JP3660743B2 - 高速車両のパンタグラフ用低騒音舟体 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、走行する鉄道車両などの屋根に設置され、架線に下方から接触して車両内へ電流を取込むための集電装置、特に高速車両のパンタグラフ用低騒音舟体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、電気鉄道車両は、空中に張架された架線に、車両の屋根に取付けられたパンタグラフなどの集電装置の舟体を接触させ、摺動させながら集電して走行に必要な電力の供給を受ける集電方式を採用している。パンタグラフ、特にその舟体は、車両の屋根の上に、ほとんどの場合は車両の進行方向と直交する側である車両の幅方向に長く配置されているので、車両が高速度で走行すると風切り音や、エオルス音などの空力騒音等の原因となりやすい。空力騒音は、速度の6乗に比例するため、速度向上のためには空力騒音を低減する必要がある。
【0003】
集電装置、特に舟体の発生する騒音を低減する先行技術は、たとえば特開平7−87610や、特開平7−143605などに開示されている。特開平7−87610では、舟体の断面形状を中央領域では長方形に成形し、側方領域では進行方向の前後方向に凸の形状とすることによって、低空力音化を図っている。特開平7−143605の先行技術では、舟体の断面形状を、楕円ないしは楕円に類似した楕円様形状として低騒音化を図り、上部は集電機の特性上、架線と摺動するため平坦にすることによって、揚力特性の改善と、空力騒音の低減を図っている。
【0004】
図8は、空力騒音の発生程度を測定するための装置の概略的な構成を示す。舟体をモデル化した試料1は、風洞出口2の水平方向中心軸3上に、取付部材4を用いて固定される。矢符5に示す方向に、風洞出口2から風を吹き出させると、図8(1)および図8(2)の右方から左方へ流れる一様な空気流が生じる。試料1の中心を通り、水平方向中心軸3と直交する鉛直軸6上に試料1から発生する空力騒音を集音するマイク7を配置する。マイク7で集音された騒音は、音圧レベルの周波数に対する分布が計測される。
【0005】
図9は、図8の試料1として、典型的な断面形状に対応する棒材を用いたときの騒音の周波数特性を示す。図9(1)は、或る舟体断面の周波数特性の一例を示す。たとえば、1000Hzの周波数でピークが生じ、この音が空力騒音として騒音になる。図9(2)は、アスペクト比、すなわち長径と短径との比が1.5:1の楕円断面の場合の騒音の周波数分布を示す。200〜900Hzの範囲で音圧レベルが相対的に高くなっている。図9(1),(2)は要素試験の一例を示したものであるが、断面の大きさ、風速が変わった場合にも、周波数や音圧レベルは異なるが同様の様相を示すので、これらが空力騒音の原因となることが判る。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
先行技術によるパンタグラフの舟体の低騒音化は、たとえば図9(2)および後述する図4に示すように、まだ充分なレベルに達していない。新幹線などに代表される高速鉄道車両では、車両速度の向上が進められると同時に、速度上昇に伴う騒音をより低減することが要求されている。また、車両の高速化に伴い、舟体に発生する揚力による架線への接触圧への影響が大きくなっている。
【0007】
本発明の目的は、パンタグラフの舟体として必要な揚力特性などを犠牲にすることなく低騒音化が可能な、高速車両のパンタグラフ用低騒音舟体を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、高速走行時に発生する空力騒音を低減することができる高速車両のシングルアーム式パンタグラフ用低騒音舟体であって、
走行方向に垂直な断面形状は、概略的に走行方向を長軸とする楕円または長円であり、該長軸の上部には平坦面が設けられて架線との接触を行うすり板が搭載され、
走行方向の前後両端で上下方向ほぼ中央の位置に、1列に平面視で三角形の切込みが舟体の幅方向に沿って複数形成されており、前記断面形状は、前記走行方向についての長さと、該走行方向に垂直な方向の厚さとのアスペクト比が0.8:1から5:1までの範囲であることを特徴とする高速車両のパンタグラフ用低騒音舟体である。
