JP3667510B2 - 薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気抵抗シーム溶接機および缶用の銅ワイヤを用いる薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法に関し、特には、溶接部の研削が不要で、研削粉による環境汚染を生じることなく、かつ高い生産性で溶接缶を製造することが可能な薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
通常、ティンフリースチールと呼ばれる、鋼板に金属クロムおよびクロム酸化物をめっきした薄クロムめっき鋼板は、飲料缶、食缶、18L缶やペール缶用に広く用いられている。
この薄クロムめっき鋼板を缶胴として用いる場合、缶胴に成形する方法として、絞り加工による一体成形法や丸めた後接着するか溶接する接合法が一般的に行われている。
【0003】
缶胴成形法の内、溶接による方法としては、ほとんどの場合、図3に示す銅ワイヤまたは銅合金ワイヤを溶接電極とする電気抵抗ワイヤシーム溶接機が用いられている。
なお、図3において1は缶胴、2は銅ワイヤ、3a、3bは電極輪、4a、4bはマッシュロール、fは銅ワイヤの供給方向、SW1は銅ワイヤの片側の溶接接触面、SW2は銅ワイヤの反対側の片側の溶接接触面を示す。
【0004】
この方法の場合、溶接母材である薄クロムめっき鋼板の表面のクロム酸化物が高電気抵抗物質であるので、そのまま溶接することが困難であり、溶接する部分のみを研削してクロムめっき層の大部分を除去することが一般的に行われている。
しかし、この方法ではCrの研削粉が飛散するため環境上問題があり、また飛散する研削粉を吸引除去しようとしても缶内に残存してしまう可能性があるため、環境上および衛生上問題がある。
【0005】
また、研削法の場合、溶接性を安定させるために溶接部分の面積以上の面積を研削することが多く、このため溶接部周辺に研削部すなわちクロムめっきが削り取られて地鉄がむき出しになる部分ができてしまい、この部分が腐食し易いために錆が発生する問題がある。
薄クロムめっき鋼板の溶接性を改善し、研削を不要とする技術として、薄クロムめっき鋼板のめっき量を減らす方法が特開昭61−213398号公報に開示されているが、この方法では溶接性が安定せず、また溶接機によるバラツキも大きく実用上十分満足できるものではない。
【0006】
また、薄クロムめっき鋼板の金属クロムに微細な突起や粒状の形態を与えて接触抵抗を減らし、溶接性を改善する方法が特公昭63−26200 号公報に開示されているが、この方法の場合、突起や粒状の形態を巧く制御することでかなり溶接性は改善されるが、この突起や粒状の形態のため鋼板の色調が暗くまた指紋がつき易いことから缶使用者には受け入れられていない。
【0007】
薄クロムめっき鋼板の溶接性を改善する他の方法として、金属クロムと酸化クロムの間に金属Snめっき層を設ける方法が特公昭63−35718 号公報に開示されている。
この方法によれば、金属Snは融点が232 ℃と低いため、溶接時に速やかに溶融し、接合面を濡らして接触抵抗を安定して低くできるので良い溶接性が得られる。
【0008】
しかし、溶接部を含む全面にSnをめっきするため、コストが高く、またSnにより色調が白くなるため缶使用者には受け入れられにくい問題がある。
また、特公平6−96790 号公報には、予め金属Snを粒状散在めっきし、その上に薄クロムめっきする方法が開示されているが、この方法でも金属Snにより溶接性は改善されるが、溶接部を含む全面に金属Snをめっきするため、コストが高く、かつ色調も白っぽくなる問題がある。
【0009】
さらに、金属Snを溶接部分にのみストライプ状にめっきし、該めっき層の上および鋼帯全面に金属クロム層およびクロム酸化物層を形成せしめた缶用メッキ鋼板が、特開昭61−213395号公報に開示されており、この鋼板は、広幅の鋼板において缶胴にするときに溶接部になる部位毎に数本のストライプ状にめっきするものである。
【0010】
この鋼板の場合、めっき後に缶胴サイズに切り出すが、通常溶接部の幅が1mm程度であるため、めっき位置精度の制御が難しく、きちんとめっき位置と溶接部の位置を合わせるのが非常に困難である。
