JP3622952B2 - マレイミド系樹脂およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、従来、線状ポリイミド樹脂がフィルムとして使用されていた、フレキシブルプリント回路基板用等に好適で、耐熱性,機械的強度,柔軟性等に優れたマレイミド系樹脂、およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来からフレキシブルプリント回路板等に用いられる、高耐熱、高信頼性で、柔軟性を有する樹脂としては、カプトン(東レ・デュポン社製)やユーピレックスS(宇部興産社製)に代表される、線状ポリイミド樹脂のフィルムを挙げることができる。これら線状ポリイミドフィルムは、非常に優れた特性を持つ反面、原料モノマーが非常に高価で、しかも加工温度が400℃前後に達するために高価な設備を利用せざるを得ず、エンジニアリングプラスチックの中でも最高位に位置する高価なフィルムである。
【0003】
一方、従来のマレイミド樹脂は、マレイン酸無水物と芳香族ジアミンとを反応して、マレアミド酸とした後、閉環反応によりビスマレイミドを得ている。しかし、中間体であるビスマレアミド酸は溶解性が悪く、分子間脱水アミド化副反応によるゲル化を防ぐために、大量の溶剤中で反応せざるを得ないといった問題点があった。更に、ビスマレイミド樹脂単独の硬化物は非常に脆いので、単独での使用には耐えず、ジアミン、アリル化合物等の可撓性を備えた変性剤により変性した場合でも、完全に脆さを解消するには至らず、柔軟なフィルムは得られていなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の線状ポリイミド樹脂やマレイミド系樹脂のこのような問題点に鑑み、鋭意検討の結果なされたもので、柔軟性を持つと共に、耐熱性、機械的強度に優れたマレイミド系樹脂、およびその製造方法を提供することを目的としたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、一般式(1)および/または(2)で表される繰り返し単位を有することを特徴とするマレイミド系樹脂、並びに、一般式(3)で表されるマレイン酸類縁体モノマーもしくは一般式(4)で表される無水マレイン酸類縁体モノマーと、1級および2級アミンをそれぞれ一つずつ有するジアミンモノマーとを、モル比が1:0.5〜2.0で溶媒を介さず混合した後、該混合物を80〜200℃で加熱処理することを特徴とする、前記マレイミド系樹脂の製造方法である。
【0006】
【化5】
【0007】
【化6】
【0008】
式(1),(2)中、R1,R2,R5,R6はそれぞれ、水素,アルキル基,フェニル基,または置換フェニル基を表し、R3は炭素数2以上の2価の有機基を表し、R4はアルキル基,フェニル基,または置換フェニル基を表し、R7は炭素数2以上の3価の有機基を表す。n,mは、それぞれ0以上の整数で、かつn+mは20〜10000である。
【0009】
【化7】
【0010】
式(3)中、R8,R9はそれぞれ、水素,アルキル基,フェニル基,または置換フェニル基を表す。
【0011】
【化8】
式(4)中、R10,R11はそれぞれ、水素,アルキル基,フェニル基,または置換フェニル基を表す。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、一般式(3)で表されるマレイン酸類縁体モノマーもしくは一般式(4)で表される無水マレイン酸類縁体モノマーと、1級および2級アミンをそれぞれ一つずつ有するジアミンモノマーとを、モル比が1:0.5〜2.0で溶媒を介さず混合した後、該混合物を80〜200℃で加熱処理することにより、前記一般式(1)および/または(2)の繰り返し単位を有するマレイミド系樹脂を得ることを骨子とする。
【0013】
本発明で用いる一般式(3)で表されるマレイン酸類縁体としては、マレイン酸、シトラコン酸などを、一般式(4)で表される無水マレイン酸類縁体としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などを例示することができる。それぞれにおいて、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましい。マレイン酸類縁体および無水マレイン酸類縁体は、単独で用いても良く、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0014】
本発明で用いる1級および2級アミンをそれぞれ一つずつ有するジアミンとしては、エチルアミノエチルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ラウリルアミノプロピルアミン、2−アミノメチルピペリジン、4アミノメチルピペリジン、N−アミノプロピルアニリン、3−アミノピロリジン、N−アミノプロピルピペラジン、1−(2−アミノエチル)ピペラジンなどの他に3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,6−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノメシチレン、4,4’−メチレンジ−o−トルイジン、4,4’−メチレンジ−2,6−キシリジン、4,4’−メチレン−2,6−ジエチルアニリン、2,4−トルエンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエタン、3,3’−ジアミノジフェニルエタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシベンジジン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(2−メチル−4−アミノペンチル)ベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、2,4−ジアミノトルエン、m−キシレン−2,5−ジアミン、p−キシレン−2,5−ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾール、1,4−ジアミノシクロヘキサン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス−4−(4−アミノフェノキシ)フェニルスルフォン、ビス−4−(3−アミノフェノキシ)フェニルスルフォンなどのアミノ基の水素原子1つをアルキル基、フェニル基,または置換フェニル基に置換したものが挙げられる。これらの構造のジアミンを用いると、マレイミド系樹脂に、通常用いられる2つの1級アミンを有するジアミンを用いた場合と比較して、副反応である架橋反応が起こりにくく、より可とう性および加工性に優れた樹脂の合成が容易になる。上記のジアミンは、単独で用いても良く、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0015】
また本発明で使用する原料であるマレイン酸類縁体、無水マレイン酸類縁体、ジアミンは固体であっても、液体であっても構わない。
【0016】
本発明におけるマレイミド樹脂の合成は、前記マレイン酸類縁体もしくは無水マレイン酸類縁体とジアミンとを1:0.5〜2.0のモル比で配合する。この範囲から外れると樹脂の強度が著しく低下し好ましくない。またこのモル比は樹脂の強度および可とう性の両立の観点から1:0.8〜1.3の範囲がより好ましい。
【0017】
マレイン酸類縁体もしくは無水マレイン酸類縁体とジアミンとのモノマー同士の混合は、常温で、通常のミキサーなどを用いて行うことが出来る。特に、各成分が固体の場合は、より細かい粒子に粉砕し、混練機などで十分均一にモノマー同士を混合することが、生成物をより均一に出来るため好ましい。
【0018】
重合反応は、モノマー混合物を溶媒を介さずに、80〜200℃で加熱することによって行なわれるが、200℃を越える高温で加熱処理すると反応は早いが、副反応による架橋が起こり生成物が脆くなる。一方、加熱温度が80℃未満では、反応速度が急激に低下し、未反応物の残存が起こり高分子量の樹脂が得られない。反応時間はモノマーの構造や目的の生成物特性によって異なるが数分〜数時間のオーダーで行われる。
【0019】
得られた樹脂は、従来のマレイミド樹脂と同様に粉砕して粉末状レジンとして、固体のまま成形材料などの用途に、また、N−メチル−2−ピロリドンやγ−ブチロラクトンなどの溶剤に溶かしてワニスとして液状の成形材料や硬質回路基板などに使用できる。
【0020】
さらに、本発明のマレイミド系樹脂は、ビスマレイミド単独の硬化物やジアミンを添加したビスマレイミドの硬化物に比べて、可とう性に優れ、溶融押し出しやキャストによってフィルム状にすることも可能である。このことにより、フレキシブル回路基板、フィルム接着剤などへの使用が可能になった。
【0021】
【実施例】
以下、具体例を挙げて本発明を一層具体的に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
マレイン酸116.1重量部(1mol)の粉体と、N−メチル−ヘキサメチレンジアミン130.2重量部(1mol)の粉体を、乳鉢で均一に混合して、マレイン酸/N−メチル−ヘキサメチレンジアミンの固体混合物を得た。この混合物を140℃で1時間、乾燥機中で加熱し、固形のマレイミド樹脂を合成した。加熱の前後での重量減少は14.5%であった。この事はイミド化による脱水反応が、ほぼ100%進行したことを示唆するものである。赤外吸収スペクトル測定においても1770cm−1付近にイミド環のカルボニル基に由来する吸収が観測され、重量減少の結果と一致した。また、GPC測定の結果、この樹脂の数平均分子量はポリスチレン換算で30,000であった。これは重合度約143に相当する値である。また、分子量分布は2.8と小さく、架橋反応がほとんど起こっていないことを示唆した。
【0023】
得られたマレイミド樹脂200重量部に対して、N−メチル−2−ピロリドン300重量部を加え、樹脂濃度が40重量%となるように、マレイミド樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液を用いて、離型処理を施したステンレス箔(厚さ50μm)の離型面上に、乾燥後の厚みが25μmとなるように、ダイコーターを用いて塗布し、連続的に100℃/3分、150℃/3分、200℃/3分加熱処理した後、ステンレス箔から剥離してマレイミド樹脂フィルムを得た。
【0024】
得られたマレイミド樹脂フィルムは、耐折性(MIT法、加重:500g,R=0.38mm)が1,000,000回と高く、柔軟性に富んだ優れた特性を持つフィルムであった。
【0025】
(実施例2)
無水マレイン酸98.1重量部(1mol)の粉体と、1−(2−アミノエチル)ピペラジン116.3重量部(0.9mol)の液体を、ミキサーで均一に混合して、無水マレイン酸/1−(2−アミノエチル)ピペラジンのペースト状混合物を得た。この混合物を120℃で3時間、乾燥機中で加熱して、固形のマレイミド樹脂を合成した。加熱前後の重量減少は8.1%、また赤外吸収スペクトル測定でイミド環由来のピークも観測され、実施例1と同様に、イミド化がほぼ100%進行していることが分かった。また、GPC測定の結果、ポリスチレン換算で数平均分子量が20,000(重合度約96に相当)、分子量分布が2.5と、ほとんど架橋構造の無いポリマーが得られたことがわかった。
