JP3631188B2 - 液体組成物、インクセット及び被記録媒体に着色部を形成する方法 - Google Patents

液体組成物、インクセット及び被記録媒体に着色部を形成する方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カラー画像の形成において発色性と色の均一性に優れた画像を得る技術に関し、とりわけ、インクジェット記録方式を利用した画像形成に最適に使用できる液体組成物及びこれを用いたインクセット、被記録媒体に着色部を形成する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方法は、インクを飛翔させ、紙等の被記録媒体にインクを付着させて記録を行うものである。例えば、特公昭61−59911号公報、特公昭61−59912号公報及び特公昭61−59914号公報において開示されている、吐出エネルギー供給手段として電気変換体を用い、熱エネルギーをインクに与えて気泡を発生させることにより液滴を吐出させる方式のインクジェット記録方法によれば、記録ヘッドの高密度マルチオリフィス化を容易に実現することができ、高解像度及び高品位の画像を高速で記録することができる。
【0003】
ところで、従来のインクジェット記録方法に用いられるインクは、水を主成分とし、これにノズル内でのインクの乾燥防止、ノズルの目詰まり防止等の目的でグリコール等の水溶性高沸点溶剤を含有しているものが一般的である。そのためこのようなインクを用いて被記録媒体に記録を行った場合には、十分な定着性が得られなかったり、被記録媒体としての記録紙表面における填料やサイズ剤の不均一な分布によると推定される不均一画像の発生等の問題を生じる場合がある。一方、近年は、インクジェット記録物に対しても、銀塩写真と同レベルの高い画質を求める要求が強くなっており、インクジェット記録画像の画像濃度を高めること、色再現領域を広げること、更には記録物の色の均一性を向上させることに対する技術的な要求が非常に高くなっている。
【0004】
このような状況のもとで、インクジェット記録方法の安定化、そしてインクジェット記録方法による記録物の品質向上を図るために、これまでにも種々の提案がなされてきている。被記録媒体に関する提案のうちの一つとして、被記録媒体の基紙表面に、充填材やサイズ剤を塗工する方法が提案されている。例えば、充填材として色材を吸着する多孔質微粒子を基紙に塗工し、この多孔質微粒子よってインク受容層を形成する技術が開示されている。これらの技術を用いた被記録媒体として、インクジェット用コート紙等が発売されている。
【0005】
以下に、インクジェット記録方法の安定化、インクジェット記録方法による記録物の品質向上を図るためにこれまでになされた種々の提案について、その代表的なものの幾つかをまとめて示す。
(1)インクに揮発性溶剤や浸透溶剤を内添する方法;
被記録媒体へのインクの定着性を早める手段として特開昭55−65269号公報に、インク中に界面活性剤等の浸透性を高める化合物を添加する方法が開示されている。また、特開昭55−66976号公報には、揮発性溶剤を主体としたインクを用いることが開示されている。
(2)インクと反応する液体組成物を被記録媒体上でインクと混合する方法;
画像濃度の向上、耐水性の向上、更にはブリーディングの抑制を目的として、記録画像を形成するためのインクの噴射に先立ち或いは噴射後に、被記録媒体上に画像を良好にせしめる液体組成物を付与する方法が提案されている。
【0006】
例えば、特開昭63−60783号公報には、塩基性ポリマーを含有する液体組成物を被記録媒体に付着させた後、アニオン染料を含有したインクによって記録する方法が開示されており、特開昭63−22681号公報には、反応性化学種を含む第1の液体組成物と該反応性化学種と反応を起こす化合物を含む第二の液体組成物を被記録媒体上で混合する記録方法が開示されており、更に特開昭63−299971号公報には、1分子当たり2個以上のカチオン性基を有する有機化合物を含有する液体組成物を被記録媒体上に付与した後、アニオン染料を含有するインクで記録する方法が開示されている。また、特開昭64−9279号公報には、コハク酸等を含有した酸性液体組成物を被記録媒体上に付与した後、アニオン染料を含有したインクで記録する方法が開示されている。
【0007】
また、特開昭64−63185号公報には、染料を不溶化させる液体組成物をインクの付与に先立って紙に付与するという方法が開示されている。更に特開平8−224955号公報には、分子量分布領域の異なるカチオン性物質を含む液体組成物を、アニオン性化合物を含むインクと共に用いる方法が開示され、また、特開平8−72393号公報には、カチオン性物質と微粉砕セルロースを含む液体組成物をインクと共に用いる方法が開示されており、いずれも画像濃度が高く、印字品位、耐水性が良好で、色再現性、ブリーディングにおいても良好な画像が得られることが記載されている。また、特開昭55−150396号公報には、被記録媒体上に染料インクで記録した後に、染料とレーキを形成する耐水化剤を付与する方法が開示され、記録画像の耐水性を付与することが提案されている。
【0008】
(3)インクと微粒子含有液体組成物とを被記録媒体上で混合する方法;
特開平4−259590号公報に、無機物質からなる無色の微粒子を含有する無色液体を被記録媒体上に付与した後、非水系記録液を付着させる方法が開示され、特開平6−92010号公報には、微粒子を含む溶液、または微粒子及びバインダーポリマーを含む溶液を被記録媒体上に付与した後、顔料、水溶性樹脂、水溶性溶剤及び水を含むインクを付着させる方法が開示されており、また特開2000−34432公報には、水不溶性微粒子からなる液体組成物とインクとを含む記録材料が開示されており、いずれも紙種によらず印字品位や発色性の良好な画像が得られることが記載されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記したような各種のインクジェット記録技術について検討を重ねた結果、各々の技術課題に対しては優れた効果を確認できるものの、それと引き換えに、他のインクジェット記録特性が低下してしまう場合があることを見出した。例えば、上記した被記録媒体の基紙表面に充填材やサイズ剤を塗工して得られる被記録媒体(以降コート紙という)は、高品質な画像を形成することができる技術として認知されているが、下記に述べるような技術的課題がある。
【0010】
一般に、高彩度の画像を得るためには、色材を凝集させずに単分子状態で被記録媒体の表面に残すことが必要であることは知られている。コート紙の多孔質微粒子には、このような機能がある。しかしながら、高い画像濃度と画像彩度を得るためには、与えられたインク中の色材に対して、多量の多孔質微粒子で、基紙を覆い隠すような厚いインク受容層の形成が不可欠となり、結果として、基紙の質感が失われてしまうという問題がある。これに対し、本発明者らは、このように基紙の質感を失う程のインク受容層が必要なのは、色材が、多孔質微粒子に効率的に吸着していないことに起因すると推測した。
【0011】
この点について、一層のインク受容層を有するコート紙を想定して、以下に説明する。図9は、コート紙表面付近の断面を模式的に示したものである。同図において、901は基紙であり、903はインク受容層を示す。一般に、インク受容層903は、多孔質微粒子905とそれらを固定化する接着剤907を有する。インクが付与されると、インクは多孔質微粒子905間の空隙を毛管現象によって浸透し、インク浸透部909を形成する。同図に示したように、インク受容層903での多孔質微粒子905は局所的には密度が異なるため、この毛管現象によるインクの浸透の仕方は場所によって異なる。このため、インクの浸透過程において、色材は多孔質微粒子表面に均一には接触できず、色材が効率的に多孔質微粒子に吸着されない。
【0012】
更に、インク受容層を構成している接着剤907によってインクの浸透が阻害される部分も生じており、インク受容層903内にはインクが浸透できない部分が存在し、発色には寄与しない部分が発生する。即ち、従来のコート紙においては、上記のような理由により、多孔質微粒子の量に対して効率的に色材を単分子状態で吸着することができず、この結果、高品質の画像を得るためには多量の多孔質微粒子が必要となり、基紙の質感を損なうこととなっていたと考えられる。
【0013】
更に、本発明者らの検討によれば、前記した(1)に分類される技術を採用することで、インクの被記録媒体への定着性は向上するものの、画像濃度の低下や、普通紙への記録やカラー画像の記録に重要とされる色再現範囲が低下してしまう場合があることがわかった。また、本発明者らの検討によれば、前記した(2)に分類される技術によれば、インク中の色材を被記録媒体表面に留めることができるため、高い画像濃度の記録物を得ることができるが、色材を被記録媒体の表面で凝集させているためか、色の再現範囲や彩度が十分に得られない場合があった。また、前記の(3)で説明した従来技術では、微粒子を含む溶液の付与により被記録媒体の表面状態の改質は得られたものの、コート紙と同等レベルの高精彩な画像は得られなかった。更に特に、非水系記録液に関しては、色材の選択性や記録付与方法等の制限もあり、その自由度に課題が残る。このように、従来の方法にはいずれも課題が残されているため、本発明者らは、近年において求められているより一層の高品位なインクジェット記録物に対しては、新たなインクジェット記録技術の開発が必要であるとの認識を持つに至った。本発明は、これらの認識に基づき為されたものである。
【0014】
本発明者らは、以上のような新たな知見に基づき、色材を吸着する作用を有する微粒子を用い、且つ該微粒子に効率的に色材を吸着若しくは結合させるために、該微粒子を分散させ、インクと共に液体状態で用いることにより、色材と微粒子とを液−液状態で反応させることが可能となり、その結果として画像の濃度や彩度を向上させることができることを見出し、本発明を為すに至った。
【0015】
従って本発明の目的は、特に発色性に優れるより高品質なインクジェット記録物を得ることができる液体組成物を特定することができる液体組成物に起因する細孔物性の測定方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、より一層広い色再現範囲を有し、色の均一性にも優れた高品質なインクジェット記録物を得るために用いられる液体組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、より一層広い色再現範囲を有し、色の均一性にも優れ、更にベタ部のスジムラが少なく、良好な耐擦過性をも備えた、優れたインクジェット記録物を普通紙に対しても形成することができる被記録媒体に着色部を形成する方法を提供する点にある。
また、本発明の他の目的は、より一層色再現範囲が広く、色の均一性にも優れ、ベタ部のスジムラの発生が良好な状態に抑制された耐擦過性にも優れたインクジェット記録物を形成することのできる液体組成物、該液体組成物を組み合わせたインクセットを提供することにある。
更に本発明の他の目的は、保存安定性や、記録ヘッドからの吐出安定性にも優れるインクジェット記録特性に優れる液体組成物を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的に鑑み、色材を吸着する作用を有する微粒子を含んでいる液体組成物とインクとを液−液状態で接触せしめる工程を含むインクジェット記録のより一層の改良を目指して検討を重ねた。その過程で、本発明者らは、当初は、液体組成物中の微粒子の粒径が大きくなる程、印字物の発色性も向上していくとの認識を有していた。しかし、実験を更に進めていくと、微粒子の粒径が小さい場合にも良好な発色性の画像が得られる場合があり、この認識が必ずしも正確でない可能性があるとの結論に至った。
【0017】
そこで、本発明者らは、さらに検討を重ねた結果、液体組成物中で分散している微粒子が、被記録媒体の表面近傍で凝集して形成される微粒子凝集物の細孔物性、具体的には、細孔半径や細孔容積が、印刷物の発色性と密接な関連を有しているものと推定した。そこで、上記した推定に基づき、本発明者らは、液体組成物から形成される微粒子凝集物の正確な細孔物性を求めるべく鋭意研究を重ねたところ、液体組成物を所定の方法で前処理し、その結果得られる微粒子凝集物の細孔物性値が、印刷物の発色性と極めて強い相関を示すことを見出して、下記に述べる構成を有する本発明を達成するに至ったものである。以上のように、本発明は、上記した検討プロセスを経て漸くなされたものである。
【0019】
発明の実施態様は、色材を含むアニオン性若しくはカチオン性の水性インクと共に被記録媒体に付与し、該被記録媒体上に着色部を形成するのに用いられる液体組成物であって、該液体組成物が溶媒と、該水性インクに対して逆極性に表面が帯電しており、該色材と反応性を有する微粒子(色材を除く)を少なくとも含み、且つ該液体組成物から形成される微粒子凝集物の細孔物性を、該液体組成物を下記(1)〜(3)の順に従って前処理した後、120℃で8時間真空脱気して該液体組成物から形成される微粒子凝集物の細孔物性を窒素吸着脱離法により測定した際に、微粒子凝集物の細孔半径が3nm〜30nmの領域の細孔容積が0.4ml/g以上であり、細孔半径が30nmを越える領域での細孔容積が0.1ml/g以下であることを特徴とする液体組成物を提供する。
(1)上記液体組成物を大気雰囲気下120℃で10時間乾燥してほぼ溶媒分を蒸発させて乾燥する;
(2)上記乾燥物を120℃から700℃まで1時間で昇温させた後700℃で3時間焼成する;及び
(3)焼成後、上記焼成物を徐々に常温に戻し焼成物を粉体化する。
【0020】
また本発明の他の実施態様は、色材を含むインク及び該色材と反応性を有する微粒子を含む液体組成物とを独立に備えているインクセットであって、該液体組成物が上記の液体組成物であることを特徴とするインクセットを提供する。
【0021】
また本発明の他の実施態様は、(i)色材を含むインクを被記録媒体に付与する工程及び(ii)液体組成物を被記録媒体に付与する工程とを有する被記録媒体に着色部を形成する方法であって、該インクと該液体組成物が上記に記載のインクセットを構成するインクと液体組成物であることを特徴とする被記録媒体に着色部を形成する方法を提供する。
被記録媒体に着色部を形成する方法の好ましい実施形態としては、上記において、
1)工程( ii )を行なった後に、工程(i)を行なう被記録媒体に着色部を形成する方法
2)工程(i)を行なった後に、工程( ii )を行なう被記録媒体に着色部を形成する方法
3)工程(i)を行なった後に、工程( ii )を行ない、その後に再び工程(i)を行なう被記録媒体に着色部を形成する方法
が挙げられる。
【0024】
、本明細書において、「色材と微粒子との反応」とは、両者の共有結合の他、イオン的結合、物理的・化学的吸着、吸収、付着、その他の両者の相互作用を意味するものとする。
【0025】
【発明の実施の形態】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
被記録媒体に着色部を形成する方法の好ましい実施態様としては、(i)色材を含むインクを被記録媒体に付与する工程及び(ii)上記本発明の液体組成物を被記録媒体に付与する工程とを有し、且つ上記被記録媒体の表面において、インクと液体組成物とが互いに液体状態で接するように付与されるように構成することが挙げられる。かかる実施態様を採用することによって、より一層広い色再現領域を有し、色の均一性にも優れ、更にベタ部のスジムラが少なく、良好な耐擦過性をも備えたインクジェット記録物が安定して得られる。
【0026】
更に上記目的を達成することのできる本発明のインクセットの一実施態様としては、色材を含むインク及び上記本発明の液体組成物とを組み合わせたものが挙げられる。このような実施態様のインクセットを用いれば、より一層広い色再現領域を有し、色の均一性にも優れ、更にベタ部のスジムラが少なく良好な耐擦過性をも備えたインクジェット記録物が安定して得られる。また、記録に用いるインクや液体組成物自体は、上記したように、その構成が極めてシンプルであるため、インク及び液体組成物は、いずれもその保存性に優れ、その結果として、高品質なインクジェット記録物が得られる画像形成を安定して行なうことができるという効果も得られる。
【0027】
本発明によって上記したような優れた効果が奏される理由は明らかでないが、本発明者らは、以下の理由によるものと考えている。これまで本発明者らは液体組成物とインクとが被記録媒体上で混ざり合う際に微粒子凝集物が被記録媒体の表面近傍に形成されるメカニズムを検討してきている。本発明者らによる当該メカニズムの更なる検討の結果、液体組成物の物性によって前記微粒子凝集物の内部に細孔を形成し、この細孔がある程度の大きさを有するときに、細孔の入口付近や細孔内部の内壁に色材が吸着することによってより一層の発色性の向上が図られることを見出した。
【0028】
上記メカニズムについてより具体的に説明するために 先ず、本発明における記録のメカニズムについて、図13及び14に従って説明する。尚、ここでは、インクとしてアニオン性基を有する水溶性染料(アニオン性染料)を含む水性インクを用い、同時に液体組成物として、表面がカチオン性に帯電している微粒子が分散状態で含まれている水性の液体組成物を用いた場合について説明する。
【0029】
以下に、本発明にかかる記録画像について、図13を用いて説明する。先ず、説明に先立ち、言葉の定義を行う。本発明において、「単分子状態」とは、染料や顔料等の色材が、インク中で溶解若しくは分散した状態をほぼ保っていることを指している。このとき、色材が多少の凝集を引き起こしたとしても、彩度が低下しない範囲であれば、この「単分子状態」に含まれることとする。例えば、染料の場合、単分子であることが好ましいと考えられるため、便宜上染料以外の色材についても「単分子状態」と呼ぶこととする。
【0030】
図13は、本発明にかかる記録画像の着色部Iが、主画像部IMとその周辺部ISとから成り立っている状態を模式的に示した図である。図13において、1301は被記録媒体、1302は被記録媒体の繊維間に生じる空隙を示す。また、1303は、色材1305が化学的に吸着する微粒子を模式的に示したものである。図13に示したように、本発明のインクジェット記録画像では、主画像部IMは、色材1305が、単分子或いは単分子に近い状態(以降「単分子状態」と略す)で均一に表面に吸着した微粒子1303と、色材の単分子状態を保持した微粒子の凝集物1307とで構成されている。1309は、主画像部IM内の被記録媒体繊維近傍に存在する、微粒子同士の凝集物である。主画像部IMは、被記録媒体繊維に微粒子1303が物理的または化学的に吸着する工程と、色材1305と微粒子1303とが液−液状態で吸着する工程によって形成されたものである。そのため、色材自体の発色特性が損なわれることが少なく、普通紙等のインクの沈み込み易い記録媒体においても、画像濃度や彩度が高く、コート紙並みの色再現範囲の広い画像の形成が可能となる。
【0031】
一方、微粒子表面1303に吸着されず、インク中に残った色材1305は、被記録媒体1301に対して横方向にも深さ方向にも浸透するため、周辺部ISにインクは微少な滲みを形成する。このように被記録媒体1301の表面近傍に色材が残り、且つ周辺部にインクの微少な滲みを形成させるために、シャドウ部やベタ部等のインク付与量が多い画像領域においても、白モヤや色ムラが少なく色の均一性に優れる。尚、図13に示したように、被記録媒体1301がインクや液体組成物の浸透性を有するものである場合には、本態様はインク成分や液体組成物成分の被記録媒体内部への浸透は必ずしも妨げられるものではなく、ある程度の浸透を許容するものである。
【0032】
更に本発明の液体組成物を用いた場合においては、被記録媒体の表面近傍に存在する微粒子凝集物1309が形成される際に、凝集物の内部にある程度の大きさの細孔が形成される。前述のインク中で単独に存在していた色材1305は被記録媒体内部へと浸透していく際に微粒子凝集物1309の細孔内部へと浸透し、細孔の入口付近や内壁に理想的な単分子状態で吸着して、色材をより多く被記録媒体の表面近傍に残留させることができる。これによってより一層優れた発色性の記録物を得ることができる。
【0033】
