JP5713735B2 - リン吸着材ならびにそれを用いた土壌改良剤または肥料 - Google Patents

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本発明は、ポリシリカ鉄(PSI)を凝集剤として用いた浄水工程で発生する発生土を主成分とするリン吸着材、それを用いた水処理方法、ならびにその水処理で使用されたリン吸着材を用いた土壌改良剤または肥料に関する。
湖沼や停滞水域では、リン低濃度(たとえば、0.1ppm以下)でもアオコが発生しやすい。このような対象水域のリン除去には微生物によるリン摂取や水生植物を利用した生物学的処理法が知られている。この処理においてはリンの除去は溶存酸素濃度や植物のバイオマス量に左右され、また導入植物の回収や施設の維持管理が課題となる。中濃度から高濃度(たとえば、0.1ppm〜50ppm)のリン除去には金属塩や石灰を用いた凝集・沈殿除去の物理化学的処理法が一般的であるが、沈殿物の回収、吸着リンの再資源化、有効利用までの工程が複雑である。
吸着法には、コバルト系、ジルコニウム系、アルミニウム系、チタン系、セリウム系等の金属水酸化物または金属酸化物、を主体とする吸着材(例えば、特許第3113183号公報、特開2008-23401号公報)、鹿沼土、火山灰土壌、カキ殻等を組み合わせた接触処理法及び火山灰土や汚泥の焼成物など多種多様なリン吸着材がある(例えば、特開2008-23401号公報、特開2002-001372号公報、特公平06-026663号公報)。多くのリン吸着材の使用工程は水中からリンを除去し、吸着材の表面に固定化したリンを物理的・化学的方法により脱着しリン資源として回収する。リン吸着材は再使用化の工程で再生処理を必須としている。
多くのリン吸着材は水中からリン除去を行った後、吸着リンを脱着、再生する一連の水処理技術が開発されている(例えば、特開2008-49241号公報)。リン脱着法としては一般的にアルカリで溶出した後にマグネシウム塩、アンモニウム塩を添加して固液分離するMAP法が知られている。肥料のリン資源として各種処理水等から高濃度のリンを資源として回収するには有用であるが、このための施設や運転コストを必要とする。
浄水発生土は浄水過程において原水中に浮遊する粘土粒子や微細な有機物を硫酸バンドやポリ塩化アルミニウムの凝集剤を添加して発生した沈殿物を加圧や天日乾燥で脱水したものである。全国での発生量は約35万t/年と見積もられ、その多くは産業廃棄物として処分されている。土壌資源としても価値の高い浄水発生土はアルミニウム系凝集剤の使用では水酸化アルミニウム含量が著しく高く、農地に還元するとリン酸を不可給化しリン欠乏土壌となるために現物の農業利用は行われていない。
アルミニウムの人体への影響が懸念されていることからアルミニウム系凝集剤に替わって鉄系「ポリシリカ鉄(PSI)」が注目されている。鉄、ケイ酸は肥料としてまた土壌改良資材として施用されており、鉄系の浄水発生土は肥料資源及び土壌資源として全量を農地に還元可能であると期待される。わが国の公共水域河川の水質は概ね水質基準を満足しているが、湖沼や閉鎖系水域では窒素にくらべリンが増加傾向にあり、これらの水域ではアオコの発生が大きな社会問題となっている。富栄養化を生じる窒素及びリンの限界濃度は窒素が0.15ppm、リンが0.02ppmといわれており、負荷量の多い農業の面源負荷、個別の浄化槽排水、農村集落排水処理水、畜産汚水処理水など、低濃度の環境水から高濃度の処理排水中に適用できるリン吸着材が望まれている。
特許第3113183号公報 特開2008-23401号公報 特開2002-001372号公報 特公平06-026663号公報 特開2008-49241号公報
本発明は、上記の課題を解決し、環境水から処理水まで、多様な濃度域にも適用でき、複雑な再生化処理をせずに使用済み吸着材を利用し得るリン吸着材ならびにそれを用いた水処理方法を提供する。
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の発明を提供する。
(1)ポリシリカ鉄(PSI)を浄水のために使用して得られる浄水発生土にバインダーを
混合し、成型後に焼成してなる、水中のリン吸着材。
(2)浄水発生土の固形分100質量部に対して、バインダーを1〜50質量部混合した
上記(1)に記載のリン吸着材。
(3)バインダーが珪藻土である上記(1)または(2)に記載のリン吸着材。
(4)焼成温度が100〜400℃である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のリン吸着材。
(5)焼成温度が200〜350℃である上記(4)に記載のリン吸着材。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載のリン吸着材を用いて、水中のリンを除去す
