JP4280016B2 - 糖尿病合併症予防・改善・治療剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、糖尿病に伴って発生する合併症の予防・改善・治療剤及び/または糖尿病に伴って発生する合併症の予防・改善・治療作用を有する飲食品に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、欧米化された食生活の定着に伴い、日本人の糖尿病発症率は増加の一途をたどっている。加えて、日本における糖尿病のうち、インシュリン非依存性糖尿病(NIDDM)の割合は著しく高く(90%以上)、また難治性で、疾病が長期化し、治療が著しく困難な疾患である。
このNIDDMに対しては、根本的な治療法が確立されておらず、カロリー制限を主体とした栄養療法(食餌療法)ならびにカロリー消費を目的とした運動療法を主体とし、血糖の直接的なコントロールのため、適宜、薬物療法(経口血糖降下剤:グリクロピラミド、トリブタミド、グリクラジドなどのスルフォニル尿素剤及びビグアナイド剤)が組み合わされて処方されている。
【0003】
NIDDMの治療方法として食餌療法が行われるが、主たる目的はカロリー制限である。また、これに運動療法も加え、肥満抑制によるインスリン抵抗性の改善がNIDDM治療のための2本柱である。これらは、継続的な実行がともなって初めて有効となるが、これを意思の力によって継続することは非常に難しいことでもある。
また乳酸菌が血糖値を降下させることが知られており、乳酸菌の菌体を有効成分とする血糖降下剤が提案されている(特開平10-7577号公報)。この発明によると乳酸菌の中で、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ラクトコッカス・ラクチス、ラクトコッカス・クレモリス等の乳酸球菌、及びラクトバチルス・デルブルッキ・ラクチス、ラクトバチルス・デルブルッキ・ブルガリス、ラクトバチルス・ヘルベチクス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ファーメンタム等の乳酸桿菌を体重1キログラム当たり10〜500mgと大量に投与することによって、血糖値を降下させている。しかし、このような大量投与は成人一人当たりでは30g以上にも達し現実的ではない。
【0004】
また、特開平6-116156号公報には、乳酸菌体から血糖を降下させる画分を抽出する方法が開示されている。さらにまた、特開平8-59492号公報には、菌体の細胞壁成分から多糖類−グリカン複合体を抽出し、これを血糖降下剤として用いることが開示されている。このように乳酸菌を用いた糖尿病治療剤が種々提案されているが、必ずしも満足できるものではなかった。
これらの乳酸菌を用いた研究では、いずれもヒト腸管内に定着性を有する菌株ではなく、効果も一時的なものに過ぎなかったため、実際の糖尿病治療に用いることはできなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、ヒト腸管内に定着性を有する乳酸菌の研究を行っていたところ、腸管内定着性を有する乳酸菌、特にラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体と、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を投与すると、これらの微生物は腸管内に定着することによって宿主に作用し、インシュリン非依存性糖尿病にしばしば発生するインシュリン抵抗性の発生を予防、改善し、さらには糖尿病性腎症を改善することを見出し、本発明を完成するに至った。
従って本発明は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体とビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする糖尿病合併症予防・改善・治療剤を提供することを課題とする。
また本発明は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体とビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を含有する糖尿病合併症予防・改善・治療剤飲食品を提供することを課題とする。
【0006】
本発明者らは、従来から種々の発酵乳の研究を行っていたところ、これらの発酵乳から分離された乳酸菌やヒト由来の乳酸菌の中で特にラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)が従来に見られない高いヒト腸管内定着性を有していることを見出し、さらにこのラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)とビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)が、従来知られていなかった腸管定着性によってNIDDMによるインシュリン抵抗性を改善し、さらに糖尿病性腎症を改善することを見出し、上記課題の解決に成功した。
