本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらにに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
(実施形態1)
<薄膜サーミスタを有する素子>
図1は、実施形態1に係る赤外線センサを構成する、薄膜サーミスタを有する素子の平面図である。図2は、図1のA−A矢視図である。図1、図2を参照しながら、本実施形態に係る赤外線センサを構成する、薄膜サーミスタを有する素子(以下、必要に応じて素子という)1の構造について説明する。素子1は、基板2と、薄膜サーミスタ3と、絶縁膜6と、取り出し電極(下部電極)5Hと、保護膜7と、Pad電極5Pとを備える(図1参照)。基板2の材質としては、適度な機械的強度を有し、かつエッチング等の微細加工に適した材質であれば、特に限定されるものではないが、例えば、シリコン単結晶基板、サファイア単結晶基板、セラミックス基板、石英基板又はガラス基板等が好適である。
基板2の表面と裏面との少なくとも一方には、シリコン酸化膜又はシリコン窒化膜等の絶縁膜6が形成されている。さらに、基板2には薄膜サーミスタ3の領域の熱容量を小さくするために、薄膜サーミスタ3の位置に対応してキャビティ2Iが基板2の裏面に開口している。薄膜サーミスタ3は、温度検知に必要な部分に形成され、その表面には外気からの影響を遮断する保護膜6が形成されている。薄膜サーミスタ3と外部との接続部には、ワイヤーボンド等で薄膜サーミスタ3からの電気信号を良好に取り出すためのPad電極5Pが形成される。下部電極5HとPad電極5Pとが、素子1の電極5となる。
検知用素子として作用する薄膜サーミスタ3は、赤外線の吸収効率を向上させるために、検知領域に保護膜6を介して赤外線吸収膜を設けてもよい。参照用素子及び温度補償用素子として作用する薄膜サーミスタ3の表面には、赤外線の影響を抑制するために赤外線反射膜を設けることが好ましい。薄膜サーミスタ3の材料は、例えば、複合金属酸化物、アモルファスシリコン、ポリシリコン、ゲルマニウム等の、負の温度抵抗係数を持つ材料を用いることができる。薄膜サーミスタ3は、例えば、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)等の薄膜プロセスを用いて、前述した材料を基板2の表面に成膜することにより形成することができる。
下部電極5Hは、薄膜サーミスタ3の材料の成膜工程及び熱処理工程等のプロセスに耐え得る適度な導電性材質で比較的高融点の材料を用いて形成することができる。このような材料としては、例えば、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、金(Au)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)又はこれらのうち少なくとも2種以上を含む合金等が好適である。
Pad電極5Pは、ワイヤーボンド、フリップチップボンディング等の電気的接続が行いやすい材料を用いて形成することができる。このような材料としては、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)等が好適であり、必要に応じて積層してもよい。赤外線吸収膜としては、特に、波長が4μm〜10μmの赤外線を効率よく吸収する材料であればよい。このような材料としては、例えば、Au黒又は赤外線を吸収する樹脂等が好適である。赤外線を吸収する樹脂は、例えば、ポリイミド等が挙げられる。また、保護膜7としているSiO2膜を、赤外線吸収膜として機能させてもよい。
赤外反射膜は、例えば、アルミニウム(Al)又は金(Au)等の、主として金属材料を用いることができる。赤外線反射膜は、薄膜プロセスで形成可能であり、表面が平滑かつ反射率が高ければよい。また、赤外線反射膜は、赤外線を反射するだけでなく、基板2への熱の逃げを良くするために、熱伝導率の高いものが好ましい。
次に、図2を参照しながら素子1の製造工程について説明する。まず、図2に示すように、基板2として、例えば、(100)シリコン基板等を用意する。そして、基板2の表面に絶縁膜6を形成する。絶縁膜6として、例えば、シリコン酸化膜を用いる場合には、熱酸化法等を適用して絶縁膜6を形成すればよい。絶縁膜6は、基板2との絶縁が確保でき、かつ基板2にキャビティ2Iを形成する際のマスクとして機能することが可能な程度の厚みとすればよい。絶縁膜6の厚みは、例えば、0.1μm〜0.5μm程度が好適である。さらに、絶縁膜6の表面に、下部電極5Hとして、RF(Radio Frequency)マグネトロンスパッタリング法等を用いて、150nm〜600nm程度の金属膜を堆積させる。下部電極5Hの材料は、反応性イオンエッチング又はイオンミリング等の高精度なドライエッチングが可能である電導材料が好ましい。このような材料としては、例えば、白金(Pt)等が好適である。また、下部電極5Hと、シリコン酸化膜等を用いた絶縁膜6との密着性を向上させるために、下部電極5H(例えば、白金(Pt))と絶縁膜6との間に、Ti等の密着増強層を形成することが好ましい。フォトリソグラフィによってレジスト等で絶縁膜6の表面にエッチングマスクを形成した後、イオンミリングによって分離された下部電極5Hを形成する。その後レジストで形成された前記エッチングマスクを除去することにより電極膜が露出される。
