JP3658999B2 - 振動を計測する方法および装置並びに異常検出装置 - Google Patents
振動を計測する方法および装置並びに異常検出装置 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、振動を計測する方法および装置に係り、特に、レーザ光のドップラ効果を利用して測定対象物の振動の状態を計測する方法および装置に関する。本発明は、測定対象物の微小な振動から大きい振幅の振動までを一貫して同一の手法で計測する手法に関する。本発明はさらに、この振動の計測の原理を利用して、測定対象物の異常を検出する異常検出装置に関する。
【0002】
この振動測定装置は、自動車の製造技術などの実験解析分野に応用できる。具体的には、エンジンの振動解析、車体伝搬振動解析、車室内騒音解析、さらにマフラの振動解析などである。その他の製造分野での応用は多岐に渡るが、非接触で極小領域の振動を精密に測定できるため、例えばドリルなどの工具破損検出などに好適に用いられる。さらに、モータを使ったプラントの振動の検出や、水道管、ガス観の漏れ診断などの保守に用いることもできる。さらに、西瓜等の大型果実の打音による糖度の判定など、農業分野にも応用可能である。本発明では特に、測定対象物の微小な振動を計測することができるため、測定対象物の200 nm 程度の振幅であっても、その振動の周期を求めることができるため、半導体の製造の検査や、精密加工での異常の検出などにも好適に利用される。ここで、「測定対象物」というときには、これらエンジンから西瓜まで振動測定の対象となる物体をいう。
【0003】
【従来の技術】
従来、測定対象物の振動の状態を解析するには、測定対象物に加速度ピックアップを取り付けて、測定対象物を打撃するなどして振動させ、加速度ピックアップの出力を分析するようにしていた。しかし、加速度ピックアップの場合、測定対象物と接触するため、測定対象物が微小である場合や、高温である場合には振動の測定を行うことができない。また、接触式であると、測定対象物の振動に影響を及ぼしてしまう。
【0004】
非接触に振動を計測する方法として、レーザを使ってドップラ効果により振動を測定する装置がある。例えば、特開平10−9943号公報にて開示した例では、レーザ光を発振し測定対象物に照射し、反射光と発振光を混合させることで、振動により発生し反射光に含まれたドップラ周波数を検出し、振動周波数を測定する。
【0005】
自己混合方式を除き全ての振動計は、発振光と反射光との混合を、高級な光学素子を使い外部で行うため、素子を配置するためのスペースが必要であり、装置も高価になり質量も重くなってしまう。これに対して自己混合方式では、発振光と反射光との混合をレーザ共振器(レーザダイオード)にて行なうため、光学素子を殆ど必要とせず安価・小型・軽量にドップラ周波数を検出でき振動周波数を測定できる。
【0006】
自己混合方式で発生したビート波から振動情報を検出する手法として、ビート波をカウントして振動変位に換算し振動情報を得る方法、ビート波を微分した振動速度情報から振動面の進行方向反転を判定し振動変位の方向を得る方法などが提案されてきた。これらは、振動面の進行方向が反転する間に生じた、いくつかのビート波を計測することにより処理を行うものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来例では、測定対象物の変位がレーザの波長λの半分の長さを越えたときに生じる鋸歯状の波に基づいて振動の解析を行っているため、測定対象物の変位量がλ/2を下回ると、測定対象物の振動の状態を知ることができない、という不都合があった。
【0008】
すると、非接触の利点を生かして、測定対象物の微小な振動を計測したり、また、測定対象物自体が微小である場合にも振動を計測したり、さらには、振動が減衰していくときの状態の計測などを行うことができない。これらのことが実現できると、今まで測定が困難であった微小な測定対象物の微小な振動の状態を計測することで、当該測定対象物の異常の検出が可能となるが、このような微小な物体の異常を振動の状態により検出する手法は、なんら知られていない。
【0009】
このため、測定対象物の変位がλ/2を下回ったときのビート波の状態や、さらには、λ/4を下回ったときのビート波の状態の研究・分析が必要となる。しかし、この状態のビート波がどのようになるのかは、なんら知られていない。
