JP3873184B2 - 集電装置の防風カバー - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄道車両用の集電装置の防風カバーに係り、特に鉄道車両の屋根上に複数の集電装置を配置した場合の防風カバーに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の鉄道車両の集電装置の騒音の抑制は、集電装置周囲の流れを整流し、流れの剥離を小さくすることにより空力騒音を低減する手法が主であった。例えば、特開平8−98306号公報に記載の「集電装置の防風カバー」のように、集電装置の周りを防風カバーで囲むことにより、音源である碍子部分に当る空気流の流速を低減し、空力騒音を低減している。さらに、防風カバーの形状を滑らかな流線形にすることにより、防風カバー自体の空力騒音を低減している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
鉄道車両に搭載されている集電装置から発生する騒音は、列車の高速化に伴い急激に増加する傾向にある。特開平8−98306号公報に記載の集電装置では、集電装置からの騒音を低減するため、集電装置周囲の流れを遮蔽して騒音を低減してきた。しかし、高速化とともに、防風カバーに働く流体力の増加や防風カバー自身から発生する空力騒音が増加してきているため、高速化に伴い騒音低減効果が低減してきている。この問題を解決するため、防風カバーの形状を流線形化する工夫もされているが、集電装置の場合、集電装置と防風カバーとの間に電気的な絶縁を確保するための一定の空気絶縁距離(絶縁離隔)が必要であるため、防風カバーと集電装置の間に空隙ができるので、形状の流線形化には限界がある。
【0004】
特に電力条件の異なる地域における鉄道の相互乗り入れを行う場合、電力条件の異なる仕様の集電装置を複数搭載する必要がある。たとえばドイツ・オランダ間を走行する高速車両の場合、ドイツ国内とオランダでは送電電力条件(交直の別、サイクル、電圧等)が異なるため、電力条件にあわせた複数の集電装置を搭載する必要がある。また、車両の走行時の集電性能、架線の摩耗状況、架線の設置状況等を調査することを目的とした検査用車両では、走行用の集電装置と検査用集電装置を搭載する必要がある。これらの複数の集電装置を異なる車両に分けて搭載することも可能であるが、騒音源である集電装置の分散は望ましくないこと、集電装置搭載車両が増えるとメンテナンスや車両運用の面で問題が生じることから複数の集電装置を一両に搭載することが望まれている。
【0005】
また、一般的に流体力や空力騒音の小さな形状は進行方向に対して、形状が前後に非対称なことが多いため、集電装置の形状を進行方向に対して前後非対称にし、進行方向毎に形状の異なる集電装置を利用する運行形態も考えられる。このように集電装置を一台の車両に複数搭載した車両において、空力騒音が小さく、かつ集電装置に働く流体力が集電性能を悪化させないような防風カバーが車両の開発、運用において有効な手段となり、その開発が望まれている。
【0006】
しかし、複数の集電装置を一箇所に搭載する場合、集電装置を配置するスペースが大きくなる。集電装置の周囲には前記絶縁離隔をおいて防風カバーが配置されるから、防風カバーも大型化する。例えば、図2に示すように、2台の集電装置3,3′を前後に並べて配置し、その周りを防風カバー4で囲むと、防風カバーで囲まれた集電装置設置用のスペース(空気絶縁セル7あるいはキャビティという)は前後に長くなる。それに伴なって集電装置前方の防風カバー後端と集電装置後方の防風カバー前端の間隔がひろがり、集電装置前方の防風カバーで前方側の集電装置から外らされた空気流が後方側の集電装置の位置で空気絶縁セル内に回り込み、結果的に騒音が増加する傾向にある。たとえば、空気絶縁距離を最小限に保った、可能な限り小型の空隙を有する防風カバーを使用しても、集電装置を2台前後に並べて搭載した場合、集電装置を1台搭載した防風カバーに比べ騒音が増大することが実験により確認されている。また、集電装置前方の防風カバー後端と集電装置後方の防風カバー前端の間隔が大きくなると、走行方向に対して後ろ側に設置された集電装置では、集電を行うための舟体周囲の空気の流れが不安定になり、予測不能な流体変動力が舟体に働き、舟体が離線して集電が行えないなどの問題が発生する。
【0007】
本発明の課題は、複数の集電装置を有する鉄道車両において、集電装置及び防風カバーの騒音を低減するとともに、集電装置に働く流体力が集電に好適な条件となるようにすることである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
先に述べたように、複数の集電装置を車両屋根上に、車両の進行方向に前後に並べて搭載する場合は、空気絶縁のための空隙の大きさが大きくなり、車両進行方向前方側の集電装置部では騒音、集電性能に好適な空気の流れ場を保つことができても、下流側の集電装置付近では、前方で剥離した流れが、屋根面に付着したり、乱流を発生させるため、騒音、集電性能が悪化する。
【0009】