次に、絶縁膜6の表面かつ一対の下部電極5Hの間に、サーミスタ材料として複合金属酸化物材料をスパッタ法により堆積させる。サーミスタ材料の厚みは、薄膜サーミスタ3の目標とする抵抗値に応じて調整すればよい。例えば、MnNiCo系酸化物を用い、室温における薄膜サーミスタ3の抵抗値(R25)を140kΩ程度に設定するのであれば、素子1が有する一対の下部電極5H間の距離にもよるが、サーミスタ材料の厚みを0.2μm〜1μm程度に設定すればよい。本実施形態においては、サーミスタ材料の厚みを0.4μmに設定し、スパッタ条件としては基板2の温度を600℃、成膜圧力を0.5Pa、O2/Ar流量比を1%、RFパワーを400Wとして、前記サーミスタ材料を絶縁膜6の表面に成膜し、薄膜サーミスタ3を形成した。その後、BOX焼成炉を用いて、絶縁膜6、下部電極5H及び薄膜サーミスタ3が形成された基板2を、大気雰囲気において650℃で熱処理した。本実施形態において、前記熱処理に要した時間は1時間とした。続いて、薄膜サーミスタ3の検出領域として必要な部分をフォトリフォグラフィで残し、それ以外の部分をウェットエッチングにより除去する。
例えば、薄膜サーミスタ3にMnCoNi系酸化物を用いる場合、塩化第二鉄水溶液等を用いれば、薄膜サーミスタ3の下部の膜(絶縁膜6及び下部電極5H)にダメージを与えることなく、容易に不要部を除去することができる。続いて、素子1の全面を被覆するように、TEOS(Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン)−CVD(Chemical Vapor Deposition)法により、0.3μm〜2μm程度のSiO2膜を保護膜7として堆積させた。そして、保護膜7の表面に、フォトリソグラフィによってエッチングマスクを形成した後、ウェットエッチングによって、Pad電極5Hの接続部分のSiO2膜を選択エッチングし、Pad電極5Hの接続部分のみを露出させた。その後、Pad電極5Hの接続部分に、Al電極をEB蒸着法により1um程度形成し、Pad電極5Hを形成する。その後、リフトオフ法により、前記接続部分以外のAl電極を除去した。
続いて、温度補償用素子として用いる薄膜サーミスタ3の領域を、フォトリソグラフィによって開口した。そして、開口した部分に、赤外線反射膜として金(Au)をスパッタ法により形成した。本実施形態において、金(Au)の厚みは0.1μmとした。その後、リフトオフ法を用いて不要部を除去した。このとき、赤外線反射膜は、平面視における寸法が、基板2に形成されるキャビティ2Iよりも20μm大きくなるようにした。同様に、検知用素子として用いる薄膜サーミスタ3の領域を、シャドーマスクによって必要な部分のみ開口して、N2を導入した抵抗加熱蒸着法により、赤外線反射膜としてAu黒を約5μmの厚みで形成した。この時、Au黒の膜は、平面視において、基板2に形成されるキャビティ2Iよりも20μm内側に入るように形成した。次に、基板2の裏面(薄膜サーミスタ3等が形成される面とは反対面)に、例えば、フォトリソグラフィによってエッチングマスクを形成した後、フッ化物系ガスを用いた反応性イオンエッチングによって基板2の裏面を開口し、平面視において、500μm×500μm角のキャビティ2Iを形成した。キャビティ2Iは、エッチングとバリア層形成とを交互に行いながら、基板2の裏面に対して垂直に加工するD−RIE(Deep-Reactive Ion Etching)法を用いた。
素子1は、基板2の表面に絶縁膜6、下部電極5H及び薄膜サーミスタ3等の薄膜膜を、薄膜サーミスタ3と対向する部分が取り除かれた枠形状の基板2によって支持した構造である。薄膜サーミスタ3の部分は、キャビティ2Iの周りの基板2によって支持される薄膜デバイスの部分である。すなわち、素子1が有する薄膜サーミスタ3は、メンブレン構造を有している。
<赤外線センサ>
図3は、実施形態1に係る赤外線センサを示す平面図である。赤外線センサ10は、検知用素子1Sと、参照用素子1Rと、温度補償用素子1Cと、これらを搭載した基板2とを有している。検知用素子1S、参照用素子1R及び温度補償用素子1Cの構造は、保護膜7の表面に設けられる膜の種類が異なる以外は、上述した素子1と同様であり、いずれもメンブレン構造の薄膜サーミスタ3を有している。検知用素子1Sは赤外線吸収膜4Aを有し、参照用素子1R及び温度補償用素子1Cは、赤外線反射膜4Rを有している。検知用素子1Sと、参照用素子1Rと、温度補償用素子1Cとは、それぞれ検知用素子電極5Sと、参照用素子電極5Rと、温度補償用素子電極5Cとを有している。
本実施形態において、検知用素子1Sと、参照用素子1Rと、温度補償用素子1Cとは、共通の基板2に搭載される。また、本実施形態において、検知用素子1Sの熱容量と、参照用素子1Rの熱容量と、温度補償用素子1Cの熱容量とは同一である。検知用素子、参照用素子及び温度補償用素子は、同一の材料で製造されるので、例えば、検知用素子、参照用素子及び温度補償用素子の寸法(厚み及び平面視における大きさ)を同一にすることで、これらの熱容量を同一とすることができる。なお、検知用素子1Sと、参照用素子1Rと、温度補償用素子1Cとは、保護膜7の表面に設けられる膜の種類が異なるので、例えば、膜の材料に応じて膜の寸法(厚み等)を異ならせることにより、検知用素子1S、参照用素子1R及び温度補償用素子1Cの熱容量を同一にすることができる。
赤外線センサ10は、検知用素子1S、参照用素子1R及び温度補償用素子1Cの熱容量が同一なので、これらの熱応答性を略同一にすることができる。その結果、赤外線センサ10は、検知用素子1Sと、参照用素子1Rと、温度補償用素子1Cとの熱応答性の差が相対的に小さくなるので、熱応答性が改善される。
