JP3602988B2 - 磁気インピーダンス効果素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気インピーダンス効果を有する素子を用いた磁気インピーダンス効果素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
図12は、従来の磁気インピーダンス効果素子の磁気−インピーダンス特性の測定回路図である。また、図13は、従来の磁気インピーダンス効果を有する(Fe6Co94)72.5Si12.5B15非晶質ワイヤの磁気−インピーダンス特性を示すグラフ図である。また、図14は、従来の磁気インピーダンス効果素子の磁気−インピーダンス特性の他の測定回路図である。
近時、情報機器、計測機器、制御機器などの急速な発展に伴って、従来の磁束検出型のものよりさらに小型、高感度且つ高速応答性(高周波動作)の磁界検知素子が求められ、磁気インピーダンス効果(Magneto−Impedance Effect)を有する素子(磁気インピーダンス効果素子)が注目されるようになってきている。
【0003】
磁気インピーダンス効果とは、ワイヤ状及びリボン状等に形成された軟磁気特性を有する磁性材料に微小高周波電流を通電し、外部磁界を印加すると、磁性材料のインピーダンスが敏感に変化する効果である。このような磁気インピーダンス効果は、磁性材料に交流電流を通電した時に、交流電流がその表面近くを流れようとする「表皮効果」に基づくものであることが知られている。
【0004】
磁気インピーダンス効果とは、より具体的には、例えば図12に示す閉回路において、ワイヤ状の磁気インピーダンス効果素子Miに交流電源EacからMHz帯域の交流電流Iacを通電した状態で、磁気インピーダンス効果素子Miの長手方向に外部磁界Hexを印加すると、外部磁界Hexが数Oe以下の微弱磁界であっても、磁器インピーダンス効果素子Miの両端に材料固有のインピーダンスによる出力電圧Emiが発生し、その振幅が外部磁界Hexの強度に対応して数十%の範囲で変化して、即ちインピーダンス変化を起こす。
【0005】
このような磁気インピーダンス効果を有する素子(磁気インピーダンス効果素子)は、素子の長さ方向の外部磁界Hexに感応するので、例えば磁界センサとして用いる場合などにおいて、従来のコイル巻き磁心を用いた磁束検出型の磁界検知素子などと異なり、センサヘッドの長さを1mm程度以下に小型化しても磁界検出角度が劣化せず、10−5Oe程度の高分解能を有する微弱磁界センサが得られるばかりでなく、数MHz以上の励磁が可能であるため、数百MHzの高周波磁界が振幅変調のキャリアとして使用でき、従って磁界センサの遮断周波数を10MHz以上に設定することが容易であることなどから、新しい超小型磁気ヘッドや微弱磁界検出器等としての応用が期待されている。
【0006】
磁気インピーダンス効果を有する軟磁性材料としては、Fe−Co−Si−B系、例えば(Fe6Co94)72.5Si12.5B15の非晶質ワイヤ(毛利佳年雄ほか、「磁気インピーダンス(MI)素子」、電気学会マグネティクス研究会資料vol.1,MAG−94,No.75−84,P27−36,1994年発行)等が報告されている。このFe−Co−Si−B系非晶質ワイヤは、線径が5μmから124μmのものが用いられている。また、このFe−Co−Si−B系材料の磁気−インピーダンス特性は、図13に実線で示すように、印加する正負の外部磁界Hex(Oe)に対する出力電圧Emi(mV)は、外部磁界Hex=0(Oe)を中心として略左右対称形状の特性を示す。また、図13からわかるように、印加する外部磁界Hexが−2Oe〜+2Oe程度の微弱磁界の範囲内では感度がきわめて急峻に立ち上がるため、この間で定量性を得ることが困難であり、微弱磁界を検知する磁気インピーダンス効果素子としては実用的ではない。
【0007】
また、絶対値で2Oeを越える磁界領域においては、緩やかに変化しているために定量性を得ることが比較的容易であり使用可能ではある。しかし、実際の磁気インピーダンス効果素子として用いるには、外部磁界Hex=0(Oe)付近における出力を取りやすくするため、数Oeのバイアス磁界Hbiを印加して、磁気−インピーダンス特性の曲線を横方向(外部磁界Hexの軸方向)にシフトさせ、例えば図11中に点線で示したように直線的な部分が外部磁界Hex=0(Oe)の軸上に存在させる必要がある。
【0008】
従来、図14に示すように、磁気インピーダンス効果素子Miがワイヤ状(またはリボン状)であるため、その周囲にコイルCを適宜巻き数だけ巻回し、このコイルCに直流電流Idcを流すことによりバイアス磁界Hbiを発生させて、磁気インピーダンス効果素子Miの長手方向に印加していた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、微小なワイヤ状(またはリボン状)の磁気インピーダンス効果素子MiにコイルCを巻回する工程が非常に煩雑となり、製造コスト高となるとともに、磁気インピーダンス効果素子MiにコイルCを巻回すると大型化し、磁気ヘッドや微弱磁界検出器等の磁気インピーダンス効果素子センサに適用した場合に小型化を阻害する。また、バイアス磁界Hbiを発生させるためにコイルCに直流電流Idcを流すので直流電源Edcによる電力が必要となり、磁気インピーダンス効果素子センサの省電力化を阻害する。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、小型化・省電力化を図った磁気インピーダンス効果素子を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の磁気インピーダンス効果素子は、磁気インピーダンス効果を有する磁性薄膜層と、該磁性薄膜層に対して印加される外部磁界が印加される方向と平行にバイアス磁界を印加する薄膜からなるバイアス磁界印加手段とを備え、前記バイアス磁界印加手段が前記磁性薄膜層の両端部に接触して設けられた磁石層からなることを特徴とするものである。
【0014】
また、第4の解決手段として、本発明の磁気インピーダンス効果素子は、前記磁性薄膜層の外部磁界が印加される方向が、磁化困難軸とされてなる構成とした。
【0015】
また、第5の解決手段として、本発明の磁気インピーダンス効果素子は、前記磁性薄膜層が、磁場中でアニール又は成膜されてなる構成とした。
【0016】
また、第6の解決手段として、本発明の磁気インピーダンス効果素子は、前記磁性薄膜層が、組成式ColTamHfnで表され、アモルファス相を主体とし軟磁性薄膜からなり、l、m、nはat%で、70≦l≦90、5≦m≦21、6.6≦n≦15、1≦m/n≦2.5の関係を満足する構成とした。
【0017】
