JP3647082B2 - 光学素子の成形方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、軟化状態のガラス素材を、成形型を用いてプレス成形し、レンズなどの光学素子を得るための光学素子の成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、軟化状態のガラス素材を、成形型を用いてプレス成形する光学素子の成形方法が、光学素子、特に、非球面レンズを安価に生産する方法として注目され、その開発が進んでいる。
【0003】
このような光学素子の成形方法には、従来から、以下に示す工程から成り立つものが知られている。まず、上型と下型との間に、成形温度より低い温度のガラス塊を置き、次に、ガラス塊と上型と下型を成形可能な温度まで加熱する。続いて、上型にプレス力を加え、成形可能な温度の軟化状態のガラス塊をプレス成形する。この、プレス成形して得られた光学素子を、上型および下型に密着した状態のまま、冷却し、その冷却終了後に、上型を上昇し、型開きする。このようにして、レンズなどの光学素子が得られる。
【0004】
また、光学素子の光学機能面の形状精度をより良くするために、特開昭62−292636号公報に所載のような、以下に示す光学素子の成形方法が採用されている。即ち、プレス成形して得られた光学素子を、上型および下型に密着した状態で冷却する場合、その冷却過程においても加圧を継続するのである。このことにより、非常に精度の高いレンズを成形することができる。因みに、加圧せずに冷却すると、レンズとして必要な精度が出ない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、冷却過程においても加圧を継続する形での、従来の光学素子の成形方法では、光学素子を成形した場合、以下に示すような欠点があった。
【0006】
即ち、光学素子の形状が両凸レンズの場合、上記従来例による、冷却過程においても加圧を継続する光学素子の成形方法により、非常に精度の高い光学機能面を有する光学素子を得ることができ、また、光学素子の形状が凸メニスカスレンズの場合、両凸レンズの場合より劣るが、それでも、良好な精度の光学機能面を有する光学素子を得ることができた。
【0007】
しかし、光学素子が、両凹レンズや凹メニスカスレンズなどの形状である場合には、冷却過程において加圧を継続する、上述の光学素子の成形方法によっても、レンズとして、必要な精度が出ないことがある。このように、両凹レンズまたは凹メニスカスレンズを、従来から知られている成形方法で成形した場合に発生する問題点、特に、出来上がった光学素子の光学機能面の形状不良について、以下に、具体的に説明する。
【0008】
図8は、プレス成形によって得られる光学素子の形状を説明するための概念図であり、ここでは、直径:24mm、中心肉厚:2mm、上面R=10mm、下面R=80mmの凹メニスカスレンズを、例に、説明する。この凹メニスカスレンズは、光学特性が、nd =1.58、νd =59の光学ガラスを素材としており、その熱特性は、Tg(ガラス転移点温度)=520℃、At(屈伏点温度)=560℃である。
【0009】
また、図9は、ここで用いた型構造を説明する概念図であり、符号1はプレス成形された光学素子、2は成形用下型、3は成形用上型、4は成形用下型2と成形用上型3とを、同軸上に摺動・案内する胴型である。しかして、この成形型を用いて、上述の凹メニスカスレンズを、以下に示す成形プロセスで、成形する。
【0010】
まず、下型2、上型3を、共に490℃の温度に加熱した状態で、200℃のガラス塊(図示せず)を下型2の上に置き、その状態で、下型2と上型3とガラス塊(図示せず)とを590℃まで加熱した。続いて、上型3に4000Nのプレス力(F1)を加え、プレス成形可能な、軟化状態に加熱されているガラス塊(図示せず)をプレス成形する。ガラス塊(図示せず)のプレス変形が進むにつれ、上型3が下降し、上型3の上部が胴型4の上部と接触した時点で、プレス成形が終了する。
【0011】
ここでは、特に、その後も、上型3へのプレス力(F1)が加え続けられるが、この状態において、上型3は、剛体である胴型4により支持され、また、この温度におけるガラスは粘性体であるから、プレス力は胴型4に受けられて、光学素子1には加わらない。しかし、光学素子1と、下型2および上型3との間には、分子間力に基づく密着力が働いているので、光学素子1にプレス力が加わらない状態でも、光学素子1の光学機能面と、下型2および上型3の各成形面とは、密着した状態を保っている。
【0012】
プレス成形が終了した後、光学素子1、下型2、上型3、胴型4の冷却を開始する。下型2および上型3の温度が570℃まで低下した時に、下型2に対して1500Nのプレス力(F2)を加える。これにより、光学素子1と、下型2および上型3との間にプレス力(F2)が加わり、これら相互の密着を、より強固なものにする。プレス力(F2)を下型2に加えている状態で、さらに冷却を続け、下型2および上型3の温度が490℃になった時、下型2へのプレス力の負荷を止め、上型3を上昇させる。このようにして、型開きし、成形された光学素子1を取り出すのである。
【0013】
図10に、このようにして得られた、凹メニスカス形状の光学素子1について、その下面、即ち、凸の光学機能面の形状精度を示す干渉縞の様子を示す。なお、図11は、図10の様子を説明するための模式図である。
【0014】
図10から理解されるように、この光学機能面の形状精度を示す干渉縞には、光学面の中心部に近く、円形状の、不連続な境界線が認められる。このことは、この円形状の境界線の内側と外側とで、光学機能面が非連続となり、分割されていることを意味している。
【0015】
図12は、この境界線の近傍の断面形状を誇張して示した図であり、境界線の部分を境にして、その内側と外側とで、光学機能面の接線角度の変化が不連続であること示している。
【0016】
