JP3852192B2 - 鋼製耐震壁 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄骨構造物などの左右の柱と上下の梁とで構成した開口部(以下、主架構という)に設置され、地震時において構造物に入力されるエネルギーを塑性変形による履歴エネルギーとして吸収させ、構造物の塑性化を低減するための鋼製耐震壁に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種鋼製耐震壁として、例えば、実開平7−29266号公報に記載された考案がある。この鋼製耐震壁は、図6に示すように、極低降伏点鋼板からなるせん断パネル11の両面に、溶接により縦横に補強リブ12を取付けてその周縁部に端部補強リブを溶接接合し、この端部補強リブ13に柱及び梁との接合のための、多数のねじ挿通穴15を有する額縁と称する取付枠14を溶接により取付けた構造となっている。
そして、補強リブ12には、壁全体が座屈しないような板厚と大きさの鋼板が用いられており、せん断パネル11の補強リブ12で囲まれた区画Dが簡単には局部座屈しない程度(例えば、せん断パネル11の幅厚比で40から70程度)のピッチ(間隔)となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
補強リブ12はせん断パネル11と一体になっているため、せん断パネル11の歪の程度と剛性との比率に応じて応力を負担せざるを得ないが、そのため、補強リブ12も自身の座屈を防止するに必要な剛性を確保しなければならない。しかしながら、補強リブ12は長くなるにしたがってせん断パネル11に対する補剛効果が急激に減少するため、大きな耐震壁や大きな荷重を負担する壁にあっては、補強リブ12もきわめて大きなサイズとなり、せん断パネル11と補強リブ12の高さを加えた耐震壁の厚さがかなり大きなものとなってしまうため、空間の利用効率を減少させることになる。
【0004】
補強リブ12の数を多くしてピッチを密にすればするほど局部座屈が生じにくくなり、耐震性能が向上するが、補強リブ12の取付けコストがきわめて高いものとなるばかりでなく、溶接だらけの耐震壁となり、座屈に大きな影響を与える溶接歪や初期変形がきわめて大きくなるため、かえって耐震性能を損なう場合もある。また、四周を柱及び梁に固定するために要求される高い精度を確保することがきわめて困難になる。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、耐震性能が高く、その上溶接を使用せず組立が簡単でコストを低減することのできる鋼製耐震壁を得ることを目的としたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明に係る鋼製耐震壁は、せん断パネルの一方の面に複数の補剛部材を所定の間隔で平行に配設すると共に、他方の面に複数の補剛部材を前記一方の面に配設した補剛部材と90°ずらせて所定の間隔で平行に配設し、前記両面設けた補剛部材の各交点を前記せん断パネルと共にボルト・ナット等により接合したものである。
【0007】
(2)上記(1)の補剛部材を、平形鋼材又は溝形断面鋼材で構成し、また、
(3)上記(1)の所定の間隔を、補剛部材の幅より狭く設定した
(4)上記(1),(2)又は(3)のせん断パネルと補剛部材との間に、摩擦を低減する材料又はずれに追従する材料を介装した。
【0008】
【発明の実施の形態】
[実施形態1]
図1は本発明の実施形態1に係る鋼製耐震壁を示すもので、(a)は正面図、(b)はそのX−X断面図、(c)はY−Y断面図、図2は図1の一部拡大図である。
両図において、1は本実施形態に係る鋼製耐震壁、2は例えば極軟鋼板からなり、鋼製耐震壁1の主要部を構成するせん断パネルである。3a,3bはせん断パネル2より剛性の高い平形鋼材からなる複数の補剛部材で、せん断パネル2の表裏両面に互いに90°ずらせて取付けられている。なお、6は多数のねじ挿通穴7を有し、せん断パネル2の周縁部に溶接により取付けられた普通鋼板からなる取付板である。
【0009】
せん断パネル2の一方の面(例えば、表面)には、せん断パネル2の左右方向(横方向)の長さとほぼ等しい長さの複数の補剛部材3aが、間隔g1 を隔てて横方向に平行に配設されており、また他方の面(裏面)には、せん断パネル2の上下方向(縦方向)の長さとほぼ等しい長さの補剛部材3bが、間隔g2 を隔てて縦方向に平行に(したがって補剛部材3aと90°ずらせて)配設されて、両補剛部材3a,3bの交点の中心部を、図3に示すように、せん断パネル2、補剛部材3a,3b及び押え板4に設けた貫通穴にボルト5を挿通してナットを締め、これらを一体に接合したものである。この場合、ボルト・ナット5は、横方向及び縦方向にそれぞれほぼ同一線上に設けることが望ましい。
