JP3634674B2 - 制振装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建物や橋梁、機械装置等の構造物の地震時等における振動を低減するために用いられる制振装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
地震等により建物等の構造物が大きく振動すると、構造物自体が破損したり、構造物内の人や物に対して大きな被害が発生する。従って、従来から構造物の振動を低減するための各種の制振装置が開発されており、このような制振装置の一種として、エネルギー吸収パネルの剪断変形により振動を吸収する方式のものがある。
【0003】
具体的には、図14(a)・(b)に示すように、極低降伏点鋼(LYP)により矩形状のエネルギー吸収パネル51を形成し、このパネル51の四辺に補剛部材52を溶接により剛接合した構成のものがある。通常、この種の制振装置は、図15に示すように、例えば中層高層建築物の隣接する2本の柱56で挟まれた梁57の中間点に配置された後、上面に連結部材55が設けられると共に、連結部材55から柱56と梁57との接合部にかけて傾斜部材54が左右対称に設けられることによって、地震の振動が傾斜部材54を介して伝達されるように組み付けられる。そして、振動が傾斜部材54を介して制振装置53に伝達されたときに、補剛部材52によりエネルギー吸収パネル51を一様に剪断変形させることによって、振動エネルギーを効率良く吸収して柱56や梁57の振動を低減させる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の構成では、エネルギー吸収パネル51の極低降伏点鋼(LYP)が変形に対して加工硬化するという性質を有しているため、エネルギー吸収パネル51が剪断変形しながら振動を低減させる際に、図16に示すように、振動の1周期毎にエネルギー吸収パネル51の変位−荷重ヒステリシス特性が変化することになる。従って、所定規模の地震が起きたときの建築物の振動を所定範囲内に抑制しようとした場合に、制振装置53による振動エネルギーの吸収量が不安定であると共に正確に求められないため、建築物へ適用する際の設計が困難であるという問題がある。さらに、極低降伏点鋼(LYP)は、変形を繰り返すと破断するという性質を有しているため、従来の制振装置53は、一度でも地震が起こると、エネルギー吸収パネル51を交換しなければ制振性能に対する信頼性を確保することができないという問題もある。
【0005】
そこで、変形時に加工硬化しないと共に変形の繰り返しによる破断を生じない超塑性材料をエネルギー吸収パネル51に適用することが考えられるが、この場合には、以下の問題が発生する。即ち、超塑性材料は、塑性変形が局所的に集中して変形し易いと共に、鋼等の高強度な材料との溶接が困難であるという性質を有している。特に、Zn−Al合金等のAl系合金の超塑性材料においては、溶接による接合が極めて困難である。従って、超塑性材料からなるエネルギー吸収パネル51を用いて制振装置53を作成する場合には、エネルギー吸収パネル51と補剛部材52とをボルト締めにより接合する必要があるが、単にボルト締めして接合しただけの構造では、エネルギー吸収パネル51のボルト穴周辺に局所変形が生じ易いため、有効な変形荷重を得ることが困難であると共に、最悪の場合には局所的に変形した部分で破断するという問題が発生する。
【0006】
そこで、本発明は、建築物等の構造物に適用する際の設計が容易であると共に、地震の発生ごとに交換しなくても高い信頼性でもって振動を低減することができる制振装置を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、安定した変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料を剪断変形させることにより構造物の振動を低減する制振装置であって、内周側の剪断変形部とボルト穴を備えた外周側の取付け部とを有するように前記超塑性材料により形成されたエネルギー吸収パネルと、前記超塑性材料よりも高強度の材料により形成され、前記取付け部のボルト穴にボルトを挿通して締結することにより該取付け部に剛接合された複数の補剛部材と、前記補剛部材を前記剪断変形部の剪断変形に追従して変形させるように、隣接する補剛部材同士を連結した連結機構とを有し、前記エネルギー吸収パネルの取付け部には、前記連結機構により連結された補剛部材間に対応する部位に切欠部が形成されていることを特徴としている。
上記の構成によれば、補剛部材がボルトによりエネルギー吸収パネルの取付け部に剛接合されていると共に、隣接する補剛部材同士が連結機構により回動自在に連結されているため、エネルギー吸収パネルにおける剪断変形部が振動により剪断変形する場合には、この剪断変形部の周囲に位置する取付け部の補剛部材の連結姿勢も剪断変形に追従して変化する。従って、超塑性材料が座屈し易いという性質を有していても、この超塑性材料で形成された剪断変形部は、補剛部材により剪断変形が維持および促進されることによって、振動エネルギーを効率良く吸収する。これにより、制振装置は、安定した変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料を確実に剪断変形させることができるため、構造物に適用する際の設計が容易であると共に、地震の発生ごとに交換しなくても高い信頼性でもって振動を低減することができる。また、剪断変形部の周囲に位置する取付け部が切欠部により分離された状態にされている。そして、この切欠部は、補剛部材間に対応して形成されている。従って、剪断変形部が大きく剪断変形し、補剛部材と共に取付け部が剪断変形に伴って大きく変位(移動)することになっても、切欠部が変位による取付け部の局所的な応力の発生を防止する。