JP3831573B2 - スピンバルブ型薄膜素子の製造方法及びこのスピンバルブ型薄膜素子を用いた薄膜磁気ヘッドの製造方法 - Google Patents

スピンバルブ型薄膜素子の製造方法及びこのスピンバルブ型薄膜素子を用いた薄膜磁気ヘッドの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、固定磁性層の固定磁化方向と外部磁界の影響を受けるフリー磁性層の磁化の方向との関係で電気抵抗が変化するスピンバルブ型薄膜素子に係り、特に、固定磁性層の磁気モーメントの調整、及び熱処理中に印加する磁場の方向及びその大きさを適正に調節することにより、適正に前記固定磁性層の磁化制御を行うことができるスピンバルブ型薄膜素子の製造方法及びこのスピンバルブ型薄膜素子を用いた薄膜磁気ヘッドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
スピンバルブ型薄膜素子は、巨大磁気抵抗効果を利用したGMR(giant magnetoresistive)素子の一種であり、ハードディスクなどの記録媒体からの記録磁界を検出するものである。
【0003】
このスピンバルブ型薄膜素子は、GMR素子の中でも比較的構造が単純で、しかも弱い磁界で抵抗が変化するなど、いくつかの優れた点を有している。
【0004】
前記スピンバルブ型薄膜素子は、最も単純な構造で、反強磁性層、固定磁性層、非磁性導電層、及びフリー磁性層から成る。図16は、従来のスピンバルブ型薄膜素子を記録媒体との対向面側から見た断面図である。
【0005】
図16に示すように、反強磁性層2と固定磁性層3とは接して形成され、前記反強磁性層2と固定磁性層3との界面で発生する交換結合磁界(交換異方性磁界)により、前記固定磁性層3の磁化方向は一定方向に単磁区化され、固定される。
【0006】
フリー磁性層5の磁化は、その両側に形成されたバイアス層6により、前記固定磁性層3の磁化方向と交叉する方向に揃えられる。
【0007】
従来では、前記反強磁性層2には、FeMn合金やNiO、あるいはNiMn合金などが使用されている。このうち、FeMn合金やNiOを反強磁性材料として使用した場合には、固定磁性層3との界面にて交換結合磁界を発生させるのに、熱処理を必要としないのに対し、NiMn合金を反強磁性材料として使用した場合には、熱処理を必要とする。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで特開平9―16920号公報には、固定磁性層を2層に分断し、前記2層の固定磁性層の磁化を反平行状態にすることにより、大きな交換結合磁界を得ることができる発明について開示されている。
【0009】
しかし前記公報で使用されている反強磁性層はNiOであり、このNiOは、ブロッキング温度が約200℃程度と低く、また固定磁性層との界面で発生する交換結合磁界(交換異方性磁界)も小さい。
【0010】
特に近年では、高記録密度化に対応するために、記録媒体の回転数やセンス電流量の増加により、装置内の環境温度は上昇する傾向にあり、反強磁性層にNiOを使用した場合には、前記交換結合磁界が小さくなり、固定磁性層の磁化制御を適正に行うことが困難となる。
【0011】
一方、NiMn合金は、前記NiOに比べ、ブロッキング温度も高く、また交換結合磁界(交換異方性磁界)も大きい。またNiMn合金と同程度のブロッキング温度と、大きい交換結合磁界を有し、しかもNiMn合金よりも飛躍的に耐食性に優れた反強磁性材料として、白金族元素を用いたX―Mn合金(X=Pt,Pd,Ir,Rh,Ru)が注目を浴びている。
【0012】
このような白金族元素を用いたX―Mn合金などを、反強磁性層として使用し、さらに固定磁性層を2層に分断して形成すれば、反強磁性層としてNiOを使用した場合に比べ、より大きな交換結合磁界が得られることを期待することができる。
【0013】
ところで、白金族元素を用いたX―Mn合金は、NiMn合金と同様に、成膜後、固定磁性層との界面にて交換結合磁界を発生させるために、磁場中アニール(熱処理)を必要としている。
【0014】
しかし、熱処理中に印加する磁場の大きさやその方向、及び2層に分断された各固定磁性層の磁気モーメント(飽和磁化Ms・膜厚t)を適正に調節しないと、前記2層の固定磁性層の磁化を反平行状態に安定して固定できない。また、特に、フリー磁性層を中心にしてその上下に固定磁性層が形成されている、いわゆるデュアルスピンバルブ型薄膜素子にあっては、前記フリー磁性層の上下に形成される2層ずつの固定磁性層の磁化方向を適正に制御しないと、ΔMR(抵抗変化率)が低下し、小さい再生出力しか得られないといった問題も発生する。
【0015】
本発明は上記従来の問題点を解決するためのものであり、2層に分断された各固定磁性層の磁気モーメントと、熱処理中に印加する磁場の方向及びその大きさを適正に制御することにより、前記2層の固定磁性層の磁化を、反平行状態に安定して保つことができ、しかも従来と同程度の高いΔMRを得ることができるスピンバルブ型薄膜素子の製造方法及びこのスピンバルブ型薄膜素子を用いた薄膜磁気ヘッドの製造方法を提供することを目的としている。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、フリー磁性層の上下に積層された非磁性導電層と、一方の前記非磁性導電層の上に形成された上側固定磁性層と、他方の非磁性導電層の下に形成された下側固定磁性層と、上側固定磁性層の上、及び下側固定磁性層の下に形成された反強磁性層とを有する積層体と、この積層体の両側に設けられ前記積層体に導電層が設けられているスピンバルブ型薄膜素子の製造方法において、
前記各固定磁性層を、反強磁性層に接する第1の磁性層と、前記第1の磁性層と非磁性中間層を介して重ねられる第2の磁性層の2層で形成し、このとき、
前記上側と前記下側の一方の固定磁性層で、第1の磁性層の磁気モーメント(飽和磁化Ms・膜厚t)を、第2の磁性層の磁気モーメントよりも大きくし、他方の固定磁性層で、第1の磁性層の磁気モーメントを、第2の磁性層の磁気モーメントよりも小さくする工程と、
磁場中熱処理を施して、前記各第1の磁性層と反強磁性層との界面にて交換結合磁界を発生させる際に、前記上側固定磁性層および前記下側固定磁性層の第1の磁性層と第2の磁性層との間に発生する交換結合磁界(RKKY相互作用)より大きい磁場を印加して、前記各第1の磁性層の磁化を前記磁場方向と同一方向に固定し、各第2の磁性層の磁化を前記磁場方向と反対方向に固定することで、前記上側固定磁性層の第1の磁性層と第2の磁性層との磁気モーメントを足し合わせた合成磁気モーメントと、前記下側固定磁性層の第1の磁性層と第2の磁性層との磁気モーメントを足し合わせた合成磁気モーメントとを互いに逆方向に向ける工程と、
を有することを特徴とするものである。
【0017】
本発明では、前記導電層を介して前記積層体に流される前記センス電流が作るセンス電流磁界の前記フリー磁性層より上側での方向と前記上側固定磁性層の第1の磁性層と第2の磁性層との磁気モーメントを足し合わせた合成磁気モーメントの方向並びに、前記センス電流磁界の前記フリー磁性層より下側での方向と前記下側固定磁性層の第1の磁性層と第2の磁性層との磁気モーメントを足し合わせた合成磁気モーメントの方向が一致していることが好ましい。
【0018】
本発明では、前記反強磁性層を、PtMn合金で形成することが好ましい。あるいは本発明では、前記反強磁性層を、X―Mn(ただしXは、Pd,Ir,Rh,Ruのいずれか1種または2種以上の元素である)、またはPt―Mn―X′(ただしX′は、Pd,Ir,Rh,Ru,Au,Agのいずれか1種または2種以上の元素である)で形成することが好ましい。
【0019】
また本発明では、前記第1の磁性層と第2の磁性層の間に形成される非磁性中間層を、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのうち1種あるいは2種以上の合金で形成することが好ましい。
【0020】
また本発明における薄膜磁気ヘッドの製造方法は、下部シールド層の上にギャップ層を介して上記の製造方法によりスピンバルブ型薄膜素子を形成し、さらに前記スピンバルブ型薄膜素子の上にギャップ層を介して上部シールド層を形成することを特徴とするものである。
【0021】
本発明では、スピンバルブ型薄膜素子を構成する固定磁性層が、2層に分断されており、2層に分断された固定磁性層の間に非磁性中間層が形成されている。
【0022】
この分断された2層の固定磁性層の磁化は、反平行状態に磁化されており、しかも一方の固定磁性層の磁気モーメントの大きさと、他方の固定磁性層の磁気モーメントの大きさとが異なる、いわゆるフェリ状態となっている。2層の固定磁性層間に発生する交換結合磁界(RKKY相互作用)は、1000(Oe)から5000(Oe)と非常に大きいため、2層の固定磁性層は非常に安定した状態で反平行に磁化された状態となっている。
【0023】
