JP3652528B2 - 木質パネルの接合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、木質パネルの接合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、木そのものが持つ素材の良さが見直され、集成材という優れた特性を持った建築構造材料が国内でも多く生産されるようになり、スポーツ施設や集会施設、展示施設等の大規模な建築物に加え、店舗や住宅まで集成材による木構造(集成材構造)で建築されるようになってきている。ただし、これらの集成材構造は軸組架構(半剛接ラーメンやトラス等)が主体である。
北米などでは、枠組み壁工法(ツーバイフォー工法)の壁、床、屋根のように、木製枠組みに合板などの面内剛性の高い材料を張ったパネル材により建物を構築する場合すなわち木質パネル構造が多く見られる。この木質パネル構造は、木質系面材料の高い面内せん断性能を利用して一種の版を構成する木質構造独特の構造形式であるが、我が国では既に住宅を中心に普及している。
この場合、パネル部分を予め工場生産してから現場に搬入し、組み立てる工法をとれば、
a.品質の向上 b.コストダウン c.工期の短縮
などが実現できるだけでなく、ツーバイフォー工法の弱点と言われていた、日本人には体力的に向き(在来工法と大きく異なる建方や、組み立てに大量の釘を使うこと等)といった問題を回避できる。
木造のパネル構造自体は既に1960年代にヨーロッパを中心に研究され、実用化が推進されたが、その殆どが住宅を対象としたものであった。しかし、住宅を対象とした場合の構造をそのままその他の建築(事務所、工場、店舗等)に適用するには限界があると言わざるを得ない。特に事務所等の高層建築にパネル構造を適用する場合には、鉛直荷重を無理なく伝達できるパネル構成や、地震・風などの水平せん断力に十分抵抗できるパネル間接合技術等が必要になる。
【0003】
木質パネル構造における床構造の従来例には、図11、図12に示すようなものがある。
図11の場合は、空間を与えた2.5階住宅である。2階床には工場生産された木質パネルを用い、現場で接着剤とボルトによりパネル相互を緊結する。
この例に示すように、通常、2階壁パネルと1階壁パネルの境界は、2階床パネルの枠材を間に挟んでその上下に上下階の床パネルがボルト止めされる構成となっている。
【0004】
図12の場合は、壁パネルと床パネルをあるレベルまで工場で組み立て、ユニットとして現場に搬入し組み上げる構法(木質パネルユニット化構法)の事例である。ここでは、2階建て住宅の例を示す。この例では、1日でユニットの設置、ユニット間のジョイント、雨仕舞を完了する。
水平構面のジョイント、すなわち、床構面の接合は、現場でのユニット間の面材を張り渡す仕様としている。屋根構面の接合も同様の考え方によるが、屋根仕上げ材でカバーされる納まりから、鋼製プレートによる接合仕様としている。
ユニット間上下接合、すなわち、基礎と1階ユニット間は、基礎のアンカーボルトで床パネルの枠材を固定する。1階と2階、2階と屋根ユニット間については、床パネルの枠材同士をボルトで締め、一体化する。
この従来例における2階壁パネルの境界は、前の事例と同じく、2階床パネルの枠材を間に挟んでその上下に上下階の壁パネルが取り付けられている。
【0005】
一方、公開特許公報には、この種のものとして、
パネル同士を添え木釘打ち止めする特開昭51-135130 号公報の「木質パネル組立住宅用パネル及び組立住宅」、
壁パネル同士の接合において、より高い水平抵抗力を持たせるため、接合部分の面材を突出させて他方の壁パネルに嵌合させて釘止めし、外観を損ねずに(ガセット合板等を用いずに)面材から面材へ力を伝達させようとする特開平6-307005号公報の「壁パネル及びそれを用いた壁構造」、
壁パネルの接合方法として鉄筋挿入接着接合技術を取り入れた特開平9-242222号公報の「木構造における壁式構造体」等がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、図11、図12の構造で、事務所等の高層建築を想定した場合、壁パネルを伝わって下層部に流れる鉛直荷重は当然大きくなり、壁パネルの間に床パネルの枠材が介在することは構造的に問題となる。特に、床パネルの枠材は繊維直交方向に荷重を受けるため、剛性的にも強度的にも極めて不利になる。また、鉛直荷重が大きくなることで、地震時に生じる水平力(層せん断力)も大きくなり、ここで示すような上下の壁パネルを胴差ボルトで止める程度の接合部では、剛性、強度ともに不十分となる。
