JP3632135B2 - イソカルバサイクリン誘導体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、イソカルバサイクリン誘導体の新規な製造方法に関し、詳しくは、双環性エン化合物又はオレフィン化合物と親エン体とを、光学活性ビナフト−ル−チタン錯体を触媒として、不斉触媒的にカルボニル−エン反応させることにより、抗血栓治療薬として有用なイソカルバサイクリン誘導体を安価に供給する新規な製造方法に関する。
また、本発明は、この新規な製造方法を利用して得られる、イソカルバサイクリンの新規な誘導体に関する。
【0002】
【従来の技術】
イソカルバサイクリン誘導体は、優れた血栓抑制作用を有し、しかも安定で、医薬品、特に抗血栓治療剤として期待されている化合物であって、同じく血栓抑制作用を示すプロスタサイクリン(別名プロスタグランジンI2)の安定性を改善する研究により見出された化合物である。
このイソカルバサイクリン誘導体は、従来、原料のプロスタグランジンを直接イソカルバサイクリンに誘導していた。
しかしながら、原料プロスタグランジン自体が生物活性を有する高価な物質であるため、得られる物質が高価になることは避けられず、したがって、安価な原料から低コストでイソカルバサイクリンを製造する方法が求められていた。
【0003】
一方、本発明者らはすでに、下記の一般式(7)
【0004】
【化4】
【0005】
(式中Xはハロゲン、アルコキシ、アシルオキシ配位子を表す)で表される光学活性ビナフト−ル−チタン錯体を触媒として使用することにより、グリオキシラ−トを親エン体とするカルボニル−エン反応の不斉触媒化、すなわち特定の光学異性体を選択的に生成させることに成功している(J.Am.Chem.Soc.,1989,pp1940:1990,pp3449)。
そこで、この触媒を使用する不斉触媒的カルボニル−エン反応により、安価な原料からイソカルバサイクリンを低コストで合成することができないかと考えるに至った。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、既に2個の環を持つ双環性エン化合物又はオレフィン化合物を原料として使用する不斉触媒的カルボニル−エン反応により、高価なプロスタグランジンを原料として使用することなく、イソカルバサイクリンを低コストで提供することであり、また、この方法を利用して従来知られていなかった新規なイソカルバサイクリン誘導体を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、一般式(1)
(式中、OR1は保護された水酸基であり、Rωはω側鎖である)で表される双環性エン化合物又はオレフィン化合物と親エン体とを、光学活性ビナフト−ル−チタン錯体を触媒として、不斉触媒的にカルボニル−エン反応させることにより、
一般式(2)
(式中、OR1は水酸基又は保護された水酸基であり、R2は親エン体に対応する側鎖であり、Rωはω側鎖である)で表されるイソカルバサイクリン誘導体を製造する、新規な製造方法の発明である。
【0008】
【化5】
【0009】
(式中、OR 1 は保護された水酸基であり、Rωは式(a)で表される基である)で表される双環性エン化合物又はオレフィン化合物とホルムアルデヒド、共役イナール化合物、共役エナール化合物からなる群から選ばれた親エン体とを、光学活性ビナフト−ル−チタン錯体を触媒として、不斉触媒的にカルボニル−エン反応させることにより、一般式(2)
【0010】
【化6】
【0011】
(式中、OR 1 は水酸基又は保護された水酸基であり、R 2 は上述の親エン体に対応する側鎖であり、Rωは式(a)で表される基である)で表されるイソカルバサイクリン誘導体を製造する、新規な製造方法の発明である。また、本発明は、この新規な製造方法を利用して得られる、一般式(2)において、OR1は水酸基又は保護された水酸基であり、R2は下記(3)〜(6)または(8)の式で表される何れかの基であり、Rωは式(a)で表される基である、抗血栓治療剤として有用なイソカルバサイクリンの新規な誘導体の発明である。
【0012】
【化7】
【0013】
本発明の原料双環性エン化合物において、OR1は、保護された水酸基であり、保護基としてはシリル基などが用いられ、特にTBDMS(tert−ブチルジメチルシリル基)が好ましい。また、Rωとしては次の基である。
【0014】
【化8】
(TBDMS(ter―ブチルジメチルシリル基は保護基である。)
【0015】
