JP3651910B2 - セラミックス回転カソードターゲット及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はセラミックス膜、特に低屈折率を有する酸化物透明薄膜をスパッタ法により形成する際に用いるセラミックス回転カソードターゲット及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来からガラス、プラスチック等の透明基板に薄膜を形成して光学的機能を付加したものとしてミラー、熱線反射ガラス、低放射ガラス、干渉フィルター、カメラレンズやメガネレンズの反射防止コート等がある。
通常のミラーでは、無電解メッキ法でAgが、また、真空蒸着法、スパッタ法などでAlやCrなどが形成される。これらの中でCr膜は比較的丈夫なのでコート面が露出した表面鏡として用いられている。
【0003】
熱線反射ガラスにおいては酸化チタンや酸化スズ等がスプレー法、CVD法又は浸漬法等で形成されてきた。最近では金属膜、窒化物膜、スズをドープした酸化インジウム(ITO)膜等がスパッタ法でガラス表面に形成されたものが熱線反射ガラスに使われるようになってきた。スパッタ法は膜厚コントロールが容易で、かつ複数の膜を連続して形成でき、透明酸化物膜と組合せて透過率、反射率、色調などを設計できる。このため意匠性を重視する建築などに需要が伸びている。
【0004】
室内の暖房機や壁からの輻射熱を室内側に反射する低放射ガラス(Low Emissivityガラス)は、銀を酸化亜鉛で挟んだZnO/Ag/ZnOの3層系又はZnO/Ag/ZnO/Ag/Znoの5層系(特開昭63−239043号公報参照)などの構成をもち、複層ガラスか合せガラスの形で使われる。近年ヨーロッパの寒冷地での普及が目ざましい。
レンズ等の反射防止コートは酸化チタン、酸化ジルコニウム等の高屈折率膜と酸化ケイ素、フッ化マグネシウム等の低屈折率膜とを交互に積層する。通常は真空蒸着法が用いられ、成膜時は基板加熱して耐擦傷性の向上を図っている。
【0005】
表面鏡、単板の熱線反射ガラス及びレンズ等の反射防止コートなどはコートされた膜が空気中に露出した状態で使用される。このため化学的な安定性や耐摩耗性に優れていなければならない。一方、低反射ガラスでも複層ガラス又は合せガラスになる前の運搬や取り扱い時の傷などにより不良品が発生する。このため安定で耐摩耗性に優れた保護膜又は保護膜を兼ねた光学薄膜が望まれている。
【0006】
耐久性向上のためには通常化学的に安定で透明な酸化物膜が空気側に設けられる。該酸化物膜としては酸化チタン膜、酸化スズ膜、酸化タンタル膜、酸化ジルコニウム膜、酸化ケイ素膜等があり、また、低屈折率を有する代表的な膜としてフッ化マグネシウム膜等があり、必要な性能に応じて選択され使用されてきた。酸化チタン膜、酸化スズ膜、酸化タンタル膜、酸化ジルコニウム膜は屈折率が高く、一方、酸化ケイ素膜、フッ化マグネシウム膜は屈折率が低い。
【0007】
しかし、これらの膜は大面積の基板への成膜は困難であり、建築用ガラスや自動車用ガラス等の大面積の成膜が必要なところには対応できなかった。大面積の成膜には直流スパッタ法が最適であるが、低屈折率を有する透明薄膜を提供する適当なターゲット材がなく、大面積成膜の可能な直流スパッタ法を用いて所望の薄膜を得ることができなかった。
【0008】
例えば酸化ケイ素膜を直流スパッタ法で成膜するには導電性を有するSiターゲットを酸素を含む雰囲気で反応スパッタして二酸化ケイ素薄膜を形成する方法が考えられるが、Siターゲットはスパッタ中に表面が酸化して導電性が低下し、スパッタを安定的に持続させることができなかった。また、成膜された二酸化ケイ素薄膜はアルカリ性に対して弱く、長時間の浸漬には耐えない。
そこで本出願人は特開平3−177568号公報にて高い耐久性を有し、低屈折率で広い光学設計の自由度を有する非晶質酸化物薄膜及びターゲットを提案した。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