【0010】
ここで、隣接する補剛部材3a,3a、3b,3bのそれぞれの間隔g1 ,g2 は、補剛部材3a,3bの幅Wより狭く形成されており、かつ、せん断パネル2が大きなせん断変形を受けても、補剛部材3a,3bが相互に接触しない程度の大きさに選ばれている。なお、図には、この間隔g1 ,g2 がg1 <g2 の場合を示してあるが、これに限定するものではなく、g1 =g2 がg1 >g2 であってもよい。
【0011】
上記のような鋼製耐震壁1において、Aはせん断パネル2の表裏共に補剛部材3a,3bによって座屈拘束を受けている領域、Bは表裏の何れか一方が補剛部材3a又は3bにより座屈拘束を受けている領域であり、Cは表裏いずれも補剛部材3a,3bによる座屈拘束を受けていない領域である。そして、この領域Cの補剛部材3a,3bの間隔g1 ,g2 は、せん断パネル2の板厚の20倍程度以下に選ばれているので、鋼製耐震壁1が地震時に想定される数%から5%といったきわめて大きな歪を受けても領域Cに局部座屈を生じることはない。
【0012】
上記のように構成した鋼製耐震壁は、柱と梁によって構成された主架構内に配設され、主架構の内壁に設けたフレームに取付板6に設けたボルト挿通穴7に挿通したボルトにより固定され、取付けられる。
【0013】
本実施形態に係る鋼製耐震壁は、せん断パネル2の面の大部分が補剛部材3a,3bに覆われて座屈拘束を受けており、座屈拘束を受けていない領域Cはきわめて小さいので、地震時においてせん断パネル2が歪を受けても局部座屈を生じることがなく、地震エネルギーを効果的に負担して耐震性能を向上させることができる。
【0014】
また、表裏に直交して配設した補剛部材3a,3bによりせん断パネル2の面の大部分を覆い、その交点をボルト・ナット5で接合するだけなので、溶接が不要であり、組立が簡単でコストを大幅に低減することができる。
さらに、上述のように補剛部材3a,3bはボルト・ナット5によりせん断パネル2にねじ止めするだけなので、補剛部材3a,3bが応力を負担することがない。そのため、補剛部材3a,3b自体の座屈に対する配慮が不要であり、最後までせん断パネル2の座屈を補剛する剛性を保持することができる。このため、比較的小さい断面の補剛部材3a,3bによりせん断パネル2を効果的に補剛することができる。
この結果、鋼製耐震壁1の厚みを従来に比べて大幅に薄くすることができ、その分空間利用効率を高めることができる。
【0015】
[実施形態2]
図4は本発明の実施形態2の正面図及びそのX−X断面図、Y−Y断面図である。なお、実施形態1と同じ部分にはこれと同じ符号を付し、説明を省略する。本実施形態は、せん断パネル2の補剛部材31a,31bとして、平形鋼材に代えて溝形鋼の如き溝形断面鋼材を用いたものである。
【0016】
本実施形態においては、せん断パネル2の一方の面に溝形断面鋼材からなる補剛部材31aを、そのウェブをせん断パネル2に当接し、かつ間隔g1 を隔てて平行に配設し、他方の面に同じく補剛部材31bを、補剛部材31aに対して90°ずらせてそのウェブをせん断パネル2に当接し、かつ間隔g2 を隔てて平行に配設して、両補剛部材31a,31bの交点の中心部を、図5に示すように、せん断パネル2と共に、押え板4を介してボルト・ナット5により一体に接合したものである。
【0017】
本実施形態の作用効果は、実施形態1の場合とほぼ同様であるが、補剛部材31a,31bに溝形鋼の如き溝形断面鋼材を用いたので、壁全体の座屈に対する面外変形の補剛になっており、その上これを密に配設することにより、小さい断面の補剛部材31a,31bによってより大きな補剛効果を得ることができる。
【0018】
[実施形態3]
本実施形態は、実施形態1及び2のせん断パネル2と補剛部材3a,3b(31a,31)との間に、摩擦を低減させるグリースやテフロンシートを介装し、あるいは上記両者の間に両者のずれに追従できるゴム系の材料を介装したものである。
【0019】
上記のように構成した本実施形態においては、せん断パネル2と補剛部材3a,3b(31a,31b)との間の摩擦を低減し、あるいは両者のずれに対する追従を容易にしたので、地震時にせん断パネル2の面内変形を円滑かつ容易にすることができ、また、補剛部材3a,3b(31a,31b)が面外変形するのを防止することができる。
なお、なんらかの理由で補剛部材3a,3b(31a,31b)がせん断パネル2に固着されるようなことがあると、これが格子状の壁とみなされるようになり、この格子状の壁が構造物を支えてしまうため、地震時にせん断パネルが変形しないような事態が発生するおそれがあるが、上記のように構成することによりこのような問題の発生を防止することができる。
【0020】
