JP3623442B2 - オーステナイト系ステンレス鋼用高速tig溶接法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は非消耗電極を用いて、不活性ガスをシールドガスとして使用したTIG溶接法に関し、特にオーステナイト系ステンレス鋼に適用する高速度でTIG溶接する高速TIG溶接法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
TIG溶接法は、消耗電極式のMAG・MIG溶接法に比べて、高品質な溶接部が得られることから、原子力関連工業分野や、化学プラント分野における装置、配管等の施工及びその他ステンレス鋼の加工に用いられている。しかし、溶け込み不足やハンピングといった溶接不良を生じない溶接速度の上限が、MAG溶接法やMIG溶接法に比べて低速であり、一般的には、5〜20cm/min程度の低い溶接速度で溶接されている。
【0003】
又、従来からTIG溶接に使用されている一般的な溶接用シールドガスとしては、Arガス単体が挙げられるが、TIG溶接のシールドガスに混合ガスが用いられることも有り、例えば特開昭61−283465号公報には、Arガスに40〜90%程度のHeガスを添加した混合ガスをシールドガスとしていたり、又、Arガスに1〜10%程度のH2を添加した混合ガスをシールドガスとして使用していることが開示されている。
【0004】
近年溶接施工の溶接加工能率の向上を図るため高速溶接の開発が進められている。然るに、TIG溶接法においては、溶接速度を増加させていった場合、既存の上記溶接用シールドガスでは、ビード長手方向に溶着金属の盛り上がりが周期的に繰り返される、いわゆるハンピングビードと呼ばれるビード形状が形成されて、ある一定の溶接速度以上の高速溶接では適切な溶接ができなかった。しかも、高速な溶接ほど溶け込みが浅くなり、そのために溶接電流を高くする必要があるが、溶接電流を高くすると、更にハンピングが起こり易くなり、結果として既存のシールドガスでは、30cm/min以上の高速度のTIG溶接は不可能となっていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記した事情に鑑みなされたもので、溶接施工の加工能率を向上せしめることを目的とし、オーステナイト系ステンレス鋼をTIG溶接するにあたって、従来のアルゴンガスをシールドガスを用いたTIG溶接における溶接速度30cm/min以上、好ましくは40cm/min以上の高速度でも、上記ハンピング現象が生ずることなく、安定した、良好なビードが形成され、特にオーステナイト系ステンレス鋼の溶接に適用し得る高速TIG溶接法を提供することを本発明の解決すべき課題とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決し目的達成のため、
請求項1に係わる発明は、ガス組成が、30容量%以上40容量%未満のHeガス、8〜9容量%のH2ガス、残部Arガスである3種混合ガスをシールドガスとして用いて、非消耗電極によって、オーステナイト系ステンレス鋼を40cm/min以上の溶接速度でTIG溶接することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法としたものである。
請求項2に係わる発明は ガス組成が、40容量%以上50容量%未満のHeガス、6〜9容量%のH2ガス、残部Arガスである3種混合ガスをシールドガスとして用いて、非消耗電極によって、オーステナイト系ステンレス鋼を40cm/min以上の溶接速度でTIG溶接することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法としたものである。
請求項3に係わる発明は、ガス組成が、50容量%以上70容量%未満のHeガス、5〜9容量%のH2ガス、残部Arガスである3種混合ガスをシールドガスとして用いて、非消耗電極によって、オーステナイト系ステンレス鋼を40cm/min以上の溶接速度でTIG溶接することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法としたものである。
請求項4に係わる発明は、ガス組成が、70容量%以上90容量%未満のHeガス、4〜9容量%のH2ガス、残部Arガスである3種混合ガスをシールドガスとして用いて、非消耗電極によって、オーステナイト系ステンレス鋼を40cm/min以上の溶接速度でTIG溶接することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法としたものである。
