JP3635896B2 - 金属溶湯用濾材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は金属溶湯、特にアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯(本明細書においては、これらを総称して、単にアルミニウム溶湯と称する)中に混入している固形不純物(非金属介在物等)を濾別するために使用される金属溶湯用濾材に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属溶湯、例えばアルミニウム溶湯(以下、金属溶湯の代表例としてアルミニウム溶湯の場合について説明する)中には、通常、固形不純物、特に非金属介在物が混入しているので、これらの介在物を含有した溶湯をそのまま鋳造し、圧延し、例えばディスク材等として製品化すると、その混入していた非金属介在物がピンホール等の不良発生の原因となる。このような不良発生を防止するために、鋳造に先立ってアルミニウム溶湯を濾過処理して非金属介在物を除去することが一般に行なわれている。この溶湯の濾過に使用される装置として種々のものが知られており、例えば特公昭52−22327号公報に記載されているように、電融アルミナ等の骨材をSiO2 、B2 O3 等の無機質結合材により結合させたチューブタイプの濾材が用いられている。
【0003】
しかしながら、上記のような従来技術の濾材を用いてコンピュータのハードディスク材等の製造に用いる高純度アルミニウム溶湯の濾過を行う場合や、清涼飲料水缶、ビール缶等の缶材の製造に用いるAl−Mg合金系溶湯の濾過を行う場合には、無機質結合材中に含まれているSiO2 やCaOがアルミニウム溶湯で還元されて遊離Siや遊離Caとなり、これらがアルミニウム溶湯中に溶出してアルミニウム溶湯を汚染するという問題が生じていた。また、Al−Mg合金系溶湯は活性であるため、無機質結合材を侵食し、骨材間の結合力を低下させ、濾材の耐久性を低下させる場合もあり、甚だしい場合には使用中にそのような濾材が崩壊することになる。
【0004】
これらの問題に対処するために、SiO2 を含まない無機質結合材を用いて製造される濾材が、例えば特公平5−86459号、特公平5−86460号及び特開平2−34732号の各公報に開示されている。これらの濾材を用いる場合には遊離Siの溶出によるアルミニウム溶湯の二次汚染の問題は発生しない。しかしながら、そのような無機質結合材を用いた濾材においては、骨材粒子間の結合状態が悪いため、濾材の強度が低く、また目詰まりを起こしやすいので通湯量がばらつく等の問題を有していた。
【0005】
それで、遊離Siや遊離Caの溶出の問題と曲げ強度等の問題とを解決した濾材が要望されるに至り、それらを満足する濾材として、アルミニウム溶湯との濡れ性を良くするためにSiO2 を所定量含有させた無機質結合材であって、無機質結合材中に9Al2 O3 ・2B2 O3 の針状結晶を析出させた無機質結合材を用いて得た濾材が特開平5−138339号公報に開示されている。
【0006】
しかしながら、上記の特開平5−138339号公報に記載された発明の実施においては、9Al2 O3 ・2B2 O3 の針状結晶を得るために無機質結合材を一旦溶融させた後、特別な冷却手段を付加して結晶長さを特定範囲に抑える必要があるのみならず、無機質結合材中にSiO2 を15〜25重量%含有させ、かつCaO等を含有させるものであるため、上記した遊離Siあるいは遊離Caの溶出を防止する点に関しては必ずしも満足できるものではない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
近時におけるディスク材等のように、僅かな表面欠陥があってもその影響が大きい各種用途に使用されるアルミニウム溶湯を得るためには、アルミニウム溶湯から細かい非金属介在物までも可能な限り除去し、しかも濾過後のアルミニウム溶湯中に溶出する不純物を可能な限り少なくすることが要求され、即ち、無機質結合材中に含有されるSiO2 及びCaO成分の溶出ができる限り少なく、且つ強度等の面からも十分に満足し得る濾材を提供することが要望されている。
【0008】
本発明の課題は、上記のような諸問題を克服した金属溶湯用濾材、特にアルミニウム溶湯用濾材を提供すること、即ち、アルミニウム溶湯と接触させて使用しても、或いはアルミニウム溶湯中に浸漬して使用しても、不純物がほとんど溶出しないのでアルミニウム溶湯を二次汚染することが少なく、また耐食性に優れ、骨材間の結合力が大きいので濾材の熱間強度が高く、長期間に亘り安定して使用できる金属溶湯用濾材を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、骨材粒子と無機質結合材との混合物を焼結処理して得られる金属溶湯用濾材の無機質結合材からなる架橋部は微細構造の非ガラス質(結晶質)相と微細構造の非晶質ガラス相とで構成されており、この架橋部を構成する微細構造の非晶質ガラス相の組成を最適化することにより、濾材から金属溶湯中へのSiO2 やCaOの溶出が抑制され、金属溶湯に対する架橋部の耐食性、従って濾材の耐食性が向上し、熱間強度が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明の金属溶湯用濾材は、骨材粒子と無機質結合材との混合物を焼結処理して得られる金属溶湯用濾材において、無機質結合材からなる架橋部が微細構造の非ガラス質(結晶質)相と微細構造の非晶質ガラス相とで構成されており、その非晶質ガラス相の組成が
