JP3610598B2 - 転がり軸受用軌道輪の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車、農業機械、建設機械及び鉄鋼機械等に使用される転がり軸受の軌道輪を製造する方法に係り、特に、ロールネック軸受用に求められる長寿命の転がり軸受用軌道輪を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、転がり軸受の寿命とメタルフローとの関係について多くの研究がなされている。例えば、日本金属学会会報,第23巻第1号(1984)p50に記載の技術資料「軸受用鋼の転動疲労寿命の向上」(以下、引例1という)には、軸方向に圧延された直径65mmの鋼棒材から直径12mm、長さ12mmの円筒片を軸に対し種々に角度を変えて採取したもの(円筒片の外径面に対するメタルフローの方向を採取角度に応じて平行から直交の範囲で種々に変えたもの)を試験片とし、線接触型転動疲労試験機を用いて転がり軸受の構成要素の寿命とメタルフローとの関係を求めた結果が述べられている。
【0003】
当該試験の結果によれば、軸受軌道輪の軌道面に対する材料のメタルフローの方向が軸受寿命に重要な影響を及ぼすことが明らかで、図5に示すように軸受の軌道輪1のメタルフローMf と軸受回転軸Xとのなす角度αが0に近い程、すなわちメタルフローの方向が回転軸Xと平行に近い程転動疲労寿命(以下、単に疲労ともいう)が長くなることが示されており、その理由として非金属介在物の並び方が関係していることが考えられるとしている。
【0004】
また、本出願人の先の出願に係る特開平3−271343号公報(以下、引例2という)では、メタルフローの回転軸に対する角度を規制して転動部材の長寿命化を図ることが提案されている。このものは、図6に示すように、長円筒状の鋼棒材5をその軸方向に冷間鍛造して得た円板6をリング状に研削して転がり軸受の要素部材である軌道輪1を形成するに当たり、その塑性加工により図7のように形成されるメタルフローMf の角度α1 又はα2 (メタルフロー角度)が回転軸Xに対し10°以上傾斜する程度に塑性加工する。これにより、素材内に存在する非金属介在物の緻密化と素材組織の均質化を達成し、耐摩耗性,耐衝撃性を向上せしめて、自動車エンジンのジャンピング現象が生じる程の高回転領域での軸受の長寿命化を図っている。すなわち、転がり軸受要素部材の疲労破壊が、最大せん断応力位置にある非金属介在物が原因となって発生したクラックに起因することから、特に最大せん断応力位置での加工度をメタルフローMf をファクタとして高め、介在物の微細化,緻密化を図ったものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、引例1及び引例2の上記従来例は、いずれも軸受部材の回転軸XとメタルフローMf との関係に着目してなされたものであり、対象とする軸受も一般的な環境又はせいぜいエンジンシリンダヘッド等のような高速回転下で使用されるものである。したがって、本出願が対象とする転がり軸受、特にロールネック軸受の外輪のように、ハウジングの剛性が弱くて使用時に曲げ応力が発生して軌道輪が変形したり、かつまた、圧延水の侵入により潤滑油膜が切れて軌道面に接線力が作用するといったような苛酷な条件下で使用される転がり軸受に対する寿命の延長効果という点では十分ではないという問題点がある。
【0006】
更に詳細に述べると、従来例の軌道輪におけるメタルフローMf と転動体の公転方向との関係は図8のように模式的に示される。すなわち、軌道輪1の軌道面2の転動体公転方向を矢符号Yで表すと、メタルフローMf は転動体公転方向Yと直交する軌道輪幅方向の流れであり、エンドフローEf は軌道輪側面側になる図8の場合に、非金属介在物3がメタルフローMf 沿いに軌道輪1の軌道面2に露出していると、先に述べたような苛酷な使用条件により軌道輪1に曲げ応力7や接線力8が作用すると、非金属介在物3を起点に欠陥が開口し、軌道面2の早期フレーキングの原因となって軸受の寿命を劣化させることになる。つまり、非金属介在物の存在が早期フレーキングの原因となるのは、図8のように軌道輪1の軌道面2の非金属介在物3が転動体の公転方向Yに対して直交する方向のメタルフローMf の場合である。
【0007】
