JP3670230B2 - 耐磨耗性に優れた耐熱非粘着塗装金属板 - Google Patents

耐磨耗性に優れた耐熱非粘着塗装金属板 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、食品調理器具,加熱調理器具,摺動部材等に要求される耐磨耗性,耐熱性,非粘着性等の特性に優れた塗装金属板に関する。
【0002】
【従来の技術】
フッ素樹脂は、潤滑性,耐熱性,非粘着性,耐汚染性等に優れた特性を呈することから、金属板との複合材として使用されている。たとえば、フッ素樹脂が複合された金属板は、パン,ケーキの焼型,フライパン等の食品調理器具,電子レンジ内板,電子制御ジャーの内釜,ガステーブル用天板等の調理器具や、潤滑性を必要とする摺動部材としても汎用されている。
フッ素樹脂と金属板との複合材は、潤滑性,耐熱性,非粘着性,耐汚染性等に優れているが、鉛筆硬度試験による塗膜硬度がB〜HBと軟質である。そのため、金属製調理器具の接触により、基材の金属板に達する疵が付きやすく、耐磨耗性も著しく劣る。樹脂製の調理器具や柔らかなナイロンタワシ等の洗浄道具を使用する場合でも短期間で磨耗し、基材の金属板が露出しやすい。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
フッ素樹脂塗膜の耐磨耗性,耐疵付き性を改善するため、チタン酸カリウムウイスカ(特開平10−323283号公報),ウォラストナイト等の針状粉末やガラスビーズ,酸化鉄(特開平10−120980号公報)等の粒状粉末を塗膜層に分散させる方法が提案されている。針状粉末や粒状粉末を添加すると、局部的な塗膜硬度を表す鉛筆硬度は向上するが、連続的な磨耗に対する塗膜硬度が十分でなく、依然として基材の露出等の欠陥が生じることがある。
また、フッ素樹脂の優れた長所を活用し、フッ素樹脂塗装金属板の適用分野も広がる傾向にある。適用分野の拡大に伴って、塗膜硬度が一層高く、非粘着性と耐熱性を高位に両立させた塗装金属板の提供が望まれている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような要求に応えるべく案出されたものであり、耐熱性樹脂に分散させる無機系微粒子の形状,粒径及び熱溶融性フッ素樹脂粉末の粒径を適正に調整することにより、塗膜硬度が高く、耐磨耗性及び非粘着性の双方に優れた耐熱非粘着塗装金属板を提供することを目的とする。
【0005】
本発明の耐熱非粘着塗装金属板は、その目的を達成するため、平均粒径1μm以下の熱溶融性フッ素樹脂及び平均粒径10〜100μmの鱗片状無機質添加材を配合した耐熱樹脂塗料から形成された塗膜が下地金属板の表面に設けられており、熱溶融性フッ素樹脂から生成した薄層で塗膜表層が覆われ、薄層の下方にある塗膜に鱗片状無機質添加材及び粒状フッ素樹脂が分散していることを特徴とする。
【0006】
耐磨耗性,耐熱性,非粘着性に優れた塗膜の形成には、塗膜を形成する耐熱樹脂の固形分100質量部に対して平均粒径1μm以下の熱溶融性フッ素樹脂が10〜200質量部,平均粒径10〜100μmの鱗片状無機質添加材が1〜30質量部の割合で配合された塗料が使用される。
耐熱樹脂には、ポリエーテルスルホン樹脂,ポリフェニルスルフィド樹脂,ポリアミドイミド樹脂等がある。熱溶融性フッ素樹脂には、ポリテトラフルオロエチレン樹脂,テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等がある。鱗片状無機質添加材には、ガラスフレーク,硫酸バリウムフレーク,グラファイトフレーク,合成マイカフレーク,シリカフレーク,合成アルミナフレーク等が使用される。
【0007】
