JP3623301B2 - 軸受用保持器及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、合成樹脂製軸受用保持器及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
潤滑性を有した合成樹脂製軸受用保持器には、以下のものがある。
例えば、従来から、綿布に自己潤滑性のあるフェノール樹脂を含浸させた材料で形成した保持器がある。しかしながら、フェノール樹脂は熱硬化性樹脂であるため、射出成形できず、保持器の概略形状を形成して樹脂を硬化させた後に、転動体を保持するポケットを後加工により形成する必要があった。そのため製造に手間がかかり、高価であった。
【0003】
また、自己潤滑性を有する含油プラスチック材料を射出成形して製作する保持器がある。この保持器は、一般に含油率が低いので、長期にわたって良好な潤滑性を維持できない。そこで、油中に浸漬して、含油率を高めた保持器(特開平1─93623号等参照)があるが、例えば、4日間等の長期にわたって油中に浸漬しておかねばならず、製造効率が悪かった。
【0004】
また、実開平2─51717号公報に示された保持器は、射出成形によって成形され、潤滑剤を保持できる多数の微小な空隙を有している。これらの空隙は、発泡剤を添加した合成樹脂を射出成形し、その際に発泡剤を分解させて気泡を生成することによって形成されていた。しかしながら、多数の気泡が含有されるので、強度が低下する不具合があった。
【0005】
ところで、工作機械用のアンギュラ玉軸受等の、高速回転用途の軸受では、高速回転時に、潤滑不良によって焼き付きが生じる場合があった。本願出願人は、この焼き付きに関して次の知見を得るに至った。すなわち、焼き付きは、潤滑不良時に、軸受の外輪の内周面と、この内周面に対向する保持器の外周面からなるガイド面との間で生じていた。
【0006】
そこで、本発明の主な目的は、上記の技術的課題を解決し、高速回転時に、軸受外輪の内周面と保持器外周面との間で焼き付きを生じ難く、且つ安価な軸受用保持器を提供することである。また、本発明の他の目的は、上記の軸受用保持器を効率よく製造できる製造方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明の軸受用保持器は、ポリアミド樹脂を含む母材に母材に対する重量比が5〜15%のエラストマを添加した材料の射出成形により形成された軸受用保持器であって、保持器内部にエラストマを残すようにして、外周面を含む表面のみに、エラストマの溶出により形成された多数の微小穴を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
この構成によれば、保持器に、射出成形の金型の精度を転写することによって、必要な精度を容易に付与することができる。また、射出成形によってポケットを形成することができるので、後加工によってポケットを形成する必要がない。また、多数の微小穴は、エラストマの溶出によって形成されるので、保持器の表面のみに形成される。このようにして保持器の外周面に形成された多数の微小穴に、潤滑剤を効率よく保持しておくことができる。また、この軸受用保持器を備えた軸受では、高速回転の条件下で、軸受用保持器の外周面は、これと対向する軸受の外輪の内周面と接触して、保持器自身の姿勢を維持するためのガイド面として機能するが、このガイド面と外輪内周面との間を、上記微小穴から供給される潤滑剤によって潤滑でき、その結果、ガイド面と外輪内周面との焼き付きを防止することができる。
【0009】
また、エラストマの母材に対する配合比は、重量比で、5〜15%であり、軸受用保持器は、表面から溶出せずに内部に残ったエラストマによって適度な柔軟性を付与される。その結果、保持器が、各転動体の進み遅れに追従して、転動体を良好に保持することができる。また、多数の微小穴は表面に形成されて、内部に含有されないので、強度が低下する虞はない。
【0010】
請求項2に係る発明の軸受用保持器の製造方法は、ポリアミド樹脂を含む母材に母材に対する重量比が5〜15%のエラストマを添加した材料を、射出成形して、中間品を製作する工程と、この中間品の少なくとも外周面を、エラストマを溶かし出す溶剤蒸気中に保持して、完成時の保持器内部にエラストマを残すようにして、中間品の外周面に、潤滑剤を保持できる多数の微小穴を形成する工程とを含むことを特徴とするものである。
【0011】