このように、光学機能面の中央近くに境界線を有する光学素子は、その境界線の内側と外側とで、光線の収束位置が大きく変わるので、この光学素子を用いた光学系で撮影した画像はボケる。従って、この光学素子は、光学系に採用できない。
【0017】
このように、凹メニスカス形状の光学素子を成形した場合に、結果としての光学素子の光学機能面に円形状の境界線が発生し、その内側と外側とに、光学機能面が分割される原因は、以下のように説明することができる。
【0018】
即ち、プレス成形の直後の状態において、光学素子1と、下型2および上型3とは、完全に密着した状態にある。そして、この状態において、ガラス自体は粘性体であるから、光学素子1、下型2および上型3には内部応力が発生していない。しかし、冷却が進むにつれ、ガラスの物性は、粘性から粘弾性、さらに、弾性へと変化し、その収縮過程で、ガラスの中に応力が発生するようになる。
【0019】
これは、高温におけるガラスの熱膨張係数が、成形型の熱膨張係数に比べ、遥かに大きいので、冷却過程において、ガラスの収縮量が、型の収縮量に比べて、大いに異なるためであり、熱収縮量が異なる2つの物体が密着した状態で冷却されるので、成形型の形状に従って、光学素子は、局所的に大きな内部熱応力を保有する結果となる。
【0020】
図13は、凹メニスカスレンズの冷却中に、レンズに発生する応力を模式的に説明する図であり、レンズ周辺部には、半径方向の収縮力および垂直方向の収縮力が作用している。特に、この例では、レンズの光学機能面と下型2の成形面との、成形界面の外周縁部において、局所的な熱応力の集中が起きる。
【0021】
そして、冷却が進み、熱応力が大きくなり、レンズと成形型との成形界面の外周縁部において集中した熱応力が、レンズと成形型との密着力を越えた時、上記成形界面の外周縁部から、成形界面の中央に向けて剥離が進展する。
【0022】
上述の凹メニスカスレンズの場合、そのレンズ/成形型の形状および冷却中に下型に加えられるプレス力の影響で、レンズと下型との成形界面の外周縁部から、成形界面に沿って進展する剥離は、図14に示す位置で一時的に止まってしまい、成形面の外周部だけが離型し、成形面の中央部では下型とガラスが密着した状態の、所謂、部分離型の状態になる。なお、図14において、部分離型した状態を誇張して描いているが、実際には、部分離型した領域において、下型とガラスとは密着していないが、下型とガラスの隙間は、目視できる程ではなく、非常に小さい状態を保っている。
【0023】
前述のように、レンズ/成形型の形状およびプレス圧力によって、剥離が一時的に妨げられた、図14に示す部分離型の状態で、さらに冷却が進むと、部分離型の領域の剥離進行方向の先端部において、熱応力が集中して発生する。この応力集中部での最大応力が再度、その箇所での密着力を越えた時、レンズと下型との成形界面に沿って、更に剥離が進展し、最終的にレンズと下型とが完全に剥離し、レンズが下型から完全に離れる。
【0024】
このように、レンズが離型する前の段階においては、レンズは成形型の成形面にて拘束されるために、レンズの光学機能面の形状は成形型の成形面の形状と一致しているが、冷却過程では、レンズの内部で激しい熱応力が発生している。従って、レンズが、離型された後の段階においては、その離型された部分には、成形型による拘束が無くなり、レンズの中の熱応力が解放されるが、この時点では、ガラスが弾性体となっているので、スプリングバック(弾性回復)現象が起き、レンズの光学機能面は変形してしまう。
【0025】
特に、剥離の進行が途中で中断される場合には、即ち、凹メニスカスレンズが部分離型した状態で剥離の進行が止まり、その後に冷却が進むと、部分離型の領域の、剥離の進行する先端部、すなわち、成形面の中ほどで、著しく応力集中した状態が生じ、この状態で、再び、レンズが成形型の成形面から剥離されると、離型の後で、スプリングバック(弾性回復)により、この応力集中部で、レンズが著しく変形する。この状態が、図12に示すような、レンズの光学機能面での急激な曲がりをもたらすのである。
【0026】
斯くして、剥離の進行が中断される場合には、部分離型の状態での冷却により、剥離の進行する先端部の応力集中が、後のスプリングバックに際し、図10に示すような、光学面の中心部付近での円形状の不連続な境界線を発生させ、その境界線を境にして、その内側と外側とで、レンズの光学機能面の接線角度が不連続になると、考えることができる。
【0027】
以上を要約すると、光学素子として、両凹レンズまたは凹メニスカスレンズをプレス成形する場合、その冷却工程において、光学素子の光学機能面が成形型の成形面から剥離されるのが、そのレンズ形状および冷却中に下型に加えられるプレス力の影響で、中断され、所謂、部分離型の停止状態になり、その状態で、さらに冷却のみが進み、その後に、再び剥離が進行する形で、離型がなされると、成形後の光学素子の光学機能面の中心部付近に不連続な境界線ができ、光学素子として、採用できなくなると結論されるのである。
【0028】
【発明の目的】
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的とするところは、離型に際して、成形された光学素子の光学機能面に、無用な不連続境界が生じないように、冷却過程での成形型の成形面からの光学素子の剥離が始まる時点を把握し、それから離型完了までの剥離の進行を妨げないようにした光学素子の成形方法を提供するにある。
【0029】
なお、他の目的とするところは、以下に述べる実施例の中で説明する。
【0030】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明では、高温軟化状態の光学ガラス塊を、一対の成形型で、プレス成形し、光学素子を得る方法において、前記成形型でプレス成形された前記光学素子を、前記成形型の成形面に密着した状態で加圧を継続しながら冷却すると共に、この冷却の過程において、冷却に基づく前記光学素子の収縮により、光学機能面の外周縁部が、前記成形型の成形面から離れた時点で、前記加圧を解除し、直ちに、前記成形型を開放し、前記光学素子の光学機能面を、前記成形型の成形面から全面的に離すのである。