一方、スパッタ用プレーナ型ターゲットは、無機化合物の原料を混合し成形、焼成及びスパッタ装置に合った形状にするための加工及びボンディングと長い工程を通って作成される。この中で成形、焼成、加工、ボンディング等の工程はターゲットが小さい場合には大がかりな治具装置は必要でないが、大型の生産機用ターゲットでは上記治具装置は大がかりとなり、またボンディングにおいてもセラミックスターゲットをターゲットホルダー金属板に接合する場合、分割して加工接合する等して作製されているが、大がかりな装置、高価なInハンダを大量に使用する等、労力、コストがかかる。
【0010】
さらに建築用の大面積ガラスのスパッタにおいては、生産性を上げるため高いスパッタパワーをかけ成膜速度を上げているが、この場合ターゲットの冷却により、成膜速度が制限される他、ターゲットの割れ、剥離等のトラブルが起きている。
【0011】
これらの点を改良した新しいタイプのマグネトロン型回転カソードターゲットが知られている(特表昭58−500174号公報参照)。これは、円筒状ターゲットの内側に磁場発生手段を設置し、ターゲットの内側から冷却しつつ、ターゲットを回転させながらスパッタを行うものであるため、プレーナ型ターゲットより、単位面積あたり大きなパワーを投入でき、したがって高速成膜が可能とされている。マグネトロン型回転カソードターゲットのほとんどは、スパッタすべき金属や合金からなる円筒状の回転カソードで構成されたターゲットであり、スパッタすべき物質が、柔らかい又は脆い、金属や合金の場合は円筒状のターゲットホルダー上に製作されたターゲットである。
【0012】
しかし金属ターゲットの場合、各種のスパッタ雰囲気で酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等を形成でき多層膜のコートが可能であるが、異種雰囲気にすると既に成膜された膜が損傷し、目的の組成のものが得られず、また低融点金属ターゲットではパワーをかけすぎると溶融してしまう等の欠点があり、セラミックスのターゲットが望まれている。
【0013】
特開昭60−181270号公報に溶射によるスパッタターゲットの製法が提案されているが、セラミックスと金属との熱膨張の差が大きくて溶射膜を厚くできず、また使用時の熱ショックにより密着性が低下し剥離する等の問題がある。また、セラミックス焼結体を円筒状に製作してターゲットホルダー金属にIn金属にて接合する方法もあるが、作りにくくコストもかかる。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は前述の問題点を解決すべくなされたものであり、円筒状ターゲットホルダーの外表面に、スパッタすべきターゲットとなるセラミックス層を形成するセラミックス回転カソードターゲットの製造方法であって、円筒状ターゲットホルダーの外表面をサンドブラストを用いて粗面とし、その外表面上に、前記セラミックス層と前記ターゲットホルダーとの中間の熱膨張係数を有する金属又は合金からなる層、さらに該層上に、熱膨張係数が前記セラミックス層の熱膨張係数±2×10 −6 /℃の範囲内の値である金属又は合金からなる層を形成し、次いで、セラミックス粉末を高温ガス中で半溶融状態にしつつ前記高温ガスにより前記アンダーコート上に輸送して付着させ、かつ前記セラミックス粉末として、Zr、Ti、Ta、Hf、Mo、W、Nb、Sn、La、In、Crのうち少なくとも1種(以下金属Mという)とSiとを主成分とし、金属Mの総量とSiとの原子比が4:96〜35:65の粉末を用いることを特徴とするセラミックス回転カソードターゲットの製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、円筒状ターゲットホルダーの粗面となった外表面上に、スパッタすべきターゲットとなるセラミックス層が形成されてなるセラミックス回転カソードターゲットであって、該外表面上に、前記セラミックス層と前記ターゲットホルダーとの中間の熱膨張係数を有する金属又は合金からなる層、さらに該層上に、熱膨張係数がセラミックス層の熱膨張係数±2×10 −6 /℃の範囲内の値である金属又は合金からなる層が、前記セラミックス層と前記ターゲットホルダーとの間にアンダーコートとして形成され、前記セラミックス層は、Zr、Ti、Ta、Hf、Mo、W、Nb、Sn、La、In、Crのうち少なくとも1種(以下金属Mという)とSiとを主成分とし、金属Mの総量とSiとの原子比が4:96〜35:65であることを特徴とするセラミックス回転カソードターゲット(以下、単に回転カソードターゲットという)をも提供する。
【0016】
本発明の方法では、セラミックス粉末を例えばプラズマ溶射装置を用いて半溶融状態にし、ターゲットホルダーに溶射付着せしめ、直接ターゲットとなるセラミックス層を形成する。これによって金型に粉末を詰めてプレス成形する工程、それを電気炉中で焼結する工程、又はホットプレスにより焼結する工程、適当な形状に加工修正する工程、セラミックスとホルダーを接合する工程を必要としない。溶射粉末を得るに際し、特に容易に入手できない複雑な化合物の場合、化学的合成又は固相反応を利用して作製する。溶射粉末は粉砕分級して溶射に適当な流動しやすい粒径に揃えることで利用できる。
【0017】
本発明において、セラミックス層は、Zr、Ti、Ta、Hf、Mo、W、Nb、Sn、La、In、Crのうち少なくとも1種(以下金属Mという)とSiとを主成分とし、金属Mの総量とSiとの原子比が4:96〜35:65である。特に、4:96〜15:85とすることで成膜した酸化物の薄膜の屈折率が1.6以下となり好ましい。金属Mの含有量がSiとの総量中において4原子%より少ないと、酸化雰囲気中では、ターゲットの表面酸化により安定的にスパッタすることが困難であり、また、成膜した薄膜(例えばZrとSiの酸化物膜)の耐アルカリ性が悪くなる。金属Mの含有量が、Siとの総量中において35原子%より多いと成膜した薄膜の屈折率が高くなる。
【0018】
本発明で用いるセラミックス粉末は例えば次の方法で作製できる。金属M、Si、ZrSi2、ZrO2(Y2O3、CaO、MgO等を3〜8mol%添加したZrO2を含む)、SiO2等の粉末又は混合粉末(非酸化物のターゲットを形成する場合には、必要に応じて、酸化物を還元するためのカーボン粉末を混合したもの)を化学的合成又は固相反応を利用した高温雰囲気炉中で焼成することにより塊状の単一系又は複合系の粉末が得られる。
【0019】
この粉末を粉砕し10〜75μm程度の粒径に分級して、溶射するセラミックス粉末を得るのが好ましい。75μmより大きいと高温ガス中で半溶融状態にしにくく、また、10μmより小さいと、溶射時に、ガス中で分散してしまい、ターゲットホルダー上に付着しにくくなる。
【0020】
なお、前述のセラミックス粉末にFe、Al、Mg、Y、Mn、Hを総計3wt%以下含んでいてもよく、Cは成膜中にCO2となって消えてしまうのでCを20wt%以下含んでいてもよい。さらに不純物程度のCu、V、Co、Rh、Ir等を含んでいてもよい。
【0021】
円筒状ターゲットホルダーとしては、ステンレス、銅、又はセラミックス層に近似した熱膨張係数を有するTi、Moなどが使用できる。セラミックス粉末の溶射に先だって、密着性向上のため、円筒状ターゲットホルダーの外表面を、Al2O3やSiCの砥粒を用いサンドブラストすることにより、粗面としておくことが必要である。また、セラミックス粉末の溶射に先だって、円筒状ターゲットホルダーの外表面をV溝状やネジ状に加工した後、Al2O3やSiCの砥粒を用いてサンドブラストして密着性が良くなるように、粗面としておくことも好ましい。
【0022】