【0010】
【発明の目的】
本発明は、係る従来例の有する不都合を改善し、特に、測定対象物の振動の変位の大きさにかかわらず測定対象物の振動の状態を計測することのできる振動計測方法および振動計測装置を提供することを、その目的とする。さらに、本発明では、このような振動計測の原理を使用して、微小な測定対象物の異常の検出を行うことを、その目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の発明者は、実験により、測定対象物の変位がλ/2を下回ったときの波形を観測した。すると、鋸歯状波が現れず、鋸歯状波の半波分の波形が現れる。さらにλ/4近く又は下回ると、測定対象物の振動そのものの波形となる。本発明の発明者はさらに、これらのすべてのビート波において、測定対象物の変位の折返し地点に対応したビート波は、その折返し近辺で傾きが対称となっていることを見いだした。本発明は、このビート波の特性を利用して、測定対象物の大きさおよび変位の大きさによらず、すなわち、ビート波の波形の状態によらず、振動の周期を測定しようとするものである。
【0012】
そこで、本発明では、レーザ共振器で発振するレーザ光を測定対象物に照射する照射工程と、この照射工程によって照射されたレーザ光の戻り光を受光する受光工程と、この受光工程で受光し共振器内で発信したレーザ光と自己混合したレーザ光を光電変換する光電変換工程と、この光電変換工程で変換されて出力されるビート波の波形の状態を解析する信号処理工程とを備えている。
しかも、信号処理工程は、ビート波の波形のうちビート波が折り返すときの波形が当該一波について当該一波のピークを中心として対称である波を順次抽出する対称波抽出工程と、この対称波抽出工程で抽出した波の位置を測定対象物の振動の折返し位置と判定する折返し位置判定工程と、この折返し位置判定工程で判定された折返し位置を基準として測定対象物の振動周期を算出する振動周期算出工程とを備えた構成を採っている。これにより前述したを目的を達成しようとするものである。
【0013】
この振動計測方法では、対称波抽出工程が、ビート波の波形のうちビート波が折り返すときの波形が当該一波について当該一波のピークを中心として対象である波を順次抽出する。すると、測定対象物の変位がλ/2以上のとき、λ/2又はλ/4未満となったときであっても、振動の折返し地点でのビート波の波形は一貫して対称形となるため、振動の折返しの位置とビート波中の傾きが対称な波の位置とは正確に一致する。この振動の折返し位置が判明すると、振動の周期や、振動周波数の分布などの算出が容易となる。
【0014】
振動測定装置についても、対称波を抽出する対称波抽出手段と、対称波の位置に基づいて測定対象物の振動の周期を検出する周期検出手段とを備えたため、測定対象物の変位の大きさによらず、通常の振動から微小な振動までを特別な処理を行わずに計測する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明による振動を計測する方法および装置の構成を示すフローチャートである。振動を計測する方法は、レーザ共振器で発振するレーザ光を測定対象物に照射する照射工程A1と、この照射工程A1によって照射されたレーザ光の戻り光を受光する受光工程A2と、この受光工程A2で受光し共振器内で発信したレーザ光と自己混合したレーザ光を光電変換する光電変換工程A3と、この光電変換工程A3で変換されて出力されるビート波の波形の状態を解析する信号処理工程とを備えている。
【0017】
信号処理工程は、ビート波の波形のうちビート波が折り返すときの波形が当該一波について当該一波のピークを中心として対象である波を順次抽出する対称波抽出工程A4と、この対称波抽出工程A4で抽出した波の位置を測定対象物の振動の折返し位置と判定する折返し位置判定工程A5と、この折返し位置判定工程A5で判定された折返し位置を基準として測定対象物の振動周期を算出する振動周期算出工程A6とを備えている。
【0018】
図1に示す例では、対称波の位置から測定対象物の折返し位置を判定している。対称波の位置というのは、対称波のうち、ピークとなる位置が望ましい。そして、対称波というときは、ビート波の振幅のうち、ピークに近い一部分が対称となる波か、または、ビート波の振幅の上の端点から下の端点までの全体の傾きが対称となる波をいう。ピークに近い一部分のビート波の傾きに基づいて対称波を抽出すると、測定対象物の振動が複雑である場合であっても、折返し地点を反映した対称波を確実に抽出することができる。一方、測定対象物の振動が単振動に近い場合には、ビート波の一波づつ傾きを求めるようにしても良い。すると、測定対象物がλ/2を越えた変位を行い、ビート波に鋸歯状波が生じたときの鋸歯状波と折返し地点での対称波とを良好に振り分けることができる。