【0007】
特開昭51-135130 号公報の「木質パネル組立住宅用パネル及び組立住宅」では、パネル同士を添え木釘打ち止めするため、やはり住宅を越える規模の建築には適用に無理がある。
特開平6-307005号公報の「壁パネル及びそれを用いた壁構造」では、接合部分の面材を突出させて他方の壁パネルに嵌合させて釘止めするため、この発明者が記述しているような「十分な耐力」が本当に得られるか疑問であるが、それよりも施工面で問題がある。面材の突出は搬出搬入上支障となり、特にパネルが大きくなるほど突出部が破損する可能性が高くなる。
特開平9-242222号公報の「木構造における壁式構造体」では、鉄筋挿入接着接合技術を取り入れているが、しかし、この鉄筋挿入接着接合技術は未だ確立された技術ではなく、その信頼性は十分とはいえない。特に、この案のように鉛直方向に接着剤を充填するような場合は、養生時の漏れ出しを防ぐために十分な配慮が必要となる。しかも、接着剤が硬化するまでの間は施工を進めることができないので、本来メリットを出すべき工期とコストの面で不利になる。また、一般的な枠材の断面寸法では、鉄筋の埋め込み長さが十分に取れない場合も考えられ、耐力が確保できない可能性もある。
したがって、これらの公開特許公報の技術内容では、事務所等の高層建築のような、地震・風荷重時にパネル間に確実で十分な接合強度を要求される場合に対しては、未だ問題が残ると言わざるを得ない。
【0008】
そこで、本発明は、事務所等の高層建築のような、地震・風荷重時にパネル間に十分な接合強度を要求される場合を対象として、工場生産パネルの使用を前提とした新しい木質パネル接合技術を提案する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、相手方とボルト接合する木質パネルの主枠の接合面にせん断伝達鋼板を付設し、該せん断伝達鋼板の外面には、相手方のシェアキー受け孔へ嵌挿させる適数のシェアキーを配設するとともに、相手方のシェアキーを嵌挿させる適数のシェアキー受け孔を配設して、上記ボルト接合に伴いシェアキー結合を施すことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の木質パネルの接合方法にあって、上記せん断伝達鋼板を上記木質パネルの主枠の接合面に釘打ちにて付設して成る。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の木質パネルの接合方法にあって、上記相手方として他の木質パネルを隣接させ、該木質パネルのボルト接合する主枠の接合面にも他のせん断伝達鋼板を付設し、該せん断伝達鋼板の外面には、上記各シェアキー、シェアキー受け孔と対応させて他の適数のシェアキー受け孔及びシェアキーを配設して成る。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1又は請求項2の木質パネルの接合方法にあって、上記相手方としてパネル接合鋼材を隣接させ、該パネル接合鋼材の接合面に、上記各シェアキー、シェアキー受け孔と対応させて他の適数のシェアキー受け孔及びシェアキーを配設して成る。
【0013】
【発明の実施の形態】
図1乃至図4は、同一面内での木質パネル6同士の接合についての、請求項1乃至請求項3の発明に係る実施の形態その1.を示している。
この場合、図1、図2に示すようなせん断伝達鋼板1を使用する。このせん断伝達鋼板1は、一定の大きさの鋼板を加工したもので、多数の釘孔2と複数のボルト孔3とをそれぞれ一定間隔で開けられている他、外面にて数箇所にシェアキー4が溶接されており、これに対応する他のせん断伝達鋼板1の各シェアキー4に合う適数のシェアキー受け孔5も開けられている。
【0014】
かかるせん断伝達鋼板1は、図3に示すように、各木質パネル(壁パネル又は床パネル)6の主枠(例えば集成材)7において、接合部分の枠材7aの外側面に、多数の釘8により上記釘孔2にて釘打ちして止める。13は、主枠7に付設した合板である。
