JP3654662B2 - トロイダル型無段変速機 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明に係るトロイダル型無段変速機は、例えば自動車用の変速機として、或は各種産業機械用の変速機として、それぞれ利用する。
【0002】
【従来の技術】
自動車用変速機として、図3〜4に略示する様なトロイダル型無段変速機を使用する事が、例えば実開昭62−71465号公報に開示されている様に、従来から研究されている。このトロイダル型無段変速機は、入力軸1と同心に第一のディスクである入力側ディスク2を支持し、この入力軸1と同心に配置された出力軸3の端部に、第二のディスクである出力側ディスク4を固定している。トロイダル型無段変速機を納めたケーシングの内側には、前記入力軸1並びに出力軸3に対して捻れの位置にある枢軸5、5を中心として揺動する複数(実際の場合には2〜3個)のトラニオン6、6を設けている。
【0003】
各トラニオン6、6は、両端部外側面に前記枢軸5、5を設けている。又、各トラニオン6、6の中心部には変位軸7、7の基端部を支持している。これら各変位軸7、7の中心線と前記各枢軸5、5の中心線とは互いに直交する。そして、前記枢軸5、5を中心として各トラニオン6、6を揺動させる事により、各変位軸7、7の傾斜角度の調節を自在としている。各トラニオン6、6に支持された変位軸7、7の周囲には、それぞれパワーローラ8、8を回転自在に支持している。そして、各パワーローラ8、8を、前記入力側、出力側両ディスク2、4の間に挟持している。これら入力側、出力側両ディスク2、4の互いに対向する内側面2a、4aは、それぞれ断面が、上記枢軸5を中心とする円弧を回転させて得られる凹面をなしている。そして、球状凸面に形成された各パワーローラ8、8の周面8a、8aは、前記内側面2a、4aに当接させている。尚、これら各内側面2a、4aの断面の曲率半径は、前記周面8aの断面の曲率半径よりも、僅かに大きい。
【0004】
一方、前記入力軸1と入力側ディスク2との間には、ローディングカム式の押圧装置9を設け、この押圧装置9によって、前記入力側ディスク2を出力側ディスク4に向け、弾性的に押圧している。この押圧装置9は、入力軸1と共に回転するカム板10と、保持器11により保持された複数個(例えば4個)のローラ12、12とから構成されている。前記カム板10の片側面(図3〜4の右側面)には、円周方向に亙る凹凸面であるカム面13を形成し、前記入力側ディスク2の外側面(図3〜4の左側面)にも、同様のカム面14を形成している。そして、前記複数個のローラ12、12を、前記入力軸1の中心に対して放射方向の軸を中心とする回転自在に支持している。
【0005】
上述の様に構成されるトロイダル型無段変速機の使用時、入力軸1の回転に伴ってカム板10が回転すると、カム面13によって複数個のローラ12、12が、入力側ディスク2外側面のカム面14に押圧される。この結果、前記入力側ディスク2が、前記複数のパワーローラ8、8に押圧されると同時に、前記1対のカム面13、14と複数個のローラ12、12との噛合に基づいて、前記入力側ディスク2が回転する。そして、この入力側ディスク2の回転が、前記複数のパワーローラ8、8を介して出力側ディスク4に伝達され、この出力側ディスク4に固定の出力軸3が回転する。
【0006】
入力軸1と出力軸3との回転速度を変える場合で、先ず入力軸1と出力軸3との間で減速を行う場合には、枢軸5、5を中心として各トラニオン6、6を揺動させ、各パワーローラ8、8の周面8a、8aが図3に示す様に、入力側ディスク2の内側面2aの中心寄り部分と出力側ディスク4の内側面4aの外周寄り部分とにそれぞれ当接する様に、各変位軸7、7を傾斜させる。反対に、増速を行う場合には、前記トラニオン6、6を揺動させ、各パワーローラ8、8の周面8a、8aが図4に示す様に、入力側ディスク2の内側面2aの外周寄り部分と出力側ディスク4の内側面4aの中心寄り部分とに、それぞれ当接する様に、各変位軸7、7を傾斜させる。各変位軸7、7の傾斜角度を図3と図4との中間にすれば、入力軸1と出力軸3との間で、中間の変速比を得られる。
