JP3621889B2 - Al−Si系合金材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Al−Si系合金材の製造方法、詳しくは、Al−Si系合金の鋳造材を均質化処理後、押出または鍛造することによりAl−Si系合金材を製造する方法の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車部品や家電部品などに使用されるAl−Si系合金材は、棒材などに鋳造後、熱間押出、または熱間あるいは冷間の鍛造加工が施されるが、従来、押出性や鍛造性を改善するために、合金成分の調整、または、鋳造時に晶出する針状の共晶Siの球状化、デンドライトアーム間隙に濃縮している添加元素や不純物元素の均質化、さらには鋳造時に発生する内部応力を除去するための高温均質化処理が行われている。
【0003】
例えば、Al−Si系合金材の冷間鍛造性を改善するために、鋳造工程において、鋳造温度を670〜850℃の範囲とし、670℃から554℃までの冷却速度を5℃/秒以上とし、且つ560℃から554℃までの冷却速度を10℃/秒以上として、鋳造後、450〜510℃で2〜12時間の熱処理を施すことにより、Al−Fe−Mn−Si化合物、Al−Cu系、Al−Mg−Si系晶出物を微細化消滅すると共に、共晶Siを粒状化して鍛造性を向上させる手法(特公平7−62200号公報)が提案されている。しかしながら、この手法においては、鋳造時において厳密な温度管理を伴うため、工程上かなり面倒な制御を要するという難点がある。
【0004】
また、Al−Si合金の合金成分のうち、共晶Siの微細化に作用するCaと、Caと反応する合金中のPとの重量比率(P/Ca)、Fe系晶出物を生成して伸びを低下させるFeの含有量を規制し、鋳塊を450℃以上の温度での昇温速度が50℃/時間以下となる加熱条件で500〜550℃の温度領域に加熱して1〜24時間保持し共晶Siの球状化および合金成分の均質化を図り、鍛造性を改善する方法(特開平7−109536号公報)、Al−Si系合金の鋳塊を加熱後、60℃/hr未満の初期冷却速度で冷却する均質化処理、例えば、棒状鋳塊を490℃で4時間加熱後、40℃/hr以下の冷却速度で所定温度(例えば335℃)まで冷却し、その後、通常の60〜80℃/hrの冷却速度で常温まで冷却することにより硬度を制御し、鍛造加工前のシヤー切断性を改善し良好な鍛造性を維持する方法(特許第2506115号公報)も提案されているが、いずれの方法においても、鋳塊に押出加工を行う場合、とくに押出速度が大きい場合には割れが生じ易いという問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、Al−Si系合金における上記従来の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、Al−Si系合金の鋳造材を均質化処理後、押出または鍛造することによりAl−Si系合金材を製造する場合、特定の均質化処理を行うことにより押出性および鍛造性、とくに押出性を改善したことを特徴とするAl−Si系合金材の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための請求項1によるAl−Si系合金材の製造方法は、Al−Si系合金の鋳造材を均質化処理後、押出または鍛造することによりAl−Si系合金材を製造する方法において、Si:3〜18%、Cu:1〜5%、Mg:0.2〜3%、Mn:0.5%未満を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金の鋳造材に、450℃を越え510℃未満の温度に2時間以上24時間未満保持する第1の熱処理と、390〜300℃の温度域内に3〜24時間保持する第2の熱処理からなる均質化処理を施すことを特徴とし、請求項2によるAl−Si系合金材の製造方法は、請求項1において、Al−Si系合金が、Si:3〜18%、Cu:1〜5%、Mg:0.2〜3%、Mn:0.5%未満を含有し、さらにFe:0.5%未満、Cr:0.5%未満、Zr:0.5%未満、Ti:0.1%以下、B:0.05%以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不純物からなることを特徴とする。
【0007】
請求項3によるAl−Si系合金材の製造方法は、前記請求項1または2記載の組成を有するAl−Si系合金の鋳造材に、450℃を越え510℃未満の温度に2時間以上24時間未満保持する第1の熱処理と、340〜300℃の温度域内に3〜24時間保持する第2の熱処理からなる均質化処理を施すことを特徴とする。
【0008】
