JP3665725B2 - 車両用操舵装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、舵取り機構の駆動により車両の姿勢制御などを行うことができる車両用操舵装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ステアリングホイールと舵取り車輪を転舵するための舵取り機構との機械的な結合を無くし、ステアリングホイールの操作方向および操作量を検出するとともに、その検出結果に基づいて、舵取り機構に電動モータ等のアクチュエータからの駆動力を与えるようにした車両用操舵装置が提案されている(たとえば、特開平9−142330号公報参照)。
【0003】
このような構成を採用することにより、舵取り機構とステアリングホイールとを機械的に連結する必要がないので、衝突時におけるステアリングホイールの突き上げを防止できるとともに、舵取り機構の構成を簡素化および軽量化することができる。また、ステアリングホイールの配設位置の自由度が増し、さらには、ステアリングホイール以外のレバーまたはペダル等の他の操作部材の採用をも可能とすることができる。
【0004】
上記のような構成の車両用操舵装置においては、ステアリングホイールの操作と舵取り機構の動作との関係を電気的制御によって、自由に変更することができるので、車両の運転性能を飛躍的に向上できるものと期待されている。
たとえば、ステアリングホイールの操作トルクまたは操作角に対応する目標ヨーレートまたは目標横加速度を求め、これらに基づいて舵取り機構の動作を制御することによって、車両の姿勢制御を行うことができ、操舵に対する車両の運動特性を最適化できる。
【0005】
一方、車両の姿勢制御のための別の手段として、4つの車輪の制動圧を個別制御する手法がある。すなわち、4つの車輪の制動圧の個別制御により、車両のヨーレートまたは横加速度を制御することができ、これにより、車両挙動の不安定化を防止できる。とくに、氷上のような低摩擦路面上では、舵取り機構による姿勢制御(ステアリング姿勢制御)よりも制動圧の制御による姿勢制御(ブレーキ姿勢制御)の方が有効である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ステアリング姿勢制御システムは、ステアリングホイールの操作角に基づいて目標ヨーレートを算出し、車両の実際のヨーレートである実ヨーレートを目標ヨーレートに近づけるように舵取り機構を駆動制御する。通常の走行シーンでは、車両がオーバーステア状態であれば、実ヨーレートは目標ヨーレートを上回る。逆に、車両がアンダーステア状態であれば、実ヨーレートは目標ヨーレートを下回る。
【0007】
ところが、たとえば、圧雪路上における意図的なスピンターンである、いわゆるJターン操舵を行うと、操舵期間中において、車両が実際にはオーバーステア状態であるにも拘わらず、実ヨーレートが目標ヨーレートを下回る場合がある。このほかにも、一定の走行シーンでは、特に、低速走行時(時速約30km以下)の場合に、同様の状況が生じる場合がある。
このような状況では、車両がオーバーステア状態にあるにも拘わらず、ステアリング姿勢制御システムは、切り増し制御を行って、オーバーステア傾向を助長する。これに対して、ブレーキ姿勢制御システムは、車両のオーバーステア傾向を抑制するための制御ヨーモーメントを車両に与えるように、車両の制動機構を制御する。したがって、ステアリング姿勢制御システムとブレーキ姿勢制御システムとの間で、車両に与えられる制御ヨーモーメントの方向が反対になり、両システムの制御が互いに干渉してしまう。
【0008】
また、ブレーキ姿勢制御システムのなかには、低μ路(低摩擦係数路)上においては、意図的なスピンターンと思われる急操舵に対して、車両がオーバーステア状態であっても、旋回方向内方側に位置する車両の後輪に制動力を与え、車両の回頭を促すための姿勢制御を行うものがある。このような状況においては、ステアリング姿勢制御システムが、オーバーステア傾向を抑制するためのいわゆるカウンタ操舵制御を行うと、ステアリング姿勢制御システムおよびブレーキ姿勢制御システムの間に制御上の干渉が生じることになる。