ところで反平行(フェリ状態)に磁化された一方の固定磁性層は、反強磁性層に接して形成されており、この反強磁性層に接する側の固定磁性層(以下、第1の固定磁性層と称す)は、前記反強磁性層との界面で発生する交換結合磁界(交換異方性磁界)によって、例えば記録媒体との対向面から離れる方向(ハイト方向)に磁化が固定される。これにより、前記第1の固定磁性層と非磁性中間層を介して対向する固定磁性層(以下、第2の固定磁性層と称す)の磁化は、前記第1の固定磁性層の磁化と反平行の状態で固定される。
【0024】
従来では、反強磁性層と固定磁性層との2層で形成していた部分を、本発明では、反強磁性層/第1の固定磁性層/非磁性中間層/第2の固定磁性層の4層で形成することによって、第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の磁化状態を外部磁界に対し非常に安定した状態に保つことが可能となるが、特に本発明のように、磁場中熱処理を施すことにより、第1の固定磁性層との界面で交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生させる反強磁性材料を使用した場合にあっては、熱処理中の磁場の方向及びその大きさを適正に制御しないと、第1の固定磁性層の磁化と第2の固定磁性層の磁化を反平行状態に保つことが不可能となる。
【0025】
また特に第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の磁化制御において問題となるのは、デュアルスピンバルブ型薄膜素子の場合に、フリー磁性層の変動磁化と、前記フリー磁性層の上下に形成された第2の固定磁性層の固定磁化との関係である。
【0026】
デュアルスピンバルブ型薄膜素子では、フリー磁性層の上下に非磁性導電層と固定磁性層が形成されているため、シングルスピンバルブ型薄膜素子の場合に比べて大きなΔMR(抵抗変化率)を期待できるが、フリー磁性層の変動磁化と、前記フリー磁性層の上側に非磁性導電層を介して形成された第2の固定磁性層との関係による抵抗変化率、及びフリー磁性層の変動磁化と、前記フリー磁性層の下側に非磁性導電層を介して形成された第2の固定磁性層との関係による抵抗変化率が共に同じ変動を見せるように、前記第2の固定磁性層の固定磁化方向を適正に制御しなければならない。
【0027】
すなわち、フリー磁性層の上側における抵抗変化率が最大となる場合には、フリー磁性層の下側における抵抗変化率も最大となるようにし、フリー磁性層の上側における抵抗変化率が最小となる場合には、フリー磁性層の下側における抵抗変化率も最小となるように、前記第2の固定磁性層の固定磁化方向を適正に制御する必要性があるのである。
【0028】
このため本発明では、熱処理中に印加する磁場の大きさ及びその方向と共に、第1の固定磁性層の磁気モーメントと第2の固定磁性層における磁気モーメントの値の大小を適正に調節して、第1の固定磁性層の固定磁化方向と第2の固定磁性層の固定磁化方向とを適正に制御している。
【0029】
次に本発明のように、固定磁性層が第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の2層に分断されて形成された場合のスピンバルブ型薄膜素子と、従来のように、固定磁性層が単層で形成された場合のヒステリシスループの相違について図14を参照しながら説明する。
【0030】
図14は、反強磁性層にPtMn合金を使用し、固定磁性層を非磁性中間層を介して第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の2層に分断した本発明におけるスピンバルブ型薄膜素子と、固定磁性層を単層で形成した従来におけるスピンバルブ型薄膜素子とのR―H曲線である。
【0031】
本発明におけるスピンバルブ型薄膜素子の膜構成は、下から、
Si基板/アルミナ/Ta(30)/反強磁性層;PtMn(200)/第1の固定磁性層;Co(25)/非磁性中間層;Ru(7)/第2の固定磁性層;Co(20)/Cu(20)/Co(10)/NiFe(40)/Ta(30)であり、従来におけるスピンバルブ型薄膜素子の膜構成は、下から、
Si基板/アルミナ/Ta(30)/反強磁性層;PtMn(300)/固定磁性層;Co(25)/Cu(20)/Co(10)/NiFe(40)/Ta(30)である。なお括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0032】
なお本発明及び従来におけるスピンバルブ型薄膜素子共に、成膜後、200(Oe)の磁場を印加しながら、260℃で4時間の熱処理を施した。
【0033】
図14に示すように、本発明におけるスピンバルブ型薄膜素子のΔMR(抵抗変化率)は、最大値で7〜8%の間であり、負の外部磁界を与えることにより、前記ΔMRは低下していくが、従来におけるスピンバルブ型薄膜素子のΔMRの落ち方に比べて、本発明におけるΔMRの落ち方は緩やかであることがわかる。
【0034】
ここで本発明では、ΔMRの最大値の半分の値になる時の外部磁界の大きさをスピンバルブ型薄膜素子が発生する交換結合磁界(Hex)と定める。
【0035】
図14に示すように、従来におけるスピンバルブ型薄膜素子では、最大ΔMRが、約8%であり、前記ΔMRが半分になるときの外部磁界(交換結合磁界(Hex))は、絶対値で約900(Oe)であることがわかる。
【0036】
これに対し、本発明におけるスピンバルブ型薄膜素子では、最大ΔMRが、約7.5%であり、従来に比べて若干低下するものの、前記ΔMRが半分になるときの外部磁界(交換結合磁界(Hex))は、絶対値で約2800(Oe)であり、従来に比べて非常に大きくなることがわかる。
【0037】
このように、固定磁性層を2層に分断した本発明におけるスピンバルブ型薄膜素子にあっては、固定磁性層を1層で形成した従来のスピンバルブ型薄膜素子に比べて、交換結合磁界(Hex)を飛躍的に大きくでき、固定磁性層の磁化の安定性を従来に比べて向上できることがわかる。またΔMRについても本発明では従来に比べてあまり低下せず、高いΔMRを保つことができることがわかる。
【0038】
また本発明では第1の固定磁性層との界面にて交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生させるのに熱処理を必要とする反強磁性材料を使用するが、本発明では特に、熱処理を必要とする反強磁性材料の中でもPtMn合金を使用することが好ましいとしている。
【0039】
図15は、反強磁性層をPtMn、NiO、あるいはFeMnで形成した場合における環境温度と交換結合磁界との関係を示すグラフである。
【0040】
まず使用する1種目のスピンバルブ型薄膜素子は、反強磁性層にPtMn合金を用い、固定磁性層を2層に分断した本発明におけるスピンバルブ型薄膜素子であり、膜構成としては、下から、
Si基板/アルミナ/Ta(30)/反強磁性層;PtMn(200)/第1の固定磁性層;Co(25)/非磁性中間層;Ru(7)/第2の固定磁性層;Co(20)/Cu(20)/Co(10)/NiFe(70)/Ta(30)である。
【0041】
2種類目は、反強磁性層にPtMn合金を使用し、固定磁性層を単層で形成した従来例1であり、膜構成としては、下から、
Si基板/アルミナ/Ta(30)/反強磁性層;PtMn(300)/固定磁性層;Co(25)/Cu(25)/Co(10)/NiFe(70)/Ta(30)である。
【0042】
3種類目は、反強磁性層にNiOを使用し、固定磁性層を単層で形成した従来例2であり、膜構成としては、下から、
Si基板/アルミナ/反強磁性層;NiO(500)/固定磁性層;Co(25)/Cu(25)/Co(10)/NiFe(70)/Ta(30)である。
【0043】
4種類目は、反強磁性層にFeMn合金を使用し、固定磁性層を単層で形成した従来例3であり、膜構成としては、下から、
Si基板/アルミナ/Ta(30)/NiFe(70)/Co(10)/Cu(25)/固定磁性層;Co(25)/反強磁性層;FeMn(150)/Ta(30)である。なお、上述した4種類全ての膜構成の括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0044】
また反強磁性層にPtMnを用いた本発明及び従来例1では、成膜後、200(Oe)の磁場を印加しながら260℃で4時間の熱処理を施している。また、反強磁性層にNiO、FeMnを使用した従来例2,3では成膜後、熱処理を施していない。
【0045】
図15に示すように本発明におけるスピンバルブ型薄膜素子では、環境温度が約20℃のとき交換結合磁界(Hex)は約2500(Oe)と非常に高くなっていることがわかる。
【0046】
これに対し、反強磁性層にNiOを用いた従来例2、及び反強磁性層にFeMnを用いた従来例3では、環境温度が約20℃でも交換結合磁界(Hex)が約500(Oe)以下と低くなっている。また反強磁性層にPtMnを用い、固定磁性層を単層で形成した従来例1にあっては、環境温度が約20℃で1000(Oe)程度の交換結合磁界を発生しており、反強磁性層にNiO(従来例2)、FeMn(従来例3)を用いるよりも、より大きな交換結合磁界を得られることがわかる。
【0047】
