JP3602473B2 - スピンバルブ型薄膜磁気素子およびそのスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッド - Google Patents

スピンバルブ型薄膜磁気素子およびそのスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッド Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固定磁性層の固定磁化方向と外部磁界の影響を受けるフリー磁性層の磁化方向との関係で電気抵抗が変化するスピンバルブ型薄膜磁気素子およびそのスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドに関し、特に、フリー磁性層に安定したバイアス磁界を与えることができ、バルクハウゼンノイズの発生を低減させたスピンバルブ型薄膜磁気素子およびそのスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えたフリー磁性層の磁区制御を良好に行うことができる薄膜磁気ヘッドに用いて好適な技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
スピンバルブ型薄膜磁気素子は、巨大磁気低抗効果を示すGMR(Giant Magnetoresistive)素子の一種であり、ハードディスクなどの記録媒体から記録磁界を検出するものである。
前記スピンバルブ型薄膜磁気素子は、GMR素子の中で比較的構造が単純で、しかも、外部磁界に対して抵抗変化率が高く、弱い磁界で抵抗が変化するなどの優れた点を有している。
【0003】
図14は、従来の薄膜磁気ヘッドの一例を示すものである。
この例の薄膜磁気ヘッド150は、ハードディスク装置などに搭載される浮上式のものである。この薄膜磁気ヘッド150のスライダ151は、図14において符号155で示す側が、ディスクの移動方向の上流側に向くリーディング側であり、符号156で示す側がトレーリング側である。このスライダ151の磁気ディスクに対向する面では、レール状のABS面(エアーベアリング面:レール部の浮上面)151a,151a,151bと、エアーグルーブ151c,151cとが形成されている。
そして、このスライダ151のトレーリング側の端面151dには、磁気コア部157が設けられている。
【0004】
この例において示す薄膜磁気ヘッドの磁気コア部157は、図15および図16に示す構造の複合型磁気コア構造とされており、スライダ151のトレーリング側端面151d上に、MRヘッド(磁気抵抗効果型薄膜磁気素子を利用した読出ヘッド)h1と、インダクティブヘッド(書込ヘッド)h2とが積層されて構成されている。
【0005】
この例のMRヘッドh1は、スライダ151のトレーリング側端部に形成された磁性合金からなる下部シールド層163上に、下部ギャップ層(下地層)164が設けられている。そして、下部ギャップ層164上には、磁気抵抗効果型薄膜磁気素子層165が積層されている。この磁気抵抗効果型薄膜磁気素子層165上には、上部ギャップ層166が形成され、その上に上部シールド層167が形成されている。この上部シールド層167は、その上に設けられるインダクティブヘッドh2の下部コア層と兼用にされている。
【0006】
次に、インダクティブヘッドh2は、前記上部シールド層167と兼用にされた下部コア層の上に、ギャップ層174が形成され、その上に平面的に螺旋状となるようにパターン化されたコイル176が形成されている。このコイル176は、絶縁材料層177に囲まれている。絶縁材料層177の上に形成された上部コア層178は、その先端部178aをABS面151bにて下部コア層167に微小間隔を開けて対向し、その基端部178bを下部コア層167と磁気的に接続させて設けられている。
【0007】
前述の構造のMRヘッドh1は、ハードディスクのディスクなどの磁気記録媒体からの微小の漏れ磁界の有無により、磁気抵抗効果型薄膜磁気素子層165の抵抗を変化させ、この抵抗変化を読み取ることで磁気記録媒体の記録内容を読み取るものである。
次に、前述の構造のインダクティブヘッドh2では、コイル176に記録電流が与えられ、コイル176からコア層に記録電流が与えられる。そして、前記インダクティブヘッドh2は、磁気ギャップGの部分での下部コア層167と上部コア層178の先端部からの漏れ磁界により、ハードディスクなどの磁気記録媒体に磁気信号を記録するものである。
このような構造の薄膜磁気ヘッドのMRヘッドh1には、スピンバルブ型薄膜磁気素子が用いられる。
【0008】
図12は、従来のスピンバルブ型薄膜磁気素子の一例を記録媒体との対向面側から見た場合の構造を示した断面図である。
図12に示すスピンバルブ型薄膜磁気素子は、フリー磁性層の上下に、非磁性導電層、固定磁性層、反強磁性層が一層ずつ形成されたデュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子である。
【0009】
図12において符号1は、基板上に設けられ、例えばTa(タンタル)などで形成された下地層を示している。この下地層1の上には、NiO合金、FeMn合金、NiMn合金などからなる反強磁性層2が形成されている。さらに、前記反強磁性層2の上には、固定磁性層3が形成されている。
前記固定磁性層3は、前記反強磁性層2に接して形成されることにより、前記固定磁性層3と反強磁性層2との界面にて交換結合磁界(交換異方性磁界)が発生し、前記固定磁性層3の磁化は、例えば、図示Y方向に固定される。
前記固定磁性層3の上には、Cuなどで形成された非磁性導電層4が形成され、さらに前記非磁性導電層4の上には、フリー磁性層5が形成され、このフリー磁性層5の上には、非磁性導電層6と固定磁性層7と反強磁性層8とが形成されている。なお、符号9は、Taなどで形成された保護層を、符号133は、Cuなどで形成された導電層を示している。
【0010】
図12に示す下地層1から保護層9までの積層体Mの両側には、Mo,WMo,Cr,Ti,W等からなるバイアス下地層301を介して、例えばCo−Pt(コバルト−白金)合金もしくはCo−Cr−Pt(コバルト−クロム−白金)合金で形成されたハードバイアス層132,132が形成されている。前記ハードバイアス層132,132は、膜厚が上方に向かうにつれて徐々に薄くなり前記積層体Mの両側の傾斜した側面に乗り上げる傾斜部132bと、膜厚が一定で他の層とほぼ平行に形成された平坦部132aとからなっている。このハードバイアス層132の上にはTa等からなる中間層302を介して導電層133が設けられている。
このハードバイアス層132,132が、図示X1方向に磁化されていることで、前記フリー磁性層5の磁化が図示X1方向に揃えられている。これにより、前記フリー磁性層5の変動磁化と前記固定磁性層3,7の固定磁化とが交差する関係となっている。
【0011】
このようなスピンバルブ型薄膜磁気素子では、ハードディスクなどの記録媒体からの洩れ磁界により、図示X1方向に揃えられた前記フリー磁性層5の磁化が変動すると、図示Y方向に固定された固定磁性層3,7の磁化との関係で電気抵抗が変化し、この電気抵抗値の変化に基づく電圧変化により、記録媒体からの洩れ磁界が検出される。
【0012】
さらに、このようなスピンバルブ型薄膜磁気素子では、固定磁性層3,7、非磁性導電層4,6、フリー磁性層5は、比較的薄い膜厚で形成されるが、反強磁性層2,8は、かなり厚い膜厚で形成される。例えば、固定磁性層3,7、非磁性導電層4,6、フリー磁性層5は、それぞれ80Å以下の膜厚で形成されるが、反強磁性層2,8は、200Å〜300Å程度の膜厚で形成される。
このため、図12に示すスピンバルブ型薄膜磁気素子では、フリー磁性層5とハードバイアス層132の平坦部132aとが異なる階層位置となり、前記ハードバイアス層132の平坦部132a、132aの上面が、前記フリー磁性層5の下面よりも基板側(図12では、下側)に位置した状態となっている。
したがって、前記フリー磁性層5は、ハードバイアス層132により積層体Mの両側から磁化される際に、主に前記ハードバイアス層132の傾斜部132b,132bの磁気によって図示X1方向に磁化されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、図12に示すようなスピンバルブ型薄膜磁気素子では、前記ハードバイアス層132の傾斜部132b、132bは、膜厚が薄いため、フリー磁性層5に対して十分なバイアス磁界を与えることが困難である。このため、図12に示すようなスピンバルブ型薄膜磁気素子では、前記フリー磁性層5の磁化の方向が安定しにくく、バルクハウゼンノイズが発生しやすいという不都合があった。
【0014】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的の少なくとも一つを達成しようとするものである。
▲1▼ フリー磁性層に与えるバイアス磁界の向上を図ること。
▲2▼ フリー磁性層の磁化方向を意図した方向に揃えやすくすること。
▲3▼ バルクハウゼンノイズの発生低減を図ること。
▲4▼ このようにフリー磁性層の磁区制御を良好に行うことができるスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドを提供すること。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明のスピンバルブ型薄膜磁気素子は、反強磁性層と、この反強磁性層に接して形成されこの反強磁性層との交換結合磁界により一定方向に磁化方向が固定された固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性導電層を介して形成されたフリー磁性層と、前記フリー磁性層の磁化方向を前記固定磁性層の磁化方向と交差する方向へ揃えるためのハードバイアス層と、前記固定磁性層と前記非磁性導電層とフリー磁性層とに検出電流を与える導電層とを有し、前記フリー磁性層の厚さ方向両側に各々非磁性導電層と固定磁性導電層と反強磁性層が形成された構造とされ、
前記固定磁性層が非磁性中間層を介して第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の2層に分断され、分断された層どうしで磁化の向きが反平行のフェリ磁性状態とされ、
前記フリー磁性層が非磁性中間層を介して第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層の2層に分断され、分断された層どうしで磁化の向きが反平行のフェリ磁性状態とされ、
第1の固定磁性層(下)、非磁性中問層(下)、第2の固定磁性層(下)、非磁性導電層、第2のフリー磁性層、非磁性中間層、第1のフリー磁性層、非磁性導電層、第2の固定磁性層(上)、非磁性中間層(上)、第1の固定磁性層(上)、反強磁性層をこれらの順で具備してなる断面台形状の積層体がそれよりも幅広の反強磁性層上に形成され、
前記第2の固定磁性層(上)の磁化と前記第2の固定磁性層(下)の磁化を互いに反対方向に磁化するとともに、
前記反強磁性層が、X−Mn合金,Pt−Mn−X’合金(ただし前記組成式において、XはPt,Pd,Ir,Rh,Ruのなかから選択される1種、または2種以上の元素を示し、X’はPd,Ir,Rh,Ru,Au,Ag,Cr,Niのなかから選択される1種または2種以上を示す)のいずれかからなり、
前記ハードバイアス層が、前記積層体の両側に位置して形成され、かつ、前記積層体の側面に乗り上げる傾斜部と、前記フリー磁性層とほぼ平行で、前記フリー磁性層の膜厚方向に前記フリー磁性層の膜厚よりも大きな膜厚とされ、前記フリー磁性層と同じ階層位置に配置された平坦部とを有し、
前記ハードバイアス層と前記積層体との間および前記ハードバイアス層と前記反強磁性層との間に、バイアス下地層が設けられ、
前記バイアス下地層が、Cr,Ti,W,Mo,WMoの中から選択される1種以上からなる
ことにより上記課題を解決した。
本発明は、前記第1の固定磁性層および前記第2の固定磁性層が異なる磁気モーメントを有することができる。
本発明は、前記第1のフリー磁性層および前記第2のフリー磁性層が異なる磁気モーメントを有することが好ましい。
本発明は、前記非磁性中間層は、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのうち1種あるいは2種以上の合金で形成されていることができる。
また、本発明においては、前記反強磁性層はX−Mn合金で形成され、元素Xの含有量がX=37〜63原子%の範囲とされてなる手段か、前記反強磁性層はX−Mn合金で形成され、元素Xの含有量がX=47〜53原子%の範囲とされてなる手段か、前記反強磁性層はPt−Mn−X’合金で形成され、Ptの含有量は37〜63原子%の範囲とされてなる手段か、前記反強磁性層はPt−Mn−X’合金で形成され、元素X’の含有量はX’=0.2〜10原子%の範囲とされてなる手段を選択することができる。
本発明では、前記ハードバイアス層の平坦部と重なっている前記フリー磁性層のオーバーラップ量d2とフリー磁性層の膜厚d3とが等しくなっていることが好ましい。
さらに、本発明の前記バイアス下地層は、その結晶構造が体心立方構造となっていることがある。
本発明の前記バイアス下地層は、その結晶構造が(100)配向となっていることが可能である。
