JP3810881B2 - 高周波軟磁性膜 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は高周波域で優れた軟磁性を示し、かつ電気比抵抗、飽和磁化および異方性磁界が大きな磁性膜に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器の小型化に伴い、動作周波数が高まる傾向にある。しかし、トランス、インダクタあるいは磁気ヘッド等に用いられている既知の磁性材料には、高周波域まで特性を充分に維持できるものがなく、これらの部品の高周波域での使用には制限が多かった。一般に、1MHz以上の高周波域になると磁性材料自体を流れる渦電流による大きな損失が発生する。金属系の磁性材料は電気抵抗が小さいために、この渦電流が大きくなり、高周波域で使用することが困難であった。一方、フェライトおよびガーネットなどの酸化物系磁性材料は、材料自体の電気抵抗が非常に高いために、渦電流による損失はほとんど発生しない。しかし、透磁率の大きな材料が得られにくく、かつその飽和磁化が小さいために自然共鳴周波数が低く、高周波域での使用には制限が多かった。
【0003】
飽和磁化が大きく、かつ高周波特性の良好な磁性材料に対する期待は大きく、これまでに金属系磁性材料の電気抵抗を高くする方法がいくつか提案されている。例えば、金属とセラミックスとの同時スパッタリングすることにより、セラミックスが分散した非晶質合金膜を得る方法が、特開昭60−152651号広報により提案され、さらにJ.Appl.Phys.63(8),15.April.1988にFe−BC系分散膜が、J.Appl.Phys.67(9),1.May.1990にCo 0.4 Fe 0.4 B 0.2 −SiO2系分散膜が、高い電気比抵抗と軟磁気特性とを両立するものとして示されている。また、厚い単層膜では良好な軟磁気特性を示さないCo 0.95 Fe 0.05 −BN系分散膜を0.1μm以下の磁性層とすることで軟磁気特性が得られ、この薄い膜を非磁性中間層を挟んで積層することにより、厚い膜でも軟磁気特性が得られることを特開平4−142710号広報に示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
磁性材料の高周波損失は、渦電流損失と自然共鳴損失とに大別される。渦電流損失は励磁により磁性体内部に電流が誘起されることが原因であるため、磁性体の電気比抵抗を大きくしたり、磁性体を薄くしたりして電流が流れにくくすることにより抑制できる。共鳴損失は、磁性体の電子(スピン)の歳差運動が励磁界と共鳴することが原因であり、その共鳴周波数は飽和磁束密度と異方性磁界に比例する。実際の磁性材料では、異方性磁界はその大きさ、方向ともに、ある範囲に分布している。これが低い値から高い値まで幅広く分布していると、低周波領域から損失が発生する。この異方性の分布は異方性分散と呼ばれており、高磁歪材料等では加工時に残留した応力分布により増大することが知られている。これらのことから、高周波域で使用する磁性材料を設計するためには、以下のことを考慮する必要がある。
【0006】
(1)飽和磁束密度が大きいこと。
(2)電気比抵抗が大きいこと。
(3)磁気異方性が大きく、分散が小さいこと。
(4)磁歪が小さいこと。
【0007】
近年、磁性体の電気比抵抗を大きくする目的で、金属とセラミックスとを同時にスパッタした非晶質分散膜が盛んに検討されている。合金系としては、これまでにFe基とFeの多いCoFe基が多く検討されてきた。これらの膜は、非晶質相になると、10-5以上の大きな磁歪を持ち、かつ異方性磁界が小さく、高周波軟磁性材料として必ずしも適切な材料であるとは言えなかった。Co系膜は磁歪が小さく、異方性磁界が付与されやすい等の特徴を有しているが、膜面に垂直な磁気異方性が発生しやすい等の問題点があり、この系の研究は極めて少なかった。
【0008】