【0009】
図7は、圧雪路におけるJターン試験により得られたデータを示すグラフである。図7(a)は車両の横滑り角β(曲線L1)、車両の実ヨーレートγ(曲線L2)、および目標ヨーレートγ*(曲線L3)の時間変化を示す。また、図7(b)は、ステアリングホイールの操作角δh(曲線L4)、および舵取り車輪(通常は前輪)の転舵角の目標値δ*(目標転舵角)(曲線L5)を示す。さらに、図7(c)は、ブレーキ姿勢制御システムの動作を示す。図7(a)において、横滑り角βおよびヨーレートγ,γ*は、車両の進行方向に対して左まわり方向を正にとり、右回り方向を負にとって表されている。また、図7(b)において、操作角δhおよび目標転舵角δ*は、車両の進行方向に対して左方向を正にとり、右方向を負にとって表されている。そして、図7(c)においては、前左右輪および後左右輪のいずれに制動力が与えられているかを階段状の折れ線で表してある。
【0010】
Jターン操舵の初期の期間Aにおいては、ブレーキ姿勢制御システムは、意図的なスピンターン操舵が行われたとみなして、旋回方向内側の後輪である右後輪に対して制動力を与える。また、期間Aには、車両の横滑り角βは正の値となっていて、車両の中心軸方向に対して左回り方向に車両の進行方向が向けられている。すなわち、このとき、車両はオーバーステア状態にある。したがって、期間Aにおいては、ブレーキ姿勢制御システムは、車両のオーバーステア状態を助長して、車両の回頭を促すことになる。ところが、この期間Aには、ステアリング姿勢制御システムは、車両のオーバーステア状態を抑制するために、いわゆるカウンタ操舵制御を行う場合がある。
【0011】
一方、期間Bにおいては、ブレーキ姿勢制御システムは、左前輪に制動力を与えてオーバーステア状態を抑制し、車両に左向きのヨーモーメントを与える。この期間Bの末期Baにおいては、図7(a)に示されているように、車両の実ヨーレートγの絶対値は目標ヨーレートγ*を下回る。そのため、ステアリング姿勢制御システムは、アンダーステア状態を解消するための制御、すなわち切り増し制御を行う。ところが、このときには、車両の横滑り角βは正の値となっていて、車両は実際にはオーバーステア状態となっている。そのため、ステアリング姿勢制御システムによる姿勢制御は不適切であり、しかも、ブレーキ姿勢制御システムにより車両に与えられる制御ヨーモーメントの方向とステアリング姿勢制御システムにより車両に与えられる制御ヨーモーメントの方向とが不一致となっている。すなわち、両システムには、制御上の干渉が生じている。
【0012】
このように、従来は、ステアリング姿勢制御システムによる姿勢制御は、必ずしも適切でない場合があったとともに、ステアリング姿勢制御とブレーキ姿勢制御とが干渉する場合があった。
そこで、この発明の目的は、車両がオーバーステア状態であるかアンダーステア状態であるかに応じて適切な操舵制御を行うことができ、これにより車両の姿勢制御を良好に行うことができる車両用操舵装置を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、操作部材(1)の操作に応じて車両の舵取り機構(2,3)を駆動する車両用操舵装置であって、車両がアンダーステア状態であるかオーバーステア状態であるかを検出する車両状態検出手段(20,S1)と、車両がアンダーステア状態のときには、車両の実ヨーレートを操作部材の操作に対応して定められる目標ヨーレートに近づけるべく上記舵取り機構を制御するヨーレート制御を行うとともに、車両がオーバーステア状態のときには、車両の横滑り角速度を零に近づけるべく上記舵取り機構を制御する横滑り角速度制御を行う舵取り制御手段(20,S2,S3)とを含むことを特徴とする車両用操舵装置である。括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表す。以下、この項において同じ。
【0015】
