JP3621842B2 - 車輌の運動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車輌の運動制御装置に係り、更に詳細には車輌の走行時の安定性を向上させる運動制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車輌の制動圧制御装置の一つとして、例えば特開平10−100884号公報には、制動圧制御装置の失陥を検出し、制動圧制御装置に失陥が生じているときには失陥の状況に応じて最適に各輪の制動圧を制御するよう構成された制動圧制御装置が記載されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記公報に記載された制動圧制御装置に於いては、制動圧制御装置に失陥が生じても各輪の制動圧の制御を継続することができるが、制動圧制御装置に失陥が生じた状況にて各輪の制動圧の制御を継続する場合に於ける車輌の挙動への影響については配慮されておらず、この点に関し改善の余地がある。このことは上記公報に記載された制動圧制御装置に限らず、各輪の制動力を制御して車輌の運動を制御する従来の制動力制御式の運動制御装置についても同様である。
【0004】
本発明は、失陥が生じた場合にも制御を継続するよう構成された従来の制動圧制御装置や運動制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、何れかの車輪の制動力を適正に制御できない失陥が生じた場合にはそのことを考慮して他の車輪の制動力を制御することにより、何れかの車輪に失陥が生じた状況に於いても各輪の制動力を適正に制御して車輌の運動を適正に且つ確実に制御することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち各輪の制動力を個別に制御可能な制動力調整手段と、車輌状態若しくは運転者の要求に応じて車輌の目標制御量として車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントを演算する手段と、前記車輌の目標前後力及び前記目標ヨーモーメントに基づき各輪の目標制動制御量を演算する目標制動制御量演算手段と、前記目標制動制御量に基づき前記制動力調整手段を制御する制御手段とを有する車輌の運動制御装置に於いて、各輪毎に前記制動力調整手段の失陥状態を検出する失陥状態検出手段を有し、前記目標制動制御量演算手段は失陥状態の車輪があるときには該失陥状態の車輪により発生されるタイヤ力を推定し、前記推定されたタイヤ力に基づき該推定されたタイヤ力による車輌の前後力及びヨーモーメントを推定し、前記車輌の目標前後力及び前記目標ヨーモーメントをそれぞれ前記推定された前後力及びヨーモーメントにて補正し、補正後の車輌の目標前後力及び目標モーメントに基づき各輪の目標制動制御量を演算することを特徴とする車輌の運動制御装置によって達成される。
【0006】
上記請求項1の構成によれば、各輪毎に制動力調整手段の失陥状態が検出され、失陥状態の車輪があるときには該失陥状態の車輪により発生されるタイヤ力が推定され、推定されたタイヤ力に基づき該推定されたタイヤ力による車輌の前後力及びヨーモーメントが推定され、車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントがそれぞれ推定された前後力及びヨーモーメントにて補正され、補正後の車輌の目標前後力及び目標モーメントに基づき各輪の目標制動制御量が演算されるので、何れかの車輪にその制動力を適正に制御することができない失陥が生じている場合にも、車輌状態若しくは運転者の要求に応じて演算される車輌の目標制御量としての車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントに基づく制御が効果的に達成され、これにより車輌の運動が適正に且つ確実に制御される。
【0007】
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記目標制動制御量演算手段は失陥状態の車輪があるときには該失陥状態の車輪により発生される車輌の前後力及びヨーモーメントを推定し、前記車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントよりそれぞれ推定された車輌の前後力及びヨーモーメントを減算し、減算後の車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントに基づき失陥状態の車輪以外の車輪の目標制動制御量を演算するよう構成される(請求項2の構成)。
【0008】
上記請求項2の構成によれば、失陥状態の車輪があるときには該該失陥状態の車輪により発生される車輌の前後力及びヨーモーメントが推定され、車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントよりそれぞれ推定された車輌の前後力及びヨーモーメントが減算され、減算後の車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントに基づき失陥状態の車輪以外の車輪の目標制動制御量が演算されるので、車輌状態若しくは運転者の要求に応じて演算される車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントに基づく制御が確実に達成される。
【0012】
【課題解決手段の好ましい態様】
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1又は2の構成に於いて、目標制動制御量は車輪の目標スリップ率であり、各輪の目標制動制御量を演算する手段は車輪のスリップ率の微少変化に対する車輌の前後力及びヨーモーメントの変化の微係数をタイヤモデルより算出する手段と、車輌の運動を安定化させるための車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントを車輌モデル若しくは運転者の要求に基づき算出する手段と、前記微係数と目標前後力及び目標ヨーモーメントとを用いて収束演算により前記目標前後力及び目標ヨーモーメントを実現する各輪の目標スリップ率を算出する手段とを有するよう構成される(好ましい態様1)。
【0013】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、各輪の目標スリップ率を算出する手段は車輌の前後力、横力、ヨーモーメントを車輌状態量として、「実際の車輌状態量とその目標値との偏差」と「微係数と目標スリップ率の変化量との積」との差、目標スリップ率の変化量、目標スリップ率とその変化量との和の二乗和からなる評価関数の値が最小になるよう各輪の目標スリップ率の変化量を収束演算により算出し、目標スリップ率の変化量にて前回算出された目標スリップ率を修正するよう構成される(好ましい態様2)。