ごく最近、Co系膜において、酸化物の生成熱が大きなNを含むCo−Al−O膜が500μΩcm以上の電気比抵抗、10kG以上の飽和磁化そして70Oeの異方性磁界を有する軟磁性膜であることが見いだされ、例えばJounalof Alloys and Compounds 222(1995)167−172に開示されている。しかし、得られる膜の保磁力が少し大きく、かつ異方性磁界の分散がかなり大きいなど、改善すべき点がいくつかある。また、2種類以上の結晶相から成るグラニュラー組織を有するCo基合金薄膜において、Pdを添加するとHkが大きくなり、かつ軟磁気特性が改善することが特願平5−224438号に報告されている。すなわち、得られた膜は、軟磁性とともに高電気抵抗、そしてその中の1部は200Oe以上の大きなHkを有するものも示されている。しかし、そのような特性を得るための添加元素はPdのみに限定されており、経済的観点からも、安価な合金薄膜が要望されている。
【0009】
本発明は上記の点を鑑みてなされたもので、高周波域で優れた軟磁気特性を有する電気比抵抗の大きな磁性薄膜を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段および作用】
本発明者らは、上記の事情を鑑みて鋭意努力した結果、Coと酸化物もしくは窒化物の生成熱が大きな元素からなる合金を酸素および窒素雰囲気中でスパッタ成膜するときに、NiもしくはPtを添加すると、ナノスケールの組成の異なる2種類以上の微細構造を持ち、かつ異方性磁界が100Oe以上で、電気比抵抗が400μΩcm以上を有し、高周波域で優れた軟磁気特性を示す膜が得られることを見いだし、本発明に到達した。本発明の磁性膜は、Niのような安価な元素の添加でもCo−Al−O膜の高電気抵抗や軟磁性を損なうことなしに、100Oe以上の大きな異方性磁界が得られるなど、高周波用軟磁性材料として優れた特性を示す。
【0011】
本発明の特徴とするところは次の通りである。第1の発明は、一般式Co100-X-Y-Z-WMXRYLZQW(原子%)
ただし、MはNi,Ptから選択される1種または2種の元素であり、RはFe,Ruから選択される1種または2種の元素であり、LはBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Y,Dy,Gd,Hf,Ti,Zrから選択される1種または2種以上の元素であり、QはN,Oから選択される1種または2種の元素であり、その原子比率が
10<X<50
0<Y<20
10<Z<20
10<W<30
30<X+Y+Z+W<70
で表される組成の材料からなるとともに、2種類以上の微細構造からなり、かつ異方性磁界が100Oe以上で、電気比抵抗が400μΩcm以上であることを特徴とする高周波軟磁性膜。
【0012】
第2の発明は、一般式Co100-X-Y-Z-WNiXRYLZQW(原子%)
ただし、RはFe,Ruから選択される1種または2種以上の元素であり、LはBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Y,Dy,Gd,Hf,Ti,Zrから選択される1種または2種以上の元素であり、QはN,Oから選択される1種または2種の元素であり、その原子比率が
10<X<50
0<Y<20
10<Z<20
10<W<30
30<X+Y+Z+W<70
で表される組成の材料からなるとともに、2種類以上の微細構造からなり、かつ異方性磁界が100Oe以上で、電気比抵抗が400μΩcm以上であることを特徴とする高周波軟磁性膜。
【0013】
第3の発明は、一般式Co100-X-Y-Z-WPtXRYLZQW(原子%)
ただし、RはFe,Ruから選択される1種または2種以上の元素であり、LはBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Y,Dy,Gd,Hf,Ti,Zrから選択される1種または2種以上の元素であり、QはN,Oから選択される1種または2種の元素であり、その原子比率が
5<X<20
0<Y<20
10<Z<20
10<W<30
30<X+Y+Z+W<60
