JP3634286B2 - Fe基非晶質合金薄帯とそれを用いて製造した鉄心 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電力トランス、高周波トランスなどの巻鉄心に用いられる非晶質合金薄帯に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
合金を溶融状態から急冷することによって、連続的に薄帯や線を製造する方法として、遠心急冷法、単ロ−ル法、双ロ−ル法などが知られている。これらの方法は、高速回転する金属製ドラムの内周面または外周面に、溶融金属をオリフィスなどから噴出させることにより、溶融金属を急速に凝固させて、薄帯や線を製造するものである。さらに、合金組成を適正に選ぶことによって、液体金属に類似した非晶質合金を製造することができ、磁気的性質あるいは機械的性質に優れた材料を得ることができる。
【0003】
この非晶質合金は、その優れた特性から、多くの用途における工業材料として有望視されている。その中でも、電力トランスや高周波トランスなどの鉄心材料の用途として、鉄損が低く、かつ、飽和磁束密度や透磁率が高いなどの理由から、Fe系非晶質合金薄帯、例えば、Fe−Si−B系の非晶質合金薄帯が採用されている。
【0004】
これらの非晶質合金薄帯を用いて巻鉄心トランスあるいは積鉄心トランスを組み立てる場合には、通常、薄帯を多数枚重ね合わせて鉄心とした後、磁気回路方向に直流磁場を印加しながらアニールを施す処理を行う。アニ−ルの目的は、印加磁場方向に磁気異方性を出現させて磁束密度を上げること、および、薄帯内に存在しているひずみを低減させて鉄損を下げることにある。しかし、アニ−ル温度が低い場合には、磁気異方性が生じ難く磁束密度が大きくならないばかりか、ひずみも取り除かれないため鉄損も低くならない。しかし、アニ−ル温度が低い場合にはアニ−ルによって生じる薄帯の脆化は軽減される。
【0005】
一方、アニ−ル温度が高い場合には、磁束密度が大きくなるとともに、十分にひずみが取り除かれるため鉄損も低減するが、薄帯の脆化が大きくなってしまう。このアニ−ルによって生じる脆化の原因は明確にはなっていないが、急冷凝固によって比較的ランダムに配置していた各原子が局部的な秩序構造をとる結果生じるものと考えられる。
さらに、アニール温度が高すぎる場合には、薄帯が結晶化してしまい、もはや非晶質特有の優れた軟磁気特性が消失してしまう。したがって、鉄心のアニールには最適温度が存在する。
このアニール処理は、鉄心の重量が重く体積が大きくなる程、熱処理炉に挿入後の加熱中、鉄心の各部位に温度むらが生じ易くなる。この温度むらを低減するには、昇温過程および降温過程において十分な時間をかければよいが、時間をかければ、生産性が低下してしまう。
【0006】
そこで、従来、このアニール工程を改善する方法として、鉄心の内・外周面に断熱材を取り付け、冷却時における鉄心内の温度差を極力低減する方法(特開昭63−45318号公報)、アニール温度に保定された超耐熱性絶縁油中に鉄心を浸漬する方法(特開昭60−255934号公報)、ガラス転移温度以下の適性温度の溶融スズ中に浸漬した後、冷却用流体中に浸漬する方法(特開昭62−294154号公報)等が開示されている。
【0007】
しかし、これらはアニール方法を改善するものであって、薄帯そのものを改善し、鉄心の各部位に温度むらが生じた場合でも、磁気特性の劣化の防止を可能にするものではない。
一方、薄帯を改善する技術としては、特開昭57−185957号公報に、B1〜5原子およびSi4〜14原子%を含む非晶質合金薄帯に、Pを、高価なBの代替で、1〜10原子%添加することが開示されている。上記公報記載の薄帯において、Pは、B、Si、Cと同じく、非晶質形成能を向上させる元素である。
【0008】
また、特開平8−193252号公報には、高価なBの低減が目的の“6〜10原子%のB、10〜17原子%のSi、0.02〜5原子%のP、および、残部Fe”からなる組成の合金が開示されている。上記公報記載の合金組成において、Pは、表面粗度を改善するものである。
また、特開平9−202951号公報には、高Si%、B10原子%以下において、磁気特性および加工性を改善することを目的とした“76〜80原子%のFe、6〜10原子%のB、8〜17原子%のSi、0.02〜2原子%のP、および、0.2〜1.0原子%のMn”の組成からなる合金が開示されている。上記公報記載の合金組成において、Pの効果は非晶質形成能の向上のみであり、また、多元化による結晶化を抑制するため、Mnの添加は必須である。
【0009】
また、特開平9−268354号公報には、10原子%以下の低B領域においても、表面粗さを適正化することにより磁気特性を改善することを目的とした“6〜10原子%のB、好適範囲として10〜17原子%のSi、0.1〜2原子%のC、0.2〜1.0原子%のMn、0.02〜2原子%のP”からなる組成の合金が開示されている。上記公報記載の合金組成において、Pの効果は、非晶質形成能の向上と表面粗度の改善のみである。
【0010】
さらに、特開平11−293427号公報には、Bの低減による軟磁気特性の劣化を効果的に抑制することを目的とした“75.0〜77.0原子%のFe、2.5〜3.5原子%のC、0.5〜6.5原子%のB、該Bに対して0〜12.0原子%のP、および、残部Si”からなる組成の合金が開示されている。上記合金組成においても、Pの効果は、非晶質形成能の向上である。
【0011】
このように、上記公報記載の薄帯を改善する技術は、いずれも、Pの添加により、非晶質形成能を高めるか、および/または、表面粗度を改善するものである。