【0007】
【発明を解決するための手段】
すなわち本発明は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)及びビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium ongum)に属する乳酸菌を培養して得られる菌体、その培養物を有効成分とする糖尿病合併症の予防・改善・治療剤に関する。さらに、本発明は、このような有効成分を含有してなる糖尿病合併症の予防・改善・治療作用のある飲食品に関する。
本発明は、特許請求範囲に記載した下記の構成からなる発明である。
【0008】
(1)ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)・SBT2055(FERM P-15535)を培養して得られる培養物及び/または菌体と、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)・SBT2928(FERM P-10657)を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とするインシュリン非依存性糖尿病合併症としての糖尿病性腎症の予防・改善・治療剤。
(2) ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)・SBT2055(FERM P-15535)を培養して得られる培養物及び/または菌体と、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)SBT2928(FERM P-10657)培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする糖尿病合併症予防・改善・治療剤。
(3) ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)・SBT2055(FERM P-15535)とビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)SBT2928(FERM P-10657)を培養して得られる培養物が醗酵乳である(2)に記載の糖尿病合併症予防・改善・治療剤。
(4) 糖尿病合併症が糖尿病性腎症である(2)又は(3)記載の糖尿病合併症予防・改善・治療剤。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、本発明者らは、目的とする乳酸菌をスクリーニングするに際し、次のような基準を新たに設定し目的に合致する株を選定した。すなわち、本発明者らは、醗酵乳やヒト由来の数多くのラクトバチルス・ガセリ、ビフィドバクテリウム・ロンガムのうち、胃酸耐性が高い、低pH条件下での生育が良好である、ヒト腸管へ高い定着性を示す、ヒト腸管細胞親和性を示す、胆汁酸耐性がある、腸管内に定着することによってNIDDMによって発生するインシュリン抵抗性を改善する効果を有する、食品に適用した際に生残性が高く、香味、物性も優れている等々の条件を設定し、菌株の選定につき鋭意研究を重ねた。本条件によってスクリーニングした結果、これらの条件に合致する菌株として以下の2菌株を選択することができた。なお、これらの菌株は、下記の寄託番号により独立行政法人産業技術総合研究所特許微生物寄託センターに寄託されている。
【0010】
菌株
ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)SBT2055(以下LG2055という)FERM P-15535、
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)SBT2928(以下BL2928という)FERM P-10657
これらの菌株は、ヒト腸管細胞に高い親和性を有し、経口で投与した時、生存して腸管内に到達することができ長期間腸管内に常在することが可能であり、腸管内生育することで宿主に作用し糖尿病に伴って発生するインシュリン抵抗性を改善し糖尿病性腎症を改善する。体外から投与したラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌とビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)に属する乳酸菌が腸内に定着し、このような生理効果を示すことは全く知られておらず、本発明者らによって初めて明らかにされた。
【0011】