請求項4によるAl−Si系合金材の製造方法は、前記請求項1または2記載の組成を有するAl−Si系合金の鋳造材に、450℃を越え510℃未満の温度に2時間以上24時間未満保持する第1の熱処理と、340〜300℃の温度域内の特定温度に3〜24時間保持する第2の熱処理からなる均質化処理を施すことを特徴とする。
【0009】
請求項5によるAl−Si系合金材の製造方法は、前記請求項1または2記載の組成を有するAl−Si系合金の鋳造材に、450℃を越え510℃未満の温度に2時間以上24時間未満保持した後、常温まで冷却し、ついで300〜390℃の温度に再加熱して3〜24時間保持する均質化処理を施すことを特徴とする。
【0010】
また、請求項6によるAl−Si系合金材の製造方法は、前記請求項1〜5のいずれかにおいて、前記均質化処理後、常温まで放冷し、その後押出または鍛造を行うことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明によるAl−Si系合金材の製造方法のおける合金成分の意義および限定理由、および均質化処理について説明する。
(合金成分)
本発明においては、Si:3〜18%、Cu:1〜5%、Mg:0.2〜3%を含有し、さらにMn:0.5%未満、Fe:0.5%未満、Cr:0.5%未満、Zr:0.5%未満、Ti:0.1%以下、B:0.05%以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金材が適用される。
【0012】
Siは耐摩耗性を向上させるが、多量に含有すると粗大な晶出物(初晶Si、共晶Siなど)が多くなり鍛造性、押出性を低下させる。Siの好ましい含有範囲は3〜18%、さらに好ましい含有量は4〜18%の範囲である。
【0013】
CuおよびMgは、強度を向上させるが、多量に含有するとAl−Cu系、Al−Mg−Si系の晶出物の生成が多くなり鍛造性、押出性を害する。CuおよびMgの好ましい含有範囲は、それぞれCu:1〜5%、Mg:0.2〜3%である。
【0014】
Mn、Fe、CrおよびZrも、機械的性質を高めるよう機能するが、多量に含有すると、Al−Mn−Fe系、Al−Fe−Si系、Al−Zr系などの晶出物が多くなり鍛造性、押出性を低下させる。Mn、Fe、CrおよびZrの好ましい含有量は、それぞれMn:0.5%未満、Fe:0.5%未満、Cr:0.5%未満、Zr:0.5%未満である。
【0015】
TiおよびBは、鋳造組織を微細化して機械的性質を安定化させるよう作用する。好ましい含有量は、それぞれTi:0.1%以下、B:0.05%以下の範囲である。なお、本発明においては、共晶Siなどを微細化して鍛造性、押出性を高めるために、P:0.01%以下、Sr:0.1%以下、Na:0.01%以下、Sb:0.01%以下、Ca:0.01%以下を添加することもできる。
【0016】
(均質化処理)
本発明においては、上記の組成を有するAl−Si系合金を連続鋳造または鋳型鋳造により造塊し、得られた鋳塊を、内部応力除去、共晶Siの球状化、鋳塊組織のデンドライトアーム間にミクロ偏析したCu、Mgを均一にアルミニウムマトリックス中に溶入させることを目的として、450℃を越え510℃未満の温度に2時間以上24時間未満保持する第1の熱処理を行う。
【0017】
熱処理温度が450℃以下では、Si粒子の球状化に長時間を要するため生産性が劣り経済性の面で不利となる。510℃以上ではCu、Mgがミクロ偏析した濃度の高い部分において局部溶解が生じ、ポア(気孔)が形成し易くなる。熱処理時間が2時間未満では、共晶Siの球状化が不十分となり鍛造性、押出性の改善が得られない。24時間以上ではSi粒子が粗大化して切削性が低下する。また、生産性が劣り経済性の面で不利となる。
【0018】
第1の熱処理におけるより好ましい熱処理温度は460℃以上510℃未満であり、さらに好ましい熱処理温度は480〜505℃である。また、生産性を考慮した場合、熱処理時間は2〜15時間が好ましい。
【0019】
上記第1の熱処理に続いて、第1の熱処理温度から鋳塊を冷却し、第1の熱処理で溶入させたCu、Mgをアルミニウムマトリックス中に均一に安定析出物として析出させることおよび析出物が後の熱間押出あるいは熱間鋳造の加熱でただちに再溶入しない程度に粗大化させることを目的として、390〜300℃の温度域内で3〜24時間保持される第2の熱処理を行う。390〜300℃の温度域内で3〜24時間保持される熱処理とは、390〜300℃の温度域の特定温度に3〜24時間保持する方法でもよく、390〜300℃の温度域内を3〜24時間かけて冷却する方法でもよく、鋳塊がこの温度領域内に3〜24時間の間滞留していればよい。また、鋳塊を第1の熱処理温度から一旦常温付近まで冷却した後、再度390〜300℃の温度に再加熱する方法を採用することもできる。