耐熱非粘着塗装用塗料には、必要に応じてチタン酸カリウム繊維,ウォラスナイト繊維,炭化ケイ素繊維,アルミナ繊維,アルミナシリケート繊維,シリカ繊維,ロックウール,スラグウール,ガラス繊維,炭素繊維等の無機質繊維を分散させても良い。無機質繊維としては、直径0.1〜20μm,長さ10〜100μmの繊維が好適である。無機質繊維を分散させた塗膜は、好ましくは0.1〜40質量部の割合で無機質繊維を配合した上塗り塗料によって形成される。
【0008】
【実施の形態】
塗膜が形成される塗装原板としては、冷延鋼板,亜鉛めっき鋼板,Zn−Al合金めっき鋼板,Zn−Al−Mg合金めっき鋼板,アルミニウムめっき鋼板,ステンレス鋼板,アルミニウム板,アルミニウム合金板等の各種金属板が使用される。また、樹脂ボード,石膏ボード等の非金属材料に対しても、同様な方法で耐磨耗性,耐熱性,非粘着性に優れた塗膜が形成される。
金属板を塗装原板に使用する場合、塗膜密着性を改善するため脱脂,酸洗等の処理を施した後、リン酸塩処理,クロメート処理,クロムフリー処理等によって塗装原板の表面に化成処理皮膜を形成する。具体的には、アルカリ脱脂,酸洗等で金属板表面を清浄化した後、必要に応じてリン酸塩処理で表面の濡れ性を高め、クロメート処理又はクロムフリー処理によって塗膜密着性の改善に有効な化成処理皮膜を形成する。化成処理皮膜は、ロールコータ,カーテンフローコータ,浸漬・引上げ法等で化成処理液を金属板表面に塗布し、ローラ等で絞った後、水洗することなく80〜200℃で乾燥することによって形成される。
【0009】
化成処理皮膜は、下地金属板の腐食を防止し、塗膜密着性の向上に有効な厚みで形成される。たとえば、クロメート皮膜では全Cr換算付着量として5〜100mg/m2,リン酸塩皮膜では5〜500mg/m2,Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m2,フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量又は総金属付着量で0.1〜500mg/m2となるように設けられる。この化成処理皮膜により、下地金属板に対する下塗り塗膜の塗膜密着性が向上する。
【0010】
化成処理皮膜形成後、透明又は着色耐熱性塗料を塗装原板に塗布し、乾燥・焼付けによって下塗り塗膜を形成する。下塗り塗膜用の耐熱性塗料としては、ポリエーテルスルホン樹脂,ポリフェニルスルフィド樹脂,ポリアミドイミド樹脂の少なくとも1種以上の樹脂を使用できる。透明な下塗り塗膜も形成可能であるが、色調の要求に応じて酸化チタン,カーボンブラック,酸化クロム,酸化鉄等の耐熱性に優れた着色顔料を配合した塗料を用いて下塗り塗膜を形成しても良い。
【0011】
クロム系のストロンチウムクロメートや非クロム系の変性シリカ,トリポリリン酸二水素アルミニウム等の防錆顔料を下塗り塗料に添加するとき、塗装金属板の切断端面や加工時又は施工時に発生した塗膜欠陥部を起点とするフクレ,銹等の欠陥発生が防止される。添加される防錆顔料は、平均粒径が0.1〜1μmの範囲にあるものが好ましい。平均粒径が0.1μm未満では塗料に分散させる際に凝集しやすく、防錆顔料を均一分散させがたい。逆に、平均粒径が10μmを超える防錆顔料を添加すると、塗膜本来の性質が損なわれ、塗膜物性に悪影響が現れやすい。しかも、大粒径の防錆顔料は、塗膜の平滑性だけでなく、柚子肌状になって塗膜外観を著しく劣化させる。
【0012】
防錆顔料は、樹脂固形分100質量部に対し5〜150質量部の割合で配合することが好ましい。防錆顔料による塗膜の耐食性改善効果は、5質量部以上の防錆顔料で顕著になるが、150質量部で飽和する。150質量部を超える防錆顔料を配合しても、過剰な防錆顔料に起因して塗膜の加工性,密着性が低下する。所定組成に調製された下塗り塗料は、プレコート鋼板の製造に通常使用されているロールコート,フローコート,カーテンフロー,スプレー等の方法で塗装原板に塗布され、到達板温300〜400℃×30〜180秒で焼き付けられる。下塗り塗料の塗布量は、焼付け後に乾燥膜厚0.5〜30μmの下塗り塗膜が形成されるように調整される。
