JP3646964B2 - ハイブリッド車 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンとモータとを併用するハイブリッド車に関し、より詳しくは比較的低出力の2つのモータを用いて駆動力の確保と動力エネルギの回収効率を向上するハイブリッド車に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車等の車両においては、低公害、省資源の観点からエンジンとモータとを併用するハイブリッド車が開発されており、このハイブリッド車では、発電用と動力源用との2つのモータを搭載することで動力エネルギの回収効率向上と走行性能の確保とを図る技術が多く採用されている。
【0003】
例えば、特開平9−46821号公報には、ディファレンシャルギヤ等の差動分配機構による動力分配機構を用いてエンジンの動力を発電機とモータ(駆動用モータ)とに分配し、エンジンの動力の一部で発電しながらモータを駆動して走行するハイブリッド車が開示されており、また、特開平9−100853号公報には、プラネタリギヤによってエンジンの動力を発電機とモータ(駆動用モータ)とに分配するハイブリッド車が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述した各先行技術においては、低速時の駆動力の大半を駆動用モータに依存するため、駆動用に大容量の大型のモータが必要となるばかりでなく、駆動輪で必要とするトルクに対する増幅機能を電力に依存するため、バッテリー容量が十分でない場合にも一定の走行性能を維持することのできる発電容量をもった発電機が要求されることになり、コスト増の要因となる。
【0005】
また、車両においてはモータ(発電機)の回転制御範囲を超えるような出力軸回転数の変化があるため、エンジン出力を発電機と駆動用モータとに分配するだけでは、駆動輪からの要求駆動力に対し、必ずしもエンジン及びモータの制御を十分に最適化できるとは限らない。
【0006】
また、ハイブリッド車では、各モータでの分担トルクは少ない方が、トルク−電力間で必要な変換効率等の影響を少なくでき、トルク−電力間の変換は可能な限り少なくする方が車両全体のエネルギ効率を向上させる上で好ましい。
【0007】
さらに、車両の利用形態や車両の走行条件により、搭載された2つのモータの制御の仕方は異なり、この制御は可能な限り簡素であることが望ましい。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、エネルギ効率に優れ、比較的低出力の2つのモータを用いて駆動力の確保と動力エネルギの回収効率向上を達成するとともに、駆動輪からの要求駆動力に対してエンジン及びモータ制御の最適化を実現することができ、2つのモータの制御も簡素に行うことができるハイブリッド車を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、エンジンの出力とモータの出力とを併用して走行駆動源とするハイブリッド車において、サンギヤと、このサンギヤに噛合するピニオンを回転自在に支持するキャリアと、上記ピニオンに噛合するリングギヤとを有するプラネタリギヤと、上記エンジンの出力軸と上記プラネタリギヤのリングギヤとの間に連結され、駆動源あるいは発電機として切換え使用可能な第1のモータと、上記プラネタリギヤのサンギヤに連結され、駆動源あるいは発電機として切換え使用可能な第2のモータと、上記プラネタリギヤのサンギヤとキャリアとリングギヤのいずれか2つを結合自在な連結機構と、上記プラネタリギヤのキャリアに連結され、複数段あるいは無段階に切り換え可能な変速比に応じて上記プラネタリギヤと駆動輪との間で変速及びトルク増幅を行なう動力変換機構とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、上記動力変換機構を、入力軸に軸支されるプライマリプーリと出力軸に軸支されるセカンダリプーリとの間に駆動ベルトを巻装してなるベルト式無段変速機とすることを特徴とする。