本発明に従えば、走行方向の前後両側に、上下方向の切込みが幅方向に沿って舟体に複数形成される。舟体が高速度で空気中を移動すると、舟体の表面に沿って流れる空気にカルマン渦が生じ、断面形状が幅方向に一様であるとカルマン渦の発生も一様となり、特定の周波数の成分が強調されてエオルス音という空力騒音が発生しやすい。複数の切込みを形成することによって、舟体の幅方向でカルマン渦の発生が抑えられ騒音の低減を図ることができる。
また、舟体の切込み形成前の断面形状は、概略的に楕円または長円であるので、高速走行する際の揚力特性を満たしやすく、平面視三角形で、舟体の走行方向の両端で上下方向のほぼ中央の位置に、平面視で三角形となる切込みを形成することによってさらに騒音の低減を図ることができる。
また、舟体の断面形状の走行方向についての長さと、走行方向に垂直な方向の厚さとのアスペクト比が0.8:1から5:1までの範囲であるので、実用的な舟体としての強度の確保と騒音低減とを図ることができる。
【0009】
また本発明の前記切込みの前記走行方向への深さは、前記断面形状の該走行方向についての長さの1/12以上で1/3以下の範囲内であることを特徴とする。
本発明に従えば、走行方向への切込みの深さが断面形状の長さの1/12以上あるので、断面形状の充分な変化を得ることができる。また、切込みの深さは長さの1/3以下であるので、舟体として必要な強度を確保することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の第1形態による舟体10の構成を示す。図1(1)は平面図、図1(2)は正面図、図1(3)は図1(2)の切断面線I−Iから見た断面図をそれぞれ示す。舟体10の上部には、架線との接触を行うすり板11が設けられる。すり板11は、舟体10の上面に形成されている溝内に挿入され、図示を省略したばねによって上方に付勢され、架線に押付けられる。架線に対するすり板11の押付力は、集電を確実にする上からは大きい方がよいが架線を持ち上げてしまう。架線の摩耗を避ける点からは小さい方がよいが離線のおそれがある。さらに、車両が高速度で走行すると舟体10の揚力の影響で、すり板11を架線側に押付ける力が変化する。押付力は標準が5.5kgf、許容値は3〜15kgf程度の範囲である。本実施の形態の舟体10の断面形状は、走行方向を長軸とする楕円に切込みを入れた形状を基本としている。上部は平坦とし、すり板11を搭載し、通常の走行条件下では揚力が0ないしは若干正の値をとるように形状を設定する。
【0013】
舟体10の幅方向、すなわち車両の走行方向である進行方向に垂直な方向の左右の両側には、舟体10の幅より外側位置の架線を滑らかに舟体10へ導く役割を有するホーン12が設けられる。本実施の形態では、進行方向の前後から、複数の切込み13が舟体10に形成される。さらに、ホーン12に対しても、切込み14が進行方向の前後から形成される。
【0014】
図2は、図1の舟体10を備えるパンタグラフの正面構成を示す。舟体10は、舟体支持部材15を介して支柱16の上支柱17によって支持される。支柱16は、側面状態で「く」の字状に屈曲する上支柱17および下支柱18によって形成される。上支柱17と下支柱18との間を関節として屈曲することによって、舟体10の高さが変わり、すり板11が接触する架線の高さが変動しても、追従することができる。支柱16の下支柱18は、支持枠19によって支えられている。支持枠19は、電気絶縁用のガイシ20を介して車両21の屋根に固定される。このパンタグラフでは、空気による抵抗と騒音発生とを極力防止するため、支柱16内にばねやリンク装置などを収納し、できるだけ単純な外観形状となるように構成されている。
【0015】
図3は、図1の実施形態における切込み13の効果を示す。前述の図8に示すような試験装置で、試料として1:1.5の楕円形状の棒材を用いるときの騒音測定結果を実線で示し、楕円形状の長軸側の前後に切込み13を形成する試料についての測定結果を二点鎖線で示す。周波数が100〜1000Hzの範囲では、切込みによる騒音低減の効果が著しい。特に、900Hz付近のピークが解消されていることが判る。この理由としては、切込み13を形成することによって、舟体10の断面に沿って流れる空気に同一断面の延長物ではカルマン渦を生じるが、切込みがある場合にはこの作用によってカルマン渦が生じないためピークが低下すると考えられる。