【0013】
透明な下塗り塗膜を形成する場合、乾燥膜厚0.5μm以上で下塗り塗膜形成による耐食性,塗膜密着性等の効果が発現する。着色塗膜の場合には、下地金属板を隠蔽するために3μm以上の乾燥膜厚が好ましい。しかし、何れの場合も乾燥膜厚が30μmを超える厚膜の下塗り塗膜では、塗膜表面が柚子肌状になって外観が劣化するだけでなく、焼付け時にワキが発生しやすくなる。このようにして、任意の色調に調整され、防錆効果が付与された下塗り塗膜が形成されるが、場合によっては下塗り塗膜の省略も可能である。
【0014】
下塗り塗膜又は化成処理した下地金属板に直接、耐熱非粘着塗装用塗料が塗布され、乾燥・焼付けによって上塗り塗膜又は耐熱非粘着塗膜が形成される。耐熱非粘着塗装用塗料は、ポリエーテルスルホン樹脂,ポリフェニルスルフィド樹脂,ポリアミドイミド樹脂の少なくとも1種以上の耐熱樹脂に、平均粒径1μm以下の熱溶融性フッ素樹脂及び平均粒径10〜100μmの鱗片状無機質添加材を配合することにより調製される。熱溶融性フッ素樹脂及び鱗片状無機質添加材の配合量は、耐熱樹脂の固形分100質量部に対してそれぞれ10〜200質量部,1〜30質量部の範囲で選定される。耐熱非粘着塗装用塗料には、必要に応じて直径0.1〜20μm,長さ10〜100μmの無機質繊維を耐熱樹脂の固形分100質量部に対して0.1〜40質量部の割合で配合しても良い。
【0015】
熱溶融性フッ素樹脂としては、耐熱非粘着性の観点から融点270℃以上のものが好ましく、テトラフルオロエチレン,ヘキサフルオロエチレン,パーフルオロアルキルビニルエーテル,クロロトリフルオロエチレン等の単量体の少なくとも1種からなる重合体を使用できる。特に非粘着性の持続性に優れていることから、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)が好ましく、更に耐熱性の観点からPFAが最適である。
【0016】
熱溶融性フッ素樹脂は、塗料樹脂に対する分散性や塗膜に優れた非粘着性,耐熱性を付与するため、平均粒径1μm以下の粉末が好ましい。平均粒径1μm以下の熱溶融性フッ素樹脂は、塗膜の焼成時に容易に溶融し、上塗り塗膜表面にフッ素樹脂質の薄膜を形成する。なかでも、0.5μm以下の平均粒径が薄膜形成に好適である。
熱溶融性フッ素樹脂は、10〜200質量部の配合割合で耐熱非粘着塗装用塗料に配合される。熱溶融性フッ素樹脂配合による非粘着性の持続性は10質量部以上の配合割合で顕著になるが、200質量部を超える過剰量の熱溶融性フッ素樹脂を配合すると、下塗り塗膜に対する上塗り塗膜の密着性が低下しやすい。非粘着性の持続性と密着性とをバランスさせる上では、50〜150質量部,更には80〜120質量部で熱溶融性フッ素樹脂を配合することが好ましい。
【0017】
耐熱非粘着塗装用塗料に配合される鱗片状無機質添加材は,材質に制約を受けるものではなく,ガラスフレーク,硫酸バリウムフレーク,グラファイトフレーク,合成マイカフレーク,シリカフレーク,合成アルミナフレーク等が使用される。なかでも、耐磨耗性の観点から素材自体が硬質で、液体からの冷却・凝固で製造されることにより極めて平滑な表面をもつガラスフレークが好適である。ガラスフレークとしては、市販のガラスフレークが使用でき、含アルカリガラス,無アルカリガラス又はその中間組成物等がある。
鱗片状無機質添加材は、そのままでも耐熱非粘着塗装用塗料に配合できるが、必要に応じてクロム酸系,燐酸系,アルミナ系,ジルコニア系等の無機系表面処理剤や各種シランカップリング剤,チタネートカップリング剤等を用いた表面処理を施したものが好ましい。表面処理によって、耐熱非粘着塗装用塗料に対する鱗片状無機質添加材の分散性及び隣接する樹脂層との層間密着性が向上する。
【0018】
