JP3646388B2 - ブラシレスdcモータの永久磁石保持方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、回転子コアの各挿入部内にそれぞれ永久磁石が埋め込まれてなる埋込型のブラシレスDCモータ及びその永久磁石保持方法に関し、特に永久磁石の幅寸法(回転子の周方向の寸法)の変更に際しての回転子コア金型の共通化対策に関する。
【0002】
【従来の技術】
ブラシレスDCモータを、回転子における永久磁石の保持構造によって大きく分類すると、図10に示すように、回転子コア(a)の外周側に永久磁石(b),(b),…が配置されてなる表面型と、図11に示すように、回転子コア(a)の各挿入部(c)内にそれぞれ永久磁石(b),(b),…が埋め込まれてなる埋込型とになる。両者を比較すると、上記表面型では、回転子の回転による遠心力で磁石(b)が剥離するのを防止するために、外周側にステンレス管(d)を焼ばめする等の補強を行う必要がある。これに対し、埋込型の場合には、そのような磁石(b)の剥離の虞れはなく、したがって、回転子コア(a)の各挿入部(c)内にそれぞれ磁石(b)を圧入するだけでよい。
【0003】
ところが、実際には、上記磁石(b)は瀬戸物と同様の焼結物であって脆く、寸法公差が大きいために、圧入時における挿入部(c)の壁面との接触部分に欠けや傷が発生し易い。また、磁石(b)の表面に防錆等のためのコーティングが施されている場合には、そのコーティングが剥がれ易い。さらに、磁石(b)が圧入されることで、回転子コア(a)を構成している各積層板が半径方向外方に膨出するように不均一に変形し、このために回転子コア(a)の側周面に凹凸が生じる結果、磁気騒音やトルクリプル等が発生するようになる。これらの不具合を回避するには、永久磁石(b)の寸法公差を改善するために研磨等の工程が必要であるが、そのような別工程は大幅にコストアップを招くことになる。このため、上記埋込型の場合には、寸法公差を改善しないままの磁石(b)を、上記のような不具合を生じさせることなく挿入部(c)内に挿入して保持できるようにする工夫が必要となる。
【0004】
そこで、従来では、例えば特開平5−83892号公報に記載されているように、回転子コアの各挿入部内周側の位置に該挿入部に開放されかつ軸方向に延びる断面U字状の溝をそれぞれ設けておき、上記各挿入部内に永久磁石を挿入した後、上記溝内に樹脂材を射出成形し、その樹脂材を永久磁石及び回転子コア間の隙間に充填して硬化させるようにすることで、上記永久磁石を、その寸法公差によるばらつきに拘らず、圧入することなく挿入部内に挿入できかつ保持できようになされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一般に、上記回転子コアは、各々、コア金型により所定形状に打ち抜かれてなる多数枚の積層板を回転子の軸方向に積層して一体化することで形成される。したがって、永久磁石の断面形状が変更される場合には、それに合わせて積層板の形状も変更する必要があるために、高いコストをかけて新たにコア金型を作製しなければならない。
【0006】
その際に、上記従来例では、永久磁石及び回転子コア間の隙間に樹脂材を注入するようにしているので、予め挿入部の断面形状を永久磁石の断面形状よりも大きくしておけば、樹脂材の注入量の増減により永久磁石の断面形状に対応することができ、よって、同じコア金型を使用できて大幅なコストアップを回避することができる。
【0007】
しかしながら、上記従来例では、樹脂材注入用の溝が永久磁石と回転子コアとの間の半径方向(磁極方向)に位置していることから、その溝により磁気抵抗が増大して主磁束が低下し易くなるという問題がある。この磁束低下分を補おうとすれば、より大きな磁石が必要となり、したがって、結果的にコストアップを招くことになる。
【0008】
この発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、回転子コアの各挿入部にそれぞれ永久磁石が埋め込まれてなる埋込型のブラシレスDCモータにおいて、永久磁石及び回転子コア間の隙間に充填材を充填して永久磁石を保持させるようにする際に、その充填位置を見直すことで、永久磁石の幅寸法が変更される場合に主磁束の低下を招くことなく同じコア金型を使用できるようにし、もって、永久磁石の形状変更に伴うコストアップの幅が小さく抑えられるようにすることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、この発明では、挿入部の周方向の寸法を永久磁石の幅寸法よりも大きくしておくことで、永久磁石の幅寸法の変更に対応できるようにする一方、上記永久磁石の周方向両側方に形成される隙間に充填材を介在させることで、永久磁石をその幅寸法の変更や寸法公差によるばらつきに拘らず挿入部内に保持できるようにした。