【0016】
図4は、上側を平坦にした楕円形状の舟体に対応する試料についての空力騒音測定結果を示す。上側を平坦にすることによって、図3の実線に示す場合よりは騒音は低下するけれども、約1000Hzの周波数にピークが残り、図3の二点鎖線で示す程の低減効果はない。特開平7−143605の先行技術のように上側を平坦にすることよりも、進行方向の前後から切込みをいれることによってより一層騒音の低減を図ることができる。
【0017】
なお、図1に示す舟体10の進行方向の長さLと、厚さH方向の比であるアスペクト比L:Hは、0.8:1〜5:1の範囲であることが好ましい。特に、図3に1:1.5楕円柱での効果を示すように、アスペクト比としては1.5:1程度であれば充分な揚力特性と、騒音低減特性との兼合いが得られる。
【0018】
図5は、本発明の実施の第2形態による舟体30の構成を示す。図5(1)は平面図、図5(2)は正面図、図5(3)は図5(2)の切断面線V−Vから見た断面図をそれぞれ示す。舟体30の上部の中央にはすり板31が設けられ、幅方向の両側にはホーン32が設けられる。本実施形態では、舟体30の断面形状の基本となる楕円に切込みを入れた形状が、中央で面積が大きく、幅方向の両側で面積が小さくなるように滑らかに変化する。さらに、舟体30の進行方向の前後からは、複数の切欠き33が形成されている。本実施形態では、ホーン32については切欠きを形成していない。本実施形態のように、舟体30の前後両側から切込み33を形成するだけでも、騒音低減の効果を得ることができる。
【0019】
図6は、本発明のさらに他の実施形態による舟体の断面形状を示す。図6(1)は、図1の実施形態を示す。図6(2)の舟体40は、切込み41を内側に凸の円弧状に形成する。たとえば、切込み41を円周方向に回転する刃物で舟体40を切込んで形成するような場合に、このような形状の切込み41であれば容易に形成することができる。図6(3)は、舟体50に対して外に凸となる円弧状の切込み51が形成されている場合を示す。このような切込み51は、舟体50側を中心軸線まわりに回転させながら、固定された刃物で切込み51を切削する場合に容易に形成することができる。図6(4)、図6(5)および図6(6)は、舟体60,70,80に直線状の切込み61,71,81をそれぞれ形成する場合を示す。ただし、各切込み61,71,81は、図6(1)の切込み13のように互いに平行ではなく、傾斜している。それぞれの切込みは、強度と空力騒音の低減および揚力特性等の兼合いで適宜選択することができる。
【0020】
図7は、舟体の切込みについての平面形状を示す。図7(1)は、舟体100に対して進行方向前方側からの切込み101と、後方側からの切込み102との形状が交互に位相がずれて、一方の山101a,102aと他方の谷102b,101bとが対応している状態を示す。図7(2)は、舟体110の前方側からの切込み111と、後方側からの切込み112とが中心線110cに対して対称となっている状態を示す。図7(3)では、舟体120の前後からの切込み121,122が、それぞれ間欠的に形成されている状態を示す。図7(4)では、舟体130の前後の切込み131,132の幅W4が、たとえば切込み深さDの2倍である。図7(1)〜図7(3)では、幅W1,W2,W3は、切込み深さDと同程度に表しているが、これらの関係に限定されるものではない。また切込みピッチは不等ピッチでも、同様の効果が得られる。
【0021】
なお、図2では、パンタグラフを支える支柱16が見かけ上、1本であるように構成されているけれども、他の形状のパンタグラフであっても、本実施形態の舟体を用いて同様に空力騒音の低減を図ることができる。
【0022】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、舟体の走行方向の両側に設ける複数の切込みによって、車両が高速で走行するときの風切り音やエオルス音などの空力騒音を低減することができる。
また、切込み形成前の舟体の断面形状は、概略的に楕円または長円であるので、適切な空力特性を得ることができ、さらに切込みによって騒音低減を図ることができる。
【0023】
