JP3668994B2 - 方向性けい素鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、方向性けい素鋼板の製造方法に関し、特に脱炭焼鈍工程を工夫することによって、磁気特性及び被膜特性を改善しようとするものである。
【0002】
方向性けい素鋼板は軟磁性材料として、主に変圧器あるいは回転機等の鉄心材料として使用されるもので、磁気特性として磁束密度が高く、鉄損及び磁気歪が小さいことが要求される。
【0003】
かかる方向性けい素鋼板は、2次再結晶に必要なインヒビター、例えばMnS ,MnSe, AlN 等を含む方向性けい素鋼スラブを加熱して熱間圧延を行った後、必要に応じて焼鈍を行い、1回あるいは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延によって最終製品板厚とし、次いで脱炭焼鈍を行った後、鋼板にMgO などの焼鈍分離剤を塗布し、仕上げ焼鈍を行って製造される。なお、この方向性けい素鋼板の表面には、特殊な場合を除いてフォルステライト(Mg2SiO4) 質絶縁被膜が形成されている。この被膜は表面の電気的絶縁だけでなく、その低熱膨脹性を利用して引張応力を鋼板に付与することにより、鉄損さらには磁気歪をも効果的に改善している。
【0004】
このフォルステライト質絶縁被膜は仕上げ焼鈍において形成されるが、その形成挙動は鋼中のMnS ,MnSe, AlN 等のインヒビターの挙動に影響するため、優れた磁性を得るための必須の過程である2次再結晶そのものにも影響を及ぼす。また、形成した被膜は、2次再結晶が完了して不要となったインヒビター成分を被膜界面近傍に濃化させて鋼を実質的に純化することによっても、鋼板の磁気特性の十分な発揮を助けている。したがって、この被膜形成過程を制御して被膜を均一に形成することは、方向性けい素鋼板の製品品質を左右する重要なポイントのひとつである。
【0005】
加えて、形成した被膜は、当然のことながら、均一で欠陥がなく、かつ剪断、打抜き及び曲げ加工等に耐え得る密着性の優れたものでなければならない。また、平滑で鉄心として積層したときに、高い占有率を示すものでなければならない。
【0006】
【従来の技術】
方向性けい素鋼板にフォルステライト質絶縁被膜を形成させるには、まず所望の最終厚みに冷間圧延した後、湿水素中で700 〜900 ℃の温度で連続焼鈍を行う。この焼鈍によって、
(1) 冷間圧延後の組織を適正な2次再結晶が起こるように1次再結晶させ、また、
(2) その後の2次再結晶を完全に行わせて磁気特性を向上させるべく鋼板に0.01〜0.10%程度含まれる炭素を0.003 %程度以下まで脱炭するばかりでなく、
(3) この焼鈍によって、酸化させることでSiO2を主成分とするサブスケールを鋼板表層に生成させる。
【0007】
その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を鋼板上に塗布し、コイル状に巻取って還元又は非酸化性雰囲気中で1000℃から1200℃程度の温度で、高温仕上げ焼鈍を施すことにより、以下の式で示される固相反応によってフォルステライト質絶縁被膜を形成させる。
2MgO+SiO2→Mg 2 SiO 4
【0008】
このフォルステライト質絶縁被膜は1μm 前後の微細結晶が緻密に集積したセラミックス被膜であり、上述の如く、脱炭焼鈍において、鋼板表層に生成した酸化物を一方の原料物質として、その鋼板上に生成するものであるから、この酸化物の種類、量、分布等は、フォルステライトの核生成や粒成長挙動に関与するとともに被膜結晶粒の粒界や粒そのものの強度にも影響を及ぼし、したがって仕上げ焼鈍後の被膜品質にも多大な影響を及ぼす。
【0009】
また、他方の原料物質であるMgO を主体とする焼鈍分離剤は、水に懸濁したスラリーとして鋼板に塗布される。そのため、乾燥させた後も物理的に吸着したH2O を保有する他、一部が水和してMg(OH)2 に変化していることから、仕上焼鈍の際は800 ℃あたりまで、少量ながらH2O を放出し続ける。それ故、鋼板表面はこのH2O により、いわゆる追加酸化を受ける。この酸化もフォルステライトの生成挙動に影響を及ぼすとともにインヒビターの酸化や分解につながることから、これが多いと磁気特性を劣化する要因となる。この追加酸化の受け易さも、脱炭焼鈍で生じた鋼板表層の酸化物層の物性に大きく左右される。