また、第7の解決手段として、本発明の磁気インピーダンス効果素子は、前記磁性薄膜層が、組成式FehRiOjで表され、全組織の50%以上がアモルファス相であり、残部は平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFe結晶粒である軟磁性薄膜からなり、Rは希土類元素及びTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、h、i、jはat%で、45≦h≦70、5≦i≦30、10≦j≦40、h+i+j=100の関係を満足する構成とした。尚、上記組成において元素Rが希土類元素から選ばれる1種又は2種の元素である場合には、h、jはat%で50≦h≦70、10≦j≦30であることがより好ましい。
【0018】
また、第8の解決手段として、本発明の磁気インピーダンス効果素子は、前記磁性薄膜層は、組成式が(Co1−vTv)xMyOzXwで表され、元素Mの酸化物を多量に含むアモルファス相と、Coと元素Tを主体とするbcc構造、fcc構造の1種または2種以上の結晶粒からなる微結晶相が混在した軟磁性薄膜からなり、TはFe、Niのうちいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、Ta、Cr、Mo、Si、P、C、W、B、Al、Ga、Ge及び希土類元素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、XはAu、Ag、Cu、Ru、Rh、Os、Ir、Pt,Pdからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、組成比を表すvは0≦v≦0.7、x、y、z、wはat%で、3≦y≦30、7≦z≦40、0≦w≦20、20≦y+z+w≦60の関係を満足し、残部はxである構成とした。なお、軟磁性薄膜は元素Mの酸化物を多量に含むアモルファス相は、全組織の50%以上を占めることがより好ましい。
【0019】
また、第9の解決手段として、本発明の磁気インピーダンス効果素子は、前記磁性薄膜層は、組成式がCoaZrbNbcで表され、アモルファス相を主体とした軟磁性薄膜からなり、a、b、cはat%で、78≦a≦91、b=(0.5〜0.8)×(100−a−b)、c=100−a−bの関係を満足する構成とした。
【0020】
また、第10の解決手段として、本発明の磁気インピーダンス効果素子は、前記薄膜磁性層は、組成式がT100−d−e−f−g−Xd−Me−Zf−Qgで表され、平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFeの結晶粒、bcc構造のFeCo結晶粒、fcc構造のCo結晶粒のいずれか一つ、もしくはこれらが混合した状態からなる組成が全組成の50%以上を占める軟磁性薄膜からなり、TはFe、Coのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、XはSi、Alのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、ZはC、Nのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、QはCr、Re、Ru、Rh、Ni、Pd、Pt、Auからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、d、e、f、gはat%で、0≦d≦25、1≦e≦10、0.5≦f≦15、0≦g≦10の関係を満足する構成とした。なお、結晶粒以外の組織は主にアモルファス相である。
【0021】
また、第11の解決手段として、本発明の磁気インピーダンス効果素子は、前記薄膜磁性層は、組成式がT100−d−e−f−g−Xd−Me−Zf−Qgで表され、平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFeの結晶粒、bcc構造のFeCo結晶粒、fcc構造のCo結晶粒のいずれか一つ、もしくはこれらが混合した状態からなる組成が全組成の50%以上を占める軟磁性薄膜からなり、TはFe、Coのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、XはSi、Alのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、ZはC、Nのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、QはCr、Re、Ru、Rh、Ni、Pd、Pt、Auからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、d、e、f、gはat%で、0≦d≦25、1≦e≦10、0.5≦f≦15、0≦g≦10の関係を満足する構成とした。なお、結晶粒以外の組織は主にアモルファス相である。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の第1の実施の形態の磁気インピーダンス効果素子について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態の磁気インピーダンス効果素子を説明する図であり、同図Aは、磁気インピーダンス効果素子の要部断面図であり、同図Bは、磁性薄膜層の斜視図であり、同図Cは、本発明の磁気インピーダンス効果素子の回路説明図である。
【0023】
本発明者らは、磁気インピーダンス効果を有する磁性材料を薄膜化し、バイアス磁界を印加する手段をも薄膜で構成し積層させる構造により、磁気インピーダンス効果素子の小型化を実現でき、さらに特定の磁性材料を磁性薄膜層として用いることにより、微弱なバイアス磁界により適正な感度を有する磁気インピーダンス効果素子が得られることに想到した。図1に示すように、本実施の形態の磁気インピーダンス効果素子は、ガラス等からなる基板1の上層には、スパッタ等により設けられ、磁気インピーダンス効果を有し、室温において軟磁性(Soft magnetism)を示す強磁性体の磁性薄膜層2が設けられている。また、図1Bに示すように、磁性薄膜層2は、その長手方向の長さLが2mm〜8mm、短手方向の幅Sが0.5mm〜1mm、膜厚Tが2μmとなっている。なお、図においては特に膜厚(上下)方向を誇張して記している。
【0024】
また、Cr等からなる2つの電極層3、3は、磁性薄膜層2の両端部に磁性薄膜層2と同程度の膜厚T(2μm)となるようにして設けられ、交流電源(図示せず)と接続されている。また、Co−Pt合金等の硬磁気特性を示す強磁性体からなる2つの磁石層4、4は、スパッタ等により薄膜で設けられており、磁性薄膜層2と電極層3、3との上部に跨って積層されて磁性薄膜層2に接触した状態で設けられている。
【0025】
以上のようにして構成された磁気インピーダンス効果素子の動作時には、図1に示すように交流電源Eacからの交流電流Iacが、電極層3を介して磁性薄膜層2へ通電される。そして、検知する外部磁界Hexが磁性薄膜層2の長手方向に印加されると、磁性薄膜層2の両端に材料固有のインピーダンスによる出力電圧Emiが発生し、その振幅が外部磁界Hexの強度に対応して変化する。この時、磁石層4、4がバイアス磁界印加手段となり、その漏れ磁界を利用したバイアス磁界Hbiを磁性薄膜層2の長手方向、即ち外部磁界Hexが印加される方向と平行な方向に印加して、得られた磁気−インピーダンス特性の外部磁界Hex=0(Oe)付近における出力を取りやすくできるようにシフトすることができる。そして、実際の磁気インピーダンス効果素子して用いた時に、定量的に信頼性が高いものとすることができる。