【0011】
すなわち、請求項1記載の発明では、エンジンの出力軸とプラネタリギヤのリングギヤとの間に第1のモータを連結するとともに、プラネタリギヤのサンギヤに第2のモータを連結し、さらにプラネタリギヤのサンギヤとキャリアとリングギヤのいずれか2つをクラッチ等の連結機構で結合自在にし、プラネタリギヤのキャリアに複数段あるいは無段階に変速比を切り換え可能な動力変換機構を連結してプラネタリギヤと駆動輪との間で変速及びトルク増幅を行なう。
【0012】
第1,第2のモータは、走行条件により、同時に駆動源あるいは発電機とし、または、一方を駆動源、他方を発電機とし、または、クラッチを固定して(連結して)一方を駆動源あるいは発電機、他方を制御無しの状態として使用することができる。
【0013】
そして、例えば、走行条件でクラッチを解放する際には、エンジン及び第1のモータの両方からプラネタリギヤのリングギヤに駆動力を供給する、あるいは、エンジンの駆動力の一部で第1のモータを発電機として作動させて残りの駆動力をプラネタリギヤのリングギヤに供給する等して、第2のモータからプラネタリギヤのサンギヤに駆動力を供給する場合、プラネタリギヤで各駆動力が合成されてキャリアから出力され、動力変換機構を介して駆動輪に伝達される。また、減速時や制動時等には、駆動輪側から動力変換機構を介してプラネタリギヤのキャリアに返還される駆動力が、リングギヤに連結される第1のモータ及びエンジン側と、サンギヤに連結される第2のモータ側とに分配され、第1,第2のモータを発電機として動力エネルギーを回収する、あるいは、第2のモータを発電機とし、第1のモータに電力を供給してエンジン及び第1のモータで駆動力を発生させることができる。
【0014】
さらに、高速走行等の走行条件では、クラッチによりプラネタリギヤの差動を固定して、エンジンと動力変換機構の間に2つのモータを配置するエンジンからの駆動軸を形成でき、第1,第2のモータの両方を駆動源または発電機として作動させ、あるいは、一方を駆動源または発電機、他方を制御無しの状態とする。
【0015】
ここで、請求項2に記載したように、動力変換機構としては、入力軸に軸支されるプライマリプーリと出力軸に軸支されるセカンダリプーリとの間に駆動ベルトを巻装してなるベルト式無段変速機を用い、変速比を無段階に切り換えて変速及びトルク増幅を行なうことが望ましい。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図8は本発明の実施の一形態に係わり、図1は駆動系の基本構成を示す説明図、図2はクラッチ解放状態でエンジン及び第1,第2のモータによって走行する場合のトルク及び電気の流れを示す説明図、図3はクラッチ解放状態で第1のモータを発電機として使用する場合のトルク及び電気の流れを示す説明図、図4はクラッチ解放状態で第1,第2のモータを発電機として使用する場合のトルク及び電気の流れを示す説明図、図5はクラッチ解放状態で第2のモータを発電機として使用し、第1のモータで駆動力を発生させる場合のトルク及び電気の流れを示す説明図、図6はクラッチ固定状態でエンジン及び第1,第2のモータによって走行する場合のトルク及び電気の流れを示す説明図、図7はクラッチ固定状態で第1,第2のモータを発電機として使用する場合のトルク及び電気の流れを示す説明図、図8はクラッチ解放状態で車両後進時のトルク及び電気の流れを示す説明図である。
【0017】
