JP4208156B2 - 高強度アルミニウム合金押出材の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、高強度アルミニウム合金押出材の製造方法、とくに、必須合金成分としてZn、Mg、Cuを含有し、押出加工の困難なAl−Zn−Mg系アルミニウム合金押出材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近、航空機部品や自動車、オートバイ部品の軽量化に伴い、当該部品にアルミニウム合金押出材の使用が多くなっている。さらに軽量化を推進するためには、より高強度で薄肉の押出材が要求される。
【0003】
従来、最も強度の高いアルミニウム合金押出材として、Zn、Mg、Cuを必須合金成分として含有するJIS 7075合金など、Al−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金押出材があるが、この合金は、押出加工を行うと、押出材の表面にティアリング(微小傷)や結晶粒が粗大化する異常組織などの表面欠陥が生じるため、高速の押出加工が難しく、一般には1m/min以下の押出速度で押出成形を行わなければならず生産性の面で問題があった。
【0004】
この問題を解決するために、先にAl−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金の押出用ビレットを均質化処理したのち、再加熱して析出処理を行うことにより、ティアリング発生を抑制し押出速度を向上させる方法を提案した。(特開平4-333548号)
【0005】
しかしながら、上記の方法は、押出時のティアリング発生防止には効果があるが、大量生産を行うためには、なお十分な押出速度が得られず、均質化処理と析出処理を分けて行わなければならないという煩わしさとともに、工程が増えるという難点もある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高強度Al−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金の押出材製造における上記の問題点を解消するためになされたものであり、その目的は、Al−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金について、ティアリングを生じることなしに例えば3.0m/minを越える押出速度で押出加工を行うことができ、均質化処理と析出処理を一工程で行うことができる構造用材料として好適な高強度アルミニウム合金押出材の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための本発明による高強度アルミニウム合金押出材の製造方法は、Zn:4.0〜8.0%、Mg:1.0〜3.0%、Cu:1.0〜3.0%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金の押出用ビレットを均質化処理したのち、該ビレットを均質化処理温度から100℃/h以下の冷却速度で320〜420℃の温度範囲に冷却し、該温度範囲で1〜100h保持する析出処理を行い、続いて押出温度として熱間押出加工を行うことを特徴とする。
【0008】
また、アルミニウム合金が、Zn:4.0〜8.0 %、Mg:1.0〜3.0 %、Cu:1.0〜3.0 %を含有し、さらにTi:0.05 〜0.10%、Zr:0.05 〜0.30%、Cr:0.05 〜0.30%およびMn:0.05 〜0.50%のうちの1種または2種以上を含み、残部Alおよび不可避的不純物からなることを第2の特徴とする。
【0009】
上記本発明の目的を達成するためには、まずAl−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金の組成を特定の範囲に限定しなければならない。本発明における合金元素の意義および限定理由について説明すると、Znは、MgおよびCuと共存して構造用材料として必要な強度を与える。好ましい含有範囲は4.0 〜8.0 %であり、4.0 %未満では十分な強度が得られず、8.0 %を越えて含有されると、鋳造割れが生じ易くなる。
【0010】
Mgは、ZnおよびCuと共存して合金の強度を高める。好ましい含有範囲は1.0 〜3.0 %で、1.0 %未満では強度が不十分となり、3.0 %を越えると押出加工が困難となる。Cuは、ZnおよびMgと複合して含有させることにより強度向上に役立つ。1.0 〜3.0 %の範囲で含有させるのが好ましく、1.0 %未満では十分な強度向上効果が得られず、3.0 %を越えると押出加工が困難となる。
【0011】
選択成分として添加されるTi、Zr、Cr、Mnは、いずれも押出材の結晶粒微細化に有効に作用する。いずれも0.05%未満の添加では効果が十分でなく、Ti、ZrおよびCrが0.30%を越え、またMnが0.50%を越えると、鋳造時に巨大な晶出物が生成し、押出材の表面性状を劣化する。