【0014】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、タイヤモデルは制動時の横力の低下、荷重移動、タイヤスリップ角、路面の摩擦係数を考慮したタイヤモデルであるよう構成される(好ましい態様3)。
【0015】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様2の構成に於いて、全ての車輪のスリップ率が零であるときの横力が推定され、該横力が車輌状態量の目標値としての目標横力に設定されるよう構成される(好ましい態様4)。
【0016】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、目標ヨーモーメント及び後輪のスリップ角の符号が逆の関係であるときには、後輪の目標スリップ率が低減されるよう構成される(好ましい態様5)。
【0017】
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様1の構成に於いて、目標スリップ率の算出に使用されるタイヤモデルに於いて後輪のスリップ角が考慮され、該後輪のスリップ角に上限が設定されるよう構成される(好ましい態様6)。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は本発明による車輌の制動制御装置の一つの好ましい実施形態を示す概略構成図である。
【0020】
図1に於て、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌の駆動輪である左右の後輪を示している。従動輪であり操舵輪でもある左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の転舵に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン式のパワーステアリング装置16によりタイロッド18L 及び18R を介して操舵される。
【0021】
各車輪の制動力は制動装置20の油圧回路22によりホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RLの制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図には示されていないが、油圧回路22はリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル26の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ28により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く電気式制御装置30により制御される。
【0022】
車輪10FR〜10RLに近接した位置にはそれぞれ各車輪のホイールシリンダ24FR、24FL、24RR、24RL内の圧力Pwi(i=fr、fl、rr、rl)を検出する圧力センサ32FR、32FL、32RR、32RLが設けられ、ステアリングホイール14が連結されたステアリングコラムには操舵角δf を検出する操舵角センサ34が設けられている。
【0023】
また車輌12にはそれぞれ車輌のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ36、前後加速度Gx を検出する前後加速度センサ38、横加速度Gy を検出する横加速度センサ40、車速Vを検出する車速センサ42、ブレーキペダルに対する踏力に対応する状態量としてマスタシリンダ28内の圧力Pm を検出する圧力センサ44、それぞれ車輪10FR〜10RLの車輪速度Vwi(i=fr、fl、rr、rl)を検出する車輪速度センサ46FR〜46RLが設けられている。尚操舵角センサ34、ヨーレートセンサ36及び横加速度センサ40は車輌の左旋回方向を正としてそれぞれ操舵角、ヨーレート及び横加速度を検出する。
【0024】
図示の如く、圧力センサ32FR〜32RLにより検出されたホイールシリンダ内圧力Pwiを示す信号、操舵角センサ34により検出された操舵角δfを示す信号、ヨーレートセンサ36により検出されたヨーレートγを示す信号、前後加速度センサ38により検出された前後加速度Gx を示す信号、横加速度センサ40により検出された横加速度Gy を示す信号、車速センサ42により検出された車速Vを示す信号、圧力センサ44により検出されたマスタシリンダ圧力Pm を示す信号、車輪速度センサ46FR〜46RLにより検出された車輪速度Vwiを示す信号は電気式制御装置30に入力される。尚図には詳細に示されていないが、電気式制御装置30は例えばCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続された一般的な構成のマイクロコンピュータを含んでいる。
【0025】
電気式制御装置30は、後述の如く図2乃至図6に示されたフローチャートに従い、各輪のスリップ率Si が0であるときの車輌の前後力Fxso 、横力Fyso 、モーメントMsoと車輌の挙動を安定化させるための目標前後力Fxt及び目標モーメントMt との和として車輌の目標前後力Fxa、横力Fya、モーメントMa を演算し、各輪のスリップ率の微小な変化dSi に対する車輌の前後力、横力、モーメントの変化dFx 、dFy 、dMを示す微係数∂Fxi/∂Si 、∂Fyi/∂Si 、∂Mi /∂Si を演算する。
【0026】
また電気式制御装置30は、目標前後力Fxaと実際の前後力Fx との差、目標横力Fyaと実際の横力Fy との差、目標モーメントMa と実際のモーメントMとの差及び微係数∂Fxi/∂Si 、∂Fyi/∂Si 、∂Mi /∂Si に基づき収束演算により前後力の修正量δFx 、横力の修正量δFy 、モーメントの修正量δMを演算し、前後力、横力、モーメントの修正量を達成するための各輪のスリップ率の修正量δSi を演算し、前回演算された目標スリップ率をスリップ率修正量δSi にて修正することにより今回の目標スリップ率Saiを演算し、必要に応じて目標スリップ率Saiを補正する。
【0027】
また電気式制御装置30は、車輌が停車状態にあるときに例えば各輪のホイールシリンダ内圧力Pwiを所定量増圧させ減圧させる指令信号を油圧回路22へ出力し、その場合の各ホイールシリンダ内圧力Pwiの増減変化量を基準値と比較することにより、各輪の制動圧を適正に制御できない失陥が生じているか否かを判定し、失陥の状態や失陥している車輪の数に応じて図1には示されていない警報装置を作動させて運転者に失陥が生じている旨の警報を発する。
【0028】
