JP3612974B2 - 結晶育成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、CZ法(チョクラルスキー法)により単結晶を育成する結晶育成方法に関し、更に詳しくは、OSFリングが育成結晶の最外周部より内側に生じるか若しくは結晶中心部で消滅する低速引き上げ条件で結晶育成を行う結晶育成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体デバイスの素材として使用されるシリコンウエーハは、主にCZ法により育成されたシリコン単結晶から採取される。CZ法とは、周知の如く、石英坩堝内に生成されたシリコンの原料融液に種結晶を漬け、種結晶及び石英坩堝を逆方向に回転させながら種結晶を引き上げることにより、その下にシリコンの単結晶を育成する方法である。
【0003】
このようなCZ法による育成プロセスを経て製造されたシリコンウエーハは、熱酸化処理を受けたときに、OSFリングと呼ばれるリング状の酸化誘起積層欠陥を生じることが知られている。OSFリングはそれ自体が半導体素子の特性を劣化させる原因になるだけでなく、リングの外側と内側では物性が異なり、OSFリングの外側には格子間原子の凝集が原因とされる転位クラスタが発生するが、OSFリングの内側は比較的健全とされている。一方、このOSFリングについては、引き上げ速度が速くなるに連れて単結晶の外周側へ移動することが知られている。
【0004】
このような事情から、これまでは、OSFリングが、デバイス形成の際の有効部から除外される結晶最外周部に分布するような高速引き上げ条件で単結晶の育成を行っており、生産性の点からもこの高速引き上げは好ましいものである。
【0005】
しかし、OSFリングの内側にも問題がないわけではない。この部分には空孔の凝集が原因とされる空孔クラスタが発生している。この欠陥は、ウエーハの表面をエッチングすると小さなピットとなって現れるが、非常に小さなため、これまでは特に問題視されることはなかった。しかし、近年の著しい集積度の増大に伴ってパターン幅が非常に微細化したため、高グレードのウエーハではこの空孔クラスタさえも問題になり始めた。
【0006】
この空孔クラスタは、ウエーハ上にシリコン単結晶の薄膜を成長させた所謂エピタキシャルウエーハには殆ど発生しないが、このウエーハは非常に高価であるため、CZ法による単結晶の引き上げで空孔クラスタの少ない結晶を育成することが要求されるようになり、この観点から、高グレードの結晶育成では、これまでとは逆に引き上げ速度を遅くし、OSFリングを引き上げ結晶の最外周部より内側に発生させて欠陥部分を中心部に集中させるか、若しくは中心部で消滅させて空孔クラスタ個数の低減を図る低速引き上げ法が考えられている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この低速引き上げでは、高速引き上げに比べて生産性が著しく低下するという問題がある。また、引き上げ速度を遅くすることにより、引き上げ時間が長くなるため、有転位化を生じる危険性が大きくなり、この有転位化による歩留りの低下も問題になる。
【0008】
従って、この低速引き上げによる育成工程を経て製造されるシリコンウエーハは、高速引き上げによるものに比べて高価となる。
【0009】
ちなみに、OSFリングを結晶半径方向の1/2位置に発生させる場合は、最大引き上げ速度の0.7倍程度の低速で引き上げを行うことが必要とされており、OSFリングを結晶中心部で消滅させる場合は、最大引き上げ速度の0.6倍程度の低速引き上げが必要とされている。
【0010】
本発明の目的は、生産性の低下及び有転位化による歩留り低下を伴うことなく、空孔クラスタの発生を抑制することができる結晶育成方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
ところで、低速引き上げを行うときの引き上げ速度は、最大引き上げ速度とOSFリングの径方向位置から決定され、最大引き上げ速度は、通常は育成結晶の変形率により決定される。
【0012】
即ち、引き上げ速度を大きくすると育成結晶の断面変形が顕著になり、この変形により引き上げ速度が制限される。これが最大引き上げ速度であり、引き上げ条件にもよるが通常は0.8mm/分程度である。そして低速引き上げでは、その引き上げ速度が、最大引き上げ速度に対してOSFリングの半径方向位置に対応する所定の比率で小さくされ、例えばOSFリングを結晶半径方向の1/2位置に発生させる場合は、最大引き上げ速度の約0.7倍の0.5〜0.6mm/分に引き上げ速度が選択され、OSFリングを結晶中心部で消滅させる場合は、最大引き上げ速度の約0.6倍の0.5mm/分程度に引き上げ速度が選択される。