【0007】
更に、図5〜6は、実願昭63−69293号(実開平1−173552号)のマイクロフィルムに記載された、より具体化されたトロイダル型無段変速機を示している。このトロイダル型無段変速機では、入力側ディスク2と出力側ディスク4とを円管状の入力軸15の周囲に、それぞれニードル軸受16、16を介して回転自在に支持している。又、カム板10は前記入力軸15の端部(図5の左端部)外周面にスプライン係合し、鍔部17によって前記入力側ディスク2から離れる方向への移動を阻止されている。そして、このカム板10とローラ12、12とにより、前記入力軸15の回転に基づいて前記入力側ディスク2を、出力側ディスク4に向けて押圧しつつ回転させる、ローディングカム式の押圧装置9を構成している。前記出力側ディスク4には出力歯車18を、キー19、19により結合し、これら出力側ディスク4と出力歯車18とが同期して回転する様にしている。
【0008】
1対のトラニオン6、6の両端部は1対の支持板20、20に、揺動並びに軸方向(図5の表裏方向、図6の左右方向)に亙る変位自在に支持している。そして、前記各トラニオン6、6の中間部に形成した円孔23、23部分に、変位軸7、7を支持している。各変位軸7、7は、互いに平行で且つ偏心した支持軸部21、21と枢支軸部22、22とを、それぞれ有する。このうちの支持軸部21、21を前記各円孔23、23の内側に、ニードル軸受24、24を介して、回転自在に支持している。又、前記各枢支軸部22、22の周囲にパワーローラ8、8を、別のニードル軸受25、25を介して回転自在に支持している。
【0009】
尚、前記1対の変位軸7、7は、前記入力軸15に対して180度反対側位置に設けている。又、これら各変位軸7、7の各枢支軸部22、22が支持軸部21、21に対し偏心している方向は、前記入力側、出力側両ディスク2、4の回転方向に対して同方向(図6で左右逆方向)としている。又、偏心方向は、前記出力軸15の配設方向に対してほぼ直交する方向としている。従って前記各パワーローラ8、8は、前記入力軸15の配設方向に亙る若干の変位自在に支持される。この結果、構成部品の寸法精度、或は動力伝達時に加わる荷重による弾性変形等に起因して、前記各パワーローラ8、8が前記入力軸15の軸方向(図5の左右方向、図6の表裏方向)に変位する傾向となった場合でも、構成各部品に無理な力を加える事なく、この変位を吸収できる。
【0010】
又、前記各パワーローラ8、8の後端面(本明細書では大径側軸方向端面を『後端面』と言う。反対に、小径側軸方向端面を『前端面』と言う。)と前記各トラニオン6、6の中間部内側面との間には、パワーローラ8、8の後端面の側から順に、スラスト玉軸受26、26とスラストニードル軸受27、27とを設けている。このうちのスラスト玉軸受26、26は、前記各パワーローラ8、8に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ8、8の回転を許容するものである。この様なスラスト玉軸受26、26はそれぞれ、複数個ずつの玉29、29と、各玉29、29を転動自在に保持する円環状の保持器28、28と、円環状の外輪30、30とから成る。各スラスト玉軸受26、26の内輪軌道は前記各パワーローラ8、8の後端面に、外輪軌道は前記各外輪30、30の内側面に、それぞれ形成している。
【0011】