更に電気式制御装置30は、何れかの車輪に失陥が生じているときには、当該車輪により発生されている制動力による車輌の前後力及びモーメントを推定し、車輌の目標前後力及び目標モーメントをそれぞれ前後力及びモーメントにて補正し、補正後の目標前後力及び目標モーメントを失陥していない車輪に配分することにより、これらの車輪の目標スリップ率Saiを演算し、これらの車輪のスリップ率が目標スリップ率Saiになるよう制動圧を制御する。
【0029】
次にこの実施形態に於ける目標スリップ率Saiを演算するための基本原理を四輪配分の場合、三輪配分の場合、二輪配分の場合について説明する。
【0030】
四輪配分の場合
まず制動時の横力の低下、荷重移動、タイヤスリップ角、路面の摩擦係数が考慮されるブラッシュタイヤモデルに基づき、各輪のタイヤが発生する前後力Ftxi 及び横力Ftyi (i=fr、fl、rr、rl)を求め、また微小なスリップ率の変化によるタイヤ前後力変化及び横力変化を求める。
【0031】
図9に示されている如く、各輪のタイヤ100の発生力Fti、即ち前後力Ftxi 及び横力Ftyi の合力がタイヤの縦方向に対しなす角度をθi とし、タイヤのスリップ角をβi とし、タイヤのスリップ率をSi (制動時が正、−∞<Si <1.0 )とし、路面の摩擦係数をμとし、タイヤの接地荷重をWi とし、Ks 及びKb を係数(正の定数)とすると、タイヤがロック状態にはない場合(ξi ≧0の場合)の前後力Ftxi 及び横力Ftyi はそれぞれ下記の式1及び2にて表され、タイヤがロック状態にある場合(ξi <0の場合)の前後力Ftxi 及び横力Ftyi はそれぞれ下記の式3及び4にて表される。
【0032】
【数1】
【0033】
尚係数Kb は図10に示されている如く、スリップ率Si が0であるときのタイヤのスリップ角βi に対する横力Ftyi のグラフの原点に於ける傾きであり、係数Ks は図11に示されている如く、スリップ角βi が0であるときのタイヤのスリップ率Si に対する前後力Ftxi のグラフの原点に於ける傾きである。また cosθ、 sinθ、λ、ξはそれぞれ下記の式5〜8にて表される。
【0034】
【数2】
【0035】
上記式1〜4をスリップ率Si にて偏微分することにより、微小なスリップ率の変化に対する前後力変化及び横力変化(タイヤ座標系)を演算する(下記の式9及び10)。
【0036】
【数3】
【0037】
次に下記の式11〜18に従って右前輪(fr)、左前輪(fl)、右後輪(rr)、左後輪(rl)の各タイヤの前後力及び横力(タイヤ座標系)を車輌座標系に変換して車輌の重心に作用する前後力Fxi及び横力Fyiを演算すると共に、モーメントMi を演算する。尚下記の各式に於いて、φf 及びφr はそれぞれ前輪及び後輪の舵角であり、Tr は車輌のトレッド幅であり、Lf 及びLr はそれぞれ車輌の重心から前輪車軸及び後輪車軸までの距離であり、T(φf )及びT(φr )はそれぞれ下記の式19及び20にて表される値である。
【0038】
【数4】
【0039】
【数5】
【0040】
【数6】
【0041】
【数7】
【0042】
【数8】
【0043】
同様に、下記の式21〜28に従って右前輪(fr)、左前輪(fl)、右後輪(rr)、左後輪(rl)の各タイヤの前後力及び横力の偏微分値(タイヤ座標系)を車輌座標系に変換して車輌に作用する前後力及び横力の偏微分値(微係数)を演算すると共に、モーメントの偏微分値(微係数)を演算する。
【0044】
【数9】
【0045】
【数10】
【0046】
【数11】
【0047】
【数12】
【0048】
次に各輪のスリップ率が目標スリップ率Si であるときに発生する車輌の前後力Fx 、横力Fy 、モーメントMをそれぞれ各輪による前後力Fxi、横力Fyi、モーメントMi の和として下記の式29に従って推定演算する。
【0049】
【数13】
【0050】
次に下記の(A)及び(B)の考え方に基づき、下記の式30及び31に従って目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を演算する。尚下記の式30の右辺はスリップ率が0であるときに各輪により発生される前後力、横力、モーメントを表している。
【0051】
(A)車輌の運動制御により車輌の挙動を安定化させるための目標前後力Fxt及び目標モーメントMt は運動制御していないとき(スリップ率Si が0であるとき)に発生する前後力Fxso 及びモーメントMsoに対する上乗せ量であると見なす。
【0052】
(B)運動制御していないときの横力Fyso を目標横力Fyaとすることにより、運動制御時の横力の低下を極力減らす。
【0053】
【数14】
【0054】
被制御4輪のスリップ率の微小な変化dSi による車体に作用する前後力の変化dFx 、横力の変化dFy 、モーメントの変化dMは下記の式32により表される。尚下記の式32に於いて、dSfr、dSfl、dSrr、dSrlはそれぞれ右前輪、左前輪、右後輪、左後輪のスリップ率の微小変化量であり、Jはヤコビ行列である。
【0055】
【数15】
【0056】
次に目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を実現するスリップ率Si を演算する。ただしこのスリップ率を解析的に解くことは困難であるため、以下の収束演算により求める。
【0057】
いま現在の前後力、横力、モーメントと目標前後力、目標横力、目標モーメントとの差をΔとすると、Δは下記の式33により表され、このΔを0にするスリップ率修正量のうち、Tをトランスポートとして下記の式34にて表される評価関数Lを最小化するスリップ率修正量δSを求める。
【0058】
【数16】
【0059】
L=δSTWdsδS+(S+δS)TWs (S+δS)+ETWf E……(34)
【0060】
尚上記式34の右辺第1項は目標スリップ率のスリップ率修正量δSを制限するための項であり、第2項は目標スリップ率を制限するための項であり、第3項は前後力、横力、モーメントがそれぞれ目標前後力、目標横力、目標モーメントに追従することを保証するための項である。
【0061】
式34の評価関数Lを最小化するスリップ率修正量δSは下記の式35の通りである。ただしFx 、Fy 、Mはそれぞれ現在の被制御輪のスリップ率で発生している前後力、横力、モーメント(式29)であり、Fxa、Fya、Ma はそれぞれ目標前後力、目標横力、目標モーメント(式31)であり、S及びδSはそれぞれ各輪のスリップ率(下記の式36)及びスリップ率修正量(下記の式37)であり、EはΔとδSによる前後力、横力、モーメントの修正量との差(下記の式38)であり、Wdsはスリップ率修正量δSに対する重み(下記の式39)であり、Ws はスリップ率Sに対する重み(下記の式40)であり、Wf は各力に対する重み(下記の式41)であり、各重みは0又は正の値である。