【0010】
さらに、AlN をインヒビターとする方向性けい素鋼板においては、この酸化物層の物性が、仕上げ焼鈍中の脱N挙動あるいは焼鈍雰囲気からのNの侵入挙動に影響を及ぼして、磁気特性にも影響を与える。
以上、述べたように、脱炭焼鈍における鋼板表面の状態を制御することは、方向性けい素鋼板の製造における重要なポイントのひとつとなる。
【0011】
方向性けい素鋼板の脱炭焼鈍に関しては、例えば、特開昭59−185725号公報に開示されているように、焼鈍雰囲気の露点を50〜75℃に制御する方法や特開昭54−160514号公報に示されているように雰囲気の酸化度を、脱炭の前半では0.15以上とし、後半では0.75以下でかつ前半より低くする方法などが知られている。また、特公昭58−46547 号公報では、脱炭前にSi,OあるいはSi,O,Hを含有する珪素化合物を付着せしめる方法が開示されている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のような方法によっても、必ずしも十分な品質を有するフォルステライト被膜が生成するとは限らず、ストリップ幅方向、あるいは長手方向で密着不良の部分を生じたり、外観、被膜厚み、あるいはフォルステライト粒径等が不均一な被膜となる場合が応々にして生じる。さらに、局所的に点状一筋状に被膜が剥離したり、ポーラスな被膜となる場合もあった。
【0013】
この発明は、上記の問題点を有利に解決しようとするものであり、コイルの全幅及び全長にわたって、欠陥のない均一で密着性の優れた被膜を有し、かつ磁気特性も優れた方向性けい素鋼板の製造方法を提案することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、方向性けい素鋼板の磁気特性及び被膜特性を改善すべく、それらと脱炭焼鈍板のサブスケール物性との関係を把握するための種々の実験を行った。その結果、サブスケール表面の酸化物組成及び酸素目付量の組合わせを特定範囲に制御することによって、磁気特性と被膜特性が効果的に改善されることを見出した。
【0015】
上記の知見に立脚するこの発明は、C:0.02〜0.10wt%(以下、単に%で示す)及びSi:2.0 〜4.5 %を含有する方向性けい素鋼素材に熱間圧延を施した後、1回又は中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して最終板厚とし、その後脱炭焼鈍、次いで焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性けい素鋼板の製造方法において、
脱炭焼鈍の際に鋼板表面に生成させる酸化物層を、O換算で0.7〜2.5g/m2の範囲の量とし、かつ、脱炭焼鈍前に、Si化合物を付着させた上で、脱炭焼鈍における加熱帯雰囲気酸化性を均熱帯の雰囲気酸化性よりも低く調整することにより、前記酸化物層中に、 Fe 2 SiO 4 よりも多い量の FeSiO 3 を生成させてなることを特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法である。
【0016】
また、この発明は、C:0.02〜0.10%及びSi:2.0 〜4.5 %を含有する方向性けい素鋼素材に熱間圧延を施した後、1回又は中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して最終板厚とし、その後脱炭焼鈍、次いで焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性けい素鋼板の製造方法において、
脱炭焼鈍を行う前の鋼板表面に、SiO 2 ・x H 2 O の形で表される化合物の1種又は2種以上を、Si重量で鋼板片面1m2あたり0.5〜7mg/m2付着せしめ、次いで、