5モル%≦Al2 O3 ≦30モル%、
20モル%≦(MgO+CaO)≦50モル%、
30モル%≦(B2 O3 +SiO2 )≦70モル%
であり、且つ
B2 O3 /SiO2 のモル比が0.3以上、
MgO/CaOのモル比が0.8以上
であることを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
骨材粒子と無機質結合材との混合物を焼結処理して得られる金属溶湯用濾材においては、無機質結合材が骨材粒子間に架橋を形成して多孔質濾材を構成しており、この架橋部は微細構造の非ガラス質(結晶質)相と微細構造の非晶質ガラス相とで構成されており、この非晶質ガラス相はB2 O3 及びSiO2 のガラス形成成分と、Al2 O3 、MgO及びCaOのガラス修飾成分とからなる。本発明者等は種々の実験の結果、この非晶質ガラス相の成分の組成範囲を特定範囲内に限定し、且つB2 O3 /SiO2 のモル比及びMgO/CaOのモル比を特定の範囲内に限定した金属溶湯用濾材においては、金属溶湯に対する耐食性が優れ、濾材から金属溶湯中へのSiO2 やCaOの溶出が抑制され、且つ必要な熱間強度が維持されることを見出した。
【0012】
本発明者等は、上記の各成分の組成範囲及び上記の各モル比について種々の実験検討の結果、無機質結合材からなる架橋部が微細構造の非ガラス質(結晶質)相と微細構造の非晶質ガラス相とで構成されており、その非晶質ガラス相の組成が
5モル%≦Al2 O3 ≦30モル%、
20モル%≦(MgO+CaO)≦50モル%、
30モル%≦(B2 O3 +SiO2 )≦70モル%
であることにより、非晶質ガラス相の流動性が、骨材間に架橋を作るのに適した値となり、この場合に得られる架橋結合により、溶湯が流れる均一な隙間が確保される。更に上記の組成条件に加えて
B2 O3 /SiO2 のモル比が0.3以上、
MgO/CaOのモル比が0.8以上
であることにより、溶湯のAl原子と濾材中のSi原子との置換反応が抑制され、濾材からアルミニウム溶湯中へのSiO2 やCaOの溶出が抑制され、その結果としてそのような架橋部を有する濾材はアルミニウム溶湯に対する耐食性に優れており、且つ必要な熱間強度が維持されていることが確認された。
【0013】
上記のいずれかの成分の量が上記の範囲から外れる場合、又はB2 O3 /SiO2 のモル比が0.3未満となるか又はMgO/CaOのモル比が0.8未満となる場合、即ちB2 O3 の量に比較してSiO2 の量が多くなるか、又はMgOの量に比較してCaOの量が多くなると、SiO2 又はCaOの溶出も問題となり、アルミニウム溶湯に対する耐食性が低下し、熱間強度も低下する傾向があるので望ましくない。
【0014】
上記無機質結合材からなる架橋部を構成する微細構造の非ガラス質(結晶質)相と微細構造の非晶質ガラス相とを形成するためには、無機質結合材として、Al2 O3 30〜60重量%、SiO2 15重量%以下、B2 O3 5〜15重量%、MgO10〜40重量%及びCaO5重量%以下からなる無機質結合材や、スピネル型結晶構造を有する結晶粉末60〜92重量%、B2 O3 5〜10重量%、SiO2 5重量%以下を含有し、残部がAl2 O3 、MgO及びCaOからなる無機質結合材等を用い、1350〜1450℃で焼成することが好ましい。
【0015】
上記したスピネル型結晶構造を有する結晶粉末はAl2 O3 及びMgOからなり、Al2 O3 :MgOのモル比が1:1であり、Al2 O3 :MgOの重量比が7:3であり、スピネル型結晶構造を形成しているものである。このような結晶粉末は極めて安定しており、アルミニウム溶湯による濡れ性が優れており、また、耐アルミニウム侵食性等にも優れているので、アルミニウム溶湯用濾材の製造に用いる無機質結合材として好適である。
本発明においては、無機質結合材がその他の種々の物質、例えば、焼結に際しての焼結助材、有機溶剤であるデキストリン等を含有していてもよいことは勿論である。
【0016】
本発明においては、骨材として周知のアルミナ骨材やスピネル骨材を用いることができる。アルミナ骨材は金属溶湯用濾材の製造に普通に用いられているものであり、またスピネル骨材はAl2 O3 及びMgOからなり、Al2 O3 :MgOのモル比が1:1であり、Al2 O3 :MgOの重量比が7:3であり、スピネル型結晶構造を有する結晶粒子である。このような結晶粒子は極めて安定しており、金属溶湯による濡れ性が優れており、また、耐アルミニウム侵食性等にも優れているので、金属溶湯用濾材の製造に用いる骨材として好適である。
【0017】
本発明の金属溶湯用濾材の製造においては、骨材粒子と無機質結合材とを混合し、所定の形状に成形し、焼成して濾材を形成する。
骨材粒子と無機質結合材との混合比については、製造される濾材の強度及び濾材の濾過性能の点から、骨材粒子100重量部に対して無機質結合材を好ましくは5〜25重量部、より好ましくは10〜20重量部用いる。無機質結合材の量が5重量部未満の場合には骨材粒子の結合が不十分になり、骨材粒子が濾材から脱離する可能性があり、また25重量部を超えると濾材の気孔が狭くなり、目詰まりを起こし易くなる傾向がある。