【0062】
δS=(Wds+Ws +JTWf J)−1(−Ws S+JTWf Δ)……(35)
【0063】
【数17】
【0064】
【数18】
【0065】
【数19】
【0066】
【数20】
【0067】
【数21】
【0068】
【数22】
【0069】
従って前回の目標スリップ率Saiをスリップ率修正量δSi にて修正することにより、目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を達成する四輪の目標スリップ率Saiを演算することができる。
【0070】
三輪配分の場合
例えば左右前輪の一方が失陥した状況に於いて、他の正常な三輪(被制御三輪)のスリップ率が目標スリップ率である場合及びスリップ率が0である場合に被制御三輪により発生される車輌の前後力、横力、モーメントはそれぞれ下記の式42及び43により表される。尚下記の式42及び43の右辺第1項は正常な前輪により発生される車輌の前後力、横力、モーメントである。
【0071】
【数23】
【0072】
次に下記の(C)及び(D)の考え方に基づき、下記の式44に従って目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を演算する。
【0073】
(C)被制御三輪が発生すべき車輌の前後力及びモーメントは、それぞれ車輌の運動制御により車輌の挙動を安定化させるための目標前後力Fxt及び目標モーメントMt より失陥した車輪により発生される車輌の前後力Fxrem及びモーメントMrem を減算した値(Fxt−Fxrem、Mt −Mrem )と、運動制御していないとき(スリップ率Si が0であるとき)に発生する前後力Fxso 及びモーメントMsoとの和であると見なす。
【0074】
(D)運動制御していないときの横力Fyso を目標横力Fyaとすることにより、運動制御時の横力の低下を極力減らす。
【0075】
【数24】
【0076】
この場合、現在よりto時間内の失陥した車輪の制動圧の積分値をIpwiとし、制動圧より制動力に変換する負の係数をKp とすると、失陥した車輪により発生される車輌の前後力Fxrem(加速方向が正)は下記の式45により表される。
【0077】
Fxrem=KpIpwi/to ……(45)
【0078】
また失陥した車輪により発生される車輌のモーメントMrem (反時計廻り方向が正)は、失陥した車輪が左輪であるときには下記の式46により表され、失陥した車輪が右輪であるときには下記の式47により表される。
【0079】
Mrem =FxremTr /2 ……(46)
Mrem =−FxremTr /2 ……(47)
【0080】
被制御三輪のスリップ率の微小な変化dSi による車体に作用する前後力の変化dFx 、横力の変化dFy 、モーメントの変化dMは下記の式48により表される。尚下記の式48に於いて、dSf 、dSrr、dSrlはそれぞれ失陥した車輪でない前輪、右後輪、左後輪のスリップ率の微小変化量であり、Jはヤコビ行列である。
【0081】
【数25】
【0082】
次に目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を実現するスリップ率Si を演算する。ただしこのスリップ率を解析的に解くことは困難であるため、以下の収束演算により求める。
【0083】
いま現在の前後力、横力、モーメントと目標前後力、目標横力、目標モーメントとの差をΔとすると、Δは上記式33により表され、このΔを0にするスリップ率修正量のうち、Tをトランスポートとして上記式34にて表される評価関数Lを最小化するスリップ率修正量δSを求める。
【0084】
式34の評価関数Lを最小化するスリップ率修正量δSは上記式35の通りである。ただしFx 、Fy 、Mはそれぞれ現在の被制御輪のスリップ率で発生している前後力、横力、モーメント(上記式29)であり、Fxa、Fya、Ma はそれぞれ目標前後力、目標横力、目標モーメント(上記式31)であり、正常な前輪のスリップ率及びスリップ率修正量をそれぞれSf 、δSf として、S及びδSはそれぞれ各輪のスリップ率(下記の式49)及びスリップ率修正量(下記の式50)であり、EはΔとδSによる前後力、横力、モーメントの修正量との差(上記式38)であり、Wdsはスリップ率修正量δSに対する重み(下記の式51、Wdsf はδSf に対する重み)であり、Ws はスリップ率Sに対する重み(下記の式52、WsfはSf に対する重み)であり、Wf は各力に対する重み(上記式41)であり、各重みは0又は正の値である。
【0085】
【数26】
【0086】
【数27】
【0087】
【数28】
【0088】
【数29】
【0089】
従って前回の目標スリップ率Saiをスリップ率修正量δSi にて修正することにより、目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を達成する被制御三輪の目標スリップ率Saiを演算することができる。
【0090】
尚左右後輪の一方が失陥した場合にも上述の要領と同様の要領にて目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を達成する被制御三輪の目標スリップ率Saiを演算することができる。
【0091】
二輪配分の場合
例えば左右前輪の一方及び左右後輪の一方が失陥した状況に於いて、他の正常な二輪(被制御二輪)のスリップ率が目標スリップ率である場合及びスリップ率が0である場合に被制御二輪により発生される車輌の前後力、横力、モーメントはそれぞれ下記の式53及び54により表される。尚下記の式53及び54の右辺第1項は正常な前輪により発生される車輌の前後力、横力、モーメントであり、第2項は正常な後輪により発生される車輌の前後力、横力、モーメントである。
【0092】
【数30】
【0093】
次に下記の(E)及び(F)の考え方に基づき、下記の式55に従って目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を演算する。
【0094】
(E)被制御二輪が発生すべき車輌の前後力及びモーメントは、それぞれ車輌の運動制御により車輌の挙動を安定化させるための目標前後力Fxt及び目標モーメントMt より失陥した車輪により発生される車輌の前後力Fxrem及びモーメントMrem を減算した値(Fxt−Fxrem、Mt −Mrem )と、運動制御していないとき(スリップ率Si が0であるとき)に発生する前後力Fxso 及びモーメントMsoとの和であると見なす。
【0095】
(F)運動制御していないときの横力Fyso を目標横力Fyaとすることにより、運動制御時の横力の低下を極力減らす。
【0096】