【0026】
得られたマレイミド樹脂を、溶融押し出し装置を用い最高温度220℃の溶融押し出しでフィルム化した。膜厚25μで外観良好な黄色のフィルムが得られた。このマレイミド樹脂フィルムは、耐折性(MIT法、加重:500g,R=0.38mm)が800,000回と高く、柔軟性に富んだ優れた特性を持つフィルムであった。
【0027】
(実施例3)
無水マレイン酸98.1重量部(1mol)の粉体と、N−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン329.3重量部(1.2mol)の粉体を、乳鉢で均一に混合して、無水マレイン酸/N−フェニル−4,4’−ジアミノジフェニルメタンの固体混合物を得た。この混合物を160℃で2時間、乾燥機中で加熱し、固形のマレイミド樹脂を合成した。加熱前後の重量減少は4.6%、また、赤外吸収スペクトル測定でイミド環由来のピークも観測され、実施例1と同様にイミド化が、ほぼ100%進行していることが分かった。また、GPC測定の結果、ポリスチレン換算で数平均分子量が80,000(重合度約226に相当)、分子量分布が3.3とほとんど架橋構造の無いポリマーが得られたことがわかった
【0028】
溶剤として、N,N−ジメチルホルムアミドを用いた以外は、実施例1と同様に操作して、マレイミド樹脂フィルムを得た。得られたマレイミド樹脂フィルムは、耐折性(MIT法、加重:500g,R=0.38mm)が700,000回と高く、柔軟性に富んだ優れた特性を持つフィルムであった。
【0029】
(実施例4)
マレイン酸116.1重量部(1mol)の粉体と、N−エチル−ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン187.5重量部(0.8mol)の粉体を、乳鉢で均一に混合して、マレイン酸/N−エチル−ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンの固体混合物を得た。この混合物を150℃で1時間、乾燥機中で加熱して、固形のマレイミド樹脂を合成した。加熱前後の重量減少は10.5%、また、赤外吸収スペクトル測定でイミド環由来のピークも観測され、実施例1と同様にイミド化がほぼ100%進行していることが分かった。また、GPC測定の結果、ポリスチレン換算で数平均分子量が50000(重合度約159に相当)、分子量分布が3.1と、ほとんど架橋構造の無いポリマーが得られたことがわかった。
【0030】
得られたマレイミド樹脂を、溶融押し出し装置を用い最高温度250℃の溶融押し出しでフィルム化した。膜厚25μで外観良好な淡褐色のフィルムが得られた。このマレイミド樹脂フィルムは、耐折性(MIT法、加重:500g,R=0.38mm)が800,000回と高く、柔軟性に富んだ優れた特性を持つフィルムであった。
【0031】
(比較例1)
N,N’−4,4’−ジフェニルメタン−ビスマレイミド358重量部(1mol)、および4,4’−ジアミノジフェニルメタン198重量部(1mol)を、樹脂濃度が20重量%になるように、N−メチル−2−ピロリドンに投入し、140℃で1時間、更に180℃で1時間加熱攪拌し、ビスマレイミド樹脂溶液を得た。このビスマレイミド樹脂溶液を用いて、実施例1と同様の工程で、厚さ25μmのフィルムを得ようとしたが、フィルムが脆いため、ステンレス箔から剥離を試みただけで破砕してしまい、自立性のフィルムを得ることができなかった。
【0032】
(比較例2)
マレイン酸116.1重量部(1mol)の粉体と、4,4’−ジアミノジフェニルメタン217.8重量部(1.1mol)の粉体を、乳鉢で均一に混合して、マレイン酸/4,4’−ジアミノジフェニルメタンの固体混合物を得た。この混合物を160℃で2時間、乾燥機中で加熱し、固形のマレイミド樹脂を合成した。加熱前後の重量減少は11.0%、また、赤外吸収スペクトル測定でイミド環由来のピークも観測され、実施例1と同様にイミド化がほぼ100%進行していることが分かった。しかし、GPC測定の結果、ポリスチレン換算で数平均分子量が15,000(重合度約54に相当)と小さいが、分子量分布が8.0と大きく、またピークの高分子量側に小さな肩ピークが見られることから架橋反応が進行していることが示唆された。
【0033】
実施例1と同様に操作してマレイミド樹脂フィルムを得た。得られたマレイミド樹脂フィルムは、耐折性(MIT法、加重:500g,R=0.38mm)が80,000回と柔軟さに劣る性能であった。
【0034】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、取り扱い易く単純なモノマー混合物を出発物質として用いることにより、工程も極めて簡便で、容易にマレイミド系樹脂を得ることができる。しかも、このマレイミド系樹脂は、容易にフィルムを製造することが出来るばかりか、得られたマレイミド系樹脂フィルムは、従来のビスマレイミド樹脂に比べて、極めて柔軟性に富む耐熱フィルムであり、原料が安価で、工程も処理温度が低くマイルドなことから、従来の線状ポリイミドフィルムと比べて非常に安価で、フレキシブルプリント回路板用等に好適なフィルムを得ることが出来る。
Claims (5)
- 一般式(3)で表されるマレイン酸類縁体が、マレイン酸であることを特徴とする、請求項2記載のマレイミド系樹脂の製造方法。
- 一般式(4)で表される無水マレイン酸類縁体が、無水マレイン酸であることを特徴とする、請求項4記載のマレイミド系樹脂の製造方法。
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