また、このストライプ状Snめっき鋼板は、溶接缶胴用にしか使えず、缶蓋などに転用することができないという問題がある。
【0011】
一方、溶接方法を改善する試みもなされており、特開昭62−40993 号公報には低炭素鋼鋼線に錫または錫合金からなる被覆層を有するワイヤを用いる方法が開示されている。
しかし、この方法の場合、低炭素鋼は銅に比べて電気抵抗が高く、連続で溶接すると発熱が大きくなって連続溶接が困難となり、またワイヤの全面に錫または錫合金がめっきされているため電極輪が錫との合金化により汚染され、連続溶接が困難である。
【0012】
特公昭49−36860 号公報、特公昭59−31598 号公報には銅ワイヤに錫めっきする方法が開示されているが、いずれの場合も上記した方法と同じようにワイヤの全面にめっきされているため、電極輪が錫との合金化により汚染されるため、連続溶接が困難である。
さらに、上記方法の場合、ワイヤへの錫めっき量が1g/m2以上と多いため錫めっきに多大な労力が必要であるばかりでなく、錫の固体潤滑性によるワイヤのスリップを生じやすく不都合である。
【0013】
特開平1−218776号公報には、クロム、ニッケル、鉄あるいはこれらの合金をめっきした銅ワイヤが開示されているが、これらのめっきを施したワイヤでは薄クロムめっき鋼板で良い溶接性を得ることができない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
上記で述べたように、従来の技術では、薄クロムめっき鋼板を無研削で溶接缶胴とするためには種々の問題があり、薄クロムめっき鋼板を用いて近年要求されているクリーンな溶接缶を製造することが困難である。
本発明は、これらの問題点を解決し、無研削かつ生産性に優れた方法で薄クロムめっき鋼板を電気シーム溶接することが可能な、薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記した従来技術の問題点を解決するために鋭意検討した結果、薄クロムめっき鋼板の銅ワイヤを用いた電気シーム溶接時に、予め、鋼板と接触する銅ワイヤの溶接接触面のみに金属錫を摺動せしめ、金属錫を付着することによって、無研削かつ生産性に優れた方法で薄クロムめっき鋼板を電気シーム溶接することが可能であることを見出した。
【0016】
さらには、銅ワイヤの溶接接触面への金属錫の付着量、銅ワイヤに対する金属錫の摺動条件を規定することによって、薄クロムめっき鋼板を、無研削で溶接することが可能となるとともに、優れた溶接性が得られることを見出した。
すなわち、第1の発明は、鋼板表面に金属クロム層と該金属クロム層の上に形成されたクロム酸化物層を有する薄クロムめっき鋼板の銅ワイヤを用いた電気シーム溶接方法であって、該電気シーム溶接時に、予め、前記クロム酸化物層との溶接接触面となる前記銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめ金属錫を付着せしめた後、得られた銅ワイヤを溶接に供することを特徴とする薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法である。
【0017】
第2の発明は、鋼板の両面に金属クロム層と該金属クロム層の上に形成されたクロム酸化物層を有する薄クロムめっき鋼板の銅ワイヤを用いた電気シーム溶接方法であって、該電気シーム溶接時に、最初に鋼板のクロム酸化物層との溶接接触面となる銅ワイヤの表面のみに、金属錫を摺動せしめ金属錫を付着し、該金属錫付着表面を有する銅ワイヤを溶接に供した後、次に鋼板のクロム酸化物層との溶接接触面となる銅ワイヤの表面のみに、金属錫を摺動せしめ金属錫を付着し、該金属錫付着表面を有する銅ワイヤを溶接に供することを特徴とする薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法である。
【0018】
なお、前記した第2の発明における最初に鋼板のクロム酸化物層との溶接接触面となる銅ワイヤの表面および次に鋼板のクロム酸化物層との溶接接触面となる銅ワイヤの表面としては、それぞれ、銅ワイヤの切断方向における一部の周縁からなる片側の表面および該表面と反対側の銅ワイヤの切断方向における一部の周縁からなる反対側の表面が好ましく例示される。