図14(1)〜(4)は、本発明にかかる被記録媒体に着色部を形成する方法の一実施態様の着色部1400の概略断面図及びその形成過程を説明する概略工程図である。同図において、1401はインクと液体組成物との反応物、例えば、色材と微粒子との反応物を主として含む部分(以降「反応部」と略す)であり、図13の主画像部IMに相当する部分である。1402は、液体組成物との反応に実質的に関与しなかったインクが、反応部1401の辺縁に流出することによって形成された部分(以降「インク流出部」と略す)であり、図13の周辺部ISに相当する。かかる着色部1400は、例えば、以下のようにして形成される。尚、同図に示した1405は、被記録媒体の繊維間に生じる空隙を模式的に表したものである。
【0034】
先ず、色材1404と反応性を有する液体組成物1406とが液滴として被記録媒体1403に付与され(図14(1))、その結果、液体組成物の液溜り1407が形成される(図14(2))。該液溜り1407内で、被記録媒体の繊維表面の近傍の微粒子1409は、被記録媒体の繊維表面に物理的または化学的に吸着する。この時、分散状態が不安定となって微粒子同士の凝集物1411を形成するものもあると考えられる。一方で、液溜り1407内の繊維より離れた部分では、微粒子1409は、もとの分散状態を保っていると考えられる。
【0035】
次いで、インク1413が、液滴として被記録媒体1403に付与される(図14(2))。その結果、先ずインク1413と液溜り1407の界面において色材1404は、微粒子1409に化学的に吸着する。この反応は、液同士の反応(液−液反応)であるため、色材1404は単分子状態で、微粒子1409の表面に均一に吸着すると考えられる(図14(3)−2)。即ち、微粒子表面では、色材同士は凝集を起こさないか或いは凝集しても僅かであると推測される。その結果、反応部1401の表層部に単分子状態で色材1404が吸着された微粒子が多数形成され、発色に最も影響を与える表面層に色材を単分子状態で残存させることができるため、高画像濃度であって、且つ彩度の高い記録画像が形成される。
【0036】
次いで、これら色材1404が吸着した微粒子は、分散状態が不安定となるため微粒子同士で凝集すると考えられる(図14(3)−2)。即ち、ここで形成された凝集物1415は、その内部にも単分子状態の色材を保持している。この凝集物1415により、高画像濃度、且つ高彩度の記録画像が形成される。
【0037】
更に未反応の色材1404の一部は、液溜り1407内を拡散し、未反応の微粒子1409の表面に吸着する。このように、液溜り1407内部で色材と微粒子との反応が更に進行するため、より高濃度で彩度の高い画像が形成される。先に説明した被記録媒体の繊維表面に形成された微粒子の凝集物1411には、液溜り1407の液相が、被記録媒体内へ浸透することを抑制する役割があると考えられる。このため、液溜り1407では、浸透が抑制された液体組成物中の微粒子1409と色材1404とがより多く混在することが可能となる。これにより、色材1404と微粒子1409との接触確率が高められ、反応が比較的均一に、且つ充分に進行し、より均一で、画像の濃度と彩度とに優れた画像が形成される。
【0038】
また、液体組成物1406が被記録媒体1403に付与された際(図14(1))や、液溜り1407にインク1413が付与された際には(図14(2))、微粒子1409を分散させている分散媒が変化することによって微粒子1409の分散が不安定となり、色材1404が吸着する前に微粒子1409間で凝集を起こすものも存在する。ここでいう分散媒の変化とは、2種若しくはそれ以上の異種の液体が混合したときに一般的に観察される変化、例えば、液相のpHや固形分濃度、溶剤組成、溶存イオン濃度等の物性変化を指し、液体組成物が被記録媒体やインクと接触した際にこれらの変化が急激かつ複合的に生じて、微粒子の分散安定性を破壊し、凝集物を生成するものと考えられる。
【0039】
これらの凝集物は、繊維間の空隙を埋める効果や、色材を吸着した微粒子を、より被記録媒体の表面近傍に残存させる効果をもたらすと推測される。また、これら液溜り1407内で形成された凝集物は、被記録媒体に吸着しているものもあれば、液相内を動ける(流動性を有する)ものも存在するが、流動性を有するものは、前述の色材と微粒子との反応過程と同様に、微粒子凝集物表面に色材が単分子状態で吸着し、より大きな凝集塊を形成し、これが発色性の向上に寄与しているものである。液相が繊維に沿って浸透する際に液相と共に移動し、空隙を埋めて被記録媒体の表面を平滑化し、より均一で高濃度の画像の形成に寄与すると考えられる。
【0040】
本発明によって高発色の画像が得られることは、後述の結果により明らかであるが、これは、上記したように、色材が単分子状態で微粒子若しくは微粒子凝集物に吸着され、その状態で被記録媒体の表面近傍に残ったためであると考えられる。色材が単分子状態で吸着し、被記録媒体の表面に残った微粒子は被記録媒体の表面に定着する。これにより画像の耐擦過性等の堅牢性が向上する。
【0041】
尚、これまで、液体組成物及びインクの順で、被記録媒体に付与した場合で説明してきたが、インクと液体組成物との液−液反応が達成されれば、インクと液体組成物との被記録媒体への付与順はこれに何ら限られるものでなく、インク次いで液体組成物の順であってもよい。更に図14(2)にも示した通り、被記録媒体に付与した液体組成物中の微粒子の少なくとも一部は、液媒体の被記録媒体内部への浸透に伴って、被記録媒体内部に浸透していると考えられる。
【0042】
他方、図14(4)に明示したように、色材が、先に浸透している微粒子に、単分子状態で吸着若しくは結合していることも十分に想定し得ることである。このように被記録媒体内部において、色材が単分子状態で吸着若しくは結合している微粒子も、発色性の向上に寄与していると考えられる。更にこのような液媒体の浸透により、定着性も向上すると考えられる。
【0043】
また、本発明の液体組成物を用いることにより、前述の被記録媒体の表面近傍に存在する微粒子凝集物1411が形成される際に、凝集物の内部にある程度の大きさの細孔が形成される。液溜り1407の中で微粒子1409に吸着しきれなかった色材1404は、被記録媒体内部へと浸透していく際に溶媒成分とともに細孔を通って微粒子凝集物1411の内部へと浸透するものもある。その際、色材1404は微粒子凝集物内の細孔の入口付近や細孔内壁に吸着し、溶媒成分のみが被記録媒体内部へと浸透していくことによって、色材をより多く微粒子凝集物1411の表面や内部に効率よく吸着させ、被記録媒体の表面近傍に残留させることができる。更に色材1404が染料の場合、微粒子凝集物1411の細孔直径は色材1404のインク中で存在している分子サイズの1〜数倍程度であるために、細孔内部に吸着した色材1404は、色材同士の凝集が極めて起こり難く、理想的な単分子状態を形成することが可能となる。このことが発色性の更なる向上に大きく寄与し、より一層広い色再現範囲を有する記録物を得ることができる。
【0044】
従って、以上より液体組成物中の微粒子1409が被記録媒体上で凝集したときにできる微粒子凝集物1411内部の細孔の大きさが、インクの発色性の更なる向上に密接に関連していることを見出した。本発明者らが検討を重ねた結果、微粒子凝集物1411の細孔物性は、液体組成物中に含まれる微粒子だけでなく、溶媒組成等によっても影響されることが分かり、液体組成物から微粒子凝集物を形成し、この微粒子凝集物のある特定の細孔半径領域における細孔容積が、被記録媒体上で形成される画像形成能と非常に相関性が高いことを見出した。
【0045】
更に本発明では、被記録媒体の表面で、微粒子と色材とを液相で反応させることにより、色材がアニオン性であるときは、極めて効率的にカチオン性微粒子表面に色材が吸着することとなる。ここで、インクジェット用コート紙において、本発明と同程度の色材吸着を達成しようとすると、多量のカチオン性多孔質微粒子が必要となり、基紙を覆い隠すような厚いインク受容層の形成が不可欠となる。そのために、コート紙では基紙の質感を損ねる結果に繋がるが、本発明の液体組成物を構成する微粒子の量は少なくできるため、被記録媒体の質感を損ねることなく、印字部と未印字部で質感において違和感のない画像形成が可能となる。
【0046】
更に、前述した(1)に分類される従来技術のように、色材自体の被記録媒体表面での残存量が十分で無かったり、前述した(2)に分類される従来技術のように色材の被記録媒体表面での残存量が十分であっても、色材同士を凝集させてしまうものではないのに対し、先に述べたように、本発明の構成によって得られるメカニズムでは、微粒子表面に吸着した色材が、微粒子と共に被記録媒体表面に残り、しかも、それらの色材が単分子状態を保持しているため、高発色な画像を得ることが可能となる。
【0047】
また、本発明は、微粒子を含む液体組成物とインクとを被記録媒体の表面に付与して画像を形成するという点において、前記した従来技術において(3)に分類して説明した、インクに微粒子含有液体組成物を外添する方法と一見類似しているかのように見える。しかし、本発明は、上記したように液体組成物と色材とを積極的に反応させ、液体組成物中の微粒子を色材の凝集(レーキ)を抑える手段として用いているのに対し、上記(3)に分類して説明した従来技術では、微粒子を含む溶液の付与の目的は、被記録媒体の表面状態の改質であり、極性の異なる微粒子とインク中の色材との間で化学的な反応を生じさせるという思想は何ら開示されていない。そして、そのメカニズムの差異に基づくと推測される、これらの記録技術にかかる記録物と、本発明によって得られる記録物との品質の差異は明白なものであった。
【0048】
以下、本発明を特徴づける液体組成物に起因する細孔物性の測定方法、インク及び液体組成物の構成について詳細に説明する。
先ず、本明細書におけるカチオン性のインク若しくはアニオン性のインクの定義について述べる。インクのイオン特性についていうとき、インク自体は荷電されておらず、それ自体では中性であることは、当該技術分野においてよく知られていることである。ここでいうアニオン性のインク若しくはカチオン性のインクとは、インク中の成分、例えば、色材がアニオン性基若しくはカチオン性基を有し、インク中において、これらの基がアニオン性基またはカチオン性基として挙動するように調整されているインクを指すものである。また、アニオン性またはカチオン性の液体組成物に関してもその意味は上記と同様である。
【0049】
[液体組成物に起因する細孔物性の測定方法]
本発明の液体組成物に起因する細孔物性の測定方法では、少なくとも微粒子と溶媒を含む液体組成物から得られる微粒子凝集物の、ある特定の細孔半径領域における細孔容積を測定する点に特徴がある。先ず、これらの細孔物性を測定するに当たり、対象とする液体組成物を以下の手順で前処理する。
(1)上記液体組成物を大気雰囲気下120℃で10時間乾燥してほぼ溶媒分を蒸発させて乾燥する。
(2)上記乾燥物を120℃から700℃まで1時間で昇温させた後700℃で3時間焼成する。
(3)焼成後、上記焼成物を徐々に常温に戻し焼成物を粉体化する。
ここで上記前処理を施す理由としては、乾燥によって液体組成物から微粒子凝集物を形成させ、焼成により溶媒成分を完全に除去して凝集物の内部の細孔を空にして空隙を形成するためである。
【0050】
本発明で用いる細孔半径と細孔容積の測定方法として、窒素吸着脱離法を好適に用いることができる。本発明で測定する対象となる微粒子凝集物の細孔のサイズは、細孔半径が3nm〜30nmの領域での細孔容積である。この領域における細孔容積が画像形成能に対し相関性が高い理由は明確ではないが、推測するに、この細孔半径より小さい領域では微粒子凝集物の内部への色材や溶媒成分の浸透が著しく低下し、細孔に起因した色材の吸着が少なく、実質的に発色性の向上に関与しないと考えられる。一方、この細孔半径の領域よりも大きな細孔では色材や溶媒成分の浸透が起こり易くなる反面、細孔の入口付近や内部に吸着した色材は細孔自体の光散乱の影響によって色材が光の吸収に関与しにくくなり、逆に発色性の低下が引き起こされると考えられる。
【0051】
よって、細孔半径が3nm〜30nmの領域と、30nmを越える領域での細孔容積を測定することが形成画像の発色性能の測定に効果的である。この領域における細孔物性の測定方法としては、窒素吸着脱離法による方法が最も適する。細孔半径と細孔容積は、前処理した試料を120℃8時間真空脱気した後、窒素吸着脱離法よりBarrettらの方法(J.Am.Chem.Soc.Vol73、373、1951)から求めることができる。更に好ましい測定方法としては、細孔半径が3nm〜20nmの領域と、20nmを越える領域での細孔容積を測定することである。この範囲では色材が染料である場合、特に、より一層の発色性の向上を測定するうえで好ましい。
【0052】
<液体組成物>
以下に本発明の液体組成物について説明する。
[液体組成物から得られる微粒子凝集物の細孔半径及び細孔容積]
本発明においては、前述の如く、画像を形成した場合における色材の速やかな浸透と細孔入口付近や内壁への吸着及び細孔内部での色材の凝集を防ぐ観点から、液体組成物から得られる微粒子凝集物の細孔半径(以下、単に細孔半径と呼ぶ)は、3nm〜30nmの範囲であることが好ましいと考えられる。また、発色性の向上に寄与するだけの色材を内部に取り込むためには同時にある程度の容量が必要である。また、細孔容積が増すことで微粒子凝集物内の細孔の数も増加すると考えられ、細孔内部への色材の吸着量だけでなく、細孔の入口付近での吸着量も増加すると考えられる。
【0053】
よってこれらの観点から、本発明に好適に用いられる液体組成物は、上記細孔半径が3nm〜30nmの範囲における細孔容積が0.4ml/g以上で、細孔半径が30nmを越える領域での細孔容積が0.1ml/g以下であるのが好ましい。細孔半径が3nmよりも小さい細孔では、色材や溶媒成分が細孔内部に浸透しにくく、実質的に微粒子凝集物の細孔が発色性の向上に寄与し得ない。また、細孔半径が30nmを越える領域において細孔容積が0.1ml/gを越える場合には光散乱が大きな細孔が多いために、細孔入口付近や内壁に吸着した色材が発色性に寄与しにくくなる。また、上記細孔半径の領域内での細孔容積が、この範囲未満では微粒子凝集物の内部へ浸透する色材や溶媒成分が少ないために、細孔の入口付近や内部に吸着する色材量が少なくなり、発色性の向上に対する寄与が低くなって好ましくない。
【0054】
より好ましい範囲としては細孔半径が3nm〜20nmの範囲における細孔容積が0.4ml/g以上で、細孔半径が20nmを越える領域での細孔容積が0.1ml/g以下あるのが好ましい。細孔が3nm〜20nmの半径の範囲に多く存在することによって特に色材に染料を用いた場合において、発色性は更に向上し、より一層広い色再現範囲を有する画像が形成できる。液体組成物から形成される微粒子凝集物の細孔半径や細孔容積は、含まれる微粒子の化学種や形状、大きさばかりでなく、溶剤種やその他の添加物及びそれらの組成比等により変化し、これらの条件を制御することによって微粒子凝集物の形成状態をコントロールできると考えられる。
【0055】
(微粒子)
本発明において、液体組成物中に含まれる微粒子に望まれる作用としては、1)インクと混合した際に、色材の本来持つ発色性を損なわずに、色材を吸着すること、
2)インクと混合した際或いは被記録媒体に付与された際に、分散安定性が低下して、被記録媒体の表面に残存すること、
等が挙げられる。これらの作用は、1種若しくは2種以上の微粒子によって達成されてもよい。
【0056】
1)の作用を満たすための性質として、例えば、微粒子が色材と逆のイオン性を呈することが挙げられる。これにより、微粒子は色材を静電的に吸着できる。色材がアニオン性の場合は、カチオン性の微粒子を用い、逆に色材がカチオン性の場合はアニオン性の微粒子が用いられる。イオン性以外に色材を吸着する要素としては、微粒子のサイズや質量或いは表面の形状が挙げられる。例えば、表面に多数の細孔を持つ多孔質微粒子は、特有の吸着特性を示し、細孔の大きさや形状等、複数の要素によって色材を吸着できる。
【0057】
2)の作用は、インクや被記録媒体との相互作用によって引き起こされる。このため、各構成により達成されればよいが、例えば、微粒子の性質として、インク組成成分や被記録媒体構成成分と逆のイオン性を呈することが挙げられる。また、インク中或いは液体組成物中に電解質を共存させることによっても、微粒子の分散安定性は影響を受ける。本発明において、上記1)と2)の作用のどちらか一方の作用が、瞬時に得られることが望ましい。更には上記1)と2)と両方の作用が、瞬時に得られることが好ましい。以下、夫々のイオン性微粒子を含有する液体組成物に関して、具体的に説明する。
【0058】
[カチオン性液体組成物]
カチオン性の液体組成物としては、例えば、カチオン性基を表面に有する微粒子と酸を含み、該微粒子が安定に分散されてなる液体組成物が挙げられる。本発明においては、カチオン性の液体組成物として、例えば、酸を含みpHが2〜7に調整されたもの、また、ゼータ電位が+5〜+90mVのものを好適に用いることができる。
【0059】
(pH及びゼータ電位について)
液体組成物のゼータ電位について述べる。ゼータ電位の基本原理について以下に示す。一般に、固体が液体中に分散している系において、固相の表面に遊離電荷がある場合、固相界面付近の液相には反対電荷の荷電層が電気的中性を保つように現れる。これは、電気的二重層と呼ばれ、この電気的二重層による電位差のことをゼータ電位と呼んでいる。ゼータ電位がプラスである場合、微粒子の表面はカチオン性を示し、マイナスではアニオン性を示す。一般に、その絶対値が高いほど微粒子間に働く静電的反発力が強くなり、分散性がよいといわれ、同時に微粒子表面のイオン性が強いことが考えられる。即ち、カチオン性微粒子のゼータ電位が高いほどカチオン性が強く、インク中のアニオン性化合物を引き付ける力が強いといえる。
【0060】
更に本発明者らが鋭意検討した結果、ゼータ電位が+5〜+90mVの範囲にある液体組成物を用いた場合に、被記録媒体上に形成してなる着色部が、特に優れた発色特性を呈することを見出した。その理由は定かではないが、おそらく、微粒子のカチオン性が適度であるために急速なアニオン性化合物(アニオン性色材)の凝集が起こらずに、アニオン性化合物が微粒子表面に薄く均一に吸着するので、色材が巨大なレーキを形成しにくく、その結果、色材本来の発色特性がより良好な状態で発現されるものと考えられる。更に本発明のカチオン性の液体組成物では、アニオン性化合物を微粒子表面に吸着した後も、微粒子が弱いカチオン性を呈しつつ分散不安定状態となることで、微粒子が凝集しながら被記録媒体中に存在するアニオン性のセルロース繊維等の表面に容易に吸着して、被記録媒体の表面近傍に残り易くなっていると考えられる。
【0061】
この結果、以下に挙げる、優れた効果が得られるものと考えられる。即ち、インクジェット用コート紙並みの優れた発色特性と、シャドウ部やベタ部等のインク付与量が多い画像領域において、白モヤや色ムラが少なく、色の均一性に優れたものとなる。また、コート紙と比べて極めて効率よく微粒子にアニオン性化合物が吸着し発色するために、カチオン性微粒子の付与量も少なくできるので、とりわけ普通紙に印字した場合には、紙の風合いを損なうことがなく、印字部の耐擦過性にも優れる。更により好ましい液体組成物のゼータ電位は+10〜+85mVであり、この範囲であれば、ベタ印字した際にドット間の境界が目立ち難くなり、ヘッドスキャンによるスジムラのより少ない良好な画像が得られる。更に、ゼータ電位が+15〜+65mVの範囲にあるカチオン性微粒子を含む液体組成物を使用すると、紙種に因らず、極めて優れた発色性を有する画像を得ることが可能となる。
【0062】
本発明のカチオン性の液体組成物のpHは、保存安定性とアニオン性化合物の吸着性の観点から、25℃付近で2〜7の範囲にあることが好ましい。このpHの範囲内においては、アニオン性のインクと混合した際に、アニオン性化合物の安定性を著しく低下させることがないため、アニオン性化合物同士の強い凝集を引き起こすことがなく、記録画像の彩度が下がったり、くすんだ画像となることを有効に防止することができる。また、上記範囲内であるとカチオン性微粒子の分散状態も良好であるので、液体組成物の保存安定性や記録ヘッドからの吐出安定性を良好に維持することができる。更にはインクと混合した際に、アニオン性物質がカチオン性微粒子表面に十分に吸着されるので、被記録媒体内部への色材の過度の浸透が抑えられ、優れた発色性のインクジェット記録物を得られる。より好ましいpHの範囲としては、pHが3〜6であり、この範囲では、長期保存による記録ヘッドの腐食を極めて有効に防止できると共に、印字部の耐擦過性もより一層向上する。
【0063】
(カチオン性微粒子)