本実施形態において、検知用素子1Sが有する薄膜サーミスタ3と、参照用素子1Rが有する薄膜サーミスタ3と、温度補償用素子1Cが有する薄膜サーミスタ3とは、それぞれ抵抗値及び抵抗温度係数(B定数)が同一である。このため、赤外線センサ10が有する温度補償用素子1Cは、周囲温度の急激な変化に対して検知用素子1Sと同様の温度追随性を示す。その結果、赤外線センサ10は、補正が容易になる。また、赤外線センサ10は、熱的応答性の同じ薄膜サーミスタ3を用いて赤外線量検知及び周囲温度検知を行うので、幅広い温度域にわたって検知精度が向上する。
検知用素子1S、参照用素子1R及び温度補償用素子1Cは、いずれも周囲温度の影響を受けるが、検知用素子1Sは赤外線量に応じて大きく温度が変化する。このため、検知用素子1Sの温度変化は、同一の赤外線センサ10の同一の基板2に配置される参照用素子1R及び温度補償用素子1Cにも影響を与える。本実施形態において、図3に示すように、赤外線センサ10は、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとが、検知用素子1Sと熱的に対称に配置される。このようにすることで、検知用素子1Sと、参照用素子1Rと、温度補償用素子1Cとの温度影響を略等しくすることができるので、赤外線センサ10は、測定精度が向上する。また、赤外線センサ10は、参照用素子1R及び温度補償用素子1Cが基板2の外側に配置される。このため、赤外線センサ10が有する参照用素子1R及び温度補償用素子1Cは、周囲温度の影響を受けやすくなる。その結果、赤外線センサ10は、温度補償の精度が向上するので、測定精度が向上する。
本実施形態において、検知用素子1S、参照用素子1R及び温度補償用素子1Cは、いずれも平面視が略長方形形状である。参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとは、検知用素子1Sの長手方向と平行、かつ検知用素子1Sの短手方向における中心を通る直線に対して線対称に配置される。このような配置により、検知用素子1Sは、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとの間、かつ基板2の中央部に配置される。このようにすることで、前述した熱的に対称な配置を実現している。その結果、検知用素子1Sに対して参照用素子1R及び温度補償用素子1Cの熱分布を均等にできるので、赤外線センサ10は測定精度がより向上する。ただし、前記熱的に対称な配置は本実施形態のような配置に限定されるものではない。
赤外線センサ10は、検知用素子1Sの検知用素子電極5Sが有する2つのPad電極5Pと、参照用素子1Rの参照用素子電極5Rが有する2つのPad電極5Pと、温度補償用素子1Cの温度補償用素子電極5Cが有する2つのPad電極5Pとがそれぞれ独立している。このため、後述する測定回路として用いるフルブリッジ回路に接続しやすくなる。なお、前記フルブリッジ回路を用いる場合、検知用素子1Sと参照用素子1Rとの接続部及び温度補償用素子1Cの一方のPad電極5Pをグランドに接続する必要がある。このため、検知用素子電極5S、参照用素子電極5R及び温度補償用素子電極5Cのそれぞれが有する2つのPad電極5Pのうち一方を、検知用素子電極5Sと参照用素子電極5Rと温度補償用素子電極5Cとの間で一体として形成してもよい。このようにすれば、検知用素子電極5Sと参照用素子電極5Rと温度補償用素子電極5Cとの間における配線を少なくすることができる。次に、赤外線センサ10の作製方法を説明する。
赤外線センサ10は、上述した素子1と同様に作製することができる。赤外線センサ10は、絶縁性の基板2(シリコン基板、誘電率:2.4)の表面に、熱酸化法により、厚みが0.5μmのシリコン酸化膜を略全面に形成し、絶縁膜6を形成した。次いで、絶縁膜6の表面に、高周波マグネトロンスパッタ法により、厚みが5nmのTiの金属薄膜及び厚みが100nmのPtの金属薄膜を順次、略全面に形成する。形成された積層金属薄膜片上に、櫛歯状のエッチングマスクを形成した後、エッチングマスクで覆われていない積層金属薄膜片をイオンミリング法によりエッチングする。その後、エッチングマスクを除去することにより、櫛歯状の検知用素子電極5S、参照用素子電極5R及び温度補償用素子電極5Cを形成した。
次いで、形成した検知用素子電極5S、参照用素子電極5R及び温度補償用素子電極5Cの表面に、スパッタリング法により、MnNiCo系複合酸化膜を成膜することで、厚みが0.4μm、抵抗値が100kΩ、スリット幅が20μmのMnNiCo系複合酸化膜を形成した。このスパッタリングは、マルチターゲットスパッタ装置(商品名:ES350SU、株式会社エイコー・エンジニアリング製)を使用した。スパッタリングの条件は、基板2の温度を600℃、アルゴン圧力を0.5Pa、O2/Ar流量比を1%、投入電力を400Wとした。その後、BOX焼成炉を使用し、大気雰囲気中で650℃、1時間の条件において、MnNiCo系複合酸化膜等が形成された基板2に熱処理を施した。
続いて、フォトリソグラフィ法により、検知部位を除くMnNiCo系複合酸化膜にマスクを作製し、塩化第二鉄水溶液を用いてウェットエッチング処理した。その後、非マスク領域のMnNiCo系複合酸化膜を除去した。しかる後、マスクを除去することにより、検知部位にのみ薄膜サーミスタ3を形成した。