本発明は、この問題を解決するため、空気絶縁セルを車両の進行方向に複数に分割するための隔壁を防風カバーの内部に車両幅方向に設ける。この車両幅方向に配置される隔壁で分割された各空気絶縁セルは、それぞれ1基の集電装置を収容し、各々の集電装置に対して、必要な空気絶縁距離を有する。空気絶縁セルを車両の進行方向に複数に分割する隔壁を設けることにより、一旦屋根面から剥離した流れが屋根面に再付着することを隔壁により防ぎ、各空気絶縁セル周囲の流れが、集電装置が一基の場合と大きく変らなくなる。これにより複数の集電装置を備えた場合でも後方の集電装置に当る空気流の乱れが抑制され、騒音の増加が抑えられる。また、空気流が安定するので、集電装置に働く空気流の流体力が舟体を押し上げる方向、つまり舟体を架線に押しつける方向に安定し、集電性能を良好にすることが可能になる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図1から図14を用いて説明する。
【0011】
図1に本発明の第1の実施の形態の斜視図を示す。本実施の形態は、車両1の屋根上に、架線2と接触して車両に電力を供給する集電装置3及び3′が、車両の進行方向に前後に並べて設置され、この2台の集電装置を一つの防風カバー4で囲む場合を示す。集電時、集電装置3,3′は高電位下にあり、車体1は碍子3aにより電気的に絶縁されている。碍子を介さない場合、車体側の部材は集電装置3と一定の距離だけ離し、空気絶縁により電気的に絶縁する。したがって、2台の集電装置3及び3′と、その周囲に設置された防風カバー4との間に空気絶縁のための空隙を必要とする。本実施の形態では、この空気絶縁層が、集電装置3,3′間に設置された隔壁5により2つの空気絶縁セル7,7′に分割されている。各空気絶縁セルは、その内部に収容した集電装置と、各空気絶縁セルの外周をなす防風カバーとの間に、各々電気的に絶縁するのに十分な空気絶縁距離を有する。
【0012】
図3に本実施の形態(隔壁あり)と図2に示す従来例(隔壁なし)の空力騒音の比較結果を示す。図示のように、隔壁5がある場合、隔壁なしの場合に比べ空力騒音レベルが低下している。
【0013】
図4及び図5は防風カバー周囲の流れを数値解析した結果の例を示す。図4は図1に示す実施の形態における空気流の解析結果を、図5は図2に示す従来技術における空気流の解析結果を、それぞれ示している。従来技術の場合、上流側の防風カバー4で屋根面から剥離した渦6は、空気絶縁セルの内部で車両1の屋根上に再付着し、空気流の変動を誘発し、騒音を発生させていると考えられる。図1に示す実施の形態では、前方よりの空気絶縁セル7で渦6を生じた空気流は、隔壁5にに当って上向きに流れ、後方よりの空気絶縁セル7′では、車両屋根から離れて流れている。このため、後方よりの集電装置3′でも騒音が増加したり、流れが変動したりすることがない。
【0014】
図6及び図7は空力音の発生原因である渦の非定常運動を数値解析し、結果を等高線で表示した結果である。図中の+印は時計回りの渦を、−印は反時計周りの渦を、夫々示している。隔壁5がない場合は防風カバー4の内部に大きな渦、すなわち音源があることがわかる。隔壁5が設けられている図6では、中央部分の音源が3つに分割されるが、その強度は小さくなる。
【0015】
図4〜図7の解析結果から、従来の防風カバーでは騒音が増加するが、隔壁5を設置することにより空気騒音が低減することがわかる。
【0016】
図8に、空気流により集電装置の舟体に働く揚力を、隔壁がある場合とない場合について、前後の集電装置それぞれについて測定した結果を比較して示す(集電装置を1台だけ搭載した小型の防風カバーを使用した場合の揚力を1とする)。図1に示した実施の形態では、前後の集電装置ともに良好な揚力特性を示すが、図2に示す従来技術では、後ろ側の集電装置の揚力が不足し、集電性能が悪化する。
【0017】
図9に本発明の第2の実施の形態を示す。本実施の形態が前記図1に示す第1の実施の形態と異なるのは、防風カバーの側壁部分が設けられていない点である。このように防風カバー4の側面の壁を除き、隔壁5を防風カバー4と離して設置した場合も、前記図1に示す実施の形態と同様の効果が得られる。
【0018】
図10に、図1に示す隔壁5の騒音低減効果が、隔壁の高さによってどのように変化するかを示した。隔壁がない場合を基準とし、そこからの騒音低減効果をdBで表示した。隔壁5の高さhは防風カバー4の高さhに対して半分から同程度、すなわち0.5h≦h≦hにすることが望ましいことがわかる。
【0019】
図11に隔壁5の設置位置の一例を示す。隔壁5の設置位置は防風カバー4の高さをh、空気絶縁セルの車両前後方向端部から隔壁までの距離をLとすると、Lは、4h≦L≦5hの範囲とするのが望ましい。なお、図11では、防風カバー4と防風カバー4′の形状が異なるように表現されているが、一般に鉄道車両は進行方向は逆転するから、防風カバーは前後対称とするのが望ましい。
【0020】
なお、図1においては、隔壁5は板状に形成されているが、この板は、一部に小さな穴を設けたものであってもよい。但し穴の位置、大きさ、数等については、あらかじめ実験で不具合のないことを確認しておくことが望ましい。
【0021】
図12に本発明の第3の実施の形態の斜視図を示す。ここでは図を見やすくするために、集電装置の図示を省略してある。本実施の形態が前記図1に示す実施の形態と異なるのは、隔壁5の中央上部を溝状に切り欠いてある点である。他の構成は第1の実施の形態と同じなので説明を省略する。隔壁により空力騒音の低減効果が得られるとともに、隔壁5の中央上部を切り欠くことにより、後方の集電装置に速度の早い空気流を供給して、空力騒音の低減と舟体に働く揚力のバランスを好適に保つことができる。切り欠きの大きさ、形状については、図示の形状大きさに限られるものではないが、位置は隔壁5の中央上部とする。
