JP3626241B2 - 鏡面研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、下地研磨としての砥石研磨が省略できる鏡面研磨性に優れ、かつ加工性も具備したオーステナイト系ステンレス鋼帯の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鏡面仕上げステンレス鋼板は、反射鏡やプラスチック成形板などに使用され、最近では内外装用建築材料としても多く用いられるようになってきた。その表面性状としては、光沢および写像性が要求されている。そのためには、スクラッチ目と呼ばれる研磨線の残存をなくし、表面凹凸の少ない良好な面に仕上げなければならない。
【0003】
鏡面研磨は、回転する円板平面の砥石(酸化アルミニウム系、炭化珪素系、ジルコニア系砥粒を円板状に成形)で下地研磨を行い、次いで円板状に成形されたフェルト、ゴム、合成樹脂等の平面で自由砥粒(酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化鉄等)と界面活性剤(HNO3 等)を介して仕上研磨(ラッピング仕上)する。
【0004】
鏡面仕上げステンレス鋼板は、表面性状の優れた冷間圧延ステンレス鋼板を鏡面研磨して製造される。冷間圧延ステンレス鋼板は、例えば熱間圧延鋼帯を焼鈍し、脱スケールした後、冷間圧延し、焼鈍し、調質圧延して製造される。冷間圧延は中間焼鈍を入れて複数回行われる場合もある。冷間圧延後の焼鈍を燃焼雰囲気で行った場合は脱スケールを行い、光輝焼鈍した場合は脱スケールせずに調質圧延される。
【0005】
特に後者においては、焼鈍雰囲気として、例えばアンモニア分解ガスと呼ばれる水素と窒素の比率が3対1の割合の混合ガスが使用され、JIS規格のBA仕上材として製造される。このようなBA仕上面を有するオーステナイト系ステンレス鋼板を、下地研磨としての砥石研磨を省略して鏡面研磨用途に用いる場合には、研磨用素材の表面品質としてJIS H 8686に規定された指数(以下、写像性と略す)において85%以上の値を有するステンレス鋼板が要求されることが多い。すなわち、素材の表面に細かな凹凸、皺状のうねりが多数存在すると写像性が劣り、そのままではラッピング仕上のみの鏡面研磨では研磨後の表面品質が著しく阻害されることが知られている。そのため、前記凹凸のうねりの防止・除去技術の確立が強く要望されている。
【0006】
SUS304を代表とするオーステナイト系ステンレス鋼板のBA仕上においては、フェライト系ステンレス鋼板の場合と異なり、光輝焼鈍(以下、BAと略す)における再結晶によって表面に細かな凹凸が生じる。この凹凸を平坦にするために、表面粗さが中心線平均粗さ(JIS B 0601に規定されたRa、以下Raと略す)で0.01μm以上0.06μm以下程度の平滑なロールで軽い冷間圧延を行って研磨用素材表面の写像性を向上させる調質圧延が施されるが、フェライト系ステンレス鋼板に比べると写像性が劣ることが知られていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
SUS304の鏡面研磨用素材の表面粗さを改善する方法として、冷間圧延前の平均結晶粒径を15μm以下(結晶粒度番号約9.5以上)に調整した後、50%以上の圧下率で冷間圧延し、最終焼鈍し、調質圧延する方法が特開平1−154802号公報に開示されている。しかしながら、該方法では、上述したように最終焼鈍のBA後の調質圧延において、0.5%を超えるような圧下率(伸び長さで規定する場合は「伸び率」とも言う)で行うと、細かな皺状のうねりが表面に発生し、逆に表面粗さが増大して写像性が劣化してしまうことがある。
【0008】
従って、BA仕上を有するオーステナイト系ステンレス鋼板を、下地研磨としての砥石研磨を省略して鏡面研磨用素材として用いる工程において、高伸び率の調質圧延を行っても皺状のうねりが発生することなく、かつ加工性も良好な材料が強く要望されていた。
本発明は、下地研磨としての砥石研磨が省略できる鏡面研磨性に優れ、かつ加工性も具備したオーステナイト系ステンレス鋼帯の製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、微量成分の効果、調質圧延前のBA材の結晶粒径と調質圧延圧下率の適正範囲を種々検討した。本発明はその結果完成したもので、その要旨とするところは下記のとおりである。
