JP3663745B2 - 熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は難燃性に優れ、かつ耐衝撃性、剛性、成形加工性が均衡して優れた塩素および臭素化合物を含有しない熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
プラスチックスはすぐれた機械的性質、成形加工性、電気絶縁性によって家庭電気機器、OA機器、自動車などの各部品を始めとする広範な分野で使用されている。しかしながら、プラスチックスの大半は易燃性であり、安全性の問題で難燃化に耐し種々の技術が案出されてきた。
【0003】
一般的には、難燃化効率の高い臭素化合物などのハロゲン系難燃剤と酸化アンチモンを樹脂に配合して難燃化する方法が採用されている。しかしながら、この方法は燃焼の際の 発煙量が多い等の問題点を有している。
【0004】
そこで、近年これらハロゲン系難燃剤の欠点を克服するためにハロゲンを全く含まない難燃性樹脂が強く望まれるようになった。
【0005】
PBT系アロイおよびレゾルシン型芳香族ホスフェートオリゴマーからなる熱可塑性樹脂組成物(欧州公開特許第491986号明細書)、ポリアルキレンテレフタレートとレゾルシン型芳香族ビスホスフェート、メラミンシアヌレートおよび充填剤からなる熱可塑性樹脂組成物(特開平5−70671号公報))、およびポリブチレンテレフタレートとポリカーボネート、およびレゾルシン型芳香族ビスホスフェートとからなる熱可塑性樹脂組成物(特表平6−504563号公報)などが提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
射出成型品、特に家庭用電気機器、電子機器、OA機器の部品およびそのハウジング、自動車部品用としての難燃性熱可塑性樹脂組成物は、優れた難燃性、耐衝撃性に代表される機械的特性、成形加工性を兼備していることが要求される。
【0007】
しかしながら、欧州公開特許第491986号公報、特開平5−70671号公報、特表平6−504563号公報記載の組成物は耐衝撃性が劣り満足できるものではなかった。
【0008】
本発明は樹脂本来の特性を活かしつつ、塩素および臭素化合物を使用することなく、耐衝撃性、成形時の流動性、難燃性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定量のシクロヘキサンジメタノール単位を有するコポリエステルとABS樹脂との混合物にフッ素系樹脂および特定のリン酸エステルを配合することにより、上記目的が効率的に達成されることを見出し本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は「(A) エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびテレフタル酸を主原料とする重縮合体であって、エチレングリコール単位とシクロヘキサンジメタノール単位のモル比が30/70〜95/5であるコポリエステル、ならびに
(B-1) 芳香族ビニル系単量体20〜90重量%とシアン化ビニル系単量体1〜60重量%、およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体0〜79重量%とを含有する単量体混合物99〜20重量部を、ゴム質重合体1〜80重量部にグラフト共重合してなるグラフト共重合体、及び/または
(B-2) 芳香族ビニル系単量体20〜90重量%とシアン化ビニル系単量体1〜60重量%、およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体0〜79重量%とを含有する単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体からなる樹脂組成物(イ)(ただし(A) 成分:10〜98重量%、(B-1) 成分および(B-2) 成分の和90〜2重量%である)100重量部に対し、
(C) 一般式(I)で表されるリン含有化合物4〜40重量部を配合し、
(D) フッ素系樹脂0.01〜5重量部を添加してなる熱可塑性樹脂組成物。」からなる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明において、「重量」とは「質量」を意味する。
【0012】
本発明で用いるコポリエステル(A) は市販品を入手できる。例えば、ポリ(エチレンシクロヘキサンジメチレンテレフタレート)として知られるコポリエステル材料がイーストマン・コダック社から”イースター DN003”および”イースター GN002”なる商品名で市販されている。
【0013】
本発明において用いられるコポリエステル(A) は、フェノールとテトラクロロエタンの60/40(重量比)混合溶媒中で25℃で測定したときの対数粘度が好ましくは0.4〜2.0dl/g、より好ましくは、0.6〜1.2dl/gである。
【0014】