外表面を粗面とした円筒形状ターゲットホルダーには、セラミックス層とターゲットホルダーとの熱膨張差を緩和し、またスパッタ時の熱ショックによる剥離が起きないよう密着力を高めるために、アンダーコートを形成する。かかるアンダーコートとしては、ターゲットホルダーとセラミックス層の中間の熱膨張係数を有する金属又は合金からなる層(以下、A層という)、さらに該層上に、熱膨張係数がセラミックス層の熱膨張係数±2×10 −6 /℃の範囲内の値である金属又は合金からなる層(以下、B層という)を形成(好ましくはその粉末をプラズマ溶射して形成)し、ターゲットホルダー/A層/B層/セラミックス層とする。
【0023】
【0024】
アンダーコートの材料としては、Mo、Ti、Ni、Nb、Ta、W、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、Ni−Cr−Al−Y、Ni−Co−Cr−Al−Y等の導電性の粉末を使用できる。アンダーコートの膜厚はそれぞれ30〜100μm程度が好ましい。
【0025】
アンダーコートの材料は、セラミックス層の熱膨張係数に応じて変わる(ターゲットホルダーに使用可能な、Cuや、SUS304等の熱膨張係数は、17〜18×10−6/℃である。)。
【0026】
例えば、セラミックス層が、Hf−Si系、Cr−Si系、Sn−Si系、Zr−Si系(Zr:Si(原子比)=33:67よりZrが少ない場合)等(熱膨張係数5〜6×10−6/℃)の場合は、アンダーコートA層の好ましい熱膨張係数は12〜15×10−6/℃であり、その材料としては、Ni、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、Ni−Cr−Al−Y、Ni−Co−Cr−Al−Y等が挙げられる。また、アンダーコートB層の好ましい熱膨張係数は5〜8×10−6/℃であり、その材料としては、Mo、W、Ta、Nb等が挙げられる。
【0027】
また、セラミックス層が、Ta−Si系、Ti−Si系(Ti:Si(原子比)=33:67よりTiが少ない場合)、Zr−Si系(Zr:Si(原子比)=33:67又はこれよりZrが多い場合、ZrSi2を含む)等(熱膨張係数8〜9×10−6/℃)の場合は、アンダーコートA層の好ましい熱膨張係数は12〜15×10−6/℃であり、その材料としては、Ni、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、Ni−Cr−Al−Y、Ni−Co−Cr−Al−Y等が挙げられる。また、アンダーコートB層の好ましい熱膨張係数は8〜10×10−6/℃であり、その材料としては、Ti、Nb等が挙げられる。
【0028】
さらに、セラミックス層が、Ti−Si系(Ti:Si(原子比)=33:67又はこれよりTiが多い場合、TiSi2を含む)等(熱膨張係数10〜13×10−6/℃)の場合は、アンダーコート(B層)の好ましい熱膨張係数は10〜13×10−6/℃であり、その材料としては、Ni、Ni−Al、Ni−Cr、Ni−Cr−Al、Ni−Cr−Al−Y、Ni−Co−Cr−Al−Y等が挙げられる。このようにセラミックス層とターゲットホルダーの熱膨張係数の差が小さい場合には、アンダーコートは1層でもよい。また、かかるアンダーコートの材料の中でも、組成比を変えて、ターゲットホルダーに近い熱膨張係数の層と、セラミックス層に近い熱膨張係数の層の2層を設けてもよい。
【0029】
その上に前述のセラミックス粉末を高温ガス中、好ましくはAr、N2、He等の非酸化雰囲気下での高温ガス中(『非酸化雰囲気下での高温ガス中』とは、非酸化雰囲気でシールドした高温ガス中、のことをいう。以下同じ)で、半溶融状態にしつつ高温ガスにより上記アンダーコート上に輸送して付着させ、スパッタすべきターゲットとなるセラミックス層を形成する。特に、高温ガスプラズマ中(さらには、非酸化雰囲気下での高温ガスプラズマ中)で行うプラズマ溶射法により形成するのが好ましい。上記アンダーコートを挿入したことにより2〜5mm以上の膜厚の安定なセラミックス層を形成できる。
【0030】