そして、Fe基非晶質合金薄帯をトロイダルに巻回した巻鉄心、または、該合金薄帯片を積層した積鉄心をアニールする場合において、加熱中の鉄心各部位における“温度むら”に起因する性能劣化を低減することは、これまで実現していない。
【0012】
一方、特開昭62−93339号公報には、低鉄損を維持した状態で脆化改善を狙った技術が開示されている。上記公報では、原子百分率でFeX BY Si(100−X−Y) 、76≦X≦81、97≦2X−5Y≦112なる組成の合金を規定している。この合金においては、合金組成をFe−Si−B三元系の三元共晶線に近い組成に規定しているが、この組成規定によって、所定の温度でアニ−ルしても、脆化が開始する時間よりも短時間でアニ−ルが完了できるため、低鉄損となって、かつ、脆化しない薄帯が得られるとしている。
【0013】
しかし、この特開昭62−93339号公報には、脆性の定量的評価に関する記載が全くない。磁束密度に関しては、実施例に、1000A/mの磁場を印加したときの磁束密度B10が記載されているが、Fe−Si−B系の非晶質薄帯に1000A/mの磁場をかけた場合には、アニ−ルが不十分であっても、ほぼ飽和磁束密度に近い高い磁束密度が得られる。しかし、アニ−ルが不十分であると、磁気ヒステリシス曲線の立ち上がりは小さくなる結果、B80(80A/mの磁場を印加した時の磁束密度)が低くなり、その結果、励磁電力が増加してしまう。
【0014】
また、特開平7−331396号公報には、材料の脆化を招くことなしに鉄損特性を改善した薄帯およびその製造方法が開示されている。上記公報では、原子百分率で、FexBySizMna、75≦x≦82、7≦y≦15、7≦z≦17、0.2≦a<0.5で示される組成から成り、中心線平均粗さRa が0.6μm以下である磁気特性と耐脆化特性に優れた非晶質薄帯が開示されている。
しかし、Mnは鉄損改善には効果的であるが、Mnの増加に伴って磁束密度の低下と脆化を招く。そこで、上記組成の合金を急冷凝固させる際の雰囲気を1〜4%H2を含むCO2雰囲気にすることによって薄帯の表面凹凸を減らし、その結果、反磁界の低減による磁束密度の向上、および、クラックの起点の減少による脆化改善の実現に至ったものである。
【0015】
しかし、特開平7−331396号公報に開示されている脆化改善は急冷凝固直後の薄帯に関するものであって、軟磁気特性の改善のために施すアニ−ル後の脆化改善に関するものではない。
さらに、特開平8−144029号公報には、上記特開平7−331396号公報記載の薄帯およびその製造方法と同じ目的で、薄帯の表面粗度Ra を0.8μm以下に規定した薄帯およびその製造方法が開示されている。
しかし、この特開平8−144029号公報記載の薄帯およびその製造方法においても、脆化改善は急冷凝固直後の薄帯に関するものであって、軟磁気特性の改善のために施すアニ−ル後の脆化改善に関するものではない。
このように、磁束密度、鉄損などの優れた軟磁気特性を得るための磁場中アニ−ル後においても優れた耐脆化特性を有するFe基非晶質合金薄帯は従来にはなかった。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
前述したように、Fe基非晶質合金薄帯をトロイダルに巻回した巻鉄心、または、該合金薄帯片を積層した積鉄心をアニールする場合において、加熱中の鉄心各部位における“温度むら”に起因する性能劣化を低減したFe基非晶質合金薄帯は、これまでのところ存在しない。
【0017】
そこで、本発明は、Fe基非晶質合金薄帯において、その組成を特定の範囲に限定することにより、優れた軟磁気特性を発現する最適アニール温度範囲を、従来の合金薄帯のアニール温度範囲よりも大幅に拡大し、この拡大効果により、アニール時、鉄心各部位に“温度むら”が生じた場合でも、優れた軟磁気特性を有する鉄心を製造することを可能にするFe基非晶質合金薄帯を提供することを目的とする。
【0018】
また前述したように、Fe基非晶質合金薄帯に磁場中アニ−ルを施した後において、磁束密度、鉄損の優れた軟磁気特性、および優れた耐脆化特性を同時に兼ね備えた薄帯は、これまでのところ存在しない。
そこで、本発明は、Fe基非晶質合金薄帯において、その組成を特定の範囲に限定することによって、軟磁気特性を発現させる磁場中アニ−ル温度を従来よりも低温側に設定することを可能にし、その結果、薄帯の脆化が増大するアニ−ル温度よりも低温側でアニ−ルできることを可能にした薄帯を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、Fe非晶質合金薄帯の成分組成を特定の範囲に限定すると、該薄帯を広い温度範囲でアニールした場合でも、優れた磁気特性が発現することを見いだした。
また、本発明者は、Fe基非晶質薄帯の成分範囲を特定の範囲に限定すると、該薄帯が脆化開始する温度よりも低温側でアニ−ルした場合でも、優れた軟磁気特性が発現することを見出した。
【0020】
本発明は、これらの知見に基づくものであり、アニール中に鉄心の各部位において“温度むら”が生じた場合でも、優れた磁気特性を発現することが可能なFe基非晶質合金薄帯、および、優れた軟磁気特性と優れた耐脆化特性を同時に有することが可能なFe基非晶質合金薄帯であって、Fe、Si、BおよびCの限られた組成範囲において、特定範囲のPを添加することにより達成されるものである。
【0021】
なお、Pの添加効果については、〔従来の技術〕の項で述べたように、非晶質形成能の向上効果および/または表面粗度の改善効果が知られているが、本発明者が見いだした“アニール最適温度範囲を拡大する効果”は、〔従来の技術〕の項で例示した、特開昭57−185957号公報、特開平8−193252号公報、特開平9−202951号公報、特開平9−268354号公報、特開平11−293427号公報のいずれにも記載されていない。
