JP3621958B2 - 胆汁酸を結合する、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体およびその乳酸菌菌体を含有する食品素材・食品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、胆汁酸結合能の高い、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体およびその乳酸菌菌体を含有する食品素材・食品に関わるもので、これを摂食することにより体内で該加熱殺菌処理された乳酸菌菌体に胆汁酸を吸着させて体外に排出させ、これを減少させて体内のコレステロールから胆汁酸への変換を促進し、よって体内の血清コレステロール値を低下させることができる。
【0002】
【従来の技術】
近年、食事事情の変化から人々は高コレステロール値を有するようになり、いわゆる生活習慣病の増加を来たしている。高コレステロール値を改善する目的で「 コレスチラミン(Cholestyramine)」 や「 コレスチミド(Colestimide)」など各種医薬品が開発され、使用されているが、これらは便秘など消化器への影響、発疹など皮膚障害、GOT, GPTなどの上昇を招く肝臓への影響などの副作用の他、高齢者、妊婦、幼児らへの投与が不適とされているなど注意すべき点が多い。
【0003】
また一方、コレステロール値上昇抑制作用のある食物繊維などを含む食品も数多く知られている。すなわち、胆汁酸吸着・排出能のあるものを摂取し、間接的にコレステロール値を低下させようというものである。しかし、これらはいずれも食品素材・原材料そのものに関わるものであり、いずれも有効ではあるが単位重量あたりのコレステロール値低下効果は小さく、従って胆汁酸結合能は特異的に大きくはない。
【0004】
他方、コレステロール値低下のために大腸菌や乳酸菌の胆汁酸結合・排出機能を利用した研究や特許があるが、これらは微生物の生体機能を利用したもので上記の食品素材等のそれとは機構が異なる。
【0005】
本発明者らは、乳酸菌を用いた食品の健康科学的検討を鋭意行ってきた。すなわち、加熱処理された特定の乳酸菌を用いた食品を継続的にラットに摂食させた場合、有意にコレステロール値上昇抑制作用が示されることを認めた。
【0006】
この原因を究明すべく検討中に、乳酸菌生菌そのものより加熱殺菌処理された菌体の方が高い胆汁酸結合能を示すことを見出した。すなわち、この高い胆汁酸結合能を示す乳酸菌を別途増殖させた後、加熱殺菌並びに乾燥処理を行なって調製した乳酸菌死菌体乾燥菌末をそのままか、或いは添加・調製した食品を摂取することにより、コレステロール値上昇を抑制し得ることを認めた。
【0007】
乳酸菌生菌による胆汁酸の取り込みとこれを排出しないという性質を利用した「胆汁酸の吸着方法」が特開2001―97870号に示されているが、これは乳酸菌生菌を利用した、つまりエネルギー源であるグルコースの存在下における乳酸菌の胆汁酸取り込みと排出に関わる機能を利用したものである。また、同様に乳酸菌生菌そのもの、あるいは加熱処理した乳酸菌菌体による胆汁酸吸着に関する特開2000−189105「血清脂質改善効果を有する機能性食品」があるがその吸着能は特に大きなものではない。
【0008】
また、『食品素材の機能性創造・制御技術−新しい食品素材へのアプローチ−』(発行所 ニューフード・クリエーション技術研究組合)の第251頁に、加熱処理菌体の吸着能の値が示されているが、その値は大きなものではない。なお、乳酸菌死菌体そのものを単なる胆汁酸吸着素材として利用した例は他に見当たらない。
【0009】
高脂血症薬として臨床で用いられている「 コレスチラミン(Cholestyramine)」 は副作用を有するため、その使用にあたっては医師の指導が欠かせない。従って、食経験のある食品から分離された乳酸菌の死菌体、あるいはそれを含む食品を食することは量的にも問題が認められず、また、過剰摂取による弊害はもちろん、医薬に対する嫌悪感もなく抵抗無く摂食でき、かつコレステロール値低下を期待できるという利点がある。
【0010】
すなわち、食品の風味、たとえばパンの風味を改善するために当該乳酸菌を用いた乳酸菌パン種を調製し、これを用いたパン生地を焼成し、この焼成により生じた乳酸菌死菌体を含む風味のよいパンを常時、食することにより、コレステロール値が上昇傾向にあってもこれを抑制、もしくは低下させることができる胆汁酸結合能の高い、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体およびその乳酸菌菌体を含有する食品素材や食品を提供することができると考えられる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、この発明は、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum )などラクトバチルス(Lactobacillus) 属乳酸菌を用いて食品を製造するに際して、これを加熱殺菌して死菌体として食品中に存在せしめ、食品として美味しく、または本来の食品の風味を損なわずに食し得て、コレステロール値上昇傾向にあるものを抑制、もしくは低下させることができる胆汁酸を結合する,加熱殺菌処理された乳酸菌菌体およびその乳酸菌菌体を含有する食品素材・食品を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