(1)重量%にて、Al:0.01%以上0.10%以下、O:0.01%以下を含有し、JIS G 0551で表される結晶粒度番号が7.3以上10以下、JIS B 0601で表される表面の中心線平均粗さ(Ra)が0.15μm以下の光輝焼鈍されたオーステナイト系ステンレス鋼帯を素材として、伸び率が0.5%以上2.5%以下の調質圧延を行うことを特徴とする鏡面研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯の製造方法。
【0010】
(2)光輝焼鈍における焼鈍温度が1050℃以上1170℃以下であることを特徴とする前項(1)記載の鏡面研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯の製造方法。
【0011】
【作用】
本発明の限定理由を以下に詳細に説明する。
まず、本発明における微量成分元素の限定理由について述べる。
Alは、本発明にあって結晶粒径に影響を及ぼす元素であり、0.01%以上の添加によりAlNが析出してBAでの結晶粒成長を抑制する。その結果、後で述べるように、BAでの着色現像(以下、ブルーイングと略す)が防止できる焼鈍温度範囲を確保することができる。一方、0.10%を超えて含有するとAl2 O3 の生成を助長し、Al2 O3 は鏡面研磨時に表面疵を発生させ、鏡面研磨性を劣化させる。従って、Alの範囲は0.01%以上0.10%とした。好ましくは、0.02%以上0.05%以下である。
【0012】
Oは、本発明にあって鏡面研磨時の表面疵発生に悪影響を及ぼす元素であり、0.01%を超えて含有すると、酸化物系介在物が増加して介在物起因の表面疵が発生し、鏡面研磨性が劣化する。従って、Oの範囲は0.01%以下とした。好ましくは、0.005%以下である。
冷間圧延工程を経てきたオーステナイト系ステンレス鋼板を光輝焼鈍し、続いて調質圧延を行う工程において、焼鈍後の結晶粒の大きさ(結晶粒度番号)、焼鈍鋼帯の表面粗さ(Ra)および調質圧延の圧下率を特定範囲内で行うことによって鏡面研磨性に優れた表面と加工性に優れた材質を得ることができる。
【0013】
本発明における製造工程の限定理由を以下に説明する。
光輝焼鈍材を調質圧延する場合、調質圧延による皺状のうねりの発生を抑制するためには光輝焼鈍材の結晶粒を小さくしなければならない。
結晶粒度番号(JIS G 0551)で表した光輝焼鈍後の結晶粒の大きさと調質圧延後(鏡面研磨用素材)の表面の写像性(評価方法JIS H 8686)との関係を図1に示す。調質圧延前の光輝焼鈍材の結晶粒度番号が7.3以上では調質圧延後に安定して高い写像性の鋼板となり、結晶粒度番号が7.3未満では写像性が著しく劣化する。従って、光輝焼鈍後の素材の結晶粒度番号は7.3以上にする必要がある。
【0014】
一方、結晶粒度番号を過大に大きく(過大に細粒化)すると加工性が劣化して製品特性としては好ましくない。加工性の指標として引張試験(JIS Z 2241)の破断伸びを用いることがよく行われるが、加工性を具備するためには一般に45%以上の破断伸びが要求される。
光輝焼鈍後の結晶粒度と調質圧延後(鏡面研磨用素材)の破断伸びの関係を図2に示す。結晶粒度番号が10を超えると破断伸びが45%未満となる。従って、最終光輝焼鈍後の結晶粒度番号は10以下にする必要がある。
【0015】
結晶粒度は光輝焼鈍温度の影響が顕著であり、焼鈍温度が高くなるほど結晶粒は粗大化する。従って、焼鈍温度によって結晶粒度を調整することができる。
オーステナイト系ステンレス鋼のAl含有量、焼鈍温度および結晶粒度の関係を図3に示す。Al含有量が0.01%未満の場合には、必要な結晶粒度(粒度番号7.3以上)を確保するための温度範囲が1050℃未満となり、Cr系酸化物が平衡論的に安定となる温度領域と一致するために、Cr系酸化皮膜起因のブルーイングが発生する。一方、1050℃以上になると結晶粒度番号が7.3未満となるために写像性が劣化する。従って、Al含有量は0.01%以上としなければならない。その場合、焼鈍温度が1050℃未満だと結晶粒度番号が10を超えて細粒になりすぎ、焼鈍温度が1170℃を超えると結晶粒度番号が7.3未満で粗粒になりすぎる。従って、Al含有量が0.01%以上のオーステナイト系ステンレス鋼においては、最終光輝焼鈍を1050℃以上1170℃以下の温度で行うことによって結晶粒度を7.3以上10以下にすることができる。
【0016】
光輝焼鈍の保定時間については、長くなるに従って結晶粒が大きく成長することが以前から一般的に知られているが、30秒保定と60秒保定では結晶粒度に有意差が認められなかった(表1、表2の実施例No.6とNo.8参照)。現在、工業的に行われる焼鈍はほとんどが連続ラインでの処理で、保定時間は60秒以下の範囲である。粒成長に及ぼす保定時間の影響は、温度の影響に比べて非常に小さく無視できる。
【0017】