又、前記スラストニードル軸受27、27は、レース31と保持器32とニードル33、33とから構成される。このうちのレース31と保持器32とは、回転方向に亙る若干の変位自在に組み合わされている。このスラストニードル軸受27、27は、前記レース31、31を前記各トラニオン6、6の内側面に当接させた状態で、この内側面と前記外輪30、30の外側面との間に挟持している。この様なスラストニードル軸受27、27は、前記各パワーローラ8、8から前記各外輪30、30に加わるスラスト荷重を支承しつつ、前記枢支軸部22、22及び前記外輪30、30が前記支持軸部21、21を中心として揺動する事を許容する。
【0012】
更に、前記各トラニオン6、6の一端部(図6の左端部)にはそれぞれ駆動ロッド36、36を結合し、各駆動ロッド36、36の中間部外周面に駆動ピストン37、37を固設している。そして、これら各駆動ピストン37、37を、それぞれ駆動シリンダ38、38内に油密に嵌装している。
【0013】
上述の様に構成されるトロイダル型無段変速機の場合には、入力軸15の回転は押圧装置9を介して入力側ディスク2に伝えられる。そして、この入力側ディスク2の回転が、1対のパワーローラ8、8を介して出力側ディスク4に伝えられ、更にこの出力側ディスク4の回転が、出力歯車18より取り出される。
【0014】
入力軸15と出力歯車18との間の回転速度比を変える場合には、前記1対の駆動ピストン37、37を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン37、37の変位に伴って前記1対のトラニオン6、6が、それぞれ逆方向に変位し、例えば図6の下側のパワーローラ8が同図の右側に、同図の上側のパワーローラ8が同図の左側に、それぞれ変位する。この結果、これら各パワーローラ8、8の周面8a、8aと前記入力側ディスク2及び出力側ディスク4の内側面2a、4aとの当接部に作用する、接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って前記各トラニオン6、6が、支持板20、20に枢支された枢軸5、5を中心として、互いに逆方向に揺動する。
【0015】
この結果、前述の図3〜4に示した様に、前記各パワーローラ8、8の周面8a、8aと前記各内側面2a、4aとの接触位置が変化し、前記入力軸15と出力歯車18との間の回転速度比が変化する。この様に前記入力軸15と出力歯車18との間の回転速度比を変化させるべく、前記変位軸7、7の傾斜角度を変化させる際には、これら各変位軸7、7が前記各支持軸部21、21を中心として僅かに回動する。この回動の結果、前記各スラスト玉軸受26、26の外輪30、30の外側面と前記各トラニオン6、6の内側面とが相対変位する。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述の様に構成され作用するトロイダル型無段変速機の場合、実用化するに就いて、次に述べる様な点を改良する事が望まれる。即ち、入力側ディスク2から出力側ディスク4への回転力伝達時に各パワーローラ8、8の周面8a、8aは、これら両ディスク2、4の内側面2a、4aに強く押し付けられる。これら各面8a、2a、4aはそれぞれ曲面である為、押し付けの結果、前記各パワーローラ8、8に、前記両ディスク2、4の間から押し出される方向の力が加わる。そしてこの様な力により前記各パワーローラ8、8が、トラニオン6、6の内側面に押し付けられる。この結果、これら各トラニオン6、6が、上記各パワーローラ8、8を支持した内側面側が凹面となる方向に弾性変形する。この弾性変形に基づき、これら各トラニオン6、6の内側面に支持されたパワーローラ8、8が、前記両ディスク2、4の中心軸から離れる方向に変位する。
【0017】