さらに本発明では、上記寄託菌に限らずヒトや醗酵乳から分離されるラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)とビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)であって、上記の作用を示すものであれば、いずれのものでも使用できる。
【0012】
次にこれらの乳酸菌の培養方法を記す。
本発明のラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)とビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の培地には、乳培地又は乳成分を含む培地、これを含まない半合成培地等種々の培地を用いることができる。このような培地としては、脱脂乳を還元して加熱殺菌した還元脱脂乳培地を例示することができる。
培養法は、静置培養又はpHを一定にコントロールした中和培養で行うが、菌が良好に生育する条件であれば特に培養法に制限はない。
本発明は上述のようにして得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする。また乾燥した粉末を有効成分としてもよい。これらの乾燥は凍結乾燥で行なうことが菌体を変質させることなく乾燥することができるので好ましい。
【0013】
これらの有効成分は経口摂取することが望ましい。また、これらの粉末は乳糖等の適当な賦形剤と混合し粉剤、錠剤、丸剤、カプセル剤または粒剤等として経口投与することができる。投与量は、投与対象者の症状、年齢等を考慮してそれぞれ個別に適宜決定されるが、通常成人1日当たり、乾燥物として0.5〜10gであり、これを1日数回に分けて投与するとよい。特に好ましくは、それぞれの株が生菌として成人一人当たり、108〜1012cfu/日投与することで本発明の目的とする効果を発揮させることが可能となる。このようにして摂取することによって腸管内に定着し所望の効果を発揮する。
【0014】
また、本発明の有効成分は、飲食品の製造工程中に原料に添加してもよい。飲食品としてはどのような飲食品でもよく、その例として、乳飲料、発酵乳、果汁飲料、ゼリー、キャンディー、乳製品、マヨネーズ等の卵加工品、バターケーキ等の菓子パン類等の食品をあげることができる。但し、本発明の特性として乳酸菌が生存した状態で腸管に定着することが必要であり、過度の加熱は避けなければならない。また、マイクロカプセル等の従来技術を採用して、加熱を避ける手段を講じることも必要であろう。
さらにまた、本発明における飲食品は、前述したラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)とビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の菌株を使用して乳酸発酵を行なって製造されたヨーグル等であっても良い。
【0015】
以下に本発明に用いる乳酸菌株としてLG2055(FERM P-15535)とBL2928(FERM P-10657)を用いた試験例を示し、分類学的性状及びインビトロ、インビボによる効果を具体的に説明する。しかし、本発明はこの記載内容に限定されるものではない。
BL2928株の同定
1.分類学的性状
(1)菌形 BL血液寒天平板培地を用いて37℃、48時間嫌気培養後の結果を示す。
形状:桿菌
大きさ:0.5-1×3-4μm
連鎖したもの多数
(2)グラム染色性 陽性
(3)コロニー形態
形状:円形
周縁:滑状
大きさ:直径2-3mm
色調:茶色
表面:円滑
(4)芽胞形成 陰性
(5)ガス産生 なし
(6)運動性 なし
(7)カタラーゼ活性 陰性
(8)脱脂乳凝固性 凝固
(9)ゼラチン液化性 なし
(10)硝酸塩還元性 なし
(11)インドール産性 なし
(12)硫化水素産性 なし
【0016】
2.糖の発酵性
市販の細菌同定用キット(アピ50CH、ビオメリュー社)にて糖の発酵性を検討した結果を以下に記載する。
L−アラビノース +
L−リボース +
ソルビトール −
セロビオース −
ラクトース +
メレジトース +
ラフィノース +
スターチ −
グルコネート −
(+は発酵性有りを示し、−は発酵性なしを示す。)
【0017】
上記の分類学的性状と糖の発酵性は、典型的なビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)の性状を示した。
【0018】
次いで、以下の通りDNA相同性試験による確認試験を実施した。
DNA相同性試験
以下に記載したビフィドバクテリウムの基準株、被験菌BL2928株 、そしてコントロールとして、大腸菌(Escherichia. coli)のDNAを抽出、精製した。
被験菌: BL2928株
基準株:ビフィドバクテリウム・ロンガム JCM1217株
ビフィドバクテリウム・インファンティス JCM1222株
ビフィドバクテリウム・ビフィダム JCM1255株
ビフィドバクテリウム・ブレベ JCM1192株
