JP3665723B2 - 水質浄化材の製造法 - Google Patents
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【産業上の利用分野】
本発明は、リン酸固定能の高い水質浄化材及びその製造法に関し、更に詳細には、富栄養化した下水および湖沼の底に堆積したヘドロ層に存在するリン酸を減少させ、その水質を改善し、向上しうるリン酸固定能の高い水質浄化材及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、窒素やリンの負荷量の急速な増大に起因したいわゆる富栄養化の現象が環境保全対策の視点から問題となっている。
ここで富栄養化とは湖沼の流域から流れ込んだ窒素やリンなどの栄養塩類が湖内に蓄積し、植物プランクトンを中心とする一次生産が高まっていく現象である。この富栄養化が進行すると、アオコや赤潮のような有害な植物プランクトンが大発生し、湖水は緑色または褐色となり、しばしば水産養殖に多大な被害を与え、生活用水でもその安全性が懸念される。
【0003】
富栄養化の原因であるリン酸は、主として次の2経路により湖沼に供給される。
(a)流入水にリン酸が含まれ、これが湖沼に流入することにより供給される経路。
(b)湖沼底部のヘドロ中に含まれているリン酸がヘドロから溶け出すか、湖沼に風が吹きヘドロが舞い上がることにより供給される経路。
【0004】
従来、湖沼にリン酸が供給される経路を絶つ目的で、それぞれ次の方法が行われていた。
(a)の経路に対しては、排水処理と同様な付着生物膜、微量有機物や臭気物質の活性炭による吸着除去、オゾン酸化など新しい反応装置を用いて富栄養化した水道原水を高度に浄化しうる技術開発。
(b)の経路に対しては、湖沼中に砂をまきヘドロを追え込む方法。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の方法では何れも湖沼にリン酸が供給される経路を完全に絶ち、富栄養化を防止するのは次の理由から困難であった。
即ち(a)の経路は、小規模な汚染源、例えば生活雑排水、小規模工場排水などをすべて下水道に取り込み、リン酸を完全に処理した後、再び河川に放流するのが望ましいが、汚濁源が分散している湖沼流域に下水道を完備することは、莫大な費用と時間を要し、必ずしも得策とは言えない。
また、集落、工場、場合により各家庭毎という小さな汚濁源毎に排水処理装置を設置するのは、莫大な費用と時間を要しない点で有利と言えるが、排水毎にその特性に応じた処理技術が必要になるなどその装置設計上、管理上において困難な点が多い。
(b)の経路は、湖沼中に砂をまきヘドロを追え込めたとしても、ヘドロ中に存在するリン酸を除去するに到らず、抜本的な解決とは言えない。
【0006】
一方、河川、土壌、湖沼などは、それぞれ浄化機能を有することが古くから知られ、例えば土壌は土壌微生物による有機物の分解能が高く、粘土粒子によるリンの吸着能力が高い。
【0007】
従って、富栄養化を防止するには、排水処理装置にすべての浄化能力に頼らず、むしろその一部を様々な自然系の浄化能力に分担させ、全体的にその浄化能力を向上させるのが望ましいと言える。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑み創案されたものであって、土壌(ただし式(1)で表されるアロフェンを含んでいない)と、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムもしくは硫酸第一鉄を単独又はこれらの物質の2種以上の組み合わせと、を焼成した多孔質な焼結体を用いることにより、富栄養化した湖沼に含まれるリン酸を吸着し、水質を向上しうるリン酸固定能の高い水質浄化材の製造法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、土壌が有する自然浄化機能に着目しその効果的な活用により、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、土壌(ただし次式(1);
【化2】
nSiO 2 ・Al 2 O 3 ・mH 2 O (1)
(式中、nは1.3〜2の数を示し、mは0より大きな上限が2.5〜3の範囲の数を示す)
で表されるアロフェンを含んでいない)と、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムもしくは硫酸第一鉄を単独又はこれらの物質の2種以上の組み合わせと、を特定温度範囲で焼成した焼結体とすることで、著しく高いリン酸固定能が発揮されるに止まらず、富栄養化した湖沼の底に堆積したヘドロ層の厚みをも減少させるという思わぬ効果をも見出し、本発明にかかわる水質浄化材の製造法を完成した。
【0010】