ることを特徴とする水処理方法。
(7)上記(6)に記載の水処理方法で用いられたリン吸着材からなる、土壌改良剤。
(8)リン吸着材を700〜900℃で再焼成して得られる、上記(7)に記載の土壌改良剤。
本発明によれば、いわゆる環境水から処理水まで、多様な濃度域にも適用でき、複雑な再生化処理をせずに使用済み吸着材を利用し得るリン吸着材、それを用いた水処理方法、ならびにその水処理で使用されたリン吸着材を用いた土壌改良剤または肥料をを提供し得る。
混練成形物の焼成温度とリン酸吸収係数の関係を示す図。 混練成形物の焼成温度と活性鉄の関係を示す図。 混練成形物の活性鉄とリン酸吸収係数の関係を示す図。 リン吸着材の接触時間と除去率の関係を示す図。 リン吸着材の接触時間と除去率の関係を示す図。 リン酸を吸着したリン吸着材を800℃で焼成した場合の吸着リン酸の溶出率と溶出量を示す図。
本発明のリン吸着材は、ポリシリカ鉄(以下、「PSI」と呼ぶことがある)を浄水のために使用して得られる浄水発生土に、バインダーを混合し、成型後に焼成してなる。PSIは、鉄とシリカを主成分とし、通常(SiO・(Fe)で示される無機高分子凝集剤である。PSIには、「PSI−025」(シリカ:鉄=0.25:1)、「PSI−050」、「PSI−100」等があり、藻類や有機色度成分の凝集にも有効であり、低水温時においても高い処理効果が期待されている。
PSIを浄水のために使用して得られる浄水発生土は、浄水過程において原水中に浮遊する粘土粒子等をPSIで凝集沈降させて分離された土であり、浄水場で多量に発生する。粘土粒子は、粘土鉱物に由来するが、地域によって沖積土、火山灰土、褐色森林土、黄色土等と多種にわたり、その性質も多様である。火山系のアロフェンは活性アルミニウムが多くリン酸吸収係数も高いが、他の土壌のリン酸吸収系数はあまり高くない。一般にイオン吸着が行われる土壌粘土は粘土の骨格であるケイ酸塩鉱物が層状に並び、含有鉄イオンは大気中の酸素により酸化されて酸化鉄鉱物を生成している。またアルミニウムを取り込んで微結晶化している。表面には鉄等の金属イオンに配置した反応性の高い水酸基が露出して、リン酸イオンとの間で生じる配位子交換によりリンが吸着される。PSI凝集剤を使用した浄水発生土は鉄含量が約40%、ケイ素約30%程度と高く、鉄・ケイ素を大量に含む発生土が安価に大量に入手できることになる。
本発明のリン吸着材は、このような浄水発生土に、まずバインダーを混合し、ついで成型後に焼成してなる。バインダーとしては、浄水発生土と混錬しやすく、成型性等に優れ、焼成後の強度に優れ、リンの吸着を阻害しないものであれば制限されないが、特に珪藻土が好適である。浄水発生土の固形分100質量部に対して、バインダー粒子を好ましくは1〜50質量部、さらに好ましくは20〜40質量部混合する。バインダーは、好適には10%程度以下の含水率を有する。珪藻土は、珪藻由来のケイ質の堆積物であり、含水非晶質シリカを主成分とするが、粘土、火山灰、有機物等を含むのが通常である。珪藻土は、微細気孔を持ち、高吸水性であり、多湿な粘土質浄水発生土の水分調整に、かつ浄水発生土のバインダ−材として混錬しやすく、混錬後は押出機で円柱状体等に成形しやすい。また、珪藻土を加えた成形物は焼成によって多孔質で十分な強度を維持し、水浸漬時に崩壊し難く、かつ比表面積が増大する。このように珪藻土等のバインダーを用いて、成型後に焼成すると、水中で安定した固形物が形成され得る。
PSIを使用した浄水発生土は、含水率が30〜90%、通常65〜75%程度で、浄水場から搬出されることが多く、成型物は水分が通常40〜70%であるが、好ましくは20〜40%、最適には30%程度になるまで自然乾燥させ、ついで焼成する。成型物の形状、大きさは特に制限されないが、長さが5〜50mm、好ましくは10〜30mm、径が5〜30mm、好ましくは10〜15mm程度の円柱状体等のペレット、または径が3〜30mm程度の球状が好適である。焼成温度は100〜400℃、好ましくは200〜350℃である。焼成時間は、成型物の含水率、形状、大きさ、焼成温度等により異なるが、通常5〜120分程度で十分である。加熱によりPSI浄水発生土中の水酸化第二鉄の一部が非晶質の鉄酸化物に変わり、粘土粒子も非晶化することで、反応性に富んだ水酸基の生成に寄与しリン酸吸収係数が増大する(図1および図3)。一方、700〜800℃では非晶質の鉄や粘土粒子の結晶化、脱水による水酸基の消失により、リン酸吸収係数が急激に減少する(図1および図2)。同時に、活性鉄も急激に減少する(図2)。