【0019】
前記した第1の発明、第2の発明においては、前記した銅ワイヤの表面への金属錫の付着量が、金属錫付着単位面積当たり0.01〜0.7g/m2 であることが好ましい。
また、前記した第1の発明、第2の発明においては、前記した銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめる方法が、金属錫を、銅ワイヤに対して相対速度0.1 〜100m/分、加圧力0.1 〜100kgf/mm2の条件下で、銅ワイヤの表面に摺動せしめる方法であることが好ましい。
【0020】
また、前記した第1の発明、第2の発明においては、前記した銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめる方法が、金属錫を、銅ワイヤに対して相対速度0.1 〜100m/分、加圧力0.1 〜100kgf/mm2の条件下で、銅ワイヤの表面に摺動せしめると同時に、金属錫を、回転数1〜3000回転/分の条件下で回転させながら銅ワイヤの表面に摺動せしめる方法であることが、より好ましい。
【0021】
また、前記した第1の発明、第2の発明においては、前記した銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめる方法が、金属錫を、銅ワイヤに対して相対速度0.1 〜100m/分、加圧力0.1 〜100kgf/mm2の条件下で、銅ワイヤの表面に摺動せしめると同時に、金属錫を、振動数1〜100000Hzの条件下で振動させながら銅ワイヤの表面に摺動せしめる方法であることが、より好ましい。
【0022】
また、前記した第1の発明、第2の発明においては、前記した銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめる方法が、金属錫を、銅ワイヤに対して相対速度0.1 〜100m/分、加圧力0.1 〜100kgf/mm2の条件下で、銅ワイヤの表面に摺動せしめると同時に、金属錫を、回転数1〜3000回転/分の条件下で回転し、かつ金属錫を、振動数1〜100000Hzの条件下で振動させながら銅ワイヤの表面に摺動せしめる方法であることが、より好ましい。
【0023】
また、前記した第1の発明、第2の発明においては、前記した銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめる方法が、金属錫を、該金属錫の温度が5℃以上、232 ℃未満の温度条件下で、銅ワイヤの表面に摺動せしめる方法であることが好ましい。
さらに、前記した第1の発明、第2の発明においては、前記した銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめる方法が、溶接時、銅ワイヤの電極輪への供給中に、金属錫を銅ワイヤの表面に摺動せしめる方法であることが好ましい。
【0024】
なお、前記した第1の発明、第2の発明における銅ワイヤとしては、銅ワイヤ以外に、合金成分を含む銅系合金ワイヤを用いることができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接時に、クロム酸化物層との溶接接触面となる銅ワイヤの表面のみに対して金属錫を摺動せしめることによって、予め銅ワイヤの表面に金属錫を付着せしめた後、得られた銅ワイヤを溶接に供することによって、薄クロムめっき鋼板の溶接性を改善し、該鋼板の溶接部を無研削で溶接し溶接缶胴を製造する方法である。
【0026】
本発明によれば、缶用の銅ワイヤを用いる電気抵抗シーム溶接機において、溶接時に、予め、鋼板と接触する銅ワイヤの溶接接触面のみに金属錫を摺動せしめ、付着することによって優れた溶接性が得られる。
本発明においては、銅ワイヤの表面のみに対して金属錫を摺動せしめ、銅ワイヤに金属錫を付着せしめるのは、銅ワイヤが溶接に供される前であればいつでもよい。
【0027】
また、金属錫を付着せしめる際の銅ワイヤの断面形状は、円形、楕円形など制限はされないが、溶接機内で断面形状が円形、楕円形などの銅ワイヤを平たく潰し、その後金属錫を付着せしめる方法を用いることが、より好ましい。