【0019】
鋸歯状波は、測定対象物の変位の方向と速度とに応じて上りと下りとで傾きが変化する。一方、対称波は、測定対象物の変位の方向が折り返す地点で速さが遅くなり、一旦停止し、再度加速することを反映した波であるから、そして、一般的に折り返し近くでの速度の変化は対称的になるため、ビート波の傾きの変化をとらえると、折返し点に対応したビート波を良好に抽出することができる。
【0020】
図1に示す対称波抽出工程A5は、ビート波の傾きの変化率を求めると共に当該変化率の正負が逆転したときに当該逆転した位置での変化率の絶対値を比較する工程を備えるとよい。ここで、変化率というのは、回路で実現する場合には微分値となり、デジタル化した後に離散的なデータの処理として実現する場合には、差分値となる。また、所定の時間での平均変化率でも良い。
【0021】
この変化率の正負の変化は、ビート波形の傾き値が増加から減少に転じた点又は減少から増加に転じた点で生じる。この正負の変化は、鋸歯状波の下端または上端で生じ、さらに、対称波のピークで生じる。従って、この変化率の正負が逆転した前後での変化率の絶対値が略等しい場合には、ビート波の傾きの絶対値がほぼ等しいこととなり、鋸歯状波の場合には速度の方向によってこの傾きが等しくならないから、対称波のみを良好に抽出することができる。
【0022】
また、ビート波に重壇するノイズの状態や、デジタル処理する場合のサンプリング周波数などとの関係で、対称波抽出工程A4が、変化率の正負が逆転したときの当該変化率の絶対値が予め定められた値よりも小さい場合に対称波と判定する工程を備えるとよい。一般的に、測定対象物の変位が折り返す場合には、速度が低下する。すると、ビート波の傾きが緩やかになる。これを利用して、上記手法のみでは対称波のみを良好に抽出できず、鋸歯状波も抽出してしまう状態であれば、この変化率の絶対値にしきい値を設定するとよい。
【0023】
図2は、種々のビート波の状態の概要を示す説明図である。この図2に示す波形は、実験的に求めたものではなく、ビート波の状態を説明するために一部誇張して示したものである。実験的に求めた例は後述する。図2を参照すると、maxおよびminは鋸歯状波が生じる場合の上端と下端である。横軸は時間であり、t1, t2, …tnは時間の経過を示す。縦軸はビート波の電圧値である。さて、t1では、符号13で示す地点で鋸歯状波13が一波生じている。この鋸歯状波13が一波生じたことは、測定対象物がλ/2変位したことを示す。しかし、この鋸歯状波13が生じる状態であっても、測定対象物の折返しがλ/2の間隔で生じるとは限らないため、折返し点にて符号111,112で示す対称波を生じる。区間t2では、ビート波は、鋸歯状波の半波分、すなわち、maxからminまでの片道分生じている。これは、測定対象物がλ/4以上、λ/2未満の変位をしたことを表す。その後、測定対象物は符号113で示す地点で折り返し、対称波を生じさせる。
【0024】
そして、測定対象物の変位がλ/4近辺かそれ未満となると、ビート波はmaxおよびminに至らなくなる。この状態を符号15で示す。この場合であっても、符号115〜118で示すように、折返し地点で対称波を生じさせる。本発明者は、自己混合型のレーザ振動計にて、ビート波に鋸歯状波が現れなくなったのちは、測定対象物の振動の状態をそのままビート波が現すことを発見した。すなわち、符号15で示すビート波が生じている状態では、測定対象物の振動周期は、符号15で示す波形と同様の振動周期となっている。
【0025】
図2に概略説明した例では、測定対象物は、同一の周期で時間の経過と共に徐々に振動が減衰している。ビート波の対称波の位置を振動の折返し点とすると、図2(B)で示すように、振動の周期を得ることができる。この図2に示す波形を周波数分析すると測定対象物の振動周波数を得ることができる。
【0026】