【0022】
本発明の特徴は、Fe基非晶質合金薄帯のFe、Si、BおよびCの限定された組成範囲において、所定量のPを添加し、該薄帯をアニールする際のアニール温度の最大値をTmax、最小値をTminとし、ΔT=Tmax−Tminとした場合において、ΔTが少なくとも80℃の幅広いアニール温度範囲で、交流における軟磁気特性が優れたFe基非晶質合金薄帯を製造することを可能にしたことにある。
【0023】
ここで、Tmax は、Fe基非晶質合金薄帯が結晶化せず、周波数50Hz、最大印加磁場80A/mの交流磁場を印加した場合の最大磁束密度B80が1.35T以上を維持できる最大のアニール温度である。即ち、Tmax を超える温度で、Fe基非晶質合金薄帯をアニールすると、該薄帯が結晶化し磁気特性が劣化し、上記最大磁束密度B80が1.35T未満となってしまう。
Tmin は、Fe基非晶質合金薄帯のひずみが低減し、アニール中の印加磁場方向に磁気異方性が生じて、B80が1.35T以上となるアニール温度の最小の温度である。
【0024】
また、本発明の特徴は、Fe基非晶質合金薄帯のFe、Si、BおよびCの限定された組成範囲において、所定量のPを添加し、アニ−ル後、B80が1.35T以上の交流における優れた軟磁気特性、および、薄帯の曲げ破壊ひずみεf が0.01以上の優れた耐脆化特性を同時に有する交流における軟磁気特性および耐脆化特性に優れたFe基非晶質合金薄帯を製造することを可能にしたことにある。
ここで、εf =t/(Df −t)であり、tは板厚、Df は破壊した時の曲げ直径である。
【0025】
上記特徴を備える本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)Fe、Si、B、C、Pの主要元素および不可避不純物で構成される非晶質合金薄帯であって、組成が、原子%で、78≦Fe≦86、2≦Si<4、5<B≦16、0.02≦C≦4、0.2≦P≦12であることを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
【0026】
(2)前記Feの組成が、原子%で、80<Fe≦82であることを特徴とする前記(1)記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
(3)前記Pの組成が、原子%で、1≦P≦12であることを特徴とする前記(1)または(2)記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
【0027】
(4)前記Bの組成が、原子%で、5<B<14であることを特徴とする前記(1)、(2)または(3)記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
(5)前記(1)、(2)、(3)または(4)記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、アニール後、B80が1.35T以上で、かつ、B80の標準偏差が0.1未満の軟磁気特性を有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
【0028】
(6)前記(5)記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、アニール後、さらに、鉄損が0.12W/kg以下の鉄損特性を有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
(7)前記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)または(6)記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、該薄帯においてB80が1.35T以上で、かつ、B80の標準偏差が0.1未満の軟磁気特性を確保するアニールにおけるアニール温度の最大値をTmax 、アニール温度の最小値をTmin とし、ΔT=Tmax −Tmin としたとき、該ΔTが少なくとも80℃であるアニール温度特性を有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
【0029】
(8)前記(7)記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、該薄帯において前記軟磁気特性に加え、鉄損が0.12W/kg以下の鉄損特性を確保するアニールにおけるアニール温度の最大値をTmax 、アニール温度の最小値をTmin とし、ΔT=Tmax −Tmin としたとき、該ΔTが少なくとも60℃であるアニール温度特性を有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
【0030】
(9)前記(1)、(2)、(3)または(4)記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、アニ−ル後、B80が1.35T以上の優れた軟磁気特性、および、薄帯の曲げ破壊ひずみεf(=t/(Df −t)、tは板厚、Df は破壊した時の曲げ直径)が0.01以上の優れた耐脆化特性を同時に有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
(10)前記(9)記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、アニ−ル後、鉄損が0.12W/kg以下の鉄損特性を有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