また、本発明においては、銅ワイヤの先ず最初に溶接接触面となる片側の表面のみに、電極輪に到達する前に金属錫を付着せしめ、この表面が溶接に用いられた後、次の溶接接触面となる反対側の表面のみに、次の電極輪に到達する前に金属錫を付着せしめるのが最も好適である。
【0028】
これは、金属錫が銅ワイヤと電極輪の間にあると、電極輪の銅ワイヤとの接触面が金属錫との合金化によって汚染され、溶接が不安定になるため、銅ワイヤの溶接面にのみ片面ずつ金属錫を付着させるのである。
なお、銅ワイヤの溶接面に付着した金属錫は、溶接面で溶接時に銅ワイヤと鋼板とに合金化するので、その後は電極輪を汚染することがない。
【0029】
本発明によれば、従来の薄クロムめっき鋼板をそのまま使用できる利点があり、このため薄クロムめっき鋼板を缶胴に使うか、缶蓋に使うか、今までどおりの自由な使い方ができる。
さらには、本発明によれば、前記した従来技術の色調差による問題を生じることがない。
【0030】
本発明における銅ワイヤの表面のみに金属錫を付着せしめる方法としては、摺動法を用いて、金属錫と銅ワイヤとの間で機械的エネルギーにより摩擦を起こさせ、この摩擦により金属錫を銅ワイヤに擦り付け凝着させることにより付着せしめる方法が、好ましく用いられる。
本発明者らは、上記した本発明の方法によって、従来使われている銅ワイヤに金属錫を直接付着でき、良好な溶接性が得られることを新規に見出し、本発明に至ったものである。
【0031】
本発明によれば、溶接箇所における錫の付着位置やその幅を制御することが容易であり、かつ従来の銅ワイヤに対する電気錫めっきのような種々の工業薬品からなるめっき液を使用しないため、廃液の問題がなく環境に優しく、また金属錫付着設備もコンパクトにできる利点がある。
本発明に係わる金属錫の付着方法によれば、金属錫は、主に銅ワイヤの表面粗さである凹凸の凸部に凝着し、金属錫と銅ワイヤが擦り合わさった面全体に金属錫が均一に付着しているものではない。
【0032】
本発明によれば、凸部に金属錫が凝着していることで、溶接時に、先ず金属錫が付着している凸部が接触し通電が起こるが、金属錫は柔らかくかつ融点が低いため、金属錫の溶融によって接触面積が広がり、溶接開始初期の電気抵抗が低下し、このことが溶接性を改善する効果をもたらす。
また、凸部に付着した金属錫は、溶接時の通電により温度が上がって溶融すると凸部から凹部へと広がり、溶接部全体の電気抵抗を安定化させるため、優れた溶接性が得られる。
【0033】
さらには、部分的に金属錫が付着しているため、ワイヤのスリップを起こし難く安定した連続溶接が行える。
このような効果は、従来の電気めっき法、あるいは溶融めっき法による錫めっき銅ワイヤでは得られなかったものである。
本発明における薄クロムめっき鋼板は、鋼板の両面に、金属クロム被覆単位面積当たりの金属クロムの付着量が30〜150mg/m2の金属クロム層を有し、その上に、クロム酸化物被覆単位面積当たりのクロム酸化物の付着量が金属クロム換算で3〜30mg/m2 のクロム酸化物層を有する鋼板が好ましい。
【0034】
金属クロムの付着量が30mg/m2 未満の場合、耐食性が不十分で錆を発生し易く、逆に150mg/m2超えの場合、耐食性は十分であるが、必要以上の量の金属クロムの付着は経済性の面から問題があるばかりでなく、薄クロムめっき鋼板の生産性が低下するので好ましくない。
クロム酸化物の付着量が金属クロム換算で3mg/m2 未満の場合、耐食性、塗料密着性が不十分であり、逆に30mg/m2 超えの場合、鋼板表面に干渉色が生じ外観が悪くなるだけでなく、酸化クロムなどのクロム酸化物が高電気抵抗物質であるため金属錫を付着しても溶接性が向上しなくなる。
【0035】
より好ましくは、金属クロム被覆単位面積当たりの金属クロムの付着量は50〜120mg/m2、クロム酸化物被覆単位面積当たりのクロム酸化物の付着量は金属クロム換算で5〜20mg/m2 、さらに好ましくは、金属クロムの付着量は70〜110mg/m2、クロム酸化物の付着量は金属クロム換算で8〜18mg/m2 である。
金属錫の付着量は、付着対象とする表面凸部における付着金属の個数で表すのは鋼板の分野では一般的でないので、本発明においては、従来用いられている単位面積当たりの付着量で規定した。