【0031】
この場合、離型の発生開始を、例えば、超音波センサを用いて確実にモニタし、直ちに、全面離型させることで、より確実に、光学素子の光学機能面の形状不良の発生を防止するのがよい。また、事前に求められた、離型の発生開始の時点で、全面離型させることで、特に、温度センサなどを用いるだけで、充分に、部分剥離の開始時期を判定でき、より経済的に、光学機能面の形状不良の発生を防止することが可能となる。
【0032】
【作 用】
従って、光学素子の外周縁部から剥離が開始された後では、その進行が妨げられることがなく、部分離型の状態で、剥離が止まって、その箇所での応力集中が避けられるから、成形された光学素子の光学機能面の中央付近に境界が発生し、形状不良となるような不都合を防止できる。
【0033】
このような作用効果は、以下に示す具体策で、更に確実なものとなる。即ち、冷却中に発生する、光学素子の光学機能面の外周縁部の離型(以下、「部分離型」と称する)開始時点を、成形型の内部またはその周辺の数カ所に設置されたセンサを用いてモニタすることで、型開きの開始時期として、直ちに、全面離型させると、部分離型状態において冷却を続けた場合に発生する、部分離型の進行の停止による熱応力集中が発生しないので、型開き後、この部分での局所的なスプリングバック(弾性回復)によるレンズ形状の局所的な変形、即ち、光学機能面の中心部付近で、円形状の境界線が発生せず、光学機能面の形状不良の発生を防止できる。
【0034】
また、この場合、冷却中に発生する、光学素子の光学機能面の外周縁部の部分離型の発生時期を、その時の温度として、事前に求めておき、温度センサによるモニタで、型開きの始動時期を判定するようにしても良い。即ち、通常、同じ形状の光学素子をプレス成形した場合、光学素子の光学機能面の外周縁部の部分離型が発生する温度は、光学素子毎によるバラツキが少なく、ほぼ安定している。勿論、光学素子の微妙な形状の差異や成形時の界面状態の差異により、部分離型が発生する温度は変化するが、その温度変化量は小さい。したがって、同じ形状の光学素子を成形する場合、ある光学素子について部分離型の発生する温度を求めれば、他の光学素子も、ほぼ、それと同じ温度で部分離型が発生すると推定できる。
【0035】
よって、ある光学素子について、光学機能面の外周縁部の部分離型が発生する温度を事前に求めれば、同形の光学素子について、その量産成形時において、プレス成形後の冷却が進み、事前に求められた上記温度になった時、直ちに、型開きによって、光学素子の光学機能面を、成形型の成形面から全面的に剥離させることで、部分離型の進行が途中で停止された場合に発生する、熱応力集中が原因で、後に、この部分での局所的なスプリングバック(弾性回復)によるレンズ形状の局所的な変形、即ち、光学機能面の中心部付近に円形状の不連続な境界線が発生せず、光学素子の光学機能面の形状不良の発生を防止できる。
【0036】
この場合、実際の生産工程では、光学素子毎により部分離型が発生する温度に多少のバラツキがあるので、光学素子によっては、部分離型が発生した後、しばらくしてから、全面離型させる場合が起こるが、その部分離型発生から全面離型までの時間は数秒以内であり、この時間内では、部分離型領域の剥離進行の先端部において、大きな応力集中が発生しないので、この部分での局所的なスプリングバック(弾性回復)による変形は回避でき、光学素子の光学機能面の形成不良は発生しない。
【0037】
また、部分離型が開始された時点で、直ちに、光学素子の光学機能面を成形型の成形面から全面的に剥離させる際に、光学素子、または、光学素子と成形型の成形面との界面に、外力を加えた状態で、型開きすると、以下に示す2つの作用効果が得られる。
【0038】
1点目として、全面離型させる際に、光学素子または光学素子と成形型の成形面との界面に、外力を加えた状態で、型開きすることにより、部分離型の進行の先端部における内部発生応力を高めに維持できるので、型開きの際の離型がし易くなる。
【0039】
2点目として、全面離型させる際に、何らかの治具を介して、光学素子に外力を加えた状態で、型開きすることにより、光学素子を押えつけることができるから、型開きした瞬間に、みだりに光学素子が移動してしまう虞がない。
【0040】
【実施例】
(第1の実施例)
図1は、本発明の第1の実施例を説明するための成形装置の概略図であり、ここで、符号1はプレス成形された光学素子、2は成形用下型、3は成形用上型、4は成形用下型2と成形用上型3とを、同軸上に摺動・案内する胴型、5は成形用下型2と成形用上型3との内部に設置された、光学素子1の離型の開始時期をモニタするための超音波センサである。また、これらの一連の構成からなる成形装置は、窒素雰囲気に保たれた成形室(図示せず)内に設置されている。
【0041】
なお、胴型4の内部には、加熱用のヒータ(図示せず)が内蔵されている。また、離型をモニタするための超音波センサ5は、熱の影響を避けるために、下型2および上型3の内部の各成形面から離れた、胴型4の外部に位置しており、その周囲は、冷却装置(図示せず)により、冷却されている。
【0042】
ここで使用される超音波センサ5は、反射型の超音波センサであり、超音波センサ5から発射された超音波は、プレス成形された光学素子と型の成形面との、界面や、それらの端面で反射され、この反射された超音波は、再度、超音波センサ5で受信され、その反射位置および反射強度をモニタすることができる。
【0043】
なお、本実施例では、下型2の内部に設置された超音波センサ5で、下型2の成形面に対する光学素子1の光学機能面の剥離状態(離型)をモニタし、上型3の内部に設置された超音波センサ5で、上型3の成形面に対する光学素子1の光学機能面の剥離状態をモニタしている。
【0044】