本発明で重要なのは、図2に示すように、鋸歯状波が生じなくなるような変位となった測定対象物であっても、対称波を抽出することによって、なんらアルゴリズムを変更することなく、連続的に測定対象物の振動の周期を得ることができる点にある。すなわち、鋸歯状波の状態から符号15で示す状態に至るまで、ビート波の状態によらず、対称波を抽出することによって測定対象物の振動の周期を求めることができる。ビート波の状態によらず振動の周期を測定することができるため、測定対象物の振動が減衰していく状態や、また、通常微小な振動を行うが、異常発生時には周期が大きくなる場合であっても、良好に測定対象物の振動の状態を計測することができる。そして、自己混合型であるため、簡単な装置で質量も小さいため、移動する測定対象物であっても一体的に移動させることも容易で、生産現場への応用がより広くなる。さらに、ビート波の変化率に基づいて対称波の抽出を行うと、統計処理や周波数分析のようにコンピュータを利用して演算処理を行う必要がなくなり、微分回路と比較回路を使用して測定対象物の振動の状態をアナログで得ることができる。すると、処理が極めて高速となり、これによっても、生産現場での応用例が広くなる。
【0027】
次に、この図1に示した原理を利用した振動測定装置の実施形態を説明する。図3は振動測定装置の構成例を示すブロック図である。振動測定装置は、測定対象物から反射したレーザ光を観測する光検出手段2と、この光検出手段2から出力された波形信号を解析すると共にビート波を検出するビート波検出手段8と、このビート波検出手段8によって検出されたビート波のうち一波のピーク前後の勾配がピークを中心に対称である対称波を抽出する対称波抽出手段16と、この対称波抽出手段16で抽出された対称波の位置に基づいて測定対象物の振動の周期を検出する周期検出手段18とを備えている。
【0028】
光検出手段2は、レーザ光を出力するレーザダイオード4と、このレーザダイオード4の共振器内で発振光と戻り光とが自己混合した光を受光するフォトダイオード6とを備えている。このフォトダイオードの出力(ビート波)3の例を図4(A)に示す。図3に示す例では、ビート波検出手段8は、フォトダイオードの出力を増幅する増幅器10と、この増幅器によって増幅されたビート波をデジタルデータに変換するA/D変換器12とを備えている。増幅されたビートは11の例を図4(B)に示す。
【0029】
対称波抽出手段16および周期検出手段18は、演算装置により実現する。演算装置は、ワークステーション又はパーソナルコンピュータもしくはマイクロコンピュータであり、主記憶装置やCPUなどを備える。対称波を抽出するためのプログラムがこのCPUで実行されると、演算装置14は対称波抽出手段として動作する。また、図3に示した構成にて測定対象物で発生する異常の検出を行う場合には、演算装置は、ビート波と予め定められたビート波とを比較する比較手段を備えるとよい。また、対称波の位置を抽出した後、この対称波の位置を予め定められた位置と比較するようにしてもよい。測定対象物に異常が生じた場合には、測定対象物の振動の周期が変更され、ビート波およびこのビート波から抽出する対称波の位置が変化するため、異常の検出を良好に行うことができる。
【0030】
この対称波抽出手段16は、波形の傾きや、特徴のある形の識別や、ビート波の微分値などを利用してビート波中の対称波を抽出する。この対称波の抽出の手法は、図1を参照して説明した事項と同様となる。また、ここでは演算装置により対称波の抽出を行う構成を示したが、LSIやアナログ回路により実現するようにしてもよい。対称波が抽出されると、演算装置14は、この対称波の位置から振動の周期データを生成する。振動周期データの例を図4(C)に示す。この振動周期データを周波数分析すると、測定対象物1の振動の周波数スペクトルを得ることができる。また、図3に示す例では、振動周期データ15や周波数スペクトル等を表示する表示装置20を備えている。
【0031】
望ましい実施例では、対称波抽出手段16が、ビート波の変化率を求める変化率算出機能と、この変化率算出機能で算出した変化率の絶対値が当該変化率の正負が反転した箇所を中心として略等しい場合に当該変化率の正負が反転した箇所が対称波であると判定する対称波判定機能とを備える。この場合、対称波抽出用プログラムは、演算装置に変化率の算出をさせる指令と、当該変化率の正負および変化率の絶対値とから対称波を抽出させる指令とを備える。
【0032】
次に、ビート波の変化を図面を参照して詳細に説明する。
【0033】