【0036】
すなわち、本発明においては、銅ワイヤの金属錫の付着量は、銅ワイヤの金属錫付着単位面積当たり0.01〜0.7g/m2 であることが好ましい。
金属錫の付着量が0.01g/m2未満の場合、溶接性の向上効果が不十分であり、逆に0.7g/m2 超えの場合、溶接性向上効果は十分であるが、必要以上の量の金属錫の付着は経済性の面から問題となるばかりでなく、ワイヤのスリップを起こし易くなるので好ましくない。
【0037】
より好ましい銅ワイヤの金属錫の付着量は、銅ワイヤの金属錫付着単位面積当たり0.05〜0.5g/m2 である。
金属錫の付着は、実質的に銅ワイヤの溶接接触面となる部分のみで良く、特に好ましくは、前記した理由から、銅ワイヤの先ず最初に溶接接触面となる片側の表面のみに金属錫を付着せしめ、この面の溶接後(:この表面が溶接に用いられた後)、次の溶接接触面となる表面、すなわち例えば最初の錫付着面とは反対側の溶接接触面となる表面のみに金属錫を付着するのがよい。
【0038】
金属錫を付着せしめる方法としては、銅ワイヤと金属錫を擦(こす)り合わせる方法すなわち摺動法を用いればよく、金属錫と銅ワイヤを、相対速度0.1 〜100m/分、加圧力0.1 〜100kgf/mm2の条件下で相互に押し付けながら摺動させる方法を用いることが好ましい。
通常、溶接缶用ワイヤシーム溶接機では、銅ワイヤは、缶の溶接速度と同じ速度で供給されており、銅ワイヤへの金属錫の付着は銅ワイヤの電極輪への供給中に行うのが好適である。
【0039】
前記したように、金属錫と銅ワイヤを摺動させる速度は、相対速度で0.1 〜100m/分とすることが好ましい。
相対速度が0.1m/分未満の場合、擦り合う際に生じる摩擦エネルギーが小さく、必要量の金属錫を均一に付着することが困難で、逆に相対速度が100m/分超えの場合、スリップが生じ、同じく、必要量の金属錫を均一に付着することが困難となる。
【0040】
より好ましくは、相対速度は5〜70m /分である。
金属錫を付着せしめる際の接触圧力すなわち加圧力は、0.1 〜100kgf/mm2が好ましい。
加圧力が0.1kgf/mm2未満の場合、必要量の金属錫の付着を行うことが困難で、逆に100kgf/mm2超えの場合、金属錫と銅ワイヤを相互に摺動せしめる際に強大な力が必要になるばかりでなく、押し付け圧力により銅ワイヤが変形するので好ましくない。
【0041】
より好ましくは、加圧力は0.5 〜75kgf/mm2 である。
金属錫の摺動付着に用いる金属錫の形状は、棒状、丸棒状、帯状、板状あるいは円盤状のものなどが例示され、特に制限されるものではない。
金属錫を付着せしめるには、金属錫と銅ワイヤを接触させ、相互に押し付けながら相対的に移動させ摩擦させれば良いが、この時、併せて、金属錫を回転させ、回転による摩擦を加えることでより効率よく錫を付着させることができる。
【0042】
この場合、金属錫の摺動付着に用いる金属錫の形状は、棒状、丸棒状、円盤状、帯状あるいは板状の形態を用いればよく、回転数1〜3000回転/分で回転させながら擦(こす)りつければよい。
回転数が1回転/分未満の場合、回転による摩擦増加効果が得られず、逆に3000回転/分超えの場合、スリップし、同様に回転による摩擦増加効果が得られない。
【0043】
より好ましくは、回転数は50〜2500回転/分であり、さらに好ましくは100 〜2000回転/分である。
本発明においては、銅ワイヤへの金属錫の摺動付着の方法として、相対的移動による摺動と同時に、金属錫に振動を付与し銅ワイヤに摩擦を加え金属錫を付着せしめる方法を用いることが、より好ましい。
【0044】
この場合、金属錫の摺動付着に用いる金属錫の形状は、棒状、丸棒状、円盤状、帯状あるいは板状の形態を用いればよい。
上記した振動によって摩擦を加え金属錫を付着せしめる方法は、金属錫の形状に影響されにくい利点がある。
振動を付与する場合、振動数は1〜100000Hzが好ましい。
【0045】
1Hz未満の場合、振動による摩擦増加効果が得られず、逆に100000Hz超えの場合、スリップし、同様に振動による摩擦増加効果が得られない。
より好ましくは、振動数は1000〜50000Hz である。
