JP3649029B2 - K2O−CaO−SiO2系結晶物質および緩効性カリ肥料 - Google Patents

K2O−CaO−SiO2系結晶物質および緩効性カリ肥料 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、KO−CaO−SiO系結晶物質および緩効性カリ肥料緩効性カリ肥料に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物の生育にとって肥料は欠かせないものであり、中でも窒素、燐酸、カリウムは三大成分として育成に合わせて施肥される。このような肥料は土壌に施され、灌水に溶解し植物の根から少しずつ時間をかけて吸収される。
【0003】
しかし、植物の吸収は数日から数週間かけて行われるので、この間に吸収されずに流れ去ってしまうものもある。水に溶けやすい肥料ではこのように流れ去る分が多く、このような肥料では少量ずつ何回も手間をかけて施肥する必要があった。
【0004】
そこで、このような手間を省くことが可能なように、近年、1回の施肥で長期間にわたって作物を育成することができる肥料、すなわち土壌中で徐々に溶出して肥効が長期間持続する肥料(緩効性肥料)が要望されるようになってきた。
【0005】
緩効性肥料としては、上記三大肥料要素を単独に含むものや複合して含むもの、あるいは補助要素を同時に含むもの等種々のものが提案され、製造されている。これら三大肥料の中でも、カリウムは、生育の初期には少量でよいが、結実期には多量に必要とされ、緩効性カリ肥料が重要視されている。
【0006】
従来から、緩効性カリ肥料として、水に対して難溶であるが植物の根から分泌するクエン酸水溶液には溶けるク溶性カリ肥料が用いられている。なお、ク溶とは2wt%クエン酸水溶液に可溶であることをいう。このような水に難溶なク溶性カリ肥料は、灌水による流出が防止されるとともに、根から分泌されるクエン酸には溶解するので、根の発育にともなって分泌するクエン酸が増加するに従い、その吸収量も増加する。したがって、理想的な緩効性を示す。
【0007】
このようなク溶性の緩効性カリ肥料としては、例えば、特開昭55−5785号公報に開示されたものがある。この公報には、火力発電所の排ガス集塵装置から回収されるフライアッシュに炭酸カリや苛性カリなどのカリウム源を加え、この配合原料を800から1100℃で焼成し、固相反応によってフライアッシュ成分とカリウム分とを化合させたク溶性の緩効性カリ肥料が示されている。
【0008】
この緩効性カリ肥料は、フライアッシュとカリウム源とを主成分とし、この両者にAl、アルカリ土類金属酸化物、Feなどが結合した焼結体であり、KOを22%程度含み、KOが高い比率でク溶化されており、水溶性のKOがわずかしか存在せず、良好な緩効性を示すことが記載されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような緩効性カリ肥料は、焼結により製造されるものであり、固相反応により結晶化されるものであるから、均一に反応しにくい。そのため、その焼成条件や原料であるフライアッシュの組成等が変化すると、生成する結晶の種類、存在割合、得られる結晶の結晶性等が大きく変化し、それにともなって溶解性が大幅に変化する。したがって、適度な緩効性を有するものを製造しようとする場合には、カリ以外の原料の組成および焼成条件を厳密に制御する必要があり、製造しにくいという問題点がある。
【0010】
一方、クエン酸に溶解するカリ化合物としては、KO・CaO・SiO、2KO・CaO・3SiO、KO・3CaO・6SiO、2KO・CaO・6SiO等のKO−CaO−SiO系の結晶が知られている。しかし、いずれも水に溶けやすく、これら単独では緩効性カリ肥料として使用することができない。このため、これらの化合物とともに種々の物質を存在させて、水への溶解性を調整せざるを得ない。水に溶解し難いKO−CaO−SiO系の結晶が存在すれば比較的容易にク溶性カリ肥料を製造することができるが、このような水に難溶なKO−CaO−SiO系の結晶物質は未だ見出されていない。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、水に溶け難く、緩効性カリ肥料に適した全く新規なKO−CaO−SiO系結晶物質を提供することを目的とする。また、安定した緩効性を発揮することができる緩効性カリ肥料を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、第1発明は、KO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有することを特徴とするKO−CaO−SiO系結晶物質を提供する。