次に、本発明にかかるカチオン性の液体組成物を構成する成分について述べる。第1の成分として挙げられるカチオン性の微粒子は、前記した作用効果を達成するために、液体組成物中に分散された状態において、微粒子自体の表面がカチオン性を呈することを要する。表面をカチオン性とすることによって、アニオン性のインクと混合した際に、アニオン性の色材が粒子表面に速やかに吸着し、色材の被記録媒体内部への過度の浸透が抑えられるので、十分な画像濃度のインクジェット記録物が得られる。これに対し、微粒子表面がカチオン性でなく、且つ液体組成物の中で、水溶性のカチオン性化合物と別々に存在しているような場合には、カチオン性化合物を中心に色材が凝集を起こし、色材自体の発色特性を損なうために、インクジェット用コート紙並みの発色性を達成することは困難となる。そのため、本発明にかかる液体組成物に用いられる微粒子は、その表面がカチオン性である必要があるが、本質的にカチオン性である微粒子は勿論のこと、本来は静電的にアニオン性或いは中性である微粒子であっても、処理によって表面がカチオン化された微粒子であれば、本発明の液体組成物の構成材料として好適に用いることができる。
【0064】
本発明で好適に用いられるカチオン性微粒子としては、被記録媒体上で形成されるこれらの微粒子による凝集物に、細孔が形成されるものであれば本発明の目的を十分に達成できるので、特に微粒子の材料種に限定はない。一例として具体例を挙げるとすれば、例えば、カチオン化した、シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカボリア、セリア、マグネシア、シリカマグネシア、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト等や、これらの複合微粒子や有機微粒子、無機有機複合微粒子等が挙げられる。そして、本発明の液体組成物においては、これらの中から単独で、或いは二種以上混合して使用することができる。
【0065】
上記した中でもアルミナ水和物からなる微粒子は、特に、粒子表面が正電荷を有しているため好ましく、更に、X線回折法でべーマイト構造を示すアルミナ水和物を用いれば、優れた発色性や色の均一性、保存安定性等の点で好ましい。アルミナ水和物は、下記の一般式により定義される。
Al3−n(OH)2n・mH
(但し、上記式中、nは0〜3の整数の一つを表し、mは0〜10、好ましくは0〜5の値を有する。mHOの表現は、多くの場合に結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相を表すものであり、そのために、mは、整数でない値をとることもできる。但し、mとnは同時に0とはならない。)
【0066】
一般に、ベーマイト構造を示すアルミナ水和物の結晶は、その(020)面が巨大平面を形成する層状化合物であり、X線回折図形に特有の回折ピークを示す。完全ベーマイトの他に、擬ベーマイトと称する、過剰な水を(020)面の層間に含んだ構造をとることもできる。この擬ベーマイトのX線回折図形は、完全ベーマイトよりもブロードな回折ピークを示す。
ベーマイトと擬ベーマイトは明確に区別のできるものではないので、本発明では特に断わらない限り、両者を含めてベーマイト構造を示すアルミナ水和物(以下、単にアルミナ水和物)と呼ぶ。(020)面が面間隔及び(020)の結晶厚さは、回折角度2θが14〜15°に現れるピークを測定して、ピークの回折角度2θと半値幅Bから、面間隔は、ブラッグ(Bragg)の式で、結晶厚さはシェラー(Scherrer)の式を用いて求めることができる。(020)の面間隔は、アルミナ水和物の親水性・疎水性の目安として用いることができる。本発明で用いるアルミナ水和物の製造方法としては、特に限定されないが、ベーマイト構造をもつアルミナ水和物を製造できる方法であれば、例えば、アルミニウムアルコキシドの加水分解や、アルミン酸ナトリウムの加水分解等の公知の方法で製造することができる。
【0067】
特開昭56−120508号公報に開示されているように、X線回折的に無定形のアルミナ水和物を、水の存在下で50℃以上で加熱処理することによってベーマイト構造に変えて用いることができる。特に好ましく用いることができる方法は、長鎖のアルミニウムアルコキシドに対して酸を添加して加水分解・解膠を行うことによってアルミナ水和物を得る方法である。ここで、長鎖のアルミニウムアルコキシドとは、例えば、炭素数が5以上のアルコキシドであり、更に炭素数12〜22のアルコキシドを用いると、後述するように製造過程におけるアルコール分の除去及びアルミナ水和物の形状制御が容易になるため好ましい。
【0068】
添加する酸としては、有機酸及び無機酸の中から1種または2種以上を自由に選択して用いることができるが、加水分解の反応効率及び得られたアルミナ水和物の形状制御や分散性の点で、硝酸が最も好ましい。この工程の後に水熱合成等を行って粒子径を制御することも可能である。硝酸を含むアルミナ水和物の分散液を用いて水熱合成を行うと、水溶液中の硝酸がアルミナ水和物表面に硝酸根として取り込まれ、該水和物の水分散性を向上させることができる。
【0069】
上記アルミニウムアルコキシドの加水分解による方法は、アルミナヒドロゲルやカチオン性アルミナを製造する方法と比較して、各種イオン等の不純物が混入し難いという利点がある。更に長鎖のアルミニウムアルコキシドは加水分解後の長鎖のアルコールが、例えば、アルミニウムイソプロポキシド等の短鎖のアルコキシドを用いる場合と比較して、アルミナ水和物の脱アルコールを完全に行うことができるという利点もある。加水分解の開始時の溶液のpHを6未満に設定することが好ましい。またpHが8以下であれば、最終的に得られるアルミナ水和物が結晶質となることを有効に抑えることができる。
【0070】
また、本発明で用いられるアルミナ水和物としては、X線回折法でベーマイト構造を示すものであれば、二酸化チタン等の金属酸化物を含有したアルミナ水和物を用いることもできる。二酸化チタン等の金属酸化物の含有比率はアルミナ水和物の0.01〜1.00質量%が光学濃度が高くなるので好ましく、より好ましくは0.13〜1.00質量%であり、色材の吸着速度が速くなって、滲みやビーディングが発生し難くなる。更に、前記二酸化チタンはチタンの価数が+4価であることが必要である。二酸化チタンの含有量は硼酸に融解してICP法で調べることができる。また、アルミナ水和物中の二酸化チタンの分布とチタンの価数はESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)を用いて分析することができる。
尚、ESCAとは、ナノオーダーレベルでの物体表面の元素の化学結合状態を調べることのできる表面分析装置である。
【0071】
アルミナ水和物の表面をアルゴンイオンで100秒及び500秒エッチングして、チタンの含有量の変化を調べることができる。二酸化チタンはチタンの価数が+4価よりも小さくなると、二酸化チタンが触媒として働くようになって印字物の耐候性が低下したり、印字部の黄変が起こり易くなることがある。
【0072】
二酸化チタンの含有はアルミナ水和物の表面近傍だけでもよく、内部まで含有していてもよい。また、含有量が表面から内部にかけて変化していてもよい。表面のごく近傍にのみ二酸化チタンが含有されていると、アルミナ水和物の電気的特性が維持され易いので、更に好ましい。
【0073】
二酸化チタンを含有したアルミナ水和物の製造方法としては、例えば、学会出版センター刊「表面の科学」第327頁(田丸謙二編、1985年)に記載されているような、アルミニウムアルコキシドとチタンアルコキシドの混合液を加水分解して製造する方法が好ましい。その他の方法としては前記アルミニウムアルコキシドとチタンアルコキシドの混合液を加水分解するときに、結晶成長の核としてアルミナ水和物を添加して製造することもできる。
【0074】
二酸化チタンの代わりにシリカ、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、硼素、ゲルマニウム、錫、鉛、ジルコニウム、インジウム、燐、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム等の酸化物を含有させて用いることができる。例えば、シリカを含有したアルミナ水和物は印字部の耐擦過性の向上に効果がある。
【0075】
本発明に好適に用いられるアルミナ水和物の(020)面の面間隔は0.614〜0.626nmの範囲が好適に用いられ、この範囲内では液体組成物中でのアルミナ水和物粒子の分散安定性が良好で、保存安定性や吐出安定性に優れた液体組成物が得られる。この理由は定かでないが、(020)面の面間隔が上記範囲内であれば、アルミナ水和物の疎水性及び親水性の量比率が適度な範囲であるため、液体組成物中で粒子同士の適度な反発による分散安定や吐出口内部での濡れ性のバランスが適度であることにより、液体組成物の吐出安定性が良好になるものと推測している。
【0076】
また、アルミナ水和物の(020)面の結晶厚さは4.0〜10.0nmの範囲が好ましく、この範囲内であると透明性や色材の吸着性が優れるために好ましい。本発明者らの知見によれば、(020)面の面間隔と(020)面の結晶厚さは相関があるので、(020)面の面間隔が上記範囲内であれば(020)面の結晶厚さを4.0〜10.0nmの範囲に調整することができる。
【0077】
更に、上記アルミナ水和物や金属アルミニウム、アルミニウム塩等をカ焼等の熱処理により生成されるアルミナ(酸化アルミニウム)も同様に正電荷を持つため好適に用いられる。アルミナとしては、α型、γ型、更にδ、χ、η、ρ、β型等の結晶状態を持つものがあり、表面がカチオン性に保たれた形で、水中にて安定的に分散するものであればいずれも用いることができる。中でもγ型は、表面が活性で、色材の吸着力が高く、比較的微粒化された安定な微粒子分散体も形成し易いため、発色性や保存性、吐出安定性等に優れ、好適に用いることができる。
【0078】
また、本発明で使用する上記したようなカチオン性微粒子は、印字後の発色性、色の均一性及び保存安定性等の観点から、動的光散乱方式により測定される平均粒子直径が0.005〜1μmの範囲のものが好適に用いられる。この範囲内では、被記録媒体内部への過度の浸透を有効に防ぐことができ、発色性や色の均一性の低下を抑えることができる。また、カチオン性微粒子が液体組成物中で沈降することも抑えられ、液体組成物の保存安定性の低下も有効に防止することができる。より好ましくは平均粒子直径が0.01〜0.8μmの範囲内のものであり、このような微粒子を用いれば、被記録媒体に印字した後の画像の耐擦過性や記録物の質感が特に好ましいものとなる。更に好ましくは、平均粒子直径が0.03〜0.3μmの範囲内のものであり、このような微粒子は被記録媒体上で形成される微粒子凝集物の細孔が、目的とする細孔半径領域において効果的に形成し易いため好ましい。
【0079】
(カチオン性微粒子の細孔物性・形状)
また、本発明で使用する上記したようなカチオン性微粒子は、被記録媒体上で形成される微粒子凝集物の細孔を効率的に形成すると同時に、微粒子自体の表面に色材を効率よく吸着させるうえにおいて、前記した窒素吸着脱離法における微粒子の極大細孔半径が2〜12nmで、全細孔容積が0.3ml/g以上であるものが好ましい。より好ましくは微粒子の極大細孔半径が3〜10nmで、全細孔容積が0.3ml/g以上であるものが、被記録媒体上で形成される微粒子凝集物の細孔が、目的とする細孔半径領域において効果的に形成され易いため好ましい。
【0080】
本発明で使用する上記微粒子のBET比表面積が70〜300m/gの範囲内であると、微粒子表面への色材の吸着点が十分存在することによって、単分子状態で色材をより効果的に被記録媒体の表面近傍に残し易くなり、発色性の向上に寄与する。
【0081】
また、本発明で使用する微粒子の形状は、微粒子をイオン交換水に分散させてコロジオン膜上に滴下して測定用試料を作製し、透過型電子顕微鏡で観察して求めることができる。本発明においては被記録媒体上で微粒子凝集物を形成させる際に凝集物内に細孔を形成させる点で、微粒子形状が針状や平板形状、若しくは球状の1次粒子が、ある方向性を持って繋がった二次粒子を形成している棒状やネックレス状等の非球形状のものを好適に用いることができる。
【0082】
本発明者らの知見によれば、平板状の形状の方が針状や毛状束(繊毛状)よりも水への分散性がよく、微粒子凝集物を形成した場合に微粒子の配向がランダムになるために細孔容積が大きくなるのでより好ましい。ここで毛状束形状とは針状の微粒子が側面同士を接して髪の毛の束のように集まった状態をいう。特に本発明で好ましく用いることができるアルミナ水和物の中でも擬ベーマイトには前記文献(Rocek J., etal, Applied Catalysis,74巻、29〜36頁、1991年)に記載されたように、繊毛状とそれ以外の形状があることが一般に知られている。
【0083】
平板形状の粒子のアスペクト比は、特公平5−16015号公報に定義されている方法で求めることができる。アスペクト比は、粒子の厚さに対する直径の比で示される。ここで直径とは、アルミナ水和物を顕微鏡または電子顕微鏡で観察したときの粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径を示すものとする。縦横比はアスペクト比と同じように観察して平板面の最小値を示す直径と最大値を示す直径の比で表わされる。また、毛状束形状の場合には、アスペクト比を求める方法は、毛状束を形成する個々の針状のアルミナ水和物粒子を円柱として、上下の円の直径と長さをそれぞれ求めて、その比をとって求めることができる。最も好ましいアルミナ水和物の形状は、平板状では平均アスペクト比が3〜10の範囲で、毛状束では平均アスペクト比が3〜10の範囲が好ましい。平均アスペクト比が上記範囲内であれば、微粒子凝集物を形成したときに粒子間に隙間が形成され易いため、多孔質構造を容易に形成することができる。
【0084】
本発明の液体組成物中における上記したようなカチオン性微粒子の含有量としては、使用する物質の種類により、最適な範囲を適宜決定すればよいが、質量基準で0.1〜40%の範囲が本発明の目的を達成するうえで好適な範囲であり、より好ましくは1〜30%、更には3〜15%の範囲が好適である。このような範囲内では、紙種に因らず優れた発色の画像を安定に得ることができ、また液体組成物の保存安定性や吐出安定性にも特に優れている。
【0085】
(酸)
先に述べたように、本発明の液体組成物は、酸を含み、pHが2〜7に調整されたものであることが好ましいが、この第2の成分である酸は、カチオン性微粒子表面をイオン化し、表面電位を高めることにより、液中での微粒子の分散安定性を向上させると共に、インク中のアニオン性化合物(アニオン性色材)の吸着性向上や、液体組成物の粘度調整の役割を果たす。本発明に好適に用いられる酸は、使用するカチオン性微粒子と組み合わせて、所望のpHやゼータ電位、或いは微粒子分散性等の物性が得られるものであれば特に限定はなく、下記に挙げる無機酸や有機酸等から自由に選択して使用することができる。
【0086】
具体的には、無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、燐酸、硼酸、炭酸等が挙げられ、有機酸としては、例えば、下記に挙げるようなカルボン酸やスルホン酸、アミノ酸等が挙げられる。
【0087】
カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、フルオロ酢酸、トリメチル酢酸、メトキシ酢酸、メルカプト酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、o−クロロ安息香酸、m−クロロ安息香酸、p−クロロ安息香酸、o−ブロモ安息香酸、m−ブロモ安息香酸、p−ブロモ安息香酸、o−ニトロ安息香酸、m−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、p−ヒドロキシ安息香酸、アントラニル酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、o−メトキシ安息香酸、m−メトキシ安息香酸、p−メトキシ安息香酸等が挙げられる。
【0088】
また、スルホン酸としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、メチルベンゼンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2,4−ジメチルベンゼンスルホン酸、5−スルホサリチル酸、1−スルホナフタレン、2−スルホナフタレン、ヘキサンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ドデカンスルホン酸等が挙げられる。
【0089】
また、アミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、α−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸、β−アラニン、タウリン、セリン、ε−アミノ−n−カプロン酸、ロイシン、ノルロイシン、フェニルアラニン等が挙げられる。
【0090】
そして、本発明の液体組成物においては、これらを一種または二種以上混合して使用することができる。これらの中でも、酸の水中での一次解離定数pkaが5以下のものは、カチオン性微粒子の分散安定性やアニオン性化合物の吸着性に特に優れるため、好適に用いることができる。具体的には、塩酸、硝酸、硫酸、燐酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸、乳酸、クエン酸、マレイン酸、マロン酸等が挙げられる。
【0091】
本発明の液体組成物では、液体組成物中におけるカチオン性微粒子(A)と酸(B)の混合比率を、質量基準でA:B=200:1〜5:1、より好ましくは150:1〜8:1の範囲となるようにすることが、カチオン性微粒子の分散安定性の向上及びアニオン性化合物の微粒子表面への吸着性の向上を図るうえで好ましい。
【0092】
(他の構成成分)
次に、カチオン性の液体組成物を構成するその他の成分について具体的に説明する。本発明のカチオン性の液体組成物は、上記したカチオン性微粒子を必須の成分とし、好ましくは上記したような酸を含み、その他に、通常は液媒体として水を含むが、更に水溶性有機溶剤及び保湿剤等のその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0093】
この際に使用する水溶性有機溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、1,5−ペンタンジオール等のアルキレングリコール類、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の1価アルコール類の他、グリセリン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、トリエタノールアミン、スルホラン、ジメチルサルホキサイド等が挙げられる。保湿剤としては、尿素、チオ尿素、エチレン尿素、アルキル尿素、アルキルチオ尿素、ジアルキル尿素及びジアルキルチオ尿素等の含窒素化合物、グルシトール、マンニトール、イノシトール等の糖類が挙げられる。上記水溶性有機溶剤及び保湿剤の含有量については特に制限はないが、例えば、液体組成物全質量の5〜60%、更には5〜40%が好適な範囲である。
【0094】
また、本発明の液体組成物には、更にこの他、必要に応じて、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、各種界面活性剤、酸化防止剤及び蒸発促進剤、水溶性カチオン性化合物やバインダー樹脂等の添加剤を適宜に配合しても構わない。界面活性剤の選択は、液体組成物の被記録媒体への浸透性を調整するうえで特に重要である。
【0095】
界面活性剤としては1級、2級及び3級アミン塩型の化合物、具体的には、ラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等;第4級アンモニウム塩型の化合物、具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム等;ピリジニウム塩型化合物、具体的には、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド等;イミダゾリン型カチオン性化合物、具体的には、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン等;高級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物、具体的には、ジヒドロキシエチルステアリルアミン等の陽イオン性界面活性剤や、あるpH領域においてカチオン性を示す様な両性界面活性剤も用いることができる。具体的には、例えば、アミノ酸型両性界面活性剤;R−NH−CH−CH−COOH型の化合物;ベタイン型の化合物、具体的には、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等のカルボン酸塩型両性界面活性剤の他、硫酸エステル型、スルホン酸型、燐酸エステル型等の両性界面活性剤等が挙げられる。また、非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール類、アセチレングリコール類等の非イオン性界面活性剤が挙げられ、本発明においては、これらから1種または2種以上を適宜に選択して使用することができる。