【0031】
(11)前記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)または(10)記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯をトロイダルに巻回し、アニールしたことを特徴とする交流における軟磁気特性に優れた巻鉄心。
(12)前記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)または(10)記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯を所定形状に打ち抜き積層し、アニールしたことを特徴とする交流における軟磁気特性に優れた積鉄心。
【0032】
【発明の実施の形態】
前述したように、本発明の特徴は、Fe基非晶質合金薄帯のFe、Si、BおよびCを限定した組成範囲において、所定量のPを添加し、該薄帯をアニールする際のアニール温度の最大値をTmax 、最小値をTmin とし、ΔT=Tmax −Tmin とした場合において、ΔTが少なくとも80℃の幅広いアニール温度範囲で、交流における軟磁気特性が優れたFe基非晶質合金薄帯を製造することを可能にしたことにある。
【0033】
また、前述したように、本発明の特徴は、Fe、Si、BおよびCの限られた組成範囲において特定範囲のPを添加することにより、該薄帯が脆化開始する温度よりも低温側でアニ−ルした場合においても、交流における優れた軟磁気特性が発現することを可能にしたことである。すなわち、本発明によって、優れた軟磁気特性と優れた耐脆化特性を同時に満足する薄帯を製造することが可能になったことである。
【0034】
ここでいう“優れた軟磁気特性”とは、周波数50Hz、最大印加磁場80A/mの交流磁場を印加した場合の最大磁束密度B80が“1.35T以上”であることの他、ΔTが少なくとも80℃のアニール温度範囲において、B80の標準偏差が“0.1未満”であることである。
Fe基非晶質合金薄帯をトロイダルに巻回した巻鉄心、または、Fe基非晶質合金薄帯の打ち抜き片を積層した積鉄心等を、ひずみの低減および磁気異方性の付与を目的としてアニールする場合、通常、加熱中に、鉄心各部位に“温度むら”が生じてしまう。B80の値が少なくとも1.35T以上であれば、非晶質合金薄帯の性能を、トランスの性能に反映させることができるが、アニール温度のばらつきによりB80の値にばらつきが生じたのでは、鉄心内で局部的に軟磁気特性の劣化部が生じたりして、トランスとしての性能に問題が生じる場合がある。
【0035】
本発明のように、B80の標準偏差が0.1未満であれば、動作中の鉄心内における磁束密度が均一になり、Fe基非晶質薄帯の優れた磁気性能を最大限に引き出すことが可能になるばかりか、トランスの設計も容易になる。
さらに、“優れた軟磁気特性”とは、ΔTが少なくとも60℃の幅広いアニール温度範囲において、周波数50Hz、磁束密度1.3Tでの単板測定による鉄損が“0.12W/kg以下”であることである。
【0036】
ΔTが少なくとも60℃となるTmaxからTminまでのアニール温度範囲において、鉄損が0.12W/kg以下であれば、Fe基非晶質合金薄帯としての優れた性能を得ることができる。この場合も、ΔTが少なくとも60℃という幅広い温度範囲で鉄損が優れているので、鉄心各部位に温度むらが生じても、鉄心全体としての軟磁気特性が低下することはない。
【0037】
トランスの設計においては、磁束密度を優先する場合と、鉄損を優先する場合の両者が考えられるので、B80が1.35T以上となるアニール温度範囲と、鉄損が0.12W/kg以下となるアニール温度範囲が全て重なる必要はないが、両者の温度範囲が同じであれば、Fe基非晶質合金薄帯の性能を最大限にトランスの性能に反映させることができる。
【0038】
また、ここでいう“優れた軟磁気特性”とは、周波数50Hz、最大印加磁場80A/mの交流磁場を印加した場合の最大磁束密度B80が1.35T以上を有し、および/または、周波数50Hz、磁束密度1.3Tでの単板測定による鉄損W13/50が0.12W/kg以下であることである。
さらに、これらの優れた軟磁気特性と同時に、薄帯の曲げ破壊ひずみεf が0.01以上の優れた耐脆化特性を有する薄帯である。ただし、εf =t/(D−t)であり、tは板厚、Dは破壊した時の曲げ直径である。
【0039】
ここで,脆性の評価は、薄帯を180度に折り曲げ、さらに、曲げられてできた二つの対向する薄帯の距離を序々に狭めていった時に薄帯が破壊する距離D(破壊した時の曲げ直径に相当)で示した。
この時の薄帯の外側の面間の距離を曲げ破壊直径Df で定義する。薄帯厚をtとすると、曲げられた薄帯の外側には、ε=t/(D−t)のひずみが生じていることになる。したがって、破壊した時のひずみは、εf=t/(Df−t)で定義される。
【0040】
Fe−Si−B系非晶質合金薄帯では、従来は軟磁気特性を発現させるためのアニ−ルを施すと、薄帯は必ず脆化したが、本発明の組成の合金を用いることによって、優れた軟磁気特性が発現するアニ−ル後においても、薄帯の脆性をかなり抑制できることが明らかになった。
B80の値は、少なくとも1.35T以上あれば、非晶質合金薄帯の性能をトランスに反映させることができるとともに、トランスの設計も容易になる効果がある。さらに、周波数50Hz、磁束密度1.3Tでの単板測定による鉄損が0.12W/kg以下であれば、非晶質合金薄帯としての優れた性能が得られる。
【0041】