【0022】
図13に本発明の第4の実施の形態を示す。この実施の形態の場合も図を見やすくするために、集電装置の図示を省略してある。本実施の形態が前記図1に示す実施の形態と異なるのは、隔壁5の断面形状を山形にした点である。他の構成は第1の実施の形態と同じなので説明を省略する。隔壁5の断面形状を山形にすることにより、前記第1の実施の形態で得られる効果に加え、空気絶縁セル7内部の空気を上方に押し上げ、下流側の集電装置の揚力性能を改善する効果が得られる。
【0023】
図14に本発明の第5の実施の形態を示す。この実施の形態の場合も図を見やすくするために、集電装置の図示を省略してある。本実施の形態が前記図1に示す実施の形態と異なるのは、隔壁5を絶縁碍子で構成し、2つの集電装置を隔壁により支持するようにした点である。他の構成は第1の実施の形態と同じなので説明を省略する。隔壁5を絶縁碍子で構成し、2つの集電装置を隔壁により支持することにより、前記第1の実施の形態で得られる効果に加え、装置全体の大きさを小さくすることが可能である。
【0024】
【発明の効果】
本発明によれば、集電装置から発生する空力騒音を低減するとともに、複数の集電装置による安定した電力供給を可能にし、騒音の小さな集電装置及び鉄道車両を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】従来技術の例を示す斜視図である。
【図3】図1に示す実施の形態と図2に示す従来技術における騒音測定結果を比較して示すグラフである。
【図4】図1に示す実施の形態における空気流の解析結果を示す断面図である。
【図5】図2に示す従来技術における空気流の解析結果を示す断面図である。
【図6】図1に示す実施の形態における渦の解析結果を示す断面図である。
【図7】図2に示す従来技術における渦の解析結果を示す断面図である。
【図8】図1に示す実施の形態と図2に示す従来技術における揚力性能を比較して示すグラフである。
【図9】本発明の第2の実施の形態を示す斜視図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態における隔壁高さと騒音低減効果の関係を示すグラフである。
【図11】図1に示す実施の形態における隔壁の位置の例を示す断面図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態を示す斜視図である。
【図13】本発明の第4の実施の形態を示す断面図である。
【図14】本発明の第5の実施の形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 車両
2 架線
3、3′ 集電装置
4、4′ 防風カバー
5 隔壁
6 剥離渦
7、7′ 空気絶縁セル

Claims (8)

  1. 鉄道車両の屋根上に進行方向に沿って並べられた複数の集電装置の前後に設けられる防風カバーにおいて、前記複数の集電装置の間に車両幅方向に沿って設けられた隔壁を有してなることを特徴とする集電装置の防風カバー。
  2. 請求項1に記載の集電装置の防風カバーにおいて、
    集電装置の前後の防風カバーの車両幅方向両端を前後方向に接続する側壁が前記複数の集電装置の両側に設けられ、前記隔壁は、その車両幅方向両端を前記側壁の内側に接続して配置されていることを特徴とする集電装置の防風カバー。
  3. 請求項2に記載の集電装置の防風カバーにおいて、
    集電装置前後に配置された防風カバーと前記側壁とで形成された空気絶縁セルが、前記隔壁により複数に分割され、分割された空気絶縁セルそれぞれに集電装置が配置されていることを特徴とする集電装置の防風カバー。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の集電装置の防風カバーにおいて、
    前記複数の集電装置がそれぞれ異なる仕様のものであることを特徴とする集電装置の防風カバー。
  5. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の集電装置の防風カバーにおいて、前記複数の集電装置の内の一つは架線の状態検査用の集電装置であることを特徴とする集電装置の防風カバー。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の集電装置の防風カバーにおいて、隔壁の車両屋根面からの高さhが、防風カバーの高さhに対し、
    (1/2)h≦h≦h
    の関係にあることを特徴とする集電装置の防風カバー。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の集電装置の防風カバーにおいて、
    前記隔壁が、絶縁用の碍子で構成されていることを特徴とする集電装置の防風カバー。
  8. 屋根上に進行方向に沿って並べられた複数の集電装置と、それら集電装置のまわりに設けられた集電装置の防風カバーと、を有してなる鉄道車両において、前記集電装置の防風カバーは、請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の前記集電装置の防風カバーであることを特徴とする鉄道車両。
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