これにより、制振装置は、大きな振動に対しても確実に剪断変形により低減することができる。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載の制振装置であって、前記エネルギー吸収パネルのパネル面に対して垂直方向の応力による前記剪断変形部の面外方向の曲げ変形を防止する面外変形防止機構を有することを特徴としている。上記の構成によれば、剪断変形部の剪断変形時にパネル面に対して垂直方向の応力が繰り返して発生した場合でも、面外変形防止機構により剪断変形部の面外方向の曲げ変形が防止されるため、この曲げ変形が剪断変形に対して支配的となるまで増大することはない。これにより、剪断変形による振動エネルギーの吸収を長期期に亘って大きな状態に維持することができる。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の制振装置であって、前記補剛部材は、前記ボルトによる締結力で前記取付け部に食い込む凹凸部を有することを特徴としている。上記の構成によれば、凹凸部が取付け部に食い込むことによって、補剛部材と取付け部とが大きな接触面積で3次元的に接合することになる。従って、補剛部材と取付け部との剛接合がより強固なものとなるため、長期間に亘って制振装置を使用することができる。
【0010】
請求項4の発明は、請求項1ないし3の何れか1項に記載の制振装置であって、前記連結機構は、前記連結板同士を回動自在に連結するピン部材を有することを特徴としている。上記の構成によれば、ピン部材による簡単な構造により連結機構を構成することができる。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1ないし4の何れか1項に記載の制振装置であって、σy S を剪断変形部の降伏応力、tS を剪断変形部の板厚、Lを剪断変形部の有効剪断長、σy B を取付け部の降伏応力、tB を取付け部の板厚、φをボルト穴径、nをボルト穴の個数としたとき、σy S X LX tS X(1/31/2)X(1/n) <σy B X tB X φの関係を満足するように形成されていることを特徴としている。上記の構成によれば、確実に剪断変形して振動を低減させることができる制振装置を設計することができる。
【0012】
請求項6の発明は、安定した変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料を剪断変形させることにより構造物の振動を低減する制振装置であって、板状の超塑性材料部材と、前記板状の超塑性材料部材を構造物に接合させるための接合部材とからなり、前記板状の超塑性材料部材と前記接合部材とがボルトにより締結され、前記板状の超塑性材料部材の前記ボルトとの締結部分の降伏力を、塑性変形を生じさせる部分のボルトとの接触面に発生する力よりも大きくしてなり、前記接合部材が複数あり、前記接合部材を前記超塑性材料部材の剪断変形に追従して変形させるように、隣接する接合部材同士を連結した連結機構を有し、前記超塑性材料には、前記連結機構により連結されている接合部材間に対応する部位に切欠部が形成されており、前記板状の超塑性材料部材の面に対して垂直方向の応力による剪断変形部の面外方向の曲げ変形を防止する面外変形防止機構を有することを特徴としている。
上記の構成によれば、超塑性材料のボルトとの締結部分の降伏力を、塑性変形を生じさせる部分のボルトとの接触面に発生する力よりも大きくすることによって、締結部分におけるボルト穴周辺の局所変形を抑制することができる。これにより、有効な変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料部材を確実に剪断変形させることができるため、構造物に適用する際の設計が容易であると共に、地震の発生ごとに交換しなくても高い信頼性でもって振動を低減することができる。また、前記超塑性材料には、前記連結機構により連結されている結合部材間に対応する部位に切欠部が形成されている。従って、超塑性材料が大きく剪断変形し、接合部材が剪断変形に伴って大きく変位(移動)することになっても、切欠部が変位による超塑性材料の局所的な応力の発生を防止する。これにより、制振装置は、大きな振動に対しても確実に剪断変形により低減することができる。さらに、剪断変形部の剪断変形時にパネル面に対して垂直方向の応力が繰り返して発生した場合でも、面外変形防止機構により剪断変形部の面外方向の曲げ変形が防止されるため、この曲げ変形が剪断変形に対して支配的となるまで増大することはない。これにより、剪断変形による振動エネルギーの吸収を長期期に亘って大きな状態に維持することができる。
【0013】
請求項7の発明は、請求項6記載の制振装置であって、前記板状の超塑性材料部材の前記ボルトとの締結部分の板厚を、塑性変形を生じさせる部分の板厚よりも大きくしてなることを特徴としている。
上記構成によれば、締結部分の板厚を塑性変形を生じさせる部分の板厚よりも大きくすることによって、より確実に締結部分におけるボルト穴周辺の局所変形を抑制することができる。
【0014】
請求項8の発明は、請求項6記載の制振装置であって、前記板状の超塑性材料部材の前記ボルトとの締結部分の降伏応力を、塑性変形を生じさせる部分の降伏応力よりも大きくしてなることを特徴としている。
上記の構成によれば、締結部分の降伏応力を塑性変形を生じる部分の降伏応力よりも大きくすることによって、より確実に締結部分におけるボルト穴周辺の局所変形を抑制することができる。
【0015】
請求項9の発明は、請求項2又は6記載の制振装置であって、前記面外変形防止機構は、前記補剛部材の前記剪断変形部側の端部が、該剪断変形部の面外方向の内周側位置に張り出されて形成された張出部であることを特徴としている。