次いで、薄膜サーミスタ3の表面に、TEOS−CVD法により、SiO2膜を成膜することで、厚みが0.4μmの保護膜7を形成した。その後、Pad電極5Pを配置する部位を除くSiO2膜上にマスクを作製し、Pad電極5Pを配置する部位にウェットエッチング処理を施し、その後、非マスク領域のSiO2膜を除去することで、開口を形成した。続いて、形成した開口及びマスク上に、EB蒸着法より、厚みが1.0μmのAlの金属薄膜を形成した。その後、リフトオフ法により、開口を充填するように形成したAlの金属薄膜を除く部位のAl及びマスクを除去し、Pad電極5Pを形成した。続いて、温度補償用素子として用いる薄膜サーミスタ3の領域を、フォトリソグラフィによって開口し、開口した部分に、スパッタ法により厚み0.1μmの赤外線反射膜4Rを形成した。このような手順により、赤外線センサ10を作製した。
上記のように、本実施形態について説明したが、本実施形態の構成は、以下の実施形態においても適宜適用することができる。また、本実施形態と同様の構成を有するものは、本実施形態と同様の作用、効果を奏する。
(実施形態2)
図4は、実施形態2に係る赤外線センサを示す平面図である。実施形態2の赤外線センサ10Aは、実施形態1の赤外線センサ10(図3参照)と同様であるが、検知用素子1Sと、参照用素子1Rと、温度補償用素子1Cとの配置が異なる。赤外線センサ10Aは、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cと検知用素子1Sとは、いずれも薄膜サーミスタ3を含むメンブレン構造部が長方形形状又は正方形形状である。そして、それぞれの前記メンブレン構造部の角部が対向して配置される。
赤外線センサ10Aが有する検知用素子1S、参照用素子1R及び温度補償用素子1Cは、それぞれ薄膜サーミスタ3を含むメンブレン構造部を有している。赤外線センサ10Aは、メンブレン構造部に含まれる薄膜サーミスタ3及び基板2のキャビティ2Iの平面視における形状が正方形である。なお、これらの平面視における形状は、長方形であってもよい。
検知用素子1Sの薄膜サーミスタ3は、参照用素子1Rの薄膜サーミスタ3と温度補償用素子1Cの薄膜サーミスタ3との間に配置される。そして、検知用素子1Sの薄膜サーミスタ3が有する1つの角部が参照用素子1Rの薄膜サーミスタ3が有する1つの角部と対向し、検知用素子1Sの薄膜サーミスタ3が有する前記1つの角部の対角線上にあるもう一つの角部が、温度補償用素子1Cの薄膜サーミスタ3が有する1つの角部と対向する。
赤外線センサ10Aは、検知用素子1Sの薄膜サーミスタ3が基板2の略中央部(好ましくは中央部)に配置されている。このように、検知用素子1Sの薄膜サーミスタ3を基板2の中央部に配置することにより、検知用素子1Sの受光位置の設計が容易になる。
上述したように、検知用素子1Sの薄膜サーミスタ3は、参照用素子1Rの薄膜サーミスタ3と温度補償用素子1Cの薄膜サーミスタ3との間に配置され、かつ角部が対向して配置される。このため、赤外線センサ10Aは、検知用素子1Sの薄膜サーミスタ3の中心(2本の対角線の交点、図心)に対して、参照用素子1Rの薄膜サーミスタ3と温度補償用素子1Cの薄膜サーミスタ3とが点対称に配置される。このような配置構造により、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとは、赤外線センサ10Aの外部からの赤外線に対して熱的に均等になる。その結果、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとの応答特性及び温度変化特性を揃えることができる。また、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとは、検知用素子1Sと対向する部分が角部(頂点)のみとなるため、参照用素子1Rと検知用素子1Sとの間及び温度補償用素子1Cと検知用素子1Sとの間における熱伝導による熱の移動を最小に抑えることができる。これらの作用により、赤外線センサ10A(より具体的には検知用素子1S)の検出感度を向上させることができる。
検知用素子1Sの検知用素子電極5Sが有する2つのPad電極5Pは、検知用素子1Sが有する薄膜サーミスタ3の1つの対角線の延長線上に配置される。また、参照用素子1Rの薄膜サーミスタ3の角部と温度補償用素子1Cの薄膜サーミスタ3の角部とは、検知用素子1Sが有する薄膜サーミスタ3の他の対角線の延長線上に配置される。2つのPad電極5Pが配置される延長線に含まれる薄膜サーミスタ3の対角線は、前記角部が配置される延長線に含まれる薄膜サーミスタ3の対角線と交差する。検知用素子1Sの検知用素子電極5Sが有する2つのPad電極5Pは、いずれも平面視が正方形(長方形でもよい)であり、それぞれのPad電極5Pが有する1つの角部は、検知用素子1Sが有する薄膜サーミスタ3の1つの対角線上に配置される角部と対向している。検知用素子1Sが有する薄膜サーミスタ3は、一対の下部電極5HによってそれぞれのPad電極5Pと接続されている。
参照用素子1Rの参照用素子電極5Rが有する2つのPad電極5Pは、それぞれ直交する方向に引き出される。また、温度補償用素子1Cの温度補償用素子電極5Cが有する2つのPad電極5Pは、それぞれ直交する方向に引き出される。このような構造により、限られた基板2の表面に、検知用素子1S、検知用素子電極5S、参照用素子1R、参照用素子電極5R、温度補償用素子1C及び温度補償用素子電極5Cを効率よく配置できるので、限られたスペースを有効に利用できる。
