JP3641068B2 - エナミン誘導体およびそれを用いた電子写真感光体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、正孔輸送剤として好適に用いられる新規なエナミン誘導体と、静電式複写機やレーザービームプリンタ等の画像形成装置に用いられる電子写真感光体に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記画像形成装置においては、当該装置に用いられる光源の波長領域に感度を有する種々の有機感光体が使用されている。この有機感光体は、従来の無機感光体に比べて製造が容易であり、電荷輸送剤、電荷発生剤、結着樹脂等の感光体材料の選択肢が多様で、機能設計の自由度が高いという利点を有することから、近年、広く用いられている。
【0003】
有機感光体には、電荷輸送剤を電荷発生剤とともに同一の感光層中に分散させた単層型感光体と、電荷発生剤を含有する電荷発生層と電荷輸送剤を含有する電荷輸送層とを積層した積層型感光体とがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記有機感光体において電荷輸送剤として使用される正孔輸送剤としては、従来より式(4) :
【0005】
【化4】
【0006】
で表されるエナミン誘導体が知られている。
しかし、上記エナミン誘導体(4) は、窒素原子に隣接した炭素−炭素二重結合の反応性が高いため、帯電時に発生するオゾンや照射光によって分解されやすい。
このため、上記エナミン誘導体(4) を正孔輸送剤として使用した電子写真感光体は、帯電、露光、除電の工程を繰り返すことによって帯電電位が低下したり、残留電位が上昇してしまい、その結果、感度が低下するという問題が生じる。
【0007】
一方、特開平2−306248号公報には、一般式(5) :
【0008】
【化5】
【0009】
(式中、Rはアルキル基、アルコキシ基等を示す。)
に示すように、エナミン誘導体の炭素−炭素二重結合として、不飽和環式炭化水素基の有する二重結合を利用したエナミン誘導体が開示されている。
かかるエナミン誘導体(5) は、前記炭素−炭素二重結合の部分が環構造となっているため、二重結合部分の反応性が低くなると推測される。
【0010】
しかしながら、上記エナミン誘導体(5) を正孔輸送剤として使用しても、繰り返しの使用による感度の低下を十分に抑制することができない。
そこで本発明の目的は、高感度で、かつ繰り返し使用しても感度が低下することのない電子写真感光体を得ることのできる新規な正孔輸送剤と、これを用いた電子写真感光体を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、一般式(1) :
【0012】
【化6】
【0013】
(式中、Xは基:
【0014】
【化7】
【0015】
または基:
【0016】
【化8】
【0017】
を示し、Arは、アルキル基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、または、アルキル基、アルコキシ基およびハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1つの置換基を有してもよい複素環式基を示す。R1、R2およびR3は同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはアラルキル基を示し、a、bおよびcは同一または異なって0〜4の整数を示す。)
で表されるエナミン誘導体は、優れた正孔輸送能と、オゾンや照射光に対する安定性とを有しており、電子写真感光体における正孔輸送剤として好適に用いられるという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
また、本発明の電子写真感光体は、導電性基体上に感光層を設けたものであって、前記感光層が、上記一般式(1) で表されるエナミン誘導体を含有することを特徴とする。
上記本発明の電子写真感光体は、本発明のエナミン誘導体(1) を感光層中に含有させていることから、電荷発生剤で発生した電荷(正孔)を引き抜く作用が強まり、電荷発生剤の電荷発生効率が向上するとともに、帯電、露光、除電の工程を繰り返したときの帯電電位の低下と残留電位の上昇とを抑制できる。
【0019】
この結果、本発明の電子写真感光体によれば、従来のエナミン誘導体(4) または(5) を正孔輸送剤として使用した感光体よりも、高感度で、かつ繰り返し安定性に優れた感光体を得ることができる。
上記一般式(1) で表されるエナミン誘導体は、下記一般式(2) および(3) で表される誘導体を包含している。
【0020】
【化9】
【0021】