この脱炭焼鈍を、焼鈍温度700〜900℃、焼鈍時間30〜360秒とし、かつ昇温時の雰囲気をP(H20)/P(H2)が0.01〜0.50の範囲、均熱の雰囲気をP(H20)/P(H2)が0.30〜0.70の範囲とし、かつ、昇温時の雰囲気を均熱時の雰囲気よりも低い酸化性とすることを特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法である。
【0017】
前述の特公昭58−46547 号公報によって、脱炭焼鈍前の鋼板表面にSi,O、あるいはSi,O,Hを含有する珪素化合物を付着せしめることにより、酸化量が増大するとともに、FeO生成が抑制され、かつFe2SiO4生成が促進されることが知られている。またこのことによってフォルステライト被膜の品質が改善できることも知られている。
【0018】
しかしながら、その後の本発明者らの実験によると、脱炭焼鈍前に上述の珪素化合物を付着させた後、脱炭焼鈍の雰囲気を昇温過程と均熱過程でそれぞれ独立に制御して処理することにより、酸化層中のFeSiO3量をFe2SiO4 量よりも相対的に多くすることができ、このことによって被膜特性と磁気特性とをさらに向上させることができることが明らかとなった。
【0019】
以下にこの発明を導いた実験結果を示す。
C:0.04%、Si:3.3 %、Mn:0.06%、Se:0.024 %及びSb:0.03%を含むけい素鋼冷延板(板厚0.23mm) に、市販の脱脂剤を用いて浸漬脱脂を施した。その後、オルト珪酸ナトリウムを主成分とする浴中で電解脱脂を行った。このとき、電解電気量を変更することによって、鋼板表面のSi化合物の付着量を、種々に変化させた。その後、この鋼板を840 ℃の湿水素雰囲気中で脱炭焼鈍した。このとき、露点とH2ガス濃度の調整によって、雰囲気中の酸化度、すなわちP(H2O)/P(H2) を変化させた。また焼鈍時間を変化させた。これらのことによって、脱炭焼鈍後の表面酸化物及びその生成量を変化させた。
【0020】
図1,2に脱炭焼鈍後の鋼板の表面反射赤外吸収スペクトルの1例を示す。図1中のAはFeSiO3のスペクトルであり、約1070cm-1のところに吸収のピークをもつ。またBはFe2SiO4 のスペクトルであり、約1000cm-1のところに吸収のピークをもつ。これらの物質が脱炭焼鈍後の鋼板表面に生成していることは、X線回折によっても確認されている。
【0021】
また図2はFeSiO3とFe2SiO4 が同時に生成した例である。ここに、FeSiO3の吸光度はlog(Io1/I1) により、またFe2SiO4 の吸光度はlog(Io2/I2) によって定義される。
【0022】
上述した脱炭焼鈍を経た種々の鋼板にMgO を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、850 ℃,50時間の2次再結晶焼鈍と、引続くH2雰囲気中での1200℃,5時間の純化焼鈍を行った。その後、磁気特性(B8, W17/50) 及び被膜均一性を調べた。その評価結果を、脱炭焼鈍後の鋼板表面の反射赤外吸収スペクトルにおけるFeSiO3とFe2SiO4 の吸光度及び酸化物の生成量をO量で換算した量すなわち酸素目付量との関係において表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1から、FeSiO3の吸光度がFe2SiO4 のそれよりも多く、かつ、酸素目付量が0.9 g/m2〜1.7 g/m2である場合に磁気特性、被膜特性ともに良好であることがわかる。また、FeSiO3をFe2SiO4 よりも相対的に多くするには、脱炭焼鈍前にSi化合物を付着させ、かつ脱炭焼鈍における加熱帯雰囲気酸化性を、均熱帯の雰囲気酸化性よりも低くすることが有効であることがわかる。
【0025】
【作用】
この発明に従い、脱炭焼鈍により鋼板表面に生成させる酸化物層を、O換算で0.7 〜2.5 g/m2の範囲の量として、この酸化物層中のFeSiO3量をFe2SiO4 量よりも多くすることにより、被膜特性及び磁気特性に優れる方向性けい素鋼板が得られる理由は、次のとおりと考えられる。
【0026】