自己混合方式で反射光に含まれるドップラ周波数成分をビート波として検出すると、図5の様な波形になる。この時、ドップラ周波数fdと振動面の移動速度vとの関係は次式1の関係である。そして、式(1)より、振動速度のレーザ方向成分は式(2)で表すことができる。よって、鋸歯状波一周期での振動面の移動量はλ/2となる。また、振動面がλ/2移動したときに、鋸歯状波1波発生すると考えることが出来る。
【0034】
【数1】
【0035】
ビート波の波数をカウントすることにより、振動面の変位、振動速度、振動加速度が求まる。しかしながら、振動面の進行方向が反転するとき、一定の形にならないため検出することは困難であった。簡単に振動周波数を算出するには、この振動面の進行方向反転時を知る必要があり、この検出が自己混合方式による振動測定には不可欠であった。
【0036】
鋸歯状波から振動面の進行方向反転時を検出する方法として、鋸歯状波波長をそれぞれ算出してその波長分布から検出する方法、鋸歯状波を微分し波形の傾き情報から検出する方法などがある。しかし、いずれも進行方向が反転する間に多くの鋸歯状波が存在していることが前提であり、鋸歯状波が少ない場合に振動面の進行方向反転時を検出することが難しかった。振動面の変位量が少なくなると、振動面の進行方向が反転する間に現れる鋸歯状波が少なくなる。さらに、振動変位がλ/2以下になると、従来提案していた内容では進行方向反転時の判断が困難となった。
【0037】
図6乃至図8は、振動変位がλ/2以下となり、鋸歯状波が一波生じなくなった例を示す。図6および図7に示すように、振動変位がλ/2以下となるとビート波は様々な形状になり、進行方向反転時の判断をすることが困難となる。
【0038】
振動変位が2μm以上ある場合、図5の様に鋸歯状と異なる形の部分が振動面の進行方向反転時であると容易に判定することができる。しかし、振動変位がλ/2より小さくなってくると、図6乃至図8のように複雑な波形になる。
【0039】
図9乃至図11を参照してこの複雑な波形が生じた理由を説明する。振動振幅が小さいと、鋸歯状波が1波形出現する前に振動面の進行方向が変わり、鋸歯状波の一部が振動変位に合わせて抽出される。例えば、鋸歯状波が一波抽出されると、図9(A)に示すような波形となるが、測定対象物がλ/2以下の変位となると、例えば図9(B)に示す鋸歯状波の一部分の波が繰り返され、図9(C)に示す波形を生じる。このとき、鋸歯状波であれば、測定対象物の速度の方向に応じて、図9(A)に示すように鋸歯状波の上りの傾きと下りの傾きとが異なる値となる。一方、測定対象物がλ/2以下の変位となった場合には、図9(C)に示すように、鏡像的な、対称的な波形となる。
【0040】
鋸歯状波は、測定対象物の基準位置から当該測定対象物がλ/2変位したときに一波生じる。しかし、この鋸歯状波が生じるタイミングと、測定対象物の変位がλ/2を下回るタイミングとでは、時間差が生じる。例えば図10(A)に示すタイミングで測定対象物の変位がλ/2を下回りかつ折り返したとすると、ビート波の波形は図10(C)に示す如くとなる。同様に、図11(A)に示すタイミングでは、図11(B)に示す波形が鏡像的に現れるため、図11(C)に示す如くとなる。すると、λ/2を下回ったときのビート波の波形は、図6乃至図8に示す如く複雑な波形となる。
【0041】
測定対象物の変位がλ/2を下回っても、測定対象物の折返し地点ではビート波の波形が鏡像的であることが判明した。従って、ビート波のうち、鏡像的な波形を捜し、そこで振動面の進行方向切り替わった(進行方向反転)と判断し、進行方向反転の間隔を測定することで、振動周期の測定が可能になる。また、図12を参照すると、λ/2を越える振動を行っている測定対象物のビート波であっても、折返し近傍では符号40および42で示すようにその傾きが対称的となる。
【0042】
振動変位に応じて抽出される鋸歯状波の部分は、振動体表面の位置(レーザ光が共振器から出て振動体表面で反射し、共振器に戻るまでの光路長)によって変わると考えられる。単振動の対象を自己混合方式で測定する場合、図13の様に複雑な波形が生じたとしても、周期性よく観測されるため、識別が比較的容易になる。図13に示す例では、ビート波の変化率の絶対値の比較で精度良く求めることができる。
【0043】