(式中、Ar、R1 〜R3 およびa〜cは前記と同じである。)
【0022】
【発明の実施の形態】
上記一般式(1) 中、R1 〜R3 に相当する基としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル等の炭素数が1〜6のアルキル基、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ等の炭素数が1〜6のアルコキシ基、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、フルオレニル、ビフェニリル、o−テルフェニル等のアリール基およびベンジル、フェネチル、ベンズヒドリル、トリチル等のアラルキル基があげられる。上記置換基R1 〜R3 の数を示す符号a〜cが2以上のとき、各置換基は互いに異なっていてもよい。すなわち、例えば基R1 の数を示す符号aが2のとき、同一のベンゼン環にメチル基とエチル基、メチル基とエトキシ基のように異なる基が置換してもよい。
【0023】
また、一般式(1) 中、Arに相当する基としては、例えばフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、フルオレニル、ビフェニリル等の芳香族炭化水素基またはフリル、チエニル、ピロリル、ピリジル、キノリル、インドリル、ベンゾチエニル等の複素環式基があげられる。なお、前記芳香族炭化水素基および複素環式基は、その任意の位置に置換基を有してもよい。かかる置換基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基のほか、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子があげられる。
【0024】
一般式(2) および(3) で表されるエナミン誘導体の具体例としては、例えば下記一般式(21)〜(22)および(31)〜(32)があげられる。
【0025】
【化10】
【0026】
(式中、R1 〜R3 およびa〜cは前記と同じである。RA は、アルキル基、アルコキシ基またはハロゲン原子を示す。)
一般式(2) で表されるエナミン誘導体は、例えば下記反応行程式(I) に示すように、ジフェニルアミン誘導体(6) と2−フェニルシクロヘキサノン誘導体(7) とを反応させて合成される。
【0027】
反応行程式(I) :
【0028】
【化11】
【0029】
(式中、Ar、R1 、R2 、aおよびbは前記と同じである。)
また、一般式(3) で表されるエナミン誘導体は、例えば下記反応行程式(II)に示すように、ジフェニルアミン誘導体(6) とα−テトラロン誘導体(8) とを反応させて合成される。
反応行程式(II):
【0030】
【化12】
【0031】
(式中、Ar、R1 、R3 、aおよびcは前記と同じである。)
上記エナミン誘導体(2) ,(3) の合成反応は、一般に、トルエン、キシレン、酢酸等の有機溶媒中で、p−トルエンスルホン酸、ショウノウスルホン酸等の酸触媒の存在下にて行われる。
上記一般式(1) で表されるエナミン誘導体は、前述のように、高い正孔輸送能を有することから、電子写真感光体における正孔輸送剤として好適に使用されるほか、太陽電池、エレクトロルミネッセンス素子等の種々の分野での利用が可能である。
【0032】
次に、本発明の電子写真感光体について詳細に説明する。
本発明の電子写真感光体は、前記一般式(1) で表されるエナミン誘導体の1種または2種以上を含有した感光層を、導電性基体上に設けたものである。感光層には、いわゆる単層型と積層型とがあるが、本発明はこのいずれにも適用可能である。
【0033】
単層型感光体は、導電性基体上に単一の感光層を設けたものである。この感光層は、一般式(1) で表されるエナミン誘導体(正孔輸送剤)、電荷発生剤、結着樹脂、さらに必要に応じて電子輸送剤を適当な溶媒に溶解または分散させ、得られた塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥させることで形成される。単層型感光体は、正帯電および負帯電のいずれの帯電型にも適用可能であるが、特に正帯電型で使用するのが好ましい。
【0034】
積層型感光体は、まず導電性基体上に、蒸着または塗布などの手段によって、電荷発生剤を含有する電荷発生層を形成し、次いでこの電荷発生層上に、一般式(1) で表されるエナミン誘導体(正孔輸送剤)と結着樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥させて電荷輸送層を形成することによって作製される。また、上記とは逆に、導電性基体上に電荷輸送層を形成し、その上に電荷発生層を形成してもよい。
【0035】