この時、各シェアキー4及びシェアキー受け孔5が他のせん断伝達鋼板1の各シェアキー受け孔5及びシェアキー4と相互に噛み合うように凹凸互い違いに配する。また、各接合部分の枠材7aには、各せん断伝達鋼板1の各々のボルト孔3に連通させてそれぞれ透孔9を穿設する。
施行性向上のため木質パネル6を工場で製作すると同時に、せん断伝達鋼板1も釘止めしておき、現場では木質パネル同士のボルト締めをするだけで済むようにする。ボルト締めのための孔も工場で開けておく。
なお、せん断伝達鋼板1の枠材7aへの固定方法に関しては、図9に示すような外付けタイプと、図10に示すような埋め込みタイプとの2つのパターンがあり、設計者の判断で選択される。
【0015】
そして、木質パネル6同士の接合には、図4に示すように、せん断伝達鋼板1相互を突き合わせ、各シェアキー4とシェアキー受け孔5とを噛み合わせるとともに、連通するそれぞれのボルト孔3及び透孔9に各々ボルト10を挿通させ、かつ、それらのボルトにナットを螺合させることで、それらの噛み合いが外れないようにして枠材7a及びせん断伝達鋼板1同士をボルト締めする。ただし、ここでのボルト締めは、せん断伝達鋼板1同士の密着を目的とするもので、パネルのせん断力の伝達には直接寄与しない。
この接合方法は、木質パネル6の四方向(上下左右方向)総てに同時に適用が可能であり、壁パネルのみならず床パネルにも適用できる。
高層建築を対象とした場合、図3、図4に示すように、壁パネルたる木質パネル6の左右両端の枠材7aを縦通しとして、上下階の壁パネルの間に床パネルの枠材等を介在させずに壁パネル同士を直接接合する。これによって、上部階からの鉛直力を無理なく下部階に伝達させることができるようになる。
【0016】
図5、図6は、上述の木質パネルの接合方法にあって、壁パネル同士が直角に交差する隅角部にて上記木質パネル6を接合する場合の請求項1、請求項2、請求項4に係る実施の形態その2.を、また、図7、図8は、上述の木質パネルの接合方法にあって、三方向接合部で上記木質パネル6を接合する場合の請求項1、請求項2、請求項4に係る実施の形態その3.を示している。
図5、図6の場合は、双方の木質パネル6を隅角部に立設した横断面L字状のパネル接合鋼材11を介して、また、図7、図8の場合は、三方向の木質パネル6を三方向接合部に立設した横断面コ字状のパネル接合鋼材12を介してそれぞれ接合し、それらの接合には、前回とほぼ同様にして、ボルト接合に伴いシェアキー結合を施す。
つまり、それらのパネル接合鋼材11,12の各接合面には、上記各木質パネル6の接合部分の枠材7a及び上記各せん断伝達鋼板1に穿設した各透孔9及び各ボルト孔3に対応させて、共通の複数のボルト孔3を穿設し、また、背後に適宜に補剛材14を溶接して、それらの透孔9、ボルト孔3,3にそれぞれボルト10を通し、これらのボルト10にナットを螺合させて、パネル接合鋼材11,12とせん断伝達鋼板1及び枠材7aをボルト締めする。
なお、図5乃至図8では、各せん断伝達鋼板1とパネル接合鋼材11,12との間に隙間を設け、シェアキー4とシェアキー受け孔5とが噛み合っていない状態を示しているが、これらは図示の便宜上のためのものであって、ボルト締めによりすべて解消されるものである。また、各せん断伝達鋼板1の幅がパネル接合鋼材11,12の幅と同一になっているが、必ずしもその必要はなく、図9、図10に示したパターンでも構わない。
【0017】
【発明の効果】
本発明にによれば、既述構成であるから、次の効果を奏する。
▲1▼ パネル間の接合強度が向上する同時にパネル間の接合部剛性が向上することにより、従来のパネル構法では実現不可能であった高層建築が実現できるようになる。
▲2▼ 高層建築では下部階の層せん断力が住宅等の小規模木造に比べて非常に大きいものとなり、パネル同士の接合部には十分なせん断耐力が要求されるが、従来のようなかい木を介して枠材を釘止めする方法や、壁パネル上端をプレートで繋ぐだけの方法では十分な耐力が得られないばかりでなく、接合剛性も不十分で、しかも、バラツキが避けられない。これでは設計上問題となる層間変形角制限をクリアすることは困難である。
しかし、本発明の接合方法によれば、パネル間接合部に十分なせん断耐力を与えることができ、しかも、接合剛性の算定が既往の実験資料に基づいてできるようになり、接合部の構造設計が可能となる。
▲3▼ 図11及び図12に示すような従来の構成では、上下の壁パネル間に床パネルの枠材が介在し、この枠材の繊維直交方向(木材の弱点)に上層部からの鉛直荷重が直接かかるため、この点からも高層化は困難となっている。