【0010】
具体的に、本発明では、図2に示すように固定子コア(32)に固定子巻線部(33)が配設されてなる略円筒形状の固定子(31)と、この固定子(31)内に回転可能に配置されていて、図4に示すように、各々、回転子コア(42)を軸方向に貫通しかつ略周方向に延びるスロット状に設けられた複数の挿入部(43),(43),…内にそれぞれ板状の永久磁石(44),(44),…が埋め込まれてなる回転子(41)とを備えたブラシレスDCモータを対象とする。
【0011】
このブラシレスDCモータでは、図1及び図6に示すように、上記各挿入部(43)の周方向の寸法を上記各永久磁石(44)の周方向の寸法よりも大きくしておくことで、上記各永久磁石(44)の周方向両側方にそれぞれ軸方向に延びる隙間が形成されるようにする。その上で、上記各隙間に、その隙間の軸方向の少なくとも一部に充填されるように溶融された状態で固化した非磁性体の充填材(48)をそれぞれ配置し、それら充填材(48),(48),…により各永久磁石(44)を各々の挿入部(43)内に保持させるようにする。
【0012】
上記の構成において、回転子コア(42)の各挿入部(43)内にそれぞれ永久磁石(44),(44),…が挿入された状態で、それら各永久磁石(44)の周方向両側方には、軸方向に延びる両側1対の隙間が回転子コア(42)との間に形成されている。よって、永久磁石(44)の幅寸法の変更や寸法公差によるばらつきがその両側の隙間により吸収されるので、永久磁石(44)の幅寸法が変更される場合に同じコア金型を使用することができるようになり、その分だけ永久磁石(44)の形状変更に伴うコストアップの幅は小さく抑えられる。
【0013】
一方、上記各隙間には、その隙間の軸方向の少なくとも一部に充填されるように溶融された状態で固化した充填材(48)がそれぞれ配置されている。よって、上記各永久磁石(44)は、その幅寸法の変更や寸法公差によるばらつきに拘らず上記充填材(48),(48),…により挿入部(43)内に保持される。
【0014】
このとき、上記充填材(48),(48),…は、各永久磁石(44)の周方向両側の隙間に位置しているので、永久磁石(44)及び回転子コア(42)間に従来のような半径方向の隙間(溝)を設けておく必要はなく、そのような隙間により磁気抵抗が増加することに起因する主磁束の低下は招かない。したがって、そのような主磁束の低下を補うために、より大きな永久磁石が必要となって結果的にコストをアップさせるという事態も招かない。そして、上記充填材(48)は非磁性体であるので、その充填材(48)が配置されたことに起因する性能・減磁耐力の低下は生じない。
【0015】
また、上記充填材(48),(48),…は、永久磁石(44)及び回転子コア(42)間の周方向の隙間に充填されているので、DCモータ(30)の起動時、停止時、負荷の急変時等における永久磁石(44)の周方向のぐらつきが各充填材(48)により抑えられ、そのようなぐらつきに起因する永久磁石(44)の破損は少なくなる。さらに、永久磁石(44)を挿入する際に、形状変更や、寸法公差によるばらつきにも拘らず、磁石(44)を大きな力で圧入させる必要がないので、そのような圧入による磁石(44)の欠けや傷、ないし回転子コア(42)の変形による磁気騒音やトルクリプル等の発生は回避され、また挿入作業自体が容易化される。
【0016】
尚、上記各挿入部(43)内における永久磁石(44)の半径方向の保持については、充填材(48),(48),…のみによっては十分に行えないとしても、モータ(30)の運転時に回転子(41)の回転により生じる遠心力で各永久磁石(44)が回転子コア(42)に対し半径方向外方に向けて押し付けられるようになるので、実用上、支障は生じない。
【0017】
更に、本発明が対象とするブラシレスDCモータについては、充填材(48),(48),…を、加熱されることにより溶融する一方、冷却されることにより固化するもの(例えば、はんだ等)で構成するようにする。
【0018】
上記の構成において、充填材(48),(48),…は、加熱されることにより溶融する一方、冷却されることにより固化するので、充填材(48),(48),…の溶融固化作用が具体的にかつ効率よく営まれる。