また前述のアンダーコートを形成する際も、高温プラズマ中(特に非酸化雰囲気下での高温プラズマ中)で行うプラズマ溶射法により形成するのが好ましい。
【0031】
セラミックス粉末を非酸化雰囲気下での高温ガス中で、半溶融状態にしつつ、アンダーコート上に付着させてセラミックス層を形成する場合には、セラミックス層形成中のセラミックス粉末の酸化が少なく、化学組成の変動もなく均質なセラミックス層を形成できる。
【0032】
このようにして作製した回転カソードターゲットはターゲット物質からターゲットホルダー、さらにはカソード電極への熱伝導もよく、また強固にターゲットホルダーに密着しているので成膜速度を上げるための高いスパッタパワーをかけた場合でも冷却が充分行われ、急激な熱ショックによるターゲットの剥離、割れもなく、単位面積当りに大きな電力を投入できる。
【0033】
さらに、本発明の製造方法において、非酸化雰囲気でセラミックス層を形成する場合には、セラミックス層形成時の酸化が少なく、化学組成の変動もなく、均質なターゲットを形成できる。
【0034】
また、セラミックス層の侵食ゾーンが全面になるため、ターゲットの利用効率もプレーナ型と比べ高い利点がある。また、セラミックス層が減少した部分に同じ物質の溶射粉末を溶射することにより元の状態に再生することもできる。さらにセラミックス層の厚みに場所による分布をもたせることも容易であり、それによってセラミックス層表面での磁界の強さや温度の分布をもたせて生成する薄膜の厚み分布をコントロールすることもできる。
【0035】
本発明の回転カソードターゲットは、マグネトロンスパッタにてDC(直流)、RF(高周波)の両者のスパッタリング装置に使用でき、高速成膜、ターゲット利用効率も大であり、安定して成膜できる。
【0036】
本発明の回転カソードターゲットを用いてArとO2の混合雰囲気中で通常の1×10−3〜1×10−2Torr程度の真空中でスパッタすると、金属MとSiとを含む酸化物からなる低屈折率膜を均一に高速にて成膜できる。
【0037】
本発明の回転カソードターゲットは導電性があり、しかもスパッタ中にターゲットの表面酸化が少ないため、DCスパッタ法を用いて成膜でき、大面積にわたり均一な膜を高速で成膜できる。これは、ターゲット中のZr、Ti、Ta、Hf、Mo、W、Nb、La、In、Cr等は大部分ケイ素化合物として、また、SnはSi−Sn合金として存在し、Siに比べ酸素に対する活性が小さいため酸化されにくく、ターゲットの表面酸化による導電性の低下を抑制するように働くからと考えられる。
【0038】
【0039】
【実施例】
[参考例1]
まず、溶射用セラミックス粉末原料としてZrO2、SiO2及びカーボンの混合物を、非酸化雰囲気中で、高温で反応させて塊状の焼結物を得た。この塊状粉末を粉砕分級して99.5%純度の20〜75μm粒径のSi−Zr(Si:Zr=9:1(原子比))粉末を得た。
【0040】
内径50.5mmφ×外径67.5mmφ×長さ406mmの銅製円筒状ターゲットホルダーを旋盤に取付け、その外表面側をAl2O3砥粒を用いてサンドブラストにより表面を粗面の状態にした。次にアンダーコートとして、Ni−Al(9:1)の合金粉末をプラズマ溶射(メトコ溶射機を使用)し、膜厚50μmの被覆を施した。このプラズマ溶射は、Arガスをプラズマガスに用い、毎分42.5リットルの流量で700A・35KVのパワーを印加して行い、10000〜20000℃のArガスプラズマにより、Ni−Al(9:1)の合金粉末を瞬間的に加熱し、ガスと共にターゲットホルダーに輸送し、そこで凝集させて行った。ターゲットホルダーを旋盤にて回転させながらプラズマ溶射ガンを左右に動かす操作を何度も繰返してアンダーコートを形成した。
【0041】