【0026】
以上のようにバイアス磁界印加手段が高磁気特性を有する強磁性体からなる磁石層4、4により構成されることで、バイアス磁界Hbiを発生させる際にバイアス磁界印加手段に電流を流す必要が無く、磁気インピーダンス効果素子の省電力化を図ることができる。また、Co−Pt合金等を用いたスパッタ等により薄膜で磁石層4、4を形成することで、磁気インピーダンス効果素子の小型化を図ることができる。
【0027】
次に、本発明の第2の実施の形態の磁気インピーダンス効果素子について説明する。図2は、本発明の第2の実施の形態の磁気インピーダンス効果素子を説明する要部断面図である。本実施の形態は第1の実施の形態とは構造が異なり、磁性薄膜層2へのバイアス磁界印加手段となり、磁性薄膜層2と同程度の膜厚Tとなるようにスパッタ等により薄膜で設けられた2つの磁石層4、4が、磁性薄膜層2の両端部に接触した状態で基板1上に配設されている。また、2つの電極層3、3は、磁性薄膜層2と磁石層4、4との上部に跨って積層され、磁性薄膜層2に接触した状態で設けられている。このようにすることによっても第1の実施の形態と全く同じように、磁石層4、4によりバイアス磁界Hbiが磁性薄膜層2の長手方向に印加され、得られた磁気−インピーダンス特性をシフトさせることができる。
【0028】
次に、本発明の第3の実施の形態の磁気インピーダンス効果素子について説明する。図3は、本発明の第3の実施の形態の磁気インピーダンス効果素子を説明する要部断面図である。本実施の形態においては、バイアス磁界印加手段として反強磁性材料からなる反強磁性薄膜層5を用い、軟磁気特性を備えた強磁性体であり、磁気インピーダンス効果を有する磁性薄膜層2との接触界面で生じる交換異方性磁界を利用して、バイアス磁界Hbiを印加する。
【0029】
図3に示したように、ガラス等からなる基板1の上層にはスパッタ法や蒸着法等により設けられ、磁気インピーダンス効果を有し、室温において軟磁性(Soft magnetism)を示す強磁性体の磁性薄膜層2が設けられている。また、磁性薄膜層2の形状は、図1Bに示した第1の実施の形態と同様に、長手方向の長さLが2mm〜8mm、短手方向の幅Sが0.5mm〜1mm、膜厚Tが2μmとなっている。
【0030】
また、Fe−Mn合金やNi−Mn合金、Pt−Mn合金、NiO等からなる反強磁性薄膜層5は、磁性薄膜層2の上に直接積層されて、磁性薄膜層2と同形状の長手方向の長さLが2mm〜8mm、短手方向の幅Sが0.5mm〜1mmで設けられており、膜厚Tは5μmである。このようにすることによっても、反強磁性薄膜層5によりバイアス磁界Hbiが磁性薄膜層2の長手方向に印加され、得られた磁気−インピーダンス特性をシフトさせることができる。
【0031】
以上第1〜第3の実施の形態で示した磁気インピーダンス効果を有する磁性薄膜層2は、その長手方向、即ち外部磁界Hexが印加される方向が磁化困難軸となっていることが望ましい。外部磁界Hexが印加される方向が磁化困難軸であると、その方向において透磁率が上昇し、印加される外部磁界Hexに対する検知感度が上昇するためである。このような外部磁界Hexが印加される方向に磁化困難軸が設けられた磁性薄膜層2は、磁場中でスパッタ等により成膜を行うか、又は磁場の無い(小さい)状態で成膜された後の磁性薄膜層2を高温雰囲気下の磁場中に置き、磁場中アニールすることで容易に形成される。
【0032】
【実施例】
(実施例1)
以下に、本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いることができる磁気インピーダンス効果を有する磁性材料ごとに実施例を説明する。図4は、本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられる磁性薄膜層の磁気−インピーダンス特性を測定するための回路説明図である。また、図5及び図6は、本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられるColTamHfn系アモルファス磁性薄膜層の磁気−インピーダンス特性を示すグラフ図であり、図5は、磁性薄膜層の短手方向の幅Sが0.5mmのものであり、図6は、磁性薄膜層の短手方向の幅Sが1mmのものである。
【0033】
本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられる磁性薄膜層2を形成する材料としては、組成式がColTamHfnで表され、各組成比は、l、m、nはat%で、70≦l≦90、5≦m≦21、6.6≦n≦15、1≦m/n≦2.5の関係をそれぞれ満足し、アモルファス相を主体とした組織を有し、軟磁気特性を示す材料を挙げることができる。
【0034】
本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられる磁性薄膜層2は、軟磁気特性を備えた強磁性体であることが必要である。即ち、軟磁気特性を備えた材料(軟磁性材料)は、磁気インピーダンス効果を有しているからである。また、軟磁性材料からなる磁性薄膜層2には、以下のような特性が要求される。まず、数十MHz〜数GHzの高周波領域において透磁率μが高くなくてはならない(但し、磁気インピーダンス効果素子の用途によって、透磁率μが高い必要がある周波数帯は異なる)。これと関連して、高周波領域で透磁率μが高くなるためには、比抵抗ρが大きくなければならない。そして、外部磁界Hexにより軟磁性材料に応力がかかって磁気特性が劣化しないように、磁歪定数λが小さいことが好ましい。
【0035】
まず、ColTamHfn系の磁性薄膜層2を作製し、飽和磁束密度Bs、比抵抗ρ及び磁歪定数λを求めた。磁性薄膜層2は、入力電力200Wの高周波スパッタ装置に4インチ径のColTamHfn系合金ターゲットを配設すると共に、5×10−3TorrのArガス圧下でスパッタを行って、ガラスからなる基板1上に成膜した。また、磁性薄膜層2は、長手方向の長さLが2、4、6、8mm、短手方向の幅Sが0.5mm又は1mmの長方形状に形成し、膜厚Tが約2μmとなるようにスパッタ時間を調整して成膜した。次いで、真空加熱炉内に磁性薄膜層2が成膜された基板1を置き、磁場中で500℃、60分間保持した後に徐冷してアニール処理を行って、磁性薄膜層2の長手方向が磁化困難軸となるようにした。
【0036】
ColTamHfn系の磁性薄膜層2においては、その飽和磁束密度BsはCoの含有率に依存しており、0.5T以上の飽和磁束密度Bsを得るには少なくともCoの含有率が70at%以上必要であった。また、Coの含有率が90at%を越えると比抵抗ρが小さくなるので、Coの含有率は90at%以下とした。
【0037】