上記の構成によれば、補剛部材と張出部とを一体的に形成することができるため、面外変形防止機構に要する部品コストや組立コストを極めて小さなものにすることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
〔実施形態1〕
本発明の第1の実施形態を図1ないし図11に基づいて以下に説明する。第1の実施形態に係る制振装置は、図1に示すように、地震時の振動エネルギーを剪断変形により吸収するエネルギー吸収パネル1と、エネルギー吸収パネル1の外周側の取付け部1a〜1dに剛接合され、このパネル1を一様に剪断変形させる補剛機構2とを有している。エネルギー吸収パネル1は、図2に示すように、超塑性材料により形成されている。超塑性材料は、変形に対して加工硬化しないという性質を有しており、例えば図4の振動の1周期(サイクル)目および図5の振動の350周期(サイクル)目の関係からも明らかなように、振動の初期から終期に至るまで安定した変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する。尚、超塑性材料としては、Zn−Al合金等のAl系合金を用いることができる。
【0017】
上記のエネルギー吸収パネル1は、正方形の平板状に形成されており、上述の補剛機構2が取り付けられる外周側の取付け部1a〜1dと、これらの取付け部1a〜1dに囲まれた内周側の剪断変形部1eとからなっている。取付け部1a〜1dには、複数のボルト穴1fが形成されており、ボルト穴1fの穴径や個数、エネルギー吸収パネル1の板厚(剪断変形部1eおよび取付け部1a〜1d)は、下記の関係式(1)を満足するように設定されている。
【0018】
σy S X LX tS X(1/31/2)X(1/n) <σy B X tB X φ ・・・ (1)
【0019】
ここで、σy S は剪断変形部1eの降伏応力、tS は剪断変形部1eの板厚、Lは剪断変形部1eの有効剪断長、σy B は取付け部1a〜1dの降伏応力、tB は取付け部1a〜1dの板厚、φはボルト穴1cの穴径、nはボルト穴1cの個数(ボルト本数)である。(1)式の左辺は、エネルギー吸収パネル1の剪断変形部に発生する荷重のボルト1本当たりが受け持つ荷重を表し、右辺は、ボルトの端面がエネルギー吸収パネル1の取付け部1a〜1d(接触面)を押す時の取付け部1a〜1dの降伏荷重を表している。言い換えれば、ボルトとの接触面に発生する力よりも接触部の降伏力を高めるように構成されていることになる。これにより、ボルト締結部においてボルト穴周辺の局所変形が抑制され、有効な変位−ヒステリシス特性を得ることが可能になる。例えばσy B =σy S =10kgf/mm2 、L=250mm、tS =8mmとし、φ12mmボルトの6本で固定する設計条件においては、上述の関係式(1)より、tB =16mmが下限値であると判断できるため、安全性を考慮してtB =20mmと決定される。従って、上記の設計条件下におけるエネルギー吸収パネル1は、図3の二点鎖線で示すように、取付け部1a〜1dの板厚tB が剪断変形部1eの板厚tS よりも大きな厚みとなる。
【0020】
また、エネルギー吸収パネル1は、隣接する取付け部1a〜1dの間に切欠部1gをそれぞれ有している。各切欠部1gは、エネルギー吸収パネル1の端面から取付け部1a・1cに沿って形成された後、頂部が剪断変形部1eのコーナー部に到達するように形成されている。そして、これらの切欠部1gは、図7(a)・(b)に示すように、エネルギー吸収パネル1が剪断変形したときに、隣接する取付け部1a〜1d同士の当接を防止することによって、剪断変形部1eの一様な剪断変形を容易化させている。
【0021】
上記のエネルギー吸収パネル1には、図1(a)〜(c)に示すように、超塑性材料よりも高強度の鋼等の材料で形成された補剛機構2が剛接合されている。補剛機構2は、一方側補剛体3と他方側補剛体4とからなっており、各補剛体3・4は、エネルギー吸収パネル1の一方面側および他方面側にそれぞれ配置されている。そして、これらの補剛体3・4は、エネルギー吸収パネル1の取付け部1a〜1dにそれぞれ当接された補剛部材5〜8を備えており、これらの補剛部材5〜8は、各取付け部1a〜1dの全面に面状に当接し、且つ切欠部1gを露出させる隙間12を出現させるように形成されている。また、各補剛部材5〜8には、複数のボルト穴5a〜8aが形成されている。これらのボルト穴5a〜8aは、各取付け部1a〜1dのボルト穴1fに一致するように配置されている。
【0022】
上記の補剛部材5〜8は、剪断変形部1eの剪断変形に追従して変形する平行クランクリンク列を形成するように、端部同士が連結機構13により回動自在に連結されている。連結機構13は、第1連結板9と第2連結板10とピン部材11とを有している。第1連結板9は、図中左右方向の補剛部材6・8の上面両端部にそれぞれ設けられている。各第1連結板9には、複数のボルト穴9aが形成されており、これらのボルト穴9aは、補剛部材6・8のボルト穴6a・8aに一致するように配置されている。そして、第1連結板9、補剛部材6・8、およびエネルギー吸収パネル1のボルト穴9a・6a・8a・1fには、図示しないボルトが挿通されており、ボルトは、補剛部材6・8およびエネルギー吸収パネル1を介して一方側補剛体3と他方側補剛体4との第1連結板9(補剛部材6・8)同士を締結している。
【0023】
また、一方側補剛体3および他方側補剛体4の補剛部材6・8同士は、両端部の第1連結板9間に露出した補剛部材6・8のボルト穴6a・8aとエネルギー吸収パネル1のボルト穴1fとを介して図示しないボルトにより締結されている。これにより、補剛部材6・8は、エネルギー吸収パネル1の図示左右方向の取付け部1b・1dに対して均等に圧接されることにより剛接合されている。