本発明は、前記ハードバイアス層が、CoPt合金、もしくは、Co−Cr−Pt合金やCo−Cr−Ta合金で形成されることが望ましい。
本発明の前記ハードバイアス層は、その結晶構造が面心立方構造と稠密六方構造との混成構造であることができる。
また、前記ハードバイアス層と前記導電層との間に、中間層が設けられた手段を裁量することができる。
本発明の前記中間層が、Taからなることもある。
さらに、前記導電層は、W、Cu、Cr、Ta、Auなどで形成されることが好ましい。
【0016】
なお、ここでの「前記フリー磁性層と同じ階層位置に配置され」とは、少なくともハードバイアス層の平坦部とフリー磁性層とが磁気的に主に接合されている状態を意味し、前記ハードバイアス層の平坦部と前記フリー磁性層との接合部分の厚さが前記フリー磁性層の膜厚よりも薄い状態も含まれる。
このようなスピンバルブ型薄膜磁気素子では、ハードバイアス層の平坦部と前記フリー磁性層とが同じ階層位置に配置されているので、フリー磁性層の側面と前記ハードバイアス層の平坦部とが充分磁気的に接合することができ、前記フリー磁性層に必要なバイアス磁界を与えることができる。このため、前記フリー磁性層を単磁区化した状態で、かつ、磁化方向を意図した方向に揃えやすく、バルクハウゼンノイズの発生を低減することができる。
【0017】
本発明において、前記ハードバイアス層がCoPt合金もしくはCoCrPt合金からなることが望ましい。
また、本発明において、前記ハードバイアス層の下側には、前記ハードバイアス層と前記積層体との間および前記ハードバイアス層と反強磁性層との間に、バイアス下地層が設けられたものとしてもよい。
さらに、前記バイアス下地層が、Cr,Ti,W,Mo,WMoの中から選択される1種または2種以上からなることができる。
このようなバイアス下地層を設けることにより、ハードバイアス層と、反強磁性層、フリー磁性層、および固定磁性層と界面において交換結合磁界が発生することを防止できる。
さらに、上記のようにCoPt合金からなるハードバイアス層の下側に結晶構造が体心立方構造(bcc構造;body centered cubic)であるCr等からなるバイアス下地層を設けることにより、面心立方構造(fcc構造;face centered cubic)と稠密六方構造(hcp構造;hexagonal close packed )との混成構造であるCo−Pt合金は、hcp構造の磁化容易軸がCo−Pt合金とCrとの境界面内にそろうため、前記ハードバイアス層の保磁力および角型比が大きくなり、前記フリー磁性層の単磁区化に必要なバイアス磁界を増大させることができる。
【0018】
さらに、本発明のスピンバルブ型薄膜磁気素子においては、前記ハードバイアス層と前記導電層との間に、中間層が設けられたものとしてもよい。
ここで、前記中間層が、Taからなるものとすることができる。
このようなスピンバルブ型薄膜磁気素子とすることで、後工程のインダクティブヘッド(書込ヘッド)の製造プロセスでおこなう絶縁レジストの硬化工程(UVキュアまたはハードベーク)で高温に曝される場合に、Crからなる導電層とCoPt合金からなるハードバイアス層との間で拡散がおこり、ハードバイアス層の膜特性が劣化する場合があるが、Taからなる中間層の存在により、Crからなる導電層とCoPt合金からなるハードバイアス層との間における熱拡散を防ぎハードバイアス層の膜特性の劣化を防止することができる。
【0019】
本発明において、前記反強磁性層が、X−Mn合金,Pt−Mn−X’合金(ただし前記組成式において、XはPt,Pd,Ir,Rh,Ruのなかから選択される1種を示し、X’はPd,Ir,Rh,Ru,Au,Ag,Cr,Niのなかから選択される1種または2種以上を示す)のいずれかからなることが望ましい。
【0020】
PtMn合金は、従来から反強磁性層として使用されているNiMn合金やFeMn合金などに比べて耐食性に優れ、しかも、ブロッキング温度が高く、反強磁性層と固定磁性層との交換結合磁界(交換異方性磁界)も大きいので、好ましい材料である。
また、上記のスピンバルブ型薄膜磁気素子において、前記反強磁性層が、X−Mnの式で示される合金からなる場合、Xは37〜63原子%の範囲であることが望ましい。
さらにまた、上記のスピンバルブ型薄膜磁気素子において、前記反強磁性層が、X’−Pt−Mnの式で示される合金からなる場合、X’+Ptは37〜63原子%の範囲であることが望ましい。
XまたはX’+Ptが好ましい範囲である上記のスピンバルブ型薄膜磁気素子とすることで、より一層良好な交換結合磁界を得ることができ、耐食性に優れたものが得られ、抵抗変化率をより向上させることができる。
【0021】
また、本発明において、前記固定磁性層とフリー磁性層とが非磁性中間層を介して2つに分断され、分断された層どうしで磁化の向きが180゜異なるフェリ磁性状態とされてなる手段を採用することもできる。
このように、少なくとも固定磁性層が非磁性中間層を介して2つに分断されたスピンバルブ型薄膜磁気素子とした場合、2つに分断された固定磁性層のうち一方が他方の固定磁性層を適正な方向に固定する役割を担い、固定磁性層の状態を非常に安定した状態に保つことが可能となる。
一方、少なくともフリー磁性層が非磁性中間層を介して2つに分断されたスピンバルブ型薄膜磁気素子とした場合、2つに分断されたフリー磁性層どうしの間に交換結合磁界が発生し、フェリ磁性状態とされ、外部磁界に対してフェリ磁性状態を保ちながら磁気モーメントが変動し、小さい外部磁界でも感度よく反転できるものとなる。
さらに、第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層との膜厚比や、前記第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層との間に介在する非磁性中間層の膜厚、あるいは第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との膜厚比や、前記第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との間に介在する非磁性中間層の膜厚、および反強磁性層の膜厚などを適正な範囲内で形成することによって、交換結合磁界を大きくすることができ、第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との磁化状態を固定磁化として、第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層との磁化状態を変動磁化として、熱的にも安定したフェリ状態に保つことが可能となっている。
【0022】
ここで、「前記第1の固定磁性層および前記第2の固定磁性層が異なる磁気モーメントを有する」とは、「第1の固定磁性層(上)の磁気モーメントの方が、第2の固定磁性層(上)の磁気モーメントに比べて大きくなっており、第2の固定磁性層(下)の磁気モーメントの方が、第1の固定磁性層(下)の磁気モーメントに比べて大きくなっているか、または、第1の固定磁性層(下)の磁気モーメントを、第2の固定磁性層(下)の磁気モーメントよりも大きくし、かつ、第1の固定磁性層(上)の磁気モーメントを第2の固定磁性層(上)の磁気モーメントよりも小さくする」ことを意味する。
これに加えて、前記フリー磁性層が非磁性中間層を介して第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層の2層に分断され、分断された層どうしで磁化の向きが反平行のフェリ磁性状態とされるとともに、前記第2の固定磁性層(上)の磁化と前記第2の固定磁性層(下)の磁化を互いに反対方向に磁化し、かつ、第1の固定磁性層(下)と第2の固定磁性層(下)との磁化の向きが反平行のフェリ磁性状態とされ第1の固定磁性層(上)と第2の固定磁性層(上)との磁化の向きが反平行のフェリ磁性状態とされることで、フリー磁性層の上下で、第1の固定磁性層の磁気モーメントと第2の固定磁性層の磁気モーメントを足して求めることができる合成磁気モーメントの方向が、それぞれ、図8,図9に示す方向になっていることが可能である。
これにより、シャントロスの量を非常に少なくすることが可能となっており、とくに、第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との磁化状態を、より熱的安定性に優れたものにできる。
さらに、前記バイアス下地層を形成するCrは、その結晶構造が体心立方構造(bcc構造;body centered cubic)で、かつ、(100)配向となっている。また、前記ハードバイアス層を形成するCo−Pt系合金の結晶構造は、面心立方構造(fcc構造;face centered cubic)と稠密六方構造(hcp構造;hexagonal close packed )の混相となっている。
ここで、Crの格子定数とCo−Pt合金のhcp構造の格子定数とが、近い値となっているため、格子整合し易い状態にある。このため、前記Co−Pt合金は、fcc構造を形成しにくく、Cr上において、CoPtがエピタキシー成長(epitaxial growth)し易くなり、hcp構造で形成され易くなる。このとき、hcp構造の磁化容易軸であるc軸が面内方向を向き、Co−Pt合金とCrとの境界面内に優先配向される。
前記hcp構造は、fcc構造に比べてc軸方向に大きな磁気異方性を生じるため、ハードバイアス層に磁界を与えたときの保磁力Hcは大きくなる。さらに、hcp構造のc軸は、エピタキシャル成長により、Co−Pt合金とCrとの境界面内で優先配向となっているため、残留磁化(Br)は増大し、残留磁化(Br)/飽和磁束密度(Bs)で求められる角型比Sは大きな値になる。その結果、ハードバイアス層から発生するバイアス磁界を増大させることが可能となり、フリー磁性層を単磁区化しやすくなる。
なお、結晶構造が体心立方構造(bcc構造)であり、かつ、(100)配向となるバイアス下地層としては、Cr以外にTi(チタン),W(タングステン),Mo(モリブデン)またはW50Mo50、(50,50は原子%)の、いずれか1種または2種以上で形成してもよい。
さらに、前記ハードバイアス層と前記導電層との間に、Taなどの非磁性材料からなる中間層314が設けられたことにより、後工程のインダクティブヘッド(書込ヘッド)の製造プロセスである絶縁レジストの硬化工程において、UVキュア,ハードベーク等によって高温に曝される場合にも、Taからなる中間層の存在により、Crからなる導電層とCoPt合金からなるハードバイアス層との間における熱拡散を防止して、ハードバイアス層の膜特性の劣化を防止することができ、導電層は、例えば、W、Cu、Cr、Ta、Auなどで形成されることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明においては、上述のような記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドを提供することができる。
このような薄膜磁気へッドとすることで、フリー磁性層の磁区制御を良好に行うことができる薄膜磁気へッドとすることができ、前記課題を解決することができる。
【0024】
前記非磁性導電層が、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのうち1種あるいは2種以上の合金で形成されていることが好ましく、例えばCuが選択されることができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に関係するスピンバルブ型薄膜磁気素子およびそのスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドの第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明に関係する第1実施形態のスピンバルブ型薄膜磁気素子を記録媒体との対向面側から見た場合の構造を示す断面図、図2は、図1のスピンバルブ型薄膜磁気素子を示す横断面図である。なお、この第1実施形態の薄膜磁気ヘッドにおいて、全体の概略構造は、図14〜図16に基づいて先に説明した構造の薄膜磁気ヘッド150と略同等であるが、MRヘッドh1に設けられているスピンバルブ型薄膜磁気素子が異なっている。よって、図1および図2に示す第1実施形態の構造においては、スピンバルブ型薄膜磁気素子の部分について主に説明し、その他のスライダ部分とインダクティブヘッド(書込ヘッド)部分の構造については説明を省略する。
【0026】
本実施形態のスピンバルブ型薄膜磁気素子MR3は、フリー磁性層の上下に非磁性導電層、固定磁性層、反強磁性層が各々1層ずつ形成されたいわゆるデュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子の一種とされる。
このスピンバルブ型薄膜磁気素子MR3では、ハードディスクなどの磁気記録媒体の移動方向は、図示Z方向であり、磁気記録媒体からの洩れ磁界の方向は、Y方向である。
【0027】
前記薄膜磁気ヘッドは、ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレーリング側端部などに設けられて、ハードディスクなどの記録磁界を検出するものである。また、ハードディスクなどの磁気記録媒体の移動方向は、図1および図2のZ方向であり、磁気記録媒体からの漏れ磁界の方向は図1および図2のY方向である。なお、薄膜磁気ヘッドのスライダ部分の構成と、インダクティブヘッドの構成は図14〜図16に示す構成以外にも種々のものがあるので、図14〜図16の構成は一例であり、その他の種々の構成のスライダとインダクティブヘッドとを採用しても良いのは勿論である。
