JP3631932B2 - ピストンリングの性能評価装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はピストンリングの性能評価装置に関し、特に疲労試験を行うためのピストンリングの性能評価装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のピストンリングの性能評価装置としては、ピストンリングの合口部をつかみ、合口部を拡げ縮める動作を繰返し行う装置が知られている。
【0003】
図4に示されるように、ピストンリング104の合口部104A、104Aはそれぞれ、性能評価装置に設けられている合口部保持部材105、106によって保持されている。合口部保持部材105、106間の距離を縮めたり拡げたりすることによって、合口部104A、104A間の距離を縮めたり拡げたりできるように構成されている。縮めたり拡げたりする動作を、ピストンリングが折損するまで繰返し続けることにより性能評価試験を行う。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のピストンリングの性能評価装置では、ピストンリングが実際にエンジンに組込まれ使用されている状態においてピストンリングに負荷される荷重とは異なった荷重のかけ方がなされていた。
【0005】
従来の性能評価装置では、ピストンリングの合口を拡げ縮める繰返し動作が行われるため、ピストンリングのアンティギャップ部、即ち、ピストンリングの合口から周方向に180゜回転した位置の部分に、所定の応力が負荷されるにすぎなかった。この応力は、使用時応力f2+α、即ち、エンジン内のピストンのピストンリング溝にピストンリングが挿嵌され、ピストンがシリンダ内に挿入され、ピストンが静止しているときにピストンリングに作用する使用時応力f2を、幾らか大きくしたものである。
【0006】
従って、エンジンに組込まれ使用されている状態において、ピストンの上昇、下降によって生じるであろうねじれやたわみは、従来の性能評価装置では想定されていなかった。従来の性能評価装置による試験は、単に、ピストンリングの材質における強度差の比較試験にすぎず、ピストンリングが従来の性能評価装置において折損するときの様相は、実際のエンジンに組み込まれたピストンリングが折損するときの様相とも異なっていた。
【0007】
そこで本発明は、実機で使用される状態と同様の状態で、ピストンリングの性能評価を行うことができるピストンリングの性能評価装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、ピストンリングを支持するためのピストンリング支持台と、該ピストンリング支持台上に載置され、ピストンリングの外周を当接支持するピストンリング外周当接部材と、該ピストンリング支持台上に支持され該ピストンリング外周当接部材に当接しているピストンリングを、軸方向に繰返し押圧変形させるため、該ピストンリング支持台に対して往復移動可能に設けられた押し冶具とを備え、該ピストンリング支持台には凹部が形成され、該凹部は、ピストンリングの一方の軸端面のうち外周面付近のみを支持するための、該ピストンリング外径より僅かに小さな円形の開口部を有し、該ピストンリング当接部材には、該ピストンリングの外周面と当接する貫通孔が形成され、該貫通孔は該開口部と同軸的に配置され、また該貫通孔の内径は該開口部の直径より僅かに大きく且つ該ピストンリングの外径と略同一であり、該押し冶具は、該ピストンリングの他方の軸端面のうち、該開口部の内周よりも半径方向内側の位置を押圧する押圧部が設けられているピストンリングの性能評価装置を提供している。
【0009】