【0024】
また、各第1連結板9には、連結穴9bが形成されている。連結穴9bは、エネルギー吸収パネル1の剪断変形と補剛部材5〜8の姿勢の変形挙動とを一致させるように、エネルギー吸収パネル1の剪断変形部1eのコーナー部に対応した位置に配置されている。この第1連結板9の上面には、連結穴9bの周囲を覆うように第2連結板10が設けられている。第2連結板10には、ボルト穴10aと連結穴10bとが形成されており、ボルト穴10aは、図中上下方向の補剛部材5・7のボルト穴5a・7aに対応して配置されている。また、連結穴10bは、上述の第1連結板9の連結穴9bに対応して配置されている。
【0025】
そして、このように構成された一方側補剛体3と他方側補剛体4との第2連結板10(補剛部材5・7)同士は、第2連結板10のボルト穴10aと補剛部材5・7のボルト穴5a・7aとエネルギー吸収パネル1のボルト穴1fとを介して図示しないボルトにより締結されている。さらに、一方側補剛体3および他方側補剛体4の補剛部材5・7同士は、両端部の第2連結板10・10間に露出した補剛部材5・7のボルト穴5a・7aとエネルギー吸収パネル1のボルト穴1fとを介して図示しないボルトにより締結されている。これにより、補剛部材5・7は、エネルギー吸収パネル1の図中上下方向の取付け部1a・1cに対して均等に圧接されることにより剛接合されている。
【0026】
また、第2連結板10および第1連結板9の連結穴10b・9bには、ピン部材11が回動自在に嵌合されている。これにより、図6(a)・(b)に示すように、第2連結板10に固定された補剛部材5・7と、第1連結板9に固定された補剛部材6・8とは、ピン部材11を支点として回動自在に連結されることによって、エネルギー吸収パネル1の剪断変形部1eの剪断変形に追従しながら変形する平行クランクリンク列を構成している。
【0027】
上記の構成において、制振装置の動作について説明する。尚、以下の説明においては、中層高層建築物に適用した場合の動作について説明するが、これに限定されるものではなく、橋梁や機械装置等の構造物に適用することもできる。
【0028】
先ず、隣接する2本の柱で挟まれた梁の中間点に制振装置を配置した後、制振装置の上面側の補剛部材5から柱と梁との接合部にかけて傾斜部材を左右対称に設けることによって、地震の振動が傾斜部材を介して制振装置に伝達されるように組み付ける(図15参照)。
【0029】
次に、地震による振動が傾斜部材を介して制振装置に伝達されると、振動の1周期ごとに制振装置が変形し、この変形により振動エネルギーを吸収することによって、振動を低減させる。
【0030】
即ち、図1に示すように、補剛部材5〜8は、ボルト穴5a〜8aを介して図示しないボルトによりエネルギー吸収パネル1に締結されることによって、エネルギー吸収パネル1の取付け部1a〜1dに圧接して剛接合されている。従って、振動が傾斜部材を介して制振装置に付与されると、この振動が補剛部材5〜8からエネルギー吸収パネル1の取付け部1a〜1dに伝達されることによって、図7(a)・(b)に示すように、これら取付け部1a〜1dに囲まれた剪断変形部1eが剪断変形を開始する。
【0031】
この際、上記の補剛部材5〜8は、連結機構13のピン部材11を支点として回動自在に連結された平行クランクリンク列を構成しているため、図6(a)・(b)に示すように、図中上側の補剛部材5が図中下側の補剛部材7に対して平行度を維持しながら水平移動すると共に、図中左右方向の補剛部材6・8が平行度を維持しながら傾斜する。また、ピン部材11は、剪断変形部1eのコーナー部に対応した位置に配置されており、補剛部材5〜8の姿勢の変形挙動と剪断変形部1eの剪断変形とを一致させている。従って、補剛部材5〜8は、剪断変形部1eの剪断変形に追従しながら姿勢を変化させることによって、剪断変形部1eの剪断変形を維持および促進させる。これにより、制振装置は、振動の各周期ごとに振動エネルギーを効率良く吸収して梁や柱の振動を低減させることになる。
【0032】
また、補剛部材5〜8は、隙間12を介して隣接されており、エネルギー吸収パネル1の取付け部1a〜1dは、切欠部1gを介して隣接されている。従って、剪断変形部1eが大きく剪断変形した場合であっても、補剛部材5〜8同士および取付け部1a〜1d同士が当接しないため、大きな振動に対しても剪断変形部1eが確実に剪断変形して振動が低減される。さらに、図4および図5に示すように、エネルギー吸収パネル1の超塑性材料が1周期目と350周期目とで略同一の変位−荷重ヒステリシス特性を発揮することから、振動の初期から終期に至るまで安定して振動が低減される。
【0033】
以上のように、本実施形態の制振装置は、図1に示すように、安定した変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料を剪断変形させることにより構造物の振動を低減するものであって、内周側の剪断変形部1eとボルト穴1fを備えた外周側の取付け部1a〜1dとを有するように超塑性材料により形成されたエネルギー吸収パネル1と、超塑性材料よりも高強度の材料により形成され、取付け部1a〜1dのボルト穴1fに図示しないボルトを挿通して締結することにより取付け部1a〜1dに剛接合された複数の補剛部材5〜8と、これら補剛部材5〜8を剪断変形部1eの剪断変形に追従して変形させるように、隣接する補剛部材5〜8同士を連結した連結機構13とを有した構成にされている。
【0034】