請求項5に係わる発明は、ガス組成が、90容量%以上のHeガス、3〜9容量%のH2ガス、残部Arガスである3種混合ガスをシールドガスとして用いて、非消耗電極によって、オーステナイト系ステンレス鋼を40cm/min以上の溶接速度でTIG溶接することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法としたものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法は以下の如き形態で実施される。
タングステンの如き非消耗電極として、溶接すべき母材に向けてシールドガスを噴射せしめて、シ−ルドガス雰囲気下で、非消耗電極と溶接母材間にアークを発生せしめて溶接する方法であり、従来のアルゴンガスをシールドガスとして使用した場合の溶接速度30cm/min以上の40cm/min以上の溶接速度で溶接する方法である。
【0008】
そして、そのために前記シールドガスとして、[Heガス + H2ガス + Arガス]よりなる3種混合ガスを使用し、その組成は以下の通りでとしたものである。
Heガス:30〜40未満容量%、H2ガス:8〜9容量%、残部Arガス
Heガス:40〜50未満容量%、H2ガス:6〜9容量%、残部Arガス
Heガス:50〜70未満容量%、H2ガス:5〜9容量%、残部Arガス
Heガス:70〜90未満容量%、H2ガス:4〜9容量%、残部Arガス
Heガス:90容量%以上、H2ガス:3〜9容量%、残部Arガス
【0009】
以上の条件によりオーステナイト系ステンレス鋼をTIG溶接することにより、ハンピング等のビード不整が生じることなく、水素の爆発範囲外となって安全となり、従来のアルゴンガスをシールドガスとして使用してTIG溶接した場合に良好な状態で溶接可能な溶接速度30cm/min以上の溶接速度である、40cm/min以上の溶接速度で溶接することができ、溶接施工の加工能率を著しく向上せしめることができる。
【0010】
【実施例】
次に、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法の実施例について説明する。
[実施例1]
本発明の実施例1として、以下の如き溶接条件により、オーステナイト系ステンレス鋼よりなる母材に高速TIG溶接を行い、その時使用するシールドガスの組成を変化せしめるとともに、それぞれの組成のシールドガスの雰囲気下で溶接速度を変化せしめて、その組成変化と溶接速度の変化によるハンピングの発生の有無について確認、評価した。
【0011】
<溶接条件>
・溶接母材:オーステナイト系ステンレス鋼 SUS304、板厚6mm
・電極:JIS Z3233 YWLa−2規格品タングステン 直径3.2mm・電極−母材間距離:3mm
・トーチ傾斜角度:鉛直
・前進角度:0度
・溶接形状:ビードオンプレート溶接
以上の条件下で、溶接電流として200Aを流して、ビードオンプレート溶接を行った。溶接速度は80cm/min、100cm/min、120cm/min、140cm/minの4段階で各組成について溶接を行った。
【0012】
そして、シールドガスとして、ヘリウムガス(He)、水素ガス(H2)及びアルゴンガス(Ar)の3種類の混合ガスの組成(容量%)を変化せしめて、それぞれの組成ガスをシールドガスに使用した時の、ハンピング現象発生の有無を確認し、評価した。これを表1に表示する。
なお、ハンピング現象発生の確認評価は、以下の如き2段階評価で行った。
○:ハンピング現象の発生無しで良好。
×:ハンピング現象の発生有りで不合格。
【0013】
【表1】
【0014】
表1に表示されて明らかなように、実施例1により以下の事項が確認された。
▲1▼ シ−ルドガスとして従来のArガス単体を使用して、オーステナイト系ステンレス鋼をTIG溶接すると、ハンピング現象が発生することなく溶接し得る最大溶接速度は30cm/minであることが確認できた。
▲2▼ 又、シ−ルドガスとしてHeガス単体、又はH2ガス(9容量%)+残部Arガス(91容量%)の2種混合ガスを使用して、オーステナイト系ステンレス鋼をTIG溶接すると、ハンピング現象が発生しない最大溶接速度は100cm/minであることが確認できた。
【0015】
▲3▼ シールドガスとして、Heガス(30〜40未満容量%)+H2ガス(8〜9容量%)+残部Arガスの3種混合ガスを使用して、オーステナイト系ステンレス鋼をTIG溶接すると、溶接速度を120cm/minに高めても、ハンピング現象が発生することなく良好なTIG溶接ができることが確認できた。
▲4▼ シールドガスとして、Heガス(40〜50未満容量%)+H2ガス(6〜9容量%)+残部Arガスの3種混合ガスを使用して、オーステナイト系ステンレス鋼をTIG溶接すると、溶接速度を120cm/minに高めても、ハンピング現象が発生することなく良好なTIG溶接ができることが確認できた。