これに対して、図9に示すように、メタルフローMf を転動体公転方向Yと直交する軌道輪1の厚み方向の流れとした場合には、非金属介在物3も軌道輪厚み方向に沿って縦に存在する。したがって、非金属介在物3に曲げ応力7や接線力8が作用してもその影響は少ないと考えられる。しかしながら、この場合はメタルフローMf と荷重方向が一致するために軸受部材の圧壊強度が大きく低下してしまう。さらに引例1で述べられているように、せん断応力起因の転がり疲労寿命が低下してしまうなどの不具合を生じる。そのため、図9のような軌道輪1の厚み方向のメタルフローMf は、実際には採用することができない。
【0008】
そこで、本発明は、このような従来の問題点に着目してなされたものであり、曲げ応力や接線力が作用しても非金属介在物の欠陥が開口しないように、メタルフローを転動体公転方向(すなわち接線方向)に平行に設定することにより、例えばロールネック軸受の外輪のような極めて過酷な使用条件の下でも長寿命の軌道輪を得ることのできる転がり軸受用軌道輪の製造方法を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、請求項1の発明に係る転がり軸受用軌道輪の製造方法は、転がり軸受の軌道輪を製造する方法であって、棒状に圧延加工された鋼材を切断してメタルフローが軸方向に平行な円柱状の軌道輪素材を形成する第1工程と、前記軌道輪素材を円柱形状から偏平形状に鍛造成形した後、前記軌道輪素材の中央部にセンター穴を穴明け加工する第2工程と、前記センター穴を拡径することによりメタルフローが転動体の公転方向に対して±15°以内の円環状の軌道輪粗部材を形成する第3工程と、を含むことを特徴とするものである。
請求項2の発明に係る転がり軸受用軌道輪の製造方法は、請求項1記載の転がり軸受用軌道輪の製造方法において、前記センター穴の拡径前の穴径をd、前記センター穴の拡径後の穴径をD、前記円柱形状から偏平形状に鍛造成形された前記軌道輪素材の板幅をT 0 、前記軌道輪粗部材の肉厚をT f としたとき、
(D/d)× 100 = 300 〜 900 、
(T m /T f )× 100 = 500 〜 1500 、但し、T m =(T 0 −d)/2
としたことを特徴とするものである。
【0010】
【作用】
転がり軸受の寿命を延長するには、軸受材料の清浄度を良くすることが有効であることは明らかであるが、しかし酸化物系や硫化物系の非金属介在物を零にすることはできない。したがって、大なり小なり鋼素材内に存在するそれらの非金属介在物がメタルフローに沿って軌道面に露出することは避けられない。先にも図8を援用して述べたように、非金属介在物3がメタルフローMf 沿いに軌道輪1の軌道面2に露出している場合に、苛酷な使用条件により軌道輪1に曲げ応力7や接線力8が作用すると、非金属介在物3を起点に欠陥が開口し、軌道面2の早期フレーキングの原因となって軸受の寿命を劣化させることになる。
【0011】
本発明の場合は、軌道輪のような軸受部材のメタルフローMf の方向(メタルフロー角θ)は回転軸Xに対する角度ではない。図1に示すように、転動体公転方向Yに対する角度である。そして、当該メタルフロー角θの大きさとしては±15°以内である。
このメタルフローMf に沿って軌道面2に現れる酸化物系や硫化物系の非金属介在物3の方向も、同じく転動体公転方向Yに対して±15°以内とほぼ平行する方向になり、曲げ応力7や接線力8が軌道面2に作用するような苛酷な使用条件下においても、欠陥が開口しない。したがって非金属介在物の存在は早期フレーキングの原因にならない。
【0012】
本発明の転がり軸受の構成要素は、外輪,内輪,転動体であり、本発明の適用は、そのうちの内輪,外輪の一方または両方に対してなされる。
本発明において、上記軸受要素のメタルフローを転動体の公転方向に対し±15°以内とした理由は、メタルフローが15°を越えると、接線力が非金属介在物の欠陥を開口させるように作用する力となり、その結果軌道面に早期フレーキングが生じやすくなって軸受寿命の低下をもたらすからである。
【0013】
本発明に規定するメタルフローを有する転がり軸受の軌道輪を得るには、その加工方法が関与し、なかでも、加工に際しての圧延率及び拡径率(いずれも後述)の関与が重要である。
図2に、本発明の転がり軸受の軌道輪の加工工程を模式的に示す。
(イ)は、温度700〜800℃の範囲で加熱して圧延加工された直径Tmmの棒鋼を切断して、軸方向のメタルフローMf を有する長さLの軌道輪素材10を形成する工程である。
【0014】
(ロ)は、上記軌道輪素材10を半径方向に熱間鍛造して、直径Tの丸棒を短径tのほぼ長円断面形に鍛伸して第1の中間素材11を形成する工程である。