ビフィドバクテリウム・アドレッセンティス JCM1275株
ビフィドバクテリウム・アニマリス JCM1190株
大腸菌(Escherichia. coli)
BL2928株のDNA同士の相同性を100%、BL2928株と大腸菌とのDNA相同性を0%としたときの、BL2928株と各基準株のDNA相同性をDNAハイブリダイゼーション法により検討した。その結果、BL2928株はビフィドバクテリウム・ロンガム基準株と90%以上の相同性を有していたため、BL2928株はビフィドバクテリウム・ロンガムと同定した。
【0019】
LG2055株の同定
1.分類学的性状
(1)菌形 LBS寒天平板培地を用いて37℃、48時間嫌気培養後の結果を示す。
形状:桿菌
大きさ:0.5-1×3-4μm
連鎖したもの多数
(2)グラム染色性 陽性
(3)コロニー形態
形状:円形
周縁:波状
大きさ:直径2-3mm
色調:白色
表面:円滑
(4)芽胞形成 陰性
(5)ガス産生 なし
(6)運動性 なし
(7)カタラーゼ活性 陰性
(8)脱脂乳凝固性 凝固
(9)ゼラチン液化性 なし
(10)硝酸塩還元性 なし
(11)インドール産性 なし
(12)硫化水素産性 なし
【0020】
2.糖の発酵性
市販の細菌同定用キット(アピ50CH、ビオメリュー社)にて糖の発酵性を検討した結果を以下に記載する。
グリセロール −
エリスリトール −
D−アラビノース −
L−アラビノース +
リボース −
D−キシロース −
L−キシロース −
アド二トール −
β−メチル−D−キシロシド −
ガラクト-ス +
D−グルコース +
L-フルクト-ス +
D−マンノース +
L−ソルボース −
ラムノース −
ダルシトール −
イノシトール −
マンニトール −
ソルビトール −
α−メチル−D−マンノシド −
α−メチル−D−グルコシド −
N−アセチル−グルコサミン +
アミグダリン +
アルブチン +
エスクリン +
サリシン +
セロビオース +
マルトース +
ラクト-ス +
メリビオース −
サッカロース +
トレハロース +
イヌリン −
メレジトース −
D−ラフィノース −
アミドン −
グリコーゲン −
キシリトール −
β−ゲンチオビオース +
D−ツラノース −
D−リキソース −
D−タガトース +
D−アラビトール −
L−アラビトール −
グルコネート −
2−ケトーグルコネート −
5−ケトーグルコネート −
(+は発酵性有りを示し、−は発酵性なしを示す。)
上記の分類学的性状は、典型的なラクトバチルス・アシドフィルス複合菌種(Lactobacillus acidophilus complex)の性状を示した。
【0021】
次いで、以下の通りDNA相同性試験による確認試験を実施した。
DNA相同性試験
以下に記載したラクトバチルスの基準株、被験菌LG2055株 、そしてコントロールとして、大腸菌(Escherichia. coli)のDNAを抽出、精製した。
被験菌: LG2055株
基準株:ラクトバチルス・アシドフィルス JCM1132株
ラクトバチルス・クリスパタス JCM1185株
ラクトバチルス・ガリナラム JCM2011株
ラクトバチルス・アミロボラス JCM1126株
ラクトバチルス・ガセリ JCM1131株
ラクトバチルス・ジョンソニー JCM2012株
大腸菌(Escherichia. coli)
LG2055株のDNA同士の相同性を100%、LG2055株と大腸菌とのDNA相同性を0%としたときの、LG2055株と各基準株のDNA相同性をDNAハイブリダイゼーション法により検討した。その結果、LG2055株はラクトバチルス・ガセリJCM1131株と90%以上の相同性を有していたため、LG2055株はラクトバチルス・ガセリと同定された。
【0022】
胃酸耐性
胃酸耐性試験は瀧口らの方法(腸内細菌学雑誌 14.11-18.2000)に従ってpH2.0人工胃液を調製し胃酸耐性試験を行ったところ、LG2055株、BL2928株は3時間以上生残した。
【0023】
人工腸液耐性
瀧口らの方法(腸内細菌学雑誌 14.11-18.2000)に従って胆汁末を含む人工腸液を調製しこれに前記の人工胃液処理を行ったLG2055株、BL2928株を加えて耐性を試験したところ、20時間以上の生存性を示した。LG2055株、BL2928株は、消化管を通過し大腸まで生存して到達することが確認された。
【0024】
ヒトの腸管通過能と腸内定着性
無脂乳固形9.5%、乳脂肪3.0%の乳LG2055株又はBL2928株のスターターを4%接種し39度で4時間発酵させた発酵乳を健康な成人ボランティア42名に4週間、毎日100gを1日1回食させて腸内菌の変化を観察した。試験期間中は腸内菌に影響のある食品やオリゴ糖、薬品の摂取を禁ずる以外は自由に食事をさせて評価を行った。試験前は検出されなかったLG2055株、BL2928株がすべての被験者から4週間後には検出され、両株が高い腸管内定着性を有することがわかった。