本発明によるハイブリッド車は、エンジンとモータとを併用するパラレルハイブリッド式の車両であり、図1に示すように、エンジン1と、エンジン1の起動及び発電・動力アシストを担う第1のモータ2(以下、単にモータ2と呼称)と、エンジン1の出力軸1aにモータ2を介して連結されるプラネタリギヤユニット3と、このプラネタリギヤユニット3の機能を制御し、発進・後進時の駆動力源になるとともに減速エネルギの回収を担う第2のモータ4(以下、単にモータ4と呼称)と、変速及びトルク増幅を行なって走行時の動力変換機能を担う動力変換機構5とを基本構成とする駆動系を備えている。
【0018】
上記プラネタリギヤユニット3は、サンギヤ3a、このサンギヤ3aに噛合するピニオンを回転自在に支持するキャリア3b、ピニオンと噛合するリングギヤ3cを有するシングルピニオン式のプラネタリギヤである。
【0019】
また、上記プラネタリギヤユニット3は、上記サンギヤ3aとキャリア3bとリングギヤ3cのうち、本発明の実施の形態では上記サンギヤ3aと上記キャリア3bとが連結機構としてのクラッチ6で結合自在に形成されている。
【0020】
上記動力変換機構5としては、歯車列を組み合わせた変速機や流体トルクコンバータを用いた変速機等を用いることが可能であるが、入力軸5aに軸支されるプライマリプーリ5bと出力軸5cに軸支されるセカンダリプーリ5dとの間に駆動ベルト5eを巻装してなるベルト式無段変速機(CVT)を採用することが望ましく、本形態においては、以下、上記動力変換機構5をCVT5として説明する。
【0021】
すなわち、本形態におけるハイブリッド車の駆動系では、エンジン1の出力軸1aとCVT5の入力軸5aとの間にプラネタリギヤユニット3が配置されており、このプラネタリギヤユニット3のリングギヤ3cがエンジン1の出力軸1aに一方のモータ2を介して結合されるとともに、キャリア3bがCVT5の入力軸5aに結合され、サンギヤ3aに他方のモータ4が連結され、さらに、プラネタリギヤユニット3のサンギヤ3aとキャリア3bとがクラッチ6で結合自在になっている。そして、CVT5の出力軸5cに減速歯車列7を介してデファレンシャル機構8が連設され、このデファレンシャル機構8に駆動軸9を介して前輪或いは後輪の駆動輪10が連設される。
【0022】
また、上記エンジン1,2つのモータ2,4,CVT5,クラッチ6は、監視・制御システム11によって集中制御される。この監視・制御システム11には、アクセルペダルやブレーキペダルの踏み込み操作、ステアリングの操舵角等を検出してドライバの運転操作状況を判定するドライバ意志判定システム12、ブレーキ操作状態、エンジン1やABS(アンチスキッドブレーキシステム)等に対する各種制御量、灯火類やエアコン等の補機類の作動状態等から車両の制御状況を判定する車両制御状況判定システム13、車速、登坂や降坂、路面状態等の現在の車両の走行状態の変化を判定する走行状況判定システム14等が接続され、エンジン1,2つのモータ2,4,CVT5,クラッチ6の作動状態やバッテリ15の状態を監視し、各システムからの情報に基づいて、エンジン1の制御、インバータ16,17を介してのモータ2,4の駆動及びバッテリの充電制御、CVT5の変速比や供給油圧の制御、クラッチ6の解放,固定の制御等を行う。
【0023】
以上の構成による駆動系では、前述したように、エンジン1及びモータ2をプラネタリギヤユニット3のリングギヤ3cへ結合するとともにサンギヤ3aにモータ4を結合してキャリア3bから出力を得るようにし、さらに、キャリア3bからの出力をCVT5によって変速及びトルク増幅して駆動輪10に伝達するようにしているため、2つのモータ2,4は発電と駆動力供給との両方に使用することができ、比較的小出力のモータを使用することができる。
【0024】
すなわち、クラッチ6を解放状態として、リングギヤ3cがエンジン1及びモータ2のいずれか一方あるいは両方から駆動される場合、例えば、図2に示すように、エンジン1とモータ2とによってリングギヤ3cを駆動する場合について考えると、バッテリ15からインバータ16,17を介して電気エネルギがモータ2,4に供給され、モータ2で駆動力に変換されてエンジン1からの駆動力と合算されてリングギヤ3cへの入力トルクTrとなり、モータ4で駆動力に変換されてサンギヤ3aへの入力トルクTsとなるわけであるが、プラネタリギヤの入出力特性から、サンギヤ3aへの入力トルクTs、リングギヤ3cへの入力トルクTr、キャリア3bの出力トルクTcは、以下の(1)式で示すような関係となる。