【0020】
第2の熱処理における熱処理温度が390℃を越えると、Cu、Mgの析出が十分でなく、押出性、鍛造性の改善が得られない。300℃未満では析出に長時間を要するため、生産性が劣り経済性の面で不利となる。熱処理時間が3時間未満では、Cu、Mgの析出が不十分となって鍛造性、押出性の改善効果が得難く、24時間を越えて熱処理を行っても鍛造性、押出性改善の効果が飽和してそれ以上の改善は期待できない。
【0021】
より好ましい熱処理温度は300〜360℃であり、さらに好ましい熱処理温度は340〜300℃である。また、本発明においては、第1の熱処理を行った後、340〜300℃の温度域に冷却し、340〜300℃の温度領域内の特定温度に3〜24時間保持する第2の熱処理を施すことによって、一層優れた鍛造性、押出性の改善効果を達成することが可能となる。
【0022】
第1の熱処理温度から第2の熱処理温度への冷却速度はとくに限定されず、放冷(冷却速度は約100℃/hr)でも炉冷でもよいが、冷却速度の遅いほうが鍛造性、押出性の改善効果が大きくなる。
【0023】
前記の特定組成のAl−Si系合金の鋳造材に対して、前記の第1の熱処理および第2の熱処理からなる均質化処理を施すことにより、鋳造材の鍛造性、押出性が向上し、自動車部品や家電部品などに使用されるAl−Si系合金材を得ることができる。
【0024】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の特徴をより明確にするとともに、その効果を実証する。なお、本発明は、これに限定されるものではなく、連続鋳造でなく鋳型鋳造等本発明の趣旨の範囲内において適宜に変更することが可能である。
【0025】
実施例1
Si:12%、Cu:4.5%、Mg:0.5%、Mn:0.2%を含有し、残部Alおよび不純物からなる組成を有するAl−Si系合金を溶解し、連続鋳造により直径155mmの棒材に造塊した。なお、共晶Siの微細化のために、鋳込み前に微細化剤として微量のSrを添加した。
【0026】
得られた鋳造棒を長さ400mmに切断して押出用ビレットとし、ビレットについて表1に示す熱処理を行った後、誘導加熱装置によりビレットを370℃の温度に加熱し、6インチ直接押出機を使用して直径35mmの丸棒に押出成形した。なお、ダイス温度およびコンテナ温度を350℃に加熱して押出を行った。
【0027】
押出成形中、押出速度を初め5m/分とし、途中で10m/分、さらに15m/分に上げ、各押出速度における押出丸棒表面の割れの有無を目視で観察した。結果を表2に示す。表2における割れの有無において、○は割れ無し、△は実用上問題のない微小割れ、×は実用上問題のある微小割れ、××は大きな割れを生じたものを示す。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
表2にみられるように、本発明に従う実施例1の試験材No.1〜11はいずれも、押出速度10m/分までの押出成形において、実用上有害な割れのない押出材が得られた。とくに、第1の熱処理を行った後、340〜300℃の温度域に冷却し、340〜300℃の温度領域内の特定温度に3〜24時間保持する第2の熱処理を施した試験材No.2〜3、5〜7は押出速度15m/分の押出成形が可能である。
【0031】
比較例1
実施例1で造塊した直径155mmの棒材を長さ400mmに切断して押出用ビレットとし、ビレットについて表3に示す熱処理を行った後、誘導加熱装置によりビレットを370℃の温度に加熱し、6インチ直接押出機を使用して直径35mmの丸棒に押出成形した。なお、ダイス温度およびコンテナ温度を350℃に加熱して押出を行った。
【0032】
実施例1と同様、押出成形中、押出速度を初め5m/分とし、途中で10m/分、さらに15m/分に上げ、各押出速度における押出丸棒表面の割れの有無を目視で観察した。結果を表4に示す。表4における割れの有無についての評価は実施例1と同一とした。
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
表4に示すように、試験材No.12〜13は、第2の熱処理が行われていないため押出性が劣る。試験材No.14〜15は、第2の熱処理条件が満たされていないため、また、試験材No.16〜17は第1の熱処理温度が低いため、いずれも押出性が劣る。試験材No.18は、押出速度10m/分の押出成形が可能であるが、第1の熱処理に長時間を要するため生産性が劣り、実用性に欠ける。
【0036】
実施例2、比較例2
表5に示す組成を有するAl−Si系合金を溶解し、連続鋳造により直径155mmの棒材に造塊した。なお、Si粒子の微細化のために、Al−過共晶Si合金にはPを、それ以外の合金にはSrを、鋳込み前に微細化剤として微量添加した。