また、Ta及びHfは軟磁気特性を得るための元素であり、Taの含有率が5at%以上21at%以下、Hfの含有率が6at%以上15at%以下の組成範囲内で添加することにより、飽和磁束密度Bsが大きく比抵抗ρが大きい軟磁性材料とすることができた。併せてHfはCo−Ta系において発生する負の磁歪定数λを解消するための元素ともなり、磁歪定数λは(Taの含有量)/(Hfの含有量)で表される比率に依存することが判明し、この比率が1以上2.5以下となる上述の組成範囲内で添加することにより良好に磁歪定数λを解消することができた。
【0038】
次に、ColTamHfn系の磁性薄膜層2の磁気−インピーダンス特性を測定した。まず、図4に示すように、その長手方向の両端部にCr等からなる2つの電極層3、3を磁性薄膜層2と同程度の膜厚Tで設け、交流電源Eacと接続した。そして、3MHzの交流電流Iacを通電した状態で、磁性薄膜層2の長手方向に外部磁界Hexを印加し、磁気−インピーダンス特性を測定した。
【0039】
図5には、短手方向の幅S=0.5mmに形成したCo83Ta6Hf11からなる磁性薄膜層2の磁気−インピーダンス特性を示す。このように外部磁界Hex=0(Oe)を中心に正負磁界の絶対値に依存して正負方向に略対称的に出力電圧Emi、即ちインピーダンスが変化(上昇)し、薄膜により構成した磁性薄膜層2は磁気インピーダンス効果を有していることがわかる。また、磁性薄膜層2の長手方向の長さLを2、4、6、8mmと変化させても、それぞれ異なる磁気−インピーダンス特性を有しており、様々なサイズの磁気インピーダンス効果素子に対応して設けることができることがわかる。また、磁性薄膜層2の長手方向の長さLを変化させることで、検知感度や用途が異なる様々な磁気インピーダンス効果素子に対応させることができる。
【0040】
また、図6には、短手方向の幅S=1.0mmに形成したCo83Ta6Hf11からなる磁性薄膜層2の磁気−インピーダンス特性を示す。図5と同様に、長手方向の長さLを2、4、6、8mmと変化させると、磁気−インピーダンス特性も変化している。また、図5と比較して、同じ長手方向の長さLであっても、膜厚Tを2倍にすることで、磁気−インピーダンス特性の立ち上がりが緩やかになっていることがわかる。このように膜厚Tを変化させることによっても、磁気−インピーダンス特性を変化させることができ、サイズや検知感度、用途が異なる様々な磁気インピーダンス効果素子に対応させることができる。
【0041】
また、図5及び図6に示したように、外部磁界Hexの極性に関わらず、インピーダンス変化による出力電圧Emiが緩やかに変化しているため、この緩やかに変化している部分において定量性を得やすい。
また、上述の第1〜第3の実施の形態に示したバイアス磁界印加手段により、数Oeのバイアス磁界Hbiを磁性薄膜層2に印加して、磁気−インピーダンス特性の曲線を横方向(外部磁界Hexの軸方向)にシフトさせ、外部磁界Hex=0(Oe)付近における出力を取りやすくすることができる。また、印加するバイアス磁界Hbiは、2Oe程度の軽微なもので良いことがわかる。
そして、これら磁性薄膜層2に前述のバイアス磁界印加手段として、磁性薄膜2の上層に、Fe−Mn合金、Ni−Mn合金、Pt−Mn合金、Ir−Mn合金、Pd−Mn合金等の反強磁性材料からなる反強磁性薄膜層5を配設するか、磁性薄膜層2の両端部に配設されたCo−Pt系合金等の硬磁性材料の薄膜からなる磁石層4、4を配設するものであるから、小型化に対応でき、製造も容易な磁気インピーダンス効果素子を得ることができる。
【0042】
(実施例2)
図7は、本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられるFehRiOj系磁性薄膜層の磁気−インピーダンス特性を示すグラフ図である。磁気インピーダンス効果を有する他の磁性薄膜層2として、組成式がFehRiOjで表され、Rは希土類元素及びTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、h、i、jはat%で、45≦h≦70、5≦i≦30、10≦j≦40、h+i+j=100の関係をそれぞれ満足する軟磁気特性を示す材料を用いることができる。なお、全組織の50%以上を占め、軟磁性薄膜は元素MもしくはRの酸化物を多量に含むアモルファス相と、残部が平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFeを主体とする微結晶相が混在するとより好ましい。
【0043】
まず、上述のFehRiOj系の磁性薄膜層2を作製し、飽和磁束密度Bs、比抵抗ρ及び透磁率μ(10MHz)を求めた。磁性薄膜層2は、入力電力400WのRFマグネトロンスパッタ装置を用いて、Feターゲット上にRの各元素の各種ペレットを配置した複合ターゲットを用い、Ar+0.1〜2.0%O2の雰囲気中、5×10−3TorrのAr+O2ガス圧下でスパッタを行い、ガラスからなる基板1を間接水冷しながら上に成膜した。また、磁性薄膜層2は、長手方向の長さLが4mm、短手方向の幅Sが1mmの長方形状に形成し、膜厚Tが約2μmとなるようにスパッタ時間を調整して成膜した。次いで、真空加熱炉内に磁性薄膜層2が成膜された基板1を置き、磁場中で400℃、120分間保持した後に徐冷してアニール処理を行って、磁性薄膜層2の長手方向が磁化困難軸となるようにした。その一部の測定結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1より、FehRiOj系の磁性薄膜層2において、上述の組成範囲とすることで、飽和磁束密度Bsは1.0T以上と高く、また、比抵抗ρはおよそ400〜1000(μΩ・cm)と大きいことがわかる。また、透磁率μに関しては、10MHzにおいては表1に示したように数百以上と大きく、また、上述のように比抵抗ρも大きいことから、さらに高周波領域においても透磁率μが高くなることがわかる。なお、上述の組成範囲を外れると、軟磁気特性が劣化することがわかっている。このようにFehRiOj系の磁性薄膜層2は、バランスのとれた優れた軟磁性材料であることがわかる。
【0046】
次に、FehRiOj系の磁性薄膜層2の磁気−インピーダンス特性を測定した。また、磁気−インピーダンス特性の測定方法については、実施例1(図4)と同様な方法に依った。図7には、例として、Fe55Hf11O34からなる磁性薄膜層2の磁気−インピーダンス特性を示す。図7から明らかなように、Fe55Hf11O34からなる磁性薄膜層2は、磁気インピーダンス効果を有していることがわかる。また、外部磁界Hexの極性に関わらず、優れた直線性を有して変化しており、2Oe程度の軽微なバイアス磁界Hbiを磁性薄膜層2に印加して、外部磁界Hex=0(Oe)付近における出力を取りやすくすることができる。このようなバイアス磁界Hbiを印加する手段としては、第1〜第3の実施の形態で示したように、磁性薄膜層2の両端部に磁石層4、4を配設するか、磁性薄膜層2の上層に反強磁性薄膜層5を配設することで実現できる。
【0047】
(実施例3)