FeSiO3は、 FeO−SiO2系化合物の中では準安定相ながら化学的には低活性な化合物である。一方、Fe2SiO4 は、安定相ではあるが化学的には活性である。したがって、脱炭焼鈍後の鋼板表面のFeSiO3量を、Fe2SiO4 量よりも多くすることによって、磁気特性及び被膜特性が向上する理由は、この安定なFeSiO3が仕上げ焼鈍中に鋼板表面を保護し、インヒビターの劣化や追加酸化を抑制するためと考えられる。
【0027】
また、脱炭焼鈍により鋼板表面に生成させる酸化物層の量が、O量で換算した酸素目付量で0.7g/m2 未満では、たとえ表面のFeSiO3を多くしても、被膜特性や磁気特性の向上効果はほとんど見られない。これは、かかる酸素目付量が少なすぎる場合は、サブスケールの緻密性に欠けるためと思われる。一方、酸素目付量が2.5g/m2を超える場合も良好な磁気特性や被膜特性は得られない。これは、サブスケール中のFe2SiO4の絶対量が多くなることにより、かえって表面の保護性が劣化するためと考えられる。
【0028】
このようなこの発明に従う酸化物層を、脱炭焼鈍により生成させるためには、まず、脱炭焼鈍前の鋼板表面に、本質的にSi,O,H、あるいは本質的にSi,Oからなる珪素化合物、すなわちSiO2・xH2O の形で表される化合物を付着せしめることが有効である。オルト珪酸(H4SiO4)、メタ珪酸(H2SiO3)、コロイダルシリカの如き水溶状超微粒SiO2、及び珪酸アルカリ水溶液中で鋼板を電解処理したときに電着するSiO2、又はこれにH2O が結合した化合物等がこれに該当する。
【0029】
かかるSi化合物の付着量がSiとして0.5mg/m2より少ないと、所期の効果が得にくく、また、Si化合物の付着量がSiとして7mg/m2を超えると酸素目付量は急に減少する。これは、表面に緻密で酸素が透過しにくい被膜が形成されるためと考えられる。また、このような酸素目付量の低減とともに脱炭も不良になる傾向が認められた。方向性けい素鋼の場合、脱炭の不良は磁気特性に対し大なる悪影響を及ぼすものである。この発明においてSi化合物の付着量の上限をSiにして7mg/m2と定めたのは以上の理由によるものである。Si化合物付着量のより好適な範囲はSiとして0.7〜6.0mg/m2である。
【0030】
この発明に従って鋼板表面上にSi化合物を付着させるには、大別して塗布による方法と電解処理による方法との二つの方法を用いることができる。
まず、塗布による方法を選ぶ場合に、最終冷間圧延後の方向性けい素鋼板は、塗布液がはじかないように事前に表面を脱脂して、濡れ性を十分に良くしておかなければならない。塗布剤としては、4〜50nm程度の粒径を持つコロイド状シリカ、あるいは水に対する溶解度は小さいが珪酸(SiO2・xH2O)等を用いることができる。塗布のための具体的な手段や塗布後の成分や濃度等は特に限定するものではない。例えば、0.5 〜2.0 mmの間隔に溝を切った塗布ロールを用いれば、塗布液濃度、ロール圧下力の選択により、塗布量が任意に制御できるため好適である。
【0031】
次に、電解処理による方法について述べる。方向性けい素鋼板には、最終冷間圧延後に表面に付着した圧延油、鉄粉あるいは最終冷延に先立つ種々の工程において形成したスケールの粒子などを除去し、清浄な表面を得るためのクリーニングを施す。
【0032】
このクリーニング方法としては浸漬脱脂、スプレー脱脂、ブラッシング脱脂等の他、アルカリ性脱脂浴中で鋼板を電解処理する、いわゆる電解脱脂がある。この電解脱脂には通常、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、りん酸ソーダ、珪酸ソーダ等の一種あるいは二種以上を含む水溶液が脱脂浴として採用されるが、珪酸塩を含む脱脂浴を用いて鋼板を電解脱脂すれば、鋼板表面に珪酸又は珪酸塩もしくはそれらと鉄との水和酸化物を含む化合物が電着する。この現象は、特に陰極において顕著である。したがって、最終冷延後の方向性けい素鋼板を、珪酸塩を含む脱脂浴中で電解脱脂するか、通常の浸漬脱脂の末部に電解用電極を付設することは、脱脂処理と同時にこの発明の要件であるSi化合物の付着を実現できることから極めて有利である。また、電気量の制御によってSi化合物の付着量を任意に選ぶことができることも有利な点である。