Tc=Ts+Tr …(1)
【0025】
従って、プラネタリギヤユニット3でサンギヤ3aへの入力トルクTsとリングギヤ3cへの入力トルクTrとが合成されてキャリア3bから出力され、エンジン1、モータ2,4のそれぞれの出力トルクが小さい場合であってもキャリア3bから大きなトルクを得ることができ、CVT5を介して駆動輪10に伝達されて大きな車両駆動力を得ることができる。尚、図2及び以下に説明する図3〜図8において、二点鎖線は電気の流れを模式的に示し、一点鎖線はトルク伝達の流れを模式的に示す。
【0026】
この場合、サンギヤ3aの入力トルクTsとリングギヤ3cの入力トルクTrとは、それぞれが合成されてキャリア3bの出力トルクTcとなるためには互いに反力を受けなくてはならず、各入力トルクTs,Trの関係は、サンギヤ3aの歯数Zs、リングギヤ3cの歯数Zrによって表されるギヤ比i(i=Zs/Zr)を用いて表わされる以下の(2),(3)式に示す関係から、以下の(4)式を満足しなけらばならない。
Tc・i/(1+i)=Ts …(2)
Tc・1/(1+i)=Tr …(3)
Ts=i・Tr …(4)
【0027】
一般的に、プラネタリギヤの構造上、Zs<Zrであるためギヤ比iはi<1であり、上記(4)式から明らかなように、サンギヤ3aへの入力トルクTsはリングギヤ3cへの入力トルクTrに対してi倍となる。
【0028】
すなわち、エンジン1,モータ2をリングギヤ3cに結合し、モータ4をサンギヤ3aに結合して構成するためサンギヤ3aへの入力トルクTsは、小さい値(i・Tr)で達成できるようになっている。
【0029】
しかしながら、このサンギヤ3aへの入力トルクTsはモータ4のみで得られるため、バッテリ15からモータ4への電力供給が必要になり、長時間の走行でバッテリ15の充電量が不足するような事態が予測される場合には、モータ2を発電機として使用する。
【0030】
このように、エンジン1の駆動力の一部でモータ2を発電機として駆動し、残りの駆動力をリングギヤ3cへの入力トルクとしてリングギヤ3cへの入力トルクを抑えることで、相対的にモータ4の必要電力を抑えることができ、図3に示すように、モータ2の発電により得られた電力でバッテリ15に充電された電気を使用することなくモータ4を駆動することができる。この場合、モータ4を主としてサンギヤ3aの反力分担に使用し、エンジン1の駆動力のみによる走行が可能である。
【0031】
ここで、エンジン1,モータ2をリングギヤ3cに結合し、モータ4をサンギヤ3aに結合して構成するためサンギヤ3aへの入力トルクTsは小さな値に抑制することができ、モータ4の必要な駆動力は比較的小さいので、駆動力を得るための必要な電気エネルギは少なくてすむから、モータ4のトルクと電力の変換効率、インバータの制御効率等の影響を少なくすることが可能である。
【0032】
このような状況で、バッテリ15への充電が必要になったときには、モータ4の必要電力に対してモータ2の発電量が多くなるように制御する。また、主としてエンジン1の駆動力で走行中に、登坂や急加速等によってエンジン1の出力に対して負荷が大きくなり、モータ4のアシスト力を大きくする必要が生じた場合には、モータ2の発電量を抑えてリングギヤ3cへのエンジン1からの入力トルクを大きくし、同時にモータ4の駆動力が大きくなるようにバッテリ15から電力を供給することで、必要な駆動力を確保することができる。
【0033】