次に、上述のSi−Zr粉末を用いて、同様のプラズマ溶射法によって最終厚み3mmのSi−Zr(Si:Zr=9:1(原子比))を被覆した回転カソードターゲットを得た。このようにして得られたセラミックス層がSi−Zrの回転カソードターゲットをマグネトロンスパッタ装置に装填しガラス基板上にSiZrxOy膜(Si:Zr:O=9:1:20(原子比))を形成した。スパッタはArとO2 の混合雰囲気中で1×10−3〜1×10−2Torr程度の真空中で行い、1000Åの低屈折率透明酸化物膜を得た。
【0042】
上記ターゲットは従来の窯業的手法によりセラミックスを作りそれをターゲットホルダーにはりつけたプレーナ型ターゲットと比較した時、熱ショックによる破損に対し強固であった。上記の従来法によるプレーナ型ターゲットではスパッタ電力が1.2KW程度でクラックが入り一部剥離を起すが、本発明の回転カソードターゲットでは4KWでも何らクラックは認められず、アーキングも発生せず安定して成膜でき、従来のプレーナ型ターゲットでは25Å/secの成膜速度が本発明の回転カソードターゲットでは約4倍の100Å/secの高速成膜速度であった。
得られた酸化物膜の屈折率は1.49で低屈折率であり、膜の耐アルカリ性も優れていた。
【0043】
[参考例2]
参考例1と同様な方法でSi粉末をプラズマ溶射した回転カソードターゲットを作成した。同様なスパッタ条件で成膜したがアーキングの発生が激しく、安定して成膜できなかった。
【0044】
[参考例3]
参考例1と同じSi−Zr(Si:Zr=9:1(原子比))の組成で、従来のプレーナ型ターゲットを作成した。これを用いてスパッタを行ったところ、ターゲットが割れたり、一部剥離したりして、安定して成膜できなかった。
【0045】
参考例1〜3の比較を表1に示す。
表1中に示した膜の耐アルカリ性は、0.1NのNaOH中に室温で240時間浸漬した結果、浸漬前に対する膜厚の変化率が10%以内のものを○、膜が溶解したものを×とした。
【0046】
【表1】
【0047】
[実施例1](アンダーコート2層、Arガスシールド雰囲気の例)
溶射用セラミックス粉末原料としてZrO2、SiO2及びカーボンの混合物を、非酸化雰囲気中で、高温で反応させて塊状の焼結物を得た。この塊状粉末を粉砕分級して99.5%純度の20〜75μm粒径のSi−Zr(Si:Zr=9:1(原子比))粉末を得た。
【0048】
内径50.5mmφ×外径67.5mmφ×長さ406mmの銅製円筒状ターゲットホルダーを旋盤に取付け、その外表面側をネジ状に加工しさらにAl2O3砥粒を用いてサンドブラストにより表面を粗面の状態にした。次にアンダーコートとして、Ni−Al(配合重量比8:2)の合金粉末をArガスシールド雰囲気下でプラズマ溶射(メトコ溶射機を使用)し、膜厚50μmの被覆を施した。
【0049】
さらにこの上にSi−Zr(Si:Zr=9:1(原子比))のセラミックス層に近似した熱膨張係数のMo金属粉末をArガスシールド雰囲気下でプラズマ溶射し、膜厚50μmの被覆を得た。
【0050】
このArガスシールド雰囲気下のプラズマ溶射は、プラズマ溶射ガンと円筒状ターゲットホルダーを金属製のシールドボックスにより囲い、その中にArガスをスパイラル状にフローさせた雰囲気下で行うもので、Arガスをプラズマガスに用い、毎分42.5リットルの流量で700A・35KVのパワーを印加して行い、10000〜20000℃のArガスプラズマにより、Ni−Al(配合重量比8:2)の合金粉末やMo金属粉末を瞬間的に加熱し、ガスと共にターゲットホルダーに輸送し、そこで凝集させて行った。ターゲットホルダーを旋盤にて回転させながらプラズマ溶射ガンを左右に動かす操作を何度も繰返してアンダーコートを形成した。
【0051】
次に、上述のSi−Zr粉末を用いて、同様のプラズマ溶射法によって最終厚み3mmのSi−Zr(Si:Zr=9:1(原子比))を被覆した回転カソードターゲットを得た。このセラミックス層の相対密度は91%で、O2含有量は1.0wt%であった。