特開平9―16920号公報では、反強磁性層にNiOを使用し、固定磁性層を非磁性中間層を介して2層で形成したスピンバルブ型薄膜素子のR―H曲線が図8に示されている。公報の図8によれば、600(Oe)の交換結合磁界(Hex)を得られるとしているが、この数値は、反強磁性層にPtMnを使用し、固定磁性層を単層で形成した場合の交換結合磁界(約1000(Oe);従来例1)に比べて低いことがわかる。
【0048】
すなわち、反強磁性層にNiOを使用した場合にあっては、固定磁性層を2層に分断し、前記2層の固定磁性層の磁化をフェリ状態にしても、反強磁性層にPtMnを使用し、且つ固定磁性層を単層で形成する場合よりも、交換結合磁界は低くなってしまうため、反強磁性層にPtMn合金を使用することが、より大きい交換結合磁界を得ることができる点で好ましいとわかる。
【0049】
また図15に示すように、反強磁性層にNiOあるいはFeMn合金を使用した場合、環境温度が約200℃になると、交換結合磁界は0(Oe)になってしまうことがわかる。これは、前記NiO及びFeMnのブロッキング温度が約200℃程度と低いためである。
【0050】
これに対し反強磁性層にPtMn合金を使用した従来例1では、環境温度が約400℃になって、交換結合磁界が0(Oe)になっており、前記PtMn合金を使用すると、固定磁性層の磁化状態を熱的に非常に安定した状態に保てることがわかる。
【0051】
ブロッキング温度は反強磁性層として使用される材質に支配されるので、図15に示す本発明におけるスピンバルブ型薄膜素子においても、約400℃になると、交換結合磁界は0(Oe)になると考えられるが、本発明のように反強磁性層にPtMn合金を使用した場合では、NiOなどに比べ高いブロッキング温度を得ることが可能であり、しかも固定磁性層を2層に分断して前記2層の固定磁性層の磁化をフェリ状態にすれば、ブロッキング温度に到達するまでの間に非常に大きい交換結合磁界を得ることができ、前記2層の固定磁性層の磁化状態を熱的に安定した状態に保つことが可能となる。
【0052】
なお本発明では、第1の固定磁性層との界面で交換結合磁界を発生させるのに、熱処理を必要とする反強磁性材料としてPtMn合金の他に、X―Mn(ただしXは、Pd,Ir,Rh,Ruのいずれか1種または2種以上の元素である)、あるいは、Pt―Mn―X′(ただしX′は、Pd,Ir,Rh,Ru,Au,Agのいずれか1種または2種以上の元素である)を提示できる。
【0053】
以上のように本発明では、固定磁性層を非磁性中間層を介して第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の2層に分断し、さらに反強磁性層としてPtMn合金など、前記第1の固定磁性層との界面で大きい交換結合磁界(交換異方性磁界)を発揮する反強磁性材料を使用することによって、スピンバルブ型薄膜素子全体の交換結合磁界(Hex)を大きくすることができ、第1の固定磁性層と、第2の固定磁性層の磁化を熱的に安定した反平行状態(フェリ状態)に保つことが可能となっている。
【0054】
特に本発明では、前記第1の固定磁性層の磁気モーメントと第2の固定磁性層の磁気モーメントの大小を適正に制御し、且つ熱処理中に印加する磁場の大きさ及びその方向を適正に制御して、第1の固定磁性層の磁化と第2の固定磁性層の磁化を反平行状態に安定して保つことができ、しかも、容易に前記第1の固定磁性層の磁化及び第2の固定磁性層の磁化を得たい方向に向けることが可能である。
【0055】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の前提となる参考例としてのスピンバルブ型薄膜素子を模式図的に示した横断面図、図2は図1のスピンバルブ型薄膜素子を記録媒体との対向面側から見た断面図である。
【0056】
このスピンバルブ型薄膜素子の上下には、ギャップ層を介してシールド層が形成されており、前記スピンバルブ型薄膜素子、ギャップ層、及びシールド層で、再生用の薄膜磁気ヘッド(MRヘッド)が構成されている。なお前記再生用の薄膜磁気ヘッドの上に、記録用のインダクティブヘッドが積層されていてもよい。
【0057】
前記薄膜磁気ヘッドは、ハードディスク装置に設けられた浮上式スライダのトレーリング側端部などに設けられて、ハードディスクなどの記録磁界を検出するものである。なお、ハードディスクなどの磁気記録媒体の移動方向は図示Z方向であり、磁気記録媒体からの洩れ磁界の方向はY方向である。
【0058】
図1,2に示すスピンバルブ型薄膜素子は、反強磁性層、固定磁性層、非磁性導電層、及びフリー磁性層が一層ずつ形成された、いわゆるシングルスピンバルブ型薄膜素子であり、最も下に形成された層は、Taなどの非磁性材料で形成された下地層10である。図1,2では前記下地層10の上に、反強磁性層11が形成され、前記反強磁性層11の上に、第1の固定磁性層12が形成されている。そして図1に示すように前記第1の固定磁性層12の上には非磁性中間層13が形成され、さらに前記非磁性中間層13の上に第2の固定磁性層14が形成されている。
【0059】
前記第1の固定磁性層12及び第2の固定磁性層14は、例えばCo膜、NiFe合金、CoNiFe合金、CoFe合金などで形成されている。
【0060】
また本発明では、前記反強磁性層11は、PtMn合金で形成されていることが好ましい。PtMn合金は、従来から反強磁性層として使用されているNiMn合金やFeMn合金などに比べて耐食性に優れ、しかもブロッキング温度が高く、交換結合磁界(交換異方性磁界)も大きい。また本発明では、前記PtMn合金に代えて、X―Mn(ただしXは、Pd,Ir,Rh,Ruのいずれか1種または2種以上の元素である)合金、あるいは、Pt―Mn―X′(ただしX′は、Pd,Ir,Rh,Ru,Au,Agのいずれか1種または2種以上の元素である)合金で形成されていてもよい。
【0061】
ところで図1に示す第1の固定磁性層12及び第2の固定磁性層14に示されている矢印は、それぞれの磁気モーメントの大きさ及びその方向を表しており、前記磁気モーメントの大きさは、飽和磁化(Ms)と膜厚(t)とをかけた値で決定される。
【0062】
図1に示す第1の固定磁性層12と第2の固定磁性層14とは同じ材質、例えばCo膜で形成され、しかも第2の固定磁性層14の膜厚tP2が、第1の固定磁性層12の膜厚tP1よりも大きく形成されているために、第2の固定磁性層14の方が第1の固定磁性層12に比べ磁気モーメントが大きくなっている。なお、本発明では、第1の固定磁性層12及び第2の固定磁性層14が異なる磁気モーメントを有することを必要としており、従って、第1の固定磁性層12の膜厚tP1が第2の固定磁性層14の膜厚tP2より厚く形成されていてもよい。
【0063】
図1に示すように第1の固定磁性層12は図示Y方向、すなわち記録媒体から離れる方向(ハイト方向)に磁化されており、非磁性中間層13を介して対向する第2の固定磁性層14の磁化は前記第1の固定磁性層12の磁化方向と反平行に磁化されている。
【0064】
第1の固定磁性層12は、反強磁性層11に接して形成され、磁場中アニール(熱処理)を施すことにより、前記第1の固定磁性層12と反強磁性層11との界面にて交換結合磁界(交換異方性磁界)が発生し、例えば図1に示すように、前記第1の固定磁性層12の磁化が、図示Y方向に固定される。前記第1の固定磁性層12の磁化が、図示Y方向に固定されると、非磁性中間層12を介して対向する第2の固定磁性層14の磁化は、第1の固定磁性層12の磁化と反平行の状態で固定される
【0065】
ところで、第1の固定磁性層12と第2の固定磁性層14とが同じ材質で形成され、しかも前記第1の固定磁性層12と第2の固定磁性層14との膜厚が同じ値であると、交換結合磁界(Hex)及びΔMRは極端に低下することが実験により確認されている。
【0066】
これは、第1の固定磁性層12のMs・tP1(磁気モーメント)と、第2の固定磁性層14のMs・tP2(磁気モーメント)とが同じ値である場合、前記第1の固定磁性層12の磁化と第2の固定磁性層14の磁化とが反平行状態にならず、前記磁化の方向分散量(様々な方向に向いている磁気モーメント量)が多くなることにより、後述するフリー磁性層16の磁化との相対角度を適正に制御できないからである。
【0067】
こうした問題を解決するためには、第1に第1の固定磁性層12と、第2の固定磁性層14のMs・tを異なる値にすること、すなわち第1の固定磁性層12と第2の固定磁性層14とが同じ材質で形成される場合には、前記第1の固定磁性層12と第2の固定磁性層14を異なる膜厚で形成する必要がある
【0068】
反強磁性層11にPtMn合金など、成膜後に磁場中アニール(熱処理)を施すことにより、第1の固定磁性層12との界面で交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生させる反強磁性材料を使用した場合には、第1の固定磁性層12と第2の固定磁性層14のMs・tを異なる値に設定しても、熱処理中の印加磁場の方向、及びその大きさを適正に制御しないと、第1の固定磁性層12の磁化及び第2の固定磁性層14の磁化に方向分散量が多くなったり、あるいは前記磁化を向けたい方向に適正に制御できない。
【0069】
【表1】
Figure 0003831573
【0070】