赤外線センサ10Aは、検知用素子1Sの検知用素子電極5Sが有する2つのPad電極5Pと、参照用素子1Rの参照用素子電極5Rが有する2つのPad電極5Pと、温度補償用素子1Cの温度補償用素子電極5Cが有する2つのPad電極5Pとがそれぞれ独立している。このため、後述する測定回路として用いるフルブリッジ回路に接続しやすくなる。なお、前記フルブリッジ回路を用いる場合、検知用素子1Sと参照用素子1Rとの接続部及び温度補償用素子1Cの一方のPad電極5Pをグランドに接続する必要がある。このため、検知用素子電極5S、参照用素子電極5R及び温度補償用素子電極5Cのそれぞれが有する2つのPad電極5Pのうち一方を、検知用素子電極5Sと参照用素子電極5Rと温度補償用素子電極5Cとの間で一体として形成してもよい。このようにすれば、検知用素子電極5Sと参照用素子電極5Rと温度補償用素子電極5Cとの間における配線を少なくすることができる。次に、赤外線センサ10Aの作製方法を説明する。
赤外線センサ10Aは、上述した素子1と同様に作成することができる。赤外線センサ10Aは、絶縁性基板(シリコン基板、誘電率:2.4)2の表面に、熱酸化法により、厚みが0.5μmのシリコン酸化膜を略全面に形成し、絶縁膜6を形成した。次いで、絶縁膜6の表面に、高周波マグネトロンスパッタ法により、厚みが5nmのTiの金属薄膜、及び厚みが100nmのPtの金属薄膜を順次、略全面に形成する。形成された積層金属薄膜片上に、櫛歯状のエッチングマスクを形成した後、エッチングマスクで覆われていない積層金属薄膜片をイオンミリング法によりエッチングする。その後、エッチングマスクを除去することにより、櫛歯状の検知用素子電極5S、参照用素子電極5R及び温度補償用素子電極5C電極膜を形成した。
次いで、形成した検知用素子電極5S、参照用素子電極5R及び温度補償用素子電極5Cの電極膜の表面に、スパッタリング法により、MnNiCo系複合酸化膜を成膜することで、厚みが0.4μm、抵抗値が100kΩ、スリット幅が20μmのMnNiCo系複合酸化膜を形成した。このスパッタリングは、マルチターゲットスパッタ装置(商品名:ES350SU、株式会社エイコー・エンジニアリング製)を使用した。スパッタリングの条件は、基板2の温度を600℃、アルゴン圧力を0.5Pa、O2/Ar流量比を1%、投入電力を400Wとした。その後、BOX焼成炉を使用し、熱処理を大気雰囲気中で650℃、1時間の条件において、MnNiCo系複合酸化膜等が形成された基板2に熱処理を施した。
続いて、フォトリソグラフィ法により、検知部位を除くMnNiCo系複合酸化膜上にマスクを作製し、塩化第二鉄水溶液を用いてウェットエッチング処理した。その後、非マスク領域のMnNiCo系複合酸化膜を除去した。しかる後、マスクを除去することにより、検知部位にのみ薄膜サーミスタ膜3を形成した。
次いで、薄膜サーミスタ3の表面に、TEOS−CVD法により、SiO2膜を成膜することで、厚みが0.4μmの保護膜7を形成した。その後、Pad電極5Pを配置する部位を除くSiO2膜上にマスクを作製し、Pad電極5Pを配置する部位にウェットエッチング処理を施し、その後、非マスク領域のSiO2膜を除去することで、開口を形成した。続いて、形成した開口及びマスク上に、EB蒸着法より、厚みが1.0μmのAlの金属薄膜を形成した。その後、リフトオフ法により、開口を充填するように形成したAlの金属薄膜を除く部位のAl及びマスクを除去し、Pad電極5Pを形成した。このような手順により、赤外線センサ10Aを作製した。
上記のように、本実施形態について説明したが、本実施形態の構成は、以下の実施形態においても適宜適用することができる。また、本実施形態と同様の構成を有するものは、本実施形態と同様の作用、効果を奏する。
(実施形態3)
図5は、実施形態3に係る赤外線センサを示す平面図である。実施形態3の赤外線センサ10Bは、実施形態1の赤外線センサ10(図3参照)と同様であるが、参照用素子1Rと検知用素子1Sとの間及び温度補償用素子1Cと検知用素子1Sとの間に、熱的分離手段としての熱分離層8を有する点が異なる。赤外線センサ10Bは、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとの間に検知用素子1Sが同一の基板2の表面に配置されている。本実施形態において、平面視が略長方形形状の参照用素子1Rと温度補償用素子1Cと検知用素子1Sとは、それぞれの長手方向が平行になるように配置されている。検知用素子1S、参照用素子1R及び温度補償用素子1Cは、いずれもメンブレン構造を有する薄膜サーミスタ3を有している。
赤外線センサ10Bは、参照用素子1Rと検知用素子1Sとの間及び温度補償用素子1Cと検知用素子1Sとの間に熱分離層8を有している。熱分離層8は、基板2よりも熱伝導率が低い材料を薄膜で形成して、検知用素子1Sの熱変化の影響を低減するものである。本実施形態においては、薄膜サーミスタ3が有する電極5と同時に形成可能なPtを用いて熱分離層8とした。なお、熱分離層8は、Ptに限定されるものではない。このように、赤外線センサ10Bが熱分離層8を有することにより、検知用素子1Sが受けた熱変化は、検知用素子1Sの両側にある参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとに伝わりにくくなる。その結果、赤外線センサ10Bは、赤外線の検出精度が向上するとともに、また検出結果を高出力で出力することが可能になる。