【0096】
上記した中でも、特にアセチレンアルコール類やアセチレングリコール類が、普通紙への浸透性、泡高性に優れた効果を発揮するために好適に用いることができる。その使用量は用いる界面活性剤により異なるが、液体組成物全量に対して、0.05〜5質量%が十分な浸透性を確保でき望ましい。
尚、水溶性カチオン性化合物は、液体組成物のカチオン性の更なる付与等を目的に、本発明の作用効果を阻害しない範囲において自由に選択し、添加できる。
【0097】
バインダー樹脂は、カチオン性微粒子の更なる耐擦過性の向上等の目的で、被記録媒体の質感や液体組成物の保存安定性や吐出安定性を損ねない範囲において併用することができ、例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、カゼイン、でんぷん、カルボキシメチルセルロース等の水溶性ポリマーやポリアクリル酸、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル等やその共重合体のエマルジョン、SBR、NBR等のラテックス等から自由に選択し、使用することができる。
【0098】
(液体組成物の表面張力)
本発明の液体組成物は、無色或いは白色であることがより好ましいが、被記録媒体の色に合わせて調色してもよい。更に、以上のような液体組成物の各種物性の好適な範囲としては、25℃における表面張力を10〜60mN/m(dyn/cm)、より好ましくは10〜40mN/m(dyn/cm)とし、25℃における粘度を1〜30mPa・s(cP)としたものである。
【0099】
[アニオン性液体組成物]
本発明にかかるアニオン性の液体組成物は、アニオン性基を表面に有する微粒子を必須の構成成分とし、該微粒子が安定に分散していることを特徴とするが、更には塩基を含み、pHが7〜12に調整されているものや、ゼータ電位が−5〜−90mVであるものが好ましい。
【0100】
(pH及びゼータ電位について)
本発明者らが鋭意検討した結果、液体組成物のゼータ電位が−5〜−90mVの範囲にあるものは、インク中のカチオン性化合物(カチオン性色材)がアニオン性微粒子の表面に特に効率よく吸着し、被記録媒体上において特に優れた発色特性を呈することを見出した。その理由は定かではないが、おそらく先に説明したカチオン性液体組成物の場合と同様に、微粒子のアニオン性が適度であるために、インク中のカチオン性化合物の急速な凝集が起こらずに、微粒子表面に薄く均一に吸着することで色材が巨大なレーキを形成せず、色材本来の発色特性がよりよく発現されるものと考えられる。更に、本発明にかかるアニオン性の液体組成物においては、カチオン性化合物を微粒子表面に吸着した後に分散不安定となり、被記録媒体上で溶媒成分が浸透する際の濃度変化で微粒子同士が凝集して表面近傍に残り易くなるものと考えられる。
【0101】
この結果、以下に挙げる、優れた効果が得られるものと考えられる。即ち、インクジェット用コート紙並みの優れた発色特性と、シャドウ部やベタ部等のインク付与量が多い画像領域において、白モヤや色ムラが少なく、色の均一性に優れた画像が得られる。
また、コート紙と比べて極めて効率よく微粒子表面にカチオン性化合物が吸着し、発色するために、アニオン性微粒子の付与量も少なくでき、とりわけ普通紙に印字した場合には、紙の風合いが保たれ、印字部の耐擦過性もよくなる。より好ましいゼータ電位は−10〜−85mVであり、この範囲にある液体組成物では、ベタ印字した際にドット間の境界が目立ち難くなるために、ヘッドスキャンによるスジムラのより少ない良好な画像が得られる。更には、ゼータ電位が−15〜−65mVの範囲にあるアニオン性微粒子を含む液体組成物を使用すると、紙種に因らず、極めて優れた発色性を有する画像を得ることが可能となる。
【0102】
本発明のアニオン性の液体組成物のpHは、保存安定性とカチオン性化合物の吸着性の観点から、25℃付近で7〜12の範囲であることが好ましい。このpH範囲内においては、カチオン性のインクと混合した際に、カチオン性化合物の安定性を著しく低下させることがないため、カチオン性化合物同士の強い凝集を引き起こすことがなく、記録画像の彩度が下がったり、くすんだ画像となることを有効に防止することができる。また、上記のような範囲内にあれば、アニオン性微粒子の分散性も良好であるため、液体組成物の保存安定性や記録ヘッドからの吐出安定性を良好に維持することができる。更には、インクと混合した際に、カチオン性物質がアニオン性微粒子表面に十分に吸着され、被記録媒体の内部への色材の過度の浸透を抑えるため、優れた発色性のインクジェット記録物を得られる。より好ましい液体組成物のpHの範囲は、8〜11であり、pHがこの範囲内であれば、長期保存による記録ヘッドの腐食を極めて有効に防止できると共に、印字部の耐擦過性もより一層向上する。
【0103】
(アニオン性微粒子)
次に、本発明にかかるアニオン性の液体組成物を構成する成分について述べる。第1の成分として挙げられるアニオン性の微粒子は、上記した作用効果を達成するために、液体組成物中に分散された状態において粒子自体の表面がアニオン性を呈するものであることが好ましい。表面をアニオン性とすることによってカチオン性のインクと混合した際に、カチオン性の色材を粒子表面に吸着でき、色材が被記録媒体内部へ過度に浸透することが抑えられるので、十分な画像濃度のインクジェット記録物を得ることができる。これに対し、微粒子表面がアニオン性でなく、且つ液体組成物の中で、水溶性のアニオン性化合物と別々に存在している場合には、アニオン性化合物を中心に色材が凝集を起こし、色材自体の発色特性を損なうために、インクジェット用コート紙並みの発色性を達成することが困難となる。そのため本発明にかかる液体組成物で用いる微粒子は、表面がアニオン性に帯電していることが必要であるが、本質的にアニオン性である微粒子は勿論のこと、本来は静電的にカチオン性或いは中性の微粒子であっても、処理によって表面がアニオン化された微粒子であれば用いることができる。
【0104】
本発明で好適に用いられるアニオン性微粒子は、被記録媒体上で形成されるこれらの微粒子による凝集物に細孔が形成されるものであれば本発明の目的を達成するに十分であるために、特に微粒子の材料種に限定はない。一例として具体例を挙げるとすれば、例えば、アニオン化した、シリカ、チタニア、ジルコニア、ボリア、シリカボリア、セリア、マグネシア、シリカマグネシア、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛等やこれらの複合微粒子や有機微粒子、無機有機複合微粒子等が挙げられる。そして、本発明の液体組成物においては、これらを一種または二種以上混合して使用することができる。
【0105】
また、本発明で使用するアニオン性微粒子は、先に説明したカチオン性微粒子の場合と同様に、印字後のインクの発色性、色の均一性及び保存安定性の観点から、動的光散乱方式により測定される平均粒子直径が0.005〜1μmの範囲のものが好適である。より好ましくは平均粒子直径が0.01〜0.8μmの範囲内のものであり、このような微粒子を用いれば、被記録媒体に印字した後の耐擦過性や質感が特に好ましいものとなる。更に好ましくは平均粒子直径が0.03〜0.3μmの範囲内のものであり、このような微粒子は、被記録媒体上で形成される微粒子凝集物の細孔が、目的とする細孔半径領域において効果的に形成し易いため好ましい。
【0106】
(アニオン性微粒子の細孔物性・形状)
また、本発明で使用する上記したようなアニオン性微粒子は、被記録媒体上で形成される微粒子凝集物の細孔を効率的に形成すると同時に、微粒子自体の表面に色材を効率よく吸着させる観点から、前記した窒素吸着脱離法における微粒子の極大細孔半径が2〜12nmで、全細孔容積が0.3ml/g以上であるものが好ましい。より好ましくは微粒子の極大細孔半径が3〜10nmで、全細孔容積が0.3ml/g以上であるものが被記録媒体上で形成される微粒子凝集物の細孔が、目的とする細孔半径領域において効果的に形成され易いため好ましい。
【0107】
本発明で使用する微粒子のBET比表面積は70〜300m/gの範囲内であると、微粒子表面への色材の吸着点が十分存在することによって単分子状態で色材をより効果的に被記録媒体の表面近傍に残し易くなり、発色性の向上に寄与する。
【0108】
また、本発明で使用する微粒子の形状は、微粒子をイオン交換水に分散させてコロジオン膜上に滴下して測定用試料を作製し、透過型電子顕微鏡で観察して求めることができる。本発明においては被記録媒体上で微粒子凝集物を形成させる際に凝集物内に細孔を形成させる点で、微粒子形状が針状や平板形状、若しくは球状の1次粒子がある方向性を持って繋がった二次粒子を形成している棒状やネックレス状等の非球形状のものを好適に用いることができる。本発明者らの知見によれば、平板状の形状の方が針状よりも水への分散性がよく、微粒子凝集物を形成した場合に微粒子の配向がランダムになるために細孔容積が大きくなるのでより好ましい。
【0109】
上記したようなアニオン性微粒子の液体組成物中の含有量としては、使用する物質の種類により、最適な範囲を適宜に決定すればよいが、質量基準で0.1〜40質量%の範囲とすることが本発明の目的を達成する上で好適な範囲であり、より好ましくは1〜30質量%、更には3〜15質量%の範囲が好適である。このような範囲内では、紙種に因らず、優れた発色の画像を安定に得ることができ、また液体組成物の保存安定性や吐出安定性にも特に優れている。
【0110】
(塩基)
先に述べたように、本発明にかかるアニオン性の液体組成物は、塩基を含み、pHが7〜12に調整されたものであることが好ましいが、この第2の成分である塩基は、アニオン性微粒子表面をイオン化し、表面電位を高めることにより液中での分散安定性を向上させると共に、インク中のカチオン性化合物(カチオン性色材)の吸着性向上や液体組成物の粘度調整の役割を果たす。本発明に好適に用いられる塩基は、使用するアニオン性微粒子と組み合わせた場合に、所望のpH、ゼータ電位及び微粒子分散性等の物性が得られるものであれば特に限定はなく、下記に挙げるような無機化合物や有機化合物等から自由に選択して、使用することができる。
【0111】
具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、モルホリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチルモノエタノールアミン、ノルマルブチルモノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、ノルマルブチルジエタノールアミン、ジノルマルブチルエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミンを用いることができる。これらの中でも特に、塩基の水中での一次解離定数pkbが5以下の塩基は、アニオン性微粒子の分散安定性やカチオン性化合物(カチオン性色材)の吸着性に特に優れるため、好適に用いられる。
【0112】
本発明の液体組成物中でのアニオン性微粒子(A)と塩基(B)の混合比率は、質量基準でA:B=200:1〜5:1、より好ましくは150:1〜8:1の範囲であれば、アニオン性微粒子の分散安定性や、該微粒子表面へのカチオン性化合物の吸着性に優れるため好ましい。
【0113】
(他の構成成分)
次に、アニオン性の液体組成物を構成するその他の成分について具体的に説明する。本発明のアニオン性の液体組成物は、上記したアニオン性微粒子を必須の成分とし、好ましくは上記したような塩基を含み、その他に、通常は液媒体として水を含むが、更にカチオン性液体組成物の項で列挙したような水溶性有機溶剤、保湿剤及びその他の添加剤、例えば、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、各種界面活性剤、酸化防止剤、蒸発促進剤、水溶性アニオン性化合物やバインダー樹脂等の添加剤を適宜配合してもかまわない。
【0114】
界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール類、アセチレングリコール類等の非イオン性界面活性剤が挙げられ、本発明においては、これらから1種または2種以上を適宜に選択して使用することができる。上記した中でも、特にアセチレンアルコール類や、アセチレングリコール類が普通紙への浸透性、泡高性に優れた効果を発揮するために好適に用いることができる。その使用量は用いる界面活性剤により異なるが、液体組成物全量に対して、0.05〜5質量%が十分な浸透性を確保でき望ましい。
【0115】
(液体組成物の表面張力)
本発明のアニオン性の液体組成物は、無色或いは白色であるのがより好ましいが、被記録媒体の色に合わせて調色してもよい。更に以上のような液体組成物の各種物性の好適な範囲としては、25℃における表面張力を10〜60mN/m(dyn/cm)、より好ましくは10〜40mN/m(dyn/cm)とし、25℃における粘度を1〜30mPa・s(cP)としたものである。
【0116】
(液体組成物中の微粒子の分散方法)
前記微粒子を含む本発明の液体組成物の分散処理方法としては、一般に、分散に用いられている方法の中から選択して用いることができる。用いる装置としてはボールミルやサンドミル等の摩砕型の分散機よりも、ホモミキサーや回転羽等の緩やかな攪拌の方が好ましい。ずり応力は、液体組成物の粘度、量或いは容積によって異なるが、0.1〜100.0N/mの範囲が好ましい。上記範囲以上の強いずり応力を加えると液体組成物のゲル化や、結晶構造の変化等の現象が起こる可能性があり好ましくない。更に0.1〜20.0N/mの範囲であれば、微粒子自体が有する細孔構造が破壊されて細孔容積が小さくなるのを防止できるのでより好ましい。
【0117】
分散時間は分散液の量や容器の大きさ及び分散液の温度等によって異なるが、30時間以下が微粒子の結晶構造の変化を防止する点から好ましく、更に10時間以下であれば微粒子の細孔構造を上記範囲内に制御することができる。分散処理中は分散液の温度を冷却または保温等を行って一定範囲に保ってもよい。好ましい温度範囲は、分散処理方法、材料或いは粘度によって異なるが10〜100℃である。上記範囲下限より低いと分散処理が不十分であったり、微粒子の凝集が発生する。上記範囲上限より高いと液のゲル化や微粒子の結晶構造の変化を起すことがある。
【0118】
<水性インク>
[アニオン性インク]
次に、前記で説明したカチオン性の液体組成物と組み合わせる本発明のインクセットを構成する水性のアニオン性インクについて説明する。ここでいうインクセットとは、本発明の液体組成物と、アニオン性物質(アニオン性色材)を含有する少なくとも一種類以上のアニオン性インクとの組み合わせをいう。また、このインクセットから本発明の液体組成物を除いた、少なくとも一種類のインクの組み合わせをインクサブセットと呼ぶ。本発明で使用するアニオン性インクは、色材としてアニオン性基を含有する水溶性染料を用いるか、或いは色材として顔料を用いる場合には、アニオン性化合物を併用させたもの(これも本発明ではアニオン性色材という)を用いることが好ましい。本発明で使用される上記のようなアニオン性インクには、更にこれに、水、水溶性有機溶剤及びその他の成分、例えば、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等が必要に応じて含まれて構成される。以下、これらのインクの各構成成分について説明する。
【0119】
(水溶性染料)
本発明で使用するアニオン性基を有する水溶性染料としては、例えば、カラーインデックス(Color Index)に記載されている水溶性の酸性染料、直接染料、反応性染料であれば特に限定されない。また、カラーインデックスに記載のないものでも、アニオン性基、例えば、スルホン基、カルボキシル基等を有するものであれば特に限定されない。ここでいう水溶性染料の中には、溶解度のpH依存性があるものも含まれる。
【0120】
(顔料)
水性のアニオン性インクの別の形態としては、上記のようなアニオン性基を有する水溶性染料の代わりに、顔料及びアニオン性化合物を用い、水、水溶性有機溶剤及びその他の成分、例えば、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等を必要に応じて含むインクであってもよい。ここで、アニオン性化合物が顔料の分散剤であってもよいし、顔料の分散剤がアニオン性でない場合に、分散剤とは別のアニオン性化合物を添加したものでもよい。勿論、分散剤がアニオン性化合物である場合でも、更に他のアニオン性化合物を添加したものでもよい。
【0121】
本発明で使用することができる顔料には特に限定はないが、例えば、以下に説明する顔料が好適に使用できる。先ず、ブラック顔料インクに使用されるカーボンブラックとしては、ファーネス法やチャネル法で製造されたカーボンブラックで、一次粒径が15〜40mμm、BET法による比表面積が50〜300m/g、DBP吸油量が、40〜150ml/100g、揮発分が0.5〜10質量%、pH値が2〜9を有するものが好ましい。
【0122】
このようなものとしては、例えば、No.2300、No.900、MCF88、No.40、No.52、MA7、MA8、No.2200B(以上、三菱化成製)、RAVEN 1255(コロンビア製)、REGAL 400R、REGAL 660R、MOGUL L(以上、キヤボット製)、Color Black FW1、Color Black FW18、Color Black S170、Color Black S150、Printex 35、Printex U(以上、デグッサ製)等の市販品を使用することができる。また、本発明のために新たに試作されたものでもよい。
【0123】
イエローインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Yellow 1、C.I.Pigment Yellow 2、C.I.Pigment Yellow 3、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 16、C.I.Pigment Yellow 83等が挙げられる。
【0124】
マゼンタインクとして使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Red 5、C.I.Pigment Red 7、C.I.Pigment Red 12、C.I.Pigment Red 48(Ca)、C.I.Pigment Red 48(Mn)、C.I.Pigment Red 57(Ca)、C.I.Pigment Red 112、C.I.Pigment Red 122等が挙げられる。
【0125】
シアンインクとして使用される顔料としては、例えば、C.I.Pigment Blue 1、C.I.Pigment Blue 2、C.I.Pigment Blue 3、C.I.Pigment Blue 15:3、C.I.Pigment Blue 16、C.I.Pigment Blue 22、C.I.Vat Blue 4、C.I.Vat Blue 6等が挙げられる。
また、上記いずれの色の色材に関しても、本発明のために新たに製造されたものでも使用可能である。
【0126】
(顔料分散剤)
本発明で使用するインクに用いることができる顔料の分散剤としては、アニオン性基の存在によって、顔料を、水若しくは水性媒体に安定に分散させる機能を有する水溶性樹脂であれば、どのようなものでも使用可能である。特に、重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲のものが好ましい。更に好ましくは、3,000〜15,000の範囲である。具体的には、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等の疎水性単量体、またはアクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸及びフマル酸誘導体から選ばれる二つ以上の単量体からなるブロック共重合体、グラフト共重合体或いはランダム共重合体、またはこれらの塩等が挙げられる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶なアルカリ可溶型の樹脂である。