【0025】
インシュリン非依存性糖尿病動物モデルに対する試験
1.乳酸菌脱脂乳培養物の調製
LG2055株及びBL2928株を用いた。乳酸菌は、115℃、20分間の滅菌処理をした0.5%酵母エキス(アサヒビール社製)を添加した11.55%脱脂乳培地にて、37℃、16時間の培養を3代以上行って賦活させた。これを同培地に3%接種し、37℃で16時間培養した。得られた培養物は、凍結乾燥後、乳鉢で粉砕した。
【0026】
2.モデル動物と試験群
糖尿病モデルである4週齢のKK-Ay系雄マウス(日本クレア)50匹を4群に振り分け、うち2群には培養基である脱脂乳及び凍結乾燥発酵乳を20%添加した精製飼料AIN93M(オリエンタル酵母社製)(コントロール群13匹、試験群11群)を与え、他の2群には、同様に粗精製飼料MF(オリエンタル酵母社製)をベースとして脱脂乳及び凍結乾燥発酵乳を20%添加した飼料を与え、各々5ヶ月齢に至るまで飼育した。
【0027】
3.試験方法
実験期間中、体重ならびに平常時血糖値を経時的に測定した。実験終了2週間前において、1日あたりの飼料摂取量、糞排泄量、飲水量、尿排泄量、さらに尿pH、尿蛋白、尿クレアチニン含量を測定し、解剖時には、絶食時血糖値、血漿レプチン濃度、血漿インスリン濃度、後腹壁脂肪重量、血球分析値等を分析し、糖尿病の症状ならびにインスリン抵抗性指標に与えるBL2928株・LG2055株調製発酵乳の影響について調べた。なお、測定方法については以下に示す。
・平常時血糖値の測定:約4時間断食させた後、尾静脈から抗凝固(ヘパリン)処理したキャタピラー管を用いて採血し、遠心分離より血漿を得た。生化学自動分析装置富士ドライケムFDC5500(富士フィルムメディカル社製)を用いて測定した。
・飼料摂取量測定法:一日当たり7gの飼料を与え、翌日の同時間に容器内にある餌残量を測定し、1日当たり食餌摂取量を算出した。
・尿pHの測定:新鮮尿を採尿し、簡易型pHメーター(ISFET KS723:新電元工業社製)を用いて測定した。
・尿蛋白測定法:新鮮尿を採尿し、ブラッドフォード法(BioRad社製)にて測定した。
・尿クレアチニン測定法:新鮮尿を採尿し、クレアチニンテストワコー(和光純薬工業社製)を用いて測定した。
・血漿レプチンの測定:約16時間絶食させた後、炭酸ガス雰囲気下に殺処理し、下大静脈から凝固処理リジンを用いて全採血を行った(ヘパリン:最終濃度約10単位/ml)。遠心分離(15,000rpm、5min)により血漿を得、分析時まで凍結保存(−80℃)した。保存血漿を解凍し、マウスレプチン測定キット(森永生科学研究所製)を用いて測定した。
・血漿インシュリンの測定:インシュリン測定キット(森永生科学研究所製)を用い、血漿レプチン同様に測定した。
・後腹壁脂肪重量の測定:開腹後、左右の後腹壁脂肪を摘出し、各々、精密天秤(METTLER AE240:日本シイベルヘグナー社製)にて測定した。
・血球分析:解剖、全採血後のヘパリン血(最終濃度約10単位/ml)の一部を用いて、全自動血球計数機(MEK-6158:日本光電社製)により測定した。
【0028】
4.試験結果
基本飼料別の体重の推移を図1に、平常時血糖値の推移を図2に示した。体重の増加パターンならびに平常時血糖値の上昇にも大きな差は認められなかった。しかし、空腹時血糖値に対する影響は基本飼料によって大きく異なり、粗精製飼料(MF)では発酵乳摂取の影響による血糖値の低下傾向が認められた(p=0.0879:図3)。
【0029】
さらに、血漿のインスリン濃度は何れの飼料においても、本発明の治療剤である発酵乳摂取によって低下した(P=0.0221:図4)。即ち、空腹時血糖値ならびにインスリン濃度の積で代表されるインスリン抵抗性指標では、本発明の治療剤である発酵乳摂取の影響が大きく現れ、明らかな改善が確認された(P=0.0498:図5)。
【0030】
一方、後腹壁脂肪の蓄積量は発酵乳摂取群において有意に低下し(P=0.0040:図6)、血漿レプチン濃度も発酵乳摂取群で有意な低下が示され、脂肪の蓄積にも影響が現れている(P=0.0003:図7)。
血液学的検査においては大きな変化は認められなかったものの、本発明の治療剤である発酵乳摂取により、血小板の有意な増加が認められた(p=0.0390:図8)。
また、1日あたりの飲水量(p=0.0283:図9)、尿排泄量(p=0.0077:図10)ともに本発明の治療剤である発酵乳摂取群において有意に抑制され、糖尿病に伴う腎機能低下の症状が改善された。
新鮮尿のpH(p=0.0444:図11)、尿蛋白の排泄も有意に抑制され、糖尿病性腎症が顕著に改善された(p=0.0337:図12)。
【0031】
以上の結果から、BL2928株・LG2055株を用いて調製した発酵乳がインスリン非依存性糖尿病に伴って発生するインシュリン抵抗性を改善し、糖尿病性腎症の改善に有効であることが確認された。