さらに、本発明においては、銅ワイヤへの金属錫の摺動付着の方法として、相対的移動による摺動と同時に、金属錫の回転および金属錫に対する振動の付与の両者によって銅ワイヤに摩擦を加え金属錫を付着せしめる方法を用いることが、より好ましい。
【0046】
この場合、金属錫の摺動付着に用いる金属錫の形状は、棒状、丸棒状、円盤状、帯状あるいは板状の形態を用いればよい。
本発明において、金属錫を付着せしめる際の金属錫の温度は、5℃以上、232 ℃未満とすることが望ましい。
金属錫の温度が5℃未満の場合、α→βへの変態が生じ、金属錫が脆くなって錫付着中に金属錫が破損するため好ましくない。
【0047】
逆に、金属錫の温度が金属錫の融点である232 ℃以上であると融解してしまい摺動による錫付着が困難になるので、金属錫の温度は232 ℃未満とすることが好ましい。
一方、金属錫は温度が高いほど柔らかくなるので、金属錫の銅ワイヤへの摺動、付着を容易に行うため、金属錫の温度は高い方が望ましく、より好ましい金属錫の温度は10〜100 ℃である。
【0048】
さらに、錫付着に使用する金属錫の純度は、純度99wt%以上が好ましい。
【0049】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
冷延鋼板を、Cr6+および硫酸を含有する水溶液中で陰極処理を行うことによって、鋼板の両面に金属クロム層とその上層としてのクロム酸化物層を有する表1に示す3種類(A,B,C)の薄クロムめっき鋼板を製造した。
【0050】
図1に示すワイヤシーム溶接機において、図2および表2に示す金属錫付着方法および金属錫付着条件で、銅ワイヤに金属錫を付着せしめ、得られた金属錫付着銅ワイヤを用いて、上記で得られた薄クロムめっき鋼板に対して、表3に示す溶接条件で重ねシーム溶接を行った。
すなわち、表2に示す実施例1〜6においては、図1に示すように、銅ワイヤ2の先ず最初に溶接接触面となる片面のみに、電極輪3aに到達する前のSn付着施工箇所(A) において金属錫を摺動、付着せしめ、この面が溶接に用いられた後、反対側の次の溶接接触面となる面のみに、次の電極輪3bに到達する前のSn付着施工箇所(B) において金属錫を摺動、付着せしめ、この面を溶接に用いた。
【0051】
また、表2に示す比較例1においては、銅ワイヤへの金属錫の付着を行わなかった。
【0052】
なお、実施例4、実施例6においては、図2(b) に示される金属錫付着方法において、Sn棒にさらに図2(c) に示される振動を付与して金属錫を摺動、付着せしめて溶接に用いた。
溶接性の評価は、十分な溶接強度を有し、かつ溶接チリがない溶接一次電流範囲(適正溶接電流範囲)を求めることによって行った。
【0053】
適正溶接電流範囲としては、できるだけ広いことが好ましい。
溶接性評価結果を、試験条件と併せて表2に示す。
表2に示されるように、本発明の電気シーム溶接方法によれば、薄クロムめっき鋼板を研削することなく溶接することが可能となり、しかも優れた溶接性を有することが分かる。
【0054】
以上、実施例について述べたが、本発明においては、金属錫の摺動、付着に用いる金属錫の形状は、棒状に限定されることはなく、円盤状、帯状、板状など任意の形状の金属錫を用いることが可能である。
また、金属錫を摺動、付着せしめる際の銅ワイヤの断面形状は、平らに潰した板状がより好ましいが、断面形状が円形、楕円形などの銅ワイヤに適用することも可能であり、特に制限されるものではない。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、薄クロムめっき鋼板を研削することなく溶接することが可能となり、しかも優れた溶接性を有するため、缶製造業において極めて工業的意義が大きい。
また、錫を付着せしめる際に工業薬品などを使用しないので廃液の発生などの問題がなく、環境に優しく、さらに、錫を、溶接にとって必要な部分にのみ確実に付着し溶接が可能となったため、省資源が達成でき、産業上大変優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電気シーム溶接方法の一例を示す説明図である。
【図2】本発明に係わる金属錫付着方法の一例を示す説明図である。