【0019】
本発明では、上記ブラシレスDCモータの永久磁石保持方法として、図5及び図6に示すように、各永久磁石(44)の周方向両側方の隙間に挿入可能な形状に設けられた充填材(48),(48),…を用いることとする。そして、上記各隙間に上記充填材(48),(48),…を介在させた後、回転子コア(42)を加熱することにより上記充填材(48),(48),…を溶融させるようにする。
【0020】
上記の構成において、充填材(48),(48),…は、各隙間に介在させられた後に溶融されるので、溶融状態の充填材(48),(48),…を各隙間に流し込んで充填させるようにする場合に比べて作業性は向上する。尚、この場合に、上記充填材(48),(48),…は溶融前の段階で各隙間毎に1つの塊をなしている必要はなく、例えば複数の小片や、粒体、粉体等であってもよい。
【0021】
そして、請求項1の発明では、図8及び図9に示すように、回転子(41)の軸心部(41a)に、回転軸(8)が焼嵌めにより回転一体に嵌挿固定されるようになっている場合に、溶融温度が上記回転軸(8)の焼嵌め温度よりも低い充填材(48),(48),…を用いることとする。そして、上記回転子(41)を焼嵌め温度に加熱することにより上記充填材(48),(48),…を溶融させるようにする。
【0022】
上記の構成において、充填材(48),(48),…は、回転子(41)に回転軸(8)を焼嵌めする際に該回転子(41)に対して行われる加熱により溶融する。よって、上記充填材(48),(48),…を溶融させるための専用の加熱工程及び加熱手段が不要であるので、工数及び設備の増加が抑えられ、永久磁石(44)の形状変更に伴うコストアップの幅はさらに抑えられる。
【0023】
また、請求項2の発明では、図6に示すように、各永久磁石(44)両側の隙間に介在する状態で該永久磁石(44)の周方向の移動を規制する形状に設けられた充填材(48),(48),…を用いることとする。そして、上記充填材(48),(48),…により各永久磁石(44)の周方向の移動を規制した状態で、それら充填材(48),(48),…を溶融させるようにする。
【0024】
上記の構成において、充填材(48),(48),…が溶融される前の段階では、それら充填材(48),(48),…により各挿入部(43)内における各々の永久磁石(44)の周方向の位置決めがなされる。よって、上記各永久磁石(44)を充填材(48),(48),…により保持させようとする際に、その永久磁石(44)の周方向の位置決めを行うための専用の手段は不要となり、その分だけ永久磁石(44)の形状変更に伴うコストアップの幅は一段と抑えられる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図2は、この発明の実施形態に係るブラシレスDCモータ(30)が内蔵された冷媒回路用圧縮機の全体構成を示し、この圧縮機は図外の冷媒回路に介設されて冷媒を圧縮して吐出するために用いられる。
【0027】
図2において、(1)は上下方向に延びる密閉円筒状に設けられたケーシングであり、このケーシング(1)の上端部にはケーシング(1)内外を連通する吐出管(2)がその内端部をケーシング(1)内上端の中心部に位置付けた状態で気密状に挿通されている。
【0028】
また、ケーシング(1)内の下部には、冷媒ガスを吸い込んで圧縮した後にケーシング(1)内に吐出する圧縮機構(3)が嵌装されている。この圧縮機構(3)は、上下方向に並設された円盤状の3つのサイドハウジング(4),(4),…と、これらサイドハウジング(4),(4),…間に気密状に挟持された円環状の2つのローラハウジング(5),(5)とからなるハウジング部を備えており、図3に示すように、上記各ローラハウジング(5)内には円筒状のローラ(6)が上記隣り合うサイドハウジング(4),(4)間に位置する状態で配設されている。
【0029】
上記サイドハウジング(4),(4),…の中心部には、上下方向に延びるクランク軸(8)が気密状に貫通されている。このクランク軸(8)は、その回転軸心からそれぞれ偏心してなる断面円形状の上下1対の偏心部(8a),(8a)を有する。その際に、両偏心部(8a),(8a)は、回転軸心を挟んで互いに逆の方向に偏心している。上記各ローラ(6)は、それら各々の偏心部(8a)に該偏心部(8a)の偏心軸心回りに回動可能に外嵌合されていて、その外周面をローラハウジング(5),(5)の内周面に接触させながらクランク軸(8)の回転軸心回りを公転するようになされている。