【0033】
この電解処理の電解浴に用いる珪酸塩としては、ナトリウムの珪酸塩すなわちオルト珪酸ナトリウム(Na4SiO4 )、メタ珪酸ナトリウム(Na2SiO3 )又は種々の珪酸ナトリウムの液体混合物であるいわゆる水ガラス等が適当である。また、カリウムあるいはリチウムの珪酸塩を用いることも可能である。いずれも金属イオンとSiとのモル比は、その如何を問わない。
【0034】
電解浴の組成は、上記珪酸化合物を含むものであれば、その他の成分、例えばNaOH、Na2CO3等の存在及びその濃度の如何を問わないが、珪酸塩の濃度が0.5 〜5%程度であれば、脱脂とSiの付着との双方において所期の目的を達成することが可能なので有利である。この他、コロイダルシリカの懸濁液中で鋼板を電解処理することによってもSi化合物を電着させることが可能である。
【0035】
電解の方法や条件、すなわち通電方法、電流密度、電解時間あるいは電解温度等については特に限定はせず、公知の範囲内で適宜選択することができる。
【0036】
引き続く脱炭焼鈍の際は、その雰囲気を、酸化性を表すP(H2O)/P(H2) が0.7 以下にすることが望ましい。その理由は、表面でのFeO 生成を避けるためである。このFeO の生成は、Fe2SiO4 以上に表面の保護性を劣化するので好ましくない。
【0037】
また、脱炭焼鈍において、FeSiO3の生成量を確保し、かつ一定の酸素目付量を安定して維持するには、昇温過程における雰囲気の酸化性を均熱過程のそれよりも低く維持することがきわめて有効である。昇温時のP(H20) /P(H2)の好適範囲は0.05〜0.50である。このことによって均熱部の雰囲気酸化性が変動して目的のサブスケールを安定して得ることができることがわかった。その理由はまだ定かではないが、脱炭焼鈍の初期に生成する酸化物の物性によって均熱過程の酸化挙動が大きく影響される事実があり、このことと何らかの関係があるものと思われる。脱炭焼鈍温度は従来から適用されている温度域すなわち700 〜900 ℃でよい。その理由は700 ℃未満では酸化速度が遅く、目標の酸素目付量を確保するのに長時間を要するから、また、900 ℃を超えるとサブスケール中のFe2SiO4 が増加し過ぎるためである。脱炭焼鈍時間は、30〜360 秒の範囲とする。より短時間では酸化物量が少なく、かつサブスケールがポーラスになるという不利があり、より長時間では、サブスケール中のFe2SiO4 が増加し過ぎるという問題が生ずる。
【0038】
なお、この発明においては、脱炭焼鈍の際に鋼板表面に生成させる酸化物層中のFeSiO3量及びFe2SiO4 量の計測は、上述した表面反射赤外吸収スペクトル法によるものに限らない。例えば、X線回折法によっても同様の結果が得られる。
【0039】
また、この発明における方向性けい素鋼素材は、2次再結晶のために利用するインヒビターのちがいによってMnSe−Sb系、AlN −MnS 系、AlN −MnSe系、MnS 系等の種類があるが、この発明はいずれの鋼種に対しても適用できる。Cおよび Si の適正範囲は、それぞれC:0.02〜0.10%およびSi:2.0〜4.5%であり、また、 Mn の好適範囲は、Mn:0.04〜0.10%である。Cは、熱延組織の改善に必要であるが、多すぎると脱炭が困難になるので0.02〜0.10%程度とする。Siは、あまりに少ないと電気抵抗が小さくなって良好な鉄損特性が得られず、一方、多すぎると冷間圧延が困難になるので2.0〜4.5%程度の範囲とする。Mnは、インヒビター成分として必要であるが、多すぎるとインヒビターサイズが粗大化し、好ましくないので0.04〜0.10%の範囲が好適である。
【0040】