図8は、本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられる(Co1−vTv)xMyOzXw系磁性薄膜層の周波数と透磁率との関係を示すグラフ図である。磁気インピーダンス効果を有するさらに他の磁性薄膜層2として、組成式が(Co1−vTv)xMyOzXwで表され、TはFe、Niのうちいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、Ta、Cr、Mo、Si、P、C、W、B、Al、Ga、Ge及び希土類元素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、XはAu、Ag、Cu、Ru、Rh、Os、Ir、Pt、Pdからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、組成比を表すvは0≦v≦0.7、x、y、z、wはそれぞれat%で、3≦y≦30、7≦z≦40、0≦w≦20、20≦y+z+w≦60の関係をそれぞれ満足し、残部はxであり、これらの組成において、(Co1−vTv)xMyOzXwで表される磁性薄膜層2は、元素Mの酸化物を多量に含むアモルファス相と、Coと元素Tを主体とするbcc構造、fcc構造の1種または2種以上の結晶粒からなる微結晶相が混在し、さらに、前記微結晶相には元素Mの酸化物を含んだ結晶構造を有し、軟磁気特性を示す材料を用いることができる。
【0048】
上述の(Co1−vTv)xMyOzXw系の磁性薄膜層2を作製し、比抵抗ρ及び実効透磁率μ′、虚数部の透磁率μ″を求めた。磁性薄膜層2は、入力電力200Wの高周波二極スパッタ装置を用いて、CoターゲットにT及びMの各元素の各種ペレットを配置した複合ターゲットを用い、Ar+0.1〜2.0%O2の雰囲気中、5×10−3TorrのAr+O2ガス圧下でスパッタを行い、ガラスからなる基板1を間接水冷しながら、その上に成膜した。
【0049】
(Co1−vTv)xMyOzXw系の磁性薄膜層2の比抵抗ρはおよそ1200(μΩ・cm)以上と非常に大きく、高周波領域においても透磁率が高くなることがわかる。また、(Co1−vTv)xMyOzXw系の磁性薄膜層2の周波数に対する透磁率の関係は、図8に示すCo44.3Fe19.1Hf14.5O22.1を例として説明すると、実効透磁率μ′はGHz帯まで高い値で略一定の値をとっており、虚数部の透磁率μ″も低く抑えられている。また、(実効透磁率μ′)/(虚数部の透磁率μ″)で表されるいわゆる性能係数Qは、周波数が1GHz以下においては約2以上となっており、損失を低く抑えることができる範囲であるQ≧1を確保できる。また、その他の(Co1−vTv)xMyOzXw系の磁性薄膜層2についても、500MHzにおける実効透磁率μ′、虚数部の透磁率μ″及び性能係数Qを求め、表2に記載した。
【0050】
【表2】
【0051】
表2より、500MHzという高周波領域においても高い実効透磁率μ′を有し、性能係数Qも1以上となっており、(Co1−vTv)xMyOzXw系の磁性薄膜層2は損失の少ない優れた軟磁性材料であることがわかる。なお、上述の組成範囲を外れると、軟磁気特性が劣化することがわかっている。このような優れた軟磁性材料は良好な磁気インピーダンス効果を発揮するため、高感度且つ高速応答が要求される磁気インピーダンス効果素子の磁性薄膜層2に適用することができる。
【0052】
(実施例4)
図9は、本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられるCoaZrbNbc系磁性薄膜層の磁気特性を示すグラフ図であり、同図AはCo濃度(at%)と飽和磁束密度Bsとの関係を示すグラフ図であり、同図BはZr/Nbと磁歪定数λとの関係を示すグラフ図であり、同図Cは10MHzにおけるCo濃度と透磁率μとの関係を示すグラフ図である。磁気インピーダンス効果を有するさらに他の磁性薄膜層2として、組成式がCoaZrbNbcで表され、各組成比は、a、b、cはat%で、78≦a≦91、b=(0.5〜0.8)×(100−a−b)、c=100−a−bの関係をそれぞれ満足し、アモルファス単相もしくはアモルファス相を主体とし、軟磁気特性を示す材料を用いることができる。
【0053】
上述のCoaZrbNbc系の磁性薄膜層2を作製し、飽和磁束密度Bs、磁歪定数λ、比抵抗ρ及び透磁率μを求めた。磁性薄膜層2は、RFコンベンショナルスパッタ装置を用いて、CoターゲットにZr及びNbの各ペレットを配置した複合ターゲットを用い、Arの雰囲気中で磁場中スパッタを行って成膜した。
【0054】
図9Aに示すように、飽和磁束密度BsはCoの濃度に依存し、Coの濃度が78〜91at%の時には飽和磁束密度Bsが0.6〜1.4(T)と高い値を示す。Coの濃度が91at%を越えると、耐食性が低下すると共にアモルファス相になりにくく結晶化し始めるので好ましくない。また、Coの濃度が78at%未満であると、Co同士が隣接する割合が減り軟磁気特性を示しにくくなり好ましくない。
【0055】
また、図9Bに示すように、磁歪定数λはZr/Nbに対して直線的に変化しており、より優れた軟磁性材料としての目安である磁歪定数λ≦0.5×10−6とするためには、0.5≦Zr/Nb≦0.8である必要がある。即ち、Zrの組成比b(at%)は(0.5〜0.8)×(100−a−b)となり、Nbの組成比c(at%)は残部(100−a−b)となる。
【0056】
また、図9Cに示すように、10MHzにおける透磁率μは、Coの濃度が78〜91at%の範囲内では、いずれにしても900以上の高い値となっていることがわかる。以上のように、CoaZrbNbc系磁性薄膜層2は優れた軟磁性材料であり、このような優れた軟磁性材料は良好な磁気インピーダンス効果を発揮するため、高感度且つ高速応答が要求される磁気インピーダンス効果素子の磁性薄膜層2に適用することができる。
【0057】
(実施例5)
磁気インピーダンス効果を有するさらに他の磁性薄膜層2として、組成式がT100−d−e−f−gXdMeZfQgで表され、平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFeの結晶粒、bcc構造のFeCo結晶粒、fcc構造のCo結晶粒のいずれか一つ、もしくはこれらが混合した状態からなる組成が全組成の50%以上を占める軟磁性薄膜からなり、TはFe、Coのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、XはSi、Alのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、ZはC、Nのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、QはCr、Re、Ru、Rh、Ni、Pd、Pt、Auからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、d、e、f、gはat%で、0≦d≦25、1≦e≦10、0.5≦f≦15、0≦g≦10の関係をそれぞれ満足し、軟磁気特性を示す材料を用いることができる。
【0058】