で表される組成の材料からなるとともに、2種類以上の微細構造からなり、かつ異方性磁界が100Oe以上で、電気比抵抗が400μΩcm以上であることを特徴とする高周波軟磁性膜。
【0015】
第4の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかの高周波軟磁性膜を用いた磁気デバイス。
【0016】
【作用】
本発明の磁性膜が高電気抵抗と軟磁気特性とを併せ持つためには、膜はナノサイズの磁性微粒子とそれを取り囲む薄いセラミックス膜の粒界の2種類以上の微細構造からなるグラニュラー構造をとっていることが必要である。ただし粒界が厚すぎると粒子は孤立し、超常磁性体になり、その結果、膜は非磁性膜になってしまう。一方、粒界が薄すぎると強磁性体になるが、電気抵抗値が小さくなってしまう。高電気抵抗と軟磁気特性とを同時に発現させるためにはセラミックスを形成するL元素とQ元素との濃度がそれぞれ10<Z<20、10<W<30(原子%)の範囲にあることが必要である。
【0017】
実際に、磁気デバイスを作製するときに必要とされる膜厚は1〜2μmであり、また動作周波数は100MHz以上の高周波帯域であることが想定される。この場合、膜の電気比抵抗が400μΩcm以下では高周波帯域での渦電流損失の存在が無視できないほどの大きさになるため、電気比抵抗が400μΩcm以上であることが望ましい。
【0018】
また本発明の膜は、高電気抵抗と軟磁気特性の他に、100Oe以上の異方性磁界を有することがその特徴である。これは膜の構造がfccで、その粒径が50〜70Åのときに実現する。そのような構造はNiでは10%以上、Ptでは5%以上含まないと得られない。ただし、40%以上のPtを含む膜では、飽和磁束密度が著しく小さくなるばかりでなく、Hkも小さくなるためにPt元素濃度は40%以下が望ましい。また磁性元素であるNiを含む膜では50%までは比較的大きな磁化が得られるが、50%を越えるとかなり小さくなるため50%以下が望ましい。またNiやPtの置換は他のfcc化を促進させる元素と一緒に行っても同様の効果が得られる。特に、Fe,Ruはその濃度が20%以内であれば他の特性を劣化させることなしに、Bsを増大させ、さらなる優れた軟磁性を示す。
【0019】
【実施例】
以下に、従来のナノグラニュラー構造膜などとの比較を加えながら、本発明の実施例を説明する。
【0020】
本発明を具体的実施例を用いてさらに詳しく説明する。
【実施例−1】
RFマグネトロンスパッタ装置を用いて(Co 0.7 Ni 0.3 ) 85 Al 15 (原子%)ターゲットをAr+O2混合ガス雰囲気中での反応スパッタ法によりCo−Ni−Al−O薄膜を作製した。成膜条件は以下に設定した。
【0021】
スパッタ圧力 5×10-3Torr
投入電力 200W
基板温度 20℃
基板 Corning#7059(厚さ0.5mm)
膜厚 2.0〜3.0μm
酸素流量比 0.0〜2.0%
印加磁界 130Oe(一対の永久磁石)
【0022】
得られた試料はX線回折装置により組織を同定した。結果を図1に示す。Arのみで成膜した膜にはfcc構造の(111)に相当すると思われるシャープなピークが観察される。スパッタガス中に酸素が入ると、そのピークは著しくブロードになり、膜を構成している結晶粒が著しく小さくなっていることを示している。このピークの半値巾からScherrerの式を用いて求めた軟磁性を示す25〜30at.%Oの膜の粒径の大きさは約40Åである。この膜を電子顕微鏡で観察した結果、膜は平均粒径が約40Åのクラスターと厚さが約10Å以下の粒界からなるネットワーク状の組織、すなわち、グラニュラー構造になっていることを確認した。
【0023】