また、減速時や制動時等において、クラッチ6が解放状態では、駆動輪10からCVT5を介してプラネタリギヤユニット3のキャリア3bに伝達されるトルクTcが、図4に示すように、モータ2へのリングギヤ3cからのトルクTrと、モータ4へのサンギヤ3aからのトルクTsとに分配され、各モータ2,4で電気エネルギに変換されてバッテリ15を充電する。このため、モータ2,4の発電でブレーキをかけるような状況において、モータ1つ当たりの発電量と、それによるブレーキ力が小さいにも拘らず、各モータ2,4の負担を少なくしつつ車両全体として大きな発電量とブレーキ力とが得られ、動力エネルギの回収効率を大幅に向上することができる。
【0034】
この場合においても、バッテリ15に十分な充電が行われており、バッテリ15への充電が必要ない場合には、図5に示すように、エンジン1が吸収可能な駆動力をモータ2に発生させ、そのための発電をモータ4で行わせることにより、バッテリ15に充電することなしに十分なエンジンブレーキ力を得ることができる。また、バッテリ15への充電が必要になった場合には、モータ4の発電量をそのままにしてモータ2への供給電力を低くするように制御することで、エンジンブレーキ性能を低下させることなくバッテリ15への充電が可能となる。
【0035】
ところで、エンジン1を最大出力で走行する場合等、エンジン1の駆動力だけで走行する等の条件の下では、モータ2及びモータ4の回転数とトルクも制御することが必要になり、特に上述の図3あるいは図5で説明したように、2つのモータ2,4のうち一方を発電、他方を駆動力のために用いると、一方のモータではトルクから電力への変換を行い、他方のモータでは電力からトルクの変換を行って必要なトルクあるいは電力を得ることになるため、これら変換効率等の影響を大きく受け、全体のエネルギ効率の大きな低下を招く。また、2つのモータ2,4を、それぞれ別々に制御するために複雑な制御仕様が必要になってくる。
【0036】
このため、本形態では上述のような走行条件によって、クラッチ6を解放状態から固定状態に制御して、クラッチ6によりプラネタリギヤユニット3のサンギヤ3aとキャリア3bとを結合し、間に2つのモータ2,4が配置された、エンジン1からCVT5に至るエンジン直結の駆動軸が形成できるようになっている。
【0037】
すなわち、クラッチ6を固定状態として駆動力を得ようとした場合、前述の図2や図3で説明したように、エンジン1,モータ2またはモータ4のそれぞれの出力トルクの関係を制御すること無しに、図6に示すように、エンジン1,モータ2またはモータ4の駆動輪10側に必要な駆動トルクを任意に発生させる制御が可能になり、制御仕様の簡素化と、例えばモータ2またはモータ4のどちらか一方のみで駆動力を発生するように、2つのモータ2,4を制御しなければならない場合に比べ、モータ2,4,インバータ16,17及び電力線を通過する電力を最小限にすることで、充電された電気エネルギの有効利用が可能になる。尚、エンジン1とモータ2とモータ4とで駆動力を発生させる際は、モータ2とモータ4のそれぞれの駆動トルクは固定されたプラネタリギヤユニット3で合成されるため、最大駆動トルクは前記図2の場合と同様になる。また、モータ2,4に駆動力を発生させなければ、通常のエンジンのみの車両と同様の駆動システムになる。これにより、前記図3の場合の各モータ2,4が発電と駆動することに伴うエネルギ変換のロスと、これを補うためのエンジン1の必要駆動力の増加を防止することができる。
【0038】
また、クラッチ6を固定状態としてプラネタリギヤユニット3のキャリア3bからの入力トルクに対してモータ2,4の発電及びエンジンブレーキで制動をかける場合も同様に、前述の図4や図5で説明したように、エンジン1,モータ2またはモータ4のそれぞれの制動トルクの関係を制御すること無しに、図7に示すように、エンジン1におけるエンジンブレーキの制御、モータ2及びモータ4のそれぞれの発電によるブレーキ制御を必要に応じて任意に制御することが可能になり、制御仕様の簡素化と、例えばモータ2またはモータ4のどちらか一方のみで発電して、2つのモータ2,4を制御し発電しなければならない場合に比べ、モータ2,4,インバータ16,17及び電力線を通過する電力を最小限にすることで、発電時の電気エネルギの利用が可能になる。尚、モータ2及びモータ4のそれぞれの制動トルクは固定されたプラネタリギヤユニット3で分割されるため、最大制動トルクは前記図4の場合と同様になる。また、モータ2,4に制動力を発生させなければ、通常のエンジンのみの車両と同様の駆動システムになる。