また、本発明において用いられるコポリエステル(A) はその酸成分、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、メチルテレフタル酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−エタン、コハク酸、アジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカジオン酸、オクタデカンジカルボン酸、ダイマー酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの他のジカルボン酸で置換したものも用いることができる。
【0015】
またジオール成分についても20モル%以下、好ましくは10モル%以下の範囲で、プロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、および2,2−ビス(2’−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなどの他のジオール成分で置換したものも用いることができる。
【0016】
本発明における(B-1) グラフト共重合体とは、ゴム質重合体1〜80重量部に、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体およびその他の共重合可能な単量体からなる単量体混合物99〜20重量部をグラフト重合して得られるグラフト共重合体である。
【0017】
上記ゴム質重合体としては、ガラス転移温度が0℃以下のものが好適であり、ジエン系ゴムが好ましく用いられる。具体的にはポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体などのジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチルなどのアクリル系ゴム、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン−ジエン系三元共重合体などが挙げられる。なかでもポリブタジエンまたはブタジエン共重合体が好ましい。
【0018】
ゴム質重合体のゴム粒子径は特に制限されないが、ゴム粒子の重量平均粒子径が0.15〜0.60μm、特に0.18〜0.40μmのものが耐衝撃性、色調に優れ好ましい。
【0019】
芳香族ビニル系単量体としてはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、o−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなどが挙げられるが、特にスチレンが好ましい。
【0020】
シアン化ビニル系単量体としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどが挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0021】
また必要に応じて、グラフト共重合可能なビニル系単量体、例えばマレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸アルキルエステルなどが用いられる。さらにアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸などのα,β−不飽和カルボン酸およびその無水物、アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルなどの官能基を有するビニル系単量体を用いることで、(A)成分との相溶性が改善され、樹脂組成物の機械的特性を一層向上させることができる。
【0022】
(B-1) グラフト共重合体において重合に用いられる単量体混合物は、芳香族ビニル系単量体が20重量%以上、好ましくは22重量%以上、また90重量%以下、好ましくは80重量%以下の範囲、またシアン化ビニル系単量体が1重量%以上、好ましくは2重量%以上、また60重量%以下、好ましくは50重量%以下の範囲の含有量のものが用いられる。芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体以外に、これらと共重合可能な他のビニル系単量体を添加することができ、その量としては79重量%以下、さらに76重量%以下の配合量が好ましく用いられる。芳香族ビニル系単量体の割合が20〜90重量%の範囲をはずれた場合は、樹脂組成物の耐衝撃性が劣り好ましくない。シアン化ビニル系単量体の割合が60重量%を越える場合は、グラフト共重合体の熱安定性が著しく低下し、色調の悪い樹脂組成物となり好ましくない。
【0023】
(B-2) グラフト共重合体を得る際のゴム質重合体と単量体混合物との割合は、得られる全グラフト共重合体を100重量部とした場合、ゴム質重合体1重量部以上、好ましくは5重量部以上、また80重量部以下、好ましくは70重量部以下が用いられる。また単量体混合物は99重量部以下、好ましくは95重量部以下、また20重量部以上、好ましくは30重量部以上である。ゴム質重合体の割合は0でも本発明の目的を達成できるが、一層耐衝撃性を向上させる上で、1重量部以上が好ましく、また樹脂組成物の良好な成形品外観を得るには80重量部以下が好ましい。