前にも説明したよう、トランスの設計においては、磁束密度を優先する場合、あるいは、鉄損を優先する場合が考えられるので、B80が1.35T以上の高磁束密度特性とW13/50 が0.12W/kg以下の低鉄損特性が同時に達成される必要はないが、両者を同時に達成できれば、非晶質合金薄帯の性能を最大限にトランスの性能に反映させることができる。
【0042】
本発明の特徴は、前記した優れた軟磁気特性に加えて、優れた耐脆化特性を兼ね備えていることにある。元々、Fe−Si−B系を主体とする非晶質合金薄帯はアニ−ルによって脆化してしまう。この脆化はアニ−ル温度が高くなる程大きくなる傾向を示している。
本発明者は、Fe−Si−B−C系の狭い範囲において、特定量のPを添加することによって、脆化が抑制される低温度範囲でアニ−ルしても、優れた軟磁気特性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。ここで、前記した曲げ破壊ひずみεf が0.01以上である場合には、薄帯の脆化をほとんど考慮しなくても、通常のトランスの製造が可能になる。εf が0.015以上であれば、さらに製造し易くなるので好ましい。
【0043】
ここで、組成の限定理由について説明するが、本発明の基本的な特徴は、2≦Si<4原子%の低Si領域において、所要量のPを添加したことにある。
以下に順を追って、各元素の組成範囲の限定理由を説明する。
Feは78原子%以上、86原子%以下の範囲にする。Feが78原子%未満の場合には、鉄心としての十分な磁束密度が得られなくなり、86原子%超の場合には、非晶質形成が困難になって、良好な磁気特性が得られなくなる。より幅広いアニール温度範囲で、または、低温側でのアニ−ルで、1.35T以上のB80をより安定的に得るためには、Feを80原子%超にする必要がある。
さらに、非晶質をより安定的にし、εf が0.01以上の薄帯を得るためには、Feを82原子%以下にすればよい。Feが80原子%超、82原子%以下の範囲において、より優れた非晶質薄帯を得ることができる。
【0044】
Siは、2原子%以上、4原子%未満の範囲に限定する。Siが2原子%未満の場合には、非晶質が安定して形成され難くなり、また、Siが4原子%以上の場合には、本発明の特徴である“P添加による最適アニール温度範囲の拡大効果”または“P添加によるアニ−ル温度範囲の低温側への拡大効果”が得られなくなる。
【0045】
Bは、5原子%超、16原子%以下の範囲にする。Bが5原子%以下では非晶質が安定して形成され難くなり、16原子%超としても更なる非晶質形成能の向上は認められなくなる。P添加による“最適アニール温度範囲の拡大効果”、または、“アニ−ル温度範囲の低温側への拡大効果”をより有効に発現させるためには、Bを14原子%未満にする。すなわち、Bが5原子%超、14原子%未満の範囲において、B80のばらつきが少ない優れた軟磁気特性と曲げ破壊ひずみεf が0.01以上の耐脆化特性を有する非晶質合金薄帯が得られる。
【0046】
Cは、薄帯の鋳造性に効果がある元素である。Cを含有させることによって、溶湯と冷却基板の濡性が向上して、良好な薄帯を形成させることができる。Cが0.02原子%未満の場合は、この効果が得られない。また、Cを4原子%超含有させても、この効果の更なる向上は認められない。したがって、Cの組成範囲は、0.02原子%以上4原子%以下に限定した。
【0047】
Pは、本発明において最も重要な元素である。本発明者らは、既に、特開平9−202946号公報において、0.008重量%以上、0.1重量%(0.16原子%)以下のPは、MnとSの許容含有量を増加させて、安価な鉄源の使用を可能にする効果があることを開示したが、本発明は、鉄心のアニール工程において、鉄心の各部位に“温度むら”が生じた場合においても、その“温度むら”による軟磁気特性の劣化を防止することを目的として、または、鉄心の脆化を生じさせる温度よりも低温度側におけるアニ−ルを可能にすることを目的として、P量、および、Fe、Si、B、Cの各量を種々変化させた実験を積み重ね、その結果、成し得た発明である。
【0048】
Pは、0.2原子%以上、12原子%以下の範囲で含有させる。Pが0.2原子%未満では、最適アニール温度範囲を拡大する効果、または、アニ−ル温度範囲を低温側へ拡大する効果が得られなくなり、また、Pを12原子%超含有させても、Pによるそれ以上の効果が得られないばかりか、磁束密度が低下してしまう。
Pが1原子%以上12原子%以下であれば、Pの効果によって磁束密度B80のばらつきが、より一層抑制されるとともに、1.35T以上のB80と、0.01以上のεfがより安定して得られる。
Pが1原子%以上10原子%以下であれば、磁束密度の低下も抑制され、より一層のPの添加効果が発現する。
【0049】
さらに、本発明のFe基非晶質合成薄帯は、不可避不純物として、特開平9−202946号公報に示されているレベルのMn、S、等の元素を含有していても、特段の問題を生じない。
組成範囲の特定に関して重要なことは、本発明におけるPの効果は、Fe、Si、B、C系の限定された組成範囲に、所定量のPを添加することによって、成し得たものであり、特に、2≦Si<4原子%の低Siの範囲において、初めて、Pの添加効果が発現するということである。
【0050】
このような本発明のFe基非晶質合金薄帯をトランス用鉄心の素材として用いることにより、優れた軟磁気特性を維持しつつ、鉄心のアニ−ルの際に生じる鉄心の脆化を抑制すること、または、鉄心各部位に生じる“温度むら”に起因する特性劣化を防止することが可能になる。
【0051】
本発明のFe基非晶質合金薄帯は、所定の合金成分を溶解し、溶湯を、移動している冷却基板上に、スロットノズルを通して噴出させて、該溶湯を急冷凝固させる方法、例えば、単ロ−ル法、双ロ−ル法によって製造することができる。