このようにして得られたセラミックス層がSi−Zrの回転カソードターゲットをマグネトロンスパッタ装置に装填しガラス基板上にSiZrxOy膜(Si:Zr:O=9:1:20(原子比))を形成した。スパッタはArとO2の混合雰囲気中で1×10−3〜1×10−2Torr程度の真空中で行い、1000Åの低屈折率透明酸化物膜を得た。この低屈折率透明酸化物膜の化学組成(Si/Zr原子比)はターゲットの化学組成と同一であった。
【0052】
上記ターゲットは従来の窯業的手法によりセラミックスを作りそれをターゲットホルダーにはりつけたプレーナ型ターゲットと比較した時、熱ショックによる破損に対し強固であった。上記の従来法によるプレーナ型ターゲットではスパッタ電力が1.2KW程度でクラックが入り一部剥離を起すが、本発明の回転カソードターゲットでは4KWでも何らクラックは認められず、アーキングも発生せず安定して成膜でき、従来のプレーナ型ターゲットでは24Å/secの成膜速度が本発明の回転カソードターゲットでは約4倍の100Å/secの高速成膜速度であった。
得られた酸化物膜の屈折率は1.49で低屈折率であり、膜の耐アルカリ性も優れていた。
【0053】
[実施例2〜7、参考例4]
実施例1と同様にして、ターゲットの構成物質や、その割合を変えて、各種のターゲットを作成し、それを用いて実施例1と同様にしてスパッタにより成膜を行った。
ただし、実施例2及び実施例5については、Mo金属粉末のかわりにTi金属粉末を用い、Ni−Al(50μm)/Ti(50μm)の2層のアンダーコートとした。また、参考例4についてはNi−Al(100μm)の1層のアンダーコートとした。実施例3、4、6、7については実施例1と全く同じアンダーコートとした。以上のいずれの実施例においてもアンダーコートの形成方法は実施例1と同じとした。
【0054】
[比較例1]
セラミックス層をSi粉末を用いて形成した以外は実施例1と同様な方法で回転カソードターゲットを作成した。同様なスパッタ条件で成膜したがアーキングの発生が激しく、安定して成膜できなかった。
【0055】
実施例1〜7、比較例1、参考例4の比較を表2に示す。
表2中に示した膜の耐アルカリ性は、0.1NのNaOH中に室温で240時間浸漬した結果、浸漬前に対する膜厚の変化率が10%以内のものを○、膜が溶解したものを×とした。
【0056】
【表2】
【0057】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、回転カソードターゲットを溶射法を用いて作成するので、従来のセラミックス製造設備を必要とせず、また加工接合工程なしに容易に低コストで短時間に作成でき、多くの無機質材料に対して適用できる。特にセラミックス化が困難な高融点物質や高融点金属は粉末状の方が廉価であり、このような物質をターゲットとする場合に特に効果的である。
【0058】
また、本発明の方法において、非酸化雰囲気でセラミックス層を形成する場合には、酸化しやすい金属や二成分系以上の化合物をターゲットとする際でも、化学組成の変化もなく均質なターゲットを形成できる。
【0059】
また、本発明の方法によればセラミックス層とターゲットホルダーとのボンディングも不用で、容易にターゲットが製造でき、またセラミックス層の侵食部分の再生も可能である。
【0060】
本発明の回転カソードターゲットを用いれば、スパッタ時の冷却効率も高く、スパッタパワーを高くしてもターゲットの亀裂や破損がないため、低温で安定して高速成膜でき、建築用や自動車用の大面積ガラスの生産性が著しく向上しターゲット利用効率も高くなるなど工業的価値は多大である。
【0061】
本発明によれば、低屈折率で耐アルカリ性に優れた透明薄膜を大面積にわたり高速で安定的に提供できる。また高屈折率の酸化物透明薄膜との組合せた薄膜の光学設計が容易である。
また本発明により得られる低屈折率膜は化学的安定性を有するので各種物品のオーバーコートとして使用できる。例えば建築用や自動車用等の熱線反射ガラス、バーコードリーダーの読取り部の保護板等、反射防止膜、眼鏡レンズ等の最外層に最適であり、また摺動部材のコート材にも使用できる。
Claims (5)