また、組成式がT100−p−q−f−gSipAlqMeZfQgで表され、平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFeの結晶粒、bcc構造のFeCo結晶粒、fcc構造のCo結晶粒のいずれか一つ、もしくはこれらが混合した状態からなる組成が全組成の50%以上を占める軟磁性薄膜からなり、TはFe、Coのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、ZはC、Nのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、QはCr、Re、Ru、Rh、Ni、Pd、Pt、Auからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、p、q、e、f、gはat%で、8≦p≦15、0≦p≦10、1≦e≦10、0.5≦f≦15、0≦g≦10の関係をそれぞれ満足し、軟磁気特性を示す材料を用いることができる。
【0059】
まず、上述のT100−d−e−f−gXdMeZfQg系及びT100−p−q−f−gSipAlqMeZfQg系の磁性薄膜層2を作製した。磁性薄膜層2は、スパッタ又は蒸着等により形成でき、スパッタ装置としてはRF2極スパッタ、DCスパッタ、マグネトロンスパッタ、3極スパッタ、イオンビームスパッタ、対向ターゲット式スパッタ等の既存のものを用いることができる。また、磁性薄膜層2は、長手方向の長さLが2または4mm、短手方向の幅Sが0.5mmの長方形状に形成し、膜厚Tが約2μmとなるようにスパッタ時間を調整して成膜した。
この時点において、得られた磁性薄膜層2は、成膜後はアモルファス相を主体とするものであるが、550〜750℃、20分間保持して熱処理を行って、結晶粒の平均粒径30nm以下の結晶組織を有するようにし、結晶組織は、bcc構造のFeの結晶粒、bcc構造のFeCoの結晶粒、fcc構造のCoの結晶粒の少なくとも一種類以上と、これらの周囲に存在する金属元素Mの炭化物又は窒化物の結晶粒とを主体として含むものである。この磁性薄膜層2の結晶粒の占める割合は少なくとも50%以上であり、残部は主にアモルファス相である。
これらの実効透磁率μ(1MHz)、保磁力Hc及び磁歪定数λを求めた結果を表3に示す。なお、これら磁性薄膜層2は、必要に応じて長手方向と直交する方向の磁場中で成膜もしくはアニールを行って、長手方向を磁化困難軸としても良い。
【0060】
【表3】
【0061】
表3より、上述の組成範囲内のT100−d−e−f−gXdMeZfQg系及びT100−p−q−f−gSipAlqMeZfQg系の磁性薄膜層2は、1MHzにおいて1500〜5100という高い透磁率μを有しており、また、保磁力Hcも低く、併せて磁歪定数λも10−6台と小さいことがわかる。このようにT100−d−e−f−gXdMeZfQg系の磁性薄膜層2は、高感度且つ高速応答が要求される磁気インピーダンス効果素子に好ましく適用できる優れた軟磁性材料であることがわかる。
【0062】
次に、T100−p−q−f−gSipAlqMeZfQg系の磁性薄膜層2の磁気−インピーダンス特性を、実施例1(図4)と同様な方法で測定した。図10、図11には、例として、それぞれ長手方向の長さLが2、4mm、幅Sは0.5mm、膜厚Tは2μmであるFe71.4Si13.1Al5.8Hf3.3C4.5Ru1.9からなる磁性薄膜層2の磁気インピーダンス特性を示す。なお、この例の磁性薄膜層2は、磁場中にて成膜し、成膜後、磁性薄膜層2の長手方向が磁化困難軸となるように、長手方向と直交する方向の磁場中にて、575℃で30分間アニールしたものである。
図10、図11から明らかなように、Fe71.4Si13.1Al5.8Hf3.3C4.5Ru1.9からなる磁性薄膜層2は、磁気インピーダンス効果を有していることがわかる。また、磁性薄膜層2の長手方向の長さLを2、4mmと変化させても、それぞれ異なる磁気−インピーダンス特性を有しており、様々なサイズの磁気インピーダンス効果素子に対応して設けることができることがわかる。また、磁性薄膜層2の長手方向の長さLを変化させることで、検知感度や用途が異なる様々な磁気インピーダンス効果素子に対応させることができる。
【0063】
また、図10及び図11に示したように、 外部磁界Hexの極性に関わらず、インピーダンス変化による出力電圧Emiが緩やかに変化しているため、この緩やかに変化している部分において定量性を得やすい。また、上述の第1〜第3の実施の形態に示したバイアス磁界印加手段により数Oeのバイアス磁界Hbiを印加して、磁気−インピーダンス特性の曲線を横方向(外部磁界Hexの軸方向)にシフトさせ、外部磁界Hex=0(Oe)付近における出力を取りやすくすることができる。また、印加するバイアス磁界Hbiは、2Oe程度の軽微なもので良いことがわかる。
そして、これら磁性薄膜層2に前述のバイアス磁界印加手段として、磁性薄膜2の上層に、Fe−Mn合金、Ni−Mn合金、Pt−Mn合金、Ir−Mn合金、Pd−Mn合金等の反強磁性材料からなる反強磁性薄膜層5を配設するか、磁性薄膜層2の両端部に配設されたCo−Pt系合金等の硬磁性材料の薄膜からなる磁石層4、4を配設するか、ものであるから、小型化に対応でき、製造も容易な磁気インピーダンス効果素子を得ることができる。
【0064】
【発明の効果】
本発明の磁気インピーダンス効果素子によれば、磁気インピーダンス効果を有する磁性薄膜層と、磁性薄膜層に対して印加される外部磁界が印加される方向と平行にバイアス磁界を印加する薄膜からなるバイアス磁界印加手段とを備えてなることにより、磁気インピーダンス効果素子にコイルを巻回せずにバイアス磁界を印加できるため、磁気インピーダンス効果素子の小型化を図ることができる。
【0065】
また、本発明の磁気インピーダンス効果素子によれば、バイアス磁界印加手段が、磁性薄膜層の両端部に接触して設けられた磁石層からなることにより、バイアス磁界を発生させるために電流を流す必要がなく、磁気インピーダンス効果素子の省電力化を実現することができる。
【0066】
また、本発明の磁気インピーダンス効果素子によれば、バイアス磁界印加手段が、磁性薄膜層に積層して設けられた硬磁性薄膜層又は反強磁性薄膜層からなることによっても、バイアス磁界を発生させるために電流を流す必要がなく、磁気インピーダンス効果素子の省電力化を実現することができる。
【0067】
また、本発明の磁気インピーダンス効果素子によれば、磁性薄膜層の外部磁界が印加される方向が、磁化困難軸とされてなることにより、その方向において透磁率が上昇し、印加される外部磁界に対する磁気インピーダンス効果素子の検知感度を上昇させることができる。
【0068】
また、本発明の磁気インピーダンス効果素子によれば、磁性薄膜層が、磁場中でアニール又は成膜されてなることにより、外部磁界Hexが印加される方向に磁化困難軸が設けられた磁性薄膜層を容易に形成することができる。
【0069】