このように設置された超音波センサ5で、光学素子1の離型をモニタする場合、光学素子1の光学機能面が剥離する前、すなわち、光学素子1が型の成形面と密着している状態では、光学素子1と成形面との界面において、超音波センサ5から発射された超音波が、一部、反射するが、殆ど、透過するので、この界面の位置において、弱い反射波を観察できる。一方、光学素子1の光学機能面が剥離した後では、超音波センサから発射された超音波は、成形型の成形面において全て反射するので、この界面の位置において、強い反射波を観察できる。このように、成形型の成形面の位置において観察される超音波の反射強度の強弱から、光学素子の離型の有無を判断することができる。
【0045】
本実施例においては、超音波センサ5が、上下の成形型毎に、その中心部に1か所および外周部に等分に6か所の計7か所に設置されており、光学素子1の成形型からの離型を、その外周部の各場所および中心部についてモニタできるようになっている。
【0046】
なお、本実施例における光学素子は、図8に示すように、従来の技術の課題で説明に用いたものと同じ、凹メニスカスレンズである。その寸法は、直径:24mm、中心肉厚:2mm、上面R:10mm、下面R:80mmである。また、このレンズは、光学特性がnd =1.58、νd =59である光学ガラスからなっており、その熱特性は、Tg(ガラス転移点温度)=520℃、At(屈伏点温度)=560℃である。
【0047】
また、本実施例において、成形型は超硬合金で作られており、研磨された成形面の上には、離型作用を有するダイヤモンド状カーボン膜が成膜されている。
【0048】
而して、上述の凹メニスカスレンズを、以下に示すプレス成形のプロセスによって作成する。まず、成形用下型2および成形用上型3を、ともに、490℃の状態に保ち、光学素子1の素材となる200℃のガラス塊(図示せず)を、搬送用ハンド(図示せず)によって、胴型4の内部へ搬送し、成形用下型2の上に置く。続いて、胴型4に内蔵されているヒータ(図示せず)を加熱し、下型2と上型3とガラス塊(図示せず)とを590℃まで加熱した。
【0049】
続いて、上型3に4000Nのプレス力を加え、プレス成形が可能な軟化状態である、590℃に加熱されているガラス塊(図示せず)を、プレス成形し、光学素子1を得た。この時、ガラス塊(図示せず)のプレス変形が進むにつれ、上型3は下降し、上型3の上部が、胴型4の上部と接触した時点で、プレス成形を終了する。この状態では、光学素子1は、粘性を保つ。
【0050】
プレス成形終了と同時に、上型3へのプレス力を加えた状態のまま、光学素子1と下型2と上型3との冷却を開始する。なお、本実施例においては、冷却中に下型2へプレス力の負荷を加えること無く、そのままの状態で冷却を続けた。また、冷却中、前述の、離型モニタ用の超音波センサ5を用いて、光学素子1と、下型2および上型3との部分離型の発生をモニタしている。
【0051】
而して、光学素子1、下型2、上型3の冷却が進み、これらの温度が535℃になった時、下型2の外周部に位置して、その内部に設置された6個の超音波センサ5は、下型2の周辺部の成形面の位置における超音波の反射強度が強くなったことをモニタした。また、この時、下型2の中心部に位置して、この内部に設置された超音波センサ5のモニタ結果は、下型2の中心部の成形面の位置における超音波の反射強度が変わらないことを示した。同様に、上型3の内部に設置された超音波センサ5のモニタ結果も、上型3の成形面の位置における超音波の反射強度が変わらないことを示した。
【0052】
このことから、光学素子1、下型2、上型3の冷却が進んで、これらの温度が535℃になった時、光学素子1と下型2の成形面との界面の外周縁部が部分離型するが、この状態において、光学素子1と下型2の成形面との界面の中心部付近、および、光学素子1と上型3の成形面との界面は、密着した状態を保っていることがわかる。
【0053】
光学素子1と下型2との部分離型が発生した後、外周縁部から中心部に向けて光学機能面の剥離が進行するが、ここで、直ちに、上型3へのプレス力を解除し、上型3を上方へ約3mm上昇させた。この時、下型2は、胴型4により、上方への過度の移動が規制されているので、途中で止まる。したがって、上型3を上方へ約3mm上昇させた時点で、光学素子1の光学機能面と下型2の成形面とは、全面的に剥離する。
【0054】
この時点において、まだ、光学素子1の光学機能面と上型3の成形面とが、互いに密着していることが、上型3の内部に設置された超音波センサ5により確認されている。すなわち、この状態で、光学素子1は、上型3に密着した状態で、下型2の上方3mmの位置で冷却されている。
【0055】
更に冷却を進めると、光学素子1、下型2、上型3の温度が502℃になった時、光学素子1と上型3が全面離型し、光学素子1は下型2の上に落下した。この光学素子1と上型3との全面離型は、ほぼ瞬間的に行われ、経時的に部分離型の状態を発生していないことが、上型3の内部に設置された超音波センサ5により確認された。しかる後、上型3をさらに上昇させ、搬送用ハンド(図示せず)を用いて、光学素子1を成形型内から搬出する。
【0056】
図2は、本実施例によって得られた、凹メニスカス形状の光学素子1の下面、すなわち、凸面の光学機能面の形状精度を示す干渉縞の様子を示す。また、図3は、本発明に係わる光学素子の上面、すなわち、凹面の光学機能面の形状精度を示す干渉縞の様子を示す。
【0057】
図2、図3から明らかなように、本実施例により得られた光学素子1の光学機能面の形状精度は非常に優れており、成形結果としての、その形状不良は全く発生していない。
【0058】
以上に述べた本実施例の特有の効果を要約すれば、部分離型の発生後、直ちに、全面離型することにより、光学素子の光学機能面の形状不良の発生を防ぎ、従来の成形方法では、成形することが困難であった凹メニスカス形状のレンズの成形をも可能にした点である。また、光学素子の、成形型からの部分離型を、センサを用いてモニタし、部分離型の発生後、直ちに、全面離型しているので、光学素子の光学機能面の形状不良の発生を、生産ラインの上で、確実に防止できる点であり、特に、成形個数が少ない場合でも、成形毎に、確実に、光学素子の光学機能面の形状不良の発生を防止できる点である。
(第2の実施例)