表1では、第1の固定磁性層12のMs・tP1が、第2の固定磁性層のMs・tP2よりも大きい場合に、熱処理中の磁場の大きさ及びその方向を変えることによって、第1の固定磁性層12及び第2の固定磁性層14の磁化がどの方向に向くかを表している。
【0071】
表1の(1)では、熱処理中の磁場の方向を図示左側に、100〜1k(Oe)与えている。この場合、第1の固定磁性層12のMs・tP1の方が、第2の固定磁性層14のMs・tP2よりも大きいために、支配的な第1の固定磁性層12の磁化が、印加磁場方向にならって図示左方向に向き、第2の固定磁性層14の磁化は、第1の固定磁性層12との交換結合磁界(RKKY相互作用)によって、反平行状態になろうとする。
【0072】
表1の(2)では、右方向に100〜1k(Oe)の磁場を印加すると、支配的な第1の固定磁性層12の磁化が、印加磁場方向にならって右方向に向き、第2の固定磁性層14の磁化は、第1の固定磁性層12の磁化に対して反平行になる。
【0073】
表1の(3)では、右方向に5k(Oe)以上の磁場を与えると、まず支配的な第1の固定磁性層12の磁化は、印加磁場方向にならって右方向に向く。ところで、第1の固定磁性層12と第2の固定磁性層14との間に発生する交換結合磁界(RKKY相互作用)は、1k(Oe)〜5k(Oe)程度であるので、5k(Oe)以上の磁場が印加されると、第2の固定磁性層14もその印加磁場方向、すなわち図示右方向に向く。同様に、表1の(4)では左方向に5k(Oe)以上の磁場を印加すると、第1の固定磁性層12及び第2の固定磁性層14の磁化は共に、図示左方向に向く。
【0074】
【表2】
Figure 0003831573
【0075】
表2では、第1の固定磁性層12のMs・tP1が、第2の固定磁性層のMs・tP2も小さい場合に、熱処理中の印加磁場の大きさ及びその方向を変えることによって、第1の固定磁性層12及び第2の固定磁性層14の磁化がどの方向に向くかを表している。
【0076】
表2の(1)では、図示左方向に100〜1k(Oe)の磁場を与えると、Ms・tP2の大きい第2の固定磁性層14の磁化が支配的になり、前記第2の固定磁性層14の磁化が、印加磁場方向にならって、図示左方向に向く。第1の固定磁性層12と第2の固定磁性層14の間の交換結合(RKKY相互作用)によって、前記第1の固定磁性層12の磁化は、前記第2の固定磁性層14の磁化に対して反平行になる。同様に、表2の(2)では、図示右方向に100〜1k(Oe)の磁場を与えると、支配的な第2の固定磁性層14の磁化が図示右方向に向き、第1の固定磁性層12の磁化は図示左方向に向く。
【0077】
表2の(3)では、図示右方向に5k(Oe)以上の磁場を与えると、第1の固定磁性層12及び第2の固定磁性層14の間の交換結合(RKKY相互作用)以上の磁場が印加されることにより、前記第1の固定磁性層12及び第2の固定磁性層14の磁化が共に、図示右方向に向く。表2の(4)では、図示左方向に5k(Oe)以上の磁場を印加されると、第1の固定磁性層12及び第2の固定磁性層14の磁化が共に図示左方向を向く。
【0078】
ここで、例えば第1の固定磁性層12の磁化を図示右方向に向けようとする場合に、適正な熱処理中の磁場方向及びその大きさは、表1における(2)(3)及び表2における(1)(3)である。
【0079】
表1(2)(3)では共に、Ms・tP1の大きい第1の固定磁性層12の磁化は、熱処理中における右方向の印加磁場の影響を受けて、右方向に向き、このとき、熱処理によって発生する反強磁性層11との界面での交換結合磁界(交換異方性磁界)によって、前記第1の固定磁性層12の磁化が右方向に固定される。表1(3)では、5k(Oe)以上の磁場を取り除くと、第2の固定磁性層14は、第1の固定磁性層12との間に発生する交換結合磁界(RKKY相互作用)によって、前記第2の固定磁性層14の磁化は反転し、左方向に向く。
【0080】
同様に表2(1)(3)では、右方向に向けられた第1の固定磁性層12の磁化は、反強磁性層11との界面での交換結合磁界(交換異方性磁界)によって、右方向に固定される。表2(3)では、5k(Oe)以上の磁場を取り除くと、第2の固定磁性層14は、第1の固定磁性層12との間に発生する交換結合磁界(RKKY相互作用)によって、前記第2の固定磁性層14の磁化は反転し、左方向に固定される。
【0081】
ところで表1及び表2に示すように、熱処理中に印加される磁場の大きさは、100〜1k(Oe)、あるいは5k(Oe)以上であり、1k(Oe)〜5k(Oe)の範囲の磁場の大きさを適正な範囲から外している。これは次のような理由による。
【0082】
磁場を与えることによって、Ms・tの大きい固定磁性層の磁化は、その磁場方向に向こうとする。ところが、熱処理中の磁場の大きさが1k(Oe)〜5k(Oe)の間であると、Ms・tの小さい固定磁性層の磁化までが、磁場の影響を強く受けて、その磁場方向に向こうとする。このため、固定磁性層間に発生する交換結合磁界(RKKY相互作用)によって反平行になろうとする2層の固定磁性層の磁化が、強い磁場の影響を受けて反平行にはならず、前記固定磁性層の磁化が、様々な方向に向こうとする、いわゆる磁化分散量が多くなり、2層の固定磁性層の磁化を適正に反平行状態に磁化することができなくなる。従って、本発明では1k(Oe)〜5k(Oe)の磁場の大きさを、適正な範囲から外している。なお熱処理中の磁場の大きさを100(Oe)以上としたのは、この程度の磁場を与えないと、Ms・tの大きい固定磁性層の磁化を、その印加磁場方向に向けることができないからである。
【0083】
なお上述した熱処理中の磁場の大きさ及びその方向の制御方法は、熱処理を必要とする反強磁性層11を使用した場合であれば、どのような反強磁性材料を使用した場合であっても適用でき、例えば従来から反強磁性層11として用いられているNiMn合金などを使用した場合でも適用可能である
【0084】
ところで前述したように磁気モーメント(磁気的膜厚)は、飽和磁化Msと膜厚tとの積によって求めることができ、例えば、バルク固体のNiFeであると、飽和磁化Msは、約1.0T(テスラ)であり、バルク固体のCoであると、飽和磁化Msは約1.7Tであることが知られている。従って、前記NiFe膜の膜厚が30オングストロームである場合、前記NiFe膜の磁気的膜厚は、30オングストローム・テスラとなる。外部から磁界を加えたときの強磁性膜の静磁エネルギーは、磁気的膜厚と外部磁界との掛け合わせに比例するため、磁気的膜厚の大きい強磁性膜と磁気的膜厚の小さい強磁性膜が非磁性中間層を介してRKKY相互作用によりフェリ状態になっている場合、磁気的膜厚の大きい方の強磁性膜が、外部磁界の方向を向きやすくなるわけである。
【0085】
しかしながら、タンタル(Ta)やルテニウム(Ru)、銅(Cu)等の非磁性膜と積層接触した強磁性膜の場合や、PtMn膜などの反強磁性層と積層接触した強磁性膜の場合、非磁性膜原子や反強磁性膜原子と強磁性膜原子(Ni,Fe,Co)が直接触れ合うため、非磁性膜や反強磁性膜との界面付近の強磁性膜の飽和磁化Msが、バルク固体の飽和磁化Msよりも小さくなることが知られている。更に、強磁性膜と非磁性膜、反強磁性層の積層多層膜に熱処理が施されると、前記熱処理によって界面拡散が進行し、強磁性膜の飽和磁化Msに膜厚方向の分布が生じることが知られている。すなわち、非磁性膜や反強磁性層に近い場所の飽和磁化Msは小さく、非磁性膜や反強磁性膜との界面から離れるに従って飽和磁化Msがバルク固体の飽和磁化Msに近づくという現象である。
【0086】
非磁性膜や反強磁性層に近い場所の強磁性膜の飽和磁化Msの減少は、非磁性膜の材料、反強磁性層の材料、強磁性膜の材料や積層順序、熱処理温度等に依存するため、正確には、それぞれの特定された条件において求めなければならないことになる。本発明における磁気的膜厚とは、非磁性膜や反強磁性層との熱拡散によって生じた飽和磁化Msの減少量も考慮して算出した値である。
【0087】
PtMn膜と強磁性膜との界面で交換結合磁界を得るためには、熱処理によりPtMn膜と強磁性膜との界面で拡散層を形成することが必要であるが、拡散層の形成に伴う強磁性膜の飽和磁化Msの減少は、PtMn膜と強磁性膜の積層順序に依存することになる。
【0088】
特に図1に示すように、反強磁性層11がフリー磁性層16よりも下側に形成されている場合にあっては、前記反強磁性層11と第1の固定磁性層12との界面に熱拡散層が発生しやすく、このため前記第1の固定磁性層12の磁気的な膜厚は、実際の膜厚tP1に比べて小さくなっている。しかし前記第1の固定磁性層12の磁気的な膜厚が小さくなりすぎると、第2の固定磁性層14との磁気的膜厚(磁気モーメント)差が大きくなりすぎ、前記第1の固定磁性層12に占める熱拡散層の割合が増えることにより、交換結合磁界の低下につながるといった問題がある。
【0089】
すなわち、第1の固定磁性層12との界面で交換結合磁界を発生されるために熱処理を必要とする反強磁性層11を使用し、第1の固定磁性層12と第2の固定磁性層14の磁化状態をフェリ状態にするためには、前記第1の固定磁性層12及び第2の固定磁性層14の膜厚の適正化のみならず、前記第1の固定磁性層12及び第2の固定磁性層14の磁気的膜厚の適正化を行わないと、安定した磁化状態を保つことができない