【0013】
第2発明は、KO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有するKO−CaO−SiO系結晶を含むことを特徴とする緩効性カリ肥料を提供する。
【0014】
第3発明は、第2発明の緩効性カリ肥料において、KO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有するKO−CaO−SiO系結晶と、KOを含むガラス体とを主体とすることを特徴とする記載の緩効性カリ肥料を提供する。
【0015】
第4発明は、第2発明の緩効性カリ肥料において、KO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有するKO−CaO−SiO系結晶と、実質的にKOを含まないCaO−SiO系結晶と、KOを含むガラス体とを主体とすることを特徴とする緩効性カリ肥料を提供する。
【0016】
第5発明は、第3発明または第4発明の緩効性カリ肥料において、KO・2CaO・2SiOで表される結晶構造以外の結晶構造を有するKO−CaO−SiO系結晶が含まれていることを特徴とする緩効性カリ肥料を提供する。
【0017】
第6発明は、第2発明ないし第5発明のいずれかにおいて、KO、SiO、およびCaOを必須成分とし、Al、MgO、MnO、FeOを選択成分とすることを特徴とする緩効性カリ肥料を提供する。
【0018】
第7発明は、第6発明の緩効性カリ肥料において、溶融状態から固化されたことを特徴とする緩効性カリ肥料を提供する。
【0019】
第8発明は、第7発明の緩効性カリ肥料において、溶融金属存在下で溶融スラグにカリ源を加えて固化されたことを特徴とする緩効性カリ肥料を提供する。
【0020】
なお、本発明において、FeOは、鉄酸化物の総称であって、FeOおよびFeの両方を含むものである。また、マンガン酸化物は、通常、MnOであるが、本発明では水に難溶であればマンガンは必ずしも2価に限定されるものではない。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明においては、新規なKO−CaO−SiO系結晶物質として、KO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有するものを提供するものである。
【0022】
本発明者らは、SEM観察、EDX分析およびX線回折の結果から、全く新規なKO−CaO−SiO系の結晶物質としてKO・2CaO・2SiOの存在を見出した。
【0023】
具体的には、KO:CaO:SiOのモル比を1:2:2に調整した原料を大気雰囲気下で焼結させ、SEM観察、EDX分析およびX線回折を行った結果、SEM観察によりほぼ単相であることが確認され、EDXによる半定量によりK:Ca:Siのモル比が1:1:1、つまりKO:CaO:SiOのモル比が1:2:2であることが確認され、しかもX線回折によりバックグラウンドの少ないきれいな回折パターンが得られ、この回折パターンは既存物質とは異なるものであった。このことから、ほぼKO・2CaO・2SiOの結晶からなる新規物質が形成されたことが確認された。この試料について、水溶性KOの量(水溶率)およびク溶性KOの量(ク溶率)を測定したところ、それぞれ16.4%および98.7%であった。
【0024】
すなわち、KO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有し、水に難溶性であり、良好なク溶性を示す結晶物質が見出されたのである。この点、従来から知られていたKO−CaO−SiO系の結晶物質であるKO・CaO・SiO、2KO・CaO・3SiO、KO・3CaO・6SiO、2KO・CaO・6SiO等とは異なる性質を有するものであり、緩効性カリ肥料として好適である。
【0025】
したがって、本発明では、以上のようなKO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有する水に難溶性の結晶性物質を含む緩効性カリ肥料を提供する。
【0026】