課題を解決する手段は、発酵食品より分離したラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum )JCM1149 など特定乳酸菌を109 細胞/g 以上含む焼成パン類、或いは該乳酸菌の加熱殺菌処理された菌体、又はそれを含む製剤または食品を摂取することにより、体内の胆汁酸濃度を低下させ、ひいては血清コレステロール濃度を低下させるとともに、二次胆汁酸による発癌の危険性を低下させる、胆汁酸を結合する、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体およびその乳酸菌菌体を含有する食品素材・食品を得ることにある。
【0013】
【発明の実施の形態】
この発明は、胆汁酸体外排出促進薬である陰イオン交換樹脂製剤、コレスチラミン(Cholestyramine)が示す胆汁酸結合能の40%以上を有する、ラクトバチルス(Lactobacillus) 属に属する、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体およびその乳酸菌菌体を含有する食品素材・食品から構成される。
【0014】
そして、ラクトバチルス(Lactobacillus) 属に属する乳酸菌が、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum) 、ラクトバチルス ヒルガルデイ(Lactobacillus hilgardii) 、ラクトバチルス パラアリメンタリウス(Lactobacillus paralimentarius) などをはじめとする、食品製造、または食用に供されてきたものから分離された乳酸菌である。
【0015】
さらに、当該乳酸菌の働きによって一部、あるいは全部が造られる食品であっても、該食品の製造工程における加熱処理により、最終的に当該乳酸菌が加熱殺菌処理された菌体と同等のものとなって存在する、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体を含有する食品であることを特徴とするものであり、その食品製造、または食用に供されてきたものが、パン生地や漬物などの発酵食品である。
【0016】
尚、この発明で使用する、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum )等乳酸菌は、一般的な乳酸菌の培養法で培養される。これに適する培地としては、例えばMRS培地(DIFCO社製) 、トマトジュースブロス(DIFCO社製) などがある。
【0017】
MRS培地の場合、培地10mlに植菌後30℃、24時間培養を行ったものを同培地800ml に移植し、さらに30℃、48時間静置培養を行う。この培養液を4℃、10,000 rpm、10分間遠心分離後、冷蒸留水で洗浄・遠心分離を行ない、湿菌体を得る。
【0018】
この湿菌体を適当量の蒸留水に懸濁し、沸騰水中で10分間加熱した後、 上記同様遠心分離して再び加熱処理済み湿死菌体を得る。これを大型シャーレ上にひろげ、70℃、1夜乾燥して乳酸菌死菌体乾燥菌末を得る。これを適当量、食品に混合して食してもよいが、この場合医薬品的摂取法となるため摂取方法を工夫する必要がある。むしろ、食品の風味を変えないように、これを食品に添加・混合して必要所要量を摂取するのが望ましい。
【0019】
なお、胆汁酸結合能測定は、次の通り行った。乳酸菌用培地、MRS 培地で30℃、48時間培養した乳酸菌菌体を、4℃で10,000 rpm, 10分間遠心分離して集菌し、冷蒸留水で洗浄後、同様に遠心分離して菌体を得た。これを蒸留水に懸濁した洗浄菌体懸濁液を沸騰水中で10分間加熱処理した後、再度同様に遠心分離して得た菌体を大型シャーレ上にひろげ、70℃、一晩乾燥した。このようにして得た乾燥菌末試料15mgを、エッペンドルフチューブ中で1.25mM胆汁酸(タウロコール酸)溶液(10mM りん酸緩衝液、pH 6.8) 1 mlと混合し、37℃で2.5 時間放置した。放置後、4℃で10,000 rpmで10分間遠心分離し、上清中の胆汁酸濃度を総胆汁酸―テストワコーのキットを用いて定量した。