上記の構成によれば、補剛部材5〜8がボルトによりエネルギー吸収パネル1の取付け部1a〜1dに剛接合されていると共に、隣接する補剛部材5〜8同士が連結機構13により回動自在に連結されているため、エネルギー吸収パネル1における剪断変形部1eが振動により剪断変形する場合には、この剪断変形部1eの周囲に位置する取付け部の補剛部材5〜8の連結姿勢も剪断変形に追従して変化する。従って、超塑性材料が座屈し易いという性質を有していても、この超塑性材料で形成された剪断変形部1eは、補剛部材5〜8により剪断変形が維持および促進されることによって、振動エネルギーを効率良く吸収する。これにより、制振装置は、安定した変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料を確実に剪断変形させることができるため、構造物に適用する際の設計が容易であると共に、地震の発生ごとに交換しなくても高い信頼性でもって振動を低減することができる。
【0035】
また、本実施形態において、エネルギー吸収パネル1の取付け部には、連結機構13により連結された補剛部材5〜8間に対応する部位に切欠部1gが形成されている。そして、この構成によれば、剪断変形部1eが大きく剪断変形し、補剛部材5〜8と共に取付け部1a〜1dが剪断変形に伴って大きく変位(移動)することになっても、切欠部1gが変位による取付け部1a〜1dの局所的な応力の発生を防止するため、大きな振動も確実に剪断変形部1eの剪断変形により低減することができる。
【0036】
また、本実施形態において、図8に示すように、補剛部材5〜8は、ボルトによる締結力で取付け部1a〜1dに食い込む凹凸部5b〜8bを有していることが望ましい。そして、この場合には、凹凸部5b〜8bが取付け部1a〜1dに食い込むことによって、補剛部材5〜8と取付け部1a〜1dとが大きな接触面積で3次元的に接合し、補剛部材5〜8と取付け部1a〜1dとの剛接合がより強固なものとなるため、長期間に亘って制振装置を使用することができる。
【0037】
また、本実施形態において、連結機構13は、連結板同士を回動自在に連結するピン部材11を有した構成にされている。即ち、連結機構13は、補剛部材6・8の両端部にそれぞれ固定された第1連結板9と、補剛部材5・7の両端部にそれぞれ固定された第2連結板10と、これら第1連結板9および第2連結板10を回動自在に連結したピン部材11とを有した構成にされている。これにより、連結機構13は、ピン部材11による簡単な構造で構成することが可能になっている。
【0038】
尚、連結機構13は、上記の構成に限定されるものではなく、図9(a)〜(c)に示すように、補剛部材6・8上に剪断変形部1eに沿って配置され、補剛部材6・8の一方端側(図中上側)に位置する補剛部材5から他方端側(図中下側)に位置する補剛部材7にかけて溶接されたリブ部材14を有した構成にされていても良い。そして、この構成によれば、リブ部材14を補剛部材5〜8に溶接するという簡単な作業により連結機構13を構成することができる。
【0039】
さらに、制振装置は、第1連結板9および第2連結板10の何れか一方と補剛部材5〜8とを直接的にピン部材11で回動自在に連結した構成の連結機構13'を備えていても良い。即ち、制振装置は、図10(a)〜(c)および図11に示すように、超塑性材料で形成されたエネルギー吸収パネル21を有している。エネルギー吸収パネル21は、剪断変形部21eと、剪断変形部21eよりも大きな厚みを有した取付け部21a〜21dとを有している。各取付け部21a〜21dには、図示しないボルトが挿通されるボルト穴21fが形成されており、隣接する取付け部21a〜21d間には、切欠部21gが形成されている。
【0040】
上記の取付け部1a〜1dには、補剛部材25〜28がそれぞれ図示しないボルトにより固設されている。図中左右方向の補剛部材26・28には、連結穴26b・28bが両端部に形成されていると共に、複数のボルト穴26a・28aが等間隔で形成されている。一方、図中上下方向の補剛部材25・27には、複数のボルト穴26a・28aが等間隔で形成されていると共に、複数の挿通穴25bが側面に形成されている。さらに、補剛部材25・27の上面両端部には、嵌合部27bが形成されており、嵌合部27bには、第3連結板29が固設されている。
【0041】
上記の第3連結板29には、ボルト穴29aと連結穴29bとが形成されており、連結穴29bは、図中左右方向の補剛部材26・28に形成された連結穴26b・28bに一致されている。そして、これらの連結穴29b・26b・28bには、ピン部材11が回動自在に嵌合されている。これにより、上記の連結機構13'で回動自在に連結された補剛部材25〜28は、剪断変形部1eの剪断変形に追従して変形する平行クランクリンク列を構成している。
【0042】
〔実施形態2〕
次に、本発明の第2の実施形態を図12および図13に基づいて説明する。尚、上述の第1の実施形態と同一の部材には同一の符号を付記してその説明を省略する。第2の実施形態に係る制振装置は、図12(a)・(b)に示すように、エネルギー吸収パネル1と補剛機構2とを有している。補剛機構2は、エネルギー吸収パネル1の取付け部1a〜1dに剛接合され、端部同士が回動自在にピン結合された補剛部材43〜46を有している。各補剛部材43〜46における剪断変形部1e側の端部には、面外変形防止機構としての張出部43a〜46dが形成されている。各張出部43a〜46dは、補剛部材43〜46の端部から剪断変形部1eの面外方向の内周側位置に張り出された台形形状に形成されている。そして、これらの張出部43a〜46dは、エネルギー吸収パネル1のパネル面に対して垂直方向の応力が発生したときに、この応力により剪断変形部1eが面外方向(パネル面に対して垂直方向)に曲げ変形を生じるのを防止する。その他の構成は、第1の実施形態の構成と同一である。