本発明の緩効性カリ肥料は、全部がKO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有する結晶であってもよいし、その一部がKO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有する結晶であってもよい。
【0027】
一部がKO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有する結晶である場合には、全体として緩効性を示せば、その他の成分は通常緩効性カリ肥料に含まれるものであればよい。
【0028】
具体例としては、(1)KO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有する結晶と、KOを含むガラス体とを主体とするもの、および(2)KO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有するKO−CaO−SiO系結晶と、実質的にKOを含まないCaO−SiO系結晶と、KOを含むガラス体とを主体とするものを挙げることができる。また、KO・2CaO・2SiOで表される結晶構造以外の結晶構造を有するKO−CaO−SiO系結晶は上述したように水に溶けやすいが、緩効性が維持されれば多少は含まれていてもよい。
【0029】
そして、このような(1)および(2)のようなカリ肥料を得るためには、原料としてKO、SiO、およびCaOを必須成分とし、Al、MgO、MnO、FeOを選択成分とするものを用いることが好ましい。
【0030】
このような(1)のカリ肥料では、水に溶解し難いKO・2CaO・2SiOの結晶と、やはり水に溶解し難いKO含有ガラス体が存在しているため、KOが緩やかに溶解し、KO肥料として適切な緩効性を示す。また、肥料を構成する結晶が固定されているため、安定性が高い。さらに、結晶とガラス体との混合体であるから、全てガラス化または結晶化するよりも製造が容易である。
【0031】
また、(2)のカリ肥料では、実質的にKOを含まないCaO−SiO系結晶は水に溶解しやすいが、KOの溶解には影響を与えないため、やはり、KOが緩やかに溶解し、KO肥料として適切な緩効性を示す。また、肥料を構成する結晶の結晶系が固定的であるため、安定性が高い。さらに、実質的にKOを含まないCaO−SiO系結晶は晶出しやすく、上記(1)よりも製造が容易である。
【0032】
このような結晶およびガラス体を存在させるためには、典型的には、原料を一旦溶融させてから冷却することにより一部を結晶化させる。そして、MgO、MnOおよびFeOの他の2価金属の酸化物は、CaOのサイトに置換固溶してこれらの結晶に入り込むか、または水に溶解し難い結晶構造の一部を構成するものと考えられる。なお、上記(1)および(2)の状態は、原料組成および溶融後の冷却条件を適切に制御することにより得ることができる。
【0033】
なお、一部がKO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有する結晶である場合に、残部が結晶のみであってもよいが、残部の結晶は、実質的にKOを含まないCaO−SiO系結晶を主体とすることが好ましい。また、この場合でもKO・2CaO・2SiOで表される結晶構造以外の結晶構造を有するKO−CaO−SiO系結晶は、緩効性が維持されれば多少は含まれていてもよい。
【0034】
本発明の緩効性カリ肥料は、上述したように、KO、SiO、およびCaOを必須成分とし、Al、MgO、MnO、FeOを選択成分とするものが好ましいが、この場合に、MgO、MnOおよびFeOの他の2価金属の酸化物は、主にCaOのサイトに置換固溶してこれらの結晶に入り込み、AlはSiOと同様の作用を有すると考えられるから、これらをグループ分けし、KO−CaO−SiO系状態図でその組成を表すことができる。KO・2CaO・2SiOの結晶を晶出させるためには、KO:CaO:SiOの比率がモル比で1:2:2:の近傍であることが好ましいが、この比率から大きく外れていても、例えばKO:CaO:SiO=1:3:3あるいは2:2:3等であっても晶出させることは可能である。
【0035】
また、肥料の有効性の観点からは、KOが5〜30モル%であることが好ましい。これは、5モル%未満であると施肥量が多量になりすぎ好ましくなく、また、30モル%以上となると溶解性が高くなりすぎる傾向にあるからである。
【0036】
