JP3605740B2 - エンドミル用超硬合金 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は,耐クラック伝播性,耐欠損性,耐熱クラック性に優れた炭化タングステン基超硬合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来,炭化タングステン基超硬合金は,炭化タングステン粉末を微細にするほど,硬さおよび靭性,耐摩耗性が向上し,エンドミルやプリント基盤穴開け用ドリルに使用されている。また,このような用途に使用するためには,均一な粒径の微粒炭化タングステンを用いることが一般的に行われてきた。
【0003】
しかし,炭化タングステンを微細にすることによってクラック抵抗は低くなり,亀裂が進展しやすくなる傾向にある。
【0004】
高強度,高靭性,高硬度の超硬合金を得るために次の発明がなされている。
【0005】
特開平6−81072号公報(以下,従来技術1と呼ぶ)には,Co及びNiのうちの1種または2種を4〜40重量%含有し,さらにV,Cr,Ta,NbおよびTiのうち1種または2種以上を0.1から5.0重量%を含有する組成を有し,平均粒度が0.6μm以下でかつ最大粒径が3.0μm以下のWC粒子が分散しているWC基超硬合金の素地中に,さらに最大粒径が3.0μm以下であるV,Cr,Ta,NbおよびTiのうち1種または2種以上の炭化物もしくは,炭窒化物の固溶体粒子が分散している組織を有するWC基超硬合金を製造する方法が開示されている。
【0006】
また,特開平6−264158号公報(以下,従来技術2と呼ぶ)には,原料粉末としていずれも1μm以下の平均粒径を有するWC粉末,CoおよびNiの酸化物粉末V,Cr,TaおよびTiの金属粉末と,これら金属の炭化物粉末及び酸化物粉末,炭素粉末を用い,これらの原料粉末を配合,混合し,圧粉体に成形し,ついで前記圧粉体を真空焼結するに際して,その昇温過程で炭素粉末または炭素粉末と炭化物粉末によって,結合相に占める割合で50〜500ppmの酸素が残留する割合に配合した酸化物粉末の還元を行い,3〜20重量%を占める結合相に上記含有量したWC基超硬合金を製造する方法が開示されている。
【0007】
また,特開平5−339659号公報(以下,従来技術3と呼ぶ)には,0.5μm以下のWCと3〜40重量%の立方晶系化合物と,1〜25重量%のCo及び/またはNiからなる混合粉末でなる出発物質を用いて,1450℃以上で焼結した板状WC結晶を有する超硬合金を作製する方法が開示されている。
【0008】
さらに,特開昭61−124548号公報(以下,従来技術4と呼ぶ)には,重量比でWCを主成分とする硬質相75〜90重量%,Fe族およびCr族のうち1種または2種を10〜25重量%,HfまたはHf炭化物を0.1〜3.2重量%,硬質相の一部をTaCおよびNbCの1種または2種を0.1〜5重量%で置換した超硬合金について開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし,従来技術1において,V,Cr,Ta,NbおよびTiのうち1種または2種以上からなる第3相は,当然WCよりヤング率が低い相として存在するため,当然のごとく,高強度,高硬度を得るためには,欠陥として働き,その期待される効果は低い。
【0010】
また,従来技術2において酸化物粉末の還元を昇温過程中に行うため,炭素量および酸素量の制御が安定せず,期待通りに高強度,高硬度の超硬合金を安定して得ることは難しい。
【0011】
また,従来技術3において,原料粉末を長時間混合粉砕することにより,非常に微細で応力の有する粉末となり不純物が多く,かつ製造工程が長く狙いとした板状WCの生成が少なく粒径の制御も困難である。
【0012】
さらに,従来技術4において,炭化タングステン以外の炭化物による粗大な樹脂状析出物の晶出が生じ,強度,靭性を満足できない。
【0013】
そこで,本発明の技術的課題は,強度,靭性,クラック伝播抵抗を高めたエンドミル用超硬合金を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は,上記の技術的課題を解決するためのもので,具体的には2種類の粒度の異なる炭化タングステンを用いて,それらの炭化タングステン粒子を結合相中に分散させ,かつ結合相に炭化クロムを固溶強化させることによって,強度,靭性,クラック伝播抵抗を高めた超硬合金を提供するものである。
【0015】
即ち,本発明のエンドミル用超硬合金は,炭化クロムを含有するWC基超硬合金において,結合相中に分散した複数の平均粒径の異なる2種類の炭化タングステン相を備え、前記2種類の炭化タングステン相の平均粒径の比が3≦平均粒径(大)/平均粒径(小)≦7であり,かつその体積比が1.5≦平均粒径(大)の体積/平均粒径(小)の体積≦3であることを特徴としている。
【0016】
また,本発明のエンドミル用超硬合金では,前記エンドミル用超硬合金において,前記結合相として,炭化クロムを0.5〜2.0重量%,Coを5〜15重量%含有することを特徴としている。
【0019】
さらに,本発明のエンドミル用超硬合金では,前記いずれかのエンドミル用超硬合金において,前記炭化タングステン相の最大粒径が3.0μm以下であることを特徴としている。
【0020】
次に,本発明の超硬合金の成分組成を上記の如く限定した理由について説明する。
【0021】