(ハ)は、上記の厚さtに鍛伸された第1の中間素材11の中央部に、軌道輪の内径孔の下穴となるセンター穴12を穴開け加工して、第2の中間素材13を形成する工程である。この穴開け加工は、室温でドリル加工しても良く、又は第1の中間素材11を加熱してピアシング加工しても良い。
【0015】
この穴開け加工の寸法は、穴直径d、穴内径面から素材長径面までの距離(長径方向肉厚)Tm とする。
(ニ)は、第2の中間素材13のセンター穴12をローリング鍛造にて拡径加工し、内径D、肉厚Tf の軌道輪粗部材15を形成すると共に、メタルフローMf を円周方向に沿って揃える工程である。拡径加工法は、第2の中間素材13をバックアップロール16で押圧しつつ、センター穴12内に入れたマンドレル17を回転させるものであるが、Dリングを用いて穴拡径加工を行っても良い。
【0016】
このときの、製品(軌道輪粗部材15)内径Dと下穴径dとの比〔(D/d)×100〕を拡径率と定義する。
また、前記第2の中間素材13における長径方向肉厚Tm とその加工製品である軌道輪粗部材15の肉厚(製品肉厚)Tf との比〔(Tm /Tf )×100〕を圧延率と定義する。
【0017】
このような工程を経ることにより、本発明に規定するメタルフローMf を有する軌道輪粗部材15が得られるので、得られた軌道輪粗部材15に常法通りの熱処理,機械加工を施して、転動体の公転方向に対して±15°以内のメタルフローを有する軌道輪を形成する。
本発明者は、上記の加工工程における圧延率及び拡径率と軸受寿命との関係について検討を加え、その結果、それらの間に有意な相関関係を見出した。
【0018】
具体的には、本発明の転がり軸受にあっては、上記で定義した圧延率の値を
300〜900%の範囲と規定する。300%未満では非金属介在物の微細化が不十分で転がり軸受の寿命が低下する。一方、圧延率が900%を越えると、非金属介在物の微細化は一層促進されるのであるが、焼鈍,加熱圧延の工程が重ねて必要になりコストが上昇する。
【0019】
また、上記で定義した拡径率の値は500〜1500%の範囲と規定する。拡径率500%未満では圧延率と同様、非金属介在物の微細化が不十分であると共にメタルフローが円周方向に十分揃わない。一方、拡径率は多い方が良いのであるが、1500%を越えると焼鈍,加熱圧延の工程が重ねて必要になりコストが上昇する。
【0020】
以上説明したように、本発明は、軌道輪のメタルフローを転動体の公転方向に対して±15°以下となる方向にして(同一拡径率,圧延率において)寿命向上を果たす。
本発明は更に、軌道輪を大きな拡径率,圧延率で加工して非金属介在物を微細化し、且つメタルフローを転動体の公転方向に対して±15°以下となる方向にして、更なる寿命の向上を果たすものである。
【0021】
【実施例】
次ぎに本発明の実施例を説明する。
SUJ−2材を用い、先に述べた工程を経て軌道輪(内輪及び外輪)を製造し、それを用いて小形円すいころ軸受(型式L44649/610)を試作して、内輪回転で寿命試験を行った。
【0022】
試験装置の概要を図3に示す。図3において20は被検体のころ軸受で、ハウジング21に装着され軸22の回転で内輪23を回転駆動する。ハウジング21には、外輪24の下部の位置に切り欠き25が設けられている。この切り欠き25によりハウジング21の軸受支持剛性を弱め、軸22には試験荷重Wを断続的に負荷して被検体の外輪24の軌道面に交番の曲げ応力を加えながら転がり疲れ寿命L10を測定した。
【0023】
また、油に水を混入してパイプ27から被検体のグリースを充填したころ軸受20に振りかけ、潤滑油膜が切れて軌道面に接線力が作用する状況を設定して試験した。
Fa=360kgf
Fr=1200kg
回転数N=4000rpm
計算寿命は72時間である。
【0024】
なお、メタルフローの角度については、被検体を水:濃塩酸=1:1の処理液に入れて煮沸し、これを複数回繰り返した後、走査型原子顕微鏡で観察し、顕微鏡像の写真から転動体の公転方向とメタルフローとのなす角度±θを求めた。
試験の結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表中の下線は、本発明の範囲外であることを表す。
比較例5,比較例6は、メタルフローの角度θは本発明の範囲を満たすが、本発明の拡径率と圧延率とのいずれか一方を満たしていない。
また、比較例7は、拡径率と圧延率は本発明の範囲を満たすが、メタルフローの角度θが本発明の範囲を満たしていない。
【0027】