また本発明によれば、切込みの深さは、舟体の断面形状の走行方向についての長さの1/12以上で1/3以下の範囲内であるので、騒音低減効果を有し、舟体としての必要強度も確保することができる。
【0025】
また本発明によれば、舟体の走行方向についての長さと、走行方向に垂直な方向の厚さとのアスペクト比が0.8:1から5:1までの範囲であるので、低騒音特性と適切な揚力特性とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の第1形態による舟体の平面図、正面図および側断面図である。
【図2】図1の実施形態の舟体10を含むパンタグラフの正面図である。
【図3】図1の実施形態の舟体による騒音低減効果を示すグラフである。
【図4】先行技術の舟体形状から発生する騒音を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の第2形態による舟体30の正面図および側断面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態の舟体の側面図である。
【図7】本発明のさらに他の実施形態による舟体の平面図である。
【図8】舟体に対応する試料から発生する空力騒音を計測する装置の正面図および平面図である。
【図9】図8の計測装置によって測定された従来の舟体形状から発生する騒音を示すグラフである。
【符号の説明】
10,30,40,50,60,70,80,100,110,120,130 舟体
11,31 すり板
12,32 ホーン
13,14,33,41,51,61,71,81,101,102,111,112,121,122,131,132 切込み
16 支柱
20 ガイシ
21 車両
【発明の属する技術分野】
本発明は、走行する鉄道車両などの屋根に設置され、架線に下方から接触して車両内へ電流を取込むための集電装置、特に高速車両のパンタグラフ用低騒音舟体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、電気鉄道車両は、空中に張架された架線に、車両の屋根に取付けられたパンタグラフなどの集電装置の舟体を接触させ、摺動させながら集電して走行に必要な電力の供給を受ける集電方式を採用している。パンタグラフ、特にその舟体は、車両の屋根の上に、ほとんどの場合は車両の進行方向と直交する側である車両の幅方向に長く配置されているので、車両が高速度で走行すると風切り音や、エオルス音などの空力騒音等の原因となりやすい。空力騒音は、速度の6乗に比例するため、速度向上のためには空力騒音を低減する必要がある。
【0003】
集電装置、特に舟体の発生する騒音を低減する先行技術は、たとえば特開平7−87610や、特開平7−143605などに開示されている。特開平7−87610では、舟体の断面形状を中央領域では長方形に成形し、側方領域では進行方向の前後方向に凸の形状とすることによって、低空力音化を図っている。特開平7−143605の先行技術では、舟体の断面形状を、楕円ないしは楕円に類似した楕円様形状として低騒音化を図り、上部は集電機の特性上、架線と摺動するため平坦にすることによって、揚力特性の改善と、空力騒音の低減を図っている。
【0004】
図8は、空力騒音の発生程度を測定するための装置の概略的な構成を示す。舟体をモデル化した試料1は、風洞出口2の水平方向中心軸3上に、取付部材4を用いて固定される。矢符5に示す方向に、風洞出口2から風を吹き出させると、図8(1)および図8(2)の右方から左方へ流れる一様な空気流が生じる。試料1の中心を通り、水平方向中心軸3と直交する鉛直軸6上に試料1から発生する空力騒音を集音するマイク7を配置する。マイク7で集音された騒音は、音圧レベルの周波数に対する分布が計測される。
【0005】
図9は、図8の試料1として、典型的な断面形状に対応する棒材を用いたときの騒音の周波数特性を示す。図9(1)は、或る舟体断面の周波数特性の一例を示す。たとえば、1000Hzの周波数でピークが生じ、この音が空力騒音として騒音になる。図9(2)は、アスペクト比、すなわち長径と短径との比が1.5:1の楕円断面の場合の騒音の周波数分布を示す。200〜900Hzの範囲で音圧レベルが相対的に高くなっている。図9(1),(2)は要素試験の一例を示したものであるが、断面の大きさ、風速が変わった場合にも、周波数や音圧レベルは異なるが同様の様相を示すので、これらが空力騒音の原因となることが判る。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