本発明の緩効性カリ肥料の原料は、特に限定されるものではないが、高炉スラグ、あるいは高炉銑に脱珪、脱リン、脱硫を施した後のスラグを好適に用いることができる。これらスラグは鉄鋼の製錬および精錬過程で副生物として多量に発生するものであり、安定的な供給が可能である。このようなスラグは、SiOを20〜60wt%程度、Alを数wt%程度、CaOを数wt%程度から50wt%程度、MgO、MnOおよびFeOを合計で5〜30wt%程度含み、その他の成分がほぼ15wt%以下含まれている。
【0037】
このようなスラグにカリウム源を加えることにより、本発明の緩効性カリ肥料が得られる。カリウム源も特に限定されるものではないが、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、硫酸カリウムなどのカリウム塩、またはカリ長石のようなカリウム含有鉱物を好適に用いることができる。
【0038】
カリウム源を溶融スラグに添加する際に、溶融金属(溶銑)が存在する状態で添加すると溶融金属から熱補償されるので好都合である。これは通常溶銑の脱珪処理後に生成した溶融スラグにカリ源を添加することで実施することができる。
【0039】
本発明の緩効性カリ肥料は、KO・2CaO・2SiOの結晶が晶出可能な組成の原料を例えば1300〜1500℃程度の温度で溶融させて徐冷することにより全体を結晶化するか、または初期は徐冷して一部結晶化させ、その後急冷して残部をガラス化することにより得ることができる。
【0040】
【実施例】
(実施例1)
O、CaO、SiOの各原料をそれぞれ1:2:2、1:3:3、および2:2:3の割合で配合した原料を、大気雰囲気下において1500℃、20分間の条件で溶融した後に固化させて、試料A,B,Cとした。
【0041】
試料AはSEM観察によりほぼ単相であることが確認され、EDXによる半定量によりK:Ca:Siのモル比が1:1:1、つまりKO:CaO:SiOのモル比が1:2:2であることが確認された。しかもX線回折パターンは図1に示すようなものであり、従来知られているKO−CaO−SiO系結晶とは異なる位置に回折ピークが確認されるとともに、バックグラウンドの少ないきれいな回折パターンが得られた。このことから、ほぼKO・2CaO・2SiO結晶の単相からなる試料が形成されたことが確認された。
【0042】
また、試料B、CのX線回折パターンは図2、図3に示すようになり、図1に比較して余分な回折線や非晶質からのハロー、バックグラウンドの上昇が見られるものの、ほぼ図1と同様の回折パターンを示した。また、SEM観察およびEDX分析結果から、試料B、Cはいずれも主成分としてKO・2CaO・2SiOの組成を有する物質が存在しており、余分な成分が不純物となっていることが確認された。
【0043】
これら試料を破砕し、ク溶性KO(2%クエン酸に溶けるKO;c−KO)の量および水溶性KO(w−KO)の量を測定し、ク溶率および水溶率を算出した。その結果を分析値とともに表1に示す。表1に示すように、KO・2CaO・2SiO結晶単相の試料Aは、水溶率16.4%、ク溶率が98.7%であり、緩効性カリ肥料として好ましい特性を有していることが確認された。また、試料Bは、水溶率11.1%、ク溶率が98.9%であり、これも緩効性カリ肥料として好ましい特性を有していることが確認された。この試料BはKO・2CaO・2SiOの結晶の他にCaO−SiO系の結晶、さらにKO含有ガラス体が存在するが、不純物中のKOは水に難溶性のものであり、全体として水に溶解し難いものとなった。さらに試料Cは、水溶率81.9%、ク溶率が87.7%であり、水に溶解しやすいものとなった。これは、水に溶解しやすい不純物が多かったためである。
【0044】
【表1】
Figure 0003649029
【0045】
(実施例2)
高炉銑を脱珪処理した際に生じたスラグ(脱珪スラグ)に炭酸カリウムを添加した後、約1300℃に加熱して均一な溶融体とし、初期は900℃/Hr程度で徐冷し、その後急冷し固化して表2のDに示す組成の試料を得た。図4は、CaO、MgO、MnOおよびFeOの他の2価金属の酸化物MeOと、SiO+Alと、KOの3元状態図であり、この図4にも試料Dの組成をプロットする。ここで、図4のプロットは、表2に重量%で示されている各成分の値をモル含有量に換算し、この各成分のモル含有量の合計値を求め、その合計量に対する各成分のモル含有量を計算した値に基づいている。
【0046】