【0030】
上記各ローラハウジング(5)内周面の所定部位には、上下方向に延びる凹溝部(5a)が形成されている。この凹溝部(5a)には、直径方向に貫通しかつ上下方向に延びるスリット状に切り欠かれたブレード嵌挿部(9a)を有する円柱状の揺動軸(9)が、上下方向の軸心をもって回動可能に支持されている。一方、各ローラ(6)の外周面には板状のブレード(10)が一体に突設されている。このブレード(10)は、上記揺動軸(9)のブレード嵌挿部(9a)に嵌挿されてその嵌挿方向に摺動可能に保持されており、このことで上記各ローラ(6)の公転運動に伴ってそのブレード(10)を揺動軸(9)の軸心回りに揺動させるようになっている。そして、このブレード(10)により、各ローラ(6)の外周面、各ローラハウジング(5)の内周面及び上下両側のサイドハウジング(4),(4)に囲まれてなる断面三日月状の空間(11)が2つの作動室(12),(12)に区画されている。
【0031】
上記ローラハウジング(5)には、上記凹溝部(5a)(ブレード(10)の位置)を挟んで周方向の両側に吸入口(13)及び吐出口(14)が開口されている。吸入口(13)は、ケーシング(1)の側壁を貫通する吸入管(15)の下流端部に連通しており、この各吸入管(15)の上流端部は、ケーシング(1)の側方に配置されていて該ケーシング(1)に一体に固定されたアキュムレータ(24)に接続されている。一方、吐出口(14)の出口側はケーシング(1)内部に開口されていて、そこにはリード弁からなる逆止弁としての吐出弁(16)が配設されている。図3中、(21)は吐出弁(16)の最大開度を規制するストッパである。そして、各ローラ(6)の公転運動により、アキュムレータ(24)内の低圧の冷媒ガスを吸入管(15)及び吸入口(13)を経て各作動室(12)に吸い込み、その冷媒ガスをローラ(6)の公転運動に伴う作動室(12)の容積減少により圧縮した後、吐出口(14)からケーシング(1)内に吐出してケーシング(1)内圧力を高圧とし、このケーシング(1)内の高圧の冷媒ガスを吐出管(2)からケーシング(1)外に吐出するようになっている。尚、図示は省略するが、ケーシング(1)内には上記冷媒ガスの吐出温度が所定値(例えば150℃)に達したときに圧縮機の作動を停止させる安全装置が配置されている。
【0032】
上記クランク軸(8)における各偏心部(8a)の外周面、上側偏心部(8a)の上側に位置するクランク軸(8)の外周面、及び下側偏心部(8a)の下側に位置するクランク軸(8)の外周面の各々には、それぞれ潤滑油吐出孔(17),(17),…が開口されている。この各潤滑油吐出孔(17)は、クランク軸(8)の軸心部を通るように設けられていてその下端がクランク軸(8)の下端面に開放されてなる図外の潤滑油通路にそれぞれ連通している。一方、ケーシング(1)内の底部には油溜り部(18)が設けられており、この油溜り部(18)に溜められている潤滑油に上記クランク軸(8)の下端が浸漬されるようになされている。そして、クランク軸(8)の回転に伴い、その遠心力を利用して、油溜り部(18)の潤滑油を潤滑油通路内に吸い込んで各潤滑油吐出孔(17),(17),…から圧縮機構(3)の摺動部分に供給するようになされている。この潤滑に供された潤滑油の一部は、圧縮機構(3)の吐出口(14)からケーシング(1)内に吐出される冷媒ガスに混じって吐出される。
【0033】
上記ケーシング(1)内の上部には、上記圧縮機構(3)を駆動するためのブラシレスDCモータ(30)が上下方向の回転軸心をもって嵌装されている。このブラシレスDCモータ(30)は、ケーシング(1)の内壁面に固定された略円筒状の固定子(31)と、この固定子(31)内に回転可能に配置されかつ上記クランク軸(8)に回転一体に連結された回転子(41)とを備えてなっている。
【0034】
上記固定子(31)は、多数枚の積層板をDCモータ(30)の軸方向(ケーシング(1)の上下方向)に積層して一体化してなる略円筒状の固定子コア(32)と、この固定子コア(32)の内周側に配置された3相の巻線からなる固定子巻線部(33)とを有する。固定子巻線部(33)の3相の巻線は、その一端同士が互いに接続されて中性点を形成している一方、各巻線の他端が入力端子とされている。すなわち、3相の巻線はY結線されていて、各巻線の入力端子に印加される電圧を順に切り換えることにより、固定子(31)が回転磁界を発生するようになされている。尚、図2中、(33a)は固定子巻線部(33)が固定子コア(32)の上下両端部からそれぞれ上下方向に食み出たコイルエンドである。また、(19)はケーシング(1)の上端部外面に取り付けられた電源接続部であり、この電源接続部(19)は、上記各巻線に接続された3本の電源入力線、及び各巻線の中性点に接続された1本の信号出力線がそれぞれ接続される4つの端子(20),(20),…(図2では、3つの端子のみが見えている)を有する。上記信号出力線は、回転子(41)による回転方向の磁極位置を検出するため等に使用される。