図4は、本発明の第2の実施例を説明するための成形装置の概略図であり、ここでの構成要素の符号は、前述の実施例の場合と同様である。即ち、符号1は光学素子、2は成形用下型、3は成形用上型、4は成形用下型2と成形用上型3とを同軸上に摺動・案内する胴型であり、この胴型4の内部には、加熱用のヒータ(図示せず)が内蔵されている。また、これらの一連の構成部材からなる成形装置は、窒素雰囲気に保たれた成形室(図示せず)内に設置されている。
【0059】
本実施例において、成形した光学素子は、第1の実施例と同じ凹メニスカスレンズであり、その形状および材質は、第1の実施例と同一である。また、型材質も第1の実施例と同一である。
【0060】
本実施例での、この凹メニスカスレンズの量産には、以下に示す2つの工程を経ることになる。まず、第1の工程として、第1の実施例で説明した、図1に示す部分離型をモニタするための超音波センサ5を内蔵した所定の成形型で、量産時と同じ成形条件(プレス温度、プレス力、冷却速度など)で、数ショットをプレス成形し、その後の冷却過程で、超音波センサ5を用いて部分離型の発生をモニタし、その時の温度を測定した。
【0061】
続いて、第2の工程として、図4に示すように、超音波センサを内蔵しないが同形の成形型で、この凹メニスカスレンズを量産した。この時、第1の工程で得られた、数ショットの成形品の部分離型の発生時の温度の分布から、統計的手法で、全面離型させる最適な温度を求め、図4の成形型でレンズを量産する時、冷却過程において、この全面離型温度になった時、成形型からレンズを全面離型させた。
【0062】
以下、このような工程を更に具体的に説明する。まず、第1の工程として、本実施例では、図1に示す構造を有する成形型を用いて、20個の光学素子をプレス成形し、その部分離型の発生する温度を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0063】
この測定結果から、部分離型発生温度の平均は533.8℃であり、その標準偏差σは1.7℃であり、3σは5.0℃である。このことから、全面離型温度は、平均(533.8℃)−3σ(5.0℃)=528.8℃とする。すなわち、529℃で、全面離型すれば、大体、全ての光学素子は、それ以前に部分離型し、その直後に、全面離型することになる。
【0064】
なお、本実施例での、量産時の成形条件は、実施例1と同一で、プレス温度:590℃、プレス力:4000N、冷却速度:60℃/分であるから、第1の工程においても、同一の成形条件で成形を行い、冷却中の、部分離型の発生温度を測定した。続いて、第2の工程として、図4に示す構造を有する成形型を用いて、この凹メニスカスレンズの量産成形を行った。
【0065】
図4に示す成形型は、下型2および上型3の内部に、部分離型モニタ用の超音波センサを内蔵していないから、先の実施例に比べて、安価に提供できる。従って、同一形の光学素子の大量生産を行うために、複数個の成形型を用意する時に好適である。
【0066】
第2の工程における量産成形は、以下の成形プロセスで実現される。まず、成形用下型2および成形用上型3を、ともに490℃の温度に制御し、この状態で、光学素子1の素材となる200℃のガラス塊(図示せず)を、搬送用ハンド(図示せず)によって、胴型4の内部へ搬送し、成形用下型2の上にを置く。
【0067】
続いて、胴型4に内蔵されているヒータ(図示せず)を加熱し、下型2、上型3、ガラス塊(図示せず)を590℃まで加熱した。次に、上型3に4000Nのプレス力を加え、プレス成形可能な軟化状態である、590℃に加熱されているガラス塊(図示せず)をプレス成形し、光学素子1を得た。この時、ガラス塊(図示せず)のプレス変形が進むにつれ、上型3は下降し、上型3の上部が胴型4の上部と接触した時点で、プレス成形は終了する。この時点では、光学素子は粘性の状態である。
【0068】
プレス成形終了と同時に、上型3へのプレス力を加えた状態(但し、負荷は光学素子に加わらない)のまま、光学素子1、下型2、上型3の冷却を開始する。この時の冷却速度は60℃/分である。529℃まで冷却された後、直ちに、上型3へのプレス力を解除し、上型3を上方へ約3mm上昇させた。この時、下型2は、胴型4により、上方への移動量が規制されているので、途中で止まる。したがって、上型3を上方へ約3mm上昇させた時点で、光学素子1の光学機能面と下型2の成形面とは、全面的に剥離される。しかし、この時点において、まだ、光学素子1と上型3とは密着状態を維持している。すなわち、この状態で、成形光学素子1は、上型3に密着した状態で、下型2の上方、3mmの位置で冷却されている。
【0069】
さらに、冷却を進め、光学素子1、下型2、上型3の温度が492℃になった時、光学素子1と上型3とが、前述の実施例の場合と同様に、瞬時に全面離型し、光学素子1は下型2の上に落下した。その後、上型3をさらに上昇させ、搬送用ハンド(図示せず)で、光学素子1を成形型から搬出する。
【0070】
本実施例による成形方法では、実際には、光学素子1が下型2から部分離型する温度に若干のバラツキがあるので、光学素子によっては、部分離型が発生してから、529℃で全面離型するまでに、約10秒ほどの時間を要するものがある。しかし、そのような部分離型状態で冷却保持された成形光学素子でも、部分離型状態で冷却保持されている時間は、最大で約10秒で、短いので、この間に部分離型領域の先端部で発生する応力集中部の最大応力の値は小さく、したがって、全面離型時にその部分で発生するスプリングバック(弾性回復)による変形量は非常に小さく、成形光学面の形状不良とはならない。
【0071】
而して、本実施例による成形方法で、100000個の光学素子をプレス成形した結果、それらの各光学機能面の形状精度は、全て、実施例1で図2、図3として示したものと同程度であり、全く、問題が無いことが確認された。
【0072】