この様に前記各パワーローラ8、8が前記両ディスク2、4の中心軸から離れる方向に変位する結果、これら各パワーローラ8、8の周面8a、8aと両ディスク2、4の内側面2a、4aとの接触角が広がる(大きくなる)事が、本発明者等の研究により分った。ここで、トロイダル型無段変速機での接触角とは、図2の∠AOBである2θを言う。尚、図2の点Oは、パワーローラ8の傾斜中心となる枢軸5、5(図3、4、6)の中心線と前記パワーローラ8の中心線との交点である。又、点Aは、前記周面8aと入力側ディスク2の内側面2a(図3〜5)との接触点(両面8a、2a同士が接触する面積範囲である接触楕円eの中心点)である。更に、点Bは、前記周面8aと出力側ディスク4の内側面4a(図3〜5)との接触点(両面8a、4a同士が接触する面積範囲である接触楕円の中心点)である。この様な接触角2θがパワーローラ8の変位により大きくなる理由に就いては、日本機械学会第69期通常総会講演会論文集Vol.C第294〜296頁に詳しく記載されているので、本明細書では以下に簡単に述べる。
【0018】
トロイダル型無段変速機の運転時には、入力側ディスク2から出力側ディスク4への動力伝達に伴って発生する力により、前記パワーローラ8がこれら両ディスク2、4の中心軸から離れる方向(両ディスク2、4の直径方向外方で、図2の上方)に変位する。この変位の結果、これら両ディスク2、4の内側面2a、4aと前記パワーローラ8の周面8aとの接触圧が低下する傾向となる。この為前記入力側ディスク2が、押圧装置9(図3〜5)の作用により前記パワーローラ8に向けて押圧され、前記両内側面2a、4a同士の間隔が狭まる。この際、入力側ディスク2のみが軸方向(図3〜5の右方向)に変位し、出力側ディスク4は殆ど変位しない。
【0019】
この様に、パワーローラ8が前記両ディスク2、4の直径方向外方に変位し、これら両ディスク2、4の内側面2a、4a同士の間隔が狭まる結果、これら内側面2a、4aが前記周面8aと接触する部分は、前記両ディスク2、4の直径方向外方に移動する。ところで、これら内側面2a、4aの接線方向が前記両ディスク2、4の中心軸に対し傾斜する角度は、これら両ディスク2、4の直径方向外方に向かう程急に(大きく)なる。従って、上述の様にパワーローラ8が変位し、前記両内側面2a、4a同士の間隔が狭まるとこれら両内側面2a、4aは、傾斜角度が急になった部分で、前記周面8aと接触する。この結果、この周面8aがこれら両内側面2a、4aと接触する位置は、変位が起こらない状態に比べて後端面側(トラニオン6側)に移動する。
【0020】
前記パワーローラ8の周面8aには、前記両内側面2a、4aと接触する事で回転動力を伝達可能な有効トラクション面が、或る程度の幅寸法で形成されている。従って、前記周面8aと両内側面2a、4aとの接触位置が多少ずれた場合でも、ずれ量が少なく、接触楕円e′が有効トラクション面から外れなければ、特に問題を生じる事はない。これに対して、接触楕円e′が有効トラクション面から外れた場合には、接触楕円の一部と有効トラクション面の境界部分(エッヂ部分)との当接部分に過大な面圧が作用する。この結果、前記内側面2a、4aの転がり疲れ寿命が低下し、これら内側面2a、4aに早期剥離等の損傷が発生し易くなる等、トロイダル型無段変速機の耐久性を低下させてしまう。
【0021】
この様な耐久性の低下を防止すべく、トロイダル型無段変速機の運転時にも接触楕円が有効トラクション面から外れない様にする為には、
(a) 有効トラクション面の幅寸法Wを大きくする。
(b) パワーローラ8が変位する(前記両ディスク2、4の直径方向外方に後退する)原因となるトラニオン6の弾性変形を防止すべく、このトラニオン6を含め、トロイダル型無段変速機の構成部品の剛性を向上させる。
事が考えられる。
【0022】
ところが、この様な方法により耐久性向上を図ると、トロイダル型無段変速機が大型化し、重量が増大する事が避けられない。即ち、前記(a) の場合には、パワーローラ8の厚さ寸法Tが増大し、このパワーローラ8だけでなく、周囲の部品も大型化する。又、前記(b) の場合には、トラニオン6の断面積が増大し、このトラニオン6だけでなく、やはり周囲の部品も大型化する。本発明のトロイダル型無段変速機は上述の様な事情に鑑みて、特に大型化や重量増大を招く事なくトロイダル型無段変速機の耐久性向上を図るべく発明したものである。