【0013】
このような事情を背景として、本発明者らは低速引き上げに伴う生産性の低下及び有転位化を回避する一つの方法として最大引き上げ速度を増大させるのが有効であると考え、種々の実験を行った。その結果、最大引き上げ速度が増大するような対策を講じておけば、OSFリングが結晶半径方向の1/2位置より内側に発生するような引き上げをおこなっても、従来の高速引き上げに匹敵する引き上げ速度が確保されることを知見できた。
【0014】
即ち、最大引き上げ速度を増大させるには、育成結晶の固液界面近傍を局部的に急冷するのが有効である。これによると、最大引き上げ速度は例えば2.0mm/分程度まで増大する。この状態でOSFリングを結晶中心部で消滅させる場合、引き上げ速度はやはり最大引き上げ速度の約0.6倍となり、1.2mm/分程度となる。これは、従来一般の高速引き上げ速度である0.8mm/分よりも更に速い速度である。つまり、育成結晶の固液界面近傍を局部的に急冷して最大引き上げ速度を増大させておけば、OSFリングを内側へ縮小する引き上げを行っても実質的な速度低下はなく、従来一般の高速引き上げよりも速い引き上げを行うことさえ可能になるのである。
【0015】
本発明の結晶育成方法においては、以下の手段を採用することができる。
(1) CZ法を用いてシリコン単結晶を育成する結晶育成方法において、
育成結晶の固液界面近傍を局部的に急冷し、且つOSFリングが育成結晶の最外周部より内側に生じるか若しくは結晶中心部で消滅する速度条件で引き上げを行う結晶育成方法であって、
育成結晶の固液界面近傍のうち成長界面から1300℃までの領域を局部的に急冷して最大引き上げ速度を増大させ、この増大した最大引き上げ速度に対して0.5倍以上0.7倍以下の引き上げ速度で転位クラスタのないシリコン単結晶を育成することを特徴とする。
(2) 育成結晶の固液界面近傍のうち原料融液液面から引き上げ軸方向50mm以下の領域を局部的に急冷して最大引き上げ速度を増大させることを特徴とする(1)に記載の結晶育成方法。
(3) 育成結晶の固液界面近傍を局部的に急冷して最大引き上げ速度を2.0mm/分まで増大させることを特徴とする(1)または(2)に記載の結晶育成方法。
本発明の結晶育成装置においては、以下の手段を採用することができる。
(4) CZ法を用いてシリコン単結晶を育成する結晶育成装置において、
真空容器からなるメインチャンバ内部には、坩堝と、該坩堝の外側に位置するヒータ(及び保温筒)と、前記坩堝上方に同心状に配置され前記ヒータおよび原料融液からの輻射熱を遮断する逆錐形の断熱筒体と、が配置され、
前記断熱筒体の下端部内面には、育成結晶の固液界面近傍のうち成長界面から1300℃までの領域を局部的に急冷する水冷手段(コイル状の通水管)が取り付けられてなることを特徴とする結晶育成装置。
(5) 前記水冷手段(通水管)が、育成結晶の原料融液液面から引き上げ軸方向高さが50mm以下の部分を包囲するように設けられることを特徴とする(4)に記載の結晶育成装置。
【0016】
本発明の結晶育成方法は、かかる知見に基づいて開発されたものであり、CZ法を用いてシリコン単結晶を育成する結晶育成方法において、育成結晶の固液界面近傍を局部的に急冷し、且つOSFリングが育成結晶の最外周部より内側に生じるか若しくは結晶中心部で消滅する速度条件で引き上げを行うことを構成上の特徴点とする。
より具体的には、育成結晶の固液界面近傍を局部的に急冷して最大引き上げ速度を増大させ、この増大した最大引き上げ速度に対して、引き上げ速度をOSFリングの発生位置に対応する比率で相対的に低下させるものである。
【0017】
本発明の結晶育成方法においては、引き上げ速度を最大引き上げ速度に対して、OSFリングの発生位置に対応する比率で相対的に低下させるが、育成結晶の固液界面近傍を局部的に急冷することにより最大引き上げ速度が増大しているので、引き上げ速度を相対的に低下させても絶対速度としては依然として速い引き上げ速度が確保されるのである。
【0018】
育成結晶の急冷により最大引き上げ速度が増大するのは、引き上げ結晶の成長界面から1300℃までの領域の冷却速度が引き上げ速度を決定するからである。従って、結晶引き上げ速度の制御では、この領域の冷却速度のみを考慮すればよいことになる。この急冷範囲は、具体的には原料融液の液面から50mm以下の範囲が好ましい。
【0019】