【0037】
得られた鋳造棒を長さ400mmに切断して押出用ビレットとし、ビレットについて、500℃に6h保持→340℃まで30℃/hで冷却→340℃に3h保持→放冷の熱処理を行った後、誘導加熱装置によりビレットを370℃の温度に加熱し、6インチ直接押出機を使用して直径35mmの丸棒に押出成形した。なお、ダイス温度およびコンテナ温度を350℃に加熱して押出を行った。
【0038】
押出成形中、押出速度を初め5m/分とし、途中で10m/分、さらに15m/分に上げ、各押出速度における押出丸棒表面の割れの有無を目視で観察した。結果を表5に示す。表5における割れの有無についての評価は実施例1と同一とした。
【0039】
【表5】
【0040】
表5に示すように、本発明の条件に従う試験材No.19〜24はいずれも、押出速度10m/分までの押出成形において、実用上有害な割れのない押出成形が可能である。これに対して、試験材No.25はSi量が多いため、また、試験材No.26はCu量が多いため、いずれも押出性が劣る。
【0041】
実施例3、比較例3
Si:12%、Cu:4.5%、Mg:0.5%、Mn:0.2%を含有し、残部Alおよび不純物からなる組成を有するAl−Si系合金を溶解し、連続鋳造により直径30mmの棒材に造塊した。なお、共晶Siの微細化のために、鋳込み前に微細化剤として微量のSrを添加した。
【0042】
得られた鋳造棒を長さ45mmに切断して鍛造用試験片とし、この試験片について、(A)500℃に3h保持→300℃まで30℃/hで冷却→300℃に3h保持→放冷、(B)500℃に3h保持→放冷の熱処理を施した。
【0043】
これらの試験片を370℃の温度に加熱し、端面から油圧プレスで圧下し、側面に割れが生じるまでの据込み率を測定したところ、(A)の熱処理を行った試験片は据込み率80%まで割れが発生せず、鍛造性は良好であった。これに対して、(B)の熱処理を行った試験片は据込み率67%で割れが生じた。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、Al−Si系合金の鋳造材を均質化処理後、押出または鍛造することによりAl−Si系合金材を製造する場合、押出性および鍛造性、とくに押出性の改善されたAl−Si系合金材の製造方法が提供される。
Claims (6)
- Al−Si系合金の鋳造材を均質化処理後、押出または鍛造することによりAl−Si系合金材を製造する方法において、Si:3〜18%(質量%、以下同じ)、Cu:1〜5%、Mg:0.2〜3%、Mn:0.5%未満を含有し、残部Alおよび不純物からなるAl−Si系合金の鋳造材に、450℃を越え510℃未満の温度に2時間以上24時間未満保持する第1の熱処理と、390〜300℃の温度域内に3〜24時間保持する第2の熱処理からなる均質化処理を施すことを特徴とするAl−Si系合金材の製造方法。
- 前記Al−Si系合金が、Si:3〜18%、Cu:1〜5%、Mg:0.2〜3%、Mn:0.5%未満を含有し、さらにFe:0.5%未満、Cr:0.5%未満、Zr:0.5%未満、Ti:0.1%以下、B:0.05%以下のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不純物からなることを特徴とする請求項1記載のAl−Si系合金材の製造方法。
- 請求項1または2記載の組成を有するAl−Si系合金の鋳造材に、450℃を越え510℃未満の温度に2時間以上24時間未満保持する第1の熱処理と、340〜300℃の温度域内に3〜24時間保持する第2の熱処理からなる均質化処理を施すことを特徴とするAl−Si系合金材の製造方法。
- 請求項1または2記載の組成を有するAl−Si系合金の鋳造材に、450℃を越え510℃未満の温度に2時間以上24時間未満保持する第1の熱処理と、340〜300℃の温度域内の特定温度に3〜24時間保持する第2の熱処理からなる均質化処理を施すことを特徴とするAl−Si系合金材の製造方法。
- 請求項1または2記載の組成を有するAl−Si系合金の鋳造材を、450℃を越え510℃未満の温度に2時間以上24時間未満保持した後、常温まで冷却し、ついで300〜390℃の温度に再加熱して3〜24時間保持する均質化処理を施すことを特徴とするAl−Si系合金材の製造方法。
- 前記均質化処理後、常温まで放冷し、その後押出または鍛造を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のAl−Si系合金材の製造方法。
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