一方、複振動の場合、振動振幅や振動している位置等が変わるため、図14に示すように、鋸歯状波から抽出される部分や範囲が変化し、一定の波形とならない。しかし、折返し付近では波形の傾きが対称的となるため、これを利用して測定対象物の折返しを判定することができる。また、鋸歯状波又は鋸歯状波の半波のピークと、測定対象物の折返しとが重なった場合には、そのビート波のピークにて通常の鋸歯状波の数倍の時間平坦な状態が継続する。従って、ビート波の各波のピークでの傾きが0に近づき、この状態が通常の鋸歯状波の数倍の時間継続する。このため、対称波の抽出と共に、このピークが平坦となる波の検出を行うと、測定対象物の折返しを良好に抽出することができる。また、このようなピークで平坦な波は、図14に示すように、左右の傾きがほぼ等しい。これによっても、他の鋸歯状波と区別して対称波として抽出することが可能となる。
【0044】
このような変化率に基づいて具体的な処理を行うためには、例えば以下の3つの手法がある。
【0045】
・波形の傾きに着目
進行方向が反転する間に現れるビート波は鋸歯状であるが、進行方向反転時に生じる波形は、鏡面的に波形が構成されるため上りと下りの勾配がほぼ等しくなる。従って、ビート波の勾配を調べることにより、進行方向反転時を見つけることができる。
【0046】
・特徴のある形を識別
図5に示すように、進行方向反転時には、M、もしくは逆Mの字の波形が生じることが多い。これは、振動面がλ/2分移動する前に進行方向を変えてしまうため、進行方向反転時を境に波形が鏡像的になるのである。従って、このM、逆Mの字になっている波形をパターン的に識別し、進行方向反転時を見つけることができる。
【0047】
・微分値の利用
ビート波を微分することにより、波形の傾きが変化している部分を検出することができる。特に、傾きが正から負またはその逆に変化している波形のピーク部分は、微分値が大きくなる。進行方向反転時に生じるビート波のピークは、他に比べ変化がなだらかなため他の部分に比べて、微分値が小さくなり比較検出できる。
【0048】
上述したように本実施形態によると、いままで、鋸歯状波がある程度発生するような振動変位でなければ自己混同方式を用いて測定することが難しかったが、本提案によって大きな振動変位からλ/2以下の変位になる振動まで測定することが可能になる。また、正常な振動状態か否か判定することができる。
【0049】
また、上述のように、単振動の時は振動の周期や振幅などが一定であるため、ビート波も一定の形をしている。これは、単振動の場合、振動面の方向が切り替わる位置がいつも同じであるため、抽出される鋸歯状波部分もいつも一定となるのである。しかし、単振動している対象に周波数の異なる振動が重乗したとき、振動位置が変わることになる。鋸歯状波のどの範囲が抽出されるかはレーザ光の光路長によるため、振動面の進行方向反転位置が変わるとこれに応じて進行方向反転時のビート波形のピークも変化していく。
【0050】
このため、例えば正常な状態では単振動し、異常が生じると単振動している対象に周波数の異なる振動が重乗する場合には、上記振動測定装置を用いて異常の発生を検出することができる。次に、このような測定対象物の異常の検出を行う異常検出装置について説明する。
【0051】
異常検出装置は、測定対象物の予め定められた箇所にレーザ光を照射すると共に測定対象物からの戻り光をレーザダイオードを受光する半導体レーザ素子4と、この半導体レーザ素子4から出力されるビート波の特徴を示す波形と予め定められたビート波の特徴を示す波形とを比較する比較手段22と、この比較手段22による比較結果が予め定められた範囲を越えて相違した場合には測定対象物の異常であると判定する異常判定手段24と、この異常判定手段24によって異常と判定されたときに当該測定対象物が異常であることを外部表示する表示手段26とを備えている。
【0052】
この比較手段を微分回路により実現する例を図15に示す。図15に示す例では、比較手段が、半導体レーザ素子から出力されるビート波を微分する微分回路22を備える。そして、異常判定手段は、この微分回路22で微分した信号と予め定められた信号とを比較する比較回路とを備える。微分回路は、アナログ、デジタルどちらの処理構成でもよい。アナログにより微分回路を実現すると、測定対象物に異常が発生したときにリアルタイムに直ちに当該異常を検出することができる。
【0053】
また、レーザ素子は、図15に示すように、レーザ光を発振するレーザ共振器(レーザダイオード)4と、このレーザ共振器4内で発振光と戻り光とが自己混合した光を光電変換する受光素子(フォトダイオード)6とを備えるとよい。