【0127】
更に、親水性単量体からなるホモポリマーまたはそれらの塩でもよい。また、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等の水溶性樹脂も使用することが可能である。しかし、アルカリ可溶型の樹脂を用いた場合の方が、分散液の低粘度化が可能で、分散も容易であるという利点がある。前記水溶性樹脂は、インク全量に対して0.1〜5質量%の範囲で使用されることが好ましい。
【0128】
本発明で使用し得る顔料インクは、以上の如き顔料及び水溶性樹脂を水溶性媒体中に分散または溶解して構成される。本発明に用い得る顔料系インクにおいて好適な水性媒体としては、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒であり、水としては種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0129】
分散剤が、アニオン性高分子ではない場合、上述した顔料を含むインクに更にアニオン性化合物を添加することが好ましい。本発明で好適に使用されるアニオン性化合物としては、顔料分散剤の項で説明したアルカリ可溶性樹脂等の高分子物質の他、下記に挙げるような低分子量のアニオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0130】
低分子量のアニオン性界面活性剤の具体的なものとしては、例えば、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、スルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミドエステル二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム、カルボキシル化ポリオキシエチレンラウリルエーテルナトリウム塩、カルボキシル化ポリオキシエチレントリデシルエーテルナトリウム塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。以上のようなアニオン性物質の好適な使用量としては、インク全量に対して、0.05〜10質量%の範囲であり、更に好適には0.05〜5質量%である。
【0131】
(自己分散型顔料)
また、アニオン性のインクに用いることのできる顔料としては、分散剤を用いることなしに、水若しくは水性媒体に分散させることのできる自己分散型の顔料も使用できる。自己分散型の顔料は、顔料表面に少なくとも1種のアニオン性親水性基が直接若しくは他の原子団を介して結合されているものである。アニオン性の親水性基としては、例えば、下記に挙げた親水性基の中から選択される少なくとも1種であるもの、更に他の原子団が、炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基または置換基を有してもよいナフチル基であるものが挙げられる。
−COOM、−SOM、−SONH、−POHM、−PO
(上記式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、または有機アンモニウムを表わす。)
【0132】
このように顔料表面への親水性基の導入によってアニオン性に帯電させた顔料は、イオンの反発によって優れた水分散性を有するため、水性インク中に含有させた場合にも分散剤等を添加しなくても安定した分散状態を維持する。特に顔料がカーボンブラックである場合に好ましい。
【0133】
(インク中の添加成分)
また、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、界面活性剤、消泡剤或いは防腐剤等をインク中に添加することができ、更に市販の水溶性染料等を添加することもできる。
【0134】
界面活性剤としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール、アセチレングリコール等の非イオン性界面活性剤があり、これらの1種または2種以上を適宜選択して使用できる。上記した中でも、特にアセチレンアルコール類や、アセチレングリコール類が普通紙への浸透性、泡高性に優れた効果を発揮するために好適に用いることができる。その使用量は、分散剤の添加量により異なるが、インク全量に対して、0.01〜5質量%が望ましい。この際、インクの25℃における表面張力は10mN/m(dyn/cm)以上が好ましく、より好ましくは20mN/m以上、さらには30mN/m以上となるように、また表面張力が70mN/m以下となるように活性剤の添加する量を決定することが好ましい。なぜなら、本発明で使用するインクジェット記録方式においては、ノズル先端の濡れによる印字ヨレ(インク滴の着弾点のズレ)等の発生を有効に抑えることができるからである。
【0135】
以上で説明したような顔料系インクの作成方法としては、はじめに、顔料分散用樹脂及び水を少なくとも含有する水溶液に、顔料を添加して攪拌した後、後述の分散手段を用いて分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って、所望の分散液を得る。次に、この分散液に上記に掲げたような成分を更に加えて攪拌して、インクとすればよい。
【0136】
また、アルカリ可溶型の樹脂を使用する場合には、樹脂を溶解させるために塩基を添加することが好ましい。この際、樹脂を溶解させるためのアミン或いは塩基の量は、樹脂の酸価から計算によって求められるアミン或いは塩基量の1倍以上を添加することが好ましい。アミン或いは塩基の量は、以下の式によって計算で求められる。
【数1】
Figure 0003631188
【0137】
更に顔料を含む水溶液を分散処理する前にプレミキシングを30分間以上行うと、顔料の分散効率がよくなる。このプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進するものである。
【0138】
アルカリ可溶型樹脂を使用した場合の分散液に添加される塩基類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミンメチルプロパノール、アンモニア等の有機アミン或いは水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基を用いることが好ましい。
【0139】
一方、顔料インクの調製に使用する分散機は、一般に使用される分散機ならいかなるものでもよいが、例えば、ボールミル、サンドミル等が挙げられる。その中でも、高速型のサンドミルが好ましく、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、ビーズミル、アジテータミル、グレンミル、ダイノールミル、パールミル、コボルミル(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0140】
尚、本発明で使用するインクは、上記成分の他に必要に応じて、水溶性有機溶剤、界面活性剤、pH調製剤、防錆剤、防カビ剤、酸化防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤及び水溶性ポリマー等の添加剤を添加してもよい。
【0141】
本発明で用いることのできる上記色材を溶解または分散する液媒体は、水と水溶性有機溶剤との混合物であることが好ましい。具体的な水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジアキサン等のエーテル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングコリコール等のポリアルキレングリコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−へキサントリオール、チオジグリコール、へキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類、グリセリン、エチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(またはエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルサルフォオキサイド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム等の環状アミド化合物及びスクシンイミド等のイミド化合物等が挙げられる。
【0142】
上記水溶性有機溶剤の含有量は、一般には、インクの全質量に対して質量%で1〜40%が好ましく、より好ましくは3〜30%の範囲である。また、インク中の水の含有量は30〜95質量%の範囲とした場合、色材の溶解性等も良好であり、インクの粘度が高くなることを抑えることができ、且つ固着特性を十分に満足させることができる。
【0143】
本発明で使用するアニオン性インクは、一般の水性筆記用具としても使用できるが、熱エネルギーによるインクの発泡現象によりインクを吐出させるタイプのインクジェット記録方法に適用する場合に特に好適であり、吐出が極めて安定となり、サテライトドットの発生等が生じないという特徴がある。但し、この場合には、熱的な物性値(例えば、比熱、熱膨張係数、熱伝導率)を調整する場合もある。
【0144】
[カチオン性インク]
次に、先に説明したアニオン性の液体組成物と組み合わせて本発明のインクセットを構成する水性のカチオン性インクについて説明する。ここでいうインクセットとは、本発明の液体組成物とカチオン性物質(カチオン性色材)を含有する少なくとも一種類以上のインクとの組み合わせをいう。また、このインクセットから本発明の液体組成物を除いた、少なくとも一種類以上のインクの組み合わせをインクサブセットと呼ぶ。本発明で使用するカチオン性インクは、色材として、カチオン性基を含有する水溶性染料を用いるか、または色材として顔料を用いる場合には、カチオン性化合物を併用させること(本発明ではこの併用もカチオン性色材という)が好ましい。本発明で使用される上記のようなインクには、更にこれに、水、水溶性有機溶剤及びその他の成分、例えば、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、酸化防止剤等が必要に応じて含まれて構成される。以下、これらのインクの各構成成分について説明する。
【0145】
(水溶性染料)
本発明で使用するカチオン性基を有する水溶性染料としては、例えば、カラーインデックス(Color Index)に記載されている水溶性の染料であれば特に限定はない。また、カラーインデックスに記載のないものでも、カチオン性基を有するものであれば特に限定はない。尚、ここでいう水溶性染料の中には、溶解度のpH依存性があるものも含まれる。
【0146】
(顔料)
本発明で使用するインクの別の形態としては、上記したカチオン性基を有する水溶性染料の代わりに、顔料及びカチオン性化合物を用い、水、水溶性有機溶剤及びその他の成分、例えば、粘度調整剤、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤或いは酸化防止剤等を必要に応じて含むインクであってもよい。ここで、カチオン性化合物が顔料の分散剤であってもよいし、顔料の分散剤がカチオン性でない場合に、分散剤とは別のカチオン性化合物を添加したものでもよい。勿論、分散剤がカチオン性化合物である場合でも、更に他のカチオン性化合物を添加してもよい。本発明で使用することができる顔料としては特に限定はなく、アニオン性インクの項で述べた顔料を好適に用いることができる。
【0147】
(顔料分散剤)
本発明で使用するインク中の顔料の分散剤は、カチオン性基の存在によって顔料を水、若しくは水性媒体に安定に分散させる機能を有する水溶性樹脂ならどんなものでも使用可能である。具体例としては、ビニルモノマーの重合によって得られるものであって、得られる重合体の少なくとも一部がカチオン性を有するものであればよい。カチオン性の部分を構成するためのカチオン性モノマーとしては、下記の如き第3級アミンモノマーの塩及びこれらの4級化された化合物が挙げられる。
【0148】
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート
[CH=C(CH)−COO−CN(CH]、
N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート
[CH=CH−COO−CN(CH]、
N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート
[CH=C(CH)−COO−CN(CH]、
N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート
[CH=CH−COO−CN(CH]、
N,N−ジメチルアクリルアミド
[CH=CH−CON(CH]、
N,N−ジメチルメタクリルアミド
[CH=C(CH)−CON(CH]、
N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド
[CH=CH−CONHCN(CH]、
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド
[CH=C(CH)−CONHCN(CH]、
N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
[CH=CH−CONH−CN(CH]、
N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド
[CH=C(CH)−CONH−CN(CH
等が挙げられる。
【0149】
第3級アミンの場合において、塩を形成するための化合物としては、塩酸、硫酸及び酢酸等が挙げられ、4級化に用いられる化合物としては、塩化メチル、ジメチル硫酸、ベンジルクロライド、エピクロロヒドリン等が挙げられる。これらの中でも、塩化メチルやジメチル硫酸等が本発明で使用する分散剤を調製するうえで好ましい。以上のような第3級アミンの塩或いは第4級アンモニウム化合物は水中ではカチオンとして振る舞い、中和された条件では酸性が安定溶解領域である。これらモノマーの共重合体中での含有率は20〜60質量%の範囲が好ましい。
【0150】
上記高分子分散剤の構成に用いられるその他のモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、長鎖のエチレンオキシド鎖を側鎖に有するアクリル酸エステル等のヒドロキシ基を有するアクリル酸エステル、スチレン系モノマー等の疎水性モノマー類及びpH7近傍の水に溶解可能な水溶性モノマーとして、アクリルアミド類、ビニルエーテル類、ビニルピロリドン類、ビニルピリジン類、ビニルオキサゾリン類が挙げられる。疎水性モノマーとしては、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、アクリロニトリル等の疎水性モノマーが用いられる。共重合によって得られる高分子分散剤中において水溶性モノマーは、共重合体を水溶液中で安定に存在させるために15〜35質量%の範囲で用い、且つ疎水性モノマーは、共重合体の顔料に対する分散効果を高めるために20〜40質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0151】
(自己分散型顔料)
カチオン性に帯電した顔料の場合、直接若しくは他の原子団を介して結合した親水性基が、例えば、下記に挙げる第4級アンモニウム基から選ばれる少なくとも1つを結合したものが挙げられる。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0152】
Figure 0003631188
【0153】
上記式中、Rは炭素原子数1〜12の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、置換若しくは未置換のフェニル基、または置換若しくは未置換のナフチル基を表す。尚、上記のカチオン性基には、カウンターイオンとして、例えば、NO3−やCH3COO−が存在する。
【0154】
上記したような親水性基が結合されてカチオン性に帯電している自己分散型顔料を製造する方法としては、例えば、下記に示す構造のN−エチルピリジル基を結合させる方法を例にとって説明すると、顔料を3−アミノ−N−エチルピリジニウムブロマイドで処理する方法が挙げられる。
Figure 0003631188
【0155】
このように顔料表面への親水性基の導入によってカチオン性に帯電させた顔料は、イオンの反発によって優れた水分散性を有するため、水性インク中に含有させた場合にも分散剤等を添加しなくても安定した分散状態を維持する。特に上記顔料がカーボンブラックである場合が好ましい。
【0156】
(インク中の添加成分)
また、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、界面活性剤、消泡剤或いは防腐剤等をインク中に添加することができ、更に市販の水溶性染料等を添加することもできる。
【0157】
界面活性剤としては、1級、2級及び3級アミン塩型の化合物、具体的には、ラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等;第4級アンモニウム塩型の化合物、具体的には、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム等;ピリジニウム塩型化合物、具体的には、セチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド等;イミダゾリン型カチオン性化合物、具体的には、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン等;高級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物、具体的には、ジヒドロキシエチルステアリルアミン等の陽イオン性界面活性剤や、あるpH領域においてカチオン性を示す様な両性界面活性剤も用いることができる。具体的には、例えば、アミノ酸型両性界面活性剤;R−NH−CH−CH−COOH型の化合物;ベタイン型の化合物、具体的には、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等のカルボン酸塩型両性界面活性剤の他、硫酸エステル型、スルホン酸型、燐酸エステル型等の両性界面活性剤等が挙げられる。また、非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール類、アセチレングリコール類等の非イオン性界面活性剤が挙げられ、本発明においては、これらから1種または2種以上を適宜に選択して使用することができる。上記した中でも、特にアセチレンアルコール類や、アセチレングリコール類が普通紙への浸透性、泡高性に優れた効果を発揮するために好適に用いることができる。その使用量は用いる界面活性剤により異なるが、インク全量に対して、0.05〜5質量%が十分な浸透性を確保でき望ましい。
【0158】
(インクの表面張力)
更に本発明で使用するカチオン性インクは普通紙等に記録した場合の印字記録物のインクの浸透性と同時に、インクジェット用ヘッドに対するマッチングを良好にする面から、インク自体の物性として25℃における表面張力が10mN/m以上が好ましく、より好ましくは20mN/m以上で、70mN/m以下が好ましく、さらには30〜68mN/mの範囲が好ましく、粘度が15cP以下、好ましくは10mPa・s(cP)以下、より好ましくは5mPa・s(cP)以下に調整されることが望ましい。
【0159】
<被記録媒体に着色部を形成する方法>
次に、本発明の被記録媒体に着色部を形成する方法について説明する。本発明の被記録媒体に着色部を形成する方法は、(i)色材を含む、アニオン性若しくはカチオン性の水性インクを被記録媒体に付与する工程及び(ii)該インクとは逆の極性に表面が帯電している微粒子が分散状態で含まれている液体組成物を被記録媒体に付与する工程とを有し、上記被記録媒体の表面において、水性インクと液体組成物とが互いに液体状態で接するように付与することを特徴とする。以下、上述したように構成されている液体組成物及び水性インクを被記録媒体上に付与する方法について説明する。