【0023】
【課題を解決する為の手段】
本発明のトロイダル型無段変速機は、前述の従来から知られたトロイダル型無段変速機と同様に、互いの内側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、且つ回転自在に支持された第一、第二のディスクと、第一のディスクを第二のディスクに向けて軸方向に押圧する押圧装置と、前記第一、第二のディスクの中心軸に対し捻れの位置にある枢軸を中心として揺動する複数のトラニオンと、各トラニオンの内側面から突出した変位軸と、幅寸法を有する有効トラクション面を全周に亙って形成され、それぞれの後端面を前記各トラニオンに対向させた状態で前記各変位軸の周囲に回転自在に支持され、前記第一、第二の両ディスクの間に挟持された複数のパワーローラとを備える。
【0024】
特に本発明のトロイダル型無段変速機は、次の(1)(2)の条件を満たすべく、これら各パワーローラの周面の母線形状を規制している
(1) 前記第一、第二のディスク同士の間で動力の伝達を行わない状態で、前記第一、第二のディスクの内側面と前記各パワーローラの周面との接触位置が、前記有効トラクション面の幅方向中央位置よりも前記各パワーローラの前端面寄り部分に存在する。
(2) 前記第一、第二のディスク同士の間で動力の伝達を行わない状態で、前記接触位置と前記枢軸の中心線と前記各パワーローラの中心線との交点とを結ぶ直線と、前記有効トラクション面の幅方向中央位置と前記枢軸の中心線と前記各パワーローラの中心線との交点とを結ぶ直線とのなす角度が3度以上である。
【0025】
【作用】
上述の様に構成される本発明のトロイダル型無段変速機は、前述した従来のトロイダル型無段変速機と同様の作用に基づき、第一のディスクと第二のディスクとの間で回転力の伝達を行い、更にトラニオンの傾斜角度を変える事で、これら両ディスクの回転速度比を変える。
【0026】
特に、本発明のトロイダル型無段変速機の場合には、大きな回転力の伝達に伴ってパワーローラの周面と第一、第二のディスクの内側面との接触位置がずれても、接触楕円が有効トラクション面から外れる事がない。従って、前記内側面に過大な面圧が作用する事を防止して、トロイダル型無段変速機の耐久性向上を図れる。
【0027】
【実施例】
図1は、本発明の実施例を示している。尚、本発明の特徴は、パワーローラ8の周面8aと入力側ディスク2及び出力側ディスク4の内側面2a、4a(図3〜5参照)との接触点の位置を工夫する事で接触楕円が有効トラクション面から外れる事を防止し、前記内側面2a、4aに過大な面圧が作用する事を防止する点にある。その他の部分の構成及び作用に就いては、前述した従来構造と同様であるから重複する説明を省略し、以下、本発明の特徴部分を中心に説明する。
【0028】
第一のディスクである入力側ディスク2と第二のディスクである出力側ディスク4との間で動力の伝達を行わない状態で、これら両ディスク2、4の内側面2a、4aとパワーローラ8の周面8aとは、接触位置Cで接触する。この接触位置Cは、接触楕円(動力非伝達状態の為、極く小さい。)の中心点である。本発明のトロイダル型無段変速機の場合、この接触位置Cは、前記周面8aに形成された有効トラクション面の幅方向中央位置Mよりも、前記パワーローラ8の前端面寄り部分(図1の下寄り部分)に存在する。そして、パワーローラ8の傾斜中心となる枢軸5、5(図3、4、6)の中心線と前記パワーローラ8の中心線との交点をOとした場合に、∠COMを3度以上にすべく、前記接触位置Cを規制している。