【0035】
一方、上記回転子(41)は、図4に示すように、多数枚の積層板を軸方向に積層してなる略円柱状の回転子コア(42)と、この回転子コア(42)内に埋め込まれた平板状の4つの永久磁石(44),(44),…とを有する。回転子コア(42)の軸方向両端面には、円板状をなす1対の端板(45),(45)が4本の締結リベット(49),(49),…により一体に接合されている。尚、図4中、(41b)は上記各々の締結リベット(49)の挿通孔である。回転子(41)の軸心部には、軸方向に貫通する軸挿通孔(41a)が形成されおり、この軸挿通孔(41a)に上記クランク軸(8)の上端部が焼嵌め(焼嵌め温度は例えば250〜300℃)により嵌挿固定されている。
【0036】
また、上記回転子コア(42)の周縁部には、各々、軸方向に貫通しかつ半径方向と直交する方向に延びる断面矩形スロット状をなす4つの挿入部(43),(43),…が上記軸挿通孔(41a)の周りで正方形の各辺部をなすように配置されて形成されていて、この各挿入部(43)内にそれぞれ上記永久磁石(44),(44),…が埋め込まれている。さらに、回転子コア(42)には、該コア(42)を軸方向に貫通しかつ各挿入部(43)の両側部からそれぞれ半径方向外方に向かって延びるスリット状のバリア部(46),(46),…が設けられている。この各バリア部(46)は、回転子コア(42)における磁束の短絡を防止する機能を営む。
【0037】
上記ブラシレスDCモータ(30)の回転子(41)の上端部には、円板状の油分離板(47)が上記リベット(49),(49),…の締結により回転一体に取り付けられている。この油分離板(47)は、回転子(41)の上端から上方に所定距離だけ離れた状態、つまり固定子巻線部(33)の上側コイルエンド(33a)に対向した状態で固定されており、圧縮機構(3)の吐出口(14)から吐出ガスと共に潤滑油がケーシング(1)内に吐出されて吐出管(2)に向かうとき、その潤滑油が吐出管(2)の側に流れるのを、回転子(41)と一体に回転する油分離板(47)により阻止するようにしている。
【0038】
そして、この実施形態では、上記ブラシレスDCモータ(30)の回転子(41)において、図1に示すように、上記各挿入部(43)の周方向の寸法は、上記各永久磁石(44)の周方向の寸法よりも大きくされており、このことで、上記各永久磁石(44)の周方向両側方にそれぞれ軸方向に延びる隙間が形成されるようになっている。その上で、上記各隙間には、その隙間の軸方向の少なくとも一部に充填されるように加熱溶融された状態で固化した非磁性体の充填材としてのはんだ(48)がそれぞれ配置されており、それらはんだ(48),(48),…により各永久磁石(44)を各々の挿入部(43)内に保持するようになっている。また、上記はんだ(48),(48),…の溶融温度は、上述したクランク軸(8)の焼嵌め温度(この場合は250〜300℃)よりも低くかつ冷媒ガスの許容温度(この場合は150℃)よりも高く(例えば180〜190℃)されている。
【0039】
ここで、上記回転子コア(42)の各挿入部(43)内にそれぞれ永久磁石(44),(44),…を保持させる方法について説明する。
【0040】
先ず、図5及び図6に示すように、各バリア部(46)から各々の挿入部(43)との接続部分に亘る隙間内に挿入できかつ挿入された状態で挿入部(43)内の永久磁石(44)の周方向の移動を規制できる1枚の平板状にそれぞれ設けられたはんだ(48),(48),…を用いる。そして、各永久磁石(44)を各々の挿入部(43)内に、また上記はんだ(48),(48),…を各々の隙間内にそれぞれ挿入し、周方向両側のはんだ(48),(48)により各挿入部(43)内における各々の永久磁石(44)の位置決めを行う。
【0041】