以下、本実施例の特有の効果を要約すると、部分離型の発生後、直ちに、全面離型することにより、光学素子の光学機能面の形状不良の発生を防ぎ、特に、従来から成形することが困難であった凹メニスカス形状のレンズの成形を可能にした点や、光学素子の量産用の成形型に、部分離型をモニタするための多数の超音波センサを設置する必要がないので、成形型の価格を安くできる点が挙げられる。特に、成形個数が非常に多く、複数個の成形型が必要な場合には、各成形型を安価に提供できることは、非常に有利である。
(第3の実施例)
図5は、本発明の第3の実施例を説明するための成形装置の縦断面の概略図であり、各符号は、ほぼ、先述の実施例と同様である。ここで、符号1は光学素子、2は成形用下型、3は成形用上型、4は、成形用下型2と成形用上型3とを同軸上に摺動・案内する胴型であり、この胴型4の内部には、加熱用のヒータ(図示せず)が内蔵されている。
【0073】
また、符号5は、成形用下型2と成形用上型3の内部に設置され、光学素子1の離型をモニタするための超音波センサであり、この超音波センサ5は、熱の影響を避けるために、下型2および上型3の成形面から離れた位置に設置されており、そのまわりは、例えば、水冷などの冷却装置(図示せず)により冷却されている。本実施例において、超音波センサ5は、成形型毎に、その成形面の中心部に対応して1か所、また、外周部に対応して、等分に6か所の合計、7か所に設置されており、光学素子1の、成形型からの離型を、その外周縁部の各場所および中心部についてモニタできるようになっている。
【0074】
なお、符号6は、全面離型時に、成形光学素子1の側面部に外力を加えるための加圧治具である。符号7は、加圧治具6に力を加えたり、加圧治具6を動かしたりするための、シリンダ機構である。更に、符号8は、成形用下型2を上下動させるための下軸である。
【0075】
図6は、本実施例における加圧治具6を説明するための、成形装置の概略的な横断面図である。ここで、符号1は光学素子、6は加圧治具、7はシリンダ機構である。加圧治具6の先端部は、光学素子1の半径とほぼ同じ半径の円弧状を成している。なお、これらの一連の構成よりなる成形装置は、窒素雰囲気に保たれた成形室内(図示せず)に設置され、また、シリンダ機構7の作動流体は、窒素ガスなので、この作動ガスが成形室内に漏れても、成形室内の窒素雰囲気は、保たれることになる。
【0076】
本実施例において、成形した光学素子は、両凹レンズである。その寸法は、直径:24mm、中心肉厚:3mm、上面R:30mm、下面R:30mmである。また、このレンズは、光学特性が、nd =1.58、νd =59の光学ガラスからなっており、その熱特性は、Tg(ガラス転移点温度)=520℃、At(屈伏点温度)=560℃である。また、本実施例において、成形型は超硬合金で作られており、研磨された成形面の上には、離型作用を有するダイヤモンド状カーボン膜が成膜されている。
【0077】
この凹メニスカスレンズを成形するプロセスは、以下の通りである。即ち、まず、成形用下型2および成形用上型3を、ともに490℃に加熱し、この状態で、光学素子1の素材となる、200℃のガラス塊(図示せず)を、搬送用ハンド(図示せず)によって、胴型4の内部へ搬送し、成形用下型2の上に置く。
【0078】
下型2の、凸形状の成形面の上に置かれたガラス塊(図示せず)は、そのままでは、位置ズレしやすいので、加圧治具6を用いて、挟むことで、所定位置に保持され、位置ズレを防止されている。この時、シリンダ機構7により、加圧治具6に加えられている力は、1N程度の弱い力である。
【0079】
この状態のまま、胴型4に内蔵されているヒータ(図示せず)を加熱し、下型2、上型3、ガラス塊(図示せず)を590℃まで加熱し、続いて、上型3に対して4000Nのプレス力を加え、590℃に加熱されているガラス塊(図示せず)をプレス成形し、光学素子1を得た。この時、ガラス塊(図示せず)のプレス成形が進むにつれ、上型3は下降し、上型3の上部が胴型4の上部と接触した時点で、プレス成形が終了する。なお、プレス成形中も、加圧治具6によるガラス塊(図示せず)の保持を続けたが、プレス成形中にシリンダ機構7により加圧治具6に加えられている力は、当初よりも少ない0.1Nに減じられているので、プレス成形にともない、ガラス塊(図示せず)が押し潰され、半径方向外側に拡がるにつれ、加圧治具6も半径方向外側に押し戻され、プレス成形が終了した時点において、加圧治具6は、光学素子1の外周部側面に対して、軽く食い込んだ状態になっている。
【0080】
プレス成形終了と同時に、上型3へのプレス力を加えた状態のまま、光学素子1、下型2、上型3の冷却を開始する。なお、冷却中も、加圧治具6により0.1Nの弱い力が成形光学素子1の外周部側面に加えられている。また、本実施例においては、下型2へ、上向きにプレス力を加えない状態のまま、冷却を続けた。また、冷却中に、離型モニタ用の超音波センサ5を用いて、光学素子1と、下型2および上型3との部分離型の発生をモニタしている。
【0081】
光学素子1、下型2、上型3の冷却が進み、これらの温度が525℃になった時、光学素子1の光学機能面と下型2の成形面の外周縁部とが部分離型し、それとほぼ同時に、上記の部分離型が、超音波センサ5によりモニタされた。その結果、部分離型が発生した後、直ちに、加圧治具6による成形光学素子1の外周部側面に加えている力を、4Nに増加し、その状態で、直ちに、上面、下面ともに全面離型させた。すなわち、加圧治具6で光学素子1を挟んでいる状態で、上型3を上昇させると同時に、下軸8を使用して、下型2を下方へ約3mm下降させた。この状態で、光学素子1は、下型2および上型3から全面離型し、加圧治具6により挟まれ、空中に保持された状態になる。
【0082】
その後、直ちに、下軸8を使用して、下型2を上方へ、約2mm押し上げ、その状態で、加圧治具6を半径方向に開き、加圧治具に挟まれていた光学素子1を、下型2の上に落下させた。この下型2の上に落下した光学素子1を、搬送用ハンド(図示せず)で搬出した。本実施例により得られた、両凹形状の光学素子1の光学機能面の形状精度は優れており、上面、下面ともに、光学素子としての形状不良を発生していない。
【0083】