【数31】
【0097】
この場合、現在よりto時間内の失陥した車輪の制動圧の積分値をIpwiとし、制動圧より制動力に変換する負の係数をKpiとすると、各失陥した車輪により発生される車輌の前後力Fxremi (加速方向が正)は下記の式56により表され、二つの失陥した車輪により発生される車輌の前後力Fxrem(加速方向が正)は下記の式57(Σは失陥した車輪についての和を意味する)により表される。
【0098】
Fxremi =KpiIpwi/to ……(56)
Fxrem=ΣFxremi ……(57)
【0099】
また各失陥した車輪により発生される車輌のモーメントMremi(反時計廻り方向が正)は、失陥した車輪が左輪であるときには下記の式58により表され、失陥した車輪が右輪であるときには下記の式59により表され、二つの失陥した車輪により発生される車輌のモーメントMrem (反時計廻り方向が正)は下記の式60(Σは失陥した車輪についての和を意味する)により表される。
【0100】
Mremi=Fxremi Tr /2 ……(58)
Mremi=−Fxremi Tr /2 ……(59)
Mrem =ΣMremi ……(60)
【0101】
被制御三輪のスリップ率の微小な変化dSi による車体に作用する前後力の変化dFx 、横力の変化dFy 、モーメントの変化dMは下記の式61により表される。尚下記の式61に於いて、dSf 及びdSr はそれぞれ正常な前輪及び後輪のスリップ率の微小変化量であり、Jはヤコビ行列である。
【0102】
【数32】
【0103】
次に目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を実現するスリップ率Si を演算する。ただしこのスリップ率を解析的に解くことは困難であるため、以下の収束演算により求める。
【0104】
いま現在の前後力、横力、モーメントと目標前後力、目標横力、目標モーメントとの差をΔとすると、Δは上記式33により表され、このΔを0にするスリップ率修正量のうち、Tをトランスポートとして上記式34にて表される評価関数Lを最小化するスリップ率修正量δSを求める。
【0105】
式34の評価関数Lを最小化するスリップ率修正量δSは上記式35の通りである。ただしFx 、Fy 、Mはそれぞれ現在の被制御輪のスリップ率で発生している前後力、横力、モーメント(上記式29)であり、Fxa、Fya、Ma はそれぞれ目標前後力、目標横力、目標モーメント(上記式31)であり、正常な前輪のスリップ率及びスリップ率修正量をそれぞれSf 、δSf とし、正常な後輪のスリップ率及びスリップ率修正量をそれぞれSr 、δSr として、S及びδSはそれぞれ各輪のスリップ率(下記の式62)及びスリップ率修正量(下記の式63)であり、EはΔとδSによる前後力、横力、モーメントの修正量との差(上記式38)であり、Wdsはスリップ率修正量δSに対する重み(下記の式64、Wdsf 及びWdsr はそれぞれδSf 及びδSr に対する重み)であり、Ws はスリップ率Sに対する重み(下記の式65、Wsf及びWsrはそれぞれはSf 及びSr に対する重み)であり、Wf は各力に対する重み(上記式41)であり、各重みは0又は正の値である。
【0106】
【数33】
【0107】
【数34】
【0108】
【数35】
【0109】
【数36】
【0110】
従って前回の目標スリップ率Saiをスリップ率修正量δSi にて修正することにより、目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を達成する被制御二輪の目標スリップ率Saiを演算することができる。
【0111】
尚左右前輪又は左右後輪が失陥した場合にも上述の要領と同様の要領にて目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を達成する被制御二輪の目標スリップ率Saiを演算することができ、更には三輪が失陥した場合にも上述の要領と同様の要領にて目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を達成するに適した被制御一輪の目標スリップ率Saiを演算することができる。
【0112】
次に図2乃至図7に示されたフローチャートを参照して図示の図示の実施形態に於ける車輌の運動制御について説明する。尚図2に示されたゼネラルフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
【0113】
まずステップ10に於いては車輪速度Vwi等を示す信号の読み込みが行われる。尚制御の開始時にはステップ10に先立ち各輪の目標スリップ率Saiがそれぞれ初期値として0に設定される。
【0114】
ステップ15に於いては全ての車輪が正常な状態にあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ100へ進み、否定判別が行われたときにはステップ20へ進む。
【0115】
ステップ20に於いては何れかの一輪についてのみ失陥が生じているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ600へ進み、否定判別が行われたときにはステップ25へ進む。
【0116】
ステップ25に於いては何れかの二輪についてのみ失陥が生じているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ700へ進み、否定判別が行われたときにはステップ30へ進む。
【0117】
ステップ30に於いては三輪について失陥が生じているか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ800へ進み、否定判別が行われたときにはステップ900へ進む。
【0118】
ステップ100、600、700に於いては図3乃至図7に示されたフローチャートに従って後述の如くそれぞれ四輪での制動力配分の演算、三輪での制動力配分の演算、二輪での制動力配分の演算が行われ、ステップ800に於いては一輪での制動力配分の演算が行われ、これにより各被制御輪の目標スリップ率Saiが演算される。
【0119】
またステップ600及び700に於いては、図1には示されていないエンジン制御装置に対しエンジンの出力を車輌の安全走行を確保するに必要な出力に制限する指令信号が出力され、ステップ800に於いてはエンジン制御装置に対しエンジンの出力を例えば車輌が修理工場まで走行するに必要な出力に制限する指令信号が出力される。
【0120】
ステップ900に於いては各輪のスリップ率Si が目標スリップ率Sai になるよう各輪の制動圧が車輪速度フィードバックにて制御され、しかる後ステップ10へ戻る。尚ステップ30に於いて否定判別が行われたときには車輌が安全且つ確実に停止するようエンジン制御装置に対しエンジンの出力を漸次低下させる指令信号が出力される。