耐熱非粘着塗装用塗料に配合される鱗片状無機質添加材は,非粘着性の低下なく塗膜硬度及び耐磨耗性を向上させるため、10〜100μmの範囲に平均粒径が調整されている。なお、鱗片状無機質添加材の平均粒径は、最も長い部分の長さで表される。塗膜硬度及び耐磨耗性に及ぼす鱗片状無機質添加材の改善効果は平均粒径10μm以上で顕著になる。10μm未満の平均粒径では、塗膜を平面視で塗膜に占める鱗片状無機質添加材の面積割合が小さく、鱗片状無機質添加材が点状に分布することになり、塗膜硬度及び耐磨耗性の改善に効果的でない。この状態で無機質繊維を配合しても、無機質繊維の線状分散によって塗膜硬度は向上するものの、磨耗に対するバリア層となる鱗片状無機質添加材の面積割合が小さいため十分な耐磨耗性が得られない。
平均粒径10μm以上の鱗片状無機質添加材を分散させることにより、面状で硬質のバリア層が塗膜内部に形成されるため塗膜硬度が向上し、耐磨耗性が飛躍的に改善される。しかし、鱗片状無機質添加材の平均粒径が100μmを超えると、塗膜から鱗片状無機質添加材の突出に起因して非粘着性が低下する虞がある。また、鱗片状無機質添加材の突出による非粘着性の低下を防止する上で、厚み5μm以下、更には1μm以下の鱗片状無機質添加材が好ましい。
【0019】
鱗片状無機質添加材は、1〜30質量部の配合割合で耐熱非粘着塗装用塗料に分散配合される。耐熱非粘着塗膜に鱗片状無機質添加材を分散させることにより、従来B〜HBであった鉛筆硬度がF〜3Hに上昇し、耐磨耗性が飛躍的に改善される。非粘着性の低下なく耐磨耗性を向上させる鱗片状無機質添加材の添加効果は、平均粒径10〜100μm,分散量1〜30質量部で顕著になる。配合量1質量部未満では鱗片状無機質添加材添加による塗膜硬度,耐磨耗性の改善効果が十分でなく、逆に30質量部を超える過剰量の鱗片状無機質添加材を配合すると、塗膜からの鱗片状無機質添加材の突出に起因して非粘着性が低下しやすく、塗膜本来の性質が損なわれ、物性等に対する悪影響の原因にもなる。
【0020】
耐熱非粘着塗装用塗料に、必要に応じて無機質繊維が配合される。無機質繊維には、チタン酸カリウム繊維,ウォラスナイト繊維,炭化ケイ素繊維,アルミナ繊維,アルミナシリケート繊維,シリカ繊維,ロックウール,スラグウール,ガラス繊維,炭素繊維等がある。
無機質繊維を塗膜に分散させることにより非粘着性,加工性の低下なく塗膜硬度が向上する。鱗片状無機質添加材が塗膜の膜面に平行な方向に沿って分散するのに対し、無機質繊維は、隣接する鱗片状無機質添加材の隙間を縫うように三次元的に塗膜内部に分散する。この分散形態の相違から、非粘着性,加工性に悪影響を及ぼすことなく塗膜硬度が改善されるものと推察される。
【0021】
塗膜硬度向上に及ぼす効果は、直径0.1μm以上,長さ10μm以上の無機質繊維で顕著になる。しかし、直径20μm,長さ100μmを超える無機質繊維では、塗膜表面から突出する無機質繊維に起因して非粘着性や加工性が低下する虞がある。このようなことから、直径0.1〜20μm,長さ10〜100μmの無機質繊維、なかでも直径0.1〜1μm,長さ0.1〜30μmのチタン酸カリウム繊維が好ましい。
【0022】
無機質繊維は、0.1質量部の割合で耐熱非粘着塗装用塗料に配合される。鱗片状無機質添加材及び無機質繊維を複合添加した塗料から形成された耐熱非粘着塗膜では、塗膜硬度の下限が1ランク向上してH〜3Hになる。非粘着性,加工性の低下なく塗膜硬度を向上させる無機質繊維の複合添加効果は、0.1〜40質量部の分散量で顕著になる。0.1質量%に満たない分散量では無機質繊維の分散による効果が十分に発現されず,逆に40質量部を超える分散量では塗膜表面から無機質繊維が突出しやすくなり、結果として非粘着性,加工性が低下し、塗膜本来の性質が損なわれる虞がある。密着性,加工性に悪影響を及ぼさない上では、無機質繊維の配合量を1〜20質量部の範囲に設定することが好ましい。
【0023】