ここで、該押圧部は先細り状のテーパ面をなすことが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の実施の形態によるピストンリングの性能評価装置について図1乃至図2に基づき説明する。性能評価装置は、ピストンリング4の疲労試験を行うための装置であり、図1に示されるように、鉛直方向下側から上側に向かって順に設けられた3つの部材、即ち、ピストンリング支持台1とピストンリング外周当接部材2と押し冶具3とから構成されている。これらの3つの部材は、公知の油圧式疲労試験機の構成部材として用いられているものである。ピストンリング支持台1は、その鉛直方向上側の部分に、水平な平面1Aを有しており、平面1Aには延長方向下方向に向かって窪んだ、円柱形状の凹部1aが形成されている。凹部1aは、鉛直上方向に向かって開口する円形の開口部1bを有している。
【0011】
ピストンリング外周当接部材2は、その鉛直方向下側の部分に、水平な平面2Aを有しており、平面2Aは、ピストンリング支持台1の平面1Aと面で当接している。ピストンリング外周当接部材2には、ピストンリング外周当接部材2を鉛直上下方向に貫通する、円柱形状の貫通孔2aが形成されている。貫通孔2aと凹部1aの開口部1bとは同軸的な位置関係にあり、貫通孔2aの半径は、開口部1bの半径よりも0.75mm大きい。また、貫通孔2aの直径は、性能評価試験されるピストンリング4が実際に図示せぬエンジン内のピストンのピストンリング溝に挿嵌されシリンダ内で使用された場合のピストンリング4の外径に等しい。貫通孔2aの半径と開口部1bの半径とが異なっていることから、ピストンリング支持台1の開口部1b付近は段部1Bをなしている。
【0012】
貫通孔2aには、図1に示されるように、性能評価試験の行われるピストンリング4が貫通孔2aと同軸的に挿嵌される。ピストンリング4が挿嵌されているときには、ピストンリング4の外周面4Aは、貫通孔2aの内周面に当接している。又、ピストンリング4の鉛直下側の軸端面4Bの一部であって外周面4Aの付近の部分は、段部1Bに当接している。これらの当接によって、結果的にピストンリング4は、ピストンリング支持台1とピストンリング外周当接部材2とによって支持され、水平方向及び垂直方向に位置決めされている。
【0013】
貫通孔2aの鉛直上方には、開口部1b及びピストンリング4に対して同軸的に往復移動可能な押し冶具3が設けられている。押し冶具3は図示せぬ動力源と接続されており、図示せぬ動力源から動力が伝達されることによって往復移動可能に構成されている。押し冶具3の鉛直下側の部分には、略円柱形状をしたピストンリング当接部3Aが、開口部1b及びピストンリング4に対して同軸的に設けられている。押し冶具3とピストンリング当接部3Aとは一体に移動可能に構成されている。ピストンリング当接部3Aは水平方向の断面で見たときに、いずれの部分においても円形をしている。
【0014】
ピストンリング当接部3Aの鉛直下側の端部には、水平な平面をなす下底面3Bが設けられており、更に、下底面3Bの略鉛直上方向から下底面3Bに向かって先細り状をしたテーパ面3Cが設けられている。テーパ面3Cが設けられているため、ピストンリング当接部3Aの鉛直下側の端部は、裁頭円錐形になっている。図1の波線で示される、下底面3Bを延長した面と、テーパ面3Cとのなす角は7.5゜である。この角度は、ピストンリング4が図示せぬ実際のエンジン内のピストンリング溝に挿嵌され使用されて、図示せぬピストンリング溝の面が摩耗しラッパ状になったときの、ピストンリング溝の角度と同じである。なお、本実施の形態では、ピストンリングの鉛直下側の軸端面と鉛直上側の軸端面とが平行であるものを用いたが、ピストンリングの鉛直上側の軸端面にテーパの付与されているもの(キーストンリング)を用いた場合には、図1の波線で示される下底面3Bを延長した面とテーパ面3Cとのなす角を、7.5°に更にテーパの角度を加えた値とする必要がある。テーパ面3Cが設けられている部分以外のピストンリング当接部3Aの外径は、ピストンリング支持台1に形成された凹部1aの開口部1bの内径よりも3mm小さい。テーパ面3Cは、ピストンリング4を押圧する押圧部に相当する。
【0015】