即ち、本発明の水質浄化材の製造法は、(a)土壌(ただし式(1)で表されるアロフェンを含んでいない)と、(b)ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムもしくは硫酸第一鉄を単独又はこれらの物質の2種以上の組み合わせと、(c)水とを混練した後、その混練物を200〜700℃で焼成して焼結体を得ることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の水質浄化材で用いる多孔質な焼結体は、粒状物であり、その形状、粒子径及び単位量当たりの表面積などは特に制限されるものではなく、これらは使用方法及び使用条件に応じて適宜決定することができる。
本発明においては、平均粒子径が1〜20mmのものが好ましく、2〜5mmのものが特に好ましい。また、浄化材内の孔隙率が10〜40%のものが好ましく、20〜40%のものが特に好ましい。
この多孔質な焼結体は、土壌(ただし次式(1);
【化3】
nSiO 2 ・Al 2 O 3 ・mH 2 O (1)
(式中、nは1.3〜2の数を示し、mは0より大きな上限が2.5〜3の範囲の数を示す)
で表されるアロフェンを含んでいない)と、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムもしくは硫酸第一鉄を単独又はこれらの物質の2種以上の組み合わせと、からなるものであるが、これらの化合物及び混合物の組成比は使用する原料に応じて異なるものである。また多孔質な焼結体は、前記元素以外の化合物を含むこともでき、更に硫酸塩等の化合物を含むこともできる。
【0012】
次に、本発明の水質浄化材の製造法について説明する。
【0013】
まず、(a)土壌(ただし式(1)で表されるアロフェンを含んでいない)と、(b)ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムもしくは硫酸第一鉄を単独又はこれらの物質の2種以上の組み合わせと、(c)水と、を混練する。
【0014】
上記の土壌(ただしアロフェンを含んでいない)に混練するアルミニウム化合物としては、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム又は水酸化アルミニウムを挙げることができ、鉄化合物としては、硫酸第一鉄を挙げることができる。また、上記の物質は単独で又は2種以上組み合わせて混練することができる。例としては、硫酸第1鉄と水酸化アルミニウムとの組み合わせ、硫酸第1鉄と硫酸アルミニウムとの組み合わせなどを挙げることができる。
【0015】
混練後の土壌中における、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムもしくは硫酸第一鉄の含有量は特に制限されるものではないが、目的とするリン酸吸着性能をもつ多孔質な焼結体を得るためには、5重量%以上であることが好ましく、20重量%以上であることが特に好ましい。
【0016】
混練後の土壌と水の混合比は、土壌の種類及びその含水率等に応じて適宜決定することができる。通常は絶乾土壌に対して水を30〜50重量部混合する。
【0017】
次に、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムもしくは硫酸第一鉄を単独又はこれらの物質の2種以上の組み合わせを混練した土壌と、水の混練物を大気中で焼成する。焼成温度は200〜700℃、好ましくは400〜500℃である。焼成温度が前記範囲外である場合は、いずれの場合でも本発明の目的とする多孔質な焼結体を得ることができず、得られた焼結体の水中での安定性も低下する(水中で分解したり、懸濁したりする)。具体的な焼結温度範囲は原料となる土壌の種類等に応じて適宜決定することができるが、例えば、一般に火山灰土の場合は200〜600℃が適当であり、それ以外の土壌(粘土を含む)の場合は200〜700℃が適当である。また、焼成時間は、焼成原料の種類及び量等に応じて適宜決定する。
【0018】
このようにして得られた粒状の多孔質な焼結体は、そのままで水質浄化材として使用することができる。また必要に応じて適当な容器に充填したり、適当な担体等に担持させたりしたのち、水質浄化材として使用することができる。
【0019】
本発明の水質浄化材は、リン酸固定能が優れているため、リン酸の吸着・除去材として使用することができる。例えば、本発明の水質浄化材を富栄養化した湖沼にばら蒔くだけで、その底に堆積したヘドロ層に存在するリン酸がヘドロから溶け出す際に、または風によりヘドロが舞い上がる際に、それぞれリン酸が上部の水中に拡散してくる過程で、リン酸を吸着できる。これによりヘドロ層に存在するリン酸を徐々に除去でき、新たに導入される流入水に含まれるリン酸がヘドロ層に蓄積されることも防止できる。このことは、ヘドロ層に存在するリン酸の除去を人為的に自然系の浄化能力に依存せしめることができ、莫大な費用と時間が必要となる排水処理装置などの浄化能力に頼らず、リン酸を簡易にしかも確実に吸着、除去しうることを意味する。また、この水質浄化材を濾過材料として使用することもできる。その場合には排水処理装置等の浄化能力を大幅に向上させることができ、上記ばら蒔き方法と併用すれば一層効果的にリン酸の吸着、除去ができる。さらに、リン酸のほかに砒素吸着固定能がある。
【0020】
