の受光状態を示す図(その4)。
【図8】入射光の入射角度と受光レベルを示す図。
【符号の説明】
1…パッケージ、1b…開口部、2…メインエレメント、3…サブエレメント、4…窓、7…出力手段。
Claims (1)
- 赤外線を通す所定径の窓が開口形成されたパッケージと、
前記パッケージ内部に設けられ、前記窓に対応した形状を有し該窓を介して入射した赤外線による温度上昇で抵抗値が変化するサーミスタ膜が形成され、入射角度が平行光のとき(α0)最も大きな受光レベルを出力し、臨界角(α3)に至るまで入射角度に対応する受光レベルを出力するメインエレメントと、
前記パッッケージ内部に設けられ、前記メインエレメントと同面積で前記窓の開口径より大径な内径を有する環状でサーミスタ膜が形成されており、入射角度が所定角度範囲(α0<α<α3)の赤外線を検出するサブエレメントと、
前記メインエレメントの出力から前記サブエレメントの出力から前記サブエレメントの出力の差分を出力する出力手段と、
を具備する狭視野サーミスタボロメータであって、
前記メインエレメント及びサブエレメントのサーミスタ膜は、単一の基板を挟むように該基板の表裏にそれぞれ位置合わせして形成された後に該サーミスタ膜部分の基板をエッチング処理で除去されることにより、互いが基板の厚さ分の間隔で微小な架橋構造とされたことを特徴とする狭視野サーミスタボロメータ。
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