【0020】
そして、胆汁酸結合能は、次式に従い求めた。
尚、対照( C) は試料を添加せず緩衝液に溶解した胆汁酸のみを処理したもの、ブランク( B) は試料も胆汁酸をも含まぬ緩衝液のみを同条件で処理したもの、そして試験( T) は各試料と胆汁酸を添加・混合して処理したものの上清中の胆汁酸濃度を総胆汁酸―テストワコーのキットで反応させた。すなわち,上清 0.02ml 、水0.2ml 、キット酵素液0.5ml を混合し37℃で反応させ、反応停止液0.5ml を10分後に加え、反応を終えた該反応液の560nm におけるOD値を測定した。
【0021】
【実施例1】
そこで、この発明の一実施例を詳述すると、小麦粉100 に対し、ライ麦粉20、食塩1、マルトエキス0.01からなるパンを粉砕、粉末化し、水分6.2 %としたパン粉50に、カゼイン20、しょ糖9.375 ,コレステロール0.5 、胆汁酸0.125 、ラード10、ビタミン混合物1、ミネラル混合物5 、セルロース4を混合したもの(図1中C)、同じパン粉にラクトバチルス サケイ(Lactobacillus sakei) 乳酸菌を加熱殺菌後乾燥させた菌体を混合し、8 ×1010細胞/g とした水分7.2%のパン粉(図1中L)、及びラクトバチルス サケイ(Lactobacillus sakei) 、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum) 、ラクトバチルス ヒルガルデイ(Lactobacillus hilgardii) の3 種の乳酸菌を用いて製造した前2者と同じ配合のパンをパン粉とし、加熱殺菌処理した乳酸菌菌体、合計7 × 109細胞/gを含むパン粉( 図1中S) でもって、パン粉を入れ換えたものを高コレステロール飼料として、7週令のSD系雄ラット、1群6匹で21日間自由摂取で飼育した。飼育中、ラットの尾静脈より定期的に採血し、血清中のコレステロール量をフジドライケムシステムにて測定した。
【0022】
その結果は図1〔10%ラードを含む0.5%コレステロールの高脂肪食にパン粉、ラクトバチルス サケイ(Lactobacillus sakei) 乳酸菌の加熱殺菌処理菌体を含むパン粉、又はラクトバチルス サケイ(Lactobacillus sakei) 、ラクトバチルス ヒルガルデイ(Lactobacillus hilgardii) 、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum) の3種の加熱殺菌処理菌体を含むパン粉を各々混合した実験食を給餌したラットの総コレステロール値の変化を示す。〕の通りである。10%ラードを含む0.5 %コレステロールの高脂肪食の摂取による総コレステロール値の変化の様子を示している。すなわち、乳酸菌を用いることにより、特に3者の乳酸菌を用いることにより有意に、用いないものに比しコレステロール値上昇が抑制されることを示している。
【0023】
一方、食品では、パンについて述べれば、該乳酸菌で調製したパン種生地を用いてパン生地を作り、通常の方法でホイロまでを経た生地を焼成する。この時、パン生地中の乳酸菌数は109 細胞/g を優に超えている。焼成に伴うパン内部の温度は約100 ℃となり、有胞子細菌でないものはほとんど死滅する。従って、パン中の乳酸菌死菌数は焼減率を考慮すると生地中のそれに比し1.1 〜1.3 倍となる。これを平均300 〜400 g毎日摂食すると当該乳酸菌乾燥死菌体の摂取量は、およそ1 日あたり1〜1.5gとなる。
【0024】
加熱殺菌処理された乳酸菌乾燥菌体の摂取量は、コレスチラミン摂取量の約2.5 倍以上あればよいが、それは医薬品として対比した場合であって、食品として摂取する場合にはさらに低い量、例えば10分の1 以下程度であればよい。なお、コレスチラミンにあっては、適量摂取に際しても頗る摂取量のみならず摂取時間等をも、予想される副作用のためにこれらを厳守しなければならない。
【0025】
すなわち、加熱殺菌処理された乳酸菌乾燥菌体は、体内に摂取されて後、腸管内で胆汁酸と結合して体外に排出されるため胆汁酸濃度が低下する。それに従い、コレステロールから胆汁酸への変換が盛んとなり血清コレステロール濃度が低下する。既に高脂血症薬として臨床的に陰イオン交換樹脂製剤である「 コレスチラミン」 が使用されているが、この作用機序に従い、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体により胆汁酸の結合及びその排出がなされることが予想されるため、当該「 コレスチラミン」 と同様な効果を期待することが出来る。
【0026】
【実施例2】