この製造方法によれば、中間品の外周面を含む表面にあるエラストマは溶剤蒸気中で溶け出して、多数の微小穴が外周面を含む表面に形成される。その結果、請求項1にかかる軸受用保持器を製造することができる。また、本製造方法では、保持器を油中に長期間浸漬する必要がないので、このような必要のある場合よりも、製造効率が高い。
【0012】
なお、エラストマとしては、オレフィン系エラストマが好ましい。オレフィン系エラストマとしては、例えば、低密度から高密度の各種ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレン─プロピレン─ジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。また、本製造方法で使用する溶剤としては、キシレンが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態にかかる軸受用保持器及びその製造方法を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本発明の軸受用保持器について説明する。図1は、本発明にかかる軸受用保持器の斜視図である。図2は、図1の保持器を備えた軸受である玉軸受の断面図である。図1及び図2を参照する。
【0014】
保持器1は、ポリアミド樹脂を含む母材にエラストマを添加した材料の射出成形により略円筒状に形成されている。保持器1は、軸受Aの球状の転動体B1を保持するために所定の間隔をあけて形成された複数のポケット3と、ポケット3に転動体B1を収容するための切欠部2とを備えている。保持器1は、ポケット3に保持された転動体B1とともに、軸受Aの内輪B2の外周面と、外輪B3の内周面との間に設けられて、内外輪を相対回転可能に支持して、軸受Aを構成する。
【0015】
また、保持器1の外周面4は、これと対向する外輪B3の内周面に高速回転時等に接触して、回転時に保持器1自身の姿勢を維持するためのガイド面として機能する。
また、本発明の保持器1には、後述する製造方法によって、その表面のみに多数の微小穴Kが形成されている。この微小穴Kは、潤滑剤を保持することができる。
【0016】
保持器1は、例えば、以下のようにして製造される。すなわち、図3は、本発明の製造方法の概略工程図である。以下、図3を参照して、本発明にかかる製造方法を説明する。
本製造方法は、材料を混合する配合工程10と、混合された材料を保持器形状に射出成形する成形工程11と、成形された品物の表面に多数の微小穴Kを形成する開孔工程12とを備えている。
【0017】
配合工程10では、材料を混合する。例えば、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂を母材として、それにエチレン─プロピレン─ジエンゴム(EPDM)をエラストマとして配合する。エラストマは、母材中に均質に混合される。
ここで、エラストマとしては、EPDM等のオレフィン系エラストマが好ましく、スチレン系エラストマでも構わない。オレフィン系エラストマとしては、EPDMの他、例えば、低密度から高密度の各種ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンゴム(EPM)等が挙げられる。スチレン系エラストマとしては、例えば、スチレン─エチレンブテン─スチレンブロック共重合体(S─EB─S)、スチレン─ブタジエン─スチレンブロック共重合体〔(S─B─S)(直鎖状)、及び(S─B)nX(放射状)〕、スチレン─イソプレン─スチレンブロック共重合体(S─I─S)等が挙げられる。
【0018】
また、エラストマの母材に対する配合比は、重量比で、5〜15%が好ましい。エラストマの比率が5%以下の場合には、後述する開孔工程12で微小穴が十分に形成されず、十分な潤滑性が得られない。また、エラストマの比率が15%以上の場合には、表面の微小穴の割合が過大となり、表面の強度が低下するからである。
【0019】
また、エラストマの母材に対する配合比が、重量比で、5〜15%の場合には、完成時に内部にあるエラストマは、保持器1に適度な柔軟性を付与できる。従って、保持器1は、後述するように各転動体B1を良好に保持することができる。
従って、微小穴の形成状態及び保持器1の柔軟性の両観点から、エラストマの母材に対する配合比は、重量比で、5〜15%が特に好ましい。
【0020】
また、上述の母材は、ガラス繊維強化ポリアミド樹脂に限定されない。母材としては、他の同種の材料、例えば、ガラス繊維を含まないポリアミド樹脂等を用いても構わない。