【0160】
本発明の被記録媒体に着色部を形成する方法は、上記で説明したような液体組成物を被記録媒体上に付与する工程(ii)と、色材を含む、アニオン性若しくはカチオン性の水性インクを被記録媒体に付与する工程(i)を含むが、その際に、被記録媒体の着色部形成領域、または着色部形成領域とその近傍に液体組成物を付与して、水性インクと液体組成物とが互いに液体状態で接するように付与する。ここでいう着色部形成領域とは、インクのドットが付着する領域のことであり、着色部形成領域の近傍とは、インクのドットが付着する領域の外側の1〜5ドット程度離れた領域のことを指す。
【0161】
本発明の被記録媒体に着色部を形成する方法では、前記した本発明の液体組成物と水性インクとが被記録媒体上で互いに液体状態で接するようになれば、これらをいずれの方法で付与させてもよい。従って、液体組成物とインクのいずれを先に被記録媒体上に付与するかは問題ではない。例えば、工程(ii)を行なった後に工程(i)を行なってもよいし、工程(i)を行なった後に工程(ii)を行なってもよい。また、工程(i)を行なった後に、工程(ii)を行ない、その後に再び工程(i)を行なうことも好ましい。また、液体組成物を被記録媒体に先に付与させた場合に、液体組成物を被記録媒体に付与してから、インクを被記録媒体上に付与させるまでの時間については特に制限されるものではないが、互いに液体状態で接するようにするためには、ほぼ同時或いは数秒以内にインクを被記録媒体上に付与させることが好ましい。
【0162】
(被記録媒体)
上記した本発明の被記録媒体に着色部を形成する方法に使用される被記録媒体としては、特に限定されるものではなく、従来から使用されている、コピー用紙、ボンド紙等のいわゆる普通紙が好適に使用される。勿論、インクジェット記録用に特別に作製されたコート紙やOHP用透明フィルムも好適に使用される。更に一般の上質紙や光沢紙にも好適に使用することができる。
【0163】
(液体組成物の付与方法)
本発明の液体組成物を被記録媒体上に付与せしめる方法としては、例えば、スプレーやローラー等によって被記録媒体の全面に付与せしめる方法も考えられるが、更に好ましくは、インクを付与する着色部形成領域或いは着色部形成領域とその着色部形成領域の近傍にのみに、選択的且つ均一に液体組成物を付与せしめることのできるインクジェット方式により行うのが好ましい。また、この際には、種々のインクジェット記録方式を用いることができるが、特に好ましいのは、熱エネルギーによって発生した気泡を用いて液滴を吐出する方式である。
【0164】
<インクジェット記録装置>
次いで、本発明のインクジェット記録装置について説明する。本発明のインクジェット記録装置は、色材を含む、アニオン性若しくはカチオン性の水性インクを収容したインク収容部と、該インクを吐出させるインクジェットヘッドを備えた第1の記録ユニットと、前記本発明の液体組成物、好ましくは上記水性インクとは逆の極性に表面が帯電している微粒子が分散状態で含まれている液体組成物を収容した液体組成物収容部と、該液体組成物を吐出させるインクジェットヘッドを備えた第2の記録ユニットとを備えていることを特徴とする。
【0165】
以下、これらについて説明する。図1は本発明を適用したインクジェットプリント装置の概略構成の一例を示す模式的斜視図である。図1において、1はインクを吐出してプリントを行うためのプリントヘッドを構成するカートリッジであり、2は液体組成物を吐出するための液体組成物吐出ヘッドを構成するカートリッジである。図示の例では、異なる色のインクを用いる4個のプリント用カートリッジ1と1個の液体組成物吐出用カートリッジ2が使用されている。
【0166】
プリント用の各カートリッジ1は、その上部にインクタンク部、下部にインク吐出部(プリント部)を設けた構造をしている。液体組成物用のカートリッジ2は、その上部に液体組成物タンク部、下部に液体組成物吐出部を設けた構造をしている。更に、これらカートリッジ1、2には、駆動信号等を受信するためのコネクタが設けられている。3はキャリッジである。
【0167】
キャリッジ3上には、それぞれ異なる色のインクでプリントするための4個のプリント用ヘッドカートリッジ(プリントヘッド)1と1個の液体組成物吐出用ヘッドカートリッジ(液体組成物吐出ヘッド)2が位置決め搭載されている。また、該キャリッジ3には各プリントヘッド1及び液体組成物吐出ヘッド2を駆動するための信号等を伝達するためのコネクタホルダーが設けられており、該コネクタホルダーを介して各ヘッドカートリッジ1、2に電気的に接続されている。
【0168】
各プリントヘッド1は、それぞれ異なった色のインク、例えば、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(B)のインクを収納している。本図では、図示左から、イエロー、マゼンタ、シアン,ブラックの各インクのプリント用ヘッドカートリッジ(プリントヘッド)1Y、1M、1C、1Bが搭載され、そして右端には前記液体組成物を収納した液体組成物吐出ヘッドカートリッジ(液体組成物吐出ヘッド)2が搭載されている。
【0169】
図1において、4はキャリッジ3の主走査方向に延在し該キャリッジを摺動自在に支持する走査レール、5はキャリッジ3を往復動させるための駆動力を伝達する駆動ベルトである。また、6及び7、8及び9は、それぞれ、プリントヘッドによるプリント位置の前後に配置されて被記録媒体10の挟持搬送を行うための搬送ローラ対である。紙等の被記録媒体10は、プリント位置の部分で、プリント面を平坦に規制するためのプラテン(不図示)に圧接状態で案内支持されている。この時、キャリッジ3に搭載された各ヘッドカートリッジ(ヘッド)1、2の吐出口形成面は、該キャリッジ3から下方へ突出して被記録媒体搬送用ローラ7、9間に位置し、プラテン(不図示)の案内面に圧接された被記録媒体10に平行に対向するようになっている。
【0170】
本図のインクジェットプリント装置のプリント領域を外れた左側に設定されたホームポジションの近傍には、回復ユニット11が配設されている。回復ユニット11には、4個のプリントヘッド(ヘッドカートリッジ)1Y、1M、1C、1Bに対応する4個のキャップ12と1個の液体組成物吐出ヘッド(ヘッドカートリッジ)2に対応する1個のキャップ13が上下方向に昇降可能に設けられている。
【0171】
そして、キャリッジ3がホームポジションにあるときには、各ヘッド1、2の吐出口形成面に対して対応するキャップ12、13とが圧接接合されることにより各ヘッド1、2の吐出口が密封(キャッピング)される。キャッピングすることにより、吐出口内のインク溶剤の蒸発によるインクの増粘・固着が防止され、吐出不良の発生が防止されている。
【0172】
また、回復ユニット11は、各キャップ12に連通した吸引ポンプ14とキャップ13に連通した吸引ポンプ15を備えている。これらのポンプ14、15は、プリントヘッド1や液体組成物吐出ヘッド2に吐出不良が生じた場合に、それらの吐出口形成面をキャップ12、13でキャッピングして吸引回復処理を実行するのに使用される。更に、回復ユニット11には、ゴム等の弾性部材から成る2個のワイピング部材(ブレード)16、17が設けられている。ブレード16はブレードホルダー18によって保持され、ブレード17はブレードホルダー19によって保持されている。
【0173】
本発明の概略図においては、前記ブレードホルダー18、19は、それぞれ、キャリッジ3の移動を利用して駆動されるブレード昇降機構(不図示)により昇降され、それによって、前記ブレード16、17は、ヘッド(カートリッジ)1、2の吐出口形成面に付着したインクや異物をワイピングすべく突出(上昇)した位置ワイピング位置)と吐出口形成面に接触しない後退(下降)した位置(待機位置)との間で昇降する。この場合、プリントヘッド1をワイピングするブレード16と液体組成物吐出ヘッド2をワイピングするブレード17は、互いに独立して、個別に昇降できるように構成されている。
【0174】
そして、キャリッジ3が図1中右側(プリント領域側)からホームポジション側へ移動するとき、或いはホームポジション側からプリント領域側へ移動するときに、ブレード16が各プリントヘッド1の吐出口形成面と当接し、ブレード17が液体組成物吐出ヘッド2の吐出口形成面と当接し、相対移動によってそれらの吐出口形成面の拭き取り(ワイピング)動作が行われる。
【0175】
図2はインク吐出部とインクタンクを一体化した構造のプリントヘッド(カートリッジ)1を示す模式的斜視図である。尚、液体組成物吐出ヘッド2は、貯蔵及び使用する液体が液体組成物である点を除き、プリントヘッド1と実質上同じ構成をしている。図2において、プリントヘッド1は、上部にインクタンク部21を、下部にインク吐出部(プリントヘッド部)22を有しており、更に、インク吐出部22を駆動するための信号等を受信するとともにインク残量検知信号を出力するためのヘッド側コネクタ23を有している。このコネクタ23はインクタンク部21に並ぶ位置に設けられている。
【0176】
プリントヘッド1は図2中底面側(被記録媒体10側)に吐出口形成面81を有し、該吐出口形成面81には複数の吐出口が形成されている。各吐出口に通じる液路部分に、インクを吐出するのに必要なエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子が配置されている。
【0177】
前記プリントヘッド(ヘッドカートリッジ)1は、インクを吐出してプリントを行うインクジェットプリント手段であり、インク吐出部22とインクタンク21を一体化した交換可能なインクジェットカートリッジで構成されている。このプリントヘッド1は、熱エネルギーを利用してインクを吐出するインクジェットプリント手段であって、熱エネルギーを発生するための電気熱変換体を備えたものである。また、前記プリントヘッド1は、前記電気熱変換体によって印加される熱エネルギーにより生じる膜沸騰による気泡の成長、収縮によって生じる圧力変化を利用して、吐出口よりインクを吐出させ、プリントを行なうものである。
【0178】
図3は、プリントヘッド1(液体組成物吐出ヘッド2)のインク吐出部22(液体組成物吐出部22A)の構造を模式的に示す部分斜視図である。図3において、被記録媒体(プリント用紙等)10と所定の隙間(例えば、約0.5〜2.0ミリ程度)をおいて対面する吐出口形成面81には、所定のピッチで複数の吐出口82が形成され、共通液室83と各吐出口82とを連通する各液路84の壁面に沿ってインク吐出用のエネルギーを発生するための電気熱変換体(発熱抵抗体等)85が配設されている。
【0179】
前記複数の吐出口82はプリントヘッド1の移動方向(主走査方向)と交叉する方向に並ぶような位置関係で配列されている。こうして、画像信号または吐出信号に基づいて対応する電気熱変換体85を駆動(通電)して、液路84内のインクを膜沸騰させ、その時に発生する圧力によって吐出口82からインクを吐出させるプリントヘッド1が構成されている。
【0180】
図4〜6は以上のインクジェットプリント装置のワイピング動作を示す模式図である。図4はキャリッジ3がプリント領域側からホームポジション側へ移動する場合を示す。図4において、(A)のようにキャリッジ4上のプリントヘッド1及び液体組成物吐出ヘッド2が右側(プリント領域側)よりホームポジションに向かって移動してくる。そうすると、(B)のように、先ず、インク用のキャップ12と液体組成物用のキャップ13との間にあるインク用のブレード16が上昇し、キャリッジ3の移動に伴って各プリントヘッド1Y、1M、1C、1Bを順次ワイピングしていく。
【0181】
更に、図4の(C)のように、各プリントヘッド1が液体組成物用のブレード17上を通過した後、この液体組成物用のブレード17を上昇させて(D)のように液体組成物吐出ヘッド2の吐出口形成面を同時にワイピングする。インク用のブレード16が4個目のプリントヘッド1をワイピングし、更に液体組成物路用のブレード17が液体組成物吐出ヘッド2をワイピングし終わった後、それぞれのブレード16、17は下降し、待機位置で待機する。
【0182】
図4では、キャリッジ3が図1中の右側(プリント領域)から回復ユニット11の有るホームポジション側へ移動するときにブレード16、17によるワイピングが実行されるように構成したが、ワイピング方向はこれに限定されるものではなく、図5のようにキャリッジ3がホームポジション側から右側(プリント領域側)へ移動する際にワイピングを行うように構成してもよい。
【0183】
図5において、(A)では、インク用のブレード16と液体組成物用のブレード17を同時に上昇させ、キャリッジ3を右方向へ(プリント領域側へ)移動させることにより、プリントヘッド1と液体組成物吐出ヘッド2を同時にワイピングし(B)、液体組成物吐出ヘッド2のワイピングが終了すると同時に液体組成物用のブレード17のみを下降させて待機させ、インク用のブレード17はそのまま残りのプリントヘッド1のワイピングを行う(C)。最後に、図5の(D)のように、全てのプリントヘッド1のワイピングが終了したところで、インク用のブレード16を下降させて一連のワイピング動作を終了する。
【0184】
図5で説明したようなワイピング方向を採用することにより、ワイピングにより除去されてブレード16、17に付着した液滴が該ブレードの弾性によって被記録媒体10の搬送部へ飛散し、被記録媒体10を不用意に汚す危険性を無くすことができる。
【0185】
更に、図6に示すように、プリントヘッド1のワイピング方向と液体組成物吐出ヘッド2のワイピング方向を異ならせてもよい。図6において、例えば、(A)及び(B)に示すように、キャリッジ3がホームポジション側から右側(プリント領域側)へ移動するときにインク用のブレード16でプリントヘッド1をワイピングし、(C)及び(D)に示すように、キャリッジ3がプリント領域側からホームポジション側へ移動するときに液体組成物用のブレード17で液体組成物吐出ヘッド2のみをワイピングするようにしてもよい。
【0186】
このようなワイピング方向を採ることにより、ブレード16の弾性力によって飛散するインクが液体組成物吐出ヘッド2に付着したり、逆に、ブレード17の弾性力によって飛散した液体組成物がプリントヘッド1に付着するという不都合(危険性)を無くすか大幅に減少させることができる。
【0187】
また、図1においては、プリントヘッド1用のキャップ12と液体組成物吐出ヘッド2用のキャップ13とを別々にして互いに独立させ(専用にし)、更に、これらのキャップ12、13に接続される吸引ポンプ14、15もプリントヘッド1用と液体組成物吐出ヘッド2用とに独立させて別々(専用)にした。これにより、キャップ12、13及びポンプ14、15内において、インクと該インクと反応性を有する液体組成物とを接触させることなく、これらの廃液を処理することができ、高い信頼性を維持することが可能になる。
【0188】
図7はポンプ14、15から排出されるインク及び液体組成物を廃インクタンク内へ回収するための回収系統を示す模式図である。図7において、キャップ12に連通した吸引ポンプ14によりプリントヘッド1から吸引された廃インク、並びにキャップ13に連通した吸引ポンプ15により液体組成物吐出ヘッド2から吸引された廃液は、プリント装置外へ漏れ出さないように、それぞれ独立した経路を通して廃液タンク24内に回収され、収納される。
【0189】
前記廃液タンク24は、その内部に多孔質の吸収体25が充填され、該吸収体25に廃液を吸収保持するように構成されている。この廃液タンク24は、プリント装置本体内に設けられている。図7では、プリントヘッド1用の吸引ポンプ14からの廃インク導管26と液体組成物吐出ヘッド2用の吸引ポンプ15からの廃液導管27とは、図示のように、廃液タンク24の両端の互いに離れた位置に接続されている。こうすることにより、廃液タンク24内の液体組成物とインクは吸収体25内に液が充分に吸収された状態ではじめて接触するようになるため、多孔質吸収体25が吸収保持できる液の量を充分に確保することができる。
【0190】
図8は、図7の廃液回収系統において、廃液タンク24内の吸収体25を上下2段に配置し、下段の吸収体25Aにインクを吸収させ、上段の吸収体25Bに液体組成物を吸収させるように構成した廃液回収系統を示す模式図である。図8の構成によれば、下段のインク吸収体25Aが溢れた場合でも、上段の吸収体25Bとそこに吸収されている液体組成物により、インク中の染料は上段の吸収体25Bで反応し固定化されるため、該インクが漏れ出してプリント装置内外を汚すことはない。
【0191】
また、別の形態のインクジェット記録装置としては、色材を含む、アニオン性若しくはカチオン性の水性インクを収容したインク収容部と、前記本発明の液体組成物、好ましくは上記水性インクとは逆の極性に表面が帯電している微粒子が分散状態で含まれている液体組成物を収容した液体組成物収容部と、上記インク収容部に収容されている水性インクと上記液体組成物収容部に収容されている液体組成物とを各々独立に吐出させるためのインクジェットヘッドとを備えていることを特徴とする。以下、これらについて説明する。
【0192】
図10は、そのようなカートリッジ1001の一例を示すものであるが、図中の1003は、インクが収容されているインク収容部、1005は、液体組成物が収容されている液体組成物収容部である。該カートリッジは、図11に示すように、インク及び液体組成物の各々を吐出せしめる記録ヘッド1101に着脱可能に構成されてなると共に、カートリッジ1001を記録ヘッド1101に装着した状態では、液体組成物及びインクが、記録ヘッド1101に供給されるように構成されているものである。
【0193】
本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、前記の如きヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図15に示す如きそれらが一体となったものも好適に用いられる。
【0194】
図15において、1500は記録ユニットであって、この中にインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数のオリフィスを有するヘッド部1501からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としては、例えば、ポリプロピレンやポリウレタンを用いることができる。1502は、記録ユニット内部を大気に連通させるための大気連通口である。
【0195】
更に本発明で使用する記録ユニットの他の実施態様として、インクと液体組成物とを、1個のインクタンク内の各々の収納部に収納し、且つインク及び液体組成物の各々を吐出させるための記録ヘッドを一体的に備えた記録ユニット、具体的には、例えば、図12に示すように、液体組成物を収容部1201Lに、ブラックインクを収容部1201Bkに、また、イエロー、シアン及びマゼンタのカラーインクを各々カラーインク収納部1201Y、1201M及び1201Cに収納し、更に各々のインクを各々個別に吐出させることができるように、インク流路を分けて構成した記録ヘッド1203を備えているような記録ユニット1201が挙げられる。
【0196】
図16は、本発明にかかるインクジェットプリント装置の他の実施態様の概略構成を示す模式的斜視図である。図16において、4はキャリッジ3の主走査方向に延在し該キャリッジを摺動自在に支持する走査レール、5はキャリッジ3を往復動させるための駆動力を伝達する駆動ベルトである。また、6、7及び8、9は、それぞれ、プリントヘッドによるプリント位置の前後に配置されて被記録媒体10の挟持搬送を行うための搬送ローラ対である。
【0197】
紙等の被記録媒体10は、プリント位置の部分で、プリント面を平坦に規制するためのプラテン(不図示)に圧接状態で案内支持されている。この時、キャリッジ3に搭載された各ヘッドカートリッジ(ヘッド)1、2の吐出口形成面は、該キャリッジ3から下方へ突出して被記録媒体搬送用ローラ7、9間に位置し、プラテン(不図示)の案内面に圧接された被記録媒体10に平行に対向するようになっている。
【0198】
図16において、キャリッジ3上には合計6個のヘッドカートリッジが位置決め搭載されており、本実施例では、キャリッジ3上の図示左端から右側へ向けて、イエローのプリントヘッド1Y、マゼンタのプリントヘッド1M、シアンのプリントヘッド1C、ブラックのプリントヘッド1B、液体組成物吐出ヘッド2、第2のブラックのプリントヘッド1BBの順に配置されている。液体組成物吐出ヘッド2はインク中の色材と反応性を有する液体組成物を被記録媒体10へ吐出するものである。