【0043】
上記の構成において、制振装置の動作について説明する。地震等による振動が制振装置に付与されると、この振動が補剛部材43〜46からエネルギー吸収パネル1に伝達されることによって、これらの補剛部材43〜46に囲まれた剪断変形部1eがエネルギー吸収パネル1のパネル面に対して平行に剪断変形する。そして、第1の実施形態と同一の動作によって、剪断変形により振動の各周期ごとに振動エネルギーを吸収して梁や柱の振動を低減させる。
【0044】
また、剪断変形部1eが剪断変形すると、パネル面に対して垂直方向の応力が発生し、この応力が剪断変形部1eを面外方向に曲げ変形させるように作用する。この際、剪断変形部1eの面外方向の内周側位置には、補剛部材43〜46の端部から張り出された張出部43a〜46dが存在している。従って、剪断変形部1eが上述の応力により面外方向に曲げ変形を開始しても、即座に張出部43a〜46dに当接することによって、それ以上の曲げ変形が防止される。これにより、通常、振動により剪断変形と面外方向の曲げ変形とが繰り返された場合には、曲げ変形の変形量が次第に増加することによって、剪断変形よりも曲げ変形が支配的となり、結果として剪断変形による振動エネルギーの吸収が早期に低下することになるが、本実施形態においては、張出部43a〜46dが曲げ変形を僅かな変形量に抑制していると共に変形量の増大を防止しているため、長期間に亘って剪断変形による振動エネルギーの吸収を大きな状態に維持することができる。さらに、本実施形態の構成であれば、補剛部材43〜46と張出部43a〜46dとを一体的に形成することができるため、面外変形防止機構に要する部品コストや組立コストを極めて小さなものにすることができる。
【0045】
尚、本実施形態においては、全ての補剛部材43〜46に張出部43a〜46dが形成されているが、少なくとも一つの補剛部材43〜46に張出部43a〜46dが形成されていれば良い。また、本実施形態においては、張出部43a〜46dにより面外変形防止機構を構成することによって面外方向の曲げ変形を防止しているが、これに限定されるものではなく、面外変形防止機構は、下記のように構成されていても良い。
【0046】
即ち、面外変形防止機構は、図13(a)・(b)に示すように、上下位置に配置された補剛部材43・45に、面外方向に固定されながら回動自在にピン結合された固定部材47と、この固定部材47に設けられ、一端面が剪断変形部1eの中心部近傍に位置された当接部材48とを備えた構成にされていても良い。この構成であれば、剪断変形部1eが面外方向に曲げ変形を開始しても、即座に剪断変形部1eを当接部材48の一端面に当接させることができ、さらに、この当接部材48が固定部材47により面外方向に固定された状態になっているため、それ以上の曲げ変形を防止することができる。尚、この構成においては、剪断変形部1eの剪断変形時に固定部材47と補剛部材43・45とのピン結合部に余分な荷重を発生させないように、少なくとも一方のピン結合部に長穴43bを形成することによって、固定部材47の長手方向に移動自在にされていることが望ましい。
【0047】
また、本実施形態の張出部43a〜46d等の面外変形防止機構は、第1の実施形態で説明した各種の制振装置に適用することができる。
【0048】
【発明の効果】
請求項1の発明は、安定した変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料を剪断変形させることにより構造物の振動を低減する制振装置であって、内周側の剪断変形部とボルト穴を備えた外周側の取付け部とを有するように前記超塑性材料により形成されたエネルギー吸収パネルと、前記超塑性材料よりも高強度の材料により形成され、前記取付け部のボルト穴にボルトを挿通して締結することにより該取付け部に剛接合された複数の補剛部材と、前記補剛部材を前記剪断変形部の剪断変形に追従して変形させるように、隣接する補剛部材同士を連結した連結機構とを有し、前記エネルギー吸収パネルの取付け部には、前記連結機構により連結された補剛部材間に対応する部位に切欠部が形成された構成である。上記の構成によれば、補剛部材がボルトによりエネルギー吸収パネルの取付け部に剛接合されていると共に、隣接する補剛部材同士が連結機構により回動自在に連結されているため、エネルギー吸収パネルにおける剪断変形部が振動により剪断変形する場合には、この剪断変形部の周囲に位置する取付け部の補剛部材の連結姿勢も剪断変形に追従して変化する。従って、超塑性材料が座屈し易いという性質を有していても、この超塑性材料で形成された剪断変形部は、補剛部材により剪断変形が維持および促進されることによって、振動エネルギーを効率良く吸収する。これにより、制振装置は、安定した変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料を確実に剪断変形させることができるため、構造物に適用する際の設計が容易であると共に、地震の発生ごとに交換しなくても高い信頼性でもって振動を低減することができるという効果を奏する。また、剪断変形部の周囲に位置する取付け部が切欠部により分離された状態にされている。そして、この切欠部は、補剛部材間に対応して形成されている。従って、剪断変形部が大きく剪断変形し、補剛部材と共に取付け部が剪断変形に伴って大きく変位(移動)することになっても、切欠部が変位による取付け部の局所的な応力の発生を防止する。これにより、制振装置は、大きな振動に対しても確実に剪断変形により低減することができるという効果を奏する。
【0049】