この発明によれば、車両がアンダーステア状態であるかオーバーステア状態であるかに応じて舵取り機構の制御態様を変更し、これにより、車両の良好な姿勢制御を実現している。すなわち、車両がアンダーステア状態の場合には、車両の実ヨーレートを操作部材の操作に対応した目標ヨーレートに近づけるように舵取り機構が制御される。これに対して、車両がオーバーステア状態であれば、車両の横滑り角速度を零に近づけるように、舵取り機構が制御される。これによって、車両がオーバーステア状態のときにこのオーバーステア傾向が助長されたりすることがない。また、車両がアンダーステア状態のときには、操作部材の操作に対応した目標ヨーレートに基づく制御、すなわち、ヨーレート制御を行うようにしているので、とくに、旋回の初期において、車両の回頭を速やかに生じさせることができる。
【0016】
上記車両用操舵装置は、目標ヨーレートを演算する目標ヨーレート演算手段(20)と、車両の実ヨーレートを検出するヨーレート検出手段(16)とを備えていることが好ましい。この場合に、目標ヨーレート算出手段は、車両の操舵のための操作部材(たとえば、ステアリングホイール)の操作角または操作トルクに基づいて、車両の目標ヨーレートを算出するものであってもよい。
また、上記車両用操舵装置は、車両の横滑り角に関連した物理量を検出する手段を有するものであることが好ましい。たとえば、車両の横滑り角速度を零に収束させることは、車両の実ヨーレートを、車両の横加速度Gyを車速Vで割った値Gy/Vに収束させることと等価である。したがって、車両の横滑り角速度に関連する物理量として、車両の横加速度Gyおよび車速Vをそれぞれ検出する検出機構(15,14)を設けておいてもよい。
【0017】
なお、上記舵取り機構と操舵のための操作部材との間には機械的な結合が無く、操作手段の操作に対応して舵取り機構が電気的に制御されるようになっていることが好ましい。
請求項2記載の発明は、上記車両状態検出手段は、横滑り角速度に基づいて、車両がアンダーステア状態であるかオーバーステア状態であるかを判断する手段を含むことを特徴とする請求項1記載の車両用操舵装置である。
また、請求項3記載の発明は、前記車両状態検出手段は、横滑り角βと横滑り角速度β′との積ββ′、または舵取り車輪の転舵角δと横滑り角速度β′との積δβ′に基づいて、車両がアンダーステア状態であるかオーバーステア状態であるかを判断する手段を含むことを特徴とする請求項1記載の車両用操舵装置である。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係る車両用操舵装置を組み込んだ車両用姿勢制御装置の基本的な構成を説明するための概念図である。車両用操舵装置は、ステアリングホイール(操作部材)1の回転操作に応じて駆動される操舵用アクチュエータ2の動作をステアリングギア3によって前部左右車輪4A,4B(舵取り車輪)の転舵運動に変換することによって、ステアリングホイール1とステアリングギア3とを機械的に連結することなく、操舵を達成している。この場合に、操舵用アクチュエータ2およびステアリングギア3などにより、舵取り機構が構成されている。
【0022】
操舵用アクチュエータ2は、たとえば公知のブラシレスモータ等の電動モータにより構成することができる。ステアリングギア3は、操舵用アクチュエータ2の出力シャフトの回転運動をステアリングロッド7の軸方向(車幅方向)の直線運動に変換する運動変換機構(ボールねじ機構など)を有する。ステアリングロッド7の運動は、タイロッド8を介してナックルアーム9に伝達され、このナックルアーム9の回動を引き起こす。これにより、ナックルアーム9に支持された車輪4A,4Bの転舵が達成される。
【0023】
ステアリングホイール1は、車体に対して回転可能に支持された回転シャフト10に連結されている。この回転シャフト10には、ステアリングホイール1に操舵反力を与えるための反力アクチュエータ19が付設されている。具体的には、反力アクチュエータ19は、回転シャフト10と一体の出力シャフトを有するブラシレスモータ等の電動モータにより構成することができる。