【0032】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。しかし、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
1.乾燥粉末の調製
LG2055株及びBL2928株を10%還元脱脂乳培地(121℃、10分加熱)で培養し、本培養物を凍結乾燥し粉末化し、本発明の予防改善治療剤を調製した(A)。
【0033】
2.発酵乳の製造
BL2928株をブリッグス肝臓培地にて培養した。また、LG2055株をMRS液体培地にて培養した。対数増殖期にある各培養液を、0.3%の酵母エキスを添加した10%還元脱脂乳(115℃、20分滅菌)に1%接種し、個々マザーカルチャーを作成した。
これをヨーグルトミックス(10%の還元脱脂乳を添加し、100℃にて10分間加熱したもの)に各2.5%添加して調製した。発酵は37℃で行い、乳酸酸度0.85に到達した時点で冷却し、発酵を終了させた(B)。
【0034】
3.BL2928株・LG2055株生菌混合製剤の製造
BL2928株及びLG2055株の液体培養物から対数増殖期にある菌体を培養液から4°Cで、7,000rpmで15分間遠心分離して滅菌水による洗浄を行い、これを3回繰り返して洗浄菌体を得た。これを凍結乾燥処理して菌体粉末を得た。この菌体粉末1部に脱脂乳4部を混合し、この粉末をを打錠機により1gずつ定法により打錠して、菌体200mgを含む錠剤を調製した。また、上記のBL2928株及びLG2055株の発酵乳を凍結乾燥し、得られた粉末を用いて直接打錠した。
【0035】
4.カプセル化剤の製造
凍結乾燥粉末を散剤化した後、造粒により顆粒状とした後、空カプセルに10mgづつ充填しカプセル剤とした。
【0036】
5.製剤の製造(2)
LG2055株をMRS液体培地(Difco社製)5Lに接種後、37℃、18時間静置培養を行った。BL2928株を脱脂乳5Lに接種後、37℃、18時間静置培養を行った。培養終了後、7,000rpmで15分間遠心分離を行い、培養液の1/50量のそれぞれの濃縮菌体を得た。次いで、この濃縮菌体を脱脂粉乳10%(重量)、グルタミン酸ソーダ1%(重量)を含む分散媒と同量混合し、pH7に調整後、凍結乾燥を行った。得られた凍結乾燥物を60メッシュのフルイで整粒化し、凍結乾燥菌末を得た。
【0037】
第13改正日本薬局方解説書製剤総則「散剤」の規定に準拠し、上記5で得られた凍結乾燥菌末1gにラクトース(日局)400g、バレイショデンプン(日局)600gを加えて均一に混合し、散剤を製造した。
【0038】
6.製剤の製造(3)
次の配合により抗潰瘍剤を製造した。
(1)LG2055株、BL2928株の脱脂粉乳培地における培養物の凍結乾燥物50g、
(2)ラクトース90g、
(3)コーンスターチ29g、
(4)ステアリン酸マグネシウム1g、この混合物を圧縮錠剤機により圧縮して、1錠あたり有効成分を40mg含有する錠剤100個を製造した。
【0039】
7.製剤の製造(4)
LG2055株、BL2928株をホエー培地(0.5%酵母エキス、0.1%トリプチケースペプトン添加)で培養後遠心分離で菌体を回収した。この培養物1gを乳糖5gと混合し顆粒状に成形して顆粒剤を得た。
【0040】
8.BL2928株及びLG2055株を含む食品の製造
(1)飲料
洗浄菌体の凍結乾燥粉末を、BL2928株及びLG2055株が各々108個以上含まれるように200mlの牛乳と混合して、本発明の治療剤入り飲料を得た。良好な風味を有していた。
【0041】
(2)発酵乳
BL2928株及びLG2055株をヨーグルトミックス(生乳に2%脱脂乳を添加し、100℃で10分加熱)に接種し、20℃で24時間培養した。紙カップに充填し冷却後ヨーグルトとした製品中のBL2928株及びLG2055株の生菌数濃度は、100g当たりBL2928株が109個以上であり、LG2055株は108個以上であった。
【0042】
(3)発酵バター
発酵バター (wt/wt)
乳脂肪 96.8%
食塩 1.2
1.で得られた試料(A) 2
【0043】
(4)バターケーキ
バターケーキ (wt/wt)
バター 24%
薄力粉 24
砂糖 24
全卵 24
2.で得られた試料(B) 4
香料 少々
【0044】
(5)マヨネーズ
マヨネーズ (wt/wt)
サラダ油 65%
卵黄 17
食酢 10
1.得られた試料(A) 3
香辛料 4.4
グルタミン酸モノナトリウム 0.6
【0045】
【発明の効果】
本発明によれば、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体とビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)に属する乳酸菌を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする糖尿病合併症予防・改善・治療剤と糖尿病合併症予防・改善・治療剤飲食品を提供することができる。