本実施例の特有の効果としては、部分離型の発生後、直ちに、全面離型することにより、光学素子の光学機能面の形状不良の発生を防ぎ、特に、従来から成形することが困難であった、両凹形状のレンズの成形を可能にした点や、光学素子の、成形型からの部分離型を、センサを用いてモニタし、部分離型の発生後、直ちに、全面離型しているので、光学素子の光学機能面の形状不良の発生を、確実に防止できる点であり、特に、成形個数が少ない場合でも、成形毎に、確実に形成光学素子の成形光学面の形状不良の発生を防止できる点である。更に、光学素子を全面離型させる際に、その直前から光学素子の周辺側面部に、加圧治具で力を加えることにより、光学素子を両側から挟んだ状態に保持するから、型開きした瞬間に、光学素子が移動してしまうことを防止でき、光学素子を確実に取り出せる点も優れている。
(第4の実施例)
図7は、本発明の第4の実施例を説明するための成形装置の概略図であり、ここでも、先の実施例と同様に、符号1は光学素子、2は成形用下型、3は成形用上型、4は成形用下型2と成形用上型3とを同軸上に摺動・案内する胴型であり、この胴型4の内部には、加熱用のヒータ(図示せず)が内蔵されている。5は、成形用下型2と成形用上型3の内部に設置された、成形光学素子1の離型をモニタするための超音波センサであり、この超音波センサ5は、熱の影響を避けるために、下型2および上型3の成形面から離れた位置に設置されており、そのまわりは、冷却装置(図示せず)により冷却されている。
【0084】
本実施例において、超音波センサ5は、上下の成形型毎に、その中心部に1か所および外周部に等分に6か所の計7か所に設置されており、光学素子1の、成形型からの離型を、その外周縁部の各場所および中心部についてモニタできるようになっている。
【0085】
特に、この実施例で、符号9は、部分離型時に、光学素子1の光学機能面と上型3の成形面との界面に外力を加えるための離型治具である。離型治具9の先端部は、円錐形状をしており、その円錐の頂点部は、離型治具9が前進した時に、光学素子1と上型3との成形界面の端部に接触するように、その位置が調整されている。また、7は、離型治具9に力を加えたり、離型治具9を動かすための、シリンダ機構である。
【0086】
なお、これらの一連の構成よりなる成形装置は、窒素雰囲気に保たれた成形室内(図示せず)に設置されている。また、シリンダ機構7の作動流体は、窒素ガスであるから、この作動ガスが成形室内に漏れても、成形室内の窒素雰囲気は保たれる。
【0087】
本実施例において、成形した光学素子は、凸メニスカスレンズである。その寸法は、直径:24mm、中心肉厚:7mm、上面R:100mm、下面R:20mmである。また、このレンズは、光学特性が、nd =1.58、νd =59の光学ガラスからなっており、その熱特性は、Tg(ガラス転移点温度)=520℃、At(屈伏点温度)=560℃である。また、本実施例において、成形型は超硬合金で作られており、研磨された成形面の上には、離型作用を有するダイヤモンド状カーボン膜が成膜されている。
【0088】
この凸メニスカスレンズは、以下に示す成形プロセスで成形される。まず、成形用下型2および成形用上型3を、ともに490℃の状態で、光学素子1の素材となる200℃のガラス塊(図示せず)を、搬送用ハンド(図示せず)によって胴型4の内部へ搬送し、成形用下型2の上に置く。なお、この状態では、離型治具9は、シリンダ機構7により、最も後退した位置に待機しており、離型治具9は胴型4の内部に格納された状態になっている。
【0089】
続いて、胴型4に内蔵されているヒータ(図示せず)を加熱し、下型2と上型3とガラス塊(図示せず)を590℃まで加熱し、続いて、上型3に4000Nのプレス力を加え、プレス成形可能な軟化状態である、上述のガラス塊をプレス成形し、光学素子1を得る。この時、上型3の降下に連れ、ガラス塊がプレス成形され、上型3の上部が胴型4の上部と接触した時点で、そのプレス成形は終了する。
【0090】
プレス成形終了と同時に、上型3へのプレス力を加えた状態のまま、光学素子1、下型2、上型3の冷却を開始する。本実施例においては、冷却中に下型2へプレス力を加えること無く、そのままの状態で冷却を続けた。また、冷却中、超音波センサ5を用いて、光学素子1と、下型2および上型3との部分離型の発生をモニタしている。
【0091】
光学素子1、下型2、上型3の冷却が進み、これらの温度が530℃になった時、光学素子1と下型2とが、ほぼ瞬間的に全面離型したことが、下型2の内部に設置した超音波センサ5によりモニタされた。なお、この時、光学素子1と上型3とは、全面密着した状態であることが、上型3の内部に設置された超音波センサ5により確認された。
【0092】
さらに冷却が進み、光学素子1、下型2、上型3の温度が510℃になった時、光学素子1の光学機能面と上型3の成形面の外周縁部が部分離型したことが、上型3の内部に設置した超音波センサ5によりモニタされた。
【0093】
光学素子1と上型3との部分離型が発生した後、直ちに、シリンダ機構7に窒素ガスを供給し、離型治具9を前進させ、離型治具9の先端を、光学素子1と上型3との成形界面の端部に接触させ、その状態で、10Nの力を離型治具9を介して、光学素子1と上型3との成形界面の端部に加えた。
【0094】
離型治具9により、光学素子1と上型3との成形界面の端部に、力を加えることで、部分離型の領域の、剥離進行の先端における応力集中部の最大応力がより大きくなる。この状態のまま、直ちに、上型3を上昇させ、光学素子1と上型3とを全面離型させる。上型3を上昇した後、離型治具9は、胴型4の中へと後退し、光学素子1は、下型2の上に置かれた状態になる。この光学素子1を、搬送用ハンド(図示せず)で搬出した。
【0095】
本実施例により得られた、凸メニスカス形状の光学素子1の光学機能面の形状精度は優れており、上面、下面ともに、光学素子としての形状不良は発生していない。
【0096】
本実施例の特有の効果としては、部分離型の発生後、直ちに、全面離型することにより、光学素子の光学機能面の形状不良の発生を防ぎ、従来から、冷却中の下型のプレスを行なわずに成形することが困難であった凸メニスカス形状のレンズの成形を、冷却中の下型によるプレスを行わずに可能にした点、即ち、下型のプレス装置が不要になり、装置コストを下げることが可能になる点を挙げることができる。