積層型感光体の感光層には、必要に応じて電子輸送剤を含有させてもよい。この場合、電子輸送剤は電荷発生層に含有させるのが一般的であるが、電荷輸送層に含有させてもよい。
次に、本発明の電子写真感光体に用いられる種々の材料について説明する。
《電荷発生剤》
本発明に用いられる電荷発生剤としては、例えばセレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、アモルファスシリコン等の無機光導電材料の粉末や、フタロシアニン系顔料、ナフタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、ビスアゾ系顔料、ジチオケトピロロピロール系顔料、スクアライン系顔料、アゾ系顔料、トリスアゾ系顔料、インジゴ系顔料、アズレニウム系顔料、シアニン系顔料、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、キナクリドン系顔料等があげられる。上記例示の電荷発生剤は、感光体が所望の領域に吸収波長を有するように、単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0036】
上記例示の電荷発生剤のうち、特に半導体レーザーなどの光源を使用したレーザービームプリンタやファクシミリ等のデジタル光学系の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えば無金属フタロシアニンやチタニルフタロシアニン等が好適に用いられる。
一方、ハロゲンランプ等の白色の光源を使用した静電式複写機等のアナログ光学系の画像形成装置には、可視領域に感度を有する感光体が必要となるため、例えばペリレン系顔料やビスアゾ系顔料等が好適に用いられる。
【0037】
《正孔輸送剤》
本発明の電子写真感光体においては、本発明のエナミン誘導体(1) のほかに、種々の正孔輸送剤を併用してもよい。かかる正孔輸送剤としては、例えばベンジジン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、ナフチレンジアミン誘導体、フェナントリレンジアミン誘導体、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール誘導体、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル誘導体、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、有機ポリシラン化合物、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、インドール誘導体、オキサゾール誘導体、イソオキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾール誘導体、トリアゾール誘導体等を用いることができる。
【0038】
《電子輸送剤》
本発明に用いられる電子輸送剤としては、例えばベンゾキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン誘導体、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、無水コハク酸、無水マレイン酸、ジブロモ無水マレイン酸等の種々の電子吸引性化合物があげられる。
【0039】
《結着樹脂》
上記各成分を分散させるための結着樹脂は、従来より感光層に使用されている種々の樹脂を使用することができる。例えばスチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、アルキド樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂;シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、その他架橋性の熱硬化性樹脂;エポキシアクリレート、ウレタン−アクリレート等の光硬化型樹脂等の樹脂が使用可能である。
【0040】
感光層には、上記各成分のほかに、電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、従来公知の種々の添加剤、例えば酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー、紫外線吸収剤等の劣化防止剤、軟化剤、可塑剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー等を配合することができる。また、感光層の感度を向上させるために、例えばテルフェニル、ハロナフトキノン類、アセナフチレン等の公知の増感剤を電荷発生剤と併用してもよい。