また、本発明の磁気インピーダンス効果素子によれば、磁性薄膜層は、組成式がColTamHfnで表され、アモルファス相を主体とした軟磁性薄膜からなり、l、m、nはat%で、70≦l≦90、5≦m≦21、6.6≦n≦15、1≦m/n≦2.5の関係を満足することにより、磁気−インピーダンス特性の優れた軟磁気特性を有する磁性材料を得ることができ、高い感度の磁気インピーダンス効果素子の磁性薄膜層として用いることができる。
【0070】
また、本発明の磁気インピーダンス効果素子によれば、組成式がFehRiOjで表され、全組織の50%以上がアモルファス相であり、残部は平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFe結晶粒である軟磁性薄膜からなり、Rは希土類元素及びTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、h、i、jはat%で、45≦h≦70、5≦i≦30、10≦j≦40、h+i+j=100の関係を満足することによっても、磁気−インピーダンス特性の優れた軟磁気特性を有する磁性材料を得ることができ、高い感度の磁気インピーダンス効果素子センサの磁性薄膜層として用いることができる。尚、上記組成の軟磁性薄膜において、元素Rが希土類元素から選ばれる1種又は2種の元素である場合には、h、jはat%で50≦h≦70、10≦j≦30であることがより好ましい。
【0071】
また、本発明の磁気インピーダンス効果素子によれば、磁性薄膜層は、組成式が(Co1−vTv)xMyOzXwで表され、元素Mの酸化物を多量に含むアモルファス相に、Coと元素Tを主体とするbcc構造、fcc構造の1種または2種以上の結晶粒からなる微結晶層が混在した軟磁性薄膜からなり、TはFe、Niのうちいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、Ta、Cr、Mo、Si、P、C、W、B、Al、Ga、Ge及び希土類元素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、XはAu、Ag、Cu、Ru、Rh、Os、Ir、Pt,Pdからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、組成比を表すvは0≦v≦0.7、x、y、z、wはat%で、3≦y≦30、7≦z≦40、0≦w≦20、20≦y+z+w≦60の関係を満足し、残部はxであることによっても、磁気−インピーダンス特性の優れた軟磁気特性を有する磁性材料を得ることができ、高い感度の磁気インピーダンス効果素子の磁性薄膜層として用いることができる。
【0072】
また、本発明の磁気インピーダンス効果素子によれば、磁性薄膜層は、組成式がCoaZrbNbcで表され、アモルファス相を主体とした軟磁性薄膜からなり、a、b、cはat%で、78≦a≦91、b=(0.5〜0.8)×(100−a)、c=100−a−bの関係を満足することによっても、磁気−インピーダンス特性の優れた軟磁気特性を有する磁性材料を得ることができ、高い感度の磁気インピーダンス効果素子の磁性薄膜層として用いることができる。
【0073】
また、本発明の磁気インピーダンス効果素子によれば、薄膜磁性層は、組成式がT100−p−q−f−gSipAlqMeZfQgで表され、平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFeの結晶粒、bcc構造のFeCo結晶粒、fcc構造のCo結晶粒のいずれか一つ、もしくはこれらが混合した状態からなる組成が全組成の50%以上を占める軟磁性薄膜からなり、TはFe、Coのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、ZはC、Nのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、QはCr、Re、Ru、Rh、Ni、Pd、Pt、Auからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、p、q、e、f、gはat%で、8≦p≦15、0≦p≦10、1≦e≦10、0.5≦f≦15、0≦g≦10の関係を満足することによっても、磁気−インピーダンス特性の優れた軟磁気特性を有する磁性材料を得ることができ、高い感度の磁気インピーダンス効果素子の磁性薄膜層として用いることができる。
【0074】
また、本発明の磁気インピーダンス効果素子によれば、薄膜磁性層は、組成式がT100−p−q−f−gSipAlqMeZfQgで表され、平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFeの結晶粒、bcc構造のFeCo結晶粒、fcc構造のCo結晶粒のいずれか一つ、もしくはこれらが混合した状態からなる組成が全組成の50%以上を占める軟磁性薄膜からなり、TはFe、Coのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、ZはC、Nのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、QはCr、Re、Ru、Rh、Ni、Pd、Pt、Auからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、p、q、e、f、gはat%で、8≦p≦15、0≦p≦10、1≦e≦10、0.5≦f≦15、0≦g≦10の関係を満足することによっても、磁気−インピーダンス特性の優れた軟磁気特性を有する磁性材料を得ることができ、高い感度の磁気インピーダンス効果素子の磁性薄膜層として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態の磁気インピーダンス効果素子を説明する図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態の磁気インピーダンス効果素子を説明する要部断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態の磁気インピーダンス効果素子を説明する要部断面図である。
【図4】本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられる磁性薄膜層の磁気−インピーダンス特性を測定するための回路説明図である。
【図5】本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられるColTamHfn系磁性薄膜層の磁気−インピーダンス特性を示すグラフ図である。
【図6】本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられるColTamHfn系磁性薄膜層の磁気−インピーダンス特性を示すグラフ図である。
【図7】本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられるFehRiOj系磁性薄膜層の磁気−インピーダンス特性を示すグラフ図である。
【図8】本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられる(Co1−vTv)xMyOzXw系磁性薄膜層の周波数と透磁率との関係を示すグラフ図である。