先行技術によるパンタグラフの舟体の低騒音化は、たとえば図9(2)および後述する図4に示すように、まだ充分なレベルに達していない。新幹線などに代表される高速鉄道車両では、車両速度の向上が進められると同時に、速度上昇に伴う騒音をより低減することが要求されている。また、車両の高速化に伴い、舟体に発生する揚力による架線への接触圧への影響が大きくなっている。
【0007】
本発明の目的は、パンタグラフの舟体として必要な揚力特性などを犠牲にすることなく低騒音化が可能な、高速車両のパンタグラフ用低騒音舟体を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、高速走行時に発生する空力騒音を低減することができる高速車両のシングルアーム式パンタグラフ用低騒音舟体であって、
走行方向に垂直な断面形状は、概略的に走行方向を長軸とする楕円または長円であり、該長軸の上部には平坦面が設けられて架線との接触を行うすり板が搭載され、
走行方向の前後両端で上下方向ほぼ中央の位置に、1列に平面視で三角形の切込みが舟体の幅方向に沿って複数形成されており、前記断面形状は、前記走行方向についての長さと、該走行方向に垂直な方向の厚さとのアスペクト比が0.8:1から5:1までの範囲であることを特徴とする高速車両のパンタグラフ用低騒音舟体である。
本発明に従えば、走行方向の前後両側に、上下方向の切込みが幅方向に沿って舟体に複数形成される。舟体が高速度で空気中を移動すると、舟体の表面に沿って流れる空気にカルマン渦が生じ、断面形状が幅方向に一様であるとカルマン渦の発生も一様となり、特定の周波数の成分が強調されてエオルス音という空力騒音が発生しやすい。複数の切込みを形成することによって、舟体の幅方向でカルマン渦の発生が抑えられ騒音の低減を図ることができる。
また、舟体の切込み形成前の断面形状は、概略的に楕円または長円であるので、高速走行する際の揚力特性を満たしやすく、平面視三角形で、舟体の走行方向の両端で上下方向のほぼ中央の位置に、平面視で三角形となる切込みを形成することによってさらに騒音の低減を図ることができる。
また、舟体の断面形状の走行方向についての長さと、走行方向に垂直な方向の厚さとのアスペクト比が0.8:1から5:1までの範囲であるので、実用的な舟体としての強度の確保と騒音低減とを図ることができる。
【0009】
また本発明の前記切込みの前記走行方向への深さは、前記断面形状の該走行方向についての長さの1/12以上で1/3以下の範囲内であることを特徴とする。
本発明に従えば、走行方向への切込みの深さが断面形状の長さの1/12以上あるので、断面形状の充分な変化を得ることができる。また、切込みの深さは長さの1/3以下であるので、舟体として必要な強度を確保することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の第1形態による舟体10の構成を示す。図1(1)は平面図、図1(2)は正面図、図1(3)は図1(2)の切断面線I−Iから見た断面図をそれぞれ示す。舟体10の上部には、架線との接触を行うすり板11が設けられる。すり板11は、舟体10の上面に形成されている溝内に挿入され、図示を省略したばねによって上方に付勢され、架線に押付けられる。架線に対するすり板11の押付力は、集電を確実にする上からは大きい方がよいが架線を持ち上げてしまう。架線の摩耗を避ける点からは小さい方がよいが離線のおそれがある。さらに、車両が高速度で走行すると舟体10の揚力の影響で、すり板11を架線側に押付ける力が変化する。押付力は標準が5.5kgf、許容値は3〜15kgf程度の範囲である。本実施の形態の舟体10の断面形状は、走行方向を長軸とする楕円に切込みを入れた形状を基本としている。上部は平坦とし、すり板11を搭載し、通常の走行条件下では揚力が0ないしは若干正の値をとるように形状を設定する。
【0013】
舟体10の幅方向、すなわち車両の走行方向である進行方向に垂直な方向の左右の両側には、舟体10の幅より外側位置の架線を滑らかに舟体10へ導く役割を有するホーン12が設けられる。本実施の形態では、進行方向の前後から、複数の切込み13が舟体10に形成される。さらに、ホーン12に対しても、切込み14が進行方向の前後から形成される。