成形工程11では、配合工程10で混合した材料を、保持器形状に射出成形する。射出成形された成形品(中間品という)は、保持器形状を有し、その表面は、金型の表面粗さが転写され、所望の表面粗さを持つ平滑面に形成されている。
【0021】
開孔工程12は、上述の中間品を、沸騰キシレン蒸気中に保持して、中間品の表面に、潤滑剤を保持できる多数の微小穴を形成する。この開孔工程12では、中間品の表面において、多数の微小穴を形成しようとする部分、例えば、ポケット3を形成するポケット面や外周面4を、沸騰キシレン蒸気中に曝して、静置しておくだけでよい。中間品の表面にあるエラストマは溶剤蒸気中で溶け出して、溶け出した跡の空隙として、多数の微小穴Kが表面に形成される。なお、保持器1の内部にあるエラストマは、開孔工程12で溶け出さずに内部に残っている。
【0022】
ここで、キシレンは、配合工程10で母材に混合した上述のエラストマを溶かし出すことのできる溶剤として選定されたものである。従って、このような溶剤であれば、キシレンに限定されず、エラストマを溶かし出すことのできる有機溶剤であればよい。また、溶剤蒸気中に保持する時間等の諸条件は、微小穴の大きさ等によって決まる所定値に設定されるのが好ましい。
【0023】
また、エラストマと溶剤との組合せとしては、EPDMとキシレンとが好ましい。
なお、開孔工程12では、中間品の表面の一部に微小穴を形成してもよい。例えば、微小孔を形成する必要の無い部分を、溶剤によって侵されない材料で覆えば、表面の一部に微小孔を形成することができる。具体的には、後述するような外輪内周面との焼き付き防止のために、微小穴は、少なくとも外周面4に形成しておけばよい。
【0024】
このように本実施の形態の保持器1によれば、以下の作用効果を奏するものである。
保持器1は、射出成形により形成されるので、射出成形の金型の精度が転写され、保持器1に必要な精度を容易に付与することができる。また、射出成形によって、保持器1の概略形状とともにポケット3を形成することができるので、後加工によってポケット3を形成する手間を省くことができる。その結果、後加工によってポケットを形成する手間のかかる、熱硬化性樹脂のフェノール樹脂で保持器を製作する場合に比べて、安価に製作することができる。さらに、保持器1の材料であるポリアミド樹脂は、一般に安価である。また、ガラス繊維で強化されたポリアミド樹脂は、他の強化繊維を含むものよりも、一般に安価である。従って、精度よく且つ安価に保持器形状を形成することができる。
【0025】
また、保持器1では、少なくとも外周面4に、多数の微小穴Kが形成され、そこに潤滑剤を効率よく保持しておくことができる。この保持器1を備えた軸受Aでは、保持器1の外周面4からなるガイド面と外輪内周面との間を、微小穴Kから供給される潤滑剤によって潤滑でき、その結果、ガイド面と外輪内周面との焼き付きを防止することができる。
【0026】
また、保持器1は、その内部に残ったエラストマによって適度な柔軟性を付与される。その結果、保持器1が、各転動体B1の進み遅れに追従して、転動体B1を良好に保持することができる。
また、保持器1では、母材にガラス繊維等の強化繊維が添加されることによって、材料自体の機械的強度が向上するので、保持器としての強度が強化される。さらに、上述のようにエラストマによって、保持器1に柔軟性、靱性が付与されるため、耐衝撃性が改善され、保持器としての強度がより一層向上する。従って、この保持器1を備えた軸受Aの回転時に、保持器1が、転動体B1から衝撃を受けても、衝撃に耐えることができ、実用に適した保持器とすることができる。なお、ここでの保持器としての強度とは、単純な形状の試験片を測定して求められる材料自体の機械的強度でなく、保持器を実際に使用した際の強度であって、材料自体の強度に、柔軟性、靱性、耐衝撃性等が加味された強度である。
【0027】
また、保持器1の材料に、ガラス繊維等の強化繊維を添加することによって、保持器1の表面の機械的強度が向上するので、保持器1の表面により多くの微小穴Kを形成することもできる。その結果、より潤滑性を向上することができる。なお、ガラス繊維等の強化繊維のみを添加する場合には、保持器1の耐衝撃性を低下させる虞があるが、上述のようにエラストマによって、保持器1に柔軟性、靱性が付与されるため、耐衝撃性が改善され、強化繊維のみを添加する場合よりも、保持器としての強度がより一層向上する。
【0028】
また、発泡剤によって多数の気泡を内部に生成させた保持器では、内部に含有された多数の気泡によって、保持器の強度が低下する不具合が生じる場合がある。それに対して、本願発明の保持器1では、多数の微小孔Kは、表面に形成されて、保持器1内部に含有されないので、強度が低下する虞はない。