急冷のための具体的対策としては、例えばヒータからの輻射熱を遮断するために育成結晶を液面近傍で断熱材により別途包囲するとか、ヒータからの輻射熱を遮断し且つ育成結晶を積極的に抜熱するために育成結晶を液面近傍で水冷手段により別途包囲するといったことが挙げられる。ここにおける断熱材としてはカーボン製の断熱材等を挙げることができ、その厚みは50mm以上が好ましい。水冷手段としては、銅等からなるコイル状の通水管や、鉄等による通水隔壁を有するジャケット等を挙げることができ、ここにおける通水量は10リットル/分以上が好ましい。また、この水冷手段は、ヒータ及び原料融液からの輻射熱を遮断して引き上げ速度を引き上げるために従来から用いられているコーンと呼ばれる逆錐形の断熱筒体の下端部内側に取り付けるのが好ましい。こうすることにより、断熱筒体の内側を高速で下降する不活性ガス流により、水冷手段へのSiOの析出が抑制される。
【0020】
最大引き上げ速度は、最大引き上げ速度に対する相対的な速度低下に起因する絶対的な速度低下を回避するために1.3mm/分以上が好ましく、1.5mm/分以上が特に好ましい。最大引き上げ速度の上限は特に規定しないが、最大引き上げ速度の極端な増大は引き上げ結晶の突発的な変形成長を生じさせやすいので、2.0mm/分以下が好ましい。そして急冷速度は、このような最大引き上げ速度が確保されるように選択される。なお、最大引き上げ速度は、育成結晶の最大外径をDmax とし、最小外径をDmin としたとき、(Dmax −Dmin )/Dmin ×100%で表される結晶変形率が2%となる速度とする。
【0021】
最大引き上げ速度に対する引き上げ速度の低下率については、OSFリング内側の空孔クラスタ発生域を狭めるために、最大引き上げ速度の0.7倍以下が好ましく、0.6倍以下が特に好ましい。低下率の下限は特に規定しないが、極端な速度低下は成長界面の再融解による有転位化やOSFリングの外側での転位クラスタの発生を招くので、最大引き上げ速度の0.5倍以上が好ましい。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係る結晶育成方法の説明図である。
【0023】
結晶育成装置は、メインチャンバ1と、その上面中心部に連結されたプルチャンバ2とを備えている。これらは、軸方向を垂直とした略円筒状の真空容器からなり、図示されない水冷機構を有している。メインチャンバ1の内部には、略中央に位置して坩堝3が配置されると共に、坩堝3の外側に位置してヒータ4及び保温筒5が配置されている。坩堝3は石英製の内層容器と黒鉛製の外層容器とからなり、ペディスタルと呼ばれる回転式かつ昇降式の支持軸により支持されている。
【0024】
坩堝3の上方には、回転式かつ昇降式の引き上げ軸7がプルチャンバ2を通して吊り下げられ、引き上げ軸7の下端には種結晶が装着されている。坩堝3の上方には又、コーンと呼ばれる逆錐形の断熱筒体8が同心状に配置されており、その下端部内面には、銅からなるコイル状の通水管9が取り付けられている。
【0025】
結晶成長を行うには先ず、チャンバを解体した状態で、坩堝3内にシリコンの多結晶原料11を装填する。次いで、チャンバを組み立て、その内部を真空排気すると共に、通水管9に冷却水を通した状態でヒータ4を作動させて、坩堝3内の原料を溶解する。
【0026】
このようにして、坩堝3内にシリコンの原料融液10が生成されると、引き上げ軸7の下端に装着された種結晶を原料融液10に浸漬し、この状態から坩堝3と引き上げ軸7を逆方向に回転させながら引き上げ軸7を上昇させる。これにより、種結晶の下方にシリコンの単結晶11が育成される。
【0027】
ここにおける引き上げ速度は、空孔クラスタ発生域を結晶中心側へ狭めるために、OSFリングが結晶の最外周部より内側に生じるか若しくは結晶中心部で消滅するように、最大引き上げ速度に対して比率で低下させたものなっている。また、コイル状の通水管9の引き上げ軸方向の高さは、単結晶11の固液界面近傍、より具体的には原料融液10の液面からの高さが50mm以下の部分を包囲するように、液面から断熱筒体8までの距離に応じて設定されている。ちなみに、液面から断熱筒体8までの距離は20mm程度である。
【0028】
このような結晶育成によると、単結晶11の固液界面近傍が通水管9により強制的に抜熱される。また、ヒータ4及び原料融液10からの輻射熱が、通水管9により遮断される。これらにより、単結晶11の固液界面近傍が局部的に急冷され、その結果、最大引き上げ速度が増大する。従って、空孔クラスタ発生域を結晶中心側へ狭めるために、引き上げ速度を最大引き上げ速度に対して相対的に低下させているにもかかわらず、その絶対速度の低下は回避される。