▲5▼ シールドガスとして、Heガス(50〜70未満容量%)+H2ガス(5〜9容量%)+残部Arガスの3種混合ガスを使用して、オーステナイト系ステンレス鋼をTIG溶接すると、溶接速度を120cm/minに高めても、ハンピング現象が発生することなく良好なTIG溶接ができることが確認できた。
▲6▼ シールドガスとして、Heガス(70〜90未満容量%)+H2ガス(4〜9容量%)+残部Arガスの3種混合ガスを使用して、オーステナイト系ステンレス鋼をTIG溶接すると、溶接速度を120cm/min以上に高めても、ハンピング現象の発生がなく、良好なTIG溶接ができることが確認できた。
【0016】
▲7▼ シールドガスとして、Heガス(90容量%以上)+H2ガス(3〜9容量%)+残部Arガスの3種混合ガスを使用して、オーステナイト系ステンレス鋼をTIG溶接すると、溶接速度を120cm/min以上に高めても、ハンピング現象が発生することなく良好なTIG溶接ができることが確認できた。
▲8▼ シールドガスとして、H2ガス(2〜9容量%)+残部Heガスの2種混合ガスを使用して、オーステナイト系ステンレス鋼をTIG溶接すると、溶接速度を100cm/minに高めても、ハンピング現象が発生することなく良好なTIG溶接ができることが確認できた。
なお、上記した▲3▼〜▲8▼項の水素の上限を9%としたが、水素の濃度が9%より多くても溶接性の点では問題はない。但し、水素が9%を越えて9.5%以上になると、大気中に放出した時に水素の爆発範囲となる可能性があるため、安全上の点から水素9%以下とすることが望ましい。
【0017】
又、上記した実施例1では、溶接電流として200Aで溶接した例について説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、溶接電流は用途や目的に合わせて適宜設定して使用するようにすれば良いことは勿論である。
又、上記実施例1では、板厚6mmの母材を使用して行ったが、いずれの板厚、においても、シールドガスの組成と溶接速度との関係は変化がないものである。
なお又、溶接する継手の種類も、重ね継手の溶接、T型継手の溶接や、突き合わせ継手の溶接等に適用し得ることも勿論である。
【0018】
【発明の効果】
本発明の高速TIG溶接によれば、シールドガスとして、上記した如き[Heガス+H2ガス+Arガス]の3種混合ガスを用いることにより、既存のArガス単体等の溶接用シールドガスに比べて溶け込みを増す作用が著しく向上すると共に、アーク圧力を低下させることができるため、ハンピング等のビード不整が生じることがなく、更にはアンダーカットも発生し難く、高品質を保持したTIG溶接の高速度化を図ることができる。
Claims (5)
- ガス組成が、30容量%以上40容量%未満のHeガス、8〜9容量%のH2ガス、残部Arガスである3種混合ガスをシールドガスとして用いて、非消耗電極によって、オーステナイト系ステンレス鋼を40cm/min以上の溶接速度でTIG溶接することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法。
- ガス組成が、40容量%以上50容量%未満のHeガス、6〜9容量%のH2ガス、残部Arガスである3種混合ガスをシールドガスとして用いて、非消耗電極によって、オーステナイト系ステンレス鋼を40cm/min以上の溶接速度でTIG溶接することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法。
- ガス組成が、50容量%以上70容量%未満のHeガス、5〜9容量%のH2ガス、残部Arガスである3種混合ガスをシールドガスとして用いて、非消耗電極によって、オーステナイト系ステンレス鋼を40cm/min以上の溶接速度でTIG溶接することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法。
- ガス組成が、70容量%以上90容量%未満のHeガス、4〜9容量%のH2ガス、残部Arガスである3種混合ガスをシールドガスとして用いて、非消耗電極によって、オーステナイト系ステンレス鋼を40cm/min以上の溶接速度でTIG溶接することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法。
- ガス組成が、90容量%以上のHeガス、3〜9容量%のH2ガス、残部Arガスである3種混合ガスをシールドガスとして用いて、非消耗電極によって、オーステナイト系ステンレス鋼を40cm/min以上の溶接速度でTIG溶接することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼用高速TIG溶接法。
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