次に、図7に示すように、回転子コア(42)の両端面に端板(45),(45)を接合して回転子(41)を得た後、この回転子(41)を、その軸方向が上下方向となる姿勢の状態でクランク軸(8)の焼嵌め温度である250〜300℃に加熱する。これにより、各はんだ(48)は、図1に示すように、各バリア部(46)から各々の挿入部(43)との接続部に亘る隙間の下側部分に充填されるように溶融する。一方、図8に示すように、上記回転子(41)の軸挿通孔(41a)にクランク軸(8)の上端部を下方から嵌挿する。
【0042】
そして、上記回転子(41)を冷却することにより、はんだ(48),(48),…を回転子コア(42)及び各々の永久磁石(44)にそれぞれ密着した状態で固化させ、このことで、各挿入部(43)内に各々の永久磁石(44)を保持させることができ、一方、図9に示すように、回転子(41)にクランク軸(8)を回転一体に連結固定する。尚、上記の説明では、永久磁石(44)を挿入部(43)内に挿入すると表現しているが、永久磁石(44)は、挿入される段階で既に着磁されているものであってもよいし、挿入された後に例えば固定子巻線部(33)に印加して着磁されるものであってもよい。特に希土類磁石等のように強力な磁力を発生するものの場合には、挿入時の作業性や磁石(44)の回転子コア(42)との接触等を考慮すると、挿入後に着磁するのが望ましい。
【0043】
したがって、この実施形態によれば、埋込型ブラシレスDCモータ(30)において、回転子コア(42)の各挿入部(43)内にそれぞれ永久磁石(44),(44),…が挿入された状態で、それら各永久磁石(44)の周方向両側方に軸方向に延びる両側1対の隙間が回転子コア(42)との間に形成されるようにしたので、永久磁石(44)の幅寸法の変更や寸法公差によるばらつきをその両側の隙間により吸収することができる。よって、永久磁石(44)の幅寸法が変更される場合に、同じコア金型を使用することができるようになり、その分だけ永久磁石(44)の形状変更に伴うコストアップの幅を小さく抑えることができる。
【0044】
一方、上記各隙間には、その隙間の軸方向の少なくとも一部(この例では下側部分)に充填されるように加熱溶融された状態で固化したはんだ(48),(48),…を配置するようにしたので、上記各永久磁石(44)を、その幅寸法の変更や寸法公差によるばらつきに拘らず上記はんだ(48),(48),…により挿入部(43)内に保持させることができる。また、各はんだ(48)を、各々の隙間に介在させた状態で加熱溶融するようにしたので、溶融状態のはんだ(48)を各々の隙間に流し込むようにする場合に比べて、その作業性を大幅に向上させることができる。
【0045】
このとき、上記各永久磁石(44)及び回転子コア(42)間に、従来の技術の項で説明したような半径方向の隙間(溝)を設けておく必要がないので、そのような隙間により磁気抵抗が増加することに起因する主磁束の低下を招くことはない。したがって、そのような主磁束の低下を補うために、より大きな永久磁石が必要となって結果的にコストをアップさせるという事態も招かない。そして、はんだ(48)が非磁性体であるので、上記のようなはんだ(48)を配置したことに起因する性能・減磁耐力の低下は生じない。
【0046】
その際に、上記各挿入部(43)内における永久磁石(44)の半径方向の保持については、はんだ(48),(48),…のみによっては十分に行えないとしても、モータ(30)の運転時に回転子(41)の回転により生じる遠心力で上記各永久磁石(44)が回転子コア(42)に対し半径方向外方に向けて押し付けられるようになるので、実用上、支障は生じない。
【0047】
さらに、上記はんだ(48),(48),…を、回転子(41)に回転軸(8)を焼嵌めする際に該回転子(41)に対して行われる加熱を利用して溶融するようにしたので、上記はんだ(48),(48),…を加熱溶融するための専用の溶融工程及び加熱手段が不要であり、工数及び設備の増加を抑えることができ、よって、永久磁石(44)の形状変更に伴うコストアップの幅をさらに抑えることができる。
【0048】
また、上記はんだ(48),(48),…が溶融される前の段階では、それらはんだ(48),(48),…により各挿入部(43)内における各々の永久磁石(44)の周方向の位置決めが行えるようにしたので、各永久磁石(44)をはんだ(48),(48),…により保持させようとする際に、各永久磁石(44)の周方向の位置決めを行うための専用の手段は不要となり、その分だけ、永久磁石(44)の形状変更に伴うコストアップの幅を一段と抑えることができるようになる。
【0049】