【0041】
単層型感光体において、電荷発生剤は、結着樹脂100重量部に対して0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部の割合で配合すればよい。本発明のエナミン誘導体(1) (正孔輸送剤)は、結着樹脂100重量部に対して20〜500重量部、好ましくは30〜200重量部の割合で配合すればよい。電子輸送剤を含有させる場合、電子輸送剤の割合を結着樹脂100重量部に対して5〜100重量部、好ましくは10〜80重量部とするのが適当である。また、単層型感光体における感光層の厚さは5〜100μm、好ましくは10〜50μmである。
【0042】
積層型感光体において、電荷発生層を構成する電荷発生剤と結着樹脂とは、種々の割合で使用することができるが、結着樹脂100重量部に対して電荷発生剤を5〜1000重量部、好ましくは30〜500重量部の割合で配合するのが適当である。電荷発生層に正孔輸送剤を含有させる場合は、正孔輸送剤の割合を結着樹脂100重量部に対して10〜500重量部、好ましくは50〜200重量部とするのが適当である。
【0043】
電荷輸送層を構成する正孔輸送剤と結着樹脂とは、電荷の輸送を阻害しない範囲および結晶化しない範囲で種々の割合で使用することができるが、光照射により電荷発生層で生じた電荷が容易に輸送できるように、結着樹脂100重量部に対して、本発明のエナミン誘導体(1) (正孔輸送剤)を10〜500重量部、好ましくは25〜200樹脂の割合で配合するのが適当である。電荷輸送層に電子輸送剤を含有させる場合は、電子輸送剤の割合を結着樹脂100重量部に対して5〜200重量部、好ましくは10〜100重量部とするのが適当である。
【0044】
積層型感光体における感光層の厚さは、電荷発生層が0.01〜5μm程度、好ましくは0.1〜3μm程度であり、電荷輸送層が2〜100μm、好ましくは5〜50μm程度である。
単層型感光体においては、導電性基体と感光層との間に、また積層型感光体においては、導電性基体と電荷発生層との間、導電性基体と電荷輸送層との間または電荷発生層と電荷輸送層との間に、感光体の特性を阻害しない範囲でバリア層が形成されていてもよい。また、感光体の表面には、保護層が形成されていてもよい。
【0045】
上記感光層が形成される導電性基体としては、導電性を有する種々の材料を使用することができ、例えば鉄、アルミニウム、銅、スズ、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、真鍮等の金属単体や、上記金属が蒸着またはラミネートされたプラスチック材料、ヨウ化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で被覆されたガラス等があげられる。
【0046】
導電性基体の形状は、使用する画像形成装置の構造に合わせて、シート状、ドラム状等のいずれであってもよく、基体自体が導電性を有するか、あるいは基体の表面が導電性を有していればよい。また、導電性基体は、使用に際して十分な機械的強度を有するものが好ましい。
前記感光層を塗布の方法により形成する場合には、前記例示の電荷発生剤、電荷輸送剤、結着樹脂等を適当な溶剤とともに、公知の方法、例えばロールミル、ボールミル、アトライタ、ペイントシェーカーあるいは超音波分散機等を用いて分散混合して分散液を調整し、これを公知の手段により塗布して乾燥させればよい。
【0047】
上記分散液を作るための溶剤としては、種々の有機溶剤が使用可能であり、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類;n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族系炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸メチルなどのエステル類;ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等があげられる。これらの溶剤は単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0048】
さらに、電荷輸送剤や電荷発生剤の分散性、感光層表面の平滑性を良くするために界面活性剤、レベリング剤等を使用してもよい。
【0049】
【実施例】
以下、本発明を合成例、実施例および比較例に基づいて説明する。
《エナミン誘導体の合成》
合成例1
N−ジフェニル−N−(3,4,5,6−テトラヒドロ−2−ビフェニリル)アミンの合成