しかし、本発明によれば、壁パネルたる木質パネルの左右両端の主枠の枠材を縦通しとして、上下階の壁パネルの間に床パネルの枠材等を介在させずに壁パネル同士を直接接合することで、上下方向に連続させることができ、上部階からの鉛直力を無理なく下層階に伝達するができて、高層化に支障なく、簡単かつ容易に対処できる。
▲4▼ 本発明による接合部では、釘とシェアキーによって力を伝達させることができるので、釘の数量をうまく調整することで、地震や風を受けた時の粘りを発揮する建築の設計が可能となる。
例えば、地震に対する設計の際、いわゆる中地震時には定められた層間変形角以内に納まるように接合部に十分な剛性が維持されなければならないが、本発明による接合部では、せん断伝達鋼板が枠材に釘止めされ、シェアキーの噛み合いによってせん断力が伝達されるため、釘の本数が十分であれば接合部の「滑り」は殆ど発生せず、層間変形角を小さく抑えることが可能になる。
また、大地震時には接合部が部分的に塑性化しても建物全体として崩壊しないことが求められ、そのためには接合部が塑性域に入り変形が進んでも或る程度の耐力を維持できるようにしなければならないが、本発明による接合部では、シェアキーのせん断耐力が釘の接合耐力を上回っている限り、釘の曲げ変形により接合部が大地震時でも急激に耐力を失うことはなく、適度な変形性能が接合部に期待できるようになる。
▲5▼ 本発明では、せん断伝達鋼板の取り付けまでを工場で行うことができ、現場では、パネル同士、パネルとパネル接合鋼材等をボルト締めするだけで済み、施工の省力化を実現できる。すなわち、施工に関しては、工期の短縮、施工コストの低減等が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 請求項1乃至請求項4の発明に係る実施の形態を示すせん断伝達鋼板の正面図である。
【図2】 図1のA−A線断面図である。
【図3】 請求項1乃至請求項3に係る木質パネルの接合方法の実施の形態その1.を示す接合直前の一部截断正面図である。
【図4】 同接合後の一部截断正面図である。
【図5】 請求項1、請求項2、請求項4に係る木質パネルの接合方法の実施の形態その2.を示す截断平面図である。
【図6】 図5のB−B線断面図である。
【図7】 請求項1、請求項2、請求項4に係る木質パネルの接合方法の実施の形態その3.を示す截断平面図である。
【図8】 図7のC−C線断面図である。
【図9】 木質パネルに係るせん断伝達鋼板の取り付け状態の変形例を示す要部の拡大截断平面図である。
【図10】同他の変形例を示す要部の拡大截断平面図である。
【図11】従来技術の一例を示す説明図である。
【図12】同他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
1…せん断伝達鋼板 2…釘孔
3…ボルト孔 4…シェアキー
5…シェアキー受け孔 6…木質パネル
7…主枠 7a…枠材
8…釘 9…透孔
10…ボルト 11…パネル接合鋼材
12…パネル接合鋼材 13…合板
14…補剛材
Claims (4)
- 相手方とボルト接合する木質パネルの主枠の接合面にせん断伝達鋼板を付設し、該せん断伝達鋼板の外面には、相手方のシェアキー受け孔へ嵌挿させる適数のシェアキーを配設するとともに、相手方のシェアキーを嵌挿させる適数のシェアキー受け孔を配設して、上記ボルト接合に伴いシェアキー結合を施すことを特徴とする木質パネルの接合方法。
- 上記せん断伝達鋼板を上記木質パネルの主枠の接合面に釘打ちにて付設する請求項1記載の木質パネルの接合方法。
- 上記相手方として他の木質パネルを隣接させ、該木質パネルのボルト接合する主枠の接合面にも他のせん断伝達鋼板を付設し、該せん断伝達鋼板の外面には、上記各シェアキー、シェアキー受け孔と対応させて他の適数のシェアキー受け孔及びシェアキーを配設する請求項1又は請求項2記載の木質パネルの接合方法。
- 上記相手方としてパネル接合鋼材を隣接させ、該パネル接合鋼材の接合面に、上記各シェアキー、シェアキー受け孔と対応させて他の適数のシェアキー受け孔及びシェアキーを配設する請求項1又は請求項2記載の木質パネルの接合方法。
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