【0028】
この形態においてAl−TiC(商品名:アルチック)等のセラミックあるいは、Siなどからなる硬質材料製の基板の上には、アルミナ(Al)などの絶縁体からなる保護層が形成され、保護層上に下部シールド層が形成され、この下部シールド層の上に、アルミナ(Al)などの絶縁体からなる下部ギャップ層が形成され、この下部ギャップ層の上には、スピンバルブ型薄膜磁気素子MR3が形成されている。
このスピンバルブ型薄膜磁気素子MR3は、反強磁性層142,148と、この反強磁性層142,148に接して形成されこの反強磁性層142,148との交換結合磁界により一定方向に磁化方向が固定された固定磁性層143,147と、前記固定磁性層143,147に非磁性導電層144,146を介して形成されたフリー磁性層145と、前記フリー磁性層145の磁化方向を前記固定磁性層143,147の磁化方向と交差する方向へ揃えるためのハードバイアス層311,311と、前記固定磁性層143,147と前記非磁性導電層144,146とフリー磁性層145とに検出電流を与える導電層312,312とを基板上に有し、前記フリー磁性層145の厚さ方向両側(図示上下方向両側)に各々非磁性導電層144,146と固定磁性層143,147と反強磁性層142,148が形成されたデュアル型構造とされる。
【0029】
スピンバルブ型薄膜磁気素子MR3には、図1の下からTa等からなる下地膜149と反強磁性層142が積層されて、この反強磁性層142の上に固定磁性層143と非磁性導電層144とフリー磁性層145と非磁性導電層146と固定磁性層147と反強磁性層148とTa等からなる保護層141とが積層され断面台形状の積層体M1が形成される。そして、この積層体M1の左右両側の傾斜部分、および、積層体M1左右両側の反強磁性層142の上に各々ハードバイアス層311,311と導電層312,312とが積層されて構成されており、ハードバイアス層311,311が図1のX1方向に磁化されることによりフリー磁性層145の磁化が図1の矢印に示すようにX1方向に揃えられており、これらの上には上部ギャップ層166が設けられる。
この積層体M1では、フリー磁性層145により磁気記録媒体からの磁界を検出するが、図1に示す導電層312,312間の最小距離がトラック幅Twに対応する幅とされ、図1に示すように、記録媒体との対向面側から見た断面形状が台形状とされている。
【0030】
ここで、固定磁性層143は、反強磁性層142に接して形成され、また、固定磁性層147は、反強磁性層148に接して形成され、磁場中アニール(熱処理)を施すことにより、前記固定磁性層143と反強磁性層142との界面および、前記固定磁性層147と反強磁性層148との界面にて交換結合磁界(交換異方性磁界)が発生され、例えば図1に示すように、前記固定磁性層143,147の磁化が図示Y方向に固定されている。
【0031】
また、本発明において前記反強磁性層142,148は、PtMn合金で形成されていることが好ましい。PtMn合金は従来から反強磁性層として使用されているNiMn合金やFeMn合金などに比べて耐食性に優れ、しかもブロッキング温度が高く、反強磁性層142の上に形成される固定磁性層143、および、反強磁性層148の下に形成される固定磁性層147との交換結合磁界(交換異方性磁界)も大きい。また本発明では、前記PtMn合金に代えて、X−Mn(ただしXは、Pd,Ir,Rh,Ruのいずれか1種、または2種以上の元素である)合金、あるいは、Pt−Mn−X’(ただしX’は、Pd,Ir,Rh,Ru,Au,Ag,Cr,Niのいずれか1種または2種以上の元素である)合金で形成されていてもよい。反強磁性層142,148はその交換結合磁界により隣接する固定磁性層143,147の磁化の向きをピン止めして図1のY方向に向ける作用を奏する。
【0032】
また、前記2元素系のX−Mn合金において、元素Xの含有量はX=37〜63原子%(37原子%以上、63原子%以下;以下特に規定しない限り、〜で示す数値上の上限と下限は、以下、以上、を意味する。)の範囲が好ましく、X=44〜57原子%の範囲がより好ましい。さらに、前記3元素系のPt−Mn−X’合金において、Ptの含有量は37〜63原子%(37原子%以上、63原子%以下)が好ましく、元素X’の含有量はX’=0.2〜10原子%の範囲が好ましい。また、3元素系のPt−Mn−X’合金において、Pt+Mnの含有量は44〜57原子%が好ましい。
これらの適正な組成範囲の合金を用いてこれをアニール処理することで大きな交換結合性磁界を発生する反強磁性層2を得ることができ、特にPt−Mn合金であれば、800(Oe)を越える交換結合磁界を有し、交換結合磁界を失うブロッキング温度が380℃の極めて高い優れた反強磁性層142,148を得ることができる。
【0033】
前記積層構造において、一例として下地膜149はTaなどの非磁性体からなり、前記固定磁性層143,147は、強磁性体の薄膜からなり、例えば、Co膜,NiFe合金膜,CoNiFe合金膜,CoFe合金膜などからなり、40Å程度の厚さとされることが好ましい。また、非磁性導電層144,146は、Cu、Cr、Au、Agなどに代表される非磁性導電膜からなり、20〜40Å程度の厚さとされることが好ましい。保護層141はTaなどの非磁性膜からなる。
前記フリー磁性層145は、通常、80Å程度の厚さとされ、NiFe合金膜等、前記固定磁性層142,147と同様の材質などで形成されることが好ましい。
非磁性導電層144を固定磁性層143とフリー磁性層145とで挟むとともに、非磁性導電層146を固定磁性層147とフリー磁性層145とで挟む構造の巨大磁気抵抗効果発生機構では、固定磁性層143,147とフリー磁性層145とを同種の材質で構成する方が、異種の材質で構成するよりも、伝導電子のスピン依存散乱以外の因子が生じる可能性が低く、より高い磁気抵抗効果を得ることが可能である。
【0034】
前記ハードバイアス層311は、前述したように、基板側から固定磁性層143と非磁性導電層144と前記フリー磁性層145と非磁性導電層146と固定磁性層147と反強磁性層148とをこれらの順で具備してなる断面台形状の積層体M1よりも幅広の反強磁性層142上に、この積層体M1の両側に位置して形成され、かつ、該前記積層体M1の側面に乗り上げる傾斜部311bと、前記フリー磁性層145とほぼ平行で、前記フリー磁性層145の膜厚方向に前記フリー磁性層145の膜厚よりも大きな膜厚とされ、前記フリー磁性層145と同じ階層位置に配置された平坦部311aとを有するものである
なお、ここでの「前記フリー磁性層145と同じ階層位置に配置され」とは、少なくともハードバイアス層311の平坦部311aとフリー磁性層145とが磁気的に主に接合されている状態を意味し、前記ハードバイアス層311の平坦部311aと前記フリー磁性層145との接合部分の厚さが前記フリー磁性層145の膜厚よりも薄い状態も含まれる。
そして、前記ハードバイアス層311,311と前記フリー磁性層145とは、主に平坦部311a,311aにおいて磁気的に接合されている。
本実施形態において、前記ハードバイアス層311が、通常、300Å程度の厚さとされ、CoPt合金からなることが望ましい。また、CoPt以外に、Co−Cr−Pt(コバルト−クロム−白金)合金やCo−Cr−Ta(コバルト−クロム−タンタル)合金で形成してもよい。
【0035】
また、本実施形態において、前記ハードバイアス311層の下側には、前記ハードバイアス層311と前記積層体M1との間および前記ハードバイアス層311と反強磁性層142との間に、バイアス下地層313が設けられたものとしてもよい。
前記バイアス下地層313,313は、緩衝膜および配向膜であり、Cr(クロム)などで形成されることが好ましい。
また、前記バイアス下地層313,313の膜厚は、18〜55Åの範囲とすることが好ましい。より好ましくは、20〜50Åの範囲である。20〜50Åの範囲内で前記バイアス下地層313,313を形成すると、パルクハウゼンノイズの発生率が10%以下と著しく低下する。前記バイアス下地層313,313の膜厚が55Åよりも大きいと、フリー磁性層145の側面とハードバイアス層311との間に介在する前記バイアス下地層313の影響により、ハードバイアス層311,311からフリー磁性層145に与えられるバイアス磁界が低下してしまうため、バルクハウゼンノイズの発生率が20%以上となり、好ましくない。逆に、バイアス下地層313の膜厚が18Åよりも小さい場合も、バルクハウゼンノイズの発生率が20%以上となるため、好ましくない。
【0036】
ここで、前記バイアス下地層313,313の役割について説明する。
前記バイアス下地層313,313を形成するCrは、その結晶構造が体心立方構造(bcc構造;body centered cubic)で、かつ、(100)配向となっている。また、前記ハードバイアス層311,311を形成するCo−Pt系合金の結晶構造は、面心立方構造(fcc構造;face centered cubic)と稠密六方構造(hcp構造;hexagonal close packed )の混相となっている。
ここで、Crの格子定数とCo−Pt合金のhcp構造の格子定数とが、近い値となっているため、格子整合し易い状態にある。このため、前記Co−Pt合金は、fcc構造を形成しにくく、Cr上において、CoPtがエピタキシー成長(epitaxial growth)し易くなり、hcp構造で形成され易くなる。このとき、hcp構造の磁化容易軸であるc軸が面内方向を向き、Co−Pt合金とCrとの境界面内に優先配向される。
前記hcp構造は、fcc構造に比べてc軸方向に大きな磁気異方性を生じるため、ハードバイアス層311,311に磁界を与えたときの保磁力Hcは大きくなる。さらに、hcp構造のc軸は、エピタキシャル成長により、Co−Pt合金とCrとの境界面内で優先配向となっているため、残留磁化(Br)は増大し、残留磁化(Br)/飽和磁束密度(Bs)で求められる角型比Sは大きな値になる。その結果、ハードバイアス層311,311から発生するバイアス磁界を増大させることが可能となり、フリー磁性層145を単磁区化しやすくなる。なお、結晶構造が体心立方構造(bcc構造)であり、かつ、(100)配向となるバイアス下地層313としては、Cr以外にTi(チタン),W(タングステン),Mo(モリブデン)またはW50Mo50、(50,50は原子%)の、いずれか1種または2種以上で形成してもよい。
【0037】
さらに、本実施形態においては、前記ハードバイアス層311と前記導電層312との間に、Taなどの非磁性材料からなる中間層314が設けられたものとしてもよい。
このことにより、後工程のインダクティブヘッド(書込ヘッド)の製造プロセスである絶縁レジストの硬化工程において、UVキュア,ハードベーク等によって高温に曝される場合にも、Taからなる中間層314の存在により、Crからなる導電層312とCoPt合金からなるハードバイアス層311との間における熱拡散を防止して、ハードバイアス層の膜特性の劣化を防止することができる。
また、導電層312,312は、例えば、W、Cu、Cr、Ta、Auなどで形成されることが好ましい。
【0038】
図1および図2に示すスピンバルブ型薄膜磁気素子MR3においては、前記ハードバイアス層311,311が、図示X1方向に磁化されていることで、前記フリー磁性層145の磁化が、図示X1方向に揃えられている。これにより、前記フリー磁性層145の変動磁化と前記固定磁性層143,147の固定磁化とが交差する関係となっている。
また、バイアス下地層313により、ハードバイアス層311,311と反強磁性層142、および、ハードバイアス層311,311と反強磁性層148が接触することが防止され、このハードバイアス層311,311と反強磁性層142との界面、および、ハードバイアス層311,311と反強磁性層148との界面にて交換結合磁界(交換異方性磁界)が発生されることを防止することができる。
【0039】
このようなスピンバルブ型薄膜磁気素子MR3では、図1,図2に示すように、前記導電層312,312からフリー磁性層145、非磁性導電層144,146、固定磁性層143,147にセンス電流114が与えられる。記録媒体から図1および図2に示す図示Y方向に磁界が与えられると、フリー磁性層145の磁化は、図示X1方向からY方向に変動する。このときの非磁性導電層144とフリー磁性層145との界面、および非磁性導電層144と固定磁性層143との界面で、スピンに依存した伝導電子の散乱が起こるとともに、非磁性導電層146とフリー磁性層145との界面、および非磁性導電層146と固定磁性層147との界面で、スピンに依存した伝導電子の散乱が起こることにより、電気抵抗が変化し、記録媒体からの洩れ磁界が検出される。
【0040】
この際、固定磁性層143の磁化の向きは反強磁性層142による異方性磁界により固定されており、また、固定磁性層147の磁化の向きは反強磁性層148による異方性磁界により固定されているが、フリー磁性層145の磁化の向きは回転できるので、磁気記録媒体からの漏れ磁界が作用した状態になることでフリー磁性層145の磁化の向きが回転する結果、磁気抵抗変化が起きる。