請求項2の発明は、請求項1記載の制振装置であって、前記エネルギー吸収パネルのパネル面に対して垂直方向の応力による前記剪断変形部の面外方向の曲げ変形を防止する面外変形防止機構を有する構成である。上記の構成によれば、剪断変形部の剪断変形時にパネル面に対して垂直方向の応力が繰り返して発生した場合でも、面外変形防止機構により剪断変形部の面外方向の曲げ変形が防止されるため、この曲げ変形が剪断変形に対して支配的となるまで増大することはない。これにより、剪断変形による振動エネルギーの吸収を長期期に亘って大きな状態に維持することができるという効果を奏する。
【0050】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の制振装置であって、前記補剛部材は、前記ボルトによる締結力で前記取付け部に食い込む凹凸部を有する構成である。上記の構成によれば、凹凸部が取付け部に食い込むことによって、補剛部材と取付け部とが大きな接触面積で3次元的に接合することになる。従って、補剛部材と取付け部との剛接合がより強固なものとなるため、長期間に亘って制振装置を使用することができるという効果を奏する。
【0051】
請求項4の発明は、請求項1ないし3の何れか1項に記載の制振装置であって、前記連結機構は、前記連結板同士を回動自在に連結するピン部材を有する構成である。上記の構成によれば、ピン部材による簡単な構造により連結機構を構成することができるという効果を奏する。
【0052】
請求項5の発明は、請求項1ないし4の何れか1項に記載の制振装置であって、σy S を剪断変形部の降伏応力、tS を剪断変形部の板厚、Lを剪断変形部の有効剪断長、σy B を取付け部の降伏応力、tB を取付け部の板厚、φをボルト穴径、nをボルト穴の個数としたとき、σy S X LX tS X(1/31/2)X(1/n) <σy B X tB X φの関係を満足するように形成されている構成である。上記の構成によれば、確実に剪断変形して振動を低減させることができる制振装置を設計することができるという効果を奏する。
【0053】
請求項6の発明は、安定した変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料を剪断変形させることにより構造物の振動を低減する制振装置であって、板状の超塑性材料部材と、前記板状の超塑性材料部材を構造物に接合させるための接合部材とからなり、前記板状の超塑性材料部材と前記接合部材とがボルトにより締結され、前記板状の超塑性材料部材の前記ボルトとの締結部分の降伏力を、塑性変形を生じさせる部分のボルトとの接触面に発生する力よりも大きくしてなり、前記接合部材が複数あり、前記接合部材を前記超塑性材料部材の剪断変形に追従して変形させるように、隣接する接合部材同士を連結した連結機構を有し、前記超塑性材料には、前記連結機構により連結されている接合部材間に対応する部位に切欠部が形成されており、前記板状の超塑性材料部材の面に対して垂直方向の応力による剪断変形部の面外方向の曲げ変形を防止する面外変形防止機構を有する構成である。
上記の構成によれば、超塑性材料のボルトとの締結部分の降伏力を、塑性変形を生じさせる部分のボルトとの接触面に発生する力よりも大きくすることによって、締結部分におけるボルト穴周辺の局所変形を抑制することができる。これにより、有効な変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料部材を確実に剪断変形させることができるため、構造物に適用する際の設計が容易であると共に、地震の発生ごとに交換しなくても高い信頼性でもって振動を低減することができるという効果を奏する。また、剪断変形部の周囲に位置する取付け部が切欠部により分離された状態にされている。そして、この切欠部は、補剛部材間に対応して形成されている。従って、剪断変形部が大きく剪断変形し、補剛部材と共に取付け部が剪断変形に伴って大きく変位(移動)することになっても、切欠部が変位による取付け部の局所的な応力の発生を防止する。これにより、制振装置は、大きな振動に対しても確実に剪断変形により低減することができるという効果を奏する。さらに、剪断変形部の剪断変形時にパネル面に対して垂直方向の応力が繰り返して発生した場合でも、面外変形防止機構により剪断変形部の面外方向の曲げ変形が防止されるため、この曲げ変形が剪断変形に対して支配的となるまで増大することはない。これにより、剪断変形による振動エネルギーの吸収を長期期に亘って大きな状態に維持することができるという効果を奏する。
【0054】
請求項7の発明は、請求項6記載の制振装置であって、前記板状の超塑性材料部材の前記ボルトとの締結部分の板厚を、塑性変形を生じさせる部分の板厚よりも大きくしてなる構成である。
上記の構成によれば、締結部分の板厚を塑性変形を生じさせる部分の板厚よりも大きくすることによって、より確実に締結部分におけるボルト穴周辺の局所変形を抑制することができるという効果を奏する。
【0055】
請求項8の発明は、請求項6記載の制振装置であって、前記板状の超塑性材料部材の前記ボルトとの締結部分の降伏応力を、塑性変形を生じさせる部分の降伏応力よりも大きくしてなる構成である。
上記の構成によれば、締結部分の降伏応力を塑性変形を生じる部分の降伏応力よりも大きくすることによって、より確実に締結部分におけるボルト穴周辺の局所変形を抑制することができるという効果を奏する。
【0056】
請求項9の発明は、請求項2又は6記載の制振装置であって、前記面外変形防止機構は、前記補剛部材の前記剪断変形部側の端部が、該剪断変形部の面外方向の内周側位置に張り出されて形成された張出部である構成である。上記の構成によれば、補剛部材と張出部とを一体的に形成することができるため、面外変形防止機構に要する部品コストや組立コストを極めて小さなものにすることができるという効果を奏する。
【0057】
【図面の簡単な説明】