【0090】
図1に示すように、第2の固定磁性層14の上には、Cuなどで形成された非磁性導電層15が形成され、さらに前記非磁性導電層15の上にフリー磁性層16が形成されている。図1に示すようにフリー磁性層16は、2層で形成されており、前記非磁性導電層15に接する側に形成された符号17の層はCo膜で形成されている。またもう一方の層18は、NiFe合金や、CoFe合金、あるいはCoNiFe合金などで形成されている。なお非磁性導電層15に接する側にCo膜の層17を形成する理由は、Cuで形成された前記非磁性導電層15との界面での金属元素等の拡散を防止でき、また、ΔMR(抵抗変化率)を大きくできるからである。なお符号19はTaなどで形成された保護層である。
【0091】
また図2に示すように、下地層10から保護層19までの積層体の両側には、例えばCo―Pt合金やCo―Cr―Pt合金などで形成されたハードバイアス層130及びCuやCrで形成された導電層131が形成されており、前記ハードバイアス層のバイアス磁界の影響を受けて、前記フリー磁性層16の磁化は、図示X方向に磁化された状態となっている。
【0092】
図1におけるスピンバルブ型薄膜素子では、前記導電層からフリー磁性層16、非磁性導電層15、及び第2の固定磁性層14にセンス電流が与えられる。記録媒体から図1に示す図示Y方向に磁界が与えられると、フリー磁性層16の磁化は図示X方向からY方向に変動し、このときの非磁性導電層15とフリー磁性層16との界面、及び非磁性導電層15と第2の固定磁性層14との界面でスピンに依存した伝導電子の散乱が起こることにより、電気抵抗が変化し、記録媒体からの洩れ磁界が検出される
【0093】
図3は、本発明の第3の実施形態のスピンバルブ型薄膜素子の構造を模式図的に示した横断面図、図4図3に示すスピンバルブ型薄膜素子を記録媒体との対向面側から見た断面図である。
【0094】
このスピンバルブ型薄膜素子は、フリー磁性層を中心としてその上下に非磁性導電層、固定磁性層、及び反強磁性層が1層ずつ形成された、いわゆるデュアルスピンバルブ型薄膜素子である。このデュアルスピンバルブ型薄膜素子では、フリー磁性層/非磁性導電層/固定磁性層のこの3層の組合わせが2組存在するためシングルスピンバルブ型薄膜素子に比べて大きなΔMRを期待でき、高密度記録化に対応できるものとなっている。
【0095】
図3に示すスピンバルブ型薄膜素子は、下から下地層30、反強磁性層31、第1の固定磁性層(下)32、非磁性中間層(下)33、第2の固定磁性層(下)34、非磁性導電層35、フリー磁性層36(符号37,39はCo膜、符号38はNiFe合金膜)、非磁性導電層40、第2の固定磁性層(上)41、非磁性中間層(上)42、第1の固定磁性層(上)43、反強磁性層44、及び保護層45の順で積層されている。なお図4に示すように、下地層30から保護層45までの積層体の両側には、ハードバイアス層130と導電層131が形成されている。
【0096】
図3に示すスピンバルブ型薄膜素子の反強磁性層31,44は、PtMn合金で形成されていることが好ましく、あるいはPtMn合金に代えて、X―Mn(ただしXは、Pd,Ir,Rh,Ruのいずれか1種または2種以上の元素である)合金、あるいは、Pt―Mn―X′(ただしX′は、Pd,Ir,Rh,Ru,Au,Agのいずれか1種または2種以上の元素である)合金で形成されていてもよい。
【0097】
このスピンバルブ型薄膜素子においても、前記第1の固定磁性層(下)32の膜厚tP1と、第2の固定磁性層(下)34の膜厚tP2との膜厚比、及び第1の固定磁性層(上)43の膜厚tP1と第2の固定磁性層41(上)の膜厚tP2との膜厚比(第1の固定磁性層の膜厚tP1)/(第2の固定磁性層の膜厚tP2)は、0.33〜0.95、あるいは1.05〜4の範囲内であることが好ましい。さらには、膜厚比が上記範囲内であり、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の膜厚tP1及び第2の固定磁性層(下)34,(上)41の膜厚tP2が10〜70オングストロームの範囲内で、且つ第1の固定磁性層32,43の膜厚tP1から第2の固定磁性層34,41の膜厚tP2を引いた絶対値が2オングストローム以上であると、500(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能である。
【0098】
また本発明では、(第1の固定磁性層の膜厚tP1)/(第2の固定磁性層の膜厚tP2)は、0.53〜0.95、あるいは1.05〜1.8の範囲内であることがより好ましく、さらには、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の膜厚tP1及び第2の固定磁性層(下)34,(上)41の膜厚tP2が10〜50オングストロームの範囲内で、且つ第1の固定磁性層32,43の膜厚tP1から第2の固定磁性層34,41の膜厚tP2を引いた絶対値が2オングストローム以上であれば、1000(Oe)以上の交換結合磁界を得ることができる。
【0099】
ところで、フリー磁性層36よりも下側に形成されている第1の固定磁性層(下)32の膜厚tP1を、第2の固定磁性層(下)34の膜厚tP2よりも大きくしても、前記第1の固定磁性層(下)32の膜厚tP1と第2の固定磁性層(下)34の膜厚差が約6オングストローム以下であると、交換結合磁界が低下しやすい傾向にあることが実験によって確認されている。
【0100】
この現象は、第1の固定磁性層(下)32,(上)43との界面にて交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生させるために熱処理を必要とする例えばPtMn合金で形成された反強磁性層31,44を使用した場合に見られる。
【0101】
交換結合磁界の低下は、フリー磁性層36よりも下側に形成されている反強磁性層31と第1の固定磁性層(下)32との熱拡散によって、前記第1の固定磁性層(下)32の磁気的な膜厚が減少し、前記第1の固定磁性層(下)32の磁気的な膜厚と、第2の固定磁性層34の膜厚tP2とが、ほぼ同じ厚さになるからである。このため本発明では、(第1の固定磁性層(上)43の膜厚tP1/第2の固定磁性層(上)41の膜厚tP2)よりも(第1の固定磁性層(下)32の膜厚tP1/第2の固定磁性層(下)34の膜厚tP2)の方を大きくすることが好ましい
【0102】
前述したように、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁気的膜厚Ms・tP1と第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁気的膜厚Ms・tP2にある程度差がないと、磁化状態はフェリ状態にはなりにくく、また第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁気的膜厚Ms・tP1と第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁気的膜厚Ms・tP2の差が大きくなりすぎても、交換結合磁界の低下につながり好ましくない。そこで本発明では、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の膜厚tP1と第2の固定磁性層(下)34,(上)41の膜厚tP2の膜厚比と同じように、(第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁気的膜厚Ms・tP1)/(第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁気的膜厚Ms・tP2)は、0.33〜0.95、あるいは1.05〜4の範囲内とであることが好ましい。また本発明では、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁気的膜厚Ms・tP1及び第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁気的膜厚Ms・tP2が10〜70(オングストローム・テスラ)の範囲内で、且つ第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁気的膜厚Ms・tP1から第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁気的膜厚Ms・tP2を引いた絶対値が2(オングストローム・テスラ)以上であることが好ましい。
【0103】
また(第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁気的膜厚Ms・tP1)/(第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁気的膜厚Ms・tP2)が、0.53〜0.95、あるいは1.05〜1.8の範囲内であることがより好ましい。また上記範囲内であって、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁気的膜厚Ms・tP1と第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁気的膜厚Ms・tP2は共に10〜50(オングストローム・テスラ)の範囲内であり、しかも第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁気的膜厚Ms・tP1から第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁気的膜厚Ms・tP2を引いた絶対値は2(オングストローム・テスラ)以上であることが好ましい。