【0024】
(B-1) グラフト共重合体は公知の重合法で得ることができる。例えばゴム質重合体ラテックスの存在下に単量体および連鎖移動剤の混合物と乳化剤に溶解したラジカル発生剤の溶液とを連続的に重合容器に供給して乳化重合する方法などによって得ることができる。
【0025】
(B-1) グラフト共重合体は、ゴム質重合体にグラフトした構造をとった材料の他に、グラフトしていない共重合体を含有する。(B-1) グラフト共重合体のグラフト率は特に制限がないが、耐衝撃性および光沢が均衡して優れる樹脂組成物を得るために20〜120重量%、特に30〜70重量%が好ましい。ここで、グラフト率は次式により算出される。
グラフト率(%)=<ゴム質重合体にグラフト重合したビニル系共重合体量>/<グラフト共重合体のゴム含有量>×100
【0026】
グラフトしていない共重合体の特性としては特に制限されないが、(B) グラフト共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度[η](30℃で測定)が、0.25〜0.6dl/g、特に0.30〜0.55dl/gの範囲が、優れた耐衝撃性の樹脂組成物が得られるため、好ましく用いられる。
【0027】
本発明の樹脂組成物では、必要に応じて芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体から誘導される重合構造を有するビニル系共重合体(c) が配合される。芳香族ビニル系単量体としてはスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、o−エチルスチレンなどが挙げられるが、特にスチレンが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
またシアン化ビニル系単量体としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0029】
また必要に応じて、他のビニル系単量体、例えばマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチルなどのエステル化合物などが使用できる。さらに、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸などのカルボキシル基を含有するビニル系単量体、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル、p−グリシジルスチレンなどのエポキシ基を含有するビニル系単量体、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミドなどのアミノ基または置換アミノ基を有するビニル系単量体、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテンなどのヒドロキシル基を有するビニル系単量体から誘導される重合構造を含有させることにより、(A)成分と(B−1)成分との相溶性が向上し、樹脂組成物の機械的特性を一層向上させることができる。
【0030】
ここで、単量体混合物から誘導される各成分の比は芳香族ビニル系単量体のものが、20重量%以上、好ましくは40重量%以上、また90重量%以下、好ましくは80重量%以下であり、シアン化ビニル系単量体のものが1重量%以上、好ましくは2重量%以上、また60重量%以下好ましくは50重量%以下である。他のビニル系単量体が79重量%以下、好ましくは58重量%以下である。
【0031】
次に(B-2) ビニル系共重合体について説明する。(B-2) ビニル系共重合体とは芳香族ビニル系単量体20〜90重量%とシアン化ビニル系単量体1〜60重量%、および必須成分ではないがこれらと共重合可能な他のビニル系単量体0〜79重量%とを含有する単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体である。
【0032】
(B-2) ビニル系共重合体において、芳香族ビニル系単量体に起因するものが20〜90重量%の範囲を外れた場合は樹脂組成物の耐衝撃性が悪くなる傾向がある。また、(B-2) ビニル系共重合体の分子量としては特に制限がないが、極限粘度[η](N,N−ジメチルホルムアミド溶媒、30℃測定)が0.35〜0.85dl/g、特に0.4〜0.6dl/gの範囲のものが、優れた耐衝撃性、成形加工性の樹脂組成物が得られることから好ましく用いられる。
【0033】
(B-2) ビニル系共重合体の製造法は特に制限がなく、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状−懸濁重合法、溶液−塊状重合法など通常の方法を用いることができる。
【0034】