【図1】制振装置の構成図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の平面図におけるA−A'線矢視一部断面図、(c)は正面図である。
【図2】エネルギー吸収パネルの平面図である。
【図3】エネルギー吸収パネルの要部側面図である。
【図4】超塑性材料の1周期(サイクル)目の荷重と変位量との関係を示すグラフである。
【図5】超塑性材料の350周期(サイクル)目の荷重と変位量との関係を示すグラフである。
【図6】補剛機構が姿勢を変形する状態を示す説明図であり、(a)は変形前、(b)は変形後である。
【図7】エネルギー吸収パネルが剪断変形する状態を示す説明図であり、(a)は変形前、(b)は変形後である。
【図8】凹凸部の状態を示す説明図である。
【図9】制振装置の構成図であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は正面図である。
【図10】制振装置の構成図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の平面図におけるB−B'線矢視一部断面図、(c)は正面図である。
【図11】エネルギー吸収パネルの構成図であり、(a)は平面図、(b)は(a)の平面図におけるC−C ' 線矢視断面図である。
【図12】制振装置の構成図であり、(a)は平面図、(b)はE−E'線矢視断面図である。
【図13】制振装置の構成図であり、(a)は平面図、(b)はF−F'線矢視断面図である。
【図14】従来の制振装置の構成図であり、(a)は平面図、(b)はD−D'線矢視断面図である。
【図15】中層高層建築物に制振装置が取り付けられた状態を示す説明図である。
【図16】極低降伏点鋼(LYP)の荷重と変位量との関係を示すグラフである。
【0058】
【符号の説明】
1 エネルギー吸収パネル
1a〜1d 取付け部
1e 剪断変形部
1f ボルト穴
1g 切欠部
2 補剛機構
3 一方側補剛体
4 他方側補剛体
5〜8 補剛部材
5b〜8b 凹凸部
9 第1連結板
10 第2連結板
11 ピン部材
12 隙間
13 連結機構
13' 連結機構
14 リブ部材
21 エネルギー吸収パネル
Claims (9)
- 安定した変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料を剪断変形させることにより構造物の振動を低減する制振装置であって、内周側の剪断変形部とボルト穴を備えた外周側の取付け部とを有するように前記超塑性材料により形成されたエネルギー吸収パネルと、前記超塑性材料よりも高強度の材料により形成され、前記取付け部のボルト穴にボルトを挿通して締結することにより該取付け部に剛接合された複数の補剛部材と、前記補剛部材を前記剪断変形部の剪断変形に追従して変形させるように、隣接する補剛部材同士を連結した連結機構とを有し、前記エネルギー吸収パネルの取付け部には、前記連結機構により連結された補剛部材間に対応する部位に切欠部が形成されていることを特徴とする制振装置。
- 前記エネルギー吸収パネルのパネル面に対して垂直方向の応力による前記剪断変形部の面外方向の曲げ変形を防止する面外変形防止機構を有することを特徴とする請求項1記載の制振装置。
- 前記補剛部材は、前記ボルトによる締結力で前記取付け部に食い込む凹凸部を有することを特徴とする請求項1又は2記載の制振装置。
- 前記連結機構は、前記連結板同士を回動自在に連結するピン部材を有することを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の制振装置。
- σy S を剪断変形部の降伏応力、tS を剪断変形部の板厚、Lを剪断変形部の有効剪断長、σy B を取付け部の降伏応力、tB を取付け部の板厚、φをボルト穴径、nをボルト穴の個数としたとき、σy S X LX tS X(1/31/2)X(1/n) <σy B X tB X φの関係を満足するように形成されていることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の制振装置。
- 安定した変位−荷重ヒステリシス特性を発揮する超塑性材料を剪断変形させることにより構造物の振動を低減する制振装置であって、板状の超塑性材料部材と、前記板状の超塑性材料部材を構造物に接合させるための接合部材とからなり、前記板状の超塑性材料部材と前記接合部材とがボルトにより締結され、前記板状の超塑性材料部材の前記ボルトとの締結部分の降伏力を、塑性変形を生じさせる部分のボルトとの接触面に発生する力よりも大きくしてなり、前記接合部材が複数あり、前記接合部材を前記超塑性材料部材の剪断変形に追従して変形させるように、隣接する接合部材同士を連結した連結機構を有し、前記超塑性材料には、前記連結機構により連結されている接合部材間に対応する部位に切欠部が形成されており、前記板状の超塑性材料部材の面に対して垂直方向の応力による剪断変形部の面外方向の曲げ変形を防止する面外変形防止機構を有することを特徴とする制振装置。
- 前記板状の超塑性材料部材の前記ボルトとの締結部分の板厚を、塑性変形を生じさせる部分の板厚よりも大きくしてなることを特徴とする請求項6記載の制振装置。
- 前記板状の超塑性材料部材の前記ボルトとの締結部分の降伏応力を、塑性変形を生じさせる部分の降伏応力よりも大きくしてなることを特徴とする請求項6記載の制振装置。
- 前記面外変形防止機構は、前記補剛部材の前記剪断変形部側の端部が、該剪断変形部の面外方向の内周側位置に張り出されて形成された張出部であることを特徴とする請求項2又は6記載の制振装置。
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