JP3602705B2 - 金属溶湯用濾材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は金属溶湯、特にアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯(本明細書においては、これらを総称して、単にアルミニウム溶湯と称する)中に混入している固形不純物(非金属介在物等)を濾別するために使用される金属溶湯用濾材に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属溶湯、例えばアルミニウム溶湯(以下、金属溶湯の代表例としてアルミニウム溶湯の場合について説明する)中には、通常、固形不純物、特に非金属介在物が混入しているので、これらの介在物を含有した溶湯をそのまま鋳造し、圧延し、例えばディスク材等として製品化すると、その混入していた非金属介在物がピンホール等の不良発生の原因となる。このような不良発生を防止するために、鋳造に先立ってアルミニウム溶湯を濾過処理して非金属介在物を除去することが一般に行なわれている。この溶湯の濾過に使用される装置として種々のものが知られており、例えば特公昭52−22327号公報に記載されているように、電融アルミナ等の骨材をSiO、B等の無機質結合材により結合させたチューブタイプの濾材が用いられている。
【0003】
しかしながら、上記のような従来技術の濾材を用いてコンピュータのハードディスク材等の製造に用いる高純度アルミニウム溶湯の濾過を行う場合や、清涼飲料水缶、ビール缶等の缶材の製造に用いるAl−Mg合金系溶湯の濾過を行う場合には、無機質結合材中に含まれているSiOやCaOがアルミニウム溶湯で還元されて遊離Siや遊離Caとなり、これらがアルミニウム溶湯中に溶出してアルミニウム溶湯を汚染するという問題が生じていた。また、Al−Mg合金系溶湯は活性であるため、無機質結合材を侵食し、骨材間の結合力を低下させ、濾材の耐久性を低下させる場合もあり、甚だしい場合には使用中にそのような濾材が崩壊することになる。
【0004】
これらの問題に対処するために、SiOを含まない無機質結合材を用いて製造される濾材が、例えば特公平5−86459号、特公平5−86460号及び特開平2−34732号の各公報に開示されている。これらの濾材を用いる場合には遊離Siの溶出によるアルミニウム溶湯の二次汚染の問題は発生しない。しかしながら、そのような無機質結合材を用いた濾材においては、骨材粒子間の結合状態が悪いため、濾材の強度が低く、また目詰まりを起こしやすいので通湯量がばらつく等の問題を有していた。
【0005】
それで、遊離Siの溶出の問題と曲げ強度等の問題とを解決した濾材が要望されるに至り、それらを満足する濾材として、アルミニウム溶湯との濡れ性を良くするためにSiOを所定量含有させた無機質結合材であって、無機質結合材中に9Al・2Bの針状結晶を析出させた無機質結合材を用いて得た濾材が特開平5−138339号公報に開示されている。
【0006】
しかしながら、上記の特開平5−138339号公報に記載された発明の実施においては、9Al・2Bの針状結晶を得るために無機質結合材を一旦溶融させた後、特別な冷却手段を付加して結晶長さを特定範囲に抑える必要があるのみならず、無機質結合材中にSiOを15〜25重量%含有させ、かつCaO等を含有させるものであるため、上記した遊離Siあるいは遊離Caの溶出を防止する点に関しては必ずしも満足できるものではない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
近時におけるディスク材等のように、僅かな表面欠陥があってもその影響が大きい各種用途に使用されるアルミニウム溶湯を得るためには、アルミニウム溶湯から細かい非金属介在物までも可能な限り除去し、しかも濾過後のアルミニウム溶湯中に溶出する不純物を可能な限り少なくすることが要求され、従って、無機質結合材中に含有されるSiO及びCaO成分をできる限り少なくし、且つ強度等の面からも十分に満足し得る濾材を提供することが要望されている。
【0008】