単ロ−ル装置には、ドラムの内壁を使う遠心急冷装置、エンドレスタイプのベルトを使う装置、および、これらの改良型である補助ロ−ルを付属させた装置、減圧下真空中または、不活性ガス中での鋳造装置も含まれる。
本発明のFe基非晶質合金薄帯において、薄帯の板厚、板幅等の寸法は、特に規定されないが、薄帯の板厚は、例えば、10μm以上100μm以下が好ましい。また、上記薄帯の板幅は、20mm以上が好ましい。
【0052】
本発明のFe基非晶質合金薄帯の原料として、例えば、鉄鉱石を原料とした製鉄プロセスで生産される一部の鋼種を鉄源に使用することが可能である。
Fe基非晶質合金薄帯の合金組成として、例えば、Fe80.5Si3B15C1P0.5、Fe79Si3B16C1P1、Fe80.2Si2.3B13C0.5P4、Fe79.4Si3.8B10C0.8P6、Fe81.5Si2.2B6.3C1P9等を挙げることができるが、本発明の合金組成は、これら例示の合金組成に限られるものではない。
【0053】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
原子%で、Fe80.3Si2.5B16−XPXC1 および0.2原子%のMn、S等の不純物を含む組成の合金を使用した。ただし、X=0.5、1.1、3.2、6.4、9.5とした。比較材として、X=0、0.05、13.5、16なる組成の合金も使用した。
【0054】
先ず、所定の組成からなる合金を石英ルツボ中で高周波溶解し、溶湯を、ルツボ先端に取り付けた開口形状0.4mm×25mmの矩形状スロットノズルを通して、Cu合金製冷却ロ−ルの上に噴出した。冷却ロ−ルの直径は580mm、回転数は800rpmである。この鋳造によって、厚さ約27μm、幅約25mmの薄帯を得ることができた。
【0055】
鋳造した薄帯を120mmの長さに切断して、320℃、340℃、360℃、380℃、400℃の各温度で、窒素雰囲気中で1時間、磁場中でアニールした。その後、SST(単板磁気測定器)を用いて交流磁気特性を評価した。
評価項目は、測定の最大印加磁場が80A/mの時の最大磁束密度B80、および、最大磁束密度1.3Tにおける鉄損である。なお、測定周波数は50Hzである。結果を表1および表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
試料No.2については、420℃でのアニールも追加実施した。その結果、B80=1.29Tであった。この結果および表1から明らかなように、Pが0.2原子%以上12原子%以下の試料No.3〜8(発明例)においては、アニール温度がTmin=320℃からTmax=400℃の範囲、すなわち、ΔT=80℃の幅広いアニール温度範囲において、B80が1.35T以上の高い磁束密度が発現し、かつ、そのアニール温度範囲において、B80の標準偏差が0.1未満となり、磁束密度のばらつきの低減が可能であることがわかる。
【0059】
また、試料No.4〜8の1原子%以上12原子%以下のPの範囲においては、B80の標準偏差が0.07以下となって、磁束密度のばらつきがより抑制された薄帯が得られていることがわかる。さらに、試料No.5〜8のBが5原子%超14原子%未満の範囲においては、B80の標準偏差が0.05以下となって、磁束密度のばらつきがより一層少ない薄帯が得られていることがわかる。
【0060】
また、表2から、本発明の組成範囲である試料No.3〜8(発明例)において、Tmin=320℃からTmax=380℃の範囲、すなわち、ΔT=60℃の幅広いアニール温度範囲において、0.12W/kg以下の低鉄損を示すことがわかる。試料No.9は、鉄損が60℃の幅広いアニール温度範囲で0.12W/kg以下であるが、B80が比較材レベルであったので比較例とした。試料No.10の400℃アニール材では、1.3Tの磁束密度まで励磁できなかった。
【0061】
(実施例2)
原子%で、Fe80.3SiYB15.2−YP3.3C1および0.2原子%のMn、S等の不純物を含む組成の合金を使用した。ただし、Y=1.7、2.2、2.9、3.4、3.8、4.3、5.5とした。これらの合金を実施例1に示した方法で薄帯に鋳造した。薄帯の磁気特性も実施例1と同様の方法で評価した。結果を表3および表4に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
試料No.11、16および17については、420℃でのアニールを追加実施した。その結果、B80は、それぞれ、1.34T、1.31T、および、1.27Tであった。これらの結果および表3から明らかなように、Siが2原子%以上4原子%未満の試料No.12〜15(発明例)において、アニール温度がTmin=320℃からTmax=400℃の範囲、すなわち、ΔT=80℃の幅広いアニール温度範囲において、B80が1.35T以上の高い磁束密度が発現し、かつ、そのアニール温度範囲において、B80の標準偏差が0.1未満となり、磁束密度のばらつきの低減が可能であることがわかる。
【0065】
試料No.16(比較例)では、標準偏差が0.1未満であるが、ΔTが少なくとも80℃となるアニール温度範囲において、B80が1.35T以上を満たしていない。
また、表4から、試料No.12〜15(発明例)においては、Tmin=320℃からTmax =380℃の範囲、すなわち、ΔT=60℃の幅広いアニール温度範囲において、0.12W/kg以下の低鉄損を示していることがわかる。試料No.11は、鉄損がΔT=60℃のアニール温度範囲で、0.12W/kgであるが、B80が比較材のレベルであったので比較例とした。以上のことから、Siが4原子%以上になると、本発明のPの添加効果が発現しないことがわかる。