本実施形態においては、このように、フリー磁性層145に図1のX1方向に一軸異方性が付与されていてフリー磁性層145が単磁区化されていることにより、フリー磁性層145の磁化の回転が円滑になされるために、バルクハウゼンノイズの生じないスムーズな抵抗変化が得られ易くなり、ハードバイアス層311,311によってフリー磁性層145にバイアスを付加する場合にバイアス印加を円滑に行い得る結果としてフリー磁性層145の磁化の回転が円滑に為されるようにできる。
【0041】
このようなスピンバルブ型薄膜磁気素子MR3を製造するには、図3に示すように、まず、基板上に、下地膜149、反強磁性層142、固定磁性層143、非磁性導電層144、フリー磁性層145、非磁性導電層146、固定磁性層147、反強磁性層148、保護層148Aを順次成膜し、前記保護層128A上にリフトオフレジストを形成する。
ついで、図4に示すように、前記リフトオフレジストに覆われていない部分をイオンミリングにより除去し、積層体M1を形成する。このとき、イオンミリングを反強磁性層142の上面に達した状態で終了する。
続いて、図5に示すように、反強磁性層142上から前記積層体M1トラック幅Tw方向両側にわたって連続してCrからなるバイアス下地層313,313を形成し、このバイアス下地層313,313上にハードバイアス層311,311、中間層314,314、導電層312,312を順次成膜したのち、前記リフトオフレジストを除去することによって、図1に示すスピンバルブ型薄膜磁気素子MR3の構造を得ることができる。
ここで、Crからなるバイアス下地層313,313上において、CoPtからなるハードバイアス層311,311を形成することにより、Cr上において、CoPtがエピタキシー成長し易くすることができる。その結果、hcp構造のc軸がCoPtとCrとの境界面内に優先配向され、ハードバイアス層311,311に磁界を与えたときの保磁力Hcは大きくすることができる。さらに、残留磁化(Br)は増大し、残留磁化(Br)/飽和磁束密度(Bs)で求められる角型比Sは大きな値になり、ハードバイアス層311,311から発生するバイアス磁界を増大させることが可能となり、フリー磁性層145を単磁区化しやすくなる。
【0042】
このようなスピンバルブ型薄膜磁気素子MR3を備えた薄膜磁気ヘッドでは、前記ハードバイアス層311,311は、反強磁性層142上に、かつ、固定磁性層143、非磁性導電層144、フリー磁性層145、非磁性導電層146、固定磁性層147、反強磁性層148の順で積層されてなる断面台形状の積層体M1のトラック幅Tw方向両側に形成され、前記フリー磁性層145とほぼ平行で、前記フリー磁性層145の膜厚方向に前記フリー磁性層145の膜厚よりも大きな膜厚とされ、前記フリー磁性層145と同じ階層位置に配置された平坦部311a,311aを有するものであるので、フリー磁性層145の側面と前記ハードバイアス層311,311の平坦部311a,311aとを充分磁気的に接合することができ、前記フリー磁性層125に十分なバイアス磁界を与えることができる。このため、前記フリー磁性層125の磁化方向を意図した方向に揃えやすく、バルクハウゼンノイズの発生を低減することができ。
【0043】
また、ハードバイアス層311,311は、前記積層体M1の側面に乗り上げる傾斜部311b,311bを有し、積層体M1の側面の下部から上部にかけて形成されているので、ハードバイアス層311,311と固定磁性層143から反強磁性層148までの前記6層とにおけるバイアス下地層313を介した接触面積を大きくすることができ、スピンバルブ型薄膜磁気素子MR3の直流抵抗(DCR)を小さくすることが可能となる。このため、検出出力は大きくなり、読み取り精度が安定する。
【0044】
したがって、このスピンバルブ型薄膜磁気素子MR3は、フリー磁性層5の側面がハードバイアス層132の平坦部132a,132aと主に磁気的に接合されていない図12に示す従来のスピンバルブ型薄膜磁気素子と比較して、優れたものとなる。
【0045】
また、反強磁性層142,148に、X−Mnの式で示される合金またはX’−Pt−Mnの式で示される合金を用いたスピンバルブ型薄膜磁気素子とすることで、反強磁性層に従来使用されていたNiO合金、FeMn合金、NiMn合金などを用いたものと比較して、交換結合磁界が大きく、またブロッキング温度が高く、さらに耐食性に優れているなどの優れた特性を有するスピンバルブ型薄膜磁気素子とすることができる。
【0046】
また、前記ハードバイアス層311,311と前記積層体M1との間、および、前記ハードバイアス層311,311と反強磁性層142との間に、結晶構造が体心立方構造(bcc構造)であるCr等からなるバイアス下地層313,313を設けることにより、前記ハードバイアス層311,311の保磁力および角型比が大きくなり、前記フリー磁性層145の単磁区化に必要なバイアス磁界を増大させることができる。
さらに、前記バイアス下地層313,313の膜厚を、18〜55Åの範囲とすることで、バルクハウゼンノイズの発生をより低減させることができる。また、前記バイアス下地層120、120の膜厚を、20〜50Åの範囲とすれば、より一層、バルクハウゼンノイズの発生をより低減させることができる。
【0047】
本実施形態のスピンバルブ型薄膜磁気素子MR3においては、上述したように、非磁性導電層144の厚さ方向上下に、固定磁性層123とフリー磁性層125をそれぞれ単層構造として設けたが、これらを複層構造としてもよい。
巨大磁気抵抗変化を示すメカニズムは、非磁性導電層144と固定磁性層143とフリー磁性層145との界面、および、非磁性導電層146と固定磁性層147とフリー磁性層145との界面で生じる伝導電子のスピン依存散乱によるものである。Cuなどからなる前記非磁性導電層144,146に対し、スピン依存散乱が大きな組み合わせとして、Co層が例示できる。このため、固定磁性層143、147をCo以外の材料で形成した場合、固定磁性層143,147の非磁性導電層144、146側の部分を図1の2点鎖線で示すように薄いCo層で形成することが好ましい。また、フリー磁性層155をCo以外の材料で形成した場合も固定磁性層143,147の場合と同様に、フリー磁性層145の非磁性導電層144,146側の部分を図1の2点鎖線で示すように薄いCo層で形成することが好ましい。
【0048】
以下、本発明に関係するスピンバルブ型薄膜磁気素子およびそのスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドの第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
[第2実施形態]
図6は、本発明に関係する第2実施形態のスピンバルブ型薄膜磁気素子を記録媒体との対向面側から見た場合の構造を示す断面図、図7は、図6のスピンバルブ型薄膜磁気素子を示す横断面図である。なお、この第2実施形態の薄膜磁気ヘッドにおいて、全体の概略構造は、図14〜図16に基づいて先に説明した構造の薄膜磁気ヘッド150と略同等であるが、MRヘッドh1に設けられているスピンバルブ型薄膜磁気素子が異なっている。よって、図6および図7に示す第2実施形態の構造においては、スピンバルブ型薄膜磁気素子の部分について主に説明し、その他のスライダ部分とインダクティブヘッド(書込ヘッド)部分の構造については説明を省略する。
【0049】
この第2実施形態の構造において、図1,図2に示す第1実施形態と異なるのは、スピンバルブ型薄膜磁気素子MR6の構造であり、この実施形態のスピンバルブ型薄膜磁気素子MR6は、フリー磁性層を中心としてその上下に非磁性導電層、固定磁性層、および反強磁性層が1層ずつ形成された、いわゆるデュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子であって、フリー磁性層/非磁性導電層/固定磁性層のこの3層の組合わせが上下に2組存在する。
【0050】
図6,図7に示すスピンバルブ型薄膜磁気素子MR6は、基板側の下地層の上に、下から下地膜30と反強磁性層31とが積層されており、この反強磁性層31上に、第1の固定磁性層(下)32、非磁性中問層(下)33、第2の固定磁性層(下)34、非磁性導電層35、フリー磁性層36(符号37,39はCo膜)、符号38はNiFe合金膜)、非磁性導電層40、第2の固定磁性層(上)41、非磁性中間層(上)42、第1の固定磁性層(上)43、反強磁性層44、および、保護層45の順で積層されて積層体M2が形成されている。
この積層体M2では、フリー磁性層36の部分の幅がトラック幅Twに対応する幅とされ、図6に示すように、記録媒体との対向面側から見た断面形状が台形状とされている。
また、図6に示すように第1の固定磁性層(下)32から反強磁性層44までの積層体M2の両側には、ハードバイアス層315,315と導電層316,316が形成されている。そして、前記ハードバイアス層315,315と前記導電層316,316との間には、中間層318が設けられ、前記ハードバイアス層315,315と前記積層体M2との間および前記ハードバイアス層315,315と反強磁性層31との間には、バイアス下地層317,317が設けられ、該積層体M2および導電層316,316の上には上部ギャップ層166が設けられている。
【0051】
図6,図7に示すスピンバルブ型薄膜磁気素子の反強磁性層31,44は、第1実施形態のおいて述べたPtMn合金あるいはX−Mn合金で形成されていることが好ましいがその好ましい組成範囲は若干異なる。
反強磁性層31,44を構成する2元素系のX−Mn合金において、元素Xの含有量はX=37〜63原子%(37原子%以上、63原子%以下)の範囲が好ましいが、X=47〜57原子%の範囲がより好ましい。さらに、前記3元素系のPt−Mn−X’合金において、Ptの含有量は37〜63原子%が好ましく、元素X’の含有量はX’=0.2〜10原子%の範囲が好ましい。また、3元素系のPt−Mn−X’合金において、Pt+Mnの含有量は47〜57原子%が好ましい。
【0052】
前記ハードバイアス層315が、前記積層体M2より幅広の反強磁性層31上に位置し、かつ、この断面台形状の積層体M2の両側に位置して形成され、前記積層体M2の側面に乗り上げる傾斜部315bと、前記フリー磁性層36とほぼ平行で、前記フリー磁性層36の膜厚方向に前記フリー磁性層36の膜厚よりも大きな膜厚とされ、前記フリー磁性層36と同じ階層位置に配置された平坦部315aとを有するものである
なお、ここでの「前記フリー磁性層36と同じ階層位置に配置され」とは、少なくともハードバイアス層315の平坦部315aとフリー磁性層36とが磁気的に主に接合されている状態を意味し、前記ハードバイアス層315の平坦部315aと前記フリー磁性層36との接合部分の厚さが前記フリー磁性層36の膜厚よりも薄い状態も含まれる。
そして、前記ハードバイアス層315,315と前記フリー磁性層36とは、主に平坦部315a,315aにおいて磁気的に接合されている。
本実施形態において、前記ハードバイアス層315が、通常、300Å程度の厚さとされ、CoPt合金からなることが望ましい。また、CoPt以外に、Co−Cr−Pt合金やCo−Cr−Ta(コバルト−クロム−タンタル)合金で形成してもよい。
【0053】
また、本実施形態において、前記ハードバイアス315層の下側には、前記ハードバイアス層315と前記積層体M2との間および前記ハードバイアス層315と反強磁性層31との間に、バイアス下地層317が設けられたものとしてもよい。
前記バイアス下地層317,317は、緩衝膜および配向膜であり、Cr(クロム)などで形成されることが好ましい。
このCrからなるバイアス下地層317を設けることにより、前述の第1実施形態で説明した作用効果を得ることができる。
また、前記バイアス下地層317,317の膜厚は、18Å〜55Åの範囲とすることが好ましい。より好ましくは、20Å〜50Åの範囲である。20〜50Åの範囲内で前記バイアス下地層317,317を形成すると、パルクハウゼンノイズの発生率が10%以下と著しく低下する。前記バイアス下地層317,317の膜厚が55Åよりも大きいと、フリー磁性層36の側面とハードバイアス層315との間に介在する前記バイアス下地層317の影響により、ハードバイアス層315,315からフリー磁性層36に与えられるバイアス磁界が低下してしまうため、バルクハウゼンノイズの発生率が20%以上となり、好ましくない。逆に、バイアス下地層317の膜厚が18Åよりも小さい場合も、バルクハウゼンノイズの発生率が20%以上となるため、好ましくない。
【0054】
ところで、図7に示す第1の固定磁性層(下)32及び第2の固定磁性層(下)34に示されている矢印は、それぞれの磁気モーメントの大きさ及びその方向を表しており、前記磁気モーメントの大きさは、飽和磁化(Ms)と膜厚(t)とをかけた値で選定される。
【0055】
図7に示す第1の固定磁性層(下)32と第2の固定磁性層(下)34とは同じ材質、例えばCo膜で形成され、しかも第2の固定磁性層(下)34の膜厚tPが、第1の固定磁性層(下)32の膜厚tPよりも大きく形成されているために、第2の固定磁性層(下)34の方が第1の固定磁性層(下)32に比べ磁気モーメントが大きくなっている。
なお、本実施形態では、第1の固定磁性層(下)32および第2の固定磁性層(下)34が異なる磁気モーメントを有することを必要としており、従って、第1の固定磁性層(下)32の膜厚tPが第2の固定磁性層(下)34の膜厚tPより厚く形成されていてもよい。