次に、得られた膜の直流磁気特性を、試料振動型磁力計により測定した。結果を図2に示す。図中の2つのデータは、成膜時の磁界の印加方向に平行(‖)、垂直(⊥)に励磁して測定した結果を表している。試料は、成膜時に印加した磁界方向と平行な一軸磁気異方性を有しており、その異方性磁界の大きさは約140Oeと非常に大きいものであった。また、垂直方向の履歴曲線(B−Hヒステリシスループ)の結果から明らかなように、ループの直進性が良く、膜の異方性分散はそれほど大きくないことが推察される。この膜の保磁力(Hc)は垂直、平行共に小さく、得られる膜は軟磁性膜であることを示している。飽和磁束密度(Bs)も9.2kGと十分に大きかった。直流4端子法により測定したこの膜の電気比抵抗(ρ)は、553μΩcmと大きな値を示した。
【0024】
【実施例−2】
実施例−1と同一条件で、Ni濃度のみを0〜50%まで変化させたターゲットを用いてCo−Ni−Al−O膜を作製した。直流磁気特性から求めたHkとHcとの結果を図3に示す。Niの増加とともにHkが増大し、50at.%NiではHk=160Oeが実現する。一方、HcはNi量が変化してもほとんど変化しない。その他、ρの大きさもNi量に対して変化しない。このように本発明の膜が大きなBsとHkを有し、かつ大きなρをも有しているために、膜は良好な透磁率の周波数特性を示すものと推察できる。
【0025】
次に、これらの膜の飽和磁歪常数を光梃子型の飽和磁歪測定装置により100Oeの磁場下で測定した。なお、膜のヤング率は実測することが非常に困難であったため、その値としてCoSiB薄帯の9×103kg/mm2を採用し計算した。その結果、いずれの膜の飽和磁歪も−2×10-6の以内に入っており、十分に小さいものであることを確認した。
【0026】
【実施例−3】
Co 85 Al 15 (原子%)円盤上に、5×5mmのPt板を被覆率が約14%となるように設置した複合ターゲットを、(Ar+O2)中で高周波スパッタリングすることによりCo−Al−Pt−O膜を作製した。その他の成膜条件は実施例−1と同様にした。得られた試料はX線回折により、(111)面に配向した非常に微細なfccCo相を含んでいることが確認された。その直流磁気特性を図4に示す。試料は成膜時に印加した磁界方向と平行な一軸磁気異方性を有しており、その異方性磁界は約270Oeと非常に大きいものであった。また、B−Hループの直進性が良いことから異方性分散はそれほど大きくないことがわかる。この膜の保磁力(Hc)は特に、垂直方向のHcが0.3Oeと非常に小さく、かつその飽和磁束密度(Bs)も8.5kGと十分に大きく、ρも436μΩcmと大きな値を示した。
【0027】
このような大きなHkを示す膜を得るための成膜条件を明らかにするために、詳細な成膜条件の検討を行った。最も影響を及ぼす成膜条件であるスパッタガス圧と酸素流量比とHkとの関係を図5に示す。大きなHkを示す膜の成膜条件は5mTorr,1.2%O2付近に存在し、その値はHk>250Oeである。またこの値はガス圧が高いほど低酸素流量比側で、またガス圧が低い場合は高酸素濃度側で見いだすことが出来た。
【0028】
Ni,Ptの置換効果を明らかにするために、Ni,Pt量を系統的に変化させたターゲットを用いてCo−Al−(Ni or Ft)−O膜を作製した。Co−Al−(Pd or Pt)−O膜はCo 85 Al 15 (原子%)円盤上に、5×5mmのPt板やPd板を設置した複合ターゲットを、(Ar+O2)中で高周波スパッタリングすることにより作製した。またCo−Al−Ni−O膜は(Co−Ni) 85 Al 15 合金ターゲットを(Ar+O2)中で高周波スパッタリングすることにより作製した。その他の成膜条件は実施例−1と同様である。X線回折により、得られた試料はいずれも(111)面に配向した非常に微細なfcc−Co相の粒子からなっていることが確認された。図6は、得られた膜の直流磁気特性から求めたHkをNiおよびPt濃度で整理した結果である。比較例としてCo−Pd−Al−O膜の結果をも図中に併記した。HkはNiやPtなどのNi属原子の濃度の増加と共に単調に増加し、ある特定の濃度でブロードな最大値を示した後に減少する傾向を示す。増加する傾向はPtが最も大きく、Pd,Niの順で小さくなる。
【0029】