ジフェニルアミン5g(29.5ミリモル)、2−フェニルシクロヘキサノン5.1g(29.3ミリモル)およびショウノウスルホン酸0.7g(3ミリモル)をトルエン150ミリリットルに溶解してフラスコに加え、フラスコにディーンスタークコレクタを取りつけて、還流下で約4時間反応させた。
【0050】
反応後、トルエン層を水洗し、硫酸ナトリウムで乾燥後、トルエンを留去した。さらに、残渣をシリカゲルカラムで精製(展開溶媒:クロロホルム−ヘキサン混合溶液)して、標記化合物(下記式(21-1)で表される化合物)5.7g(収率60%)を得た。
【0051】
【化13】
【0052】
融点:79〜83℃
元素分析結果
計算値(%) C:88.57% H:7.12% N:4.30%
実測値(%) C:88.51% H:7.15% N:4.29%
合成例2
N−ジフェニル−N−(3,4−ジヒドロ−1−ナフチル)アミンの合成
2−フェニルシクロヘキサノンに代えてα−テトラロン4.3g(29.4ミリモル)を用いたほかは、合成例1と同様にして反応および精製を行い、標記化合物(下記式(31-1)で表される化合物)3.9g(収率45%)を得た。
【0053】
【化14】
【0054】
融点:87〜90℃
元素分析結果
計算値(%) C:88.85% H:6.44% N:4.71%
実測値(%) C:88.66% H:6.44% N:4.70%
《電子写真感光体の製造》
実施例1〜4(デジタル光源用単層型感光体)
表1に示すように、電荷発生剤には、無金属フタロシアニン(CG1) またはチタニルフタロシアニン(CG2) を使用した。正孔輸送剤には、前記式(21-1)で表されるエナミン誘導体を使用した。電子輸送剤には、式(ET1) :
【0055】
【化15】
【0056】
で表されるジフェノキノン誘導体を使用した。なお、以下の表において、電荷発生剤、正孔輸送剤および電子輸送剤の種類はそれぞれの式番号または化合物に付した番号で示した。
上記電荷発生剤5重量部、正孔輸送剤100重量部、電子輸送剤30重量部および結着樹脂(ポリカーボネート)100重量部を溶媒(テトラヒドロフラン)800重量部とともにボールミルにて50時間混合分散させて、単層型感光層用の塗布液を作製した。次いでこの塗布液を導電性基材(アルミニウム素管)上にディップコート法にて塗布し、100℃で30分間熱風乾燥して、膜厚25μmの単層型感光層を有するデジタル光源用の単層型感光体を製造した。
【0057】
なお、実施例2および4については、電子輸送剤を配合しなかった。
上記実施例で得られた感光体について以下に記す試験を行い、各感光体の電気特性を評価した。
初期電気特性試験(I)
ジェンテック(GENTEC)社製のドラム感度試験機を用いて各感光体の表面に印加電圧を加え、その表面を+700±20Vに帯電させた後、表面電位Vo (V)を測定した。次いで、露光光源であるハロゲンランプの白色光からバンドパスフィルタを用いて取り出した波長780nm(半値幅20nm)、光強度10μJ/cm2 の単色光を感光体の表面に照射(照射時間1.5秒)して露光させ、露光開始から0.5秒経過した時点での表面電位を残留電位Vr (V)として測定した。
【0058】
繰り返し露光後の電気特性試験(I)
各感光体をレーザービームプリンタ(三田工業(株)製の型番TC−650)に使用して、10,000回の画像形成を行った。次いで、初期電気特性試験(I) と同様にして表面電位Vo (V)と残留電位Vr (V)を測定し、それぞれの初期値との差ΔVo (V)およびΔVr (V)を求めた。
【0059】
実施例1〜4で使用した電荷発生剤および電子輸送剤と、電気特性の試験結果とを下記の表1に示す。
実施例5〜12(アナログ光源用単層型感光体)
表1に示すように、電荷発生剤として、式(CG3) :
【0060】
【化16】
【0061】
で表されるペリレン顔料、式(CG4) 、(CG5) または(CG6) :
【0062】
【化17】
【0063】
で表されるビスアゾ顔料を使用したほかは、実施例1または2と同様にしてアナログ光源用の単層型感光体を製造した。
上記実施例で得られた感光体について以下に記す試験を行い、各感光体の電気特性を評価した。
初期電気特性試験(II)
露光光源としてハロゲンランプの白色光(光強度10ルックス)を用いたほかは、初期電気特性試験(I) と同様にして表面電位Vo (V)および残留電位Vr (V)を測定した。
【0064】
繰り返し露光後の電気特性試験(II)
各感光体を静電式複写機(三田工業(株)製の型番DC2556)に使用して、10,000回の画像形成を行った。次いで、初期電気特性試験(II)と同様にして表面電位Vo (V)および残留電位Vr (V)を測定し、それぞれの初期値との差ΔVo (V)およびΔVr (V)を求めた。
【0065】
実施例5〜12で使用した電荷発生剤および電子輸送剤と、電気特性の試験結果とを下記の表1に示す。