【0054】
また、微分回路ではなく、デジタル信号処理により対称波を抽出する構成を採用しても良い。この場合、比較手段が、半導体レーザ素子から出力されるビート波のうち一波のピーク前後の勾配がピークを中心に対称である対称波を抽出する対称波抽出部と、この対称波抽出回路で抽出した対称波の位置を予め定められた位置と比較する対称波比較回路部とを備える。ビート波および対称波については、上述した振動測定装置での説明と同様となる。
【0055】
図16にドリル加工での異常の検出を行う場合のレーザ素子の配置の例を示す。符号28で示すレーザ素子は、ドリル本体34の振動を計測する。符号30で示すレーザ素子は、このドリル本体34を支持する支持体36の微小な振動の状態を観測する。符号32で示すレーザ素子は、被加工物の振動を計測する。
【0056】
本実施形態による異常検出装置は、測定対象物34,36,38の微小な振動から大きい振動までを同一の手法で連続的に計測することができるため、ドリル本体34の振動のみならず、その支持体36のごく微小な振動を観測することができる。また、本実施形態による異常検出装置は、ドリルのみならず、微小な大きさの測定対象物であっても、欠けや接合不良など振動と関係する種々の項目の異常の判定を行うことができる。
【0057】
【発明の効果】
本発明は以上のように構成され機能するので、これによると、対称波抽出工程が、ビート波の波形のうちビート波が折り返すときの波形が当該一波について当該一波のピークを中心として対称である波を順次抽出するため、測定対象物の変位がλ/2以上のとき、λ/2又はλ/4未満となったときであっても、振動の折返し地点でのビート波の波形は一貫して対称形となるため、振動の折返しの位置をビート波から抽出することができ、すると、測定対象物の振動の周期や、振動周波数の分布などを容易に行うことができ、これにより、測定対象物の振動が通常の状態から減衰して微小に至った場合や、極微小な単振動をしている場合などであっても、これらの振動の状態を簡単な構成で容易に検出することができるという従来にない優れた振動を計測する方法および装置を提供することができる。
【0058】
本発明による振動測定装置についても、対称波を抽出する対称波抽出手段と、対称波の位置に基づいて測定対象物の振動の周期を検出する周期検出手段とを備えたため、測定対象物の変位の大きさによらず、通常の振動から微小な振動までを特別な処理を行わずに計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示すフローチャートである。
【図2】測定対象物の振動が微小となった時のビート波の変化の概念を誇張して示す説明図である。
【図3】本発明による振動測定装置の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図4】図3に示した各部での信号の一例を示す説明図であり、図4(A)は光検出手段の出力の例を示す図で、図4(B)は増幅されたビート波の一例を示す図で、図4(C)は振動周期データの一例を示す図である。
【図5】鋸歯状波となるビート波の一例を示す波形図である。
【図6】測定対象物の変位がλ/2未満となり鋸歯状波が生じなくなった場合のビート波の第1の例を示す波形図である。
【図7】測定対象物の変位がλ/2未満となり鋸歯状波が生じなくなった場合のビート波の第2の例を示す波形図である。
【図8】測定対象物の変位がλ/2未満となり鋸歯状波が生じなくなった場合のビート波の第3の例を示す波形図である。
【図9】図6乃至図8に示したビート波が生成される理由を説明するための波形図であり、図9(A)は鋸歯状波の一例を示す図で、図9(B)はこの鋸歯状波を所定のタイミングで切り出した一例を示す図で、図9(C)は図9(B)に示した切り出した波形を接続した波形の例を示す図である。
【図10】図9に示した状態とは異なるタイミングで鋸歯状波の一部を切り出す場合の例を示す波形図であり、図10(A)は鋸歯状波の一例を示す図で、図10(B)はこの鋸歯状波を図9とは異なるタイミングで切り出した一例を示す図で、図10(C)は図10(B)で示した切り出した波形を接続した波形の例を示す図である。
【図11】図9および図10で示した状態とは異なるタイミングで鋸歯状波の一部を切り出す場合の例を示す波形図であり、図11(A)は鋸歯状波の一例を示す図で、図11(B)はこの鋸歯状波を図9および図10とは異なるタイミングで切り出した一例を示す図で、図11(C)は図11(B)で示した切り出した波形を接続した波形の例を示す図である。