回転シャフト10のステアリングホイール1とは反対側の端部には、渦巻きばねなどからなる弾性部材30が車体との間に結合されている。この弾性部材30は、反力アクチュエータ19がステアリングホイール1にトルクを付加していないときに、その弾性力によって、ステアリングホイール1を直進操舵位置に復帰させる。
【0024】
ステアリングホイール1の操作入力値を検出するために、回転シャフト10の回転角に対応する操作角δhを検出するための角度センサ11が設けられている。また、回転シャフト10には、ステアリングホイール1に加えられた操作トルクTを検出するためのトルクセンサ12が設けられている。
一方、操舵用アクチュエータ2の出力値を検出するための出力値センサとして、車輪4A,4Bの転舵角δを検出する転舵角センサ13が設けられている。この転舵角センサ13は、操舵用アクチュエータ2によるステアリングロッド7の作動量を検出するポテンショメータなどで構成することができる。
【0025】
角度センサ11、トルクセンサ12および転舵角センサ13は、コンピュータ(ECU:電子制御ユニット)を含むステアリング系制御装置20(車両状態検出手段、舵取り姿勢制御手段、舵取り制御手段)に接続されている。ステアリング系制御装置20には、さらに、車両の横加速度Gyを検出するための横加速度センサ15と、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ16と、車速Vを検出する速度センサ14とが接続されている。
【0026】
ステアリング系制御装置20は、駆動回路22,23を介して操舵用アクチュエータ2と反力アクチュエータ19とを制御する。
一方、ステアリング系制御装置20は、車両の制動を制御するための走行系制御装置60(制動姿勢制御手段)と、ライン50を介して通信を行い、データを授受するようになっている。横加速度センサ15、ヨーレートセンサ16および速度センサ14でそれぞれ検出された横加速度Gy、実ヨーレートγおよび車速Vを表すデータは、ステアリング系制御装置20内で利用されるとともに、ライン50を介して走行系制御装置60にも伝送されるようになっている。
【0027】
ブレーキペダル51の踏力に応じた制動圧は、マスターシリンダ52によって発生され、この制動圧は、制動圧制御ユニット53によって増幅されるとともに、前左右輪4A,4Bおよび後左右輪4C,4Dの各ブレーキ装置54に分配されて、各ブレーキ装置54が各車輪4A〜4Dに制動力を作用させるようになっている。そして、制動圧制御ユニット53が、コンピュータ(ECU)により構成される走行系制御装置60によって制御されることにより、各車輪4A〜4Dの制動圧が個別に制御されるようになっている。
【0028】
走行系制御装置60には、ステアリング系制御装置20の他に、各車輪4A〜4Dの制動力を個別に検出する制動力センサ61と、各車輪4A〜4Dの各回転速度を個別に検出する車輪速センサ62とが接続されている。
走行系制御装置60は、車輪速センサ62によって検出される各車輪4A〜4Dの回転速度と制動力検知センサ61によるフィードバック値とに応じて、制動圧を増幅するとともに分配することができるように制動圧制御ユニット53を制御する。これにより、各車輪4A〜4Dの制動力を個別に制御することが可能とされている。なお、制動圧制御ユニット53は、ブレーキペダル51の操作がなされていない場合でも、内蔵のポンプにより制動圧を発生することができるように構成されている。
【0029】
図2は、車両の姿勢制御に関連する構成をさらに説明するためのブロック図である。ステアリング系制御装置20は、ライン50を介して、走行系制御装置60に、操作角δh、トルクTおよび転舵角δの各検出値を表すデータを与える。また、走行系制御装置60は、ライン50を介して、ステアリング系制御装置20から、横加速度Gy、ヨーレートγおよび車速Vの各検出値を表すデータを取得する。また、走行系制御装置60は、被制御輪である車輪4A〜4Dの制動状況を表すデータを、ライン50を介して、ステアリング系制御装置20に与える。
【0030】