本発明の課題は、上記のような諸問題を克服した金属溶湯用濾材、特にアルミニウム溶湯用濾材を提供すること、即ち、アルミニウム溶湯と接触させて使用しても、或いはアルミニウム溶湯中に浸漬して使用しても、不純物が溶出しないのでアルミニウム溶湯を二次汚染することがなく、また骨材間の結合力が大きいので濾材の強度が高く、長期間に亘り安定して使用できる金属溶湯用濾材を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、アルミナ骨材又はAl及びMgOからなるスピネル型結晶構造を有するスピネル骨材を用い、その骨材中にSiOを含有させ、また結合剤としてSiOを含有しないか又はSiO含有量が少ない無機質結合剤を用い、焼結することにより、骨材中のSiOの一部が結合剤中に拡散して骨材粒子と無機質結合材との界面で濡れ性が向上し、骨材粒子と無機質結合材との間に強固な結合が形成されて骨材間の結合力が大きくなり、しかも金属溶湯の二次汚染が生じさせることのない濾材が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明の金属溶湯用濾材は、骨材としてSiOを0.5〜5重量%含有するアルミナ骨材又はAl及びMgOからなるスピネル型結晶構造を有し且つSiOを0.5〜5重量%含有するスピネル骨材が用いられており、結合剤としてSiOを含有しないか又はSiO含有量が少ない無機質結合剤が用いられており、1250〜1500℃で焼結されて、骨材中のSiOの一部が結合剤中に拡散していることを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の金属溶湯用濾材を製造するのに用いられる骨材の主成分を構成するアルミナ骨材は金属溶湯用濾材の製造に普通に用いられている周知のものであり、またスピネル骨材はAl及びMgOからなり、Al:MgOのモル比が1:1であり、Al:MgOの重量比が7:3であり、スピネル型結晶構造を有する結晶粒子である。このような結晶粒子は極めて安定しており、金属溶湯による濡れ性が優れており、また、耐アルミニウム侵食性等にも優れているので、金属溶湯用濾材の製造に用いる骨材として好適である。
【0012】
本発明で用いる骨材は上記の骨材に更にSiOを0.5〜5重量%含有させたものである。本発明において、骨材中にSiOを含有させることによる効果は、高温で焼結することにより骨材中のSiOの一部が無機質結合剤中に拡散し、その拡散により無機質結合材に進入したSiOの働きにより無機質結合材と骨材粒子との界面での濡れ性が向上し、骨材粒子と無機質結合材との間に強固な結合が形成されて骨材間の結合力が大きくなることである。
【0013】
本発明の金属溶湯用濾材におけるSiOの拡散のメカニズムについては必ずしも明らかではないが、次のように考えることができる。しかし、本発明はそのような考えによって限定されるものではない。
焼結時に無機質結合材と骨材粒子との界面では無機質結合材は液状となり、骨材粒子は固体のままである。焼結の際には骨材粒子中に偏在するSiOが結晶粒界等を経由して無機質結合材中のBと反応してほうけい酸ガラスを形成しやすい。焼結の際に生じるSiOの拡散は、無機質結合材中のSiO濃度と骨材粒子中のSiO濃度との差とは無関係に、骨材中のSiOが無機質結合剤中に拡散することになる。また、一般的には、骨材粒子100重量部に対して無機質結合材を5〜25重量部の量で用いるので、骨材粒子中のSiO濃度の低くても、SiOの拡散により無機質結合材と骨材粒子との界面での無機質結合材側のSiO濃度が骨材粒子と無機質結合材との間に強固な結合が形成されるのに十分な濃度となる。従って、上記のような目的は骨材中のSiOの含有量を0.5重量%以上にすることにより達成される。しかしながら、骨材中のSiOの含有量が5重量%を超えると、多量のSiOが無機質結合材側に拡散し、その部分のSiO濃度が高くなり過ぎてSiの溶出による二次汚染の問題が発生する恐れがあり、従って骨材中のSiOの含有量を5重量%以下にすることが好ましい。
【0014】