【0104】
次に図3に示す第1の固定磁性層(下)32,(上)43と第2の固定磁性層(下)34,(上)41との間に介在する非磁性中間層33,42は、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのうち1種あるいは2種以上の合金で形成されていることが好ましい。
【0105】
図3に示すようにフリー磁性層36よりも下側に形成された前記非磁性中間層(下)33の膜厚は、3.6〜9.6オングストロームの範囲内で形成されることが好ましい。この範囲内であれば、500(Oe)以上の交換結合磁界(Hex)を得ることが可能である。
【0106】
また前記非磁性中間層(下)33の膜厚は、4〜9.4オングストロームの範囲内で形成されると、1000(Oe)以上の交換結合磁界を得ることができるのでより好ましい。
【0107】
また本発明では図3に示すように、フリー磁性層36よりも上側に形成された非磁性中間層(上)42の膜厚は、2.5〜6.4オングストローム、あるいは6.8〜10.7オングストロームの範囲内であることが好ましい。この範囲内であると、少なくとも500(Oe)以上の交換結合磁界(Hex)を得ることができる。
【0108】
また本発明では、前記非磁性中間層(上)42の膜厚は、2.8〜6.2オングストローム、あるいは6.8〜10.3オングストロームの範囲内であることがより好ましい。この範囲内であると、少なくとも1000(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能である。
【0109】
また、前記反強磁性層31,44を少なくとも100オングストローム以上で形成すれば、500(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能である。また前記膜厚を110オングストローム以上にすれば、1000(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能である。
【0110】
従来では、前記反強磁性層31,44の膜厚は約200オングストローム以上で形成されていたので、本発明によれば、約半分の膜厚で前記反強磁性層31,44を形成することが可能であり、特にデュアルスピンバルブ型薄膜素子の場合には、反強磁性層31,44が2層形成されるので、従来に比べてスピンバルブ型薄膜素子全体の膜厚を、約200オングストローム以上薄くできる。このように薄く形成されたスピンバルブ型薄膜素子では、図5に示す下部ギャップ層121、及び上部ギャップ層125を、絶縁性を充分に保つ程度に厚くしても、ギャップ長Glを薄くでき、高密度記録化に対応できるものとなっている。
【0111】
なお第1の固定磁性層(下)32,(上)43と第2の固定磁性層(下)34,(上)41との膜厚比や膜厚、非磁性中間層(下)33,(上)42の膜厚、及び反強磁性層31,44の膜厚を上述した範囲内で適正に調節することにより
、従来と同程度のΔMRを保つことができ、具体的には約10%以上のΔMRを得ることが可能である。
【0112】
図3に示すように、フリー磁性層36よりも下側に形成された第1の固定磁性層(下)32の膜厚tP1は、非磁性中間層33を介して形成された第2の固定磁性層(下)34の膜厚tP2に比べて薄く形成されている。一方、フリー磁性層36よりも上側に形成されている第1の固定磁性層(上)43の膜厚tP1は、非磁性中間層42を介して形成された第2の固定磁性層41(上)の膜厚tP2に比べ厚く形成されている。そして、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化は共に図示Y方向と反対方向に磁化されており、第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化は図示Y方向に磁化された状態になっている
【0113】
図3に示すデュアルスピンバルブ型薄膜素子にあっては、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化が共に同じ方向に向くようにする必要性があり、そのために、本発明では、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁気モーメントMs・tP1と、第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁気モーメントMs・tP2との調整、及び熱処理中に印加する磁場の方向及びその大きさを適正に調節している。
【0114】
ここで、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化を共に同じ方向に向けておくのは、前記第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化と反平行になる第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化を共に同じ方向に向けておくためであり、その理由について以下に説明する。
【0115】
前述したように、スピンバルブ型薄膜素子のΔMRは、固定磁性層の固定磁化とフリー磁性層の変動磁化との関係によって得られるものであるが、本発明のように固定磁性層が第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の2層に分断された場合にあっては、前記ΔMRに直接関与する固定磁性層の層は第2の固定磁性層であり、第1の固定磁性層は、前記第2の固定磁性層の磁化を、一定方向に固定しておくためのいわば補助的な役割を担っている。
【0116】
仮に図3に示す第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化が互いに反対方向に固定されているとすると、例えば第2の固定磁性層(上)41の固定磁化と、フリー磁性層36の変動磁化との関係では抵抗が大きくなっても、第2の固定磁性層(下)34の固定磁化と、フリー磁性層36の変動磁化との関係では抵抗が非常に小さくなってしまい、結局、デュアルスピンバルブ型薄膜素子におけるΔMRは、図1に示すシングルスピンバルブ型薄膜素子のΔMRよりも小さくなってしまう。
【0117】
この問題は、本発明のように、固定磁性層を非磁性中間層を介して2層に分断したデュアルスピンバルブ型薄膜素子に限ったことではなく、従来のデュアルスピンバルブ型薄膜素子であっても同じことであり、シングルスピンバルブ型薄膜素子に比べΔMRを大きくでき、大きな出力を得ることができるデュアルスピンバルブ型薄膜素子の特性を発揮させるには、フリー磁性層の上下に形成される固定磁性層を共に同じ方向に固定しておく必要がある。
【0118】
ところで本発明では、図3に示すように、フリー磁性層36よりも下側に形成された固定磁性層は、第2の固定磁性層(下)34のMs・tP2の方が、第1の固定磁性層(下)32のMs・tP1に比べ大きくなっており、Ms・tP2の大きい第2の固定磁性層(下)34の磁化が図示Y方向に固定されている。ここで、第2の固定磁性層34のMs・tP2と、第1の固定磁性層32のMs・tP1とを足し合わせた、いわゆる合成磁気モーメントは、Ms・tP2の大きい第2の固定磁性層34の磁気モーメントに支配され、図示Y方向に向けられている。
【0119】
一方、フリー磁性層36よりも上側に形成された固定磁性層は、第1の固定磁性層(上)43のMs・tP1の方が、第2の固定磁性層(上)41のMs・tP2に比べて大きくなっており、Ms・tP1の大きい第1の固定磁性層(上)43の磁化が図示Y方向と反対方向に固定されている。第1の固定磁性層(上)43のMs・tP1と、第2の固定磁性層(上)41のMs・tP2とを足した、いわゆる合成磁気モーメントは、第1の固定磁性層(上)43のMs・tP1に支配され、図示Y方向と反対方向に向けられている。
【0120】
すなわち、図3に示すデュアルスピンバルブ型薄膜素子では、フリー磁性層36の上下で、第1の固定磁性層のMs・tP1と第2の固定磁性層のMs・tP2を足して求めることができる合成磁気モーメントの方向が反対方向になっているのである。このためフリー磁性層36よりも下側で形成される図示Y方向に向けられた合成磁気モーメントと、前記フリー磁性層36よりも上側で形成される図示Y方向と反対方向に向けられた合成磁気モーメントとが、図示左周りの磁界を形成している。
【0121】
従って、前記合成磁気モーメントによって形成される磁界により、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化と第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化とがさらに安定したフェリ状態を保つことが可能である。