走行系制御装置60は、制動圧制御ユニット53を介して車輪4A〜4Dの制動圧を個別制御し、これにより、車両の姿勢制御(ブレーキ姿勢制御)を行う。一方、ステアリング系制御装置20は、操作角δhおよび/または操作トルクTに基づいて目標横加速度Gy*および目標ヨーレートγ*を求め、さらに、これらに基づいて目標転舵角δ*を演算する。そして、転舵角センサ13によって検出される転舵角δが目標転舵角δ*に近づくように操舵用アクチュエータ2を制御することによって、車両の姿勢制御(ステアリング姿勢制御)を行う。
【0031】
すなわち、この実施形態では、車両の姿勢制御のために、ブレーキ姿勢制御とステアリング姿勢制御とが併用されている。
図3は、ステアリング系制御装置20の動作を説明するためのフローチャートである。ステアリング系制御装置20は、車両がオーバーステア状態であるかアンダーステア状態であるかを判断する(ステップS1)。車両の状態がオーバーステア状態であれば、ステアリング系制御装置20は、車両の横滑り角βの時間微分値である横滑り角速度β′を零に導くための横滑り角速度制御を行う(ステップS2)。
【0032】
これに対して、車両がアンダーステア状態である場合には、ステアリング系制御装置20は、従来と同様に、ヨーレートセンサ16により検出される実ヨーレートγを操作角δh等に基づいて定めた目標ヨーレートγ*に導くためのヨーレート制御を行う(ステップS3)。すなわち、ステアリング系制御装置20は、車両がオーバーステア状態かアンダーステア状態であるかに応じて、車両の姿勢制御の態様を、横滑り角速度制御とヨーレート制御との間で切り換える。
【0033】
さらに、ステアリング系制御装置20は、通信ライン50を介して走行系制御装置60からの情報を得ることによって、舵取り機構の制御によって車両に与えられる制御ヨーモーメントの方向と、走行系制御装置60による制動機構の制御によって車両に与えられる制御ヨーモーメントの方向とが一致するかどうかを判断する(ステップS4)。もしも、両制御ヨーモーメントの方向が一致すれば、ステップS1〜S3により定められた態様で、舵取り機構の制御による姿勢制御を実行する(ステップS5)。これに対して、ステアリング系制御装置20と走行系制御装置60との間で制御ヨーモーメントの方向が一致しない場合には、舵取り機構の制御による姿勢制御を禁止する(ステップS6)。
【0034】
車両の横滑り角βを車両の進行方向に対して車両の中心線方向がいずれの側に位置するかに応じて正負の符号を与えて表すこととする。この場合、車両がオーバーステア状態かアンダーステア状態であるかは、横滑り角βと横滑り角速度β′との積が正負のいずれであるかを調べることによって判断できる。
すなわち、ββ′>0であれば、車両のオーバーステア状態が進行していると判断できる。これに対して、ββ′<0であれば、車両がアンダーステア状態に向かっていると判断することができる。
【0035】
車両がオーバーステア状態であるかアンダーステア状態であるかは、舵角センサ13によって検出される転舵角δと、横滑り角速度β′との積に基づいて判断することもできる。
すなわち、δβ′>0であれば、車両の横滑り角βの絶対値が増加中であると見られるので、車両はアンダーステア状態であると判断できる。これに対して、δβ′<0であれば、車両はオーバーステア状態であると判断できる。
【0036】
図4に示すように矢印40方向に車速Vで旋回走行している車両100に対して矢印41方向に作用する横加速度Gyと、矢印42方向に作用するヨーレートγとの関係は、車両100が定常旋回状態であるとみなすと、近似的に、γ=Gy/Vと表すことができる。
一方、図5(a)に示すように、オーバーステア状態で横滑りしている車両や、図5(b)に示すように、アンダーステア状態で横滑りしている車両100を想定すると、車両横滑り角βは、車両100の前後方向に沿う車両中心線100aと、車両100の実際の進行方向100bとがなす角である。この場合に、車両横滑り角βの変化速度である横滑り角速度β′は、近似的に、Gy/V−γにより求めることができる。そこで、車両横滑り角βは、Gy/V−γを時間積分することによって求めることができる。