【図9】本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられるCoaZrbNbc系磁性薄膜層の磁気特性を示すグラフ図である。
【図10】本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられるFe71.4Si13.1Al5.8Hf3.3C4.5Ru1.9からなる磁性薄膜層の磁気−インピーダンス特性を示すグラフ図である。
【図11】本発明の磁気インピーダンス効果素子に用いられるFe71.4Si13.1Al5.8Hf3.3C4.5Ru1.9からなる磁性薄膜層の磁気−インピーダンス特性を示すグラフ図である。
【図12】従来の磁気インピーダンス効果素子の磁気−インピーダンス特性の測定回路図である。
【図13】従来の磁気インピーダンス効果を有する(Fe6Co94)72.5Si12.5B15非晶質ワイヤの磁気−インピーダンス特性を示すグラフ図である。
【図14】従来の磁気インピーダンス効果素子の磁気−インピーダンス特性の他の測定回路図である。
【符号の説明】
1 基板
2 磁性薄膜層
3 電極層
4 磁石層
5 反強磁性薄膜層
Eac 交流電源
Hex 外部磁界
Emi 出力電圧
Hbi バイアス磁界
L 磁性薄膜層2の長手方向の長さ
S 磁性薄膜層2の短手方向の幅
T 磁性薄膜層2の膜厚
Claims (9)
- 磁気インピーダンス効果を有する磁性薄膜層と、該磁性薄膜層に対して印加される外部磁界が印加される方向と平行にバイアス磁界を印加する薄膜からなるバイアス磁界印加手段とを備え、前記バイアス磁界印加手段が前記磁性薄膜層の両端部に接触して設けられた磁石層からなることを特徴とする磁気インピーダンス効果素子。
- 前記磁性薄膜層の外部磁界が印加される方向が、磁化困難軸とされてなることを特徴とする請求項1に記載の磁気インピーダンス効果素子。
- 前記磁性薄膜層が、磁場中でアニール又は成膜されてなることを特徴とする請求項2に記載の磁気インピーダンス効果素子。
- 前記磁性薄膜層は、組成式がColTamHfnで表され、アモルファス相を主体とした軟磁性薄膜からなり、l、m、nはat%で、70≦l≦90、5≦m≦21、6.6≦n≦15、1≦m/n≦2.5の関係を満足することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気インピーダンス効果素子。
- 前記磁性薄膜層は、組成式がFehRiOjで表され、全組織の50%以上がアモルファス相であり、残部は平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFe結晶粒である軟磁性薄膜からなり、Rは希土類元素及びTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、h、i、jはat%で、45≦h≦70、5≦i≦30、10≦j≦40、h+i+j=100の関係を満足することを特徴とする1ないし3のいずれかに記載の磁気インピーダンス効果素子。
- 前記磁性薄膜層は、組成式が(Co1-vTv)xMyOzXwで表され、元素Mの酸化物を多量に含むアモルファス相と、Coと元素Tを主体とするbcc構造、fcc構造の1種または2種以上の結晶粒からなる微結晶相が混在した軟磁性薄膜からなり、TはFe、Niのうちいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、Ta、Cr、Mo、Si、P、C、W、B、Al、Ga、Ge及び希土類元素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、XはAu、Ag、Cu、Ru、Rh、Os、Ir、Pt、Pdからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、組成比を表すvは0≦v≦0.7、x、y、z、wはat%で、3≦y≦30、7≦z≦40、0≦w≦20、20≦y+z+w≦60の関係を満足し、残部はxであることを特徴とする1ないし3のいずれかに記載の磁気インピーダンス効果素子。
- 前記磁性薄膜層は、組成式がCoaZrbNbcで表され、アモルファス相を主体とした軟磁性薄膜からなり、a、b、cはat%で、78≦a≦91、b=(0.5〜0.8)×(100−a−b)、c=100−a−bの関係を満足することを特徴とする1ないし3のいずれかに記載の磁気インピーダンス効果素子。
- 前記薄膜磁性層は、組成式がT100-d-e-f-gXdMeZfQgで表され、平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFeの結晶粒、bcc構造のFeCo結晶粒、fcc構造のCo結晶粒のいずれか一つ、もしくはこれらが混合した状態からなる組成が全組成の50%以上を占める軟磁性薄膜からなり、TはFe、Coのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、XはSi、Alのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、ZはC、Nのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、QはCr、Re、Ru、Rh、Ni、Pd、Pt、Auからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、d、e、f、gはat%で、0≦d≦25、1≦e≦10、0.5≦f≦15、0≦g≦10の関係を満足することを特徴とする1ないし3のいずれかに記載の磁気インピーダンス効果素子。
- 前記薄膜磁性層は、組成式がT100-p-q-f-gSipAlqMeZfQgで 表され、平均結晶粒径が30nm以下のbcc構造のFeの結晶粒、bcc構造のFeCo結晶粒、fcc構造のCo結晶粒のいずれか一つ、もしくはこれらが混合した状態からなる組成が全組成の50%以上を占める軟磁性薄膜からなり、TはFe、Coのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、MはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、Wからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、ZはC、Nのいずれか一方、あるいは両方を含む元素であり、QはCr、Re、Ru、Rh、Ni、Pd、Pt、Auからなる群から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、p、q、e、f、gはat%で、8≦p≦15、0≦p≦10、1≦e≦10、0.5≦f≦15、0≦g≦10の関係を満足することを特徴とする1ないし3のいずれかに記載の磁気インピーダンス効果素子。
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