【図3】ワイヤシーム溶接方法を示す説明図(a) 、A−A矢視拡大図(b) である。
【符号の説明】
1 缶銅
2 銅ワイヤ
3a、3b 電極輪
4a、4b マッシュロール
f 銅ワイヤの送給方向
f1 銅ワイヤの送給方向(:摺動方向)
f2 、f3 Sn棒の回転方向
f4 Sn棒の振動方向
SW1 銅ワイヤの片側の溶接接触面
SW2 銅ワイヤの反対側の片側の溶接接触面
Claims (8)
- 鋼板表面に金属クロム層と該金属クロム層の上に形成されたクロム酸化物層を有する薄クロムめっき鋼板の銅ワイヤを用いた電気シーム溶接方法であって、該電気シーム溶接時に、予め、前記クロム酸化物層との溶接接触面となる前記銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめ金属錫を付着せしめた後、得られた銅ワイヤを溶接に供することを特徴とする薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法。
- 鋼板の両面に金属クロム層と該金属クロム層の上に形成されたクロム酸化物層を有する薄クロムめっき鋼板の銅ワイヤを用いた電気シーム溶接方法であって、該電気シーム溶接時に、最初に鋼板のクロム酸化物層との溶接接触面となる銅ワイヤの表面のみに、金属錫を摺動せしめ金属錫を付着し、該金属錫付着表面を有する銅ワイヤを溶接に供した後、次に鋼板のクロム酸化物層との溶接接触面となる銅ワイヤの表面のみに、金属錫を摺動せしめ金属錫を付着し、該金属錫付着表面を有する銅ワイヤを溶接に供することを特徴とする薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法。
- 前記した銅ワイヤの表面への金属錫の付着量が、金属錫付着単位面積当たり0.01〜0.7g/m2 であることを特徴とする請求項1または2記載の薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法。
- 前記した銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめる方法が、金属錫を、銅ワイヤに対して相対速度0.1 〜100m/分、加圧力0.1 〜100kgf/mm2の条件下で、銅ワイヤの表面に摺動せしめる方法であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法。
- 前記した銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめる方法が、請求項4記載の摺動と同時に、金属錫を、回転数1〜3000回転/分の条件下で回転させながら銅ワイヤの表面に摺動せしめる方法であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法。
- 前記した銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめる方法が、請求項4記載の摺動と同時に、金属錫を、振動数1〜100000Hzの条件下で振動させながら銅ワイヤの表面に摺動せしめる方法であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法。
- 前記した銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめる方法が、請求項4記載の摺動と同時に、金属錫を、回転数1〜3000回転/分の条件下で回転し、かつ金属錫を、振動数1〜100000Hzの条件下で振動させながら銅ワイヤの表面に摺動せしめる方法であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法。
- 前記した銅ワイヤの表面のみに金属錫を摺動せしめる方法が、金属錫を、該金属錫の温度が5℃以上、232 ℃未満の温度条件下で、銅ワイヤの表面に摺動せしめる方法であることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載の薄クロムめっき鋼板の電気シーム溶接方法。
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