【0039】
このように、走行条件に応じてクラッチ6によりプラネタリギヤユニット3のサンギヤ3aとキャリア3bとを結合する制御を行うことで、エンジン1,2つのモータ2,4のそれぞれの出力トルクまたは制動トルクの関係を制御すること無しに必要な駆動トルクまたは制動トルクを任意に発生させる制御が可能になり、制御仕様の簡素化、電気エネルギの有効利用が可能になっている。
【0040】
さらに、車両が後退する場合には、一般にはエンジン回転は前進時と同一方向の回転であることから、エンジン1に直結しているモータ2をエンジン1が逆回転にならないように回転方向を制御し、モータ4の駆動力をキャリア3bに出力して後進する。この場合には、図8に示すように、バッテリ15の充電量に応じ、バッテリ15への充電なしの走行からモータ2の発電によるバッテリ15への充電を併用しながらの後進が可能である。
【0041】
すなわち、バッテリ15の充電量が十分である場合には、エンジン1の出力を吸収することでモータ2を発電機として作動させ、発電した電力をモータ4へ供給するよう制御する。一方、バッテリ15の充電量が不足した場合には、エンジン1の出力を上げる等してモータ4の必要電力に対してモータ2の発電量が多くなるように制御し、発電した電力でバッテリ15を充電する。
【0042】
尚、バッテリ15の充電量が十分である場合、エンジン停止状態でモータ2,4に電力を供給し、モータ2によってリングギヤ3cを固定するとともにモータ4からキャリア3bに駆動力を供給することで、車両を後退させることも可能である。
【0043】
以上のプラネタリギヤユニット3を介してのエンジン1及びモータ2,4の回転は、CVT5の使用によって適切に制御され、エンジン1及びモータ2,4の出力効率を最適化するとともに、駆動軸で必要とされる駆動力を確保することができる。
【0044】
すなわち、クラッチ6を解放状態とするとプラネタリギヤにおいては、サンギヤ3aの回転数をNs、リングギヤ3cの回転数をNr、キャリア3bの回転数をNcとすると、各回転数は以下の(5)式で示される関係となり、サンギヤ3aの回転数Ns及びリングギヤ3cの回転数Nrを制御することでキャリア3bの回転数Ncを自由に設定することができる。尚、Ns=Nrのときには、Nc=Nr=Nsとなり、全ての入出力回転数が一致する。
(1+i)・Nc=Nr+i・Ns …(5)
【0045】
従って、前述したようにプラネタリギヤの入出力トルクの関係はギヤ比iで決まるため、クラッチ6を解放状態とした場合でも各ギヤのトルクの関係を維持した上でモータ2,4の回転数を制御することにより、出力回転数を制御することも可能であるが、モータ2,4のどちらか一方の回転数を一定として出力回転数を高くしようとすると、片方のモータの回転数を必要とする出力回転数よりも高くしなければならない。
【0046】
例えば、モータ4によって駆動されるサンギヤ3aの回転数を一定とし、サンギヤ3aを基準とするリングギヤ3c及びキャリア3bの回転数について考えると、この場合は、サンギヤ3aを固定した場合と同様であり、上記(5)式においてNs=0とおくことができることから、モータ2によって駆動されるリングギヤ3cの回転数(サンギヤ3aに対する回転数差)はキャリア3bの回転数(同じく、サンギヤ3aに対する回転数差)の(1+i)倍となる。
【0047】