アルミナ骨材又はAl及びMgOからなるスピネル型結晶構造を有するスピネル骨材は、アルミナ原料やスピネル組成となるように配合した(アルミナ+マグネシア)原料を溶解する方法(電融品)、またはこれらの原料を混合、造粒して焼結する方法(焼結品)で製造されるものであるが、その製造過程においてAl−SiO系粘土等を配合することにより、アルミナ骨材又はスピネル骨材中のSiO含有量を調整して、SiOを0.5〜5重量%含有するアルミナ骨材又はAl及びMgOからなるスピネル型結晶構造を有し且つSiOを0.5〜5重量%含有するスピネル骨材を調製することができる。またアルミナ原料としてボーキサイト等の天然原料に含まれるSiOを利用してアルミナ骨材又はスピネル骨材のSiO含有量を調整することもできる。
【0015】
本発明の主目的は金属溶湯中に溶出する不純物を可能な限り少なくすることであり、従って、無機質結合材中に含有されるSiO及びCaO成分をできる限り少なくする必要がある。本発明においては、無機質結合剤としてSiOを含有しないか又はSiO含有量が少ない無機質結合剤、具体的にはSiO含有量が10重量%以下、好ましくは5重量%以下の無機質結合剤を用いる。このようなSiO含有量が10重量%以下の無機質結合剤としては、Al20〜60重量%、SiO0〜10重量%、B5〜50重量%、MgO10〜40重量%及びCaO0〜5重量%からなる無機質結合材、スピネル型結晶構造を有する結晶粉末60〜92重量%、B5〜10重量%、SiO0〜5重量%を含有し、残部がAl及びMgOからなる無機質結合材を用いることができる。
【0016】
上記したスピネル型結晶構造を有する結晶粉末はAl及びMgOからなり、Al:MgOのモル比が1:1であり、Al:MgOの重量比が7:3であり、スピネル型結晶構造を形成しているものである。このような結晶粉末は極めて安定しており、アルミニウム溶湯による濡れ性が優れており、また、耐アルミニウム侵食性等にも優れているので、アルミニウム溶湯用濾材の製造に用いる無機質結合材として好適である。
【0017】
また、Bを5〜15重量%、MgOを5〜50重量%、SiOを3〜10重量%含有し、残部がAlからなる無機質結合材が特開平5−9610号公報に記載されているように公知であり、本発明においてはそのような公知の無機質結合材も用いることができる。
本発明においては、無機質結合材がその他の種々の物質、例えば、焼結に際しての焼結助材、有機溶剤であるデキストリン等を含有していてもよいことは勿論である。
【0018】
本発明の金属溶湯用濾材の製造においては、骨材粒子と無機質結合材とを混合し、所定の形状に成形し、焼成して濾材を形成する。
骨材粒子と無機質結合材との混合比については、製造される濾材の強度及び濾材の濾過性能の点から、骨材粒子100重量部に対して無機質結合材を好ましくは5〜25重量部、より好ましくは10〜20重量部用いる。無機質結合材の量が5重量部未満の場合には骨材粒子間の結合が不十分になり、骨材粒子が濾材から脱離する可能性があり、また25重量部を超えると濾材の気孔が狭くなり、目詰まりを起こし易くなる傾向がある。
【0019】
本発明の金属溶湯用濾材においては、無機質結合材としてSiOを含有しないか又はSiO含有量が少ない無機質結合剤を用い、且つSiOを含有する骨材を用いているので、その骨材中のSiOの一部を結合剤中に拡散させて骨材粒子と無機質結合材との界面での濡れ性を向上させ、骨材粒子と無機質結合材との間に強固な結合を形成させて骨材間の結合力を大きくするために、骨材粒子と無機質結合材との混合物を1250〜1500℃の高温で焼結する。この焼成温度が1250℃未満の場合には、骨材中から無機質結合材中へのSiO拡散が不十分で所望の強度が達成されにくいので好ましくない。また、1500℃を超えると無機質結合材が過度に溶融して濾材としての性能が低下することになるので好ましくない。
【0020】
本発明の金属溶湯用濾材においては、金属溶湯用濾材の一部分の概略説明図である図1及び図2に示すように、結合剤2としてSiOを含有しないか又はSiO含有量が少ない無機質結合剤を用いているが、SiOを含有する骨材1を用いているので、焼結により骨材1中のSiOの一部が、骨材に接触している部分3の結合剤中に拡散して骨材粒子と無機質結合材との界面で濡れ性が向上し、骨材粒子と無機質結合材との間に強固な結合が形成されて骨材間の結合力が大きくなっており、また、濾材の無機質結合材部分の露出表面にはSiOがほとんど存在しないので、金属溶湯に対して強い耐食性を示し、金属溶湯の二次汚染が生じさせることがほとんどない。