所定組成に調合した耐熱非粘着塗装用塗料は、プレコート鋼板の製造に通常使用されているロールコート,フローコート,カーテンフロー,スプレー等の方法で塗装原板に塗布され、到達板温350〜450℃×60〜180秒で焼き付けられる。耐熱非粘着塗装用塗料の塗布量は、焼付け後に乾燥膜厚5〜40μmの耐熱非粘着塗膜が形成されるように調整される。乾燥膜厚5μm未満では非粘着性の持続性が十分に発現されず、逆に40μmを超える厚膜では塗膜表面が柚子肌状になって外観が劣化するばかりでなく、焼付け時にワキが発生しやすくなる。加工性の観点からすると、耐熱非粘着塗膜の膜厚は5〜20μmが好ましい。
【0024】
形成された耐熱非粘着塗膜の断面を顕微鏡で観察すると、図1で模式的に示すように、耐熱非粘着塗膜10の表層にフッ素樹脂薄膜11が形成され、鱗片状無機質添加材12が分散した耐熱非粘着塗膜10が下塗り塗膜15を介して下地金属板16の表面に形成されていた。鱗片状無機質添加材12は、フレーク面が下地金属板16の表面に直交することなく、下地金属板16の表面とほぼ平行に又は若干の傾斜をもって塗膜10に分散しており、塗膜10から突出した鱗片状無機質添加材12は検出されなかった。また、耐熱非粘着塗膜10には、分散状態の粒状フッ素樹脂13も検出された。
【0025】
フッ素樹脂薄膜11は、耐熱非粘着塗装用塗料の焼成時に熱溶融性フッ素樹脂が浮上・溶融して塗膜表層で薄膜化した連続皮膜である。連続したフッ素樹脂薄膜11の形成によって塗膜10に非粘着性が付与されることは勿論、塗膜10の初期磨耗性も向上する。しかも、塗膜10に分散している鱗片状無機質添加材12によって塗膜硬度が高くなり、耐磨耗性が改善される。ここで、鱗片状無機質添加材12の粒径が規制されているので、塗膜10からの突出も防止される。
【0026】
また、塗膜10に粒状フッ素樹脂13が分散しているため、軟質である表層のフッ素樹脂薄膜11が磨耗しても非粘着性が持続され、更に耐磨耗性の観点から鱗片状無機質添加材12のバリア効果と粒状フッ素樹脂13の滑り性の相乗効果によって耐磨耗性が飛躍的に向上する。
このような塗膜構造をもつことから、後述の実施例にもみられるように耐磨耗性及び非粘着性の双方共に優れた塗膜になるものと推察される。因みに、粒径の大きな鱗片状無機質添加材12を分散させた塗膜では、塗膜10にから鱗片状無機質添加材12が突出することが避けられず、鱗片状無機質添加材12の突出部分でフッ素樹脂薄膜11の作用(非粘着性)が損なわれやすい。
【0027】
鱗片状無機質添加材12及び無機質繊維を複合分散させた耐熱非粘着塗膜10では、図2で模式的に示すように、鱗片状無機質添加材12の隙間を縫うように分散した無機質繊維17が観察される。無機質繊維17の分散状態は耐熱非粘着塗膜10の厚み方向に沿った成分をもつ三次元分布であり、塗膜10の表面から突出した無機質繊維17も観察されない。このような塗膜構造のため、非粘着性の低下なく塗膜硬度が更に向上し,耐磨耗性にも優れた塗膜になるものと推察される。
【0028】
図1,2で模式的に示す耐熱非粘着塗膜10が形成された金属板は、フライパン,ガステーブルの天板,ホットプレート,パン焼き器,オイルポット,電子レンジ内壁材,オーブンの角皿等の調理器具を初めとし、家電製品,厨房機器や耐熱性,非粘着性,潤滑性が要求される摺動部材等としても使用される。また、塗装金属板に限らず、樹脂ボード,石膏ボード,コンクリート面等に耐熱非粘着塗膜10を形成しても、同様に優れた耐熱性,非粘着性,潤滑性が活用される。
【0029】
【実施例】
板厚0.5mm,片面当りめっき付着量60g/m2のZn−55%Al合金めっき鋼板を塗装原板に使用し、酸洗,水洗,表面調整,水洗,乾燥の工程を経て塗布型クロメート処理を施し、水洗せずに100℃で乾燥した。塗布型クロメート処理では、クロム換算付着量30mg/m2のクロメート皮膜を形成した。
クロメート処理された塗装原板に下塗り塗料を塗布し、360℃×90秒で焼付け乾燥することにより、乾燥膜厚5μmの下塗り塗膜を形成した。下塗り塗料としては、クロム酸系防錆顔料を含み、カーボンブラックで黒色に着色したポリエーテルスルホン樹脂塗料を使用した。