まず,コバルト(Co)成分について説明する。Coは結合相形成成分として添加され,靭性かつ耐欠損性を向上させる作用をするが,その含有量が5重量%未満では,WC基超硬合金の緻密化が十分なされず,前記作用の所望の効果が得られない。
【0022】
一方,Coの含有量が15重量%を越えると硬度が低下した耐摩耗性,耐塑性変形性が低下する事から,その含有量を5〜15重量%と定めた。
【0023】
次に,炭化クロムについて説明する。炭化クロムは,焼結時のWC粒成長を抑制する作用および結合相に固溶することによる結合相の固溶強化が挙げられる。WC基超硬合金において,その含有量が0.5%未満では,焼結時のWC粒成長抑制効果,および結合相の固溶強化が期待出来ない。一方,2.0重量%を越えて含有すると,焼結条件により靭性の低下をもたらす第3相が析出し,好ましくない。したがって,炭化クロムの含有量を0.5〜2.0重量%に定めた。
【0024】
また,平均粒径比と平均粒径の体積比との関係について説明する。本発明において,2種類の炭化タングステン粉末の平均粒径の比が3≦平均粒径(大)/平均粒径(小)≦7であり,かつその体積比が1.5≦平均粒径(大)の体積/平均粒径(小)の体積≦3,および炭化タングステン粉末の最大粒径が3.0μm以下である事としたのは,平均粒径の比が3以下の場合,大きい粒子と小さい粒子の差がすくなく,クラックの伝播経路を阻止する効果が期待出来ない事にある。
【0025】
一方,平均粒径の比が7を越えると,大きな粒子が,素地中において欠陥として働き,強度が低下し,靭性の向上に働かなくなるためである。
【0026】
また,体積比が1.5以下の場合,平均粒径(大)なる粒子の全体に占める割合が少なく,クラックの伝播経路を阻止する効果が期待出来ない。一方,体積比が3.0を越える場合,超硬合金の強度や硬度の向上に働かなくなる理由からである。
【0027】
さらに,最大粒径について説明する。炭化タングステン粉末の最大粒径を3.0μm以下としたのは,3.0μmを越える粒子が超硬合金の素地中にあると,炭化タングステンが破壊の起点として作用し,合金の強度,耐欠損性に有利に働かないために定めた。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下,本発明の実施の形態について説明する。
【0029】
まず,本発明の第1の実施の形態によるWC基超硬合金について説明する。
【0030】
原料として,下記表1のA〜Gに示される平均粒径のWC粉末,平均粒径1.2μmのCo粉末,平均粒径2.3μmの炭化クロム粉末をそれぞれ用意し,これらの粉末を下記表2に示したように所定の割合に配合し,6時間アトライターで湿式混合し,乾燥後,1ton/cm2 10−2Torrの真空炉中で1400℃ 1時間焼成した。その後,アルゴンガス雰囲気中,1000気圧 1350℃で1時間熱間静水圧プレス(HIP)処理を行った。
【0031】
一方,比較WC基超硬合金については,下記表1に示したWC粉末を単独で用いて,本発明の第1の実施の形態による合金と同様の方法で調整した。
【0032】
こうして得た本発明の第1の実施の形態による合金及び比較超硬合金を#200のダイヤモンド砥石で湿式研削加工し4.0×8.0×25.0の形状に作製し,抗折力(JIS法)を測定した。次に,これらの超硬合金の一面を1μmのダイヤモンドペーストでラップ加工し,破壊靭性値K1C(IM法)を測定した。
【0033】
下記表3に示した結果から,本発明の第1の実施の形態によるWC基超硬合金は比較WC基超硬合金に比較してすぐれた抗折力,破壊靭性値を示すことがわかる。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
次に,本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0038】
第1の実施の形態で製造した本発明のWC基超硬合金2と,比較WC基超硬合金2から,直径6mmの2枚刃エンドミルを試作した。被削材はSKD(HRC25)であり,切削速度は20m/min,切り込み深さは8mmの条件で鋼の湿式切削試験を実施し,逃げ面摩耗幅0.3mmを寿命基準として,寿命に至るまでの切削長を求め,本発明エンドミルに対する比較エンドミルの切削長さの比率を求め切削性能を評価した。その結果を下記表4に示した。
【0039】
【表4】
【0040】
上記表4に示した結果から,本発明のWC基超硬合金で作製したエンドミルは比較WC基超硬合金で作製したエンドミルに比較して優れた切削性能を示すことがわかる。
【0041】
【発明の効果】
以上,説明したように,本発明によれば,強度,靭性,クラック伝播抵抗を高めたエンドミル用超硬合金を提供することができる。
Claims (3)
- 炭化クロムを含有するWC基超硬合金において,結合相中に分散した複数の平均粒径の異なる2種類の炭化タングステン相を備え、前記2種類の炭化タングステン相の平均粒径の比が3≦平均粒径(大)/平均粒径(小)≦7であり,かつその体積比が1.5≦平均粒径(大)の体積/平均粒径(小)の体積≦3であることを特徴とするエンドミル用超硬合金。
- 請求項1記載のエンドミル用超硬合金において,前記結合相として,炭化クロムを0.5〜2.0重量%,Coを5〜15重量%含有することを特徴とするエンドミル用超硬合金。
- 請求項1又は2記載のエンドミル用超硬合金において,前記炭化タングステン相の最大粒径が3.0μm以下であることを特徴とするエンドミル用超硬合金。
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