図7に示すように第2の固定磁性層(下)34は、図示Y方向、すなわち記録媒体から離れる方向(ハイト方向)に磁化されており、非磁性中間層13を介して対向する第1の固定磁性層(下)32の磁化は前記第1の固定磁性層12の磁化方向と反平行に磁化されている。
【0056】
第1の固定磁性層(下)32は、反強磁性層31に接して形成され、磁場中アニール(熱処理)を施すことにより、前記第1の固定磁性層(下)32と反強磁性層31との界面にて交換結合磁界(交換異方性磁界)が発生し、例えば図7に示すように、前記第1の固定磁性層(下)32の磁化が、図示Y方向に固定される。前記第1の固定磁性層(下)32の磁化が、図示Y方向と反対方向に固定されると、非磁性中間層33を介して対向する第2の固定磁性層(下)34の磁化は、第1の固定磁性層(下)32の磁化と反平行の状態で固定される。
【0057】
交換結合磁界が大きいほど、第1の固定磁性層(下)32の磁化と第2の固定磁性層(下)34の磁化を安定して反平行状態に保つことが可能であり、特に本実施形態では反強磁性層31としてブロッキング温度が高く、しかも第1の固定磁性層(下)32との界面で大きい交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生させるPtMn合金を使用することで、前記第1の固定磁性層(下)32および第2の固定磁性層(下)34の磁化状態を熱的にも安定して保つことができる。
【0058】
以上のように本実施形態では、第1の固定磁性層(下)32と第2の固定磁性層(下)34との膜厚比を適正な範囲内に収めることによって、交換結合磁界(Hex)を大きくでき、第1の固定磁性層(下)32と第2の固定磁性層(下)34との磁化を、熱的にも安定した反平行状態(フェリ状態)に保つことができ、しかも△MR(抵抗変化率)を従来と同程度に確保することが可能である。
さらに熱処理中の磁場の大きさおよびその方向を適正に制御することによって、第1の固定磁性層(下)32および第2の固定磁性層(下)34の磁化方向を、得たい方向に制御することが可能になる。
【0059】
また、図6,図7に示す第1の固定磁性層(下)32,(上)43と第2の固定磁性層、(下)34,(上)41との間に介在する非磁性中間層33,42は、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのうち1種あるいは2種以上の合金で形成されていることが好ましい。
【0060】
図6,図7に示すように、第2の固定磁性層(下)34の上には、Cuなどで形成された非磁性導電層35が形成され、さらに前記非磁性導電層35の上にフリー磁性層36が形成されている。ここで、フリー磁性層36は、3層で形成されており、前記非磁性導電層35,40に接する側に形成された符号37,39の層はCo膜で形成されている。また中央の層38は、NiFe合金や、CoFe合金、あるいはCoNiFe合金などで形成されている。なお非磁性導電層35,40に接する側にCo膜の層37,39を形成する理由は、Cuで形成された前記非磁性導電層35との界面での金属元素等の拡散を防止でき、また、△MR(抵抗変化率)を大きくできるからである。
また、前記ハードバイアス層315のバイアス磁界の影響を受けて、このフリー磁性層36の磁化は、図示X1方向に磁化された状態となっている。
【0061】
また、図6,図7に示すように、フリー磁性層36の上側には、非磁性導電層40、第2の固定磁性層(上)41、非磁性中間層(上)42、第1の固定磁性層(上)43、反強磁性層44が積層され、これら第1の固定磁性層(上)43と第2の固定磁性層(上)41との間に介在する非磁性中間層42、および、反強磁性層44にあっては、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化が共に同じ方向に向くようにする必要性があり、そのために、本発明では、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁気モーメントMs・tPと、第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁気モーメントMs・tPとの調整、および熱処理中に印加する磁場の方向およびその大きさを適正に調節することで、デュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子として満足に機能させることができる。
【0062】
ここで、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化を共に同じ方向に向けておくのは、前記第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化と反平行になる第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化を共に同じ方向に向けておくためであり、その理由について以下に説明する。
【0063】
図6,図7におけるスピンバルブ型薄膜磁気素子MR6では、前記導電層316からフリー磁性層36、非磁性導電層35,40、および第2の固定磁性層34,41にセンス電流が与えられる。記録媒体から図6,図7に示す図示Y方向に磁界が与えられると、フリー磁性層36の磁化は図示X1方向からY方向に変動し、このときの非磁性導電層35,40とフリー磁性層36との界面、および非磁性導電層35,40と第2の固定磁性層34,41との界面でスピンに依存した伝導電子の散乱が起こることにより、電気抵抗が変化し、記録媒体からの洩れ磁界が検出される。
【0064】
ところで前記センス電流は、実際には、第1の固定磁性層32,43と非磁性中間層33,42の界面などにも流れる。前記第1の固定磁性層32,43は△MRに直接関与せず、前記第1の固定磁性層32,43は、△MRに関与する第2の固定磁性層34,41を適正な方向に固定するための、いわば補助的な役割を担った層となっている。このためセンス電流が、第1の固定磁性層32,43および非磁性中間層33,42に流れることは、シャントロス(電流ロス)になるが、本実施形態では、このシャントロスの量を非常に少なくすることが可能となっている。
【0065】
このように、スピンバルブ型薄膜磁気素子MR6の△MRは、固定磁性層の固定磁化とフリー磁性層の変動磁化との関係によって得られるものであるが、本発明のように固定磁性層が第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の2層に分断された場合にあっては、前記△MRに直接関与する固定磁性層の層は第2の固定磁性層であり、第1の固定磁性層は、前記第2の固定磁性層の磁化を、一定方向に固定しておくためのいわば補助的な役割を担っている。
【0066】
仮に図6,図7に示す第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化が互いに反対方向に固定されているとすると、例えば第2の固定磁性層(上)41の固定磁化と、フリー磁性層36の変動磁化との関係では抵抗が大きくなっても、第2の固定磁性層(下)34の固定磁化と、フリー磁性層36の変動磁化との関係では抵抗が非常に小さくなってしまう。
【0067】
この問題は、本発明のように、固定磁性層を非磁性中間層を介して2層に分断したデュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子に限ったことではなく、他のデュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子であっても同じことであり、シングルスピンバルブ型薄膜磁気素子に比ベ△MRを大きくでき、大きな出力を得ることができるデュアルスピンパルブ型薄膜磁気素子の特性を発揮させるには、フリー磁性層の上下に形成される固定磁性層を共に同じ方向に固定しておく必要がある。
【0068】
ところで本実施形態では、図6,図7に示すように、フリー磁性層36よりも下側に形成された固定磁性層は、第2の固定磁性層(下)34のMs・tPの方が、第1の固定磁性層(下)32のMs・tPに比べて大きくなっており、Ms・tPの大きい第2の固定磁性層(下)34の磁化が図示Y方向に固定されている。ここで、第2の固定磁性層(下)34のMs・tPと、第1の固定磁性層(下)32のMs・tPとを足し合わせた、いわゆる合成磁気モーメントは、Ms・tPの大きい第2の固定磁性層(下)34の磁気モーメントに支配され、図示Y方向に向けられている。
【0069】
一方、フリー磁性層36よりも上側に形成された固定磁性層は、第1の固定磁性層(上)43のMs・tPの方が、第2の固定磁性層(上)41のMs・tPに比べて大きくなっており、Ms・tPの大きい第1の固定磁性層(上)43の磁化が図示Y方向と反対方向に固定されている。第1の固定磁性層(上)43のMs・tPと、第2の固定磁性層(上)41のMs・tPとを足した、いわゆる合成磁気モーメントは、第1の固定磁性層(上)43のMs・tPに支配され、図示Y方向と反対方向に向けられている。
【0070】
すなわち、図6,図7に示すデュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子では、フリー磁性層36の上下で、第1の固定磁性層のMs・tPと第2の固定磁性層のMs・tPを足して求めることができる合成磁気モーメントの方向が反対方向になっているのである。このためフリー磁性層36よりも下側で形成される図示Y方向に向けられた合成磁気モーメントと、前記フリー磁性層36よりも上側で形成される図示Y方向と反対方向に向けられた合成磁気モーメントとが、図示左周りの磁界を形成している。
従って、前記合成磁気モーメントによって形成される磁界により、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化と第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化とがさらに安定したフェリ状態を保つことが可能である。
【0071】
更に、図7に示すセンス電流114は、主に比抵抗の小さい非磁性導電層35,40を中心にして流れ、センス電流114を流すことにより右ネジの法則によってセンス電流磁界が形成されることになるが、センス電流114を図7の方向に流すことにより、フリー磁性層36の下側に形成された第1の固定磁性層(下)32/非磁性中間層(下)33/第2の固定磁性層(下)34の場所にセンス電流が作るセンス電流磁界の方向を、前記第1の固定磁性層(下)32/非磁性中間層(下)33/第2の固定磁性層(下)34の合成磁気モーメントの方向と一致させることができ、さらに、フリー磁性層36よりも上側に形成された第1の固定磁性層(上)43/非磁性中間層(上)42/第2の固定磁性層(上)41の場所にセンス電流が作るセンス電流磁界を、前記第1の固定磁性層(上)43/非磁性中間層(上)42/第2の固定磁性層(上)41の合成磁気モーメントの方向と一致させることができる。
【0072】
センス電流磁界の方向と合成磁気モーメントの方向を一致させることのメリットは、簡単に言えば、前記固定磁性層の熱的安定性を高めることができることと、大きなセンス電流を流せることができるので、再生出力を向上できるという、非常に大きいメリットがある。
センス電流磁界と合成磁気モーメントの方向に関するこれらの関係は、フリー磁性層36の上下に形成される固定磁性層の合成磁気モーメントが図示左周りの磁界を形成しているからである。
【0073】
通常、ハードディスク装置内の素子温度はセンス電流の増大によるジュール熱によって約200℃程度まで上昇し、さらに、記録媒体の回転数の増大などによって、環境温度がさらに上昇する傾向にある。このように素子温度が上昇すると、交換結合磁界は低下するが、本実施形態によれば、合成磁気モーメントで形成される磁界と、センス電流磁界により、熱的にも安定して第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化と第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化とをフェリ状態に保つことができる。
【0074】
また本発明では、フリー磁性層36よりも下側に形成された第1の固定磁性層(下)32のMs・tPを、第2の固定磁性層(下)34のMs・tPよりも大きくし、かつ、前記フリー磁性層36よりも上側に形成された第1の固定磁性層(上)43のMs・tPを第2の固定磁性層(上)41のMs・tPよりも小さくしてもよい。この場合においても、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化を得たい方向、すなわち図示Y方向あるいは図示Y方向と反対方向に5k(Oe)以上の磁界を印加することによって、フリー磁性層36の上下に形成された第2の固定磁性層(下)34,(上)41を同じ方向に向けて固定でき、しかも図示右回りのあるいは左回りの合成磁気モーメントによる磁界を形成できる。
【0075】
以上、図6,図7に示したスピンバルブ型薄膜磁気素子MR4によれば、固定磁性層を、非磁性中間層を介して第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との2層に分断し、この2層の固定磁性層問に発生する交換結合磁界(RKKY相互作用)によって前記2層の固定磁性層の磁化を反平行状態(フェリ状態)にすることにより、熱的に安定した固定磁性層の磁化状態を保つことができる。