剥離は、曲げ応力が発生する外輪にのみ発生した。
表1から明らかなように、実施例は軌道面での剥離が認められたものも、剥離部位の数は比較例より大幅に少なく、高水準の寿命を示している。
L10寿命とメタルフロー角度θとの関係を図4に示す。
以上の結果からわかるように、本発明の転がり軸受は、曲げ応力が発生したり、潤滑油膜が切れて軌道面に接線力が生じるようは苛酷な条件下においても長寿命であることが確認できた。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、転がり軸受の軌道輪の少なくとも一方のメタルフローを転動体の公転方向に対して±15°以内としたため、非金属介在物が微細化されて組織が緻密,均一になり軸受の寿命が延びるのみならず、曲げ応力が発生して軌道輪が変形したり、潤滑油膜が切れて軌道面に接線力が作用するといったような苛酷な条件下で使用される転がり軸受に対しても、軌道面の非金属介在物を起点に欠陥が開口して軌道面の早期フレーキングの原因となることが防止できて、その結果、苛酷使用条件下においても軸受寿命が延長されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の転がり軸受の軌道輪におけるメタルフローと転動体の公転方向との関係を模式的に表した斜視図である。
【図2】本発明の転がり軸受の軌道輪の製造工程を説明する図である。
【図3】転がり軸受の苛酷条件下での寿命試験装置の概要を示す斜視図である。
【図4】転がり軸受の寿命とメタルフロー角度との関係を、比較例と比べて表したグラフである。
【図5】従来の転がり軸受の軌道輪のメタルフローの態様を説明する断面図である。
【図6】従来の転がり軸受の軌道輪の加工説明図である。
【図7】図6の加工法で形成した軌道輪のメタルフローの状態を示す半断面図である。
【図8】従来の転がり軸受の軌道輪におけるメタルフローと転動体の公転方向との関係を模式的に表した斜視図である。
【図9】転がり軸受の軌道輪におけるメタルフローと転動体の公転方向との関係を模式的に表した斜視図である。
【符号の説明】
1 軌道輪
2 軌道面
Y 転動体の公転方向
Claims (2)
- 転がり軸受の軌道輪を製造する方法であって、棒状に圧延加工された鋼材を切断してメタルフローが軸方向に平行な円柱状の軌道輪素材を形成する第1工程と、前記軌道輪素材を円柱形状から偏平形状に鍛造成形した後、前記軌道輪素材の中央部にセンター穴を穴明け加工する第2工程と、前記センター穴を拡径することによりメタルフローが転動体の公転方向に対して±15°以内の円環状の軌道輪粗部材を形成する第3工程と、を含むことを特徴とする転がり軸受用軌道輪の製造方法。
- 前記センター穴の拡径前の穴径をd、前記センター穴の拡径後の穴径をD、前記円柱形状から偏平形状に鍛造成形された前記軌道輪素材の板幅をT 0 、前記軌道輪粗部材の肉厚をT f としたとき、
(D/d)× 100 = 300 〜 900 、
(T m /T f )× 100 = 500 〜 1500 、但し、T m =(T 0 −d)/2
としたことを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用軌道輪の製造方法。
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JP17890094A JP3610598B2 (ja) | 1994-07-29 | 1994-07-29 | 転がり軸受用軌道輪の製造方法 |
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JP17890094A JP3610598B2 (ja) | 1994-07-29 | 1994-07-29 | 転がり軸受用軌道輪の製造方法 |
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Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
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JP17890094A Expired - Fee Related JP3610598B2 (ja) | 1994-07-29 | 1994-07-29 | 転がり軸受用軌道輪の製造方法 |
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