本発明で定義される樹脂組成物(イ)は、上記で説明したコポリエステル(A) ならびにグラフト共重合体(B-1) および/またはビニル系共重合体(B-2) からなるものである。(A) 成分、(B-1) 成分および(B-2) 成分の和を100重量%とした場合、コポリエステル(A) は10重量%以上、好ましくは40重量%以上、また98重量%以下、好ましくは95重量%以下の範囲で配合される。またグラフト共重合体(B-1) およびビニル系共重合体(B-2) の少なくとも1種類の共重合体が配合され、成分(B-1) および成分(B-2) の合計が、樹脂組成物 (イ)において2重量%以上、好ましくは5重量%以上、また90重量%以下、好ましくは60重量%以下の割合で配合される。
【0035】
さらに好ましい配合量としては、2とおりのものがあり、ひとつとしては、前記の配合量とともに、樹脂組成物(イ)において、(B-2) 成分が2〜90重量%のものである。もうひとつの好ましい配合量としては、樹脂組成物(イ)において、(B-1) 成分が、2〜90重量%のものである。
【0036】
後者の場合には、グラフト共重合体(B-1) は90重量%以下、好ましくは60重量%以下、また2重量%以上、好ましくは5重量%以上の範囲で配合される。またビニル系共重合体(B-2) は88重量%以下、好ましくは55重量%以下、また0%以上、好ましくは1重量%以上、またさらに好ましくは5重量%以上の範囲となるように配合される。
【0037】
コポリエステル(A)が樹脂組成物(イ)に対して10重量%未満では難燃性、耐衝撃性が悪くなり、98重量%を越える場合は、耐衝撃性が悪くなる傾向がある。
【0038】
本発明の樹脂組成物に配合される(C) リン含有化合物とは、ポリリン酸アンモニウム、メラミン、ベンゾグアナミンなどのトリアジン系化合物で変性したポリリン酸アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ホスファゼン系化合物、赤燐などの無機系リン化合物、および下記式(I)で表されるの有機系リン化合物の混合物が挙げられる。
【0039】
【化2】
(ただし上記式R1 〜R9 は、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。またAr1 〜Ar7 は同一または相異なるフェニル基あるいはハロゲンを含有しない有機残基で置換されたフェニル基を表す。また、Yは直接結合、O、S、SO2 、C(CH3 )2 、CH2 、CHPhを表し、Phはフェニル基を表す。また、nは0以上の整数である。またk、mはそれぞれ0以上2以下の整数であり、かつk+mは0以上2以下の整数である。)
【0040】
まず前記式(I)で表される難燃剤の構造について説明する。前記式(I)の式中k、mは、それぞれ0以上2以下の整数であり、かつk+mは、0以上2以下の整数であるが、好ましくはk、mはそれぞれ0以上1以下の整数、特に好ましくはk、mはそれぞれ1である。
【0041】
またnは0以上の整数であるが、数平均重合度に換算した場合のnは0.5以上のものが好ましい。ここでnはGPC(Gel Permeation Chromatography 、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)によって測定できる。
【0042】
また前記式(I)の式中、R1 〜R9 は同一または相異なる水素または炭素数1〜5のアルキル基を表す。ここで炭素数1〜5のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2ーペンチル基、3−ペンチル基、ネオペンチル基などが挙げられるが、水素、メチル基、エチル基が好ましく、とりわけ水素が好ましい。
【0043】
またAr1 〜Ar4 は同一または相異なるフェニル基あるいはハロゲンを含有しない有機残基で置換されたフェニル基を表す。具体例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基、インデニル基、アントリル基などが挙げられるが、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、ナフチル基が好ましく、特にフェニル基、トリル基、キシリル基が好ましい。
【0044】
またXは直接結合、O、S、SO2 、C(CH3 )2 、CH2 、CHPhを表し、Phはフェニル基を表す。
【0045】
前記式(I)で表されるリン含有化合物は一般に下記化学反応式式(II)にしたがって製造される。この場合、副生成物としてトリアリールホスフェートのような低分子量ホスフェートが混入することもある。
【0046】
【化3】
(各官能基の説明は化学式(I)の場合と同じ)
【0047】
本発明で用いられる(C) リン含有化合物は必要に応じて、シアヌール酸またはイソシアヌール酸とメラミンなどのトリアジン系化合物とからなる塩を併用することで難燃性能を高めることができる。
【0048】