この為に、上記周面8aの母線形状である円弧の曲率中心を、上記幅方向中央位置Mで接触させる場合よりも、上記パワーローラ8の前端面寄り部分にずらせている。この点に就いて、以下に説明する。上記接触位置Cと、パワーローラ8の傾斜中心となる枢軸5、5(図3、4、6)の中心線と前記パワーローラ8の中心線との交点Oとを結ぶ直線COは、必然的に、上記接触位置Cでの、上記周面8aの母線形状に関する法線となる。従って、上記周面8aと上記両内側面2a、4aとの接触位置をCにする為には、上記周面8aの母線形状の曲率中心は、上記直線COの途中に存在する必要がある。これに対して、上記幅方向中央位置Mで接触させる場合に上記周面8aの母線形状の曲率中心は、直線MO上に存在する必要がある。上記直線COとこの直線MOとを比較すれば明らかな通り、上記接触位置Cを上述の様に規制する為には、上記周面8aの母線形状である円弧の曲率中心を、上記幅方向中央位置Mで接触させる場合よりも、上記パワーローラ8の前端面寄り部分にずらせる必要がある。
但し、上記接触位置Cが有効トラクション面から前端面側に外れる事を防止すべく、前記∠COMの最大値は、有効トラクション面の幅寸法Wに応じて規制する。一般的には、この∠COMの最大値は10度以内とし、好ましくは3度に近い値(例えば3〜5度程度)とする。尚、図1にはパワーローラ8の片半部のみ示したが、他半部も対称に構成される。
【0029】
上述の様に構成される本発明のトロイダル型無段変速機の場合には、大きな回転動力の伝達に伴って前記パワーローラ8の周面8aと入力側、出力側両ディスク2、4の内側面2a、4aとの接触位置がずれても、接触楕円が有効トラクション面から外れる事がない。即ち、本発明者が行った実験によると、トロイダル型無段変速機の接触角は、無負荷時(動力非伝達時)に比べて最大負荷時(最大動力伝達時)には6度程度大きくなった。例えば、前述した図2に示す様に、パワーローラ8の周面8aがA、Bの2点で前記両内側面2a、4aに接触した場合、無負荷時の接触角2θ(∠AOB)は120度であった。これに対して、最大負荷時には前記周面8aが、前記A、B両点よりもパワーローラ8の後端面寄り部分(図2の上寄り部分)に存在するA´、B´の2点で、前記両内側面2a、4aと接触した。そして、この場合の接触角2θ´(∠A´OB´)は126度であった。
【0030】
即ち、無負荷状態から最大負荷状態になる事で、前記周面8aと前記各内側面2a、4aとが接触する点は、∠AOA´=∠BOB´=(126−120)/2=3(度)ずつ後端面寄りにずれた。この様に、接触点が無負荷状態から最大負荷状態まで、3度以上ずれる現象は、30馬力程度の動力を伝達する比較的小型のトロイダル型無段変速機から、300馬力程度の動力を伝達する比較的大型のトロイダル型無段変速機まで、同様に発生した。
【0031】
例えば、定格が22kw(約30馬力)のトロイダル型無段変速機の場合には、トラニオン6(図3〜6)の両端面に設けた枢軸5、5の支承位置(各枢軸5、5に加わるラジアル荷重を支承する面の中心位置)の間隔が約130mmであり、最大負荷時にはこのトラニオン6の中心位置に、パワーローラ8から約2000kgf のスラスト荷重が加わる。そしてこのスラスト荷重に伴って前記トラニオン6が弾性変形し、前記パワーローラ8が約0.4mm、後端面側に変位する。そして、この変位に基づいて前記接触角2θが、無負荷状態の120度から126度にまで広がる。
【0032】
この様に、トロイダル型無段変速機の大きさ並びに重量を実用的な範囲に納める場合には、前記接触点が3度程度後端面側にずれる事が避けられない。これに対して本発明のトロイダル型無段変速機の場合には、前述の様に、無負荷状態での接触位置Cを、前記周面8aに形成された有効トラクション面の幅方向中央位置Mよりもパワーローラ8の前端面寄り部分に3度以上ずれた位置としている為、最大負荷時にも接触楕円が有効トラクション面からパワーローラ8の後端面側に外れる事を防止できる。従って、前記入力側ディスク2及び出力側ディスク4の内側面2a、4aに過大な面圧が作用する事を防止して、トロイダル型無段変速機の耐久性向上を図れる。