本発明によって提供される糖尿病合併症予防・改善・治療剤は、毒性及び副作用が極めて少なく、また、食品素材としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】飼育期間中の体重変化を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、Controlは本発明非投与群を、LABは本発明剤投与群を示す。
【図2】飼育期間中の血糖値変化を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、Controlは本発明非投与群を、LABは本発明剤投与群を示す。
【図3】絶食後の血糖値を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、白抜きグラフは本発明剤非投与群を、網掛けグラフは本発明剤投与群を示す。
【図4】空腹時血漿インシュリン値を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、白抜きグラフは本発明剤非投与群を、網掛けグラフは本発明剤投与群を示す。
【図5】インシュリン抵抗性指標を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、白抜きグラフは本発明剤非投与群を、網掛けグラフは本発明剤投与群を示す。
【図6】後腹壁脂肪重量を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、白抜きグラフは本発明剤非投与群を、網掛けグラフは本発明剤投与群を示す。
【図7】空腹時血漿レプチン濃度を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、白抜きグラフは本発明剤非投与群を、網掛けグラフは本発明剤投与群を示す。
【図8】血小板測定値を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、白抜きグラフは本発明剤非投与群を、網掛けグラフは本発明剤投与群を示す。
【図9】飲用水量測定値を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、白抜きグラフは本発明剤非投与群を、網掛けグラフは本発明剤投与群を示す。
【図10】尿排泄量測定値を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、白抜きグラフは本発明剤非投与群を、網掛けグラフは本発明剤投与群を示す。
【図11】尿pH測定値を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、白抜きグラフは本発明剤非投与群を、網掛けグラフは本発明剤投与群を示す。
【図12】尿蛋白濃度の測定値を示す。図中AIN93M、MFは投与基礎飼料を示し、白抜きグラフは本発明剤非投与群を、網掛けグラフは本発明剤投与群を示す。

Claims (4)

  1. ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)・SBT2055(FERM P-15535)を培養して得られる培養物及び/または菌体と、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)・SBT2928(FERM P-10657)を培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とするインシュリン非依存性糖尿病合併症としての糖尿病性腎症の予防・改善・治療剤。
  2. ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)・SBT2055(FERM P-15535)を培養して得られる培養物及び/または菌体と、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)SBT2928(FERM P-10657)培養して得られる培養物及び/または菌体を有効成分とする糖尿病合併症予防・改善・治療剤。
  3. ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)・SBT2055(FERM P-15535)とビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)SBT2928(FERM P-10657)を培養して得られる培養物が醗酵乳である請求項2に記載の糖尿病合併症予防・改善・治療剤。
  4. 糖尿病合併症が糖尿病性腎症である請求項2または3に記載の糖尿病合併症予防・改善・治療剤。
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