ピストンリング当接部3Aは、鉛直下方向に移動しピストンリング4に当接した後、所定の力でピストンリング4を押圧し変形させる。ピストンリング4が押圧されているときには、図2に示されるように、ピストンリング4は断面が略逆ハの字形に変形している。なお図2は、本発明の理解を容易とするために、ピストンリング4の変形を誇張して図示したものである。ピストンリング4はピストンリング当接部3Aに設けられたテーパ面3C上の当接線3D(荷重作用線)で当接している。当接線3Dは、水平な平面で見た場合に、ピストンリング4と同軸的な円周をなしており、実際には、テーパ面3Cとピストンリング4とはこの円周で当接している。当接線3Dからなる円周の直径は開口部の1bの内径よりも小さく、当接線3Dからなる円は開口部1bの半径方向内側に同心的に位置している。押し冶具3は、ピストンリング4に対して同軸的に鉛直上下方向に往復移動することによって、押し冶具3のピストンリング4に対する押圧荷重が変化されるように構成されている。押し冶具3はピストンリング4へ、最大で5000kgの荷重負荷が可能である。押し冶具3の往復移動のサイクルは最大で50Hz程度であり、それ以下であれば任意の値を選択できるように構成されている。押し冶具3を往復移動させる図示せぬ動力源は、押し冶具3によるピストンリング4への押圧荷重の変位をグラフで表した場合に、少なくともsin波で示される荷重変化と、sin波と台形波とを合成した波となる荷重変化とを選択的に発生することが可能であるように構成されている。
【0016】
性能評価装置を用いてピストンリング4の疲労試験を行う際には、前段階準備として、性能評価装置によって発生される静的な荷重とその荷重に対してピストンリング4が受ける応力との関係を求めておく。ここで、静的な荷重とは、押し冶具3がピストンリング4を押圧している状態となる所定の位置まで押し冶具3を移動して静止させて、ピストンリング4を押し冶具3が一定の荷重で押圧している状態における荷重のことである。この前段階準備を行うのは、押し冶具3が往復運動を行う動的な試験を行っているときに、荷重、応力のそれぞれに着目したデータの整理ができるようにするためである。
【0017】
疲労試験は、ピストンが上死点の位置にきた際に受けるであろう荷重を想定し、押し冶具3のピストンリング当接部3Aがピストンリング4に常に当接した状態で押し冶具3が往復移動され、ピストンリング4への荷重負荷が行われる。ピストンリング4が折損するまで、押し冶具3の往復移動は続けられる。ガソリン機関に用いられるピストンリングの試験を行う場合には、押し冶具3による荷重負荷の変位がsin波となるように、押し冶具3が往復移動させられる。ディーゼル機関に用いられるピストンリングの試験を行う場合には、押し冶具3による荷重負荷の変位が、sin波に台形波を合成した波となるように、押し冶具3が往復移動させられる。ディーゼル機関用のピストンリングの場合に、sin波に台形波を合成するのは、ディーゼルエンジンにおけるエキゾーストブレーキによりピストンリングがピストンに強く押しつけられる傾向にあることを考慮したものである。押し冶具3を往復移動させるサイクルは、実際のエンジンの回転数に対応する値とする。具体的には、エンジンの回転数が2000、3000、4000、5000rpmである場合に対応する試験を行う場合には、それぞれ17、25、33、42Hzとする。
【0018】
性能評価装置におけるピストンリングの状態を、実際のエンジンに組込まれた状態と略同じ状態とした。このため、実際のエンジンの中でピストンリングが受ける応力を、性能評価装置において再現することができる。ここで、実際のエンジンの中でピストンリングが受ける応力とは、2つの応力のことであり、1つは、ピストンに形成されたピストンリング溝にピストンリングが挿嵌され、ピストンがシリンダに組込まれ、ピストンが静止しているときにピストンリングがシリンダから常時受ける使用時応力f2である。もう1つは、実際のエンジン内でピストンがシリンダ内を上下することによって生ずるピストンリングのねじれやたわみを発生させる応力とのことである。ねじれやたわみの量については、テーパ面3Cを上述の角度としたことにより、実際のエンジン内でピストンリングが使用されている状態と同様とすることができる。又、性能評価装置を構成する、ピストンリング支持台1とピストンリング外周当接部材2と押し冶具3とは、公知の油圧式疲労試験機の構成部材として用いられているものであるため、本発明による性能評価装置のために特別に部材を製造せずにピストンリングの性能評価装置を構成することができ、製品の低コスト化を図ることができる。