【0121】
次に図3に示されたフローチャートを参照して四輪での制動力配分演算ルーチンについて説明する。
【0122】
まずステップ150に於いては図4に示されたルーチンに従って後輪のスリップ角βr が演算される。
【0123】
ステップ200に於いては図5に示されたルーチンに従って前回のステップ500に於いて演算された目標スリップ率での車輌の前後力Fx 、横力Fy 、モーメントM、即ち現在の前後力、横力、モーメントが演算され、ステップ250に於いては図6に示されたルーチンに従って車輌の目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa が演算される。
【0124】
ステップ300に於いては上記式9及び10に従って微小なスリップ率の変化に対する各輪の前後力の変化及び横力の変化が演算されると共に、上記式21〜28及び式32に従って車輌の前後力の微係数∂Fxi/∂Si 、横力の微係数∂Fyi/∂Si 、モーメントの微係数∂Mi /∂Si が演算される。
【0125】
ステップ350に於いては上記式33に従ってそれぞれ前後力、横力、モーメントの目標値Fxa、Fya、Ma と実際の値Fx 、Fy 、Mとの偏差として車輌の前後力の修正量δFx 、横力の修正量δFy 、モーメントの修正量δMが演算される。
【0126】
ステップ400に於いては現在の車輌の前後力、横力、モーメントと目標前後力、目標横力、目標モーメントとの差Δを0にするスリップ率修正量のうち、上記式34にて表される評価関数Lを最小化する各輪のスリップ率の修正量δSi が上記式35に従って演算される。
【0127】
ステップ450に於いては前回の目標スリップ率Saiとステップ400に於いて演算されたスリップ率の修正量δSaiとの和(Sai+δSi )として修正後の各輪の目標スリップ率Saiが演算される。
【0128】
ステップ500に於いては図7に示されたルーチンに従って各輪の目標スリップ率Saiが必要に応じて補正される。
【0129】
図4に示された後輪のスリップ角βr 演算ルーチンのステップ155に於いては、横加速度Gy と車速V及びヨーレートγの積Vγとの偏差Gy −Vγとして横加速度の偏差、即ち車輌の横すべり加速度Vydが演算され、横すべり加速度Vydが積分されることにより車体の横すべり速度Vy が演算され、車体の前後速度Vx (=車速V)に対する車体の横すべり速度Vy の比Vy /Vx として車体のスリップ角βが演算される。
【0130】
ステップ160に於いてはLr を車輌の重心と後輪車軸との間の車輌前後方向の距離として下記の式66に従って後輪のスリップ角βr が演算される。尚後輪のスリップ角βr は後輪のころがり方向に対し後輪のすべり方向が反時計廻り方向にある場合が正である。
【0131】
βr =β−Lr γ/V ……(66)
【0132】
ステップ165に於いては基準値βrcを正の定数として後輪のスリップ角βr が基準値βrcを越えているか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ175へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ170に於いて後輪のスリップ角βr が基準値βrcに設定される。
【0133】
同様にステップ175に於いては後輪のスリップ角βr が−βrc未満であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはそのままステップ200へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ180に於いて後輪のスリップ角βr が−βrcに設定され、しかる後ステップ200へ進む。
【0134】
図5に示された目標スリップ率での車輌の前後力Fx 、横力Fy 、モーメントM演算ルーチンのステップ205に於いては、操舵角φに基づき前輪の実舵角φf が演算されると共に、Lf を車輌の重心と前輪車軸との間の車輌前後方向の距離として下記の式67に従って前輪のスリップ角βf が演算される。尚前輪のスリップ角βf も後輪のころがり方向に対し後輪のすべり方向が反時計廻り方向にある場合が正である。
【0135】
βf =−φf +β+Lf γ/V ……(67)
【0136】
ステップ210に於いてはgを重力加速度として車体の前後加速度Gx 及び横加速度Gy に基づき下記の式68に従ってタイヤに対する路面の摩擦係数μが推定演算される。
【0137】
μ=(Gx2+Gy2)1/2/g ……(68)
【0138】
ステップ215に於いては車体の前後加速度Gx 及び横加速度Gy に基づき当技術分野に於いて周知の要領にて各輪の荷重移動量ΔWi が演算されると共に、各輪の支持荷重Wi が各輪の静荷重Wsiと荷重移動量ΔWi との和(Wsi+ΔWi )として演算される。
【0139】
ステップ220に於いては各輪のグリップ状態の判定値ξi が上記式8に従って演算され、ステップ225に於いては判定値ξi が正又は0であるか否かの判別、即ち車輪がグリップ状態にあるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはそれぞれ上記式1及び2に従って各輪の前後力Ftxi 及び横力Ftyi が演算され、否定判別が行われたときにはステップ235に於いてそれぞれ上記式3及び4に従って各輪の前後力Ftxi 及び横力Ftyi が演算される。尚ステップ225〜235は各輪毎に実行される。
【0140】
ステップ240に於いては車輌の前後力Fx 、横力Fy 、モーメントMに対する各輪の成分が上記式11〜20に従って演算され、ステップ245に於いては上記式29に従って車輌の実際の前後力Fx 、実際の横力Fy 、実際のモーメントMが演算され、しかる後ステップ250へ進む。
【0141】
図6に示された車輌の目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa 演算ルーチンのステップ255に於いては、Kh をスタビリティファクタとしHをホイールベースとして下記の式69に従って目標ヨーレートγc が演算されると共に、Tを時定数としsをラプラス演算子として下記の式70に従って基準ヨーレートγt が演算される。尚目標ヨーレートγc は動的なヨーレートを考慮すべく車輌の横加速度Gy を加味して演算されてもよい。
【0142】
γc =Vφ/(1+Kh V2)H ……(69)
γt =γc /(1+Ts) ……(70)
【0143】
ステップ260に於いては下記の式71に従ってドリフトアウト量DVが演算される。尚ドリフトアウト量DVはHをホイールベースとして下記の式72に従って演算されてもよい。