【0097】
また、光学素子の、成形型からの部分離型を、センサを用いてモニタし、部分離型の発生後、直ちに、全面離型しているので、光学素子の光学機能面の形状不良の発生を確実に防止でき、特に、成形個数が少ない場合でも、成形毎に、光学素子の光学機能面の形状不良の発生を確実に防止できる点や、光学素子を全面離型させるに際し、部分離型している成形型と光学素子の成形界面の端部に離型治具で力を加えることにより、部分離型の領域の剥離進行の先端の応力集中部の最大応力をより大きくし、より容易、確実に全面離型できる点も挙げられる。
【0098】
【発明の効果】
本発明は、以上説明したように、従来方法では、成形された光学素子の光学機能面の中心部付近に円形状の境界線が現れ、光学機能面の形状不良が発生し、成形が困難であった、両凹レンズや凹メニスカスレンズなどの形状の光学素子の成形が可能になり、成形による光学素子として、安価に生産することができる効果がある。
【0099】
また、本発明によれば、冷却過程において、光学素子の光学機能面の外周縁部が、成形型の成形面から離れた時点を、センサを用いてモニタし、そのモニタに基づいて、直ちに、成形型を開放することにより、光学素子の微妙な形状の差異や、成形界面状態の差異によって、光学素子の光学機能面の外周縁部の離型、すなわち、部分離型が開始される温度が若干、異なる場合であっても、部分離型発生後、直ちに、全面離型することにより、どのような場合でも確実に、光学機能面の形状不良の発生を防止することが可能になり、良品率が上がり、その結果として、生産コストを下げることができる。
【0100】
また、本発明によれば、多数の成形型を用いて、同一形状の光学素子を大量生産する時において、光学素子の光学機能面の外周縁部が、成形型の成形面から離れた時点の温度を、事前に求めて置き、実際の光学素子の冷却過程において、冷却が進み、前記温度になった時、直ちに、成形型を開放することで、部分離型をモニタするための高価なセンサを、各々の成形型に対して、個別に用いること無く、より経済的に、光学機能面の形状不良の発生を防止することが可能になる。すなわち、生産装置のコストを抑えることができ、その結果として、生産コストを下げることができる。
【0101】
また、本発明によれば、光学素子の光学機能面の外周縁部が成形型の成形面から離れた時点で成形型を開放する際に、光学素子、または、光学素子と成形型との接触界面に、外力を加えることで、光学機能面の形状不良の発生を防止するための、部分離型の直後に行う全面離型を、より確実に、安定して行うことが可能になる。すなわち、装置の動作が安定し、稼働率が向上するので、その結果として、生産コストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例において用いる、成形装置を説明する図である。
【図2】本発明の第1の実施例において得られた、光学素子の光学機能面の形状精度を、フィゾー方式の干渉計で測定して得られた干渉縞の(ディスクプレー上に表示した中間調画像)図である。
【図3】本発明の第1の実施例において得られた、光学素子の光学機能面の形状精度を、フィゾー方式の干渉計で測定して得られた干渉縞の(ディスクプレー上に表示した中間調画像)図である。
【図4】本発明の第2の実施例において用いる、成形装置を説明する図である。
【図5】本発明の第3の実施例において用いる、成形装置の縦断面図である。
【図6】本発明の第3の実施例において用いる、成形装置の平面断面図である。
【図7】本発明の第4の実施例において用いる、成形装置を説明する図である。
【図8】従来例における、光学素子の形状を説明する図である。
【図9】従来例における、成形装置を説明する図である。
【図10】従来例における、光学素子の光学機能面の形状精度を、フィゾー方式の干渉計で測定して得られた干渉縞の(ディスクプレー上に表示した中間調画像)図である。
【図11】従来例における、光学素子の光学機能面の様子を説明する図である。
【図12】従来例における、光学素子の光学機能面の断面形状を説明する図である。
【図13】従来例における、冷却中の光学素子の様子を説明する図である。
【図14】従来例における、冷却中の光学素子の様子を説明する図である。
【符号の説明】
1 光学素子
2 成形用下型
3 成形用上型
4 胴型
5 超音波センサ
Claims (4)
- 高温軟化状態の光学ガラス塊を、一対の成形型で、プレス成形し、光学素子を得る方法において、
前記成形型でプレス成形された前記光学素子を、前記成形型の成形面に密着した状態で加圧を継続しながら冷却すると共に、この冷却の過程において、冷却に基づく前記光学素子の収縮により、光学機能面の外周縁部が、前記成形型の成形面から離れた時点で、前記加圧を解除し、直ちに、前記成形型を開放し、前記光学素子の光学機能面を、前記成形型の成形面から全面的に離すことを特徴とする光学素子の成形方法。 - 冷却過程において、光学素子の光学機能面の外周縁部が、成形型の成形面から離れた時点を、センサを用いてモニタし、そのモニタに基づいて、直ちに、成形型を開放することを特徴とする請求項1に記載の光学素子の成形方法。
- 成形型でプレス成形された光学素子を、成形型の成形面に密着した状態で冷却する工程において、光学素子の光学機能面の外周縁部が、成形型の成形面から離れた時点の温度を、事前に求めて置き、実際の光学素子の冷却過程において、冷却が進み、前記温度になった時、直ちに、成形型を開放することを特徴とする請求項1に記載の光学素子の成形方法。
- 光学素子の光学機能面の外周縁部が成形型の成形面から離れた時点で成形型を開放する際に、光学素子、または、光学素子と成形型との接触界面に、外力を加えることを特徴とする請求項1に記載の光学素子の成形方法。
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