また、モータ2によって駆動されるリングギヤ3cの回転数を一定とし、リングギヤ3cを基準とするサンギヤ3a及びキャリア3bの回転数について考えると、リングギヤ3cを固定した場合と同様であることから、上記(5)式においてNr=0とおくことができ、モータ4によって駆動されるサンギヤ3aの回転数(リングギヤ3cに対する回転数差)はキャリア3bの回転数(同じく、リングギヤ3cに対する回転数差)の(1+i)/i倍となる。
【0048】
結局、いずれの場合においても、サンギヤ3aを駆動するモータ4あるいはリングギヤ3cを駆動するモータ2のどちらか一方の回転数を一定として出力回転数(キャリア回転数)を高くしようとすると、モータ2,4のいずれか一方が出力回転数(キャリア回転数)よりも高くなってしまう。
【0049】
モータ回転数が高くなることは、効率及び信頼性の低下を招くことになるため、通常は、プラネタリギヤにおける各ギヤの回転差が小さくなるように使用し、モータ回転数を低く抑えることが望ましいが、車速が低い場合には、サンギヤ3aあるいはリングギヤ3cのどちらかの回転数を相対的に高くすることで、他方の回転を止めたり、また、エンジンを回転させたまま出力軸回転数を逆転して後進させることが可能であるものの、車速が高くなると、出力軸回転数が高くなるため、2つのモータ2,4の回転数差を小さくしようとしても、結果的にエンジン1及びモータ2,4の回転数が高くなってしまう。このため、このような走行条件の下では、クラッチ6によりプラネタリギヤにおける差動を固定し2つのモータ2,4の回転数を低く抑えるのである。
【0050】
本来、エンジンは、燃焼効率の高い、排気ガスの清浄化を期待できる回転数域で使用されることが望ましく、一方、車両においては、モータの回転制御範囲を超えるような出力軸回転数の変化がある。従って、駆動輪10からの要求駆動力に対し、プラネタリギヤユニット3の出力軸に配置したCVT5の変速比を適切に制御することで、プラネタリギヤユニット3への入力トルクを低く抑えることが可能となり、プラネタリギヤユニット3の出力回転数を適切に制御することができる。
【0051】
すなわち、必要な駆動軸の回転数と車両駆動力の変化に対し、CVT5によってエンジン1とモータ2,4の使用条件を最適範囲に抑えることでエンジン性能を特化し、さらに、燃焼効率の高い、排気ガスエミッションの低い領域でエンジン1を使用する頻度を大幅に増やすことができ、走行性能を確保しつつ、燃費改善、低公害化を実現することができるのである。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1記載の発明によれば、エンジンの出力軸とプラネタリギヤのリングギヤとの間に駆動源あるいは発電機として切換え使用可能な第1のモータを連結するとともに、プラネタリギヤのサンギヤに駆動源あるいは発電機として切換え使用可能な第2のモータを連結し、さらにプラネタリギヤのサンギヤとキャリアとリングギヤのいずれか2つを連結機構で結合自在にし、プラネタリギヤのキャリアに複数段あるいは無段階に変速比を切り換え可能な動力変換機構を連結してプラネタリギヤと駆動輪との間で変速及びトルク増幅を行なうため、連結機構を解放にした際は、エンジン及び第1のモータのいずれか一方あるいは両方から供給される駆動力と第2のモータから供給される駆動力とをプラネタリギヤで合成して出力し、また、駆動輪側から動力変換機構を介して逆に伝達される駆動力をプラネタリギヤで第1のモータ及び第2のモータに配分し、第1,第2のモータで動力エネルギを電気エネルギに変換して回収する、あるいは、第2のモータで発電し、第1のモータに電力を供給してエンジン及び第1のモータで制動力を発生させることができる。従って、駆動輪からの要求駆動力に対し、比較的低出力の小型の2つのモータで駆動力の確保と動力エネルギの回収効率向上を達成することができ、システムコストの低減、コンパクト化、軽量化を図ることができる。