【0199】
また、右端の第2のブラックのプリントヘッド1BBは、往復プリントでの副走査プリント時等に使用されるブラックインクを用いるプリントヘッドである。つまり、前述の各実施例におけるブラックプリントヘッド1Bの次に(右隣に)液体組成物吐出ヘッド2を配置し、更にその次に(右端)に前記ブラックのプリントヘッド1BBを配置する構成が採られている。
【0200】
図16において、プリント領域の左側には回復ユニット11が配設され、該回復ユニット11においては、前記ヘッドカートリッジ1、2の配置に対応して、左から右へ、プリントヘッド1Y、1M、1C、1Bをキャッピングするキャップ12が順次配置され、その次に(右隣に)液体組成物吐出ヘッド2をキャッピングするキャップ13が配置され、更にその右隣(右端)には第2のブラックプリントヘッド1BBをキャッピングするキャップ12が配置されている。
【0201】
そして各々のキャップは、上下方向に昇降可能に設けられており、キャリッジ3がホームポジションにあるときには、各ヘッド1、2の吐出口形成面に対して対応するキャップ12、13が各々圧接されることにより、各ヘッド1、2の吐出口が密封(キャッピング)され、これにより吐出口内のインク溶剤の蒸発によるインクの増粘、固着が防止され、吐出不良の発生が防止されている。
【0202】
また回復ユニット11は、各キャップ1、2に連通した吸引ポンプ14とキャップ13に連通した吸引ポンプ15を備えている。これらのポンプ14、15はプリントヘッド1や液体組成物吐出ヘッド2に吐出不良が生じた場合に、それらの吐出口形成面をキャップ12、13でキャッピングして吸引回復処理を実行するのに使用される。更に左端から5番目の液体組成物用のキャップ13と6番目(右端)のブラックインク用のキャップ12との間に液体組成物吐出ヘッド2用のブレード17が配置され、右端のキャップ12の右側(プリント領域側)に各プリントヘッド1用のブレード16が配置されている。
【0203】
そしてブレード17はブレードホルダー19によって保持され,ブレード16はブレードホルダー18によって保持されている。この態様においては、ブレードホルダー18、19は、各々キャリッジ3の移動を利用して駆動されるブレード昇降機構(不図示)により昇降され、それによってブレード16、17は、ヘッド1、2の吐出口形成面に付着したインクや異物をワイピングすべく突出した位置(ワイピング位置)と吐出口形成面に接触しない後退した位置(待機位置)との間で昇降する。この場合、プリントヘッド1をワイピングするブレード16と液体組成物吐出ヘッド2をワイピングするブレード17は、互いに独立して個別に昇降できるように構成されている。
【0204】
図17は図16のインクジェットプリント装置のワイピング動作を示す模式図である。図16において、(A)に示すように、プリントヘッド用のブレード16が突出(上昇)した後、キャリッジ3に搭載された各ヘッドが右側(プリント領域側)からホームポジションに向かって移動してくる。上昇したプリントヘッド用のブレード16は、(B)に示すように、キャリッジ3の左向き移動に伴いプリントヘッド1を順次ワイピングしていく。そして、(C)に示すように、液体組成物吐出ヘッド2がプリントヘッド用のブレード16の手前(右隣)にきた時点で該ブレード16が待機位置まで後退(下降)し、該ブレード16と液体組成物吐出ヘッド2との接触が防止される。
【0205】
更にキャリッジ3が左向きに移動して液体組成物吐出ヘッド2がプリントヘッド用ブレード6を通過した時点で、(D)に示すように、プリントヘッド用ブレード6及び液体組成物吐出ヘッド用ブレード17の両方を突出(上昇)させる。そして、キャリッジ3の左向き移動に伴って、(E)に示すように、ブレード17による液体組成物吐出ヘッド2のワイピングとブレード16による右端のプリントヘッド1BBのワイピングを同時に行う。全てのヘッド1、2のワイピングが終了した後、(F)に示すように、両方のブレード16、17を後退(下降)させ、待機位置で待機させる。
【0206】
図16及び17の実施例では、キャリッジ3がプリント領域側(右側)から回復ユニット11のあるホームポジション側へ移動するときにブレード16、17によるワイピングを行うようにしたが、ワイピング方向はこれに限定されるものではなく、ホームポジション側から右側(プリント領域側)へ移動する際にワイピングするようにしてもよい。
【0207】
図16のインクジェットプリント装置は、液体組成物吐出ヘッド2からインク中の色材と反応性を有するような、本発明にかかる液体組成物を被記録媒体10に吐出し、各プリントヘッド1から吐出されたインクと被記録媒体10上で接触させて記録物を形成可能なように構成されている。被記録媒体10上ではインク中の色材が液体組成物と反応することによって、インク中の色材が単分子状態で微粒子表面に吸着し、その微粒子によって画像の形成がなされるため、発色性や色の均一性に優れた画像が得られる。
【0208】
図18は、本発明の他の実施態様の概略構成を示す模式的斜視図である。
図18において、インクジェットプリント装置100の給紙位置に挿入された被記録媒体106は、送りローラ109によってインクジェットカートリッジ103によるプリント可能領域へ搬送される。このプリント可能領域におけるプリント媒体の背面部には、プラテン108が設けられている。
【0209】
キャリッジ101は、2本のガイド軸104及び105によって一定の方向に移動可能な構成となっており、これにより、ヘッドユニットを有するカートリッジ103はプリント領域を往復走査することができる。キャリッジ101には、後述される各ユニットを搭載することができる。即ち、複数の色それぞれのインクと液体組成物を吐出するインクジェットヘッドと、それぞれのインクジェットヘッドにインクまたは液体組成物を供給するためのインクタンクを含むインクジェットカートリッジ103が搭載される。例えば、複数の色のインクとしては、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色を用いることができる。
【0210】
キャリッジ101が移動可能な領域の左端においては、その下部に後述のワイピング機構等を有した回復系ユニット110が設けられ、非プリント時等に各インクジェットヘッドの吐出口部をキャップすること等が可能となる。この左端位置を各インクジェットヘッドのホームポジションと呼ぶ。
107はスイッチ部と表示素子部を示し、スイッチ部はインクジェットプリント装置の電源のオン/オフや各種プリントモードの設定時等に使用され、表示素子部はプリント装置の各種状態を表示するためのものである。
【0211】
図19は、上述したインクジェットプリント装置における回復系ユニット110の他の実施態様のワイピング、及び拭き動作のための機構を説明する模式図である。
図19に示したインクジェットカートリッジ103は、ヘッドユニット102と各インクタンク20BK1、20S、20BK2(Y、M、Cインク用のタンクの図示は省略)からなり、ヘッドユニット102は各インク毎のインクジェットヘッド、即ち、黒インク用ヘッド200BK1、200BK2、液体組成物用ヘッド200S、シアンインク用ヘッド200C、マゼンタインク用ヘッド200M及びイエローインク用ヘッド200Yからなる。
【0212】
図19に示すように、インクジェットヘッドの吐出口面に対してワイピングまたは拭き動作を行うそれぞれのブレード118A、118B及び拭き部材117は、各インクジェットヘッド毎に設けられる。これら各ヘッドに対応したブレード118A、118B及び拭き部材117は、そのワイピングまたは拭きの動作時には一体に動作することができる。即ち、これらは、インクジェットカートリッジ103がホームポジションに位置し、ワイピングまたは拭き動作を行うタイミングでは、吐出口面及びカバープレートにそれぞれ当接できる位置まで上昇し、その後、図中矢印で示されるワイピング方向に移動し、この移動により吐出口面を2つのブレード118A及び118Bによってワイピングすることができる。一方、図中、矢印で示される拭き方向では、拭き部材117により吐出口面の拭き動作を行い、吐出口面に付着した液体組成物とインクとの混合物を除去する。
【0213】
図20は本実施態様にかかるインクジェットヘッド200の吐出口面205を示す図であり、吐出口206の周囲に液体組成物とインクとの混合物201が付着している様子を示している。同図に示すように、本実施態様では各インクジェットヘッドにおいて、吐出口206の配列を2列とし、各列の吐出口配置を相互に吐出口ピッチの1/2だけずらしたものとする。これにより、吐出口配列が1列の場合に実現可能な解像度の2倍の解像度のプリントを行うことができる。
【0214】
図21(a)及び(b)は、図19に示したワイピング及び拭き動作のための機構を示す、それぞれ正面図及び側面図である。尚、同図(b)において、インクジェットヘッド200Y等の図示が省略され、ブレード118A、118B等に対向するヘッド200BK1のみが示されている。特に、同図(b)から明らかなように、ワイピングのためのブレードは、ブレード118A及び118Bの2つが設けられ、その高さに差を設けている。
本実施態様では、一例として、拭き部材117は、多孔質焼結ウレタンであるルビセルクリーン(商品名 東洋ポリマー社製)を用いて形成され、これをABS樹脂製のアームに巻き付け回復系ユニット110のベースに図示しないバネを介して取り付けることによって得られる。吐出口面205と拭き部材117との当接圧力は4mmの接触長に対して100gになるよう設定している。この当接圧力は大きすぎると吐出口面205に傷が入るおそれがあり、一方、小さいと十分な拭きの効果が得られない。従って、1〜100g/mm程度に設定するのが望ましく、更に望ましくは、5〜30g/mmに設定するのがよい。
【0215】
ブレード118A及び118Bに使用したゴム部材は、図示した例ではエーテル結合を持つポリオールを原料としたウレタンゴムであるが、これに代えてブレードとしては耐水・耐溶剤性、摩耗性のよい弾性部材、例えば、塩素化ブチルゴム、HNBR、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、スチレンゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム等を使用することもできる。図に示すように、ブレードは2枚とし、その形状は第一のブレード118Aは、厚み0.6mm、自由度5.0mm、侵入量1.4mmの物を、第二のブレード118Bは、厚み1.0mm、自由長10.0mm、侵入量0.8mmである。
尚、これら部材や設定値は特に限定されるものではなく、液体組成物やインク、記録装置の構成等により自由に設定が可能である。
【0216】
図22(a)〜(d)は、本実施態様にかかるインクジェットヘッドにおけるワイピング動作を説明する図である。ワイピング時にはブレード118A、118B及び拭き部材117を保持したホルダ110Aが図中矢印方向に移動すると(同図(a))、やがて第1のブレード118Aが吐出口面205に当接し(同図(b))、更にホルダ110Aが移動することによって第2のブレード118Bも吐出口面205に当接する(同図(c))。これら2つのブレードの当接及びその状態での吐出口面との相対的な摺動によって、前述のように吐出口面205に付着する液体組成物とインクとの混合物等の異物を除去することができる。そして、ホルダ110Aが更に同方向に移動することによって、ブレードの当接は解除され(同図(d))、ワイピングを終了する。
尚、同図(c)に示すように、より自由長の長い第2のブレード118Bが吐出口面205と当接することによるブレード118Bの変形によって、拭き部材117も同様に変形し、これにより、拭き部材117は吐出口面205に当接せず、ワイピングのみが行われることになる。
【0217】
図23(a)〜(c)は、本実施態様の拭き動作を説明する図である。
拭き動作は、ホルダ110Aの図22に示した移動とは逆方向の移動によって行われる。即ち、図23(a)に示す初期状態から同図(b)に示す矢印方向にホルダ110Aが移動するのに伴なって、拭き部材117は吐出口面205に当接し、これにより拭き動作が行われ、前述した液体組成物とインクとの混合物を除去することができる。そして、ホルダ110Aが更に同方向に移動することによって当接が解除され(同図(c))、拭き動作を終了する。尚、同図(b)に明らかなように、その拭き動作では、ブレード118B及び118Aがともに吐出口面205に当接しワイピングも同時に行われる。
【0218】
尚、本発明に使用する記録装置において、上記ではインク及び液体組成物に熱エネルギーを作用させてインク液滴を吐出するインクジェット記録装置を例に挙げたが、その他、圧電素子を使用するピエゾ方式のインクジェット記録装置でも同様に利用できる。
【0219】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、文中、部及び%とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
また、文中のゼータ電位は、微粒子の固形分濃度が0.1%になるよう液体組成物をイオン交換水で分散させた後に、ゼータ電位測定機(ブルックヘブン社製、BI−ZETA plus、液温20℃、アクリルセル使用)で測定した値である。pHは、作成した液体組成物に対し、液温25℃でpHメーター計(堀場製作所(株)製、カスタニーpHメーターD−14)を用いて測定した。微粒子の平均粒子直径は、微粒子の固形分濃度を0.1%になるよう液体組成物をイオン交換水で分散させた後に、動的光散乱法粒度分布計(ブルックヘブン社製、BI−90、液温20℃、アクリルセル使用)を用いて測定した。
【0220】
先ず、本発明の液体組成物の作製について説明する。
以下に示す各成分を混合溶解した後、ポアサイズが1μmのメンブレンフィルター(商品名、フロロポアフィルター、住友電工(株)製)にて加圧濾過し、本発明の液体組成物A、B、C及びDを得た。また、液体組成物の細孔半径分布及び細孔容積は、下記手順に従って前処理した後、試料をセルに入れ、120℃で8時間真空脱気してカンタクローム社製のオムニソーブ1を用いて窒素吸着脱離法により測定した。細孔半径及び細孔容積は、Barrettらの方法(J.Am.Chem.Soc.,Vol.73,373,1951)により計算から求めた。
(1)上記液体組成物を大気雰囲気下120℃で10時間乾燥して、ほぼ溶媒分を蒸発させて乾燥する。
(2)上記乾燥物を120℃から700℃まで1時間で昇温させた後、700℃で3時間焼成する。
(3)焼成後、上記焼成物を徐々に常温に戻し、焼成物をメノウ乳鉢で摺り潰して粉体化する。
【0221】
(アルミナ水和物の合成例)
米国特許明細書第4,242,271号に記載の方法でアルミニウムドデキシドを製造した。次に、米国特許明細書第4,202,870号に記載された方法で、前記アルミニウムドデキシドを加水分解してアルミナスラリーを製造した。このアルミナスラリーをアルミナ水和物の固形分が8.2%になるまで水を加えた。アルミナスラリーのpHは9.7であった。3.9%の硝酸溶液を加えてpHを調整し、表1に示す熟成条件でコロイダルゾルを得た。このコロイダルゾルを83℃でスプレードライすることによってA〜Dのアルミナ水和物を作製した。このアルミナ水和物はいずれも水中で表面がプラスに帯電し、カチオン性を示した。また、これらのアルミナ水和物をイオン交換水に分散させてコロジオン膜上に滴下して測定用試料を作製し、透過型電子顕微鏡で観察したところ、すべて平板形状の微粒子であった。
【0222】
【表1】
Figure 0003631188
【0223】
Figure 0003631188
【0224】
上記で得られた液体組成物AのpHは3.8であり、ゼータ電位は+38mVであった。また、インクタンクに液体組成物Aを充填し、60℃/Dry・1ヶ月の保存試験を行った後もインクタンク内に沈降物は見られず、記録ヘッドからの吐出安定性も良好であった。また、液体組成物Aから得られた微粒子凝集物は細孔半径が3〜30nmの範囲における細孔容積は0.96ml/gであり、30nmを越える範囲での細孔容積は0.005ml/gであった。また、3〜20nmの範囲での細孔容積は0.94ml/gであり、20nmを越える範囲での細孔容積は0.02ml/gであった。
【0225】
Figure 0003631188
【0226】
上記で得られた液体組成物BのpHは3.7であり、ゼータ電位は+41mVであった。また、インクタンクに液体組成物Bを充填し、60℃/Dry・1ヶ月の保存試験を行った後もインクタンク内に沈降物は見られず、記録ヘッドからの吐出安定性も良好であった。また、液体組成物Bから得られた微粒子凝集物は細孔半径が3〜30nmの範囲における細孔容積は0.45ml/gであり、30nmを越える範囲での細孔容積は0.001ml/gであった。また、3〜20nmの範囲での細孔容積は0.44ml/gであり、20nmを越える範囲での細孔容積は0.01ml/gであった。
【0227】
Figure 0003631188
【0228】
上記で得られた液体組成物CのpHは3.7であり、ゼータ電位は+39mVであった。また、インクタンクに液体組成物Cを充填し、60℃/Dry・1ヶ月の保存試験を行った後もインクタンク内に沈降物は見られず、記録ヘッドからの吐出安定性も良好であった。また、液体組成物Cから得られた微粒子凝集物は細孔半径が3〜30nmの範囲における細孔容積は0.90ml/gであり、30nmを越える範囲での細孔容積は0.01ml/gであった。また、3〜20nmの範囲での細孔容積は0.83ml/gであり、20nmを越える範囲での細孔容積は0.08ml/gであった。
【0229】
Figure 0003631188
【0230】
上記で得られた液体組成物DのpHは4.2であり、ゼータ電位は+36mVであった。また、インクタンクに液体組成物Dを充填し、60℃/Dry・1ヶ月の保存試験を行った後もインクタンク内に沈降物は見られず、記録ヘッドからの吐出安定性も良好であった。また、液体組成物Dから得られた微粒子凝集物は細孔半径が3〜30nmの範囲における細孔容積は0.79ml/gであり、30nmを越える範囲での細孔容積は0.05ml/gであった。また、3〜20nmの範囲での細孔容積は0.70ml/gであり、20nmを越える範囲での細孔容積は0.14ml/gであった。
【0231】
次に、本発明の実施例及び比較例で使用するインクサブセット1及び2の作製について説明する。
<インクサブセット1の作製>
下記に示す各成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズが0.45μmのフロロポアフィルター(商品名、住友電工(株)製)にて加圧濾過し、ブラック、イエロー、マゼンタ及びシアンの各染料インク、Bk1、Y1、M1及びC1を得、これらの染料インクからなる組み合わせをインクサブセット1とした。
【0232】
[ブラックインクBk1]
・C.I.ダイレクトブラック195 2.5部
・2−ピロリドン 10部
・グリセリン 5部
・イソプロピルアルコール 4部
・水酸化ナトリウム 0.4部
・水 78.1部
【0233】
Figure 0003631188
【0234】
Figure 0003631188
【0235】
Figure 0003631188
【0236】
<インクサブセット2の作製>
下記に示す各成分によって顔料分散液を調製し、これを用いてブラックインクBk2を作製した。更に同様の顔料分散液を用いてイエロー、マゼンタ及びシアンの各顔料インク、Y2、M2及びC2を得、これらの顔料インクからなる組み合わせをインクサブセット2とした。
【0237】
[ブラックインクBk2]
(顔料分散液の作製)
・スチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体
(酸価140、重量平均分子量5,000)1.5部
・モノエタノールアミン 1.0部
・ジエチレングリコール 5.0部
・イオン交換水 81.5部
【0238】
上記成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この溶液に新たに試作されたカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部、イソプロピルアルコール1部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。
・分散機:サンドグラインダー(五十嵐機械製)
・粉砕メディア:ジルコニウムビーズ、1mm径
・粉砕メディアの充填率:50%(体積比)
・粉砕時間:3時間