図6は、実施形態3の変形例に係る赤外線センサを示す平面図である。実施形態3の変形例の赤外線センサ10Baは、実施形態2の赤外線センサ10A(図4参照)と同様であるが、参照用素子1Rと検知用素子1Sとの間及び温度補償用素子1Cと検知用素子1Sとの間に、熱的分離手段としての熱分離層8を有する点が異なる。赤外線センサ10Baは、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cと検知用素子1Sとは、いずれも薄膜サーミスタ3を含むメンブレン構造部が長方形形状又は正方形形状である。そして、それぞれの前記メンブレン構造部の角部が熱分離層8を挟み、対向して配置される。赤外線センサ10Baが有する検知用素子1S、参照用素子1R及び温度補償用素子1Cは、それぞれ薄膜サーミスタ3を含むメンブレン構造部を有している。
検知用素子1Sの薄膜サーミスタ3は、基板2の略中央部(好ましくは中央部)に配置され、参照用素子1Rの薄膜サーミスタ3と温度補償用素子1Cの薄膜サーミスタ3との間に角部が熱分離層8を挟み、対向して配置される。そして、参照用素子1Rと検知用素子1Sとの間及び温度補償用素子1Cと検知用素子1Sとの間に熱分離層8を有している。このため、赤外線センサ10Baは、検知用素子1Sの薄膜サーミスタ3の中心(2本の対角線の交点、図心)に対して、参照用素子1Rの薄膜サーミスタ3と温度補償用素子1Cの薄膜サーミスタ3とが点対称に配置される。このような配置構造により、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとは、赤外線センサ10Aの外部からの赤外線に対して熱的に均等になる。その結果、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとの応答特性及び温度変化特性を揃えることができる。また、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとは、検知用素子1Sと対向する部分が熱分離層8を挟んで角部(頂点)のみとなり、参照用素子1Rと検知用素子1Sとの間及び温度補償用素子1Cと検知用素子1Sとの間における熱伝導による熱の移動を最小に抑えることができる。これらの作用により、赤外線センサ10Ba(より具体的には検知用素子1S)の検出感度を向上させることができる。
赤外線センサ10B、10Baは、上述した素子1と同様に作成することができる。赤外線センサ10B、10Baは、絶縁性基板2(シリコン基板、誘電率:2.4)の表面に、熱酸化法により、厚みが0.5μmのシリコン酸化膜を略全面に形成し、絶縁膜6を形成した。次いで、絶縁膜6の表面に、高周波マグネトロンスパッタ法により、厚みが5nmのTiの金属薄膜及び厚みが100nmのPtの金属薄膜を順次、略全面に形成する。形成された積層金属薄膜片上に、櫛歯状のエッチングマスクを形成した後、エッチングマスクで覆われていない積層金属薄膜片をイオンミリング法によりエッチングする。その後、エッチングマスクを除去することにより、櫛歯状の検知用素子電極5S、参照用素子電極5R及び温度補償用素子電極5C、熱分離層8を形成した。
次いで、形成した検知用素子電極5S、参照用素子電極5R及び温度補償用素子電極5Cの表面に、スパッタリング法により、MnNiCo系複合酸化膜を成膜することで、厚みが0.4μm、抵抗値が100kΩ、スリット幅が20μmのMnNiCo系複合酸化膜を形成した。このスパッタリングは、マルチターゲットスパッタ装置(商品名:ES350SU、株式会社エイコー・エンジニアリング製)を使用した。スパッタリングの条件は、基板2の温度を600℃、アルゴン圧力を0.5Pa、O2/Ar流量比を1%、投入電力を400Wとした。その後、BOX焼成炉を使用し、熱処理を大気雰囲気中で650℃、1時間の条件において、MnNiCo系複合酸化膜等が形成された基板2に熱処理を施した。
続いて、フォトリソグラフィ法により、検知部位を除くMnNiCo系複合酸化膜上にマスクを作製し、塩化第二鉄水溶液を用いてウェットエッチング処理した。その後、非マスク領域のMnNiCo系複合酸化膜を除去した。しかる後、マスクを除去することにより、検知部位にのみ薄膜サーミスタ3を形成した。
次いで、薄膜サーミスタ3の表面に、TEOS−CVD法により、SiO2膜を成膜することで、厚みが0.4μmの保護膜7を形成した。その後、Pad電極5Pを配置する部位を除くSiO2膜上にマスクを作製し、Pad電極5Pを配置する部位にウェットエッチング処理を施し、その後、非マスク領域のSiO2膜を除去することで、開口を形成した。続いて、形成した開口及びマスク上に、EB蒸着法より、厚みが1.0μmのAlの金属薄膜を形成した。その後、リフトオフ法により、開口を充填するように形成したAlの金属薄膜を除く部位のAl及びマスクを除去し、Pad電極5Pを形成した。続いて、温度補償用素子として用いる薄膜サーミスタ3の領域を、フォトリソグラフィによって開口し、開口した部分に、スパッタ法により厚み0.1μmの赤外線反射膜4Rを形成した。このような手順により、赤外線センサ10Aを作製した。
上記のように、本実施形態又はその変形例について説明したが、本実施形態又はその変形例の構成は、以下の実施形態においても適宜適用することができる。また、本実施形態又はその変形例と同様の構成を有するものは、本実施形態と同様の作用、効果を奏する。
(実施形態4)
図7は、実施形態4に係る赤外線センサを示す平面図である。実施形態4の赤外線センサ10Cは、実施形態3の赤外線センサ10B(図5参照)と同様であるが、熱的分離手段としての熱分離層8aの構造が異なる。赤外線センサ10Cは、参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとの間に検知用素子1Sが熱分離層8aを挟んで同一の基板2の表面に配置されている。本実施形態において、平面視が略長方形形状の参照用素子1Rと温度補償用素子1Cと検知用素子1Sとは、それぞれの長手方向が平行になるように配置されている。検知用素子1S、参照用素子1R及び温度補償用素子1Cは、いずれもメンブレン構造を有する薄膜サーミスタ3を有している。