得られた試料をSEM観察したところ、ガラス体と思われるマトリックス部分と、単相と確認された結晶と思われる色が異なる部分とが存在しており、それらのいずれにもKOが含まれていた。EDXによる半定量により、結晶と思われる部分のKOとCaOとSiOのモル比を計算した結果、KO:CaO:SiO=1:2:2であった。また、X線回折を行った結果、バックグラウンドの少ないきれいな回折パターンが得られた。このことから、結晶としてKO・2CaO・2SiOが晶出していることが確認された。また、ガラス体と思われる部分についても同様にEDXによる半定量を行った結果、KO:CaO:SiO=1:2:2であった。このガラスと思われる部分についてX線回折を行った結果、明確な回折ピークが存在せず、ガラス体であることが確認された。EDX分析により求めたガラス体の面積率をガラス体の量として求めた結果、ガラス体の割合が約60%であることが確認された。
【0047】
この試料を破砕し、ク溶性KO(2%クエン酸に溶けるKO)の量および水溶性KOの量を測定した。その結果、表3に示すように、全体のKO24.0wt%のうち、ク溶性KO(c−KO)が23.4wt%、水溶性KO(w−KO)が3.8wt%であり、緩効性肥料として適切な値を示すことが確認された。
【0048】
(実施例3)
脱珪スラグに炭酸カリウムを添加した後、約1370℃に加熱して均一な溶融体とし、初期は徐冷し、その後急冷し固化して表2のEに示す組成の試料を得た。なお、この際の組成は図4において点Eに対応する。
【0049】
得られた試料をSEM観察したところ、ガラス体と思われるマトリックス部分と、結晶と思われる色が異なる2つの部分とが存在しており、それらのいずれにもKOが含まれていた。EDXによる半定量により、結晶と思われる部分のKOとCaOとSiOのモル比を計算した結果、それぞれKO:CaO:SiO=1:2:2および1:1:1であった。KO:CaO:SiO=1:2:2の部分を実施例2と同様にSEM観察およびX線回折を行った結果、この部分がKO・2CaO・2SiOの結晶であることが確認された。また、ガラス体と思われる部分についても同様にEDXによる半定量を行った結果、KO:CaO:SiO=1:2:2に近かった。このガラスと思われる部分についてX線回折を行った結果、明確な回折ピークが存在せず、ガラス体であることが確認された。EDX分析により求めたガラス体の面積率をガラス体の量として求めた結果、ガラス体の割合が約50%であることが確認された。
【0050】
この試料を破砕し、ク溶性KOの量および水溶性KOの量を測定した。その結果、表3に示すように、全体のKO23.5wt%のうち、ク溶性KO(c−KO)が22.8wt%、水溶性KO(w−KO)が4.8wt%であり、若干w−KOが多いものの緩効性肥料として適切な値を示すことが確認された。実施例2よりもw−KOが多くなったのは、KO・2CaO・2SiOよりも水に溶解しやすい結晶が晶出したためと推測される。
【0051】
(実施例4)
脱珪スラグに炭酸カリウムを添加した後、約1340℃に加熱して均一な溶融体とし、初期は徐冷し、その後急冷し固化して表1のFに示す組成の試料を得た。なお、この際の組成は図4において点Fに対応する。
【0052】
得られた試料をSEM観察したところ、ガラス体と思われるマトリックス部分と、結晶と思われる色が異なる3つの部分とが存在しており、それらのいずれにもKOが含まれていた。EDXによる半定量により、結晶と思われる部分のKOとMeOとSiOのモル比を計算した結果、それぞれKO:MeO:SiO=1:2:2、1:1:1および1:3:6であった。KO:MeO:SiO=1:2:2の部分を実施例1と同様にSEM観察およびX線回折を行った結果、この部分がKO・2CaO・2SiOの結晶であることが確認された。また、ガラス体と思われる部分についても同様にEDXによる半定量を行った結果、KO:MeO:SiO=1:2:2に近かった。このガラスと思われる部分についてX線回折を行った結果、明確な回折ピークが存在せず、ガラス体であることが確認された。EDX分析により求めたガラス体の面積率をガラス体の量として求めた結果、ガラス体の割合が約40%であることが確認された。
【0053】
この試料を破砕し、ク溶性KOの量および水溶性KOの量を測定した。その結果、表3に示すように、全体のKO22.5wt%のうち、ク溶性KO(c−KO)が19.6wt%、水溶性KO(w−KO)が11.9wt%であり、若干w−KOが多いものの緩効性肥料として適切な値を示すことが確認された。この実施例においても、実施例2よりもw−KOが多くなったのは、KO・2CaO・2SiOよりも水に溶解しやすい結晶が晶出したためと推測される。