また、エンジン,第1のモータをプラネタリギヤのリングギヤに結合し、第2のモータをプラネタリギヤのサンギヤに結合して構成するため、第2のモータの分担トルクを低減することが可能になり、トルク−電力間で必要な変換効率等の影響を少なくでき、車両全体のエネルギ効率を向上させることができる。さらに、第1のモータあるいは第2のモータの回転数が大きくなる等の走行条件では、連結機構によりプラネタリギヤの差動を固定してエンジンと動力変換機構の間に2つのモータを配置するエンジンからの駆動軸を形成できるので、第1,第2のモータの両方を駆動源または発電機として作動させ、あるいは、一方を駆動源または発電機、他方を制御無しの状態とするため、制御仕様の簡素化が行え、また、プラネタリギヤに連結された第1,第2のモータの回転数差も大きくなることが防止されて信頼性に優れ、さらに、トルク−電力の変換も最小限でエネルギ効率も大きく向上させることが可能になる。また、プラネタリギヤの出力軸に配置した動力変換機構の変速比を適切に制御することで、エンジン及び第1,第2のモータを最適に制御することが可能となる。
【0053】
また、請求項2記載の発明では、請求項1記載の動力変換機構をベルト式無段変速機として変速比を無段階で変化させて変速及びトルク増幅を行なうため、駆動輪からの要求駆動力に対してプラネタリギヤへの入出力トルク及び回転数を自由に制御することが可能となり、エンジン及び第1,第2のモータの制御をより最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】駆動系の基本構成を示す説明図
【図2】クラッチ解放状態でエンジン及び第1,第2のモータによって走行する場合のトルク及び電気の流れを示す説明図
【図3】クラッチ解放状態で第1のモータを発電機として使用する場合のトルク及び電気の流れを示す説明図
【図4】クラッチ解放状態で第1,第2のモータを発電機として使用する場合のトルク及び電気の流れを示す説明図
【図5】クラッチ解放状態で第2のモータを発電機として使用し、第1のモータで駆動力を発生させる場合のトルク及び電気の流れを示す説明図
【図6】クラッチ固定状態でエンジン及び第1,第2のモータによって走行する場合のトルク及び電気の流れを示す説明図
【図7】クラッチ固定状態で第1,第2のモータを発電機として使用する場合のトルク及び電気の流れを示す説明図
【図8】クラッチ解放状態で車両後進時のトルク及び電気の流れを示す説明図
【符号の説明】
1 …エンジン
2 …第1のモータ
3 …プラネタリギヤユニット
3a…サンギヤ
3b…キャリア
3c…リングギヤ
4 …第2のモータ
5 …ベルト式無段変速機(動力変換機構)
6 …クラッチ(連結機構)
Claims (2)
- エンジンの出力とモータの出力とを併用して走行駆動源とするハイブリッド車において、
サンギヤと、このサンギヤに噛合するピニオンを回転自在に支持するキャリアと、上記ピニオンに噛合するリングギヤとを有するプラネタリギヤと、
上記エンジンの出力軸と上記プラネタリギヤのリングギヤとの間に連結され、駆動源あるいは発電機として切換え使用可能な第1のモータと、
上記プラネタリギヤのサンギヤに連結され、駆動源あるいは発電機として切換え使用可能な第2のモータと、
上記プラネタリギヤのサンギヤとキャリアとリングギヤのいずれか2つを結合自在な連結機構と、
上記プラネタリギヤのキャリアに連結され、複数段あるいは無段階に切り換え可能な変速比に応じて上記プラネタリギヤと駆動輪との間で変速及びトルク増幅を行なう動力変換機構とを備えたことを特徴とするハイブリッド車。 - 上記動力変換機構を、入力軸に軸支されるプライマリプーリと出力軸に軸支されるセカンダリプーリとの間に駆動ベルトを巻装してなるベルト式無段変速機とすることを特徴とする請求項1記載のハイブリッド車。
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