また、本発明の水質浄化材は凝集剤としても使用することができる。即ち、焼結体を富栄養化した湖沼にばら蒔くことで水中の懸濁物質を凝集、沈降させることができ、その結果リン酸がヘドロから溶け出したり、風が原因でヘドロが舞い上がることに起因した上部の水中に拡散することを防止できる。
【0021】
さらに、本発明の水質浄化材は、焼結体を例えばブロック状に焼結し、河川底に敷設することができる。この場合には、沈降する段階において河川底で確実に吸着固定することができる。
【0022】
以上のように、本発明の水質浄化材は、リン酸あるいは砒素の吸着剤、凝集剤として使用することができるが、その使用に際しては、必要に応じて活性炭、ゼオライトなどの公知の吸着剤、塩化鉄、硫酸アルミニウム、ポリアクリルアミド等の公知の凝集剤等と併用することができる。
【0023】
【実施例】
以下、本発明の水質浄化材の製造法を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1(硫酸アルミニウムを含むリン酸固定能の高い水質浄化材の製造)
主原料として土壌(粘土。アロフェンを含んでいない)5kgに、水0.9kg、前記土壌の乾燥重量に対して10%の硫酸アルミニウム及び前記硫酸アルミニウムの重量に対して35%の水酸化カルシウム(バインダー)を加え、十分に混練した。次に、これを直径3.5mmの細い穴から押し出し、電気炉中、500℃で15分間焼成して多孔質な焼結体(平均粒子径2〜4mm、孔隙率15〜20%)を得た。得られた焼結体を水中にいれ、水に対する適合性について調べた。その結果、その焼結体は水中で分解したり、懸濁したりすることがなかった。
【0025】
また、上記焼結体からなる水質浄化材を用い、次の方法によりリン酸固定能を試験した。まず、水質浄化材20gを、それぞれリン酸濃度が0.1、1、10及び100ppmに調整された1リットルの水が入った容器中に投入した。次に、この容器を上下に5回振って内容物を混合し、その後静置した状態で保持し、水質浄化材のリン酸固定能を経時的に測定した。また、対照例として水質浄化材の代わりに砂20gを投入し、同一条件でリン酸固定能を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
実施例2(硫酸第一鉄と水酸化アルミニウムを含むリン酸固定能の高い水質浄化材の製造)
主原料として土壌(粘土。アロフェンを含んでいない)5kgに、水0.8kg及び前記土壌の乾燥重量に対して5%の硫酸第一鉄、5%の水酸化アルミニウム及び0.2%の炭酸カルシウム(バインダー)を加え、十分に混練した。次に、これを直径3.5mmの細い穴から押し出し、電気炉中、500℃で15分間焼成して多孔質な焼結体体(平均粒子径2〜4mm、孔隙率15〜20%)を得た。得られた焼結体を水中にいれ、水に対する適合性について調べた。その結果、その焼結体は水中で分解したり、懸濁したりすることがなかった。
【0028】
また、上記焼結体からなる水質浄化材を用い、実施例1と同様の方法によりリン酸固定能を試験した。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
【発明の効果】
(A)本発明は、土壌(ただし式(1)で表されるアロフェンを含んでいない)と、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムもしくは硫酸第一鉄を単独又はこれらの物質の2種以上の組み合わせと、からなる多孔質な焼結体を含有する水質浄化材であり、土壌単独で焼成した場合よりも高いリン酸固定能を発揮しうる水質浄化材である。
従って本発明に係る水質浄化材によれば、水中あるいはヘドロ層に存在するリン酸を水質浄化材に吸着し、除去せしめることができ、莫大な費用と時間を必要とする排水処理装置などの浄化能力に頼らず、富栄養化した水の改善、向上を図ることができる。
(B)本発明は、凝集剤として作用しうる水質浄化材である。
従って、本発明に係る水質浄化材によれば、富栄養化した湖沼の水と接触させることで水中の懸濁物質を凝集、沈降させることができ、水の透明度を高めることができる。また、風が原因でヘドロが舞い上がることを防止することができる。
(C)本発明に係る水質浄化材によれば、凝集効果が持続するため、水中の懸濁物質の除去効果を持続することができ、さらに、凝集能はリン酸固定能と相まっていわば相乗効果を生じ、富栄養化の程度を問わず、水質の改善と向上を図ることができる。
(D)本発明は、(a)土壌(ただし式(1)で表されるアロフェンを含んでいない)と、(b)ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムもしくは硫酸第一鉄を単独又はこれらの物質の2種以上の組み合わせと、(c)水と、を200〜700℃で焼成することで強固で多孔質な焼結体を簡易に得る製造法である。
従って本発明に係る製造法による水質浄化材によれば、その孔隙率が大きく、水中で分解したり、懸濁することもないので、富栄養化した湖沼の水と接触させるだけで、水中に溶解しているリン酸を長時間に亘って吸着しつづけることができる。
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