先にも述べたように、オーステナイト系ステンレス鋼は光輝焼鈍における再結晶によって表面に細かな凹凸の皺状のうねりが生じる。この凹凸を平滑なロールを用いた調質圧延によって平坦化すると表面の写像性が良好となるが、表面の凹凸が細かいために、調質圧延を潤滑剤を供給しながら行った場合には、潤滑剤が素材表面と平滑なロールとの隙間に入り込んで平坦化が充分には行われないことがある。その結果、写像性の良好な表面を得ることができない。従って、調質圧延は無潤滑で行うことが好ましい。
【0018】
調質圧延の圧下率が小さすぎると表面の平坦化が効果的に行われない。圧下率と写像性との関係を図4に示す。写像性を85%以上にするには結晶粒度番号が7.3以上の素材を0.5%以上の圧下率で調質圧延することが必要である。一方、結晶粒度番号が7.3を下回る素材は調質圧延の効果が小さいか、逆に表面の写像性が劣化する。調質圧延の圧下率が2.5%を超えた場合、写像性は劣化しないものの、軽い焼き付きが表面に発生しはじめ、白い筋模様として鋼板表面の品質を劣化させる。従って、調質圧延の圧下率は0.5%以上2.5%以下とした。好ましくは、0.5%以上1.5%以下である。
【0019】
本発明の調質方法を用いれば、調質圧延前の素材の表面粗さの大きさに関わらず写像性の向上を図ることが可能であるが、高い写像性を得るためには調質圧延前の素材の表面粗さを制限する必要がある。表1、表2の実施例No.15のように光輝焼鈍後の鋼帯の表面粗さがRaで0.20μmでは、写像性が低いことから、実施例No.1〜No.8のように調質圧延前の光輝焼鈍鋼帯のRaは0.15μm以下にする必要がある。
【0020】
【実施例】
表1、表2(表1のつづき)に本発明例、比較例および従来例を示す。鋼種としてはSUS304を用い、熱間圧延後焼鈍を施し、続いて冷間圧延を行った素材を用いて、表1に示す各条件で光輝焼鈍を行った後に結晶粒度番号、表面の中心線平均粗さ(Ra)を測定し、引き続き表2に示す圧下率で調質圧延を行った。各々の鋼板について研磨用素材としての写像性と表面の焼き付きによる白筋の有無、鏡面研磨特性としての砥石研磨省略の有無と鏡面研磨後の表面品質を評価した。
【0021】
【表1】
【0022】
【表2】
【0023】
光輝焼鈍は窒素:25vol.%、水素:75vol.%の水素含有の非還元雰囲気ガス中で行い、調質圧延は6Hiの圧延機を用いて行った。
本発明例(No.1〜No.8)は結晶粒度番号が7.3以上10以下、Raが0.15μm以下であり、調質圧延後の焼き付きによる白筋模様もなく、写像性が85%以上、破断伸びが45%以上であり、下地研磨としての砥石研磨が省略できて研磨後の表面品質も良好であり、比較例(No.9〜No.17)、従来例(No.18)に比べて優れた品質のステンレス鋼板となっている。
【0024】
【発明の効果】
以上のことから明らかな如く、本発明によれば、下地研磨としての砥石研磨が省略できる鏡面研磨性に優れ、かつ加工性も具備したオーステナイト系ステンレス鋼帯を製造することが可能となる。特に、この技術を用いれば最終光輝焼鈍工程と調質圧延工程で表面品質が造り込めるため、鏡面研磨用ステンレス鋼帯の表面品質を前工程の影響を受けずに安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鏡面研磨素材の写像性に及ぼす光輝焼鈍後の結晶粒度番号の影響を示す図である。
【図2】鏡面研磨素材の破断伸びに及ぼす光輝焼鈍後の結晶粒度番号の影響を示す図である。
【図3】光輝焼鈍後の結晶粒度番号に及ぼすAl含有量と光輝焼鈍温度の影響を示す図である。
【図4】各結晶粒度番号の鋼板における調質圧延後(鏡面研磨素材)の写像性に及ぼす調質圧延圧下率の影響を示す図である。
Claims (2)
- 重量%にて、Al:0.01%以上0.10%以下、O:0.01%以下を含有し、JIS G 0551で表される結晶粒度番号が7.3以上10以下、JIS B 0601で表される表面の中心線平均粗さ(Ra)が0.15μm以下の光輝焼鈍されたオーステナイト系ステンレス鋼帯を素材として、伸び率が0.5%以上2.5%以下の調質圧延を行うことを特徴とする鏡面研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯の製造方法。
- 光輝焼鈍における焼鈍温度が1050℃以上1170℃以下であることを特徴とする請求項1記載の鏡面研磨性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼帯の製造方法。
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