また、本実施の形態の保持器の製造方法によれば、以下の作用効果を奏するものである。
【0029】
開孔工程12では、微小穴Kを、中間品の表面から形成するので、表面に確実に形成することができる。また、微小穴Kは表面にあるので、微小穴Kの形成状態の確認も容易である。また、中間品をキシレン蒸気中から取り出すことで、微小穴Kの形成を停止させることができる。また、中間品をキシレン蒸気中に静置するだけであるので、手間がかからない。
【0030】
また、開孔工程12では、摩擦を生じるおそれのある凸部が形成されずに、油溜まりとなる凹部としての微小穴Kだけが表面に形成されるので、摩擦が増大することがない。
また、中間品を溶剤液中に漬け込むような場合には、溶剤による母材の溶解の虞があるのに対して、本製造方法の開孔工程12では、溶剤蒸気中に中間品を保持するので、溶剤による母材の溶解の虞がない。
【0031】
また、自己潤滑性を有する含油プラスチック材料を射出成形して保持器を製作する製造方法では、長期にわたって油中に浸漬しておかねばならないのに対して、本製造方法では、このような必要がないので、製造効率が良好である。
また、本製造方法では、微小穴Kは、射出成形後に形成されるので、通常の金型を使用することができる。
【0032】
なお、上記の実施の形態では、射出成形によって、保持器形状全体を形成したが、必要に応じて、一部分を後加工により形成してもよい。
また、本発明の軸受用保持器及びその製造方法は、上述の玉軸受以外にも、円筒ころ軸受や円すいころ軸受等の種々の転がり軸受用の、あらゆる形状の保持器に適用することができる。例えば、図4に図示する、ポケット3に転動体を収容するための切欠部が形成されていない、いわゆるもみ抜きタイプの保持器にも適用することができる。
【0033】
その他、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【0034】
【発明の効果】
請求項1に係る発明によれば、以下の効果を奏する。すなわち、射出成形によって、ポケットを形成することができるので、安価な保持器とすることができる。
また、外周面に形成された多数の微小穴には、潤滑剤を効率よく保持しておくことができる。従って、この保持器を備えた軸受では、保持器の外周面が、これと対向する外輪の内周面と接触する場合でも、保持器の外周面と外輪内周面との間を、上記微小穴から供給される潤滑剤によって潤滑でき、その結果、保持器外周面と外輪内周面との焼き付きを防止することができる。
【0035】
また、内部のエラストマにより適度な柔軟性を与えられているので、各転動体の進み遅れに追従して、転動体を良好に保持することができる。また、多数の微小穴が保持器内部に含有されないので、強度が低下する虞はない。また、エラストマの母材に対する配合比は、重量比で、5〜15%であり、微小穴の形成状態及び保持器の柔軟性の両観点で好ましい。
請求項2に係る発明によれば、保持器を油中に長期間浸漬する必要がないので、このような必要のある場合よりも、高い製造効率で、請求項1にかかる軸受用保持器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる軸受用保持器の斜視図である。
【図2】図1の軸受用保持器を備えた軸受の断面図である。
【図3】本発明の軸受用保持器の製造方法の概略工程図である。
【図4】本発明の他の実施の形態にかかる軸受用保持器の斜視図である。
【符号の説明】
1 保持器
4 外周面
11 成形工程(中間品を製作する工程)
12 開孔工程(微小穴を形成する工程)
K 微小穴
Claims (2)
- ポリアミド樹脂を含む母材に母材に対する重量比が5〜15%のエラストマを添加した材料の射出成形により形成された軸受用保持器であって、
保持器内部にエラストマを残すようにして、外周面を含む表面のみに、エラストマの溶出により形成された多数の微小穴を備えたことを特徴とする軸受用保持器。 - ポリアミド樹脂を含む母材に母材に対する重量比が5〜15%のエラストマを添加した材料を、射出成形して、中間品を製作する工程と、
この中間品の少なくとも外周面を、エラストマを溶かし出す溶剤蒸気中に保持して、完成時の保持器内部にエラストマを残すようにして、中間品の外周面に、潤滑剤を保持できる多数の微小穴を形成する工程とを含む軸受用保持器の製造方法。
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