特に本実施形態では、反強磁性層としてプロッキング温度が非常に高く、また第1の固定磁性層との界面で大きい交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生するPtMn合金を使用することにより、第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との磁化状態を、より熱的安定性に優れたものにできる。
【0076】
さらに、本実施形態では、反強磁性層としてPtMn合金など第1の固定磁性層との界面で交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生させるために熱処理を必要とする反強磁性材料を使用した場合に、第1の固定磁性層のMs・tPと第2の固定磁性層のMs・tPとを異なる値で形成し、さらに熱処理中の印加磁場の大きさおよびその方向を適正に調節することによって、前記第1の固定磁性層(および第2の固定磁性層)の磁化を、得たい方向に磁化させることが可能である。
【0077】
特に図6,図7に示すデュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子にあっては、第1の固定磁性層(下)32,(上)43のMs・tPと第2の固定磁性層(下)34,(上)41のMs・tPを適正に調節し、さらに熱処理中の印加磁場の大きさおよびその方向を適正に調節することによって、△MRに関与するフリー磁性層36の上下に形成された2つの第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化を共に同じ方向に固定でき、かつフリー磁性層36の上下に形成される合成磁気モーメントを互いに反対方向に形成できることによって、前記合成磁気モーメントによる磁界の形成、および、前記合成磁気モーメントによる磁界とセンス電流磁界との方向を一致させることができ、固定磁性層の磁化の熱的安定性をさらに向上させることが可能である。
【0078】
このようなスピンバルブ型薄膜磁気素子MR6では、前記ハードバイアス層315,315が、反強磁性層31上に位置し、かつ、断面台形状の積層体M2のトラック幅Tw方向両側に形成され、フリー磁性層36とほぼ平行で、前記フリー磁性層36の膜厚方向に前記フリー磁性層36の膜厚よりも大きな膜厚とされ、前記フリー磁性層36と同じ階層位置に配置された平坦部315a,315aを有するものであるので、フリー磁性層36の側面と前記ハードバイアス層315,315の平坦部315a,315aとを充分磁気的に接合することができ、前記フリー磁性層36に十分なバイアス磁界を与えることができる。このため、前記フリー磁性層36の磁化方向を意図した方向に揃えやすく、バルクハウゼンノイズの発生を低減することができる。
【0079】
また、ハードバイアス層315,315は、前記積層体M2の側面に乗り上げる傾斜部315b,315bを有し、積層体M2の側面の下部から上部にかけて形成されているので、ハードバイアス層315,315と積層体M2の固定磁性層32から反強磁性層44までの各層とにおける、バイアス下地層317を介したそれぞれの接触面積を大きくすることができ、スピンバルブ型薄膜磁気素子MR6の直流抵抗(DCR)を小さくすることが可能となる。このため、検出出力が大きくなり、読み取り精度が安定する。
【0080】
また、前記ハードバイアス層315,315と前記積層体M2との間および前記ハードバイアス層315,315と反強磁性層31との間に、結晶構造が体心立方構造(bcc構造)であるCr等からなるバイアス下地層317,317を設けることにより、前記ハードバイアス層315,315の保磁力および角型比が大きくなり、前記フリー磁性層36の単磁区化に必要なバイアス磁界を増大させることができ、また、バルクハウゼンノイズの発生をより低減させることができる。
【0081】
以下、本発明に係るスピンバルブ型薄膜磁気素子およびそのスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドの第3実施形態を、図面に基づいて説明する。
「第3実施形態」
図8は、本第3実施形態のスピンバルブ型薄膜磁気素子の構造を模式的に示す横断面図、図9は、図8に示すスピンバルブ型薄膜磁気素子を記録媒体との対向面から見た構造を模式的に示した断面図である。
このスピンバルブ型薄膜磁気素子MR9は、フリー磁性層を中心にしてその上下に非磁性導電層、固定磁性層、および反強磁性層が積層されたデュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子であり、前述の図1,図2,図6,図7に示す第1および第2実施形態と異なるところは、前記フリー磁性層、および固定磁性層が、非磁性中間層を介して2層に分断されて形成されている点である。
【0082】
図8,図9に示すスピンバルブ型薄膜磁気素子MR9において、最も下側に形成されている層は、図15、図16に示した下部ギャップ層163上に形成されたTa等からなる下地膜91であり、この下地層91の上に反強磁性層92が積層されている。この反強磁性層92の上には、第1の固定磁性層(下)93、非磁性中間層94(下)、第2の固定磁性層(下)95、非磁性導電層96、第2のフリー磁性層97、非磁性中間層100、第1のフリー磁性層101、非磁性導電層104、第2の固定磁性層(上)105、非磁性中間層(上)106、第1の固定磁性層(上)107、反強磁性層108、およびTa等からなる保護層109が積層されて、積層体M3が形成されている。
また、図8に示すように積層体M3の両側には、ハードバイアス層320,320と導電層321、321が形成されている。そして、前記ハードバイアス層320,320と前記導電層321,321との間には、中間層323が設けられ、前記ハードバイアス層320,320と前記積層体M3との間および前記ハードバイアス層320,320と反強磁性層92との間には、バイアス下地層322,322が設けられている。
【0083】
まず各層の材質について説明する。反強磁性層92,108は、PtMn合金あるいはX−Mn合金、あるいは、Pt−Mn−X’合金(ただし前記組成式において、XはPd,Ir,Rh,Ruのなかから選択される1種を示し、X’はPd,Ir,Rh,Ru,Au,Ag,Cr,Niのなかから選択される1種または2種以上を示す)で形成されていることが好ましい。
第1の固定磁性層(下)93,(上)107、および第2の固定磁性層(下)95,(上)105は、Co膜、NiFe合金、CoFe合金、あるいはCoNiFe合金などで形成されている。また第1の固定磁性層(下)93,(上)107と第2の固定磁性層(下)95,(上)105間に形成されている非磁性中間層(下)94,(上)106および第1のフリー磁性層101と第2のフリー磁性層97間に形成されている非磁性中間層100は、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのうち1種あるいは2種以上の合金で形成されていることが好ましい。さらに非磁性導電層96,104はCuなどで形成されている。
【0084】
図8,図9に示すように、第1のフリー磁性層101および第2のフリー磁性層97は2層で形成されている。非磁性導電層96,104に接する側に形成された第1のフリー磁性層101の層103および第2のフリー磁性層97の層98はCo膜で形成されている。また、非磁性中間層100を介して形成されている第1のフリー磁性層101の層102および第2のフリー磁性層97の層99は、例えば、NiFe合金、CoFe合金、あるいはCoNiFe合金などで形成されている。
非磁性導電層96,104側に接する層98,103をCo膜で形成することにより、△MRを大きくでき、しかも非磁性導電層96,104との拡散を防止することができる。
【0085】
ところで、本発明では前述したように、反強磁性層92,108としてPtMn合金など、第1の固定磁性層(下)93,(上)107との界面で交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生させるために熱処理を必要とする反強磁性材料を使用している。
しかし、フリー磁性層97,101よりも下側に形成されている反強磁性層92と第1の固定磁性層(下)93との界面では、金属元素の拡散が発生しやすく熱拡散層が形成されやすくなっているために、前記第1の固定磁性層(下)93として機能する磁気的な膜厚は実際の膜厚tPよりも薄くなっている。従ってフリー磁性層97,101よりも上側の積層膜で発生する交換結合磁界と、下側の積層膜から発生する交換結合磁界をほぽ等しくするには、フリー磁性層97,101よりも下側に形成されている(第1の固定磁性層(下)93の膜厚tP/第2の固定磁性層(下)95の膜厚tP)が、フリー磁性層97,101よりも上側に形成されている(第1の固定磁性層(上)107の膜厚tP/第2の固定磁性層(上)105の膜厚tPよりも大きい方が好ましい。フリー磁性層97,101よりも上側の積層膜から発生する交換結合磁界と、下側の積層膜から発生する交換結合磁界とを等しくすることにより、前記交換結合磁界の製造プロセス劣化が少なく、磁気へッドの信頼性を向上させることができる。
【0086】
ところで、図8,図9に示すデュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子MR9においては、フリー磁性層97,101の上下に形成されている第2の固定磁性層(下)95,(上)105の磁化を互いに反対方向に向けておく必要がある。これはフリー磁性層が第1のフリー磁性層101と第2のフリー磁性層97の2層に分断されて形成されており、前記第1のフリー磁性層101の磁化と第2のフリー磁性層97の磁化とが反平行になっているからである。
例えば図8,図9に示すように、第1のフリー磁性層101の磁化が図示X1方向と反対方向に磁化されているとすると、前記第1のフリー磁性層101との交換結合磁界(RKKY相互作用)によって、第2のフリー磁性層97の磁化は、図示X1方向に磁化された状態となっている。前記第1のフリー磁性層101および第2のフリー磁性層97の磁化は、フェリ状態を保ちながら、外部磁界の影響を受けて反転するようになっている。
【0087】
図8,図9に示す磁気抵抗効果型薄膜磁気素子MR9にあっては、第1のフリー磁性層101の磁化および第2のフリー磁性層97の磁化は共に△MRに関与する層となっており、前記第1のフリー磁性層101および第2のフリー磁性層97の変動磁化と、第2の固定磁性層(下)95,(上)105の固定磁化との関係で電気抵抗が変化する。いわゆるシングルスピンバルブ型薄膜磁気素子に比べ大きい△MRを期待できるデユアルスピンバルブ型薄膜磁気素子としての機能を発揮させるには、第1のフリー磁性層101と第2の固定磁性層(上)105との抵抗変化および、第2のフリー磁性層97と第2の固定磁性層(下)95との抵抗変化が、ともに同じ増減の変動となるように、前記第2の固定磁性層(下)95,(上)105の磁化方向を制御する必要性がある。すなわち、第1のフリー磁性層101と第2の固定磁性層(上)105との抵抗変化が最大になるとき、第2のフリー磁性層97と第2の固定磁性層(下)95との抵抗変化も最大になるようにし、第1のフリー磁性層101と第2の固定磁性層(上)105との抵抗変化が最小になるとき、第2のフリー磁性層97と第2の固定磁性層(下)95との抵抗変化も最小になるようにすればよいのである。
【0088】
よって図8,図9に示すデュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子では、第1のフリー磁性層101と第2のフリー磁性層97の磁化が反平行に磁化されているため、第2の固定磁性層(上)105の磁化と第2の固定磁性層(下)95の磁化を互いに反対方向に磁化する必要性があるのである。
以上のようにして、フリー磁性層の上下に形成された第2の固定磁性層(下)95,(上)105を反対方向に磁化することで、従来のデュアルスピンバルブ型薄膜磁気素子と同程度の△MRを得ることができる。
【0089】
この第3実施形態においては、先に記載した第2実施形態と同様にして、前記ハードバイアス層320が、前記積層体M3の下側に位置する反強磁性層92上に位置し、かつ、断面台形状の積層体M3の両側に位置して形成され、前記積層体M3の側面に乗り上げる傾斜部320bと、前記フリー磁性層97,101とほぼ平行で、前記フリー磁性層97,101の膜厚方向に前記フリー磁性層97,101の合計膜厚よりも大きな膜厚とされ、前記フリー磁性層97,101と同じ階層位置に配置された平坦部320aとを有するものである。
なお、ここでの「前記フリー磁性層97,101と同じ階層位置に配置され」とは、少なくともハードバイアス層320の平坦部320aとフリー磁性層97,101とが磁気的に主に接合されている状態を意味し、前記ハードバイアス層320の平坦部320aと前記フリー磁性層97,101との接合部分の厚さが前記フリー磁性層97,101の合計膜厚よりも薄い状態も含まれる。
そして、前記ハードバイアス層320,320と前記フリー磁性層97,101とは、主に平坦部320a,320aにおいて磁気的に接合されている。