その上、上記はんだ(48),(48),…が永久磁石(44)及び回転子コア(42)間の周方向の隙間に充填されていることで、DCモータ(30)の起動時、停止時、負荷の急変時等における永久磁石(44)の周方向のぐらつきを抑えることができ、そのようなぐらつきに起因する永久磁石(44)の破損を少なくすることができる。さらに、永久磁石(44)を挿入する際に、形状変更や、寸法公差によるばらつきにも拘らず、磁石(44)を大きな力で圧入させる必要がないので、そのような圧入による磁石(44)の欠けや傷、ないし回転子コア(42)の変形による磁気騒音やトルクリプル等の発生を回避でき、また挿入作業自体を容易なものとすることができる。
【0050】
尚、上記実施形態では、各挿入部(43)に対し、はんだ(48),(48)を永久磁石(44)と共に挿入するようにしているが、永久磁石(44)を先に、あるいははんだ(48),(48)を先に挿入するようにしてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、回転子コア(42)にバリア部(46),(46)…を有するブラシレスDCモータ(30)について説明したが、そのようなバリア部(46),(46),…を持たないブラシレスDCモータに、この発明を適用することもできる。
【0052】
さらに、上記実施形態では、冷媒回路用圧縮機に内蔵されたブラシレスDCモータ(30)について説明したが、上記ブラシレスDCモータ(30)を圧縮機以外の装置に用いることができるのは勿論である。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明が対象とするブラシレスDCモータによれば、回転子コアの各挿入部内にそれぞれ永久磁石が埋め込まれてなる埋込型ブラシレスDCモータにおいて、上記各挿入部の周方向の寸法を各永久磁石の周方向の寸法よりも大きくすることで、上記各永久磁石の周方向両側方にそれぞれ軸方向に延びる隙間が形成されるようにし、その上で、上記各隙間に、該隙間の軸方向の少なくとも一部に充填されるように溶融された状態で固化した非磁性体の充填材を配置し、それら充填部材により上記各永久磁石を各々の挿入部内に保持させるようにしたので、上記永久磁石の周方向の寸法(幅寸法)が変更される場合に主磁束の低下を招くことなく同じコア金型を使用でき、永久磁石の形状変更に伴うコストアップの幅を小さく抑えることができる。
【0054】
また、このブラシレスDCモータによれば、上記充填材を、加熱されることにより溶融する一方、冷却されることにより固化するもので構成するようにしたので、上記請求項1の発明による効果を具体的にかつ効率よく得ることができる。
【0055】
本発明によれば、上記ブラシレスDCモータの永久磁石保持方法として、各永久磁石の周方向両側方の隙間に挿入可能な形状に設けられた充填材を用い、それら充填材を上記各隙間に介在させた後、回転子コアを加熱して上記充填材を溶融させるようにしたので、上記隙間に溶融状態の充填材を流し込むようにする場合に比べて作業性を向上させることができる。
【0056】
そして、請求項1の発明によれば、上記回転子の軸心部に、回転軸が焼嵌めにより回転一体に嵌挿固定されるようになっている場合に、溶融温度が上記焼嵌め温度よりも低い充填材を用い、焼嵌め時の加熱温度により充填材を溶融させるようにしたので、上記充填材を加熱溶融するための溶融工程及び加熱手段が不要で工数及び設備の増加を抑えることができ、永久磁石の形状変更に伴うコストアップの幅をさらに抑えられるようになる。
【0057】
また、請求項2の発明によれば、上記隙間に介在する状態で永久磁石の周方向の移動を規制する形状に設けられた充填材を用い、上記充填材により各永久磁石の周方向の移動を規制した状態で該充填材を溶融させるようにしたので、上記永久磁石を挿入部内に保持させる際に、その永久磁石の周方向の位置決めを行うための専用の手段を不要とすることができ、永久磁石の形状変更に伴うコストアップの幅を一段と抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施形態に係るブラシレスDCモータの回転子コアにおける永久磁石の保持構造を示す図6のI−I線断面図である。
【図2】 ブラシレスDCモータが内蔵された冷媒回路用圧縮機を示す縱断面図である。
【図3】 図2のIII −III 線断面図である。
【図4】 ブラシレスDCモータの回転子の構成を示す分解斜視図である。
【図5】 回転子コアの挿入部及びバリア部内に永久磁石及びはんだを挿入する工程を示す斜視図である。