【0018】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を詳細に説明する。
実施例1〜3及び比較例1〜2
骨材粒子として電融アルミナ(平均粒径850μm)を100重量部用い、無機質結合材として表1に示す組成(重量%)の結合材を表1に示す量(重量部)で用い、これらの配合物をそれぞれ混練し、加圧成形し、乾燥し、電気炉中で1400℃で12時間焼成してそれぞれ外径100mm、内径60mm、高さ850mmのパイプ状成形体を得た。焼結後の微細構造の非晶質ガラス相のAl2 O3 、MgO+CaO、及びB2 O3 +SiO2 の各々のモル%、並びにB2 O3 /SiO2 のモル比及びMgO/CaOのモル比は表1に示す通りであった。更に、各パイプ状成形体の特性を以下に示す試験方法で調べた。
【0019】
《曲げ強さ》
上記の各々のパイプ状成形体から100mm×20mm×18mmの直方体状試験体を切り出した。この直方体状試験体について、2点支持1点荷重方式で支持スパン80mmで室温曲げ強さ試験を実施した。熱間曲げ試験は各々の直方体状試験体を雰囲気温度設定用電気炉中で800℃に20分間保持した後、該雰囲気温度設定用電気炉中で、2点支持1点荷重方式で支持スパン80mmで実施した。それらの試験結果は表1に示す通りであった。
【0020】
《成分溶出量》
740℃の高純度(99.99%以上)アルミニウム溶湯10重量部中に上記の各々のパイプ状成形体1重量部を浸漬し、溶湯の温度を740℃に維持しながら72時間の間、パイプ状成形体内部の減圧と加圧とを繰り返しながら、アルミニウム溶湯をパイプ状成形体の外部から内部へ、及び内部から外部へ交互に通過させ、その後、アルミニウム溶湯をサンプリングし、アルミニウム溶湯中のSi及びCa量を測定し、浸漬前のアルミニウム溶湯中のSi及びCa量と比較した。その差(すなわち、増加分)をSi及びCaについての成分溶出量とした。それらの測定結果は表1に示す通りであった。
【0021】
【0022】
表1のデータからも明かなように、本発明に係る実施例1〜3の濾材においては、アルミニウム溶湯用濾材の室温曲げ強さ、熱間曲げ強さ(800℃)及びアルミニウム溶湯に対する耐食性(成分溶出量)の点で優れており、実用性の高いものである。
【0023】
【発明の効果】
本発明のアルミニウム溶湯用濾材は、アルミニウム溶湯中に浸漬して使用しても不純物が溶出しないのでアルミニウム溶湯を二次汚染することがなく、極めて安定な結晶組織を有しており、室温曲げ強さ、熱間曲げ強さ(800℃)及びアルミニウム溶湯に対する耐食性(成分溶出量)に優れたものである。
Claims (1)
- 骨材粒子と無機質結合材との混合物を焼結処理して得られる金属溶湯用濾材において、無機質結合材からなる架橋部が微細構造の非ガラス質(結晶質)相と微細構造の非晶質ガラス相とで構成されており、その非晶質ガラス相の組成が
5モル%≦Al2 O3 ≦30モル%、
20モル%≦(MgO+CaO)≦50モル%、
30モル%≦(B2 O3 +SiO2 )≦70モル%
であり、且つ
B2 O3 /SiO2 のモル比が0.3以上、
MgO/CaOのモル比が0.8以上
であることを特徴とする金属溶湯用濾材。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP31321897A JP3635896B2 (ja) | 1997-11-14 | 1997-11-14 | 金属溶湯用濾材 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP31321897A JP3635896B2 (ja) | 1997-11-14 | 1997-11-14 | 金属溶湯用濾材 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH11137933A JPH11137933A (ja) | 1999-05-25 |
JP3635896B2 true JP3635896B2 (ja) | 2005-04-06 |
Family
ID=18038541
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP31321897A Expired - Lifetime JP3635896B2 (ja) | 1997-11-14 | 1997-11-14 | 金属溶湯用濾材 |
Country Status (1)
Country | Link |
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JP (1) | JP3635896B2 (ja) |
-
1997
- 1997-11-14 JP JP31321897A patent/JP3635896B2/ja not_active Expired - Lifetime
Also Published As
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JPH11137933A (ja) | 1999-05-25 |
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