【0014】
図2は、図1の舟体10を備えるパンタグラフの正面構成を示す。舟体10は、舟体支持部材15を介して支柱16の上支柱17によって支持される。支柱16は、側面状態で「く」の字状に屈曲する上支柱17および下支柱18によって形成される。上支柱17と下支柱18との間を関節として屈曲することによって、舟体10の高さが変わり、すり板11が接触する架線の高さが変動しても、追従することができる。支柱16の下支柱18は、支持枠19によって支えられている。支持枠19は、電気絶縁用のガイシ20を介して車両21の屋根に固定される。このパンタグラフでは、空気による抵抗と騒音発生とを極力防止するため、支柱16内にばねやリンク装置などを収納し、できるだけ単純な外観形状となるように構成されている。
【0015】
図3は、図1の実施形態における切込み13の効果を示す。前述の図8に示すような試験装置で、試料として1:1.5の楕円形状の棒材を用いるときの騒音測定結果を実線で示し、楕円形状の長軸側の前後に切込み13を形成する試料についての測定結果を二点鎖線で示す。周波数が100〜1000Hzの範囲では、切込みによる騒音低減の効果が著しい。特に、900Hz付近のピークが解消されていることが判る。この理由としては、切込み13を形成することによって、舟体10の断面に沿って流れる空気に同一断面の延長物ではカルマン渦を生じるが、切込みがある場合にはこの作用によってカルマン渦が生じないためピークが低下すると考えられる。
【0016】
図4は、上側を平坦にした楕円形状の舟体に対応する試料についての空力騒音測定結果を示す。上側を平坦にすることによって、図3の実線に示す場合よりは騒音は低下するけれども、約1000Hzの周波数にピークが残り、図3の二点鎖線で示す程の低減効果はない。特開平7−143605の先行技術のように上側を平坦にすることよりも、進行方向の前後から切込みをいれることによってより一層騒音の低減を図ることができる。
【0017】
なお、図1に示す舟体10の進行方向の長さLと、厚さH方向の比であるアスペクト比L:Hは、0.8:1〜5:1の範囲であることが好ましい。特に、図3に1:1.5楕円柱での効果を示すように、アスペクト比としては1.5:1程度であれば充分な揚力特性と、騒音低減特性との兼合いが得られる。
【0018】
図5は、本発明の実施の第2形態による舟体30の構成を示す。図5(1)は平面図、図5(2)は正面図、図5(3)は図5(2)の切断面線V−Vから見た断面図をそれぞれ示す。舟体30の上部の中央にはすり板31が設けられ、幅方向の両側にはホーン32が設けられる。本実施形態では、舟体30の断面形状の基本となる楕円に切込みを入れた形状が、中央で面積が大きく、幅方向の両側で面積が小さくなるように滑らかに変化する。さらに、舟体30の進行方向の前後からは、複数の切欠き33が形成されている。本実施形態では、ホーン32については切欠きを形成していない。本実施形態のように、舟体30の前後両側から切込み33を形成するだけでも、騒音低減の効果を得ることができる。
【0019】
図6は、本発明のさらに他の実施形態による舟体の断面形状を示す。図6(1)は、図1の実施形態を示す。図6(2)の舟体40は、切込み41を内側に凸の円弧状に形成する。たとえば、切込み41を円周方向に回転する刃物で舟体40を切込んで形成するような場合に、このような形状の切込み41であれば容易に形成することができる。図6(3)は、舟体50に対して外に凸となる円弧状の切込み51が形成されている場合を示す。このような切込み51は、舟体50側を中心軸線まわりに回転させながら、固定された刃物で切込み51を切削する場合に容易に形成することができる。図6(4)、図6(5)および図6(6)は、舟体60,70,80に直線状の切込み61,71,81をそれぞれ形成する場合を示す。ただし、各切込み61,71,81は、図6(1)の切込み13のように互いに平行ではなく、傾斜している。それぞれの切込みは、強度と空力騒音の低減および揚力特性等の兼合いで適宜選択することができる。
【0020】