赤外線センサ10Cは、参照用素子1Rと検知用素子1Sとの間及び温度補償用素子1Cと検知用素子1Sとの間に熱分離層8aを有している。熱分離層8aは、基板2に設けられた熱分離層8aの部分の熱伝導を低下させて、検知用素子1Sの熱変化の影響を低減するものである。本実施形態においては、基板2表面に熱分離層8aの形状で15μmの溝を形成して熱分離層8aとした。なお、熱分離層8aは、溝に限定されるものではない。このように、赤外線センサ10Cが熱分離層8aを有することにより、検知用素子1Sが受けた熱変化は、検知用素子1Sの両側にある参照用素子1Rと温度補償用素子1Cとに伝わりにくくなる。その結果、赤外線センサ10Cは、赤外線の検出精度が向上するとともに、また検出結果を高出力で出力することが可能になる。
赤外線センサ10Cは、上述した素子1と同様に作成することができる。赤外線センサ10Cは、絶縁性基板2(シリコン基板、誘電率:2.4)の表面に、熱酸化法により、厚みが0.5μmのシリコン酸化膜を略全面に形成し、絶縁膜6を形成した。次いで、絶縁膜6の表面に、高周波マグネトロンスパッタ法により、厚みが5nmのTiの金属薄膜及び厚みが100nmのPtの金属薄膜を順次、略全面に形成する。形成された積層金属薄膜片上に、櫛歯状のエッチングマスクを形成した後、エッチングマスクで覆われていない積層金属薄膜片をイオンミリング法によりエッチングする。その後、エッチングマスクを除去することにより、櫛歯状の検知用素子電極5S、参照用素子電極5R及び温度補償用素子電極5Cを形成した。
次いで、形成した検知用素子電極5S、参照用素子電極5R及び温度補償用素子電極5Cの表面に、スパッタリング法により、MnNiCo系複合酸化膜を成膜することで、厚みが0.4μm、抵抗値が100kΩ、スリット幅が20μmのMnNiCo系複合酸化膜を形成した。このスパッタリングは、マルチターゲットスパッタ装置(商品名:ES350SU、株式会社エイコー・エンジニアリング製)を使用した。スパッタリングの条件は、基板2の温度を600℃、アルゴン圧力を0.5Pa、O2/Ar流量比を1%、投入電力を400Wとした。その後、BOX焼成炉を使用し、熱処理を大気雰囲気中で650℃、1時間の条件において、MnNiCo系複合酸化膜等が形成された基板2に熱処理を施した。
続いて、フォトリソグラフィ法により、検知部位を除くMnNiCo系複合酸化膜上にマスクを作製し、塩化第二鉄水溶液を用いてウェットエッチング処理した。その後、非マスク領域のMnNiCo系複合酸化膜を除去した。しかる後、マスクを除去することにより、検知部位にのみ薄膜サーミスタ3を形成した。
次いで、薄膜サーミスタ3の表面に、TEOS−CVD法により、SiO2膜を成膜することで、厚みが0.4μmの保護膜7を形成した。その後、Pad電極を配置する部位を除く部分及び熱分離層8aの部分に、CHF3を用いたドライエッチング処理を施しSiO2膜を除去することで、Pad電極の開口、及び熱分離層8aを形成した。熱分離層8aは、基板2表面に幅150μm、深さ15μmの溝である。
続いて、形成した開口及びマスク上に、EB蒸着法より、厚みが1.0μmのAlの金属薄膜を形成した。その後、リフトオフ法により、開口を充填するように形成したAlの金属薄膜を除く部位のAl及びマスクを除去し、Pad電極5Pを形成した。続いて、温度補償用素子として用いる薄膜サーミスタ3の領域を、フォトリソグラフィによって開口し、開口した部分に、スパッタ法により厚み0.1μmの赤外線反射膜4Rを形成した。このような手順により、赤外線センサ10Cを作製した。
上記のように、本実施形態又はその変形例について説明したが、本実施形態又はその変形例の構成は、以下の実施形態においても適宜適用することができる。また、本実施形態又はその変形例と同様の構成を有するものは、本実施形態と同様の作用、効果を奏する。
(実施形態5)
<測定回路>
図8は、実施形態1から実施形態4に係る赤外線センサを用いて赤外線を計測するときに用いる測定回路の一例を示すフルブリッジ回路の図である。実施形態1から実施形態4に係る赤外線センサ10、10A等は、検知用素子1Sと参照用素子1Rとの赤外線吸収及び赤外線反射の差により生じた、検知用素子1Sと参照用素子1Rとの温度差ひいては抵抗差を電圧として検知している。このような抵抗差を利用した検知には、ハーフブリッジ回路又はフルブリッジ回路を用いるが、従来は、構成素子数が少ないことからハーフブリッジ回路を使うことが一般的であった。
しかし、ハーフブリッジ回路では2素子に接続する回路が非対称になり、検知用素子1Sと参照用素子1Rとに外部からの熱影響が異なって影響を及ぼし、赤外線を精度よく検出することが困難であった。そこで、本実施形態では、フルブリッジ回路20を用い、検知用素子1Sと参照用素子1Rとに直接接続される素子(抵抗素子)を同じものにすることで、検知用素子1Sと参照用素子1Rとに作用する熱的影響を対称的にして、赤外線の測定精度を向上させることを可能にする。
具体的には、フルブリッジ回路20は、評価対象の検知用素子4S及び参照用素子4Rを使用し、素子外部に2つの基準抵抗素子R1、R2で構成される。検知用素子4Sは基準抵抗素子R1と参照用素子4Rとに接続し、参照用素子4Rは基準抵抗素子R2と検知用素子4Sとに接続し、基準抵抗素子R1とR2もそれぞれ接続してフルブリッジ回路20を形成する。この基準抵抗素子の形状、組成を揃えることで、検知用素子4Sと参照用素子4Rは熱的に対称となるため、外部からの熱的影響が等しくなり、検知精度を向上させることができる。