【0019】
次に、本発明の第2の実施の形態によるピストンリングの性能評価装置について図3に基づき説明する。第2の実施の形態によるピストンリングの性能評価装置は、押し冶具3′のピストンリング当接部3A′の形状が第1の実施の形態によるピストンリング当接部3Aとは異なっており、これ以外は、第1の実施の形態によるピストンリングの性能評価装置と同じである。図3に示されるように、ピストンリング当接部3A′は円柱形状をしている。ピストンリング当接部3A′の鉛直下側の端部には、第1の実施の形態によるピストンリング当接部3Aとは異なり、テーパ面は設けられていない。従って、ピストンリング当接部3A′がピストンリング4を押圧する部分は当接線3D′であり、当接線3D′は、水平な平面で見ると円周をなしているが、この円周はピストンリング当接部3A′の下底面3B′の外周と一致する。当接線3D′は、凹部1aの開口部1bよりも半径方向内方に位置する。当接線3D′は押圧部に相当する。
【0020】
【発明の効果】
請求項1記載のピストンリングの性能評価装置によれば、ピストンリング支持台に対して往復移動可能に設けられた押し冶具によって、ピストンリングを軸方向に押圧変形させるようにしたため、実機におけるピストンリングの過酷な使用状態を、性能評価装置で再現することができる。このため、実機でのピストンリングにおける危険領域、即ち、ねじれ等による折損が生ずる領域を、性能評価装置による試験で判るようにすることができる。
【0021】
請求項2記載のピストンリングの性能評価装置によれば、押圧部が先細り状のテーパ面をなしているため、実機においてピストンリング溝が摩耗しピストンリング溝が拡げられることによってピストンリングの動きが大きくなった状態と同様の状態を、性能評価装置で再現し試験することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるピストンリングの性能評価装置を示す要部断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態によるピストンリングの性能評価装置の、押し冶具がピストンリングを押圧している状態を示す要部断面図。
【図3】本発明の第2の実施の形態によるピストンリングの性能評価装置の、押し冶具がピストンリングを押圧している状態を示す要部断面図。
【図4】従来のピストンリングの性能評価装置を示す正面図。
【符号の説明】
1 ピストンリング支持台
1a 凹部
1b 開口部
2 ピストンリング外周当接部材
2a 貫通孔
3、3′ 押し冶具
3C テーパ面
3D′ 当接線
4 ピストンリング
4A 外周面
4B 軸端面
Claims (2)
- ピストンリングを支持するためのピストンリング支持台と、
該ピストンリング支持台上に載置され、ピストンリングの外周を当接支持するピストンリング外周当接部材と、
該ピストンリング支持台上に支持され該ピストンリング外周当接部材に当接しているピストンリングを、軸方向に繰返し押圧変形させるため、該ピストンリング支持台に対して往復移動可能に設けられた押し冶具とを備え、
該ピストンリング支持台には凹部が形成され、該凹部は、ピストンリングの一方の軸端面のうち外周面付近のみを支持するための、該ピストンリング外径より僅かに小さな円形の開口部を有し、
該ピストンリング当接部材には、該ピストンリングの外周面と当接する貫通孔が形成され、該貫通孔は該開口部と同軸的に配置され、また該貫通孔の内径は該開口部の直径より僅かに大きく且つ該ピストンリングの外径と略同一であり、
該押し冶具は、該ピストンリングの他方の軸端面のうち、該開口部の内周よりも半径方向内側の位置を押圧する押圧部が設けられていることを特徴とするピストンリングの性能評価装置。 - 該押圧部は先細り状のテーパ面をなすことを特徴とする請求項1記載のピストンリングの性能評価装置。
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