実施例13,14(デジタル光源用積層型感光体)
表1に示す電荷発生剤2.5重量部および結着樹脂(ポリビニルブチラール)1重量部を溶媒(テトラヒドロフラン)15重量部とともにボールミルにて混合分散させて、電荷発生層用の塗布液を作製した。次いでこの塗布液を導電性基材(アルミニウム素管)上にディップコート法にて塗布し、110℃で30分間熱風乾燥して、膜厚0.5μmの電荷発生層を形成した。
【0066】
次に、表1に示す正孔輸送剤1重量部および結着樹脂(ポリカーボネート)1重量部を溶媒(テトラヒドロフラン)10重量部とともにボールミルにて混合分散させて、電荷輸送層用の塗布液を作製した。次いでこの塗布液を上記電荷発生層上にディップコート法にて塗布し、110℃で30分間熱風乾燥して、膜厚20μmの電荷発生層を形成し、デジタル光源用の積層型感光体を製造した。
【0067】
上記実施例で得られた感光体について以下に記す試験を行い、各感光体の電気特性を評価した。
初期電気特性試験(III)
感光体の表面を−700±20Vに帯電させたほかは、初期電気特性試験(I) と同様にして表面電位Vo (V)および残留電位Vr (V)を測定した。
【0068】
繰り返し露光後の電気特性試験(III)
各感光体をレーザービームプリンタ(三田工業(株)製の型番LP−2080)に使用して、10,000回の画像形成を行った。次いで、初期電気特性試験(III) と同様にして表面電位Vo (V)および残留電位Vr (V)を測定し、それぞれの初期値との差ΔVo (V)およびΔVr (V)を求めた。
【0069】
実施例13〜14で使用した電荷発生剤と、電気特性の試験結果とを下記の表1に示す。
実施例15〜18(アナログ光源用積層型感光体)
表1に示すように、電荷発生剤として、前記式(CG3) 、(CG4) 、(CG5) または(CG6) で表される顔料を使用したほかは、実施例13と同様にしてアナログ光源用の積層型感光体を製造した。
【0070】
上記実施例で得られた感光体について以下に記す試験を行い、各感光体の電気特性を評価した。
初期電気特性試験(IV)
感光体の表面を−700±20Vに帯電させたほかは、初期電気特性試験(II)と同様にして表面電位Vo (V)および残留電位Vr (V)を測定した。
【0071】
繰り返し露光後の電気特性試験(IV)
各感光体を静電式複写機(前出のDC2556を負帯電仕様に改造したもの)に使用して、10,000回の画像形成を行った。次いで、初期電気特性試験(IV)と同様にして表面電位Vo (V)および残留電位Vr (V)を測定し、それぞれの初期値との差ΔVo (V)およびΔVr (V)を求めた。
【0072】
実施例15〜18で使用した電荷発生剤と、電気特性の試験結果とを表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例19〜22(デジタル光源用単層型感光体)
正孔輸送剤として前記式(31-1)で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例1〜4と同様にしてデジタル光源用単層型感光体を製造した。
実施例23〜30(アナログ光源用単層型感光体)
正孔輸送剤として前記式(31-1)で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例5〜12と同様にしてアナログ光源用単層型感光体を製造した。
【0075】
実施例31〜32(デジタル光源用積層型感光体)
正孔輸送剤として前記式(31-1)で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例13または14と同様にしてデジタル光源用積層型感光体を製造した。
実施例33〜36(アナログ光源用積層型感光体)
正孔輸送剤として前記式(31-1)で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例15〜18と同様にしてアナログ光源用積層型感光体を製造した。
【0076】
上記実施例19〜36で得られた感光体について、初期電気特性試験および繰り返し露光後の電気特性試験を行い、各感光体の電気特性を評価した。なお、デジタル光源用単層型感光体については前述の電気特性試験(I) を、アナログ光源用単層型感光体については前述の電気特性試験(II)を、デジタル光源用積層型感光体については前述の電気特性試験(III) を、アナログ光源用積層型感光体については前述の電気特性試験(IV)をそれぞれ行った。
【0077】
電気特性の試験結果を、電荷発生剤および電子輸送剤の種類とともに、表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