【0033】
尚、接触楕円の大きさは負荷が大きくなり、接触位置が前記周面8aの後端面寄りに移動する程大きくなる。言い換えれば、無負荷状態での接触楕円は極く小さく、しかも接触圧も無視できる程度に小さい。従って、前記無負荷状態での接触位置Cは、前記有効トラクション面の前端面寄り端部に位置させても、耐久性確保の面からは特に問題を生じる事はない。更に言えば、本発明のトロイダル型無段変速機の場合には、接触楕円が最大となる最大負荷状態に向けて、接触点が有効トラクション面の幅方向中央位置に近付く。従って、前記過大な面圧の発生を確実に防止できる。
【0034】
【発明の効果】
本発明のトロイダル型無段変速機は、以上に述べた通り構成され作用するが、トラニオン等の構成各部材として、徒に重量が嵩むものを使用しなくても、パワーローラの周面に設けた有効トラクション面と入力側、出力側両ディスクの内側面とを確実に接触させる事ができる。この結果、軽量且つ耐久性の優れたトロイダル型無段変速機を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す、パワーローラ及びスラスト玉軸受の部分断面図。
【図2】接触角の概念を説明する為の、パワーローラ及びスラスト玉軸受の断面図。
【図3】従来から知られたトロイダル型無段変速機の基本的構成を、最大減速時の状態で示す側面図。
【図4】同じく最大増速時の状態で示す側面図。
【図5】従来の具体的構造の1例を示す断面図。
【図6】図5のA−A断面図。
【符号の説明】
1 入力軸
2 入力側ディスク
2a 内側面
3 出力軸
4 出力側ディスク
4a 内側面
5 枢軸
6 トラニオン
7 変位軸
8 パワーローラ
8a 周面
9 押圧装置
10 カム板
11 保持器
12 ローラ
13、14 カム面
15 入力軸
16 ニードル軸受
17 鍔部
18 出力歯車
19 キー
20 支持板
21 支持軸部
22 枢支軸部
23 円孔
24、25 ニードル軸受
26 スラスト玉軸受
27 スラストニードル軸受
28 保持器
29 玉
30 外輪
31 レース
32 保持器
33 ニードル
36 駆動ロッド
37 駆動ピストン
38 駆動シリンダ

Claims (1)

  1. 互いの内側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、且つ回転自在に支持された第一、第二のディスクと、第一のディスクを第二のディスクに向けて軸方向に押圧する押圧装置と、前記第一、第二のディスクの中心軸に対し捻れの位置にある枢軸を中心として揺動する複数のトラニオンと、各トラニオンの内側面から突出した変位軸と、幅寸法を有する有効トラクション面を全周に亙って形成され、それぞれの後端面を前記各トラニオンに対向させた状態で前記各変位軸の周囲に回転自在に支持され、前記第一、第二の両ディスクの間に挟持された複数のパワーローラとを備え、次の(1)(2)の条件を満たすべく、これら各パワーローラの周面の母線形状を規制したトロイダル型無段変速機。
    (1) 前記第一、第二のディスク同士の間で動力の伝達を行わない状態で、前記第一、第二のディスクの内側面と前記各パワーローラの周面との接触位置が、前記有効トラクション面の幅方向中央位置よりも前記各パワーローラの前端面寄り部分に存在する。
    (2) 前記第一、第二のディスク同士の間で動力の伝達を行わない状態で、前記接触位置と前記枢軸の中心線と上記各パワーローラの中心線との交点とを結ぶ直線と、前記有効トラクション面の幅方向中央位置と前記枢軸の中心線と上記各パワーローラの中心線との交点とを結ぶ直線とのなす角度が3度以上である。
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