【0066】
(実施例3)
Pを3.4原子%、Siを2.5原子%として、Fe、B、Cの割合を種々変えた合金を用いて、実施例1と同様の方法で薄帯を鋳造した。ただし、この薄帯は、不純物として、0.2原子%のMn、S等を含んでいる。
上記薄帯の磁気特性についても、実施例1と同様の方法で評価した。この時のアニール温度は280〜400℃の範囲とした。結果を表5および表6に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
B80の標準偏差は、標準偏差の値が最も小さくなる80℃幅のアニール温度範囲(表5中、太線で挟む範囲)で得られた値で計算した。
試料No.25について420℃アニールを追加実施した結果、B80=1.33Tであった。この結果および表5からわかるように、Feが78原子%以上86原子%以下である試料No.19〜24(発明例)では、ΔTが少なくとも80℃の幅広いアニール温度範囲において、B80が1.35T以上の高い磁束密度が発現し、かつ、そのアニール温度範囲において、B80の標準偏差が0.1未満となり、磁束密度のばらつきが低減していることがわかる。
【0070】
Feが86原子%超のNo.18(比較例)では、標準偏差が0.1未満であるが、非晶質状態が得られず、B80も1T以下の低いものしか得られなかった。また、比較例の試料No.25および26では、同様に、標準偏差が0.1未満であるが、ΔTが少なくとも80℃以上の幅広いアニール温度範囲において、1.35T以上のB80を得ることができなかった。
【0071】
Feが80原子%超82原子%以下である試料No.21および22(発明例)では、標準偏差も低く、また、Tmin=280℃からTmax=400℃というより幅広い範囲で、B80が1.35T以上であり、優れた薄帯が形成されていることがわかる。
表6の結果から、試料No.19〜24(発明例)、25(比較例)および26(比較例)においては、従来技術には存在しない、ΔTが少なくとも60℃以上の幅広いアニール温度範囲において、鉄損が0.12W/kg以下であることがわかる。ただし、No.25および26(比較例)では、ΔTが少なくとも80℃の広い温度範囲で、B80が1.35T以上を満たさなかったので、これらを比較例とした。試料No.18(比較例)においては、非晶質が得られなかったので、鉄損も大きくなっている。
【0072】
(実施例4)
試料No.6の合金を用いて、幅50mmの非晶質薄帯を鋳造した。鋳造方法は、実施例1と同様であるが、ノズルの開口形状を0.4mm×50mmの矩形状スロットノズルに変えた。得られた薄帯の厚みは26μmである。
この薄帯を、巻き厚みが約50mmのトロイダル鉄心に巻回した。この鉄心を、室温から種々の昇温速度で400℃まで加熱し、その温度で2時間保定し、その後、炉冷した。加熱中、鉄心の周方向に磁場を印加した。温度制御は、炉の雰囲気温度で行い、実際の試料の温度は、鉄心各部位に接触させた熱電対で測定した。
【0073】
結果的に、昇温速度が速い程、炉の雰囲気温度と鉄心との温度差が大きくなり、かつ、鉄心各部位の温度差も大きくなる傾向を示した。ただし、鉄心の温度は炉の雰囲気温度以下であった。
アニール後の鉄心に1次コイルおよび2次コイルを巻いて、B80を測定した。
その結果、鉄心各部位の温度差が80〜100℃と大きくなっても、B80は、1.43Tと高い値を示すことを確認した。
比較例として、試料No.17の合金を用いて同様な試験を実施した。この場合、鉄心各部位の温度差が80〜100℃まで大きくなると、B80が、1.32Tと低くなってしまうことがわかった。
【0074】
(実施例5)
原子%でFe80.3Si2.7B16−XPXC0.8 および0.2原子%のMn、S等の不純物を含む組成の合金を使用した。ただし、X=1.3、3.5、6.2、9.4とした。比較材として、X=0、14.5なる組成の合金も使用した。
先ず、所定の組成からなる合金を石英ルツボ中で高周波溶解し、ルツボ先端に取り付けた開口形状が0.4mm×25mmの矩形状スロットノズルを通してCu合金製冷却ロ−ルの上に溶湯を噴出した。冷却ロ−ルの直径は580mm、回転数は800rpmである。この鋳造によって、厚さ約26μm、幅約25mmの薄帯を得た。
【0075】
鋳造した薄帯を120mm長さに切断して、320℃、340℃、360℃、380℃、400℃の各温度で、窒素雰囲気中で1時間、磁場中でアニ−ルした後、SST(単板磁気測定器)を用いて交流磁気特性を評価した。評価項目は、測定の最大印加磁場が80A/mの時の最大磁束密度B80、および、最大磁束密度が1.3Tにおける鉄損W13/50である。なお、測定周波数は50Hzである。
また、前記の各温度でアニ−ルした薄帯の曲げ破壊ひずみεf を測定した。曲げる際にはR面(鋳造時にロ−ルと接触する面)を外側にして曲げた。結果を表7に示す。
【0076】
【表7】
【0077】
表7中において、太い黒枠で囲った領域は、曲げ破壊ひずみεf が0.01以上の優れた耐脆化特性と、B80が1.35T以上、W13/50が0.12W/kg以下の優れた軟磁気特性を兼ね備えた範囲である。
No.27〜No.30では、εfが0.01以上となるアニ−ル温度は360℃以下の温度範囲であるが、No.27(比較例)では、320℃アニ−ルでB80が1.35T以下となってしまう。
【0078】