本発明において親エン体として用いるカルボニル化合物は、ホルムアルデヒド、共役イナ−ル化合物、共役エナ−ル化合物等である。共役イナ−ル化合物及び共役エナ−ル化合物は、β−位がカルボキシル基、又はメトキシカルボニル基及びエトキシカルボニル基のようなアルコキシカルボニル基等で置換されていてもよい。具体的には、例えばβ−メトキシカルボニルイナ−ル、β−エトキシカルボニルイナ−ル、β−メトキシカルボニルエナ−ル、β−エトキシカルボニルエナ−ル等が挙げられる。
本発明において触媒として使用する光学活性ビナフト−ル−チタン錯体は、式(7)において、Xがハロゲン原子、特に塩素または臭素であるものが好ましい。また、光学活性ビナフト−ルとしては、R体が使用される。
【0016】
本発明において、双環性エン化合物と親エン体とを光学活性ビナフト−ル−チタン錯体触媒の存在下にカルボニル−エン反応させるに当たっては、一般に適当な溶媒中に錯体触媒、エン化合物及び親エン体を加えて攪拌することにより行われる。
溶媒としては、反応に悪影響を与えないものであれば使用可能であるが、好ましいものは、ハロアルカン、芳香族炭化水素、特にジクロロメタン、或いはトルエン等である。
好適な反応温度は、反応させる物質によるが、一般的には室温以下の温度が好ましい。
触媒の使用量は、約1〜20モル%程度である。
【0017】
本発明の方法によれば、特定の立体異性体を選択的に生成させることができる。以下この点についてさらに詳しく説明する。
まず、原料双環性エン化合物としてω−鎖を持たない対称な化合物を用い、ホルムアルデヒドを親エン体とし、R体のビナフト−ル−チタン錯体を触媒とする不斉触媒的カルボニル−エン反応による不斉非対称化を行うと、エナンチオ選択的に(76%)11S体が得られる。反応式を下記に示す。
【0018】
【化9】
【0019】
次に、ω−鎖を有する光学的に純粋なエン化合物を用いて同様に不斉触媒的ホルムアルデヒド−エン反応(重複不斉誘導)を行うと、二重結合を位置選択的に(90%)6,9α位に導入できる。生成物は(3−オキサ)イソカルバサイクリン合成の鍵となる中間体である。原料としたω−鎖を有するキラル双環性エン化合物は、光学分割した双環性β−ヒドロキシカルボン酸にω−鎖を形成する工程を含む複数の工程によって得られる。
これらの反応工程をまとめて以下に示す。式中Rωはω側鎖である。
【0020】
【化10】
【0021】
種々のα−鎖を有するイソカルバサイクリン誘導体の不斉合成を目指して、ホルムアルデヒドに代えて共役イナール化合物を親エン体とするカルボニル−エン反応の不斉触媒化をまず、ω−鎖を持たない対称な双環性エン化合物を用い、β−メトキシカルボニルイナ−ルとのエン反応を行うと、このアルデヒドも十分なエン反応性を有し、対応するα−鎖を有する生成物を収率よく得られる。しかもその6,9α位置選択性(91%)及び4R選択性(88%)が極めて高い。反応式を以下に示す。
【0022】
【化11】
【0023】
同様にしてω−鎖を有する双環性エン化合物とのエン反応を行うと、対応するエン生成物が、極めて高い6,9α位置選択性(98%)及び4R選択性(96%)で、かつ、高収率で得られる。そして、得られたエン生成物を、さらに種々の誘導体へと変換した。これらの工程をまとめて以下に示す。式中Rωは前記したとおりである。
【0024】
【化12】
【0025】
同様にホルムアルデヒドに代えて共役エナ−ル化合物を親エン体とするカルボニル−エン反応の不斉触媒化についても検討した。
【0026】
【実施例】
次に実施例をもって本発明を説明する。
実施例
アルゴン雰囲気下、モレキュラ−シ−ブス3A(MS3A,100mg)の塩化メチレン懸濁液に光学活性ビナフト−ル−チタン錯体(7)(0.1ミリモル,20モル%)及び、エン体(1)(0.5ミリモル)を加え、更にホルムアルデヒド(1〜5ミリモル)を加え、−30℃で終夜撹拌した。反応液をジエチルエ−テルで稀釈後、飽和NaHCO3水溶液にあけた。MS3Aを瀘別し、ジエチルエ−テル及び酢酸エチルで抽出、飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧下留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−(ヘキサン/酢酸エチル=4:1)で精製し、エン反応生成物(2,R2=CH2CH2OH)を収率61%で得た。(原料回収39%)
この方法によって得られたイソカルバサイクリン誘導体(ビスシリルエ−テル)は次の通りである。
【0027】
【化13】
【0028】
【発明の効果】
新規誘導体を含めたイソカルバサイクリン誘導体を安価に製造することができる。
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