また、S及び/又はSeは、0.05%を超えると純化焼鈍での純化が困難となり、一方0.01%未満ではインヒビター量が不足するため、合計で0.01〜0.05%とする。AlN をインヒビターとして使用する場合、Alが少なすぎると磁束密度は低くなり、多すぎると2次再結晶が不安定となる。このため、Alは0.01〜0.05%程度が良い。Nは、0.004 %未満ではAlN の量が不足し、0.012 %を超えると製品にブリスターが発生するので、0.004 〜0.012 %の範囲とする。Sbは、0.01%未満では表面濃化の効果とサブインヒビターとしての効果に乏しく、また、0.2 % を超えると脱炭性及び表面被膜の形成に問題を生ずるので、0.01〜0.20%とする。さらに、これらの成分以外にCu、Cr、Bi、Sn、B、Ge等のインヒビター補強成分も適宜添加することができる。、また、熱間ぜい性に起因する表面欠陥防止のためにMoを添加することもできる。
【0041】
【実施例】
実施例1
C:0.061 %、Si:3.32%、Mn:0.075 %、Se:0.024 %、sol Al:0.025 %、N:0.008 %、Sb:0.026 %を含有する方向性けい素鋼素材を2.8mm 厚に熱間圧延後、1100℃、1分間の均一化焼鈍を行ない、その後、1回の冷間圧延で0.30mmの板厚とした。この後、市販の脱脂剤を用いて浸漬脱脂を行ったあと、ゴム製の塗布ロールを用いて、コロイダルシリカ水溶液を塗布し、乾燥させた。このとき、コロイダルシリカ濃度を変更することによって、Siとしての付着量を表2に示す値に調整した。次いで840 ℃のH2−N2−H2O 雰囲気中で脱炭焼鈍を行った。このとき、H2濃度及び露点を変更することによって、昇温過程及び均熱過程の雰囲気のP(H2O)/P(H2) を、表2に示す値に調整した。
【0042】
また、焼鈍時間を変化させることにより、酸素目付量を表2に示す値に調整した。この鋼板の表面反射赤外吸収スペクトルにおけるFeSiO3及びFe2SiO4 の吸光度を測定した結果を表2に示す。次いでMgO にTiO2を3%添加した焼鈍分離剤を塗布し、H2雰囲気中で1200℃、10時間の2次再結晶、純化焼鈍を行った。その後、りん酸マグネシウムとコロイダルシリカを主成分とするコーティングを施した。
【0043】
このようにして得られた製品の、磁界800A/mにおける磁束密度B8値、1.7T, 50Hzにおける鉄損、W17/50値、被膜の曲げ密着性及び被膜の外観について調査した。被膜の曲げ密着性は種々の径(5mm間隔)を有する丸棒に試験片を巻つけ、被膜の剥離がない最少径で示した。これらの結果を表2に併記する。
【0044】
【表2】
【0045】
表2から明らかなように、FeSiO3の吸光度がFe2SiO4 よりも小さい場合、あるいは酸素目付量が0.7g/m2 未満又は2.5g/m2 を超えるNo. 5〜8はいずれも磁気特性や被膜特性が劣っている。これに対し、この発明に従って得られたNo. 1〜4は磁気特性、被膜特性ともに明らかに向上した。
【0046】
実施例2
C:0.041 %、Si:3.30%、Mn:0.07%、Se:0.022 %及びSb:0.023 %を含有する方向性けい素鋼素材を2.0mm 厚に熱間圧延後、900 ℃、2分間で均一化焼鈍を施し、さらに980 ℃で2分間の中間焼鈍をはさむ2回の冷間圧延によって、0.23mmの板厚とした。この後、3%オルト珪酸ナトリウムを主成分とする電解脱脂浴中で電解脱脂するとともに、表面にSi化合物を付着させた。このとき、電解電気量を変更することよってSiとしての付着量を表3に示す値に調整した。次いで820 ℃のH2−N2−H2O 雰囲気中で脱炭焼鈍を行った。このとき、H2濃度及び露点を変更することによって、昇温過程及び均熱過程の雰囲気のP(H2O)/P(H2) を、表3に示す値に調整した。
【0047】
また、焼鈍時間を変化させることにより、酸素目付量を表3に示す値に調整した。この鋼板の表面反射赤外吸収スペクトルにおけるFeSiO3及びFe2SiO4 の吸光度を測定した結果を表3に示す。次いでMgO にTiO2:2%及びSrSO4 :3%を含む焼鈍分離剤を塗布し、850 ℃,50時間の2次再結晶焼鈍と引続くH2雰囲気中で1200℃、5時間の純化焼鈍に供した。その後、実施例1と同様に処理し、得られた製品について実施例1と同様の調査を行った。その結果を表3に併記する。
【0048】
【表3】
【0049】
表3から明らかなように、FeSiO3の吸光度がFe2SiO4 よりも大さく、かつ酸素目付量を0.7 〜2.5g/m2 の範囲としたNo. 1〜5は比較例にくらべて、いずれも磁気特性及び被膜特性に優れていた。