大きなHkの原因を明らかにする目的で得られた膜の構造をX線回折法により検討した(図7)。基本となるCo−Al−O膜と比較例としてのCo−Pd−Al−Oの測定結果をも併記した。Co−Al−O膜には2θ=45゜付近にfcc−Coとhcp−Coとが混合したブロードなピークが観察され、膜がfcc−Coとhcp−Coを主とする微細な粒子からなっていることを示唆している。Ni置換量の増加と共にピークはfcc相が顕著になり始め、50%Niの膜ではほとんどがfcc相となる。Pt,Pdを含む膜の構造もfcc相であることを示している。また、Hkの大きなCo−Pt−Al−O,Co−Pd−Al−Oでは、Co−Al−Oと比較すると明らかなようにピークの半値巾は狭く、すなわち粒径は大きい(50〜70Å)。このことから、大きなHkを示す高電気抵抗軟磁性膜は、NiやPtを添加することによって達成されるが、その要因の1つは、膜を構成する結晶粒子の粒径が50〜70Åであることと、その構造がfccになっていることが挙げられる。
【0030】
【表1】
【0031】
表1はこれまでとほぼ同様の方法で作製した本発明の請求範囲の薄膜の代表例の測定結果を、Bs,ρ,Hk,Hcで整理したものである。また、比較例としてNi属元素が入らない膜の結果を示す。Ni属元素の入らない膜のHkは高々80Oeであるのに対してNi属元素を含む膜のHkはいずれも100Oe以上の大きな値を示す。このように、Ni属元素を添加することは軟磁性を促進し、異方性磁界が大きくするうえで非常に有効であることが確認された。
【0032】
表1に記載した膜を始めとする本発明で得られた、大きな異方性磁界を有する高電気抵抗軟磁性膜を異方性磁界と電気比抵抗で整理した結果を図8に示す。比較例としてCo系非晶質軟磁性膜、Co−O基高電気抵抗軟磁性膜の代表例としてCo−Fe−Al−O膜、そしてFe−O高電気抵抗軟磁性膜の代表例としてFe−(Hf,Y,Dy)−O膜の結果を併記している。図から明らかなように、Co系非晶質軟磁性膜は30Oe前後の異方性磁界と約120μΩcmの電気比抵抗を示す。一方、Fe−O高電気抵抗軟磁性膜は大きな電気比抵抗を示すが、異方性磁界は小さい。また、従来の高周波軟磁性膜中、最も優れた特性を示すCo−O基高電気抵抗軟磁性膜でも異方性磁界の大きさは高々80Oeである。それに対して、本発明膜はいずれも400μΩcm以上の高い電気比抵抗と100Oe以上の大きな異方性磁界を併せもっており、本発明膜が極めて優れた高周波軟磁気特性を示すことを示唆している。
【0033】
既に述べたように、高周波帯域での透磁率の劣化をもたらす自然共鳴周波数(fr)はHKとBsとの積に比例する。図9には本発明膜のHkとBsと共鳴周波数との関係を示す。比較例として従来のCo基アモルファス膜、グラニュラー構造を有するCo−O系軟磁性膜の結果をも示す。優れた高周波軟磁性材料として良く知られているCo基アモルファス膜のfrは1.2GHz付近に存在する。一方、Ni属元素で置換されていないCo−O系グラニュラー軟磁性膜のそれは2.0〜3.0GHzに存在している。これに対して、本発明膜のfrは、それよりもさらに高く、特に、Co−Al−Pt−O膜にはfrが4GHzを越える膜も存在する。
【0034】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば良好な一軸磁気異方性を有し、電気抵抗が大きく、飽和磁歪常数が小さく、高周波特性の優れた軟磁性薄膜材料を提供することが出来る。本発明の薄膜に磁界中熱処理を施すことにより、その異方性磁界を100Oe以上からほぼ0Oeまで幅広く制御することが出来る。さらに、飽和磁歪常数は10-6台以下と小さいために、加工歪みなどの影響をあまり配慮しないで小さい素子を作製できる。さらに本発明の薄膜の異方性磁界の大きさは、従来広く行われていたような磁界中熱処理などにより制御できる外に、スパッタ中の基板近傍の永久磁石の大きさを制御することによってもコントロールすることが出来る。そのため、本発明の磁性薄膜においては、高周波域で使用する際に、必要なだけの大きさの異方性磁界を分散の少ない状態で得ることが出来る。また多層膜にする必要もないことから、特別な工程や装置を必要としないため、その工業的意義は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸素濃度を変えて作製したCo−Ni−Al−O膜のX線回折図形。