【0012】
本発明においては、上記組成を有するAl−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金を常法に従って連続鋳造方式などで鋳造し、得られた押出用鋳塊を切断して押出用ビレットとし、このビレットを押出加工に先立ち、常法に従って均質化処理する。
【0013】
発明者らは、Al−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金、JIS 7075合金の押出速度を向上させるための鋳塊の析出処理についての研究過程において、造塊時にデンドライトセル間に形成されるZn、Mg、Cuなど溶出元素の濃化層が、均質化処理時にマトリックス中に固溶され、鋳塊の冷却過程においてAl−Zn−Mg−Cu系の金属間化合物が針状に析出し、この針状化合物の分散により押出性が改善されることを見出した。
【0014】
本発明は、この発見をベースとしてなされたものであり、均質化処理後の冷却過程を制御して、冷却過程で析出処理を行うことを特徴とする。そのためにビレットを均質化処理温度から100 ℃/h以下の冷却速度で320 〜420 ℃の温度範囲に冷却し、該温度範囲で1 〜100h保持する。
【0015】
上記の冷却過程において、Al−Zn−Mg−Cu系の金属間化合物粒子が核生成、針状に析出し、320 〜420 ℃の温度範囲での保持により0.2 〜50μm の大きさに成長する。これらの第2相粒子は、その後ビレットを高速で押出し、ビレットの温度が上がった場合にも分解、再固溶することがなく、押出性の改善に役立つ。
【0016】
320 〜420 ℃の温度範囲での保持を行わない場合には、粒子の大きさが0.2 μm 未満となって分解、再固溶し易くなり、押出性改善の効果が得られない。保持温度は320 〜420 ℃の範囲が好ましい。320 ℃未満では析出粒子が微細となって針状に析出せず、押出性の改善が得られないとともに、析出も不十分で、Zn、Mg、Cuなどの溶質原子の固溶濃度が高くなるため、押出加工中、押出材の中心部に存在する溶質原子が転位と反応して変形抵抗を増大させる結果、押出材の表層部に変形が集中して割れなどが発生し、押出材の表面性状を劣化させる。また、押出材の表層部では、固溶した溶質原子が押出時に剪断帯を形成して、表層部に割れや肌荒れを生じ易くし、押出性を低下させる。
【0017】
保持温度が420 ℃を越えると、必須合金成分、Zn、Mg、Cuの固溶限が広いために、こられの元素のほとんどが固溶体としてマトリックス中に残存することとなり、また一部析出した粒子も0.2 μm 未満となって押出性改善効果が得られない。保持時間は1 〜100hが好ましく、1h未満では第2相粒子が十分に析出せず押出性改善の効果が小さい。第2相粒子の針状析出の効果は100h程度の保持で飽和し、100hを越えて保持しても効果は変わらない。
【0018】
ビレットを均質化処理後、一旦室温まで冷却したのち、再加熱により所定温度に上げ析出処理を行った場合には、再加熱中に生成した粒子核上に第2相粒子が析出するが、この粒子は均質化処理後の冷却過程で生成する前記Al−Zn−Mg−Cu系化合物ではなく、加熱により分解、再固溶し易いAl−Zn−Mg系化合物であるから、押出加工中に発熱したビレット中で容易に分解、再固溶して押出性改善効果を弱める。
【0019】
均質化処理後のビレットの冷却速度が100 ℃/hを越えると、Al−Zn−Mg−Cu系金属間化合物の核生成が不十分となり、320 〜420 ℃の温度範囲での保持中に、上記再加熱時と同じくAl−Zn−Mg系化合物が析出し易くなるため、押出性の改善が得られない。
【0020】
本発明において、ビレットの均質化処理は、鋳造時に形成されたAl−Zn−Mg−Cu系などの共晶化合物を分解して溶質原子をマトリックス中に固溶させ、Mnなどの添加成分や不純物の濃度分布を均一にし、組織を微細にする効果がある。好ましい均質化処理条件は、460 〜500 ℃で1 〜50h であり、460 ℃未満では上記共晶化合物の分解が十分でなく、500 ℃を越えると、共晶化合物が融解し易くなり、合金中の水素などが融解部分に拡散して押出材表層部に欠陥を発生し易くする。処理時間は1h未満では上記均質化処理の効果が得られず、50h 程度の処理でその効果が飽和する。
【0021】
【作用】
本発明においては、所定の組成を有するAl−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金のビレットを均質化処理したのち、ビレットを均質化処理温度から特定の冷却速度で所定温度範囲に冷却、保持することにより、冷却過程で核生成、針状に析出したAl−Zn−Mg−Cu系の第2相粒子が0.2 〜50μm の大きさに成長し、この第2相粒子の分散によって押出性が改善され、且つ高速の押出を行った場合にもティアリングなどの表面欠陥の発生が避けられることとなる。