【0021】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を詳細に説明する。
実施例1〜6及び比較例1〜2
骨材粒子として表1に示す量(重量%)のSiOを含有する電融アルミナ(平均粒径850μm)又はAl・MgOスピネル結晶粒子(モル比1:1、重量比7:3、平均粒径850μm)を表1に示す量(重量部)で用い、無機質結合材として表1に示す組成の無機質結合材を表1に示す量(重量部)で用い、これらの配合物をそれぞれ混練し、加圧成形し、乾燥し、次いで電気炉中で表1に示す温度でで12時間焼成してそれぞれ外径100mm、内径60mm、高さ850mmのパイプ状成形体を得た。それらのパイプ状成形体の特性を以下に示す試験方法で調べた。
【0022】
《曲げ強さ》
上記の各々のパイプ状成形体から100mm×20mm×18mmの直方体状試験体を切り出した。この直方体状試験体について、2点支持1点荷重方式で支持スパン80mmで室温曲げ強さ試験を実施した。熱間曲げ試験は各々の直方体状試験体を雰囲気温度設定用電気炉中で800℃に20分間保持した後、該雰囲気温度設定用電気炉中で、2点支持1点荷重方式で支持スパン80mmで実施した。それらの試験結果は表1に示す通りであった。
【0023】
《成分溶出量》
740℃の高純度(99.99%以上)アルミニウム溶湯10重量部中に上記の各々のパイプ状成形体1重量部を浸漬し、溶湯の温度を740℃に維持しながら72時間の間、パイプ状成形体内部の減圧と加圧とを繰り返しながら、アルミニウム溶湯をパイプ状成形体の外部から内部へ、及び内部から外部へ交互に通過させ、その後、アルミニウム溶湯をサンプリングし、アルミニウム溶湯中のSi、B及びMg量を測定し、浸漬前のアルミニウム溶湯中のSi、B及びMg量と比較した。その差(すなわち、増加分)をSi、B及びMgについての成分溶出量とした。それらの測定結果は表1に示す通りであった。
【0024】
【表1】
Figure 0003602705
【0025】
表1のデータから明かなように、本発明に係る実施例1〜8の金属溶湯用濾材は比較例1〜2の金属溶湯用濾材に比較して室温曲げ強さ及びアルミニウム溶湯に対する耐食性(成分溶出量)の点で優れており、実用性の高いものである。
【0026】
【発明の効果】
本発明の金属溶湯用濾材は、アルミニウム溶湯中に浸漬して使用しても不純物が溶出しないのでアルミニウム溶湯を二次汚染することがなく、また室温曲げ強さ、熱間曲げ強さ(800℃)及びアルミニウム溶湯に対する耐食性(成分溶出量)に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の金属溶湯用濾材の一部分の概略説明図である。
【図2】本発明の金属溶湯用濾材の一部分の概略説明図である。

Claims (3)

  1. 骨材としてSiOを0.5〜5重量%含有するアルミナ骨材又はAl及びMgOからなるスピネル型結晶構造を有し且つSiOを0.5〜5重量%含有するスピネル骨材が用いられており、結合剤としてSiOを含有しないか又はSiO含有量が少ない無機質結合剤が用いられており、1250〜1500℃で焼結されて、骨材中のSiOの一部が結合剤中に拡散していることを特徴とする金属溶湯用濾材。
  2. 用いた無機質結合剤がAl20〜60重量%、SiO0〜10重量%、B5〜50重量%、MgO10〜40重量%及びCaO0〜5重量%からなる無機質結合材である請求項1記載の金属溶湯用濾材。
  3. 用いた無機質結合剤がスピネル型結晶構造を有する結晶粉末60〜92重量%、B5〜10重量%、SiO0〜5重量%を含有し、残部がAl及びMgOからなる無機質結合材である請求項1記載の金属溶湯用濾材。
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