【図2】Coの30%をNiで置換したターゲットを用いて作製したグラニュラー構造を有するCo−Ni−Al−O膜のB−Hヒステリシスループ。
【図3】Co−Ni−Al−O膜のNi濃度と異方性磁界と保磁力の大きさとの関係。
【図4】複合ターゲット法により作製したグラニュラー構造を有するCo−Pt−Al−O膜のB−Hヒステリシスループ。
【図5】Co−Pt−Al−O膜のHkの大きさと成膜条件(スパッタガス圧と酸素ガスの流量比)との関係を示す特性図。
【図6】Co−TM−Al−O膜(TM:Ni,Pt,Pd)におけるTM濃度とHkとの関係を示す特性図。
【図7】Co−Al−O,Co−Ni−Al−O,Co−Pt−Al−O,Co−Pd−Al−O膜のX線回折図形。
【図8】本発明膜と比較例との異方性磁界と電気比抵抗との関係を示す特性図。
【図9】代表的な本発明膜と比較例との自然共鳴周波数とHkとBsとの関係を示す特性図。
Claims (4)
- 一般式Co100-X-Y-Z-WMXRYLZQW(原子%)
ただし、MはNi,Ptから選択される1種または2種の元素であり、RはFe,Ruから選択される1種または2種の元素であり、LはBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Y,Dy,Gd,Hf,Ti,Zrから選択される1種または2種以上の元素であり、QはN,Oから選択される1種または2種の元素であり、その原子比率が
10<X<50
0<Y<20
10<Z<20
10<W<30
30<X+Y+Z+W<70
で表される組成の材料からなるとともに、2種類以上の微細構造からなり、かつ異方性磁界が100Oe以上で、電気比抵抗が400μΩcm以上であることを特徴とする高周波軟磁性膜。 - 一般式Co100-X-Y-Z-WNiXRYLZQW(原子%)
ただし、RはFe,Ruから選択される1種または2種以上の元素であり、LはBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Y,Dy,Gd,Hf,Ti,Zrから選択される1種または2種以上の元素であり、QはN,Oから選択される1種または2種の元素であり、その原子比率が
10<X<50
0<Y<20
10<Z<20
10<W<30
30<X+Y+Z+W<70
で表される組成の材料からなるとともに、2種類以上の微細構造からなり、かつ異方性磁界が100Oe以上で、電気比抵抗が400μΩcm以上であることを特徴とする高周波軟磁性膜。 - 一般式Co100-X-Y-Z-WPtXRYLZQW(原子%)
ただし、RはFe,Ruから選択される1種または2種以上の元素であり、LはBe,B,Mg,Al,Si,Ca,Y,Dy,Gd,Hf,Ti,Zrから選択される1種または2種以上の元素であり、QはN,Oから選択される1種または2種の元素であり、その原子比率が
5<X<20
0<Y<20
10<Z<20
10<W<30
30<X+Y+Z+W<60
で表される組成の材料からなるとともに、2種類以上の微細構造からなり、かつ異方性磁界が100Oe以上で、電気比抵抗が400μΩcm以上であることを特徴とする高周波軟磁性膜。 - 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高周波軟磁性膜を用いた磁気デバイス。
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- 1997-02-21 JP JP07881697A patent/JP3810881B2/ja not_active Expired - Lifetime
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