本発明においては、上記のようにして得られるリン吸着材を用いて水処理することにより水中のリンが除去される。水処理に際してリン除去は、湖沼、河川、環境水、農業用排水、農村集落処理水、家畜汚水処理水、工場排水等に、リン吸着材を浸漬、またはリン吸着材を充填した容器に処理対象水を通水することにより達成される。使用するリン吸着材は、処理対象水の種類、リン濃度、水量等により形状や量が異なる。一般に、使用量は処理対象水のリン濃度と水量の積に比例し、形状はリン濃度が高い場合には小さくして、吸着材と処理対象水の接触面積を多く採れるようにしたものが短時間で処理が済み、リン濃度が低くても水量が多い場合には形状が大きなものを使用するほうが交換頻度が少なくてすむこと等を考慮して選定され得る。
上記の水処理方法で用いられたリン吸着材は、緩効性の土壌改良剤または肥料として再利用することができる。また、水処理方法で用いられたリン吸着材を700〜900℃程度で再焼成して、焼成材が得られるが、この焼成材は、速効性の土壌改良剤または肥料として好適である。これらの土壌改良剤または肥料は、鉄、ケイ素、ならびに可給態リンおよびク溶性リンを含有し、リン吸着材の再資源化、有効利用を可能にする。
実施例1
(製造法)
PSIを使用した埼玉県の浄水場産の発生土50kg(水分70%)に100質量部に対して秋田県産の珪藻土を10質量部添加し、回転ミキサ−で全量を混錬りした。混練した混合物を自動押出機で直径21mmの紐状とし、これを長さ約2cmに切断して円柱状体を作成した。水分含有率約30%を目安に自然乾燥後、自動温度調整式電気窯の中で、300℃で15分間焼成し、淡黄色〜褐色で、固形分約88%、かさ密度0.5g/cm3の多孔質な円柱形のリン吸着材約15kgを得た。
(リン吸着1)
得られたリン吸着材は、比表面積が150m2/gの多孔質で、リン酸吸収係数は約60g/kg以上と高く(図1)、強度を検討するために行った回転式振盪器による100rpmで30分間の振盪でも崩壊性は3%以下で、十分な強度を有していた。比較的低濃度のリンの吸着効果を検討するために、リン酸態リン(PO4-P)濃度が0.7 mg/L、1.08mg/Lの八郎潟干拓地内の農地排水、同11.4 mg/L 、21.1 mg/Lの八郎潟干拓地内の地下水、それぞれ1Lに吸着材80gを浸漬した。この浸漬試験の結果、いずれも48時間以内にほぼ全量のリンを吸着した(図4)。
(リン吸着2)
高濃度のリン吸着性能を検討するために、リン酸二水素カリウム(H2KPO4)を用いてリン酸態リン濃度100〜1000 mg/Lの供試水を調製し、それぞれの濃度の供試水1Lに対して吸着材100gを浸漬した。浸漬後は一定水温で攪拌を行わずに静置状態で保存した。所定の除去率に達するまでの所要時間は、供試水のリン濃度が高くなるにしたがって増加するが、最も高濃度であったリン濃度が1000 mg/Lの場合でも浸漬28日後には除去率が 98%以上となっていた(図5)。
(使用済みリン吸着材の再利用)
上記の高濃度に浸漬したリン吸着材はリン酸(PO基準)を3〜30g/kg吸着したことになる。この吸着材を供試水から取り出し、自動温度調整式電気窯の中で、800℃で、15分間焼成した。焼成物を微粉砕し、可給態リン酸を定法により測定したところ、吸着リンの約10%が高温焼成により可給化することが明らかになった(図6)。高温処理により吸着されていたリンが可溶化するとともに、吸着材中の鉄はリン吸着活性を著しく低下するため(図2)、肥料として施用したリンを吸着しないですむため、使用ずみリン吸着材の安全な農地還元が可能となる。
本発明によれば、環境水から処理水まで、多様な濃度域にも適用でき、複雑な再生化処理をせずに使用済み吸着材を利用し得るリン吸着材、それを用いた水処理方法、ならびにその水処理で使用されたリン吸着材を用いた土壌改良剤または肥料を提供する。

Claims (8)

  1. ポリシリカ鉄(PSI)を浄水のために使用して得られる浄水発生土にバインダーを混合
    し、成型後に焼成してなる、水中のリン吸着材。
  2. 浄水発生土の固形分100質量部に対して、バインダーを1〜50質量部混合した請求
    項1に記載のリン吸着材。
  3. バインダーが珪藻土である請求項1または2に記載のリン吸着材。
  4. 焼成温度が100〜400℃である請求項1〜3のいずれか1項に記載のリン吸着材。
  5. 焼成温度が200〜350℃である請求項4に記載のリン吸着材。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のリン吸着材を用いて、水中のリンを除去すること
    を特徴とする水処理方法。
  7. 請求項6に記載の水処理方法で用いられたリン吸着材からなる、土壌改良剤。
  8. リン吸着材を700〜900℃で再焼成して得られる、請求項7に記載の土壌改良剤。
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