【0022】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。
実施例1、比較例1
表1に示す組成のアルミニウム合金を溶解し、通常のDC鋳造により直径150mm の押出用ビレットに鋳造した。このビレットを470 ℃の温度で8h均質化処理したのち、470 ℃から表2に示す条件で冷却、保持し、続いて押出温度350 ℃で直径20mmの棒材に押出加工を行い、ティアリングの発生しない限界押出速度(m/min)を測定した。結果を表3に示す。表2において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
表3に示されるように、本発明の条件に従う試験材では、いずれも限界押出速度3.0m/minを越える高い押出速度が得られたが、冷却保持条件eの試験材は均質化処理後保持なしで室温まで冷却したものであるため、Al−Zn−Mg−Cu系化合物の針状析出がなく押出性の改善は得られていない。条件fの試験材は保持温度が低過ぎ、条件gの試験材は保持温度が高過ぎ、また条件hの試験材は保持時間は短いため、いずれも合金元素が固溶した組織となり押出抵抗が大きく押出性がわるい。条件iの試験材は、冷却速度が遅いため高温側でのAl−Zn−Mg−Cu系金属間化合物の核生成が不十分となるとともに、保持中に押出工程で分解、再固溶し易いAl−Zn−Mg系化合物が析出するため、押出抵抗が大きい。条件jの試験材は、均質化処理後室温まで冷却、再加熱することにより析出処理を行うため、押出工程で分解、再固溶し易いAl−Zn−Mg系化合物が析出し、押出性改善効果が達成されない。
【0027】
実施例2、比較例2
実施例1および比較例1で鋳造した押出用ビレットを、実施例1、比較例1と同様、470 ℃で8h均質化処理したのち、470 ℃から前記表2に示す条件で冷却保持し、390 ℃の押出温度で直径20mmの丸棒材に押出加工を行い、ティアリングの発生しない限界押出速度(m/min) を測定した。結果を表4に示す。
【0028】
【表4】
【0029】
表4にみられるように、本発明の条件に従う試験材(冷却保持条件a〜d)では、いずれも3.0m/minを越える高い限界押出速度が得られたが、本発明の条件を外れる条件e〜jの試験材は、実施例1、比較例1で説明したように、いずれも押出抵抗が大きく押出性の改善が得られなかった。
【0030】
なお本発明の条件に従って作製された試験材(合金No. A、冷却保持条件a)から試料を採取して組織を観察したところ、図1に示すように、針状に析出したAl−Zn−Mg−Cu系金属間化合物の分布がみられた。これに対して、本発明の条件を外れる試験材(合金No. A、冷却保持条件i)から試料を採取して組織を観察したところ、図2に示すように、球状のAl−Zn−Mg系析出物の分散がみられた。また、Al−Zn−Mg−Cu系の針状析出物は押出加工された丸棒材にも観察されたが、Al−Zn−Mg系の球状析出物は押出加工中に再固溶され、押出材組織中には認められなかった。
【0031】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明によれば、従来押出加工が困難であった高強度Al−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金の押出性が大きく改善され、ティアリングなどの表面欠陥を生じることなしに高速押出が可能となるから、航空機、自動車などの分野で使用する高強度、薄肉部品の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の条件に従って製造された試験材の金属組織を示す顕微鏡写真である。
【図2】本発明の条件を外れた試験材の金属組織を示す顕微鏡写真である。
Claims (2)
- Zn:4.0〜8.0%(質量%、以下同じ)、Mg:1.0〜3.0%、Cu:1.0〜3.0%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金の押出用ビレットを均質化処理したのち、該ビレットを均質化処理温度から100℃/h以下の冷却速度で320〜420℃の温度範囲に冷却し、該温度範囲で1〜100h保持する析出処理を行い、続いて押出温度として熱間押出加工を行うことを特徴とする高強度アルミニウム合金押出材の製造方法。
- 前記アルミニウム合金が、Zn:4.0〜8.0%、Mg:1.0〜3.0%、Cu:1.0〜3.0%を含有し、さらにTi:0.05〜0.10%、Zr:0.05〜0.30%、Cr:0.05〜0.30%およびMn:0.05〜0.50%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなることを特徴とする請求項 1 記載の高強度アルミニウム合金押出材の製造方法。
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