図7は、舟体の切込みについての平面形状を示す。図7(1)は、舟体100に対して進行方向前方側からの切込み101と、後方側からの切込み102との形状が交互に位相がずれて、一方の山101a,102aと他方の谷102b,101bとが対応している状態を示す。図7(2)は、舟体110の前方側からの切込み111と、後方側からの切込み112とが中心線110cに対して対称となっている状態を示す。図7(3)では、舟体120の前後からの切込み121,122が、それぞれ間欠的に形成されている状態を示す。図7(4)では、舟体130の前後の切込み131,132の幅W4が、たとえば切込み深さDの2倍である。図7(1)〜図7(3)では、幅W1,W2,W3は、切込み深さDと同程度に表しているが、これらの関係に限定されるものではない。また切込みピッチは不等ピッチでも、同様の効果が得られる。
【0021】
なお、図2では、パンタグラフを支える支柱16が見かけ上、1本であるように構成されているけれども、他の形状のパンタグラフであっても、本実施形態の舟体を用いて同様に空力騒音の低減を図ることができる。
【0022】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、舟体の走行方向の両側に設ける複数の切込みによって、車両が高速で走行するときの風切り音やエオルス音などの空力騒音を低減することができる。
また、切込み形成前の舟体の断面形状は、概略的に楕円または長円であるので、適切な空力特性を得ることができ、さらに切込みによって騒音低減を図ることができる。
【0023】
また本発明によれば、切込みの深さは、舟体の断面形状の走行方向についての長さの1/12以上で1/3以下の範囲内であるので、騒音低減効果を有し、舟体としての必要強度も確保することができる。
【0025】
また本発明によれば、舟体の走行方向についての長さと、走行方向に垂直な方向の厚さとのアスペクト比が0.8:1から5:1までの範囲であるので、低騒音特性と適切な揚力特性とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の第1形態による舟体の平面図、正面図および側断面図である。
【図2】図1の実施形態の舟体10を含むパンタグラフの正面図である。
【図3】図1の実施形態の舟体による騒音低減効果を示すグラフである。
【図4】先行技術の舟体形状から発生する騒音を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の第2形態による舟体30の正面図および側断面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態の舟体の側面図である。
【図7】本発明のさらに他の実施形態による舟体の平面図である。
【図8】舟体に対応する試料から発生する空力騒音を計測する装置の正面図および平面図である。
【図9】図8の計測装置によって測定された従来の舟体形状から発生する騒音を示すグラフである。
【符号の説明】
10,30,40,50,60,70,80,100,110,120,130 舟体
11,31 すり板
12,32 ホーン
13,14,33,41,51,61,71,81,101,102,111,112,121,122,131,132 切込み
16 支柱
20 ガイシ
21 車両
Claims (2)
- 高速走行時に発生する空力騒音を低減することができる高速車両のシングルアーム式パンタグラフ用低騒音舟体であって、
走行方向に垂直な断面形状は、概略的に走行方向を長軸とする楕円または長円であり、該長軸の上部には平坦面が設けられて架線との接触を行うすり板が搭載され、
走行方向の前後両端で上下方向ほぼ中央の位置に、1列に平面視で三角形の切込みが舟体の幅方向に沿って複数形成されており、前記断面形状は、前記走行方向についての長さと、該走行方向に垂直な方向の厚さとのアスペクト比が0.8:1から5:1までの範囲であることを特徴とする高速車両のパンタグラフ用低騒音舟体。 - 前記切込みの前記走行方向への深さは、前記断面形状の該走行方向についての長さの1/12以上で1/3以下の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の高速車両のパンタグラフ用低騒音舟体。
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