【図6】 回転子コア内に永久磁石及びはんだが挿入された状態を示す横断平面図である。
【図7】 回転子の加熱工程を示す斜視図である。
【図8】 回転子の軸挿通孔にクランク軸の上端部を嵌挿固定する工程を示す斜視図である。
【図9】 回転子にクランク軸が嵌挿固定された状態を示す斜視図である。
【図10】 表面型のブラシレスDCモータを模式的に示す横断面図である。
【図11】 埋込型のブラシレスDCモータを模式的に示す横断面図である。
【符号の説明】
(30) ブラシレスDCモータ
(31) 固定子
(32) 固定子コア
(33) 固定子巻線部
(41) 回転子
(41a) 軸挿通孔(軸心部)
(42) 回転子コア
(43) 挿入部
(44) 永久磁石
(48) はんだ(充填材)
Claims (2)
- 固定子コア(32)に固定子巻線部(33)が配設されてなる略円筒形状の固定子(31)と、該固定子(31)内に回転可能に配置され、各々、回転子コア(42)を軸方向に貫通しかつ略周方向に延びるスロット状に設けられた複数の挿入部(43),(43),…内にそれぞれ板状の永久磁石(44),(44),…が埋め込まれてなる回転子(41)とを備え、
上記各挿入部(43)の周方向の寸法を各永久磁石(44)の周方向の寸法よりも大きくして、上記各永久磁石(44)の周方向両側方にそれぞれ軸方向に延びる隙間を形成し、
上記各隙間に、該隙間の軸方向の少なくとも一部に充填されるように溶融された状態で固化した非磁性体の充填材(48)をそれぞれ配置し、
上記充填材(48),(48),…は、加熱されることにより溶融する一方、冷却されることにより固化するものであり、
上記各永久磁石(44)を、上記充填材(48),(48),…により各々の挿入部(43)内に保持させるようにしたブラシレスDCモータの永久磁石保持方法であって、
上記各永久磁石(44)の周方向両側方の隙間に挿入可能な形状に設けられた充填材(48),(48),…を用い、
上記各隙間に上記充填材(48),(48),…を介在させた後、
上記回転子コア(42)を加熱することにより上記充填材(48),(48),…を溶融させる一方、
上記回転子(41)の軸心部(41a)に、回転軸(8)が焼嵌めにより回転一体に嵌挿固定されるようになっており、
溶融温度が上記回転軸(8)の焼嵌め温度よりも低い充填材(48),(48),…を用い、
上記回転子(41)を焼嵌め温度に加熱することにより上記充填材(48),(48),…を溶融させる
ことを特徴とするブラシレスDCモータの永久磁石保持方法。 - 固定子コア(32)に固定子巻線部(33)が配設されてなる略円筒形状の固定子(31)と、該固定子(31)内に回転可能に配置され、各々、回転子コア(42)を軸方向に貫通しかつ略周方向に延びるスロット状に設けられた複数の挿入部(43),(43),…内にそれぞれ板状の永久磁石(44),(44),…が埋め込まれてなる回転子(41)とを備え、
上記各挿入部(43)の周方向の寸法を各永久磁石(44)の周方向の寸法よりも大きくして、上記各永久磁石(44)の周方向両側方にそれぞれ軸方向に延びる隙間を形成し、
上記各隙間に、該隙間の軸方向の少なくとも一部に充填されるように溶融された状態で固化した非磁性体の充填材(48)をそれぞれ配置し、
上記充填材(48),(48),…は、加熱されることにより溶融する一方、冷却されることにより固化するものであり、
上記各永久磁石(44)を、上記充填材(48),(48),…により各々の挿入部(43)内に保持させるようにしたブラシレスDCモータの永久磁石保持方法であって、
上記各永久磁石(44)の周方向両側方の隙間に挿入可能な形状に設けられた充填材(48),(48),…を用い、
上記各隙間に上記充填材(48),(48),…を介在させた後、
回転子コア(42)を加熱することにより上記充填材(48),(48),…を溶融させる一方、
上記各永久磁石(44)両側の隙間に介在する状態で該永久磁石(44)の周方向の移動を規制する形状に設けられた充填材(48),(48),…を用い、
上記充填材(48),(48),…により各永久磁石(44)の周方向の移動を規制した状態で該充填材(48),(48),…を溶融させる
ことを特徴とするブラシレスDCモータの永久磁石保持方法。
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-
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