本発明における(C) リン含有化合物の配合量は(A) コポリエステルならびに(B-1) グラフト共重合体および/または(B-2) ビニル系共重合体からなる樹脂組成物(イ)100重量部に対し、1〜40重量部、好ましくは4〜30重量部である。(C) リン含有化合物の配合量が1重量部未満では難燃性が悪くなり、40重量部を越える場合は熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が悪くなる傾向がある。
【0049】
本発明では、必須成分ではないが、難燃性のさらなる向上の目的で、(D) フッ素系樹脂または(E) シリコーンが配合される。ここでこれらの併用も可能である。
【0050】
フッ素系樹脂とは、テトラフルオロエチレン構造を含有する重合体であり、好ましくはフッ素含量65〜76重量%、さらに好ましくは70〜76重量%を有するものである。例えばテトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、およびテトラフルオロエチレンとフッ素を含まないエチレン性不飽和モノマ−との共重合体などが挙げられる。その配合量としては樹脂組成物(イ)100重量部に対して0.01〜5重量部の範囲が好ましい。
【0051】
フッ素系樹脂の製造方法は特に制限がなく、例えば水性媒体中で、触媒ペルオキシ二硫酸ナトリウム、カリウムまたはアンモニウムを用いて、7〜71kg/cm2 の圧力下、0〜200℃の温度において、テトラフルオロエチレン等の重合を行うなどの公知の方法を用いることができる。
【0052】
フッ素系樹脂は、通常比重2.0〜2.5g/cm3,融点310〜350℃の粉末状のものが用いられるが、特に制限されない。またフッ素系樹脂の形状は任意であるが、好ましくはASTM D1457で測定された粒子径(二次)10〜600μmである粉末状のものが用いられる。
【0053】
(E) シリコーンとは、オルガノポリシロキサンであり、ジメチルシロキサンの重合体、フェニルメチルシロキサンの重合体、ジフェニルシロキサンの重合体、メチルエチルシロキサンの重合体、メチルプロピルシロキサンの重合体、さらにこれらの共重合体などが挙げられる。その配合量としては樹脂組成物(イ)100重量部に対して0.01〜5重量部の範囲が好ましい。さらに分子構造の末端または側鎖が、エポキシ基,水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、アミノ基、エーテル結合を有する有機基などによって置換された変性シリコーンも有用である。シリコーンの数平均分子量としては特に制限されないが、その下限としては200、さらに1000であることが好ましく、また上限としては、5,000,000の範囲が好ましい。シリコーンの形状としては、オイル、ガム、ワニス、粉体、ペレットなど任意のものが使用できる。
【0054】
本発明の組成物にはフェノール系樹脂が配合できる。フェノール系樹脂とは、フェノール系水酸基を複数有する高分子であれば任意であり、例えばノボラック型、レゾール型および熱反応型の樹脂、あるいはこれらを変性した樹脂があげられる。ここでフェノール類とはフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、チモール、p−tert−ブチルフェノール、tert−ブチルカテコール、カテコール、イソオイゲノール,o−メトキシフェノール,4,4´−ジヒドロキシフェニル−2、2−プロパン、サリチル酸イソアミル、サリチル酸ベンジル、サリチル酸メチル、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール等があげられる。またノボラック型、レゾール型とする際に使用されるアルデヒド類とはホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ポリエキシメチレン、トリオキサン等があげられる。フェノール系樹脂の分子量は特に限定されないが、好ましくは数平均で300〜2000であり、特に500〜1500の範囲のものが、機械的物性、成形加工性、経済性に優れ好ましい。この分子量はテトラヒドロフラン溶液、フェノール樹脂標準サンプルを使用することにより、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ法で測定することができる。フェノール樹脂を添加する場合には、得られる成形品の難燃性や機械物性の面から、樹脂組成物(イ)に対して0.1〜20重量部、さらには1〜10重量部の範囲が好ましい。多いと得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下する傾向がある。
【0055】
本発明の樹脂組成物の製造方法に関しては特に制限はなく、例えば(A) コポリエステル、(B-1) グラフト共重合体、(B-2) ビニル系共重合体、および(C) リン含有化合物ならびに必要に応じて配合される(D) フッ素系樹脂および(E) シリコーンの混合物をバンバリーミキサー、ロール、エクストルーダー、ニーダーなどで溶融混練することによって製品化される。