- 円筒状ターゲットホルダーの外表面に、スパッタすべきターゲットとなるセラミックス層を形成するセラミックス回転カソードターゲットの製造方法であって、円筒状ターゲットホルダーの外表面をサンドブラストを用いて粗面とし、その外表面上に、前記セラミックス層と前記ターゲットホルダーとの中間の熱膨張係数を有する金属又は合金からなる層、さらに該層上に、熱膨張係数が前記セラミックス層の熱膨張係数±2×10 −6 /℃の範囲内の値である金属又は合金からなる層を形成し、次いで、セラミックス粉末を高温ガス中で半溶融状態にしつつ前記高温ガスにより前記アンダーコート上に輸送して付着させ、かつ前記セラミックス粉末として、Zr、Ti、Ta、Hf、Mo、W、Nb、Sn、La、In、Crのうち少なくとも1種(以下金属Mという)とSiとを主成分とし、金属Mの総量とSiとの原子比が4:96〜35:65の粉末を用いることを特徴とするセラミックス回転カソードターゲットの製造方法。
- 円筒状ターゲットホルダーの外表面に、スパッタすべきターゲットとなるセラミックス層を形成するセラミックス回転カソードターゲットの製造方法であって、熱膨張係数が17〜18×10 −6 /℃である円筒状ターゲットホルダーの外表面をサンドブラストを用いて粗面とし、該外表面上に、熱膨張係数が12〜15×10 −6 /℃である金属又は合金からなる層、さらに該層上に、熱膨張係数が5〜8×10 −6 /℃である金属又は合金からなる層をアンダーコートとして形成し、次いで、セラミックス粉末を高温ガス中で半溶融状態にしつつ前記高温ガスにより前記アンダーコート上に輸送して付着させ熱膨張係数が5〜6×10 −6 /℃であるセラミックス層を形成し、かつ前記セラミックス粉末として、Zr、Hf、Sn、Crのうち少なくとも1種(以下金属Mという)とSiとを主成分とし、金属Mの総量とSiとの原子比が4:96〜35:65の粉末を用いることを特徴とするセラミックス回転カソードターゲットの製造方法。
- 円筒状ターゲットホルダーの粗面となった外表面上に、スパッタすべきターゲットとなるセラミックス層が形成されてなるセラミックス回転カソードターゲットであって、該外表面上に、前記セラミックス層と前記ターゲットホルダーとの中間の熱膨張係数を有する金属又は合金からなる層、さらに該層上に、熱膨張係数がセラミックス層の熱膨張係数±2×10 −6 /℃の範囲内の値である金属又は合金からなる層が、前記セラミックス層と前記ターゲットホルダーとの間にアンダーコートとして形成され、前記セラミックス層は、Zr、Ti、Ta、Hf、Mo、W、Nb、Sn、La、In、Crのうち少なくとも1種(以下金属Mという)とSiとを主成分とし、金属Mの総量とSiとの原子比が4:96〜35:65であることを特徴とするセラミックス回転カソードターゲット。
- 熱膨張係数が17〜18×10 −6 /℃である円筒状ターゲットホルダーの粗面となった外表面上に、スパッタすべきターゲットとなるセラミックス層が形成されてなるセラミックス回転カソードターゲットであって、該外表面上に、熱膨張係数が12〜15×10 −6 /℃である金属又は合金からなる層、さらに該層上に、熱膨張係数が5〜8×10 −6 /℃である金属又は合金からなる層が、前記セラミックス層と前記ターゲットホルダーとの間にアンダーコートとして形成され、前記セラミックス層は、熱膨張係数が5〜6×10 −6 /℃であり、かつZr、Hf、Sn、Crのうち少なくとも1種(以下金属Mという)とSiとを主成分とし、金属Mの総量とSiとの原子比が4:96〜35:65であることを特徴とするセラミックス回転カソードターゲット。
- 請求項3または4に記載のセラミックス回転カソードターゲットをArとO 2 の混合雰囲気中でスパッタすることにより、金属MとSiとを含む酸化物からなる低屈折率膜を形成することを特徴とする成膜法。
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