【0144】
DV=(γt −γ) ……(71)
DV=H(γt −γ)/V ……(72)
【0145】
ステップ265に於いてはヨーレートγの符号に基づき車輌の旋回方向が判定され、ドリフトアウト状態量DSが車輌が左旋回のときにはDVとして、車輌が右旋回のときには−DVとして演算され、演算結果が負の値のときにはドリフトアウト状態量は0とされる。
【0146】
ステップ270に於いてはドリフトアウト状態量DSに基き図7に示されたグラフに対応するマップより係数Kg が演算され、ステップ275に於いてはKm1及びKm2をそれぞれ正の定数とし、βd を車輌のスリップ角βの微分値とし、βt 及びβtdをそれぞれ車輌の目標スリップ角及び目標スリップ角の微分値として下記の式73に従って挙動制御の目標モーメントMt が演算される。尚目標スリップ角βt 及び目標スリップ角の微分値βtdは何れも0であってもよい。
【0147】
Mt =Km1(β−βt )+Km2(βd −βtd) ……(73)
【0148】
ステップ280に於いては下記の式74に従って係数Kg と車輌の質量Mass と重力加速度gとの積として挙動制御の目標前後力Fxtが演算される。
【0149】
Fxt=−Kg Mass g ……(74)
【0150】
ステップ285に於いては各輪のスリップ率Si が0であるときの車輌の前後力Fxso 、横力Fyso 、モーメントMsoが上記式30に従って演算され、ステップ290に於いては車輌の目標前後力Fxa、横力Fya、モーメントMa が上記式31に従って演算され、しかる後ステップ300へ進む。
【0151】
図7に示された目標スリップ率補正演算ルーチンのステップ505に於いては、目標モーメントMa が負であり且つ後輪のスリップ角βr が正であり且つ車輌のヨーレートγが正であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ510へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ515に於いて後輪の目標スリップ率Srr及びSrlがそれぞれ0に設定され、しかる後ステップ550へ進む。
【0152】
ステップ510に於いては目標モーメントMa が正であり且つ後輪のスリップ角βr が負であり且つ車輌のヨーレートγが負であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ515へ進み、否定判別が行われたときにはそのままステップ550へ進む。
【0153】
尚ステップ600、700、800に於いては、それぞれ上述の三輪配分の場合、二輪配分の場合、一輪配分の配分の場合について説明した要領に従って図3乃至図7に示されたフローチャートに修正を加えて制動力の配分演算が行われことにより、正常な各被制御輪の目標スリップ率Saiが演算される。
【0154】
かくして図示の実施形態によれば、ステップ150に於いて後輪のスリップ角βr が演算され、ステップ200に於いて現在の車輌の前後力Fx 、横力Fy 、モーメントMが演算され、ステップ250に於いて各輪のスリップ率Si が0であるときの車輌の前後力Fxso 、横力Fyso 、モーメントMsoと車輌の挙動を安定化させるための目標前後力Fxt及び目標モーメントMt との和として車輌の目標前後力Fxa、横力Fya、モーメントMa が演算され、ステップ300に於いて各輪のスリップ率の微小な変化dSi に対する車輌の前後力、横力、モーメントの変化dFx 、dFy 、dMを示す微係数∂Fxi/∂Si 、∂Fyi/∂Si 、∂Mi /∂Siが演算される。
【0155】
またステップ350に於いて目標前後力Fxaと実際の前後力Fx との差、目標横力Fyaと実際の横力Fy との差、目標モーメントMa と実際のモーメントMとの差及び微係数∂Fxi/∂Si 、∂Fyi/∂Si 、∂Mi /∂Siに基づき収束演算により前後力の修正量δFx 、横力の修正量δFy 、モーメントの修正量δMが演算され、ステップ400に於いて前後力、横力、モーメントの修正量を達成するための各輪のスリップ率の修正量δSi が演算され、ステップ450に於いて前回演算された目標スリップ率がスリップ率修正量δSi にて修正されることにより今回の目標スリップ率Saiが演算され、ステップ500に於いて必要に応じて各輪の目標スリップ率Saiが補正される。
【0156】
従って図示の実施形態によれば、車輌の前後力Fx が目標前後力Fxaになり、横力Fy が目標横力Fyaになり、モーメントMが目標モーメントMa になるよう各輪のスリップ率が制御されるので、車輌の運動、特に旋回時の挙動を確実に安定化させることができる。
【0157】
また図示の実施形態によれば、各輪のスリップ率修正量δSi は現在の車輌の前後力、横力、モーメントと目標前後力、目標横力、目標モーメントとの差Δを0にするスリップ率修正量のうち、上記式34にて表される評価関数Lを最小化する各輪のスリップ率の修正量として上記式35に従って演算されるので、車輌や車輌の走行環境毎に各輪のスリップ率と車輌の運動を安定化させるための前後力、横力、モーメントとの間の対応関係を示す多数のマップを設定する必要がなく、これにより運動制御装置を簡便に構成することができ、また目標前後力、目標横力、目標モーメントを実現する各輪のスリップ率Si が解析により演算される場合に比して迅速に目標スリップ率を演算することができ、これにより車輌の運動を応答遅れなく適切に制御することができる。
【0158】
特に図示の実施形態によれば、何れかの車輪が失陥しているときには(ステップ15〜30)、その失陥している車輪の制動力により発生される車輌の前後力Fxrem及びモーメントMrem が推定され、車輌の目標前後力Fxa及びモーメントMa よりそれぞれ推定された前後力Fxrem及びモーメントMrem が減算され、減算補正後の車輌の目標前後力Fxa、横力Fya、モーメントMa を達成するための目標スリップ率Saiが正常な車輪に配分されることによって演算される(ステップ600〜800)。
【0159】
従って図示の実施形態によれば、何れかの車輪が失陥しているときにも車輌の目標前後力Fxa、横力Fya、モーメントMa を確実に達成することができるので、何れかの車輪が失陥している状況に於いても車輌の運動を適正に且つ確実に制御することができ、また失陥した車輪が制動力発生状態にあるときにはその車輪の制動力を有効に利用することができる。
【0160】
尚三輪が失陥しているときには、残る一つの正常な車輪について必ずしも車輌の目標前後力Fxa、横力Fya、モーメントMa を確実に達成する最適の目標スリップ率を演算することができないが、この場合にも最適の目標スリップ率に近い目標スリップ率Saiが演算されるので、車輌の運動をできるだけ適正に制御することができる。