【図12】測定対象物で折返しが生じた時のビート波の状態を示す波形図である。
【図13】測定対象物がλ/2未満の変位で単振動している場合のビート波の例を示す波形図である。
【図14】測定対象物がλ/2未満の変位で複雑な振動をしている場合のビート波の例を示す波形図である。
【図15】本発明による異常検出装置のハードウエア震源の構成例を示すブロック図である。
【図16】図15に示した異常検出装置でドリル加工の異常を検出する場合の例を示す説明図である。
【符号の説明】
1 測定対象物
2 レーザ素子
4 レーザダイオード(共振器)
6 フォトダイオード
8 ビート波検出手段
10 増幅器
12 A/D変換器
14 演算装置
16 対称波抽出手段
18 周期検出手段
20 表示装置
Claims (8)
- レーザ共振器で発振するレーザ光を測定対象物に照射する照射工程と、この照射工程によって照射されたレーザ光の戻り光を受光する受光工程と、この受光工程で受光し前記共振器内で前記発信したレーザ光と自己混合したレーザ光を光電変換する光電変換工程と、この光電変換工程で変換されて出力されるビート波の波形の状態を解析する信号処理工程とを備え、
前記信号処理工程は、前記ビート波の波形のうちビート波が折り返すときの波形が当該一波について当該一波のピークを中心として対称である波を順次抽出する対称波抽出工程と、この対称波抽出工程で抽出した波の位置を前記測定対象物の振動の折返し位置と判定する折返し位置判定工程と、この折返し位置判定工程で判定された折返し位置を基準として前記測定対象物の振動周期を算出する振動周期算出工程とを備えたことを特徴とする振動計測方法。 - 前記対称波抽出工程は、前記ビート波の傾きの変化率を求めると共に当該変化率の正負が逆転したときに当該逆転した位置での変化率の絶対値を比較する工程を備えたことを特徴とする請求項1記載の振動計測方法。
- 前記対称波抽出工程は、前記変化率の正負が逆転したときの当該変化率の絶対値が予め定められた値よりも小さい場合に前記対称波と判定する工程を備えたことを特徴とする請求項2記載の振動計測方法。
- 測定対象物から反射したレーザ光を観測する光検出手段と、この光検出手段から出力された波形信号を解析すると共にビート波を検出するビート波検出手段と、このビート波検出手段によって検出されたビート波のうち一波のピーク前後の勾配がピークを中心に対称である対称波を抽出する対称波抽出手段と、この対称波抽出手段で抽出された対称波の位置に基づいて前記測定対象物の振動の周期を検出する周期検出手段とを備えたことを特徴とする振動計測装置。
- 前記対称波抽出手段が、前記ビート波の変化率を求める変化率算出機能と、この変化率算出機能で算出した変化率の絶対値が当該変化率の正負が反転した箇所を中心として略等しい場合に当該変化率の正負が反転した箇所が対称波であると判定する対称波判定機能を備えたことを特徴とする請求項4記載の振動計測装置。
- 測定対象物の予め定められた箇所にレーザ光を照射すると共に測定対象物からの戻り光を前記レーザダイオードで受光する半導体レーザ素子と、この半導体レーザ素子から出力されるビート波の特徴を示す波形と予め定められたビート波の特徴を示す波形とを比較する比較手段と、この比較手段による比較結果が予め定められた範囲を越えて相違した場合には前記測定対象物の異常であると判定する異常判定手段と、この異常判定手段によって異常と判定されたときに当該測定対象物が異常であることを外部表示する表示手段とを備えたことを特徴とする異常検出装置。
- 前記比較手段が、前記半導体レーザ素子から出力されるビート波を微分する微分回路を備え、
前記異常判定手段が、前記微分回路で微分した信号と予め定められた信号とを比較する比較回路とを備えたことを特徴とする請求項6記載の異常検出装置。 - 前記比較手段が、前記半導体レーザ素子から出力されるビート波のうち一波のピーク前後の勾配がピークを中心に対称である対称波を抽出する対称波抽出部と、この対称波抽出回路で抽出した対称波の位置を予め定められた位置と比較する対称波比較回路部とを備えたことを特徴とする請求項6記載の異常検出装置。
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