【0056】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、これらの配合物の他に熱可塑性樹脂を配合することができる。例えばポリフェニレンエーテル、ポリグルタルイミドなどを混合して耐衝撃性、耐熱性の改良を、またエポキシ基,カルボキシル基、酸無水物基などの官能基を含有するポリオレフィン、ポリアミドなどを混合して、耐薬品性を改良することができる。さらに必要に応じて、ガラス繊維、タルク、チタン酸カリウイスカなどの充填剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤などの各種安定剤、顔料、染料、滑剤および可塑剤などを添加することもできる。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は溶融成形されて、樹脂成形品となり用いられる。
【0058】
この樹脂成形品は、その難燃性をはじめとする特徴からOA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類に有用である。
【0059】
【実施例】
本発明をさらに具体的に説明するために、以下、実施例および比較例を挙げて説明する。なお、実施例中の部数および%はそれぞれ重量部および重量%を示す。
【0060】
参考例1(A) コポリエステル
<A−1>ジカルボン酸としてテレフタル酸が用いられ、エチレングリコール単位とシクロヘキサンジメタノール単位のモル比が70/30と推定される”イースター”GN002(イーストマン・コダック社製)使用した。
【0061】
<A−2>ジカルボン酸としてテレフタル酸が用いられ、エチレングリコール単位とシクロヘキサンジメタノール単位のモル比が30/70と推定される”イースター”DN003(イーストマン・コダック社製)使用した。
【0062】
<A−3>ポリブチレンテレフタレートであるPBT1200(東レ(株)製)を使用した。
【0063】
参考例2((B) グラフト共重合体の調製)
以下にグラフト共重合体の調製方法を示す。なおグラフト率は次の方法で求めたものである。グラフト共重合体の所定量(m)にアセトンを加え4時間還流した。この溶液を8000rpm(10,000G)30分遠心分離後、不溶分を濾過した。この不溶分を70℃で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定した。
グラフト率=[(n)−(m)×L]/[(m)×L]×100
ここでLはグラフト共重合体のゴム含有率を意味する。
【0064】
<B−1>ポリブタジエンラテックス(平均ゴム粒子径0.32μ、ゲル含率88%)60部(固形分換算)の存在下でスチレン70%、アクリロニトリル30%からなる単量体混合物40部を乳化重合した。得られたグラフト共重合体は硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和、洗浄、ろ過、乾燥してパウダー状のグラフト共重合体(B−1)を調製した。
【0065】
得られたグラフト共重合体はB−1と同じ方法で測定し、グラフト率が38%であった。このグラフト共重合体はスチレン構造単位70%およびアクリロニトリル構造単位30%からなる非グラフト性の共重合体を17%含有するものであった。またメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.37dl/gであった。
【0066】
<B−2>ポリブタジエンラテックス(平均ゴム粒子径0.21μ、ゲル含率80%)45部(固形分換算)の存在下でスチレン79%、アクリロニトリル21%からなる単量体混合物55部を乳化重合した。得られたグラフト共重合体を硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和、洗浄、ろ過、乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体(B−2)を調製した。
【0067】
得られたグラフト共重合体はグラフト率が41%であった。またこのグラフト共重合体には、スチレン構造単位79%およびアクリロニトリル構造単位21%からなる非グラフト性の共重合体を36%含有するものであった。またメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.39dl/gであった。
参考例3 (B-1) ビニル系共重合体の調製
<C−1>スチレン70%、アクリロニトリル30%の単量体混合物を懸濁重合して共重合体(C−1)を調製した。得られた共重合体はN,N−ジメチルホルムアミド可溶分の極限粘度が0.65dl/gであった。
<C−2>スチレン50%、N−フェニルマレイミド30%、アクリロニトリル20%、の単量体混合物を乳化重合して共重合体(C−2)を調製した。
【0068】
得られた共重合体はN,N−ジメチルホルムアミド可溶分の極限粘度が0.56dl/gであった。
【0069】
参考例4 (D) フッ素系樹脂またはシリコーン