比較例1〜4(デジタル光源用単層型感光体)
正孔輸送剤として前記式(4) で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例1〜4と同様にしてデジタル光源用単層型感光体を製造した。
比較例5〜12(アナログ光源用単層型感光体)
正孔輸送剤として前記式(4) で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例5〜12と同様にしてアナログ光源用単層型感光体を製造した。
【0080】
比較例13〜14(デジタル光源用積層型感光体)
正孔輸送剤として前記式(4) で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例13または14と同様にしてデジタル光源用積層型感光体を製造した。
比較例15〜18(アナログ光源用積層型感光体)
正孔輸送剤として前記式(4) で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例15〜18と同様にしてアナログ光源用積層型感光体を製造した。
【0081】
上記比較例1〜18で得られた感光体について、初期電気特性試験および繰り返し露光後の電気特性試験を行い、各感光体の電気特性を評価した。前記電気特性試験は、前述と同様に、デジタル光源用とアナログ光源用との種別および単層型と積層型との種別に応じて、電気特性試験(I) 〜(IV)の中から適宜選択して行った。
【0082】
電気特性の試験結果を、電荷発生剤および電子輸送剤の種類とともに、表3に示す。
【0083】
【表3】
【0084】
比較例19〜22(デジタル光源用単層型感光体)
正孔輸送剤として、式(5-1) :
【0085】
【化18】
【0086】
で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例1〜4と同様にしてデジタル光源用単層型感光体を製造した。
比較例23〜30(アナログ光源用単層型感光体)
正孔輸送剤として前記式(5-1) で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例5〜12と同様にしてアナログ光源用単層型感光体を製造した。
【0087】
比較例31〜32(デジタル光源用積層型感光体)
正孔輸送剤として前記式(5-1) で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例13または14と同様にしてデジタル光源用積層型感光体を製造した。
比較例33〜36(アナログ光源用積層型感光体)
正孔輸送剤として前記式(5-1) で表されるエナミン誘導体を用いたほかは、実施例15〜18と同様にしてアナログ光源用積層型感光体を製造した。
【0088】
上記比較例19〜36で得られた感光体について、初期電気特性試験および繰り返し露光後の電気特性試験を行い、各感光体の電気特性を評価した。前記電気特性試験は、前述と同様に、デジタル光源用とアナログ光源用との種別および単層型と積層型との種別に応じて、電気特性試験(I) 〜(IV)の中から適宜選択して行った。
【0089】
電気特性の試験結果を、電荷発生剤および電子輸送剤の種類とともに、表4に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
表1〜4から明らかなように、正孔輸送剤として一般式(1) で表されるエナミン誘導体を用いた実施例1〜36の電子写真感光体は、対応する比較例1〜36の感光体に比べて残留電位が小さく、感度が優れている。また、ΔVo およびΔVr の値が小さく、すなわち露光を繰り返しても劣化が少なく、安定した電気特性を有している。
【0092】
【発明の効果】
本発明のエナミン誘導体(1) は、高い電荷輸送能(正孔輸送能)を有するとともに、オゾンや照射光に対する安定性を有している。従って、本発明のエナミン誘導体(1) は、電子写真感光体、太陽電池、エレクトロルミネッセンス素子等における正孔輸送剤として好適に使用できる。
【0093】
また、本発明の電子写真感光体は、上記エナミン誘導体(1) を含有する感光層を備えているため、高感度で、かつ繰り返し安定性が優れている。従って、本発明の電子写真感光体は、静電式複写機やレーザービームプリンタ等の各種画像形成装置の高速化、長寿命化、高性能化等に寄与するという特有の作用効果を有する。
Claims (2)
- 導電性基体上に感光層を設けた電子写真感光体であって、前記感光層が、請求項1に記載の一般式(1)で現されるエナミン誘導体であることを特徴とする電子写真感光体。
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