さらに、No.27(比較例)では、全てのアニ−ル温度範囲でW13/50を0.12W/kg以下にすることはできない。これに対して、No.28〜No.30(発明例)では、360℃以下の低温アニ−ルを施してεf をさらに大きくして脆性を改善した場合においても、B80が1.35T以上、かつ、W13/50 が0.12W/kg以下の優れた軟磁気特性を維持している。No.31(発明例)では、340℃以下のアニ−ルによって、優れた耐脆化特性と優れた軟磁気特性が発現している。No.32(比較例)では、320℃以下のアニ−ルでεf が0.01以上となるが、B80が1.35T以下となっている。
【0079】
【発明の効果】
本発明によれば、本発明のFe基非晶質合金薄帯を用いて鉄心に巻回した巻鉄心、または、該薄帯の打ち抜き片を積層した積鉄心をアニ−ルする場合、鉄心各部位に“温度むら”が生じた場合においても、また低温度でアニ−ルした場合においても、優れた軟磁気特性が発現し、薄帯の脆化を抑制することが可能となる。
したがって、本発明のFe基非晶質合金薄帯は、トランスとしての性能を高めることができるのみならず、トランスの製造においても、アニール時の昇温速度および降温速度を上げることは可能となりさらに薄帯の割れなどを防止できるので、生産性の向上にも大きく貢献する効果がある。
Claims (12)
- Fe、Si、B、C、Pの主要元素および不可避不純物で構成される非晶質合金薄帯であって、組成が、原子%で、78≦Fe≦86、2≦Si<4、5<B≦16、0.02≦C≦4、0.2≦P≦12であることを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
- 前記Feの組成が、原子%で、80<Fe≦82であることを特徴とする請求項1記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
- 前記Pの組成が、原子%で、1≦P≦12であることを特徴とする請求項1または2記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
- 前記Bの組成が、原子%で、5<B<14であることを特徴とする請求項1、2または3記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
- 請求項1、2、3または4記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、アニール後、B80が1.35T以上で、かつ、B80の標準偏差が0.1未満の軟磁気特性を有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
- 請求項5記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、アニール後、さらに、鉄損が0.12W/kg以下の鉄損特性を有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
- 請求項1、2、3、4、5または6記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、該薄帯においてB80が1.35T以上で、かつ、B80の標準偏差が0.1未満の軟磁気特性を確保するアニールにおけるアニール温度の最大値をTmax、アニール温度の最小値をTminとし、ΔT=Tmax−Tminとしたとき、該ΔTが少なくとも80℃であるアニール温度特性を有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
- 請求項7記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、該薄帯において前記軟磁気特性に加え、鉄損が0.12W/kg以下の鉄損特性を確保するアニールにおけるアニール温度の最大値をTmax 、アニール温度の最小値をTmin とし、ΔT=Tmax −Tmin としたとき、該ΔTが少なくとも60℃であるアニール温度特性を有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
- 請求項1、2、3または4記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、アニ−ル後、B80が1.35T以上の優れた軟磁気特性、および、薄帯の曲げ破壊ひずみεf(=t/(Df −t)、tは板厚、Df は破壊した時の曲げ直径)が0.01以上の優れた耐脆化特性を同時に有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
- 請求項9記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯であって、アニ−ル後、鉄損が0.12W/kg以下の鉄損特性を有することを特徴とする交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯。
- 請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9または10記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯をトロイダルに巻回し、アニールしたことを特徴とする交流における軟磁気特性に優れた巻鉄心。
- 請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9または10記載の交流における軟磁気特性に優れたFe基非晶質合金薄帯を所定形状に打ち抜き積層し、アニールしたことを特徴とする交流における軟磁気特性に優れた積鉄心。
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