上記の各実施形態においては、せん断パネル2と補剛部材3a,3b(31a,31)を、ボルト・ナット5で接合する場合を示したが、地震時にせん断パネル2が変形しうるものであれば、リベットその他の接合手段を用いてもよい。
また、補剛部材3a,3b(31a,31b)として平形鋼材又溝形断面鋼材を用いた場合を示したが、せん断パネル2の座屈拘束をなしうるものであれば、等辺又は不当辺山形鋼の如き山形断面鋼材を用いてもよい。
【0021】
【実施例】
次に、本発明に係る鋼製耐震壁1の実施例について説明する。実施形態2の鋼製耐震壁1(図4)において、せん断パネル2に取付枠6を含む横方向の長さL:5m、上下方向の高さH:3mで、板厚t1 :16mmの極軟鋼板(例えば、降伏点100〜200N/mm2 程度)を用い、補剛部材31a,31bとして、ウェブ高さW:400mm、フランジ幅h:130mm、板厚t2 :19mmの溝形鋼を使用した(なお、図4は作図の関係上、補剛材31a,31bの数を少なく示してある)。
【0022】
そして、補剛部材31a,31bの間隔g1 ,g2 をそれぞれ100mmとしてせん断パネル2の表裏に互いに90°ずらせて配設し、各交点を当て板4を介してボルト・ナット5で接合した。
このように構成した鋼製耐震壁1に5%の歪を加えて耐震試験を行なったところ、局部座屈は勿論、壁全体の座屈を生じることがなく、高い耐震性能を有することが確認された。
【0023】
【発明の効果】
本発明に係る鋼製耐震壁は、せん断パネルの一方の面に複数の補剛部材を所定の間隔で平行に配設すると共に、他方の面に複数の補剛部材を一方の面に配設した補剛部材と90°ずらせて所定の間隔で平行に配設し、せん断パネルの両面に設けた補剛部材の各交点をせん断パネルと共にボルト・ナット等により接合して構成し、
また、上記の補剛部材に、平形鋼材又は溝形断面鋼材を用い、
さらに、上記の補剛部材の所定の間隔を、補剛部材の幅より狭く設定したので、次のような効果を得ることができる。
【0024】
(1)補剛部材をせん断パネルの表裏にボルト・ナット等で接合するようにしたので、溶接を必要とせず、その上組立が簡単なためコストを大幅に低減することができる。
(2)せん断パネルの座屈拘束を受けない領域がきわめて小さいため、せん断パネルが局部座屈を生じることがなく、このため耐震性能が向上する。
【0025】
(3)補剛部材はせん断パネルを押えるだけを目的として、ボルトナットにより簡単に止まっているだけなので、応力を負担しない。そのため、補剛部材自体の座屈に対する配慮が不要であり、最後までせん断パネルの座屈を補剛する剛性を保持しているので、比較的小さい断面で効果的に補剛することができる。
このため、従来に比べて鋼製耐震壁の厚さを薄くするこができ、その分空間利用効率を高めることができる。
【0026】
(4)補剛部材として溝形断面鋼材を用いた場合、ウェブ及びフランジからなる断面は、壁全体の座屈に対する面外変形を補剛しており、特に密に配設した場合は補剛効果が大である。
【0027】
また、本発明は、上記のせん断パネルと補剛部材との間に、摩擦を低減する材料又はずれに追従する材料を介装したので、地震時にせん断パネルの面内変形を円滑かつ容易にすることができ、また、補剛部材の面外変形を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係る鋼製耐震壁を示すもので、(a)は正面図、(b)はそのX−X断面図、(c)はY−Y断面図である。
【図2】図1の一部拡大図である。
【図3】図1の要部の拡大断面図である。
【図4】本発明の実施形態2に係る鋼製耐震壁を示すもので、(a)は正面図、(b)はそのX−X断面図、(c)はY−Y断面図である。
【図5】図4の要部の拡大断面図である。
【図6】従来の鋼製耐震壁の一例の正面図である。
【符号の説明】
1 鋼製耐震壁
2 せん断パネル
3a,3b 補剛部材(平形鋼材)
4 当て板
5 ボルトナット
31a,31b 補剛部材(溝形断面鋼材)
Claims (4)
- せん断パネルを有し、構造物の主架構内に設置される鋼製耐震壁において、
前記せん断パネルの一方の面に複数の補剛部材を所定の間隔で平行に配設すると共に、他方の面に複数の補剛部材を前記一方の面に配設した補剛部材と90°ずらせて所定の間隔で平行に配設し、
前記両面に設けた補剛部材の各交点を前記せん断パネルと共にボルト・ナット等により接合したことを特徴とする鋼製耐震壁。 - 補剛部材を、平形鋼材又は溝形断面鋼材で構成したことを特徴とする請求項1記載の鋼製耐震壁。
- 所定の間隔を、補剛部材の幅より狭く設定したことを特徴とする請求項1記載の鋼製耐震壁。
- せん断パネルと補剛部材との間に、摩擦を低減する材料又はずれに追従する材料を介装したことを特徴とする請求項1,2又は3記載の鋼製耐震壁。
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