本実施形態において、前記ハードバイアス層320が、通常、300Å程度の厚さとされ、CoPt合金からなることが望ましい。また、CoPt以外に、Co−Cr−Pt合金やCo−Cr−Ta(コバルト−クロム−タンタル)合金で形成してもよい。
また、前記バイアス下地層322,322は、緩衝膜および配向膜であり、Cr(クロム)などで形成されることが好ましく、このCrからなるバイアス下地層322を設けることにより、前述の第1実施形態で説明した作用効果を得ることができる。
【0090】
以上、図8,図9に示す第3実施形態におけるスピンバルブ型薄膜磁気素子MR9では、固定磁性層のみならず、フリー磁性層も、非磁性中間層を介して第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層の2層に分断し、この2層のフリー磁性層の間に発生する交換結合磁界(RKKY相互作用)によって前記2層のフリー磁性層の磁化を反平行状態(フェリ状態)にすることにより、前記第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層の磁化を、外部磁界に対して感度良く反転できるようにしている。
また、この実施形態では、第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層との膜厚比や、前記第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層との間に介在する非磁性中間層の膜厚、あるいは第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との膜厚比や、前記第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との間に介在する非磁性中間層の膜厚、および反強磁性層の膜厚などを適正な範囲内で形成することによって、交換結合磁界を大きくすることができ、第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との磁化状態を固定磁化として、第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層との磁化状態を変動磁化として、熱的にも安定したフェリ状態に保つことが可能となっている。
本発明では、さらにセンス電流の方向を調節することで、第1の固定磁性層の磁化と第2の固定磁性層の磁化との反平行状態(フェリ状態)を、より熱的にも安定した状態に保つことが可能となっている。
【0091】
スピンバルブ型薄膜磁気素子MR9では、前記ハードバイアス層320,320は、反強磁性層92上に、かつ、断面台形状の積層体M3のトラック幅Tw方向両側に形成され、フリー磁性層97,101とほぼ平行で、前記フリー磁性層97,101の膜厚方向に前記フリー磁性層97,101の合計膜厚よりも大きな膜厚とされ、前記フリー磁性層97,101と同じ階層位置に配置された平坦部320a,320aを有するものであるので、フリー磁性層97,101の側面と前記ハードバイアス層320,320の平坦部320a,320aとを充分磁気的に接合することができ、前記フリー磁性層97,101に十分なバイアス磁界を与えることができる。このため、前記フリー磁性層97,101の磁化方向を意図した方向に揃えやすく、バルクハウゼンノイズの発生を低減することができる。
【0092】
また、ハードバイアス層320,320は、前記積層体M3の側面に乗り上げる傾斜部320b,320bを有し、積層体M3の側面の下部から上部にかけて形成されているので、ハードバイアス層320,320と積層体M3の固定磁性層93から反強磁性層108までの各層とにおける、バイアス下地層322を介した接触面積を大きくすることができ、スピンバルブ型薄膜磁気素子MR9の直流抵抗(DCR)を小さくすることが可能となる。このため、検出出力は大きくなり、読み取り精度が安定する。
【0093】
また、前記ハードバイアス層320,320と前記積層体M3との間および前記ハードバイアス層320,320と反強磁性層92との間に、結晶構造が体心立方構造(bcc構造)であるCrからなるバイアス下地層322,322を設けることにより、前記ハードバイアス層320,320の保磁力および角型比が大きくなり、前記フリー磁性層97,101の単磁区化に必要なバイアス磁界を増大させることができ、また、バルクハウゼンノイズの発生をより低減させることができる。
【0094】
【実施例】
以下、本発明を実施例を示して詳しく説明する。
[実施例1]
図1に示す形状のスピンバルブ型薄膜磁気素子を製作し、バルクハウゼンノイズに関して測定した。
まず、バイアス下地層120、120の膜厚とバルクハウゼンノイズとの関係について実験を行った。以下に、実験時における図1に示すスピンバルブ型薄膜磁気素子を構成する各層の材質と膜厚について説明する。
【0095】
反強磁性層142,148は、PtMn(白金−マンガン)合金で形成し、膜厚をそれぞれ300Åおよび300Åとした。
固定磁性層143,147は、FeNi(鉄−ニッケル)合金で形成し、膜厚をそれぞれ40Åおよび40Åとした。
非磁性導電層144、146は、Cu(銅)て形成し、膜厚をそれぞれ25Åおよび25Åとした。
フリー磁性層145は、FeNi(鉄−ニッケル)合金で形成し、膜厚を80Åとした。
ハードバイアス層311,311は、CoPt(コバルト−白金)合金で形成し、平坦部311a,311aの膜厚を300Åとした。
下地層149は、Ta(タンタル)で形成し、膜厚を50Åとした。
反強磁性層148の上に、Ta(タンタル)からなる保護層を形成し、膜厚を50Åとした。
なお、中間層314,314は、膜厚を50Åとして、Ta(タンタル)で形成し、導電層312,312は、Cr(クロム)で形成した。
また、反強磁性層142表面と積層体a1の側面との角度は、20゜であった。
そして、バイアス下地層313,313をCr(クロム)で形成し、膜厚を10Å,15Å,20Å,30Å,40Å,50Å,60Å,70Åとした8種類のスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドをそれぞれ20個づつ製作し、20個中いくつの薄膜磁気ヘッドに、顕著なバルクハウゼンノイズが発生したかについて調べた。
その結果を図10および表1に示す。
【0096】
【表1】
Figure 0003602473
【0097】
図10および表1に示すように、バイアス下地層313の膜厚が厚くなるにつれてバルクハウゼンノイズ発生率は徐々に小さくなり、膜厚が約35Åのとき、バルクハウゼンノイズ発生率は最も小さくなる。そして、膜厚が35Å以上になると、徐々に前記バルクハウゼンノイズ発生率が大きくなっている。
この実験結果により、本発明では、バイアス下地層313の膜厚が18〜55Åであれば、バルクハウゼンノイズの発生率を20%以下に抑制できることが確認できた。
さらに、バイアス下地層313の膜厚が、20〜50Åであれば、バルクハウゼンノイズの発生率を10%以下に抑制でき、より好ましいことがあきらかとなった。
【0098】
ここで、前記バイアス下地層313が18Å未満であると、バルクハウゼンノイズ発生率が大きくなっているのは、バイアス下地層が薄くなりすぎると、前述した、Crからなるバイアス下地層上において、CoPtからなるハードバイアス層を形成することにより、Cr上において、CoPtがエピタキシー成長し易くすることができ、hcp構造のc軸がCoPtとCrとの境界面内に優先配向され、ハードバイアス層に磁界を与えたときの保磁力Hcは大きくすることができ、残留磁化(Br)は増大し、残留磁化(Br)/飽和磁束密度(Bs)で求められる角型比Sは大きな値になり、ハードバイアス層から発生するバイアス磁界を増大させることが可能となり、フリー磁性層を単磁区化しやすくなる、というバイアス下地層の効果がなくなり、ハードバイアス層における膜特性が劣化する。そのため、ハードバイス磁界が安定して印加されなくなり、バルクハウゼンノイズが発生するためであると考えられる。
また、バイアス下地層313が55Åを越えると、バルクハウゼンノイズ発生率が大きくなるのは、ハードバイアス層311とフリー磁性層145との間に介在するバイアス下地層313の膜厚があまり厚くなり、ハードバイアス層311からのバイアス磁界が、フリー磁性層145にかかりにくくなり、前記フリー磁性層145の磁化が、X1方向に揃わなくなるためであると考えられる。
【0099】
[実施例2]
次に、ハードバイアス層311の膜厚を変化させて、ハードバイアス層311とフリー磁性層145とのオーバーラップ量d2とフリー磁性層145の膜厚d3との比(d2/d3)と、バルクハウゼンノイズ量との関係について調べた。なお、ここでのオーバラップ量d2とは、ハードバイアス層311の平坦部311aと垂直方向位置に重なっているフリー磁性層145の厚さを意味し、図1に示すスピンバルブ型薄膜磁気素子MR3では、オーバーラップ量d2とフリー磁性層145の膜厚d3とが等しくなっている。
前記バイアス下地層313の膜厚を30Åに固定し、ハードバイアス層311以外の層の材質及び膜厚は、上記と同様のものを使用した。
前記ハードバイアス層311の膜厚を、オーバーラップ量の比(d2/d3)が100%,80%,60%,40%,20%となるようにし、それぞれのオーバーラップ量の比となるスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドを20個づつ製作し、20個中いくつの薄膜磁気ヘッドに、顕著なバルクハウゼンノイズが発生したかについて調べた。
その結果を図11および表2に示す。
【0100】
【表2】
Figure 0003602473
【0101】
図11および表2に示すように、オーバーラップ量の比(%)が大きくなるにつれて、バルクハウゼンノイズの発生率が減少していることがわかる。とくに、オーバーラップ量の比(%)が60%以上であると、バルクハウゼンノイズの発生率を20%以下に抑制することができる。さらに、オーバーラップ量の比(%)を80%以上にすることにより、バルクハウゼンノイズの発生率を10%以下に抑制することができ、より好ましいことがあきらかとなった。
前記オーバーラップ量の比(%)が小さくなるとバルクハウゼンノイズが発生しやすくなるのは、ハードバイアス層311からのバイアス磁界が、フリー磁性層145にかかりづらくなり、前記フリー磁性層145の磁化がX1方向に揃いにくくなるためである。
【0102】
[比較例1]
次に、図13に示すように、上述の実施例1におけるバイアス下地層313のないものを作成し、ハードバイアス層311を反強磁性層142の上に直接成膜し、バルクハウゼンノイズ量との関係について調べた。
なお、ここでハードバイアス層311以外の層の材質及び膜厚は、上記と同様のものを使用した。
このスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドを製作し、その出力を実施例1の薄膜磁気ヘッドと比較した。
【0103】
その結果、図13に示すようなバイアス下地層がなく、ハードバイアス層を反強磁性層の上に直接形成した構造では、バルクハウゼンノイズの発生率は100%であった。
【0104】
以上の結果から、バイアス下地層がないと、ハードバイアス層311と反強磁性層142とが、交換結合を発生してしまい、ハードバイアス層311の磁化方向がX1からずれたY方向へと磁気方向が分散してしまい、フリー磁性層145をX1方向へ磁化することができなくなったものである。そのため、バルクハウゼンノイズが発生してしまう。さらに、バイアス下地層がないと、ハードバイアス層311の結晶配向および結晶構造を整えることができなくなり、保磁力、角型比が低下し、フリー磁性層145をX1方向へ磁化することが困難となる。このため、バルクハウゼンノイズを発生してしまう。
しかし、Crによるバイアス下地層の存在により、ハードバイアス層と反強磁性層の交換結合を排除し、ハードバイアス層の結晶構造を制御して硬磁気特性を向上でき、フリー磁性層をX1方向に充分に単磁区化して、バルクハウゼンノイズの発生を抑制するという効果を奏することがわかる。
【0105】
【発明の効果】
本発明のスピンバルブ型薄膜磁気素子およびそのスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドによれば、ハードバイアス層が、フリー磁性層の下側に位置する反強磁性層上に位置し、かつ、該反強磁性層上に基板側から固定磁性層と、非磁性導電層と、前記フリー磁性層と、非磁性導電層と、固定磁性層と、反強磁性層とをこれらの順で具備してなる断面台形状の積層体の両側に位置して形成され、前記積層体の側面に乗り上げる傾斜部と、前記フリー磁性層とほぼ平行で、前記フリー磁性層の膜厚方向に前記フリー磁性層の膜厚よりも大きな膜厚とされ、前記フリー磁性層と同じ階層位置に配置された平坦部とを有するものであることにより、フリー磁性層の側面と前記ハードバイアス層の平坦部とを充分磁気的に接合することができ、前記フリー磁性層に必要なバイアス磁界を与えることができる。このため、前記フリー磁性層を単磁区化した状態で、かつ、磁化方向を意図した方向に揃えやすく、バルクハウゼンノイズの発生を低減することができるという効果を奏する。
さらに、少なくとも固定磁性層が非磁性中間層を介して2つに分断されたスピンバルブ型薄膜磁気素子とした場合、2つに分断された固定磁性層のうち一方が他方の固定磁性層を適正な方向に固定する役割を担い、固定磁性層の状態を非常に安定した状態に保つことが可能となるという効果を奏する。