<D−1>ポリテトラフルオロエチレンであるポリフロンF201(ダイキン工業(株)製)(ASTM D1457で測定の粒子径(二次)が0.5mm、融点340℃)を使用した。
<D−2>エポキシ基変性シリコーンである“トレフィル”E−601(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)を使用した。
【0070】
参考例5 (C) リン含有化合物
下記化学構造式(A)、(B)、(C)、(D)のものを使用した。
【化4】
【0071】
参考例6 (F) フェノール樹脂
ノボラック型フェノール樹脂であるPR−53195(住友デュレス(株)製)を使用した。
【0072】
実施例1〜10
参考例で示したコポリエステル、グラフト共重合体、ビニル系共重合体、フッ素系樹脂、およびリン含有化合物を表1に示した配合比で混合し、ベント付30mmφ2軸押出機で樹脂温度220℃で溶融混練、押出しを行うことによって、ペレット状のポリマを製造した。次いで射出成形機により、シリンダー温度220℃、金型温度60℃で試験片を成形し、次の条件で物性を測定した。
1/4″アイゾット衝撃強さ:ASTM D256−56A1/8″アイゾット衝撃強さ:ASTM D256−56A曲げ弾性率:ASTM D790MFR(メルトフローレート値):JIS K7210 (220℃、2160g)。大きい値を示す方が成形時の流動性良好であることを意味する。
難燃性:UL94規格に従い、垂直型燃焼テストを1/8″×1/2″×5″の燃焼試験片で行った。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
比較例1〜7
参考例で調製したコポリエステル、グラフト共重合体、ビニル系共重合体、フッ素系樹脂、およびリン酸エステルを表1に示した配合比で混合し、実施例と同様の方法で各物性を測定した。但し、比較例6は樹脂温度250℃で溶融混練、押出しを行ない、シリンダー温度250℃、金型温度60℃で試験片を成形した。測定結果を表2に示した。
【0076】
表2の結果から次のことが明らかである。本発明の樹脂組成物(実施例1〜10)はいずれも耐衝撃性、流動性(MFR値)および難燃性が均衡してすぐれる。一方、コポリエステル(A) の配合量が98重量%を越える場合(比較例1)は剛性が劣り、10重量%少ない場合(比較例2)は難燃性が劣り好ましくない。リン含有化合物(c) の配合量が1重量部未満の場合(比較例4)は難燃性が劣り、40重量部を越える場合(比較例5)は耐衝撃性が悪くなり好ましくない。また、本発明以外のポリエステルを使用した場合(比較例6)は耐衝撃性が悪くなり好ましくない。
【0077】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、臭素および塩素化合物を必ずしも必要とせず、すぐれた難燃性、耐衝撃性、剛性、成形時の流動性をもつものである。
Claims (4)
- (A) エチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびテレフタル酸を主原料とする重縮合体であって、エチレングリコール単位とシクロヘキサンジメタノール単位のモル比が30/70〜95/5であるコポリエステル、ならびに
(B-1) 芳香族ビニル系単量体20〜90重量%とシアン化ビニル系単量体1〜60重量%、およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体0〜79重量%とを含有する単量体混合物99〜20重量部を、ゴム質重合体1〜80重量部にグラフト共重合してなるグラフト共重合体、及び/または
(B-2) 芳香族ビニル系単量体20〜90重量%とシアン化ビニル系単量体1〜60重量%、およびこれらと共重合可能な他のビニル系単量体0〜79重量%とを含有する単量体混合物を共重合してなるビニル系共重合体からなる樹脂組成物(イ)(ただし(A) 成分:10〜98重量%、(B-1) 成分および(B-2) 成分の和90〜2重量%である)100重量部に対し、
(C) 下記一般式(I)で表されるリン含有化合物4〜40重量部を配合し、
(D) フッ素系樹脂0.01〜5重量部を添加してなる熱可塑性樹脂組成物。
- 樹脂組成物(イ)100重量部に対し、フェノール樹脂(F)0.1〜20重量部をさらに添加してなる請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 一般式(I)で表される化合物の式中、k、mがそれぞれ1である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 一般式(I)で表わされる化合物の式中、Ar1 〜Ar4 が同一または相異なるフェニル、トリル、キシリル基である請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
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