更に遠心分離処理(12,000rpm.、20分間)を行い、粗大粒子を除去して分散液とした。
【0239】
(ブラックインクBk2の作製)
上記の顔料分散液を使用し、下記の組成比を有する成分を混合し、顔料を含有するインクを作製し、これをブラックインクBk2とした。
・上記顔料分散液 30.0部
・グリセリン 10.0部
・エチレングリコール 5.0部
・N−メチルピロリドン 5.0部
・エチルアルコール 2.0部
・イオン交換水 48.0部
【0240】
[イエローインクY2]
ブラックインクBk2の調製の際に使用したカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部を、ピグメントイエロー74に代えたこと以外はブラックインクBk2の調製と同様にして、顔料含有イエローインクY2を調製した。
【0241】
[マゼンタインクM2]
ブラックインクBk2の調製の際に使用したカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部を、ピグメントレッド7に代えたこと以外はブラックインクBk2の調製と同様にして、顔料含有マゼンタインクM2を調製した。
【0242】
[シアンインクC2]
ブラックインクBk2の調製の際に使用したカーボンブラック(MCF88、三菱化成製)10部を、ピグメントブルー15に代えたこと以外はブラックインクBk2の調製と同様にして、顔料含有シアンインクC2を調製した。
【0243】
(実施例1〜8)
上記のようにして得られた本発明の液体組成物A〜Dと、インクサブセット1(Bk1、Y1、M1及びC1)、及びインクサブセット2(Bk2、Y2、M2及びC2)の各色インクを用いて、下記の表2の組み合わせで、印字を行った。これを本発明の実施例1〜8とした。
【0244】
【表2】
Figure 0003631188
【0245】
上記のようにして液体組成物A〜Dとインクサブセット1及び2を組み合わせて使用する実施例1〜8の着色部の形成方法においては、PPC用紙(キヤノン製)に記録を行った。また、その際に使用したインクジェット記録装置としては、図1に示したのと同様の記録装置を用い、図3に示した記録ヘッドを5つ用いてカラー画像を形成した。この際、液体組成物を先打ちして先ず記録紙上に付着させ、その後、インクを付着させた。
【0246】
具体的には、印字領域を3回の走査で印字する3パスファイン印字を行った。このとき、液体組成物は各パス毎にイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックのいずれかのインクが付与される画素位置に付与した。即ち、各パス毎のイエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの印字データの論理和を液体組成物の付与データとして用いた。尚、該ファイン印字時のファインマスクの種類には、特に制限はなく、公知の技術が利用可能であるので、ここでの詳細な説明は省略する。
【0247】
ここで用いた記録ヘッドは、600dpiの記録密度を有し、駆動条件としては、駆動周波数9.6kHzとした。600dpiのヘッドを使用したときの1ドット当たりの吐出量はイエロー、マゼンタ、シアンインク及び液体組成物については夫々15ng、ブラックインクについては1ドット当たり30ngのヘッドを使用した。尚、これらの記録条件は、実施例及び比較例を通じて同一である。
【0248】
(比較例1及び2)
インクサブセット1及び2のみを用いて、下記の表3のようにして印字を行った。
【表3】
Figure 0003631188
【0249】
上記インクサブセット1及びインクサブセット2のみを用いて記録(比較例1及び2)において用いた記録ヘッドは、600dpiの記録密度を有し、駆動条件としては、駆動周波数9.6kHzとした。600dpiのヘッドを使用したときの1ドット当たりの吐出量は、イエロー、マゼンタ及びシアンインクについては夫々約15ng、ブラックインクについては1ドット当たり約30ngのヘッドを使用し、実施例1〜8の場合と同条件で記録を行った。
【0250】
[評価方法及び評価基準]
上記の実施例1〜8及び比較例1、2で得られた夫々の記録画像について、下記の評価方法及び評価基準で評価を行った。その結果を表4に示した。
【0251】
(記録画像の評価方法)
(1)発色性
高精細XYZ・CIELAB・RGB標準画像(SHIPP)(監修:高精細標準画像作成委員会、発行:画像電子学会)のRGBカラーチャートをプリンタを用いて印字し、それらのカラーチャートを測色した。発色性の評価は同技術解説書に記載されている方法で色彩分布の3次元的な広がり(以下、文中では色域体積と呼ぶ)の計算を行い、比較した。その際、印字画像を形成する際の画像処理は同一条件とし、測色は、印字後24時間経過後、GRETAGスペクトロリノで光源:D50、視野角:2°の条件で測定した。その評価基準を以下に示した。インクサブセットのみの印字画像(比較例1及び2)に対しての色域体積の比を、評価基準とした。
【0252】
AAA:色域体積比が1.7倍以上
AA :色域体積比が1.5〜1.7倍未満
A :色域体積比が1.4〜1.5倍未満
BB :色域体積比が1.2〜1.4倍未満
B :色域体積比が1.0〜1.2倍未満
C :色域体積比が1.0倍未満
【0253】
尚、これとは別に、インクジェット用コート紙(商品名:カラーBJ用紙LC−101、キヤノン(株)製)を用いてインクサブセット1で印字して画像を形成し、上記の比較例1の印字物との色域体積の比を求めたところ1.3倍であった。
【0254】
(2)均一性
前記したプリンターを用いて、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック各色のインクのベタ画像を印字した後、目視にて、白モヤと色ムラに関して色の均一性を評価した。特に均一性の悪い色を評価対象とした。評価基準は、以下の通りである。
A:白モヤや色ムラは殆ど発生しない。
B:若干紙の繊維に沿って白モヤや色ムラが見えるが、実質上問題のないレベルである。
C:紙の繊維に沿って著しく白モヤや色ムラが見える。
【0255】
(3)スジムラ
前記したプリンターを用いて、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック各色のインクのベタ画像を印字した後、目視にて、スジムラを評価した。特にスジムラの悪い色を評価対象とした。評価基準は以下の通りである。
A:スジムラは殆ど発生しない。
B:若干ヘッドスキャン毎のスジムラが見えるが、実質上問題のないレベルである。
C:著しくヘッドスキャン毎の白いスジムラが見える。
【0256】
(4)耐擦過性
前記したプリンターを用いて、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック各色のインクのベタ画像を印字した。印字して16時間後、印字部の上にシルボン紙を重ね、更にその上に3.5cm×3.5cmの分銅を載せ、40g/cmの圧力をかけながら15cm/sec.の速度でシルボン紙を引張って印字部の耐擦過性を評価した。特に耐擦過性の悪い色を評価対象とした。評価基準は以下の通りである。
A:インク落ちは殆ど発生しない。
B:若干インクがシルボン紙に付着するが、印字部の色落ちは目立つレベルではない。
C:インクがシルボン紙に多く付着し、明確に印字部の色落ちが生じる。
【0257】
(5)風合い
前記したプリンターを用いて、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック各色のインクのベタ画像を印字した後、目視にて被記録媒体の風合いを評価した。評価基準は、以下の通りである。
A:印字部及び未印字部ともに違和感がなく普通紙の風合いを残している。
B:印字部と未印字部で風合いが異なる、または記録媒体全体が普通紙の風合いと大きく異なる。
【0258】
【表4】
Figure 0003631188
【0259】
(実施例9〜15)
使用する被記録媒体の種類による画像品質への影響を調べるため、上記で作成した液体組成物Aとインクサブセット1との組み合わせからなるインクセットを用いて、下記1)〜7)の商品名で広く流通している7種類の「普通紙」を用いて画出し試験を行った。画像形成に際しては、これらの各普通紙上で、インクサブセット1を構成する4色のインク各々と、液体組成物Aとを、実施例1〜8の場合と同様に印字して実施例9〜15の記録画像とした。そして、得られた画像について、実施例1〜8と同様の方法で評価し、結果を下記表5に示した。
【0260】
被記録媒体
1)キヤノン社製:PB用紙
2)キヤノン社製:Brilliant White paper
3)Union Camp社製:Great White Inkjet
4)ハンマーミル(Hammermill)社製:Jet Print
5)ゼロックス(Xerox)社製:Xerox 4024
6)ヒューレットパッカード(Hewlett Packard)社製:Bright White Inkjet Paper
7)Aussdat Ray社製:Ray Jet
【0261】
【表5】
Figure 0003631188
【0262】
以上の結果、実施例9〜15の着色部の形成方法においては、表5に示されているように、被記録媒体の種類によらず、発色性、均一性、スジムラ、耐擦過性及び風合いのいずれにおいても満足できる画像が得られることが確認できた。
【0263】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、特に、普通紙に対するカラーインクジェット記録を行った場合に、優れた発色性と色の均一性が得ることを可能とする液体組成物に起因する細孔物性の測定方法、普通紙の風合いを残しながらインクジェット用コート紙並みの優れた発色性と色の均一性が得ることができ、且つベタ画像部のスジムラが少なく、印字部の耐擦過性に優れたインクジェット記録画像が得られる液体組成物、該液体組成物を組み合わせたインクセット、被記録媒体に着色部を形成する方法及びインクジェット記録装置が提供される。本発明によって提供される液体組成物は、上記した優れた画像の提供を可能とするのみならず、保存安定性や、記録ヘッドからの吐出安定性等のインクジェット記録特性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用したインクジェットプリント装置を模式的に示す一部破断斜視図である。
【図2】図1中のヘッドカートリッジの模式的斜視図である。
【図3】図1中のヘッドカートリッジのインク吐出部の構造を模式的に示す部分斜視図である。
【図4】図1のインクジェットプリント装置のワイピング動作を示す模式図であり、(A)は各ヘッドのプリント領域側からホームポジションへの移動とインク用ブレードの上昇、(B)はプリントヘッドのワイピング、(C)は液体組成物吐出ヘッドのワイピング、(D)は各ブレードの下降をそれぞれ示す。
【図5】図1のインクジェットプリント装置のワイピング動作を示す模式図であり、(A)は各ブレードの上昇、(B)は各ヘッドのホームポジションからプリント領域側への移動、(C)は液体組成物用ブレードの下降、(D)はプリントヘッドのワイピングとインク用ブレードの下降をそれぞれ示す。
【図6】図1のインクジェットプリント装置のワイピング動作を示す模式図であり、(A)はインク用ブレードの上昇、(B)は各ヘッドのホームポジション側からプリント領域側への移動とプリントヘッドのワイピング、(C)は各ヘッドのプリント領域側からホームポジション側への移動とインク用ブレードの待機と液体組成物用ブレードの上昇、(D)各ヘッドのホームポジション側への移動と液体組成物吐出ヘッドのワイピングをそれぞれ示す。
【図7】図1のインクジェットプリント装置の廃液回収系統を示す模式図である。
【図8】図7の廃液回収系統の一部変更例を示す模式図である。
【図9】コート紙にインクジェット記録を行なったときの着色部の状態を説明する模式的断面図である。
【図10】本発明にかかるインクカートリッジの一実施態様を示す概略図である。
【図11】図10のインクカートリッジを装着した記録ヘッドの概略図である。
【図12】本発明にかかる記録ユニットの一実施態様を示す概略図である。
【図13】本発明にかかるインクジェット画像の着色部の状態を説明する模式的断面図である。
【図14】本発明にかかるインクジェット記録画像の着色部の形成工程を示す概略工程図である。
【図15】記録ユニットの斜視図である。
【図16】本発明にかかるインクジェットプリント装置の一つの実施態様を模式的に示す一部破断斜視図である。
【図17】図16のインクジェットプリント装置のワイピング動作を示す模式図であり、(A)はインク用ブレードの上昇、(B)はプリントヘッドのワイピング、(C)はインク用ブレードの下降、(D)は液体組成物が適正位置についた後の両ブレードの上昇、(E)は液体組成物と第2のブラックインク用ヘッドのワイピング、(F)は両ブレードの下降をそれぞれ示す。
【図18】本発明の一実施態様にかかるインクジェットプリント装置を示す概略斜視図である。
【図19】図18のインクジェットプリント装置におけるワイピング及び拭き動作のための機構を説明するための模式図である。
【図20】図18の実施態様におけるインクジェットヘッドの吐出口面及びその吐出口面に付着した液体組成物とインクとの混合物を示す図である。
【図21】(a)及び(b)は図19に示した機構のそれぞれ正面図及び側面図である。
【図22】(a)〜(d)は図19の実施態様のワイピング動作を説明する図である。
【図23】(a)〜(c)は図19の実施態様の拭き動作を説明する図である。
【符号の説明】
1:プリントヘッド(インク吐出ヘッドカートリッジ)
2:液体組成物吐出ヘッド(液体組成物吐出ヘッドカートリッジ)
3:キャリッジ
4:ガイド軸(走査レール)
5:駆動ベルト
6、7、8、9:搬送ローラ
10:被記録媒体
11:回復ユニット
12:キャップ(プリントヘッド用)
13:キャップ(液体組成物吐出ヘッド用)
14:吸引ポンプ(インク用)
15:吸引ポンプ(液体組成物用)
16:ブレード(プリントヘッド用)
17:ブレード(液体組成物吐出ヘッド用)
18、19:ブレードホルダー
20、20Bk1、20S、20BK2、:インクタンク
21:液貯留タンク部
22:(インク)吐出部
22A:(液体組成物)吐出部
23:ヘッド側コネクタ
24:廃液タンク
25:吸収体
26:廃インク導管
27:廃液導管
81:吐出口形成面
82:吐出口
83:共通液室
84:液路
85:電気熱変換体(発熱抵抗体等)
100:インクジェットプリント装置
101:キャリッジ
102:ヘッドユニット
103:インクジェットカートリッジ
104、105:ガイド軸
106:被記録媒体
107:スイッチ部及び表示素子部
108:プラテン
109:送りローラ
110:回復系ユニット
110A:ブレード及び拭き部材を保持するホルダ
117:拭き部材
118A、118B:ブレード
200、200Bk、200Bk1、200BK2、200S、200Y、200M、200C:インクジェットヘッド
201:体組成物とインクとの混合物
205:吐出口面
206:吐出口
901:基紙
903:インク受容層
905:多孔質微粒子
907:接着剤
909:インク浸透部
1001:カートリッジ
1003:インク収容部
1005:液体組成物収容部
1101:記録ヘッド
1201:記録ユニット
1203:記録ヘッド
1301:被記録媒体
1302:空隙
1303:微粒子
1305:色材
1307、1309:微粒子凝集物
1400:着色部
1401:反応部
1402:インク流出部
1403:被記録媒体
1404:色材
1405:空隙
1406:液体組成物
1407:液溜り
1413:インク
1415:凝集物
1500:記録ユニット
1501:ヘッド部
1502:大気連通孔

Claims (19)

  1. 色材を含むアニオン性若しくはカチオン性の水性インクと共に被記録媒体に付与し、該被記録媒体上に着色部を形成するのに用いられる液体組成物であって、該液体組成物が溶媒と、該水性インクに対して逆極性に表面が帯電しており、該色材と反応性を有する微粒子(色材を除く)を少なくとも含み、且つ該液体組成物から形成される微粒子凝集物の細孔物性を、該液体組成物を下記(1)〜(3)の順に従って前処理した後、120℃で8時間真空脱気して該液体組成物から形成される微粒子凝集物の細孔物性を窒素吸着脱離法により測定した際に、微粒子凝集物の細孔半径が3nm〜30nmの領域の細孔容積が0.4ml/g以上であり、細孔半径が30nmを越える領域での細孔容積が0.1ml/g以下であることを特徴とする液体組成物。
    (1)上記液体組成物を大気雰囲気下120℃で10時間乾燥してほぼ溶媒分を蒸発させて乾燥する;
    (2)上記乾燥物を120℃から700℃まで1時間で昇温させた後700℃で3時間焼成する;及び
    (3)焼成後、上記焼成物を徐々に常温に戻し焼成物を粉体化する。
  2. 細孔半径が3nm〜20nmの領域の細孔容積が0.4ml/g以上であり、細孔半径が20nmを越える領域での細孔容積が0.1ml/g以下である請求項に記載の液体組成物。
  3. 微粒子が、着色部を形成する際にインク中の色材の凝集を防ぎつつ該微粒子表面に色材を吸着する微粒子である請求項1または2に記載の液体組成物。
  4. ゼータ電位が+5〜+90mVである請求項のいずれか1項に記載の液体組成物。
  5. 更に水中での一次解離定数pKaが、5以下である酸を含み、pHが2〜7に調整されている請求項のいずれか1項に記載の液体組成物。
  6. ゼータ電位が−5〜−90mVである請求項のいずれか1項に記載の液体組成物。
  7. 更に水中での一次解離定数pKbが、5以下である塩基を含み、pHが7〜12に調整されている請求項及び請求項のいずれか1項に記載の液体組成物。
  8. 微粒子の平均粒子直径が、0.005〜1μmの範囲である請求項のいずれか1項に記載の液体組成物。
  9. 色材を含むインク及び該色材と反応性を有する微粒子を含む液体組成物とを独立に備えているインクセットであって、該液体組成物が請求項1〜8のいずれか1項に記載の液体組成物であることを特徴とするインクセット。
  10. インクが、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインク、レッドインク、ブルーインク及びグリーンインクから選ばれる少なくとも1つである請求項に記載のインクセット。
  11. インクがアニオン性であり、且つ液体組成物のゼータ電位が+5〜+90mVである請求項9または10に記載のインクセット。
  12. インクがアニオン性であり、且つ液体組成物が水中での一次解離定数pKaが5以下である酸を含み、該液体組成物のpHが2〜7に調整されている請求項〜1のいずれか1項に記載のインクセット。
  13. インクがカチオン性であり、且つ液体組成物のゼータ電位が−5〜−90mVである請求項9または10に記載のインクセット。
  14. インクがカチオン性であり、且つ液体組成物が水中での一次解離定数pKbが、5以下である塩基を含み、該液体組成物のpHが7〜12に調整されている請求項9、及び請求項1のいずれか1項に記載のインクセット。
  15. 液体組成物中に分散されている微粒子の平均粒子直径が0.005〜1μmの範囲にある請求項〜1のいずれか1項に記載のインクセット。
  16. インクが、下記i)〜iii)のいずれかを含有する請求項〜1及び請求項1のいずれか1項に記載のインクセット
    i)アニオン性基を有する水溶性染料、
    ii)顔料と該顔料の分散剤であるアニオン性化合物、
    iii)顔料表面にアニオン性基が直接若しくは他の原子団を介して結合されている顔料。
  17. 前記インクと前記液体組成物が、インクジェット記録用である請求項〜1のいずれか1項に記載のインクセット。
  18. (i)色材を含むインクを被記録媒体に付与する工程及び(ii)液体組成物を被記録媒体に付与する工程とを有する被記録媒体に着色部を形成する方法であって、該インクと該液体組成物が請求項17のいずれか1項に記載のインクセットを構成するインクと液体組成物であることを特徴とする被記録媒体に着色部を形成する方法。
  19. 工程(i)におけるインクの被記録媒体への付与及び工程(ii)における液体組成物の被記録媒体への付与の少なくとも一方を、記録信号に応じてオリフィスから吐出させて行うインクジェット記録方法によって行う請求項18に記載の被記録媒体に着色部を形成する方法。
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