一方、少なくともフリー磁性層が非磁性中間層を介して2つに分断されたスピンバルブ型薄膜磁気素子とした場合、2つに分断されたフリー磁性層どうしの間に交換結合磁界が発生し、フェリ磁性状態とされ、外部磁界に対してフェリ磁性状態を保ちながら磁気モーメントが変動し、小さい外部磁界でも感度よく反転でき、第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層との磁化状態を変動磁化として、熱的にも安定したフェリ状態に保つことが可能となっているという効果を奏する。
これに加えて、前記フリー磁性層が非磁性中間層を介して第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層の2層に分断され、分断された層どうしで磁化の向きが反平行のフェリ磁性状態とされるとともに、前記第2の固定磁性層(上)の磁化と前記第2の固定磁性層(下)の磁化を互いに反対方向に磁化し、かつ、第1の固定磁性層(下)と第2の固定磁性層(下)との磁化の向きが反平行のフェリ磁性状態とされ第1の固定磁性層(上)と第2の固定磁性層(上)との磁化の向きが反平行のフェリ磁性状態とされることで、フリー磁性層の上下で、第1の固定磁性層の磁気モーメントと第2の固定磁性層の磁気モーメントを足して求めることができる合成磁気モーメントの方向が、それぞれ、図8,図9に示す方向になっていることにより、シャントロスの量を非常に少なくすることが可能となっており、とくに、第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との磁化状態を、より熱的安定性に優れたものにできるという効果を奏する。
さらに、前記バイアス下地層を形成するCrは、その結晶構造が体心立方構造(bcc構造;body centered cubic)で、かつ、(100)配向となっている。また、前記ハードバイアス層を形成するCo−Pt系合金の結晶構造は、面心立方構造(fcc構造;face centered cubic)と稠密六方構造(hcp構造;hexagonal close packed )の混相となっているという効果を奏する。
ここで、Crの格子定数とCo−Pt合金のhcp構造の格子定数とが、近い値となっているため、格子整合し易い状態にある。このため、前記Co−Pt合金は、fcc構造を形成しにくく、Cr上において、CoPtがエピタキシー成長(epitaxial growth)し易くなり、hcp構造で形成され易くなる。このとき、hcp構造の磁化容易軸であるc軸が面内方向を向き、Co−Pt合金とCrとの境界面内に優先配向されるという効果を奏する。
前記hcp構造は、fcc構造に比べてc軸方向に大きな磁気異方性を生じるため、ハードバイアス層に磁界を与えたときの保磁力Hcは大きくなる。さらに、hcp構造のc軸は、エピタキシャル成長により、Co−Pt合金とCrとの境界面内で優先配向となっているため、残留磁化(Br)は増大し、残留磁化(Br)/飽和磁束密度(Bs)で求められる角型比Sは大きな値になる。その結果、ハードバイアス層から発生するバイアス磁界を増大させることが可能となり、フリー磁性層を単磁区化しやすくなるという効果を奏する。
さらに、前記ハードバイアス層と前記導電層との間に、Taなどの非磁性材料からなる中間層314が設けられたことにより、後工程のインダクティブヘッド(書込ヘッド)の製造プロセスである絶縁レジストの硬化工程において、UVキュア,ハードベーク等によって高温に曝される場合にも、Taからなる中間層の存在により、Crからなる導電層とCoPt合金からなるハードバイアス層との間における熱拡散を防止して、ハードバイアス層の膜特性の劣化を防止することができるという効果を奏する。
また、このようなフリー磁性層の磁区制御を良好に行うことができるスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に関係するスピンバルブ型薄膜磁気素子およびそのスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドの第1実施形態において、記録媒体との対向面から見たスピンバルブ型薄膜磁気素子を示す断面図である。
【図2】図1のスピンバルブ型薄膜磁気素子を示す横断面図である。
【図3】図1のスピンバルブ型薄膜磁気素子の製造工程を示す横断面図である。
【図4】図1のスピンバルブ型薄膜磁気素子の製造工程を示す横断面図である。
【図5】図1のスピンバルブ型薄膜磁気素子の製造工程を示す横断面図である。
【図6】本発明に関係するスピンバルブ型薄膜磁気素子およびそのスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドの第2実施形態において、記録媒体との対向面から見たスピンバルブ型薄膜磁気素子を示す断面図である。
【図7】図6のスピンバルブ型薄膜磁気素子を示す横断面図である。
【図8】本発明に係るスピンバルブ型薄膜磁気素子およびそのスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えた薄膜磁気ヘッドの第3実施形態において、記録媒体との対向面から見たスピンバルブ型薄膜磁気素子を示す断面図である。
【図9】図8のスピンバルブ型薄膜磁気素子を示す横断面図である。
【図10】実施例1における、バイアス下地層とバルクハウゼンノイズ発生率とを示すグラフである。
【図11】実施例2における、オーバラップ量の比(d2/d3)とノイズ発生率とを示すグラフである。
【図12】従来の薄膜磁気素子を示す断面図である。
【図13】比較例における薄膜磁気素子を示す断面図である。
【図14】従来の薄膜磁気ヘッドの一例を示す断面図である。
【図15】図14に示す薄膜磁気ヘッドの断面図である。
【図16】図14に示す薄膜磁気ヘッドの要部を断面とした斜視図である。
【符号の説明】
M1,M2,M3…積層体,MR3,MR6,MR9…スピンバルブ型薄膜磁気素子,2,8,31,44,92,108,142,148…反強磁性層,3,7,143,147…固定磁性層,32,43,93,107…第1の固定磁性層,4,6,35,40,96,104,144,146…非磁性導電層,5,36,97,101,145…フリー磁性層,132,311,315,320…ハードバイアス層,132a,311a,315a,320a…平坦部,132b,311b,315b,320b…傾斜部,33,42,94,100,106…非磁性中間層,34,41,95,105,147…第2の固定磁性層,133,312,316,321…導電層,114…センス電流

Claims (17)

  1. 反強磁性層と、この反強磁性層に接して形成されこの反強磁性層との交換結合磁界により一定方向に磁化方向が固定された固定磁性層と、前記固定磁性層に非磁性導電層を介して形成されたフリー磁性層と、前記フリー磁性層の磁化方向を前記固定磁性層の磁化方向と交差する方向へ揃えるためのハードバイアス層と、前記固定磁性層と前記非磁性導電層とフリー磁性層とに検出電流を与える導電層とを有し、前記フリー磁性層の厚さ方向両側に各々非磁性導電層と固定磁性導電層と反強磁性層が形成された構造とされ、
    前記固定磁性層が非磁性中間層を介して第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の2層に分断され、分断された層どうしで磁化の向きが反平行のフェリ磁性状態とされ、
    前記フリー磁性層が非磁性中間層を介して第1のフリー磁性層と第2のフリー磁性層の2層に分断され、分断された層どうしで磁化の向きが反平行のフェリ磁性状態とされ、
    第1の固定磁性層(下)、非磁性中問層(下)、第2の固定磁性層(下)、非磁性導電層、第2のフリー磁性層、非磁性中間層、第1のフリー磁性層、非磁性導電層、第2の固定磁性層(上)、非磁性中間層(上)、第1の固定磁性層(上)、反強磁性層をこれらの順で具備してなる断面台形状の積層体がそれよりも幅広の反強磁性層上に形成され、
    前記第2の固定磁性層(上)の磁化と前記第2の固定磁性層(下)の磁化を互いに反対方向に磁化するとともに、
    前記反強磁性層が、X−Mn合金,Pt−Mn−X’合金(ただし前記組成式において、XはPt,Pd,Ir,Rh,Ruのなかから選択される1種、または2種以上の元素を示し、X’はPd,Ir,Rh,Ru,Au,Ag,Cr,Niのなかから選択される1種または2種以上を示す)のいずれかからなり、
    前記ハードバイアス層が、前記積層体の両側に位置して形成され、かつ、前記積層体の側面に乗り上げる傾斜部と、前記フリー磁性層とほぼ平行で、前記フリー磁性層の膜厚方向に前記フリー磁性層の膜厚よりも大きな膜厚とされ、前記フリー磁性層と同じ階層位置に配置された平坦部とを有し、
    前記ハードバイアス層と前記積層体との間および前記ハードバイアス層と前記反強磁性層との間に、バイアス下地層が設けられ、
    前記バイアス下地層が、Cr,Ti,W,Mo,WMoの中から選択される1種以上からなることを特徴とするスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  2. 前記第1の固定磁性層および前記第2の固定磁性層が異なる磁気モーメントを有することを特徴とする請求項1記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  3. 前記第1のフリー磁性層および前記第2のフリー磁性層が異なる磁気モーメントを有することを特徴とする請求項1または2記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  4. 記非磁性中間層は、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのうち1種あるいは2種以上の合金で形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  5. 前記反強磁性層はX−Mn合金で形成され、元素Xの含有量がX=37〜63原子%の範囲とされてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  6. 前記反強磁性層はX−Mn合金で形成され、元素Xの含有量がX=47〜53原子%の範囲とされてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  7. 前記反強磁性層はPt−Mn−X’合金で形成され、Ptの含有量は37〜63原子%の範囲とされてなることを特徴とする請求項1から4のいずれか記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  8. 前記反強磁性層はPt−Mn−X’合金で形成され、元素X’の含有量はX’=0.2〜10原子%の範囲とされてなることを特徴とする請求項7記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  9. 前記ハードバイアス層の平坦部と重なっている前記フリー磁性層のオーバーラップ量d2とフリー磁性層の膜厚d3とが等しくなっていることを特徴とする請求項1から8のいずれか記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  10. 前記バイアス下地層は、その結晶構造が体心立方構造となっていることを特徴とする請求項1から9のいずれか記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  11. 前記バイアス下地層は、その結晶構造が(100)配向となっていることを特徴とする請求項10記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  12. 前記ハードバイアス層が、CoPt合金、もしくは、Co−Cr−Pt合金やCo−Cr−Ta合金で形成されることを特徴とする請求項10または11記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  13. 前記ハードバイアス層は、その結晶構造が面心立方構造と稠密六方構造との混成構造であることを特徴とする請求項12記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  14. 前記ハードバイアス層と前記導電層との間に、中間層が設けられたことを特徴とする請求項1から13のいずれか記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  15. 前記中間層が、Taからなることを特徴とする請求項14記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  16. 前記導電層は、W、Cu、Cr、Ta、Auなどで形成されることを特徴とする請求項1から15のいずれか記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子。
  17. 請求項1から16のいずれか記載のスピンバルブ型薄膜磁気素子を備えたことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
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