【0054】
(実施例5)
脱珪スラグに炭酸カリウムを添加した後、約1300℃に加熱して均一な溶融体とし、初期は徐冷し、その後急冷し固化して表1のGに示す組成の試料を得た。なお、この際の組成は図4において点Gに対応する。
【0055】
得られた試料をSEM観察したところ、ガラス体と思われるマトリックス部分と、結晶と思われる色が異なる2つの部分とが存在しており、ガラス体と思われる部分および一方の結晶と思われる部分にKOが含まれており、他方の結晶と思われる部分については、KOが実質的に含まれていなかった。EDXによる半定量により、結晶と思われる部分のKOとMeOとSiOのモル比を計算した結果、それぞれKO:MeO:SiO=1:2:2および0:1:1であった。KO:MeO:SiO=1:2:2の部分を実施例1と同様にSEM観察およびX線回折を行った結果、この部分がKO・2CaO・2SiOの結晶であることが確認された。また、ガラス体と思われる部分についても同様にEDXによる半定量を行った結果、KO:MeO:SiO=1:2:2に近かった。このガラスと思われる部分についてX線回折を行った結果、明確な回折ピークが存在せず、ガラス体であることが確認された。EDX分析により求めたガラス体の面積率をガラス体の量として求めた結果、ガラス体の割合が約30%であることが確認された。
【0056】
この試料を破砕し、ク溶性KOの量および水溶性KOの量を測定した。その結果、表3に示すように、全体のKO21.2wt%のうち、ク溶性KO(c−KO)が20.6wt%、水溶性KO(w−KO)が4.4wt%であり、緩効性肥料として適切な値を示すことが確認された。
【0057】
【表2】
Figure 0003649029
【0058】
【表3】
Figure 0003649029
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、KO・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有する全く新規なKO−CaO−SiO系結晶物質が提供される。この結晶は、水に溶け難く、緩効性カリ肥料に適しており、この結晶を含むことにより、安定した緩効性を発揮することができる緩効性カリ肥料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1における試料AのX線回折パターンを示す図。
【図2】本発明の実施例1における試料BのX線回折パターンを示す図。
【図3】本発明の実施例1における試料C線回折パターンを示す図。
【図4】本発明の実施例2,3,4,5の試料D,E,F,Gの組成を示す図。

Claims (8)

  1. O・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有することを特徴とするKO−CaO−SiO系結晶物質。
  2. O・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有するKO−CaO−SiO系結晶を含むことを特徴とする緩効性カリ肥料。
  3. O・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有するKO−CaO−SiO系結晶と、KOを含むガラス体とを主体とすることを特徴とする請求項2に記載の緩効性カリ肥料。
  4. O・2CaO・2SiOで表される結晶構造を有するKO−CaO−SiO系結晶と、実質的にKOを含まないCaO−SiO系結晶と、KOを含むガラス体とを主体とすることを特徴とする請求項2に記載の緩効性カリ肥料。
  5. O・2CaO・2SiOで表される結晶構造以外の結晶構造を有するKO−CaO−SiO系結晶が含まれていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の緩効性カリ肥料。
  6. O、SiO、およびCaOを必須成分とし、Al、MgO、MnO、FeOを選択成分とすることを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載の緩効性カリ肥料。
  7. 溶融状態から固化されたことを特徴とする請求項6に記載の緩効性カリ肥料。
  8. 溶融金属存在下で溶融スラグにカリ源を加えて固化されたことを特徴とする請求項7に記載の緩効性カリ肥料。
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