【0122】
更に、センス電流114は、主に比抵抗の小さい非磁性導電層35,39を中心にして流れ、センス電流114を流すことにより、右ネジの法則によってセンス電流磁界が形成されることになるが、センス電流114を図3の方向に流すことにより、フリー磁性層36の下側に形成された第1の固定磁性層(下)32/非磁性中間層(下)33/第2の固定磁性層(下)34の場所にセンス電流が作るセンス電流磁界の方向を、前記第1の固定磁性層(下)32/非磁性中間層(下)33/第2の固定磁性層(下)34の合成磁気モーメントの方向と一致させることができ、さらに、フリー磁性層36よりも上側に形成された第1の固定磁性層(上)43/非磁性中間層(上)42/第2の固定磁性層(上)41の場所にセンス電流が作るセンス電流磁界を、前記第1の固定磁性層(上)43/非磁性中間層(上)42/第2の固定磁性層(上)41の合成磁気モーメントの方向と一致させることができる。
【0123】
センス電流磁界の方向と合成磁気モーメントの方向を一致させることのメリットに関しては後で詳述するが、簡単に言えば、前記固定磁性層の熱的安定性を高めることができることと、大きなセンス電流を流せることができるので、再生出力を向上できるという、非常に大きいメリットがある。センス電流磁界と合成磁気モーメントの方向に関するこれらの関係は、フリー磁性層36の上下に形成される固定磁性層の合成磁気モーメントが図示左周りの磁界を形成しているからである。
【0124】
装置内の環境温度は約200℃程度まで上昇し、さらに今後、記録媒体の回転数や、センス電流の増大などによって、環境温度がさらに上昇する傾向にある。このように環境温度が上昇すると、交換結合磁界は低下するが、本発明によれば、合成磁気モーメントで形成される磁界と、センス電流磁界により、熱的にも安定して第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化と第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化とをフェリ状態に保つことができる。
【0125】
前述した合成磁気モーメントによる磁界の形成、及び、合成磁気モーメントによる磁界とセンス電流磁界との方向関係は、本発明特有の構成であり、フリー磁性層の上下に単層で形成され、しかも同じ方向に向けられ固定磁化された固定磁性層を有する従来のデュアルスピンバルブ型薄膜素子では、得ることができないものとなっている。
【0126】
次に、熱処理中に与える磁界の方向及びその大きさについて以下に説明する。図3に示すスピンバルブ型薄膜素子では、反強磁性層31,44にPtMn合金など第1の固定磁性層(下)32,(上)43との界面で交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生させるために、熱処理が必要な反強磁性材料を使用しているので、熱処理中に印加する磁場の方向及びその大きさを適正に制御しないと、第1の固定磁性層(下)32,(上)43と第2の固定磁性層(下)34,(上)41との磁化の方向を図3に示すような方向に得ることはできない。
【0127】
まず成膜する段階で、図3に示すように、フリー磁性層36よりも下側に形成された第1の固定磁性層(下)32のMs・tP1を、第2の固定磁性層(下)34のMs・tP2よりも小さくし、且つ前記フリー磁性層36よりも上側に形成された第1の固定磁性層(上)43のMs・tP1を第2の固定磁性層(上)41のMs・tP2よりも大きくする。
【0128】
図3に示すように、第1の固定磁性層(下)32,(上)43を図示Y方向と反対方向に向けたい場合には、前述した表1,2を参照することにより、図示Y方向と逆方向に5k(Oe)以上(表1(4)及び表2(4)参照)の磁界を与える必要がある。
【0129】
図示Y方向と反対方向に5k(Oe)以上の磁界を印加することにより、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化及び第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化がすべて一旦図示Y方向と反対方向に向く。前記第1の固定磁性層(下)32,(上)43は、反強磁性層31,44との界面での交換結合磁界(交換異方性磁界)によって、図示Y方向と反対方向に固定され、5k(Oe)以上の磁界を取り去ることにより、第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化は、第1の固定磁性層(下)32,(上)43との交換結合磁界(RKKY相互作用)によって、図示Y方向に反転し図示Y方向に固定されるのである。
【0130】
あるいは5k(Oe)以上の磁界を図示Y方向に与えてもよい。この場合には、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化と第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化が図3に示す磁化方向と反対向きに磁化され、右回りの合成磁気モーメントによる磁界が形成される。
【0131】
また本発明では、フリー磁性層36よりも下側に形成された第1の固定磁性層(下)32のMs・tP1を、第2の固定磁性層34のMs・tP2よりも大きくし、且つ、前記フリー磁性層36よりも上側に形成された第1の固定磁性層43のMs・tP1を第2の固定磁性層41のMs・tP2よりも小さくしてもよい。この場合においても、第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁化を得たい方向、すなわち図示Y方向あるいは図示Y方向と反対方向に5k(Oe)以上の磁界を印加することによって、フリー磁性層36の上下に形成された第2の固定磁性層(下)34,(上)41を同じ方向に向けて固定でき、しかも図示右回りのあるいは左回りの合成磁気モーメントによる磁界を形成できる。
【0132】
なお上記した方法以外の方法で、フリー磁性層36の上下に形成された第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化を互いに同じ方向に向け、しかも合成磁気モーメントによる磁界の形成、及び合成磁気モーメントによる磁界とセンス電流磁界との方向関係の形成を行うことはできない
【0133】
以上、図3及び図4に示したスピンバルブ型薄膜素子によれば、固定磁性層を非磁性中間層を介して第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との2層に分断し、この2層の固定磁性層間に発生する交換結合磁界(RKKY相互作用)によって前記2層の固定磁性層の磁化を反平行状態(フェリ状態)にすることにより、従来に比べて熱的にも安定した固定磁性層の磁化状態を保つことができる。
【0134】
特に本発明では、反強磁性層としてブロッキング温度が非常に高く、また第1の固定磁性層との界面で大きい交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生するPtMn合金を使用することにより、第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との磁化状態を、より熱的安定性に優れたものにできる。
【0135】
また本発明では、第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との膜厚比や、前記第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との間に介在する非磁性中間層の膜厚、及び反強磁性層の膜厚を適正な範囲内で形成することによって、交換結合磁界(Hex)を大きくでき、従って、前記第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の固定磁化の熱的安定性をより向上させることが可能である。
【0136】
なお第1の固定磁性層の膜厚tP1と第2の固定磁性層の膜厚tP2との膜厚比、さらには、前記第1の固定磁性層、第2の固定磁性層、非磁性中間層、及び反強磁性層の膜厚を適性な範囲内で形成することにより、従来とほぼ同程度のΔMRを得ることも可能である。
【0137】
さらに本発明では、反強磁性層としてPtMn合金など、第1の固定磁性層との界面で交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生させるために熱処理を必要とする反強磁性材料を使用した場合に、第1の固定磁性層のMs・tP1と第2の固定磁性層のMs・tP2とを異なる値で形成し、さらに熱処理中の印加磁場の大きさ及びその方向を適正に調節することによって、前記第1の固定磁性層(及び第2の固定磁性層)の磁化を得たい方向に磁化させることが可能である。
【0138】