【0037】
β′=Gy/V−γであるから、図3のステップS2における横滑り角速度制御は、目標ヨーレートγ*=Gy/Vとして目標ヨーレートγ*を設定し、この目標ヨーレートγ*に実ヨーレートγを近づけるように舵取り機構の動作を制御することによって実現できる。
ステアリング系制御装置20が通信ライン50を介して走行系制御装置60から取得する制動状況データは、たとえば、1バイト(8ビット)単位で授受される。この場合に、前後左右輪の4つの車輪4A〜4Dのいずれに制動力が加えられているかは、2ビットのデータで表すことができる。さらに、いずれかの車輪の制動力が与えられているのか、またはいずれの車輪にも制動力が与えられていないのかを表す情報を走行系制御装置60から取得するとすれば、これを1ビットのデータで表すことができる。したがって、図3のステップS4における判断は、走行系制御装置60から通信ライン50を介して与えられる1バイトのデータ中の3ビットの制動状況データを用いて実行することができる。
【0038】
ステアリング系制御装置20は、制動状況データに基づいていずれの車輪に制動力が与えられているかを調べ、制動機構の制御によって車両に与えられている制御ヨーモーメントの方向を判別する。
図6は、この実施形態を適用した車両用姿勢制御装置を装備した車両により圧雪路面上でのJターン試験を行って得られたデータを示すグラフである。図6(a)は車両の横滑り角β(曲線L11)、ヨーレートセンサ16により検出される実ヨーレートγ(曲線L12)、目標ヨーレートγ*(曲線L13)および横滑り角速度β′(曲線L14)の時間変化を示す。また、図6(b)は、ステアリングホイール1の操作角δh(曲線L15)、および舵取り車輪(前左右輪)4A,4Bの目標転舵角δ*(曲線L16)の時間変化を示す。さらに、図6(c)には、走行系制御装置60によるブレーキ姿勢制御動作が示されている。
【0039】
図6(a)(b)において、横滑り角β、ヨーレートγ,γ*、操作角δhおよび目標転舵角δ*については、車両の進行方向に関して右まわり方向を負の符号で表し、左まわり方向を正の符号で表してある。また。図6(c)においては、前後左右の4つの車輪4A〜4Dのいずれに対して制動力が与えられているのかを、階段状の折れ線で表してある。
Jターン操舵の初期の期間Aでは、ステアリング系制御装置20によるステアリング姿勢制御と走行系制御装置60によるブレーキ姿勢制御とに干渉が生じる。すなわち、それらの制御により車両に与えられる制御ヨーモーメントの方向が一致しない。そこで、この期間Aには、ステアリング系制御装置20は、舵取り機構の制御による姿勢制御動作を行わない。これにより、走行系制御装置60の制御により、右側後輪4Dに制動力が与えられると、車両の回頭が促され、車両は速やかにスピンターン状態へと入る。
【0040】
期間Bにおいては、車両の横滑り角βおよび横滑り角速度β′がいずれも正の値となっていて、車両はオーバーステア状態にある。この期間には、目標ヨーレートγ*にGy/Vが代入されることによって、横滑り角速度β′を零に導くための制御がステアリング系制御装置20によって行われる。その結果、参照符号B1で示すように、切り増し制御が行われることがない。その一方で、走行系制御装置60は、左前輪4Aに制動力を与えており、これにより、オーバーステア状態の解消が図られている。
【0041】
以上のようにこの実施形態に係る車両用姿勢制御装置によれば、車両がオーバーステア状態かアンダーステア状態かに応じて、横滑り角速度制御とヨーレート制御とを切り換えて適用するようにしている。これにより、車両がオーバーステア状態にあるときに、ステアリング姿勢制御によってオーバーステア傾向が助長されるといった不具合が防止される。
さらに、ステアリング姿勢制御とブレーキ姿勢制御とによって車両に与えられる制御ヨーモーメントの方向が一致しない場合には、ステアリング姿勢制御を禁止するようにしている。そのため、制御の干渉が生じることがなく、良好な姿勢制御動作を実現できる。