【0030】
カーボンブラック及びアルミニウムフレークで黒色メタリックに着色したポリエーテルスルホン樹脂をベースとし、表1の平均粒径及び配合量で熱溶融性フッ素樹脂,鱗片状無機質添加材,場合によっては更に無機質繊維を配合することにより上塗り塗料を調製した。表中、PFAはテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体,PTFEはテトラフルオロエチレン,FEPはテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を示す。無機質繊維には、直径0.1〜1μm,長さ0.1〜30μmのチタン酸カリウム繊維を使用した。
下塗り塗膜が形成された塗装原板に耐熱非粘着塗装用塗料を塗布し、400℃×120秒で焼付け乾燥することにより乾燥膜厚10μmの耐熱非粘着塗膜を形成した。
【0031】
Figure 0003670230
【0032】
得られた各耐熱非粘着塗装金属板から試験片を切り出し、次の試験に供した。
外観試験
試験片を蛍光灯下で目視観察し、ブツの有無を調査した。
塗膜硬度試験
「JIS Z5440 8.4鉛筆引っかき試験」に準拠し、塗膜に疵がついたときの鉛筆硬度及び塗膜が破壊したときの鉛筆硬度で塗膜硬度を評価した。
【0033】
磨耗試験
繰返し摩擦による耐磨耗性を評価するため、「JIS H8682アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜の耐磨耗性試験方法 6.往復運動平面磨耗試験方法」に定められた往復運動平面磨耗試験機を転用し、磨耗輪に代えて直径18mmのガラス試験管を回転しないように取り付け、ストローク幅50mm,50往復/分で往復運動するように調整し、ガラス試験管の底で塗膜を摺擦した。ガラス試験管に加わる荷重を2kgに設定し,磨耗回数3万回,5万回,10万回後の塗膜を観察し、めっき層が露出しなかったものを○,めっき層が露出したものを×と評価した。
【0034】
初期非粘着試験
卵/砂糖/醤油=1/1/1(質量比)からなる汚染液0.5mlを試験片に滴下し、260℃×1時間加熱後、スポンジ及び中性洗剤で洗浄し、塗膜表面に付着している汚染液の焦付き度を観察した。こびりつきが検出されなかったものを○,僅かにこびりつきが生じたものを△,明瞭なこびりつきが生じたものを×として初期非粘着性を評価した。
【0035】
非粘着持続性試験
前述の初期非粘着性試験を1サイクルとし、こびりつきが除去できなくなるまでのサイクル数をカウントし、該カウント数によって非粘着持続性を評価した。
加工試験
「JIS K5400 8.1 耐屈曲性」試験に準拠して塗装鋼板を180度密着折曲げ試験した後、折曲げ部の塗膜を観察し、割れが検出されなかったものを○,割れが発生したものを×として加工性を評価した。
【0036】
表2の調査結果にみられるように、本発明に従った塗装鋼板(試験番号1〜11)は、何れも鱗片状無機質添加材の突出が検出されず平滑な外観を呈し、塗膜硬度がH以上,破壊硬度3H以上であり、耐磨耗性も5万回以上であった。なかでも、ガラスフレークを5質量%以上分散させた塗膜では、10万回以上の耐磨耗性を示し、非粘着持続性,加工性も格段に優れていた。
非粘着持続性は、試験番号11を基準として熱溶融性フッ素樹脂の配合量が多くなるほど向上している。鱗片状無機質添加材の配合量は、塗装外観,非粘着持続性,加工性,塗膜硬度,耐磨耗性を満足する適正量があることが判った。
無機質繊維を複合分散させた試験番号3,8の耐熱非粘着塗膜では、無機質繊維の分散がない試験番号2,7との比較から明らかなように、塗膜硬度及び耐磨耗性が向上していた。
【0037】