【0050】
実施例3
実施例2と同じ方向性けい素鋼素材を、実施例2と同じ方法で処理して0.23mmの板厚とした。この後、3%オルト珪酸ナトリウムを主成分とする電解脱脂浴中で電解脱脂するとともに、表面にSi化合物を付着させた。このとき、電解電気量を変更することによってSiとしての付着量を表4に示す値に調整した。次いで830 ℃のH2−N2−H2O 雰囲気中で脱炭焼鈍を行った。このとき、H2濃度及び露点を変更することによって、昇温過程及び均熱過程の雰囲気のP(H2O)/P(H2) を、表4に示す値に調整した。また、焼鈍時間を変化させることによって酸素目付量を表4に示す値に調整した。この鋼板の表面のFeSiO3及びFe2SiO4 の比率をX線回折によって測定した。測定は、FeSiO3についてはミラー指数(610)面(d:2.908 Å)のピーク強度を、Fe2SiO4 については同じく(211)面(d:2.500 Å)のピーク強度を測定し、これらの相対比率をFe2SiO4 を1とした場合の値で表4に示した。次いで実施例2と同じ焼鈍分離剤を塗布し、実施例と同じ2次再結晶焼鈍及び純化焼鈍を行った。その結果を表4に併記する。
【0051】
【表4】
【0052】
表4から明らかなように、FeSiO3の強度がFe2SiO4 の強度よりも大きく、かつ酸素目付量を0.7 〜2.5 g/m2の範囲としたNo. 1〜4は、比較例に比べていずれも磁気特性及び被膜特性に優れていた。
【0053】
【発明の効果】
この発明によれば、磁気特性及び被膜特性ともに良好な方向性けい素鋼板を安定して生産することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】表面にFeSiO3及びFe2SiO4 を生成した脱炭焼鈍板の表面反射赤外吸収スペクトルである。
【図2】表面にFeSiO3及びFe2SiO4 を生成した脱炭焼鈍板の表面反射赤外吸収スペクトルである。
Claims (2)
- C:0.02〜0.10wt%及びSi:2.0〜4.5wt%を含有する方向性けい素鋼素材に熱間圧延を施した後、1回又は中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して最終板厚とし、その後脱炭焼鈍、次いで焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性けい素鋼板の製造方法において、
脱炭焼鈍の際に鋼板表面に生成させる酸化物層を、O換算で0.7〜2.5g/m2の範囲の量とし、かつ、脱炭焼鈍前に、Si化合物を付着させた上で、脱炭焼鈍における加熱帯雰囲気酸化性を均熱帯の雰囲気酸化性よりも低く調整することにより、前記酸化物層中に、 Fe 2 SiO 4 よりも多い量の FeSiO 3 を生成させてなることを特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法。 - C:0.02〜0.10wt%及びSi:2.0 〜4.5wt%を含有する方向性けい素鋼素材に熱間圧延を施した後、1回又は中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して最終板厚とし、その後脱炭焼鈍、次いで焼鈍分離剤を塗布してから最終仕上げ焼鈍を施す一連の工程からなる方向性けい素鋼板の製造方法において、
脱炭焼鈍を行う前の鋼板表面に、SiO 2 ・x H 2 O の形で表される化合物の1種又は2種以上を、Si重量で鋼板片面1m2あたり0.5〜7mg/m2付着せしめ、次いで、
この脱炭焼鈍を、焼鈍温度700〜900℃、焼鈍時間30〜360秒とし、かつ昇温時の雰囲気をP(H20)/P(H2)が0.01〜0.50の範囲、均熱の雰囲気をP(H20)/P(H2)が0.30〜0.70の範囲とし、かつ、昇温時の雰囲気を均熱時の雰囲気よりも低い酸化性とすることを特徴とする方向性けい素鋼板の製造方法。
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