次に、この発明の他の実施例を詳述すると、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)JCM1149をMRS 培地で30℃、48時間静置培養後、4℃で10,000rpmで10分間遠心分離して得られた菌体を冷蒸留水で洗浄、同様に遠心分離処理して洗浄菌体を得た。ここで調製した洗浄菌体懸濁液を沸騰水中で10分間加熱処理した後、同様に遠心分離して得た菌体を大型シャーレ上にひろげ、70℃、一晩乾燥して加熱殺菌菌体を得た。この乾燥菌体試料15mgを、エッペンドルフチューブ中で1.25mM胆汁酸溶液(10mM りん酸緩衝液、pH 6.8) 1 mlと混合し、37℃で2.5 時間放置した。放置後、10,000 rpmで10分間遠心分離し、上清中の胆汁酸濃度を総胆汁酸―テストワコーのキットを用いて定量した。
【0027】
【実施例3】
さらに、この発明の他の実施例を説明すると、食品中より分離された、或いは食品製造に際して用いられる各種乳酸菌を実施例2 と同様にそれぞれを単独に培養・集菌・洗浄後、沸騰水中で10分間加熱殺菌処理を行ない、集菌した菌体を70℃、一晩乾燥して得た各乳酸菌菌体を試料として胆汁酸(タウロコール酸)との結合能を測定した。対照として、高脂血症薬として用いられている“コレスチラミン(Cholestyramine)”を用いた。なお、食物繊維もその胆汁酸吸着能に注目して摂取が薦められている。一例としてファイバーソルFB〔松谷化学(株)製〕をも用いた。これらの結果は表1の通りである。
【0028】
【表1】
【0029】
表1は、試験管内における加熱殺菌処理乳酸菌菌体等各15mgの胆汁酸結合能を示すものである。
【0030】
【発明の効果】
この発明によると、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体109 細胞/g 以上を含有する食品、とりわけパン類を摂食することにより、含まれる加熱殺菌処理された乳酸菌菌体が胆汁酸を結合し、体外に排出させるため、体内の胆汁酸濃度を下げ、ひいては血清コレステロール濃度を低下させたり、二次胆汁酸による発癌の危険性を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実験食を給餌したラットの総コレステロール値の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
C 実施例1記載の基本飼料(対照)
L 基本飼料に加熱殺菌処理した乾燥乳酸菌菌体を添加した飼料
S 基本飼料にL同様に処理した3種の乳酸菌菌体を添加した飼料
Claims (4)
- 胆汁酸体外排出促進薬である陰イオン交換樹脂製剤、コレスチラミン(Cholestyramine)が示す胆汁酸結合能の40%以上を有する、ラクトバチルス(Lactobacillus) 属に属する、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体およびその乳酸菌菌体を含有する食品素材・食品。
- ラクトバチルス(Lactobacillus) 属に属する乳酸菌が、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum) 、ラクトバチルス ヒルガルデイ(Lactobacillus hilgardii) 、ラクトバチルス パラアリメンタリウス(Lactobacillus paralimentarius) などをはじめとする、食品製造、または食用に供されてきたものから分離された乳酸菌であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の胆汁酸を結合する、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体およびその乳酸菌菌体を含有する食品素材・食品。
- 当該乳酸菌の働きによって一部、あるいは全部が造られる食品素材・食品であっても、該食品の製造工程における加熱処理により、最終的に当該乳酸菌が加熱殺菌処理された菌体と同等のものとなって存在する、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体を含有する食品であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の胆汁酸を結合する、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体およびその乳酸菌菌体を含有する食品素材・食品。
- 食品製造、または食用に供されてきたものが、パン生地や漬物などの発酵食品であることを特徴とする特許請求の範囲第2項記載の胆汁酸を結合する、加熱殺菌処理された乳酸菌菌体およびその乳酸菌菌体を含有する食品素材・食品。
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