これに対し、熱溶融性フッ素樹脂の粒径が大きな試験番号12では初期非粘着性及び非粘着持続性の双方が著しく劣っていた。使用した鱗片状無機質添加材の粒径が大きな試験番号13では、初期非粘着性,非粘着持続性及び加工性が劣り、粒径が小さな試験番号14では逆に優れた非粘着性を示すものの十分な耐磨耗性が得られなかった。鱗片状無機質添加材を配合することなく無機質繊維を分散させた試験番号15では、高い塗膜硬度が得られるものの耐磨耗性に劣っていた。鱗片状無機質添加剤を添加しない試験番号17では、塗膜硬度が低く耐磨耗性にも劣っていた。
【0038】
Figure 0003670230
【0039】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明の耐熱非粘着塗装金属板は、熱溶融性フッ素樹脂及び鱗片状無機質添加材を配合した塗料から形成された塗膜をもち、塗膜表層がフッ素樹脂薄膜で覆われ、塗膜内部に熱溶融性フッ素樹脂粒子,鱗片状無機質添加材或いは更に無機質繊維が共存状態で分散している。この塗膜構造のため、非粘着持続性,加工性を高位に維持しながら、従来材の欠点である塗膜硬度及び耐磨耗性が改善されている。したがって、フライパン,ガステーブルの天板,ホットプレート,パン焼き器,オイルポット,電子レンジ内壁材,オーブンの角皿等の家電機器や調理機器を初め、耐熱,非粘着性,潤滑性が要求される摺動部材等の他の部品にも使用可能な耐熱非粘着塗装金属板が提供される。更には、樹脂ボード,石膏ボード,コンクリート壁面等に耐熱非粘着塗装用塗料を塗布した場合にも、同様に優れた耐熱性、非粘着性、耐磨耗性、潤滑性が付与された耐熱非粘着塗膜が形成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 下地金属板16の表面に形成され、鱗片状無機質添加材12及び粒状フッ素樹脂13が複合分散した耐熱非粘着塗膜10の模式図
【図2】 下地金属板16の表面に形成され、鱗片状無機質添加材12,粒状フッ素樹脂13及び無機質繊維17が複合分散した耐熱非粘着塗膜10の模式図

Claims (6)

  1. 平均粒径1μm以下の熱溶融性フッ素樹脂及び平均粒径10〜100μmの鱗片状無機質添加材を配合した耐熱樹脂塗料から形成された塗膜が下地金属板の表面に設けられており、熱溶融性フッ素樹脂から生成した薄層で塗膜表層が覆われ、薄層の下方にある塗膜に鱗片状無機質添加材及び粒状フッ素樹脂が分散していることを特徴とする耐磨耗性に優れた耐熱非粘着塗装金属板。
  2. 更に直径0.1〜20μm,長さ10〜100μmの無機質繊維が塗膜に分散している請求項1記載の耐熱非粘着塗装金属板。
  3. 耐熱樹脂がポリエーテルスルホン樹脂,ポリフェニルスルフィド樹脂,ポリアミドイミド樹脂の少なくとも1種を主成分とするものである請求項1又は2記載の耐熱非粘着塗装金属板。
  4. 熱溶融性フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン樹脂,テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体の1種又は2種である請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱非粘着塗装金属板。
  5. 鱗片状無機質添加材がガラスフレーク,硫酸バリウムフレーク,グラファイトフレーク,合成マイカフレーク,シリカフレーク,合成アルミナフレークの1種又は2種以上である請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱非粘着塗装金属板。
  6. 無機質繊維がチタン酸カリウム繊維,ウォラスナイト繊維,炭化ケイ素繊維,アルミナ繊維,アルミナシリケート繊維,シリカ繊維,ロックウール,スラグウール,ガラス繊維,炭素繊維の1種又は2種以上である請求項1〜5のいずれかに記載の耐熱非粘着塗装金属板。
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