【0042】
このようにして、この実施形態によれば、ステアリング姿勢制御とブレーキ姿勢制御とを協調させつつ良好な統合姿勢制御が実現される。
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明は、他の形態で実施することもできる。たとえば、上述の実施形態では、ステアリング姿勢制御およびブレーキ姿勢制御によって車両に与えられるべき制御ヨーモーメントの方向が一致しない場合には、ステアリング姿勢制御を禁止することとしているが、ステアリング姿勢制御を優先することとして、走行系制御装置60によるブレーキ姿勢制御を一時的に禁止するようにしてもよい。また、上記の実施形態では、車両がオーバーステア状態かアンダーステア状態かに応じた姿勢制御態様の切り換えと、ステアリング系およびブレーキ系の姿勢制御の干渉を防ぐ特徴とが組み合わされているが、車両がオーバーステア状態かアンダーステア状態かに応じた姿勢制御態様の切り換えのみが単独で車両用操舵装置または車両用姿勢制御装置に組み込まれてもよい。
【0043】
また、上述の実施形態では、四輪車両の2つの車輪が舵取り車輪として転舵可能な場合について説明したが、4つの車輪の全てが転舵される四輪操舵システムにこの発明を適用してもよい。
また、上述の実施形態では、操作部材としてステアリングホイール1が用いられる例について説明したが、この他にも、レバーやペダルなどの他の操作部材が用いられてもよい。
【0044】
これらの他にも、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態に係る車両用姿勢制御装置の基本的な構成を説明するための概念図である。
【図2】姿勢制御のための構成を説明するためのブロック図である。
【図3】ステアリング系制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図4】定常円旋回状態の車両に働く横加速度およびヨーモーメントを説明するための図である。
【図5】オーバーステア状態(a)およびアンダーステア状態(b)で横滑りしている車両を示す図である。
【図6】上記実施形態を適用した車両用姿勢制御装置を装備した車両により圧雪路面上でのJターン試験を行って得られたデータを示すグラフである。
【図7】ステアリング姿勢制御およびブレーキ姿勢制御を併用した従来の車両用姿勢制御システムを装備した車両により圧雪路面上でのJターン試験を行って得られたデータを示すグラフである。
【符号の説明】
1 ステアリングホイール
2 操舵用アクチュエータ
11 角度センサ
12 トルクセンサ
13 転舵角センサ
14 速度センサ
15 横加速度センサ
16 ヨーレートセンサ
20 ステアリング系制御装置
50 ライン
53 制動圧制御ユニット
54 ブレーキ装置
60 走行系制御装置
Claims (3)
- 操作部材の操作に応じて車両の舵取り機構を駆動する車両用操舵装置であって、
車両がアンダーステア状態であるかオーバーステア状態であるかを検出する車両状態検出手段と、
車両がアンダーステア状態のときには、車両の実ヨーレートを操作部材の操作に対応して定められる目標ヨーレートに近づけるべく上記舵取り機構を制御するヨーレート制御を行うとともに、車両がオーバーステア状態のときには、車両の横滑り角速度を零に近づけるべく上記舵取り機構を制御する横滑り角速度制御を行う舵取り制御手段とを含むことを特徴とする車両用操舵装置。 - 上記車両状態検出手段は、横滑り角速度に基づいて、車両がアンダーステア状態であるかオーバーステア状態であるかを判断する手段を含むことを特徴とする請求項1記載の車両用操舵装置。
- 前記車両状態検出手段は、横滑り角βと横滑り角速度β′との積ββ′、または舵取り車輪の転舵角δと横滑り角速度β′との積δβ′に基づいて、車両がアンダーステア状態であるかオーバーステア状態であるかを判断する手段を含むことを特徴とする請求項1記載の車両用操舵装置。
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