赤外線量に相当する電圧Pは、P1とP2との電圧差で得られる。周囲温度に相当する電圧P3は、評価対象の温度補償用素子4Cと、素子の外部の基準抵抗素子R3とのハーフブリッジ回路で得られる。これらは、図8中に示した点線枠内の検知用素子4S、参照用素子4R、温度補償用素子4Cである3個の薄膜サーミスタは一体構造の赤外線センサ10、10A、10B、10B、10Ba、10Cとしている。
上記のように、本実施形態と同様の構成を有するものは、本実施形態と同様の作用、効果を奏する。
<評価>
実施形態1から実施形態4に係る赤外線センサを評価した。実施形態1から実施形態4、及び比較例の赤外線センサについて、赤外線量を推定するための素子出力測定を行った。出力を得るための回路は、実施形態1から実施形態4の検知用素子4S、参照用素子4R及び温度補償用素子4Cについては、図8に示すような検知用素子4Sと参照用素子4Rとを含むフルブリッジ回路20と温度補償用素子4Cを含むハーフブリッジ回路11を用いた。
図9は、ハーブリッジ回路の一例を示す図である。実施形態1の赤外線センサ10を用い、検知用素子THaはそのままであるが、参照用素子を第1の基準感熱抵抗体THa、温度補償用素子を第2の基準感熱抵抗体THbと役割を変更し、図7に示したような回路を接続して赤外線センサを構成した。すなわち検知用素子THsと第1の基準用素子THaでハーフブリッジ回路を、第2の基準用素子THbと外部固定抵抗Rでハーフブリッジを形成する。ここで図7中に示した点線枠内の検知用素子THs、第1の基準感熱抵抗体THa、第2の基準感熱抵抗体THbの薄膜サーミスタは一体構造の赤外線センサとしている。赤外線量を反映する電圧Paは、検知用素子と第1の基準感熱抵抗体のハーフブリッジ回路から得られ、周囲温度を反映する電圧Pbは、第2の基準感熱抵抗体と外部固定抵抗のハーフブリッジ回路から得られる。
<測定方法>
赤外線量の測定方法としては、所定温度に保持した赤外線センサ10等に、実施形態1〜4については図8のフルブリッジ回路20及びハーフブリッジ回路11を、比較例については図9に示すハーフブリッジ回路30を組み合わせ、所定の赤外線を与えた時の、基準電圧Vccを印可した回路の測定点P1、P2、P3及びPa、Pbの電圧を測定する。
具体的には、赤外線センサ10等の温度を25℃に保ち、表面温度37℃に設定した平面黒体から5cm離して設置した時の、平面黒体の表面温度に対応する各測定点の電圧を測定した。実施形態1〜4は、赤外線量に相当する電圧Pは、P1とP2との電圧差で得られる。外部基準抵抗R1は120kΩ、基準電圧Vccは5Vであった。外部基準抵抗R2は、平面黒体表面温度を25℃にした時の電圧Pが0になるように調整してあらかじめ設置し、実施形態1〜4の抵抗値は、120kΩ±1kΩであった(条件1)。
比較例では、外部固定抵抗Rは120kΩ、基準電圧Vccは5Vであった。比較例の場合、電圧Paは検知用素子と第1の基準感熱抵抗体のハーフブリッジであるため、基準電圧の抵抗比分圧となり、常に既知の基準温度との相対値となる。この場合は、実施例に合わせ、平面黒体の表面温度を25℃にした時の電圧からの差分を出力とした。評価結果を表1に示す。
電圧Pは、実施形態1が3.94mVで、検知用素子4Sに隣接する温度補償用素子4C又は参照用素子4Rの相対する端部が最短距離となるように配置した実施形態2は4.43mV、熱的分離手段を施した実施形態3、4は、それぞれ4.35mV、4.37mVとなった(表1参照)。比較例の電圧Paは平面黒体の表面温度が37℃の場合2.546Vで、赤外線量に換算するために、表面温度25℃の時の値を基準にして、差分を求めた。その結果、3.85mVであった。また比較例は、実施形態1〜4と比較して、周囲の外来ノイズを拾い易く、ホワイトノイズで概ね2倍あった。
温度変化に対する追従性を観察した。周囲温度25℃の環境で表面温度が37℃となるような平面黒体から5cm離し設置し、P1、P2間の電圧差を測定した。次に周囲温度を急激に37℃に変化させ1分後の電圧差を測定し、その電圧差を計算した(条件2)。
周囲温度が高くなるにしたがって電圧差は小さくなった。25℃との電圧差を計算すると条件1と同様な傾向が見られた(表1参照)。表1に示した条件1の電圧と条件2の電位差とは、同一赤外線量に対する各実施形態と比較例との素子出力を示しており、この数値が大きいほど感度が良いことを示している。結果から、比較例(従来回路と実施形態1との組み合わせ)よりも、他の実施形態の方が感度は良くなっていることを示している。感度が良いということは、微少な赤外線量でも測定可能となり、測定素子温度と測定対象の温度が近い場合でも測定可能となるため、幅広い温度範囲を測定できるようになる。
以上、上述した実施形態及びその変形例によれば、検知用素子と同じの熱容量を持つ温度補償用素子で周囲温度を検出することで、特に周囲温度の変化の追随性に優れ、かつ熱衝撃に強い赤外線センサを提供することができる。赤外線センサは、少なくとも検知用素子に用いる薄膜サーミスタと参照用素子に用いる薄膜サーミスタと温度補償用素子に用いるサーミスタとで構成されており、各素子の検知部分の温度変化に対して応答よく赤外線を検知することができる。また、検知部分の薄膜サーミスタの配置を対称とすること、さらには検知用素子と、参照用素子及び温度補償用素子との間に熱的分離手段を設けることにより、高精度に環境温度と参照温度を一致させることが可能になり、赤外線の測定精度が向上する。