【0029】
よって、空孔クラスタの発生抑制に伴う生産性の低下及び有転位化による歩留り低下が回避される。
【0030】
【実施例】
次に本発明の実施例を示し、従来例と比較することにより、本発明の効果を明らかにする。
【0031】
坩堝内にシリコン多結晶原料100kgを装填すると共に、p型ドーパントとしてボロン−シリコン合金0.6g添加した。その後、チャンバ内を10TorrのAr雰囲気にし、ヒータパワーを70kwに設定して、多結晶原料を溶解した。そして、この溶解により生成された原料融液から、100方位の種結晶により直径が8インチのシリコン単結晶を育成した。通水管の管径は10mmであり、通水量は30リットル/分とした。
【0032】
通水管に代えて、厚さ50mmのカーボンフェルトを断熱筒体の下端部内面に取り付けて同様の結晶育成を行った。
【0033】
通水管を設けた場合、カーボンフェルトを設けた場合、いずれも設けなかった場合について、最大引き上げ速度を調査した。最大引き上げ速度は、前述したとおり、育成結晶の最大外径をDmax とし、最小外径をDmin としたとき、(Dmax −Dmin )/Dmin ×100%で表される結晶変形率が2%となる速度である。
【0034】
カーボンフェルトも通水管も設けなかった場合の最大引き上げ速度は0.8mm/分であったが、カーボンフェルトを設けることにより、この最大引き上げ速度は1.3mm/分となり、通水管を設けた場合は2.0mm/分まで最大引き上げ速度は増大した。これらの引き上げでは、OSFリングは結晶の最外周部に位置していた。
【0035】
次に、それぞれの場合について、OSFリングが結晶中心部で消滅するまで引き上げ速度を低下させた。それぞれの引き上げ速度は、最大引き上げ速度の約0.6倍であり、カーボンフェルトも通水管も設けなかった場合は0.48mm/分、カーボンフェルトを設けた場合は0.79mm/分、通水管を設けた場合は1.15mm/分であった。
【0036】
これから分かるように、OSFリングを結晶中心部で消滅させるための引き上げ速度は、カーボンフェルトを設けることにより約1.6倍になる。これは、引き上げ速度を相対的に低下させない場合の引き上げ速度に相当する。また、通水管を設けた場合は約2.4倍になり、これは引き上げ速度を相対的に低下させない場合よりも更に高い速度である。
【0037】
このような速度増大により引き上げ能率が上がることは勿論、無転位引き上げ歩留りも向上する。ちなみに、今回の実験では0.48mm/分のときの無転位歩留りは50%であったが、0.79mm/分では90%になり、1.15mm/分では100%になった。
【0038】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の結晶育成方法は、育成結晶の固液界面近傍を急冷し、最大引き上げ速度を増大させることにより、生産性の低下及び有転位化による歩留り低下を伴うことなく、空孔クラスタの発生を抑制することができる。従って、高品質のウエーハを安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る結晶成長方法の説明図である。
【符号の説明】
1 メインチャンバ
2 プルチャンバ
3 坩堝
4 ヒータ
5 保温筒
6 支持軸
7 引き上げ軸
8 断熱筒体
9 通水管
10 原料融液
11 単結晶
Claims (3)
- CZ法を用いてシリコン単結晶を育成する結晶育成方法において、
育成結晶の固液界面近傍を局部的に急冷し、且つOSFリングが育成結晶の最外周部より内側に生じるか若しくは結晶中心部で消滅する速度条件で引き上げを行う結晶育成方法であって、
育成結晶の固液界面近傍のうち成長界面から1300℃までの領域を局部的に急冷して最大引き上げ速度を増大させ、この増大した最大引き上げ速度に対して0.5倍以上0.7倍以下の引き上げ速度で転位クラスタのないシリコン単結晶を育成することを特徴とする結晶育成方法。 - 育成結晶の固液界面近傍のうち原料融液液面から引き上げ軸方向50mm以下の領域を局部的に急冷して最大引き上げ速度を増大させることを特徴とする請求項1に記載の結晶育成方法。
- 育成結晶の固液界面近傍を局部的に急冷して最大引き上げ速度を2.0mm/分まで増大させることを特徴とする請求項1または2に記載の結晶育成方法。
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