【0161】
以上に於いては本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【0162】
例えば上述の実施形態に於いては、車輌が停車状態にあるときに何れかの車輪に失陥が生じたか否かが判定されるようになっているが、失陥の判定は当技術分野に於いて公知の任意の態様にて行われてよく、例えば車輌の走行中にも判定されてよい。
【0163】
また上述の実施形態に於いては、各輪の目標制動制御量は車輪の目標スリップ率であるが、目標制動制御量は車輪の目標前後力に設定され、目標制動制御量を演算する手段は失陥している車輪があるときには該車輪により発生される前後力及びヨーモーメントを推定し、車輌の目標前後力及び前記目標ヨーモーメントよりそれぞれ推定された前後力及びヨーモーメントを減算し、減算後の目標前後力及び目標ヨーモーメントに基づき失陥している車輪以外の車輪の目標前後力を演算するよう修正されてもよい。
【0164】
また上述の実施形態に於いては、ステップ25に於いて否定判別が行われたときにはステップ30が実行されるようになっているが、ステップ25に於いて否定判別が行われたときにはステップ30が実行されることなくエンジン制御装置に対しエンジンの出力を例えば車輌が修理工場まで走行するに必要な出力に制限する指令信号が出力されるよう修正されてもよい。
【0165】
また上述の実施形態に於いては、ブラッシュタイヤモデルに基づき車輌の目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa が演算され、目標前後力Fxa、目標横力Fya、目標モーメントMa を達成する車輪の目標スリップ率saiが演算されるようになっているが、目標横力Fyaは省略されてもよく、また各目標制御量はタイヤモデルを使用することなく演算されてもよい。
【0166】
【発明の効果】
以上の説明より明らかである如く、本発明の請求項1の構成によれば、何れかの車輪にその制動力を適正に制御することができない失陥が生じている場合にも、車輌状態若しくは運転者の要求に応じて演算される車輌の目標制御量に基づく制御を効果的に達成し、これにより車輌の運動を適正に且つ確実に制御することができ、特に請求項2の構成によれば、失陥状態の車輪があるときには該失陥状態の車輪以外の車輪について目標制御量に基づく制御を達成するための目標制動制御量が演算されるので、車輌状態若しくは運転者の要求に応じて演算される車輌の目標制御量に基づく制御を確実に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による車輌の運動制御装置の一つの好ましい実施形態を示す概略構成図である。
【図2】図1に示された実施形態に於ける運動制御ルーチンを示すゼネラルフローチャートである。
【図3】図2に示されたフローチャートのステップ100に於ける四輪での制動力配分演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図4】図3に示されたフローチャートのステップ150に於ける後輪スリップ角βr 演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図5】図3に示されたフローチャートのステップ200に於ける実際の前後力Fx 、横力Fy 、モーメントM演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図6】図3に示されたフローチャートのステップ250に於ける目標前後力Fxa、横力Fya、モーメントMa 演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】図3に示されたフローチャートのステップ500に於ける目標スリップ率Si 演算ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】ドリフトアウト状態量DVと係数Kg との間の関係を示すグラフである。
【図9】タイヤの発生力Ftiがタイヤの横方向に対しなす角度θi 等を示す説明図である。
【図10】スリップ率が0であるときのタイヤのスリップ角βi に対する横力Ftyi の関係を示すグラフである。
【図11】スリップ角βi が0であるときのタイヤのスリップ率Si に対する前後力Ftxi の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10FR〜10RL…車輪
20…制動装置
28…マスタシリンダ
30…電気式制御装置
32FR〜32RL…圧力センサ
34……操舵角センサ
36…ヨーレートセンサ
38…前後加速度センサ
40…横加速度センサ
42…車速センサ
44…圧力センサ
46FR〜46RL…車輪速度センサ
Claims (2)
- 各輪の制動力を個別に制御可能な制動力調整手段と、車輌状態若しくは運転者の要求に応じて車輌の目標制御量として車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントを演算する手段と、前記車輌の目標前後力及び前記目標ヨーモーメントに基づき各輪の目標制動制御量を演算する目標制動制御量演算手段と、前記目標制動制御量に基づき前記制動力調整手段を制御する制御手段とを有する車輌の運動制御装置に於いて、各輪毎に前記制動力調整手段の失陥状態を検出する失陥状態検出手段を有し、前記目標制動制御量演算手段は失陥状態の車輪があるときには該失陥状態の車輪により発生されるタイヤ力を推定し、前記推定されたタイヤ力に基づき該推定されたタイヤ力による車輌の前後力及びヨーモーメントを推定し、前記車輌の目標前後力及び前記目標ヨーモーメントをそれぞれ前記推定された前後力及びヨーモーメントにて補正し、補正後の車輌の目標前後力及び目標モーメントに基づき各輪の目標制動制御量を演算することを特徴とする車輌の運動制御装置。
- 前記目標制動制御量演算手段は失陥状態の車輪があるときには該失陥状態の車輪により発生される車輌の前後力及びヨーモーメントを推定し、前記車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントよりそれぞれ推定された車輌の前後力及びヨーモーメントを減算し、減算後の車輌の目標前後力及び目標ヨーモーメントに基づき失陥状態の車輪以外の車輪の目標制動制御量を演算することを特徴とする請求項1に記載の車輌の運動制御装置。
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JP02406299A JP3621842B2 (ja) | 1999-02-01 | 1999-02-01 | 車輌の運動制御装置 |
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