特に図3に示すデュアルスピンバルブ型薄膜素子にあっては、第1の固定磁性層(下)32,(上)43のMs・tP1と第2の固定磁性層(下)34,(上)41のMs・tP2を適正に調節し、さらに熱処理中の印加磁場の大きさ及びその方向を適正に調節することによって、ΔMRに関与するフリー磁性層36の上下に形成された2つの第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁化を共に同じ方向に固定でき、且つフリー磁性層36の上下に形成される合成磁気モーメントを互いに反対方向に形成できることによって、前記合成磁気モーメントによる磁界の形成、及び、前記合成磁気モーメントによる磁界とセンス電流磁界との方向関係の形成ができ、固定磁性層の磁化の熱的安定性をさらに向上させることが可能である
【0139】
本発明では、さらにセンス電流の方向を調節することで、第1の固定磁性層の磁化と第2の固定磁性層の磁化との反平行状態(フェリ状態)を、より熱的にも安定した状態に保つことが可能となっている。
【0140】
スピンバルブ型薄膜素子では、反強磁性層、固定磁性層、非磁性導電層、及びフリー磁性層から成る積層膜の両側に導電層が形成されており、この導電層からセンス電流が流される。前記センス電流は、比抵抗の小さい前記非磁性導電層と、前記非磁性導電層と固定磁性層との界面、及び非磁性導電層とフリー磁性層との界面に主に流れる。本発明では、前記固定磁性層は第1の固定磁性層と第2の固定磁性層とに分断されており、前記センス電流は主に第2の固定磁性層と非磁性導電層との界面に流れている。
【0141】
前記センス電流を流すと、右ネジの法則によって、センス電流磁界が形成される。本発明では前記センス電流磁界を第1の固定磁性層の磁気モーメントと第2の固定磁性層の磁気モーメントを足し合わせて求めることができる合成磁気モーメントの方向と同じ方向になるように、前記センス電流の流す方向を調節している
【0142】
図3に示すスピンバルブ型薄膜素子は、フリー磁性層36の上下に第1の固定磁性層(下)32,(上)43と第2の固定磁性層(下)34,(上)41が形成されたデュアルスピンバルブ型薄膜素子である。
【0143】
このデュアルスピンバルブ型薄膜素子では、フリー磁性層36の上下に形成される合成磁気モーメントが互いに反対方向に向くように、前記第1の固定磁性層(下)32,(上)43の磁気モーメントの方向及びその大きさと第2の固定磁性層(下)34,(上)41の磁気モーメントの方向及びその大きさを制御する必要がある。
【0144】
図3に示すようにフリー磁性層36よりも下側に形成されている第2の固定磁性層(下)34の磁気モーメントは、第1の固定磁性層(下)32の磁気モーメントよりも大きく、また前記第2の固定磁性層(下)34の磁気モーメントは図示右方向(図示Y方向)を向いている。従って、前記第1の固定磁性層(下)32の磁気モーメントと第2の固定磁性層(下)34の磁気モーメントを足し合わせて求めることができる合成磁気モーメントは図示右方向(図示Y方向)を向いている。またフリー磁性層36よりも上側に形成されている第1の固定磁性層(上)43の磁気モーメントは第2の固定磁性層(上)41の磁気モーメントよりも大きく、また前記第1の固定磁性層(上)43の磁気モーメントは図示左方向(図示Y方向と反対方向)に向いている。このため前記第1の固定磁性層(上)43の磁気モーメントと第2の固定磁性層(上)41の磁気モーメントを足し合わせて求めることができる合成磁気モーメントは図示左方向(図示Y方向と反対方向)を向いている。このように本発明ではフリー磁性層36の上下に形成される合成磁気モーメントが互いに反対方向に向いている。
【0145】
本発明では図3に示すように、センス電流114は図示X方向と反対方向に流される。これにより前記センス電流114を流すことによって形成されるセンス電流磁界は紙面に対し左回りに形成される。
【0146】
前記フリー磁性層36よりも下側で形成された合成磁気モーメントは図示右方向(図示Y方向)に、フリー磁性層36よりも上側で形成された合成磁気モーメントは図示左方向(図示Y方向と反対方向)に向いているので、前記2つの合成磁気モーメントの方向は、センス電流磁界の方向と一致しており、フリー磁性層36の下側に形成された第1の固定磁性層(下)32の磁化と第2の固定磁性層(下)34の磁化の反平行状態、及びフリー磁性層36の上側に形成された第1の固定磁性層(上)43の磁化と第2の固定磁性層(上)41の磁化の反平行状態を、熱的にも安定した状態で保つことが可能である。
【0147】
なお、フリー磁性層36よりも下側に形成された合成磁気モーメントが図示左方向に向いており、フリー磁性層36よりも上側に形成された合成磁気モーメントが図示右側に向いている場合には、センス電流114を図示X方向に流し、前記センス電流を流すことによって形成されるセンス電流磁界の方向と、前記合成磁気モーメントの方向とを一致させる必要がある。
【0148】
以上のように本発明によれば、センス電流を流すことによって形成されるセンス電流磁界の方向と、第1の固定磁性層の磁気モーメントと第2の固定磁性層の磁気モーメントを足し合わせることによって求めることができる合成磁気モーメントの方向とを一致させることにより、前記第1の固定磁性層と第2の固定磁性層間に作用する交換結合磁界(RKKY相互作用)を増幅させ、前記第1の固定磁性層の磁化と第2の固定磁性層の磁化の反平行状態(フェリ状態)を熱的に安定した状態に保つことが可能である。
【0149】
特に本発明では、より熱的安定性を向上させるために、反強磁性層にPtMn合金などのブロッキング温度の高い反強磁性材料を使用しており、これによって、環境温度が、従来に比べて大幅に上昇しても、前記第1の固定磁性層の磁化と第2の固定磁性層の磁化の反平行状態(フェリ状態)を壊れ難くすることができる。
【0150】
また高記録密度化に対応するためセンス電流量を大きくして再生出力を大きくしようとすると、それに従ってセンス電流磁界も大きくなるが、本発明では、前記センス電流磁界が、第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の間に働く交換結合磁界を増幅させる作用をもたらしているので、センス電流磁界の増大により、第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の磁化状態はより安定したものとなる。
【0151】
なおこのセンス電流方向の制御は、反強磁性層にどのような反強磁性材料を使用した場合であっても適用でき、例えば反強磁性層と固定磁性層(第1の固定磁性層)との界面で交換結合磁界(交換異方性磁界)を発生させるために、熱処理が必要であるか、あるいは必要でないかを問わない。
【0152】
図5はスピンバルブ型薄膜素子が形成された読み取りヘッドの構造を記録媒体との対向面側から見た断面図である。
【0153】
符号120は、例えばNiFe合金などで形成された下部シールド層であり、この下部シールド層120の上に下部ギャップ層121が形成されている。また前記下部ギャップ層121の上は、本発明におけるスピンバルブ型薄膜素子122が形成されており、前記スピンバルブ型薄膜素子122の両側にハードバイアス層123、及び導電層124が形成されている。さらに前記導電層124の上には、上部ギャップ層125が形成され、前 記上部ギャップ層125の上には、NiFe合金などで形成された上部シールド層126が形成されている。
【0154】
前記下部ギャップ層123及び上部ギャップ層125は、例えばSiO2やAl2O3(アルミナ)などの絶縁材料によって形成されている。図5に示すように、下部ギャップ層121から上部ギャップ層125までの長さがギャップ長Glであり、このギャップ長Glが小さいほど高記録密度化に対応できるものとなっている。
【0155】
本発明では前述したように、反強磁性層11の膜厚を薄くできることで、スピンバルブ型薄膜素子122全体の厚さを薄くできるため、前記ギャップ長Glを短くすることが可能である。また下部ギャップ層121及び上部ギャップ層125の膜厚を比較的厚くしても、ギャップ長Glを従来に比べて小さくすることができ、また下部ギャップ層121及び上部ギャップ層125を厚く形成することで、絶縁性を充分に確保することができる。
【0156】
【実施例】
ず固定磁性層を、非磁性中間層を介して第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の2層に分断して形成したスピンバルブ型薄膜素子を使用し、前記第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の膜厚比と、交換結合磁界(Hex)及びΔMR(抵抗変化率)との関係について測定した。
【0157】
まず、第1の固定磁性層(反強磁性層に接する側の固定磁性層)を20オングストローム又は40オングストロームに固定し、第2の固定磁性層の膜厚を変化させて、前記第2の固定磁性層の膜厚と、交換結合磁界及びΔMRとの関係について調べた。実験に使用した膜構成は以下の通りである。
【0158】
Si基板/アルミナ/Ta(30)/反強磁性層;PtMn(150)/第1の固定磁性層;Co(20又は40)/非磁性中間層;Ru(7)/第2の固定磁性層;Co(X)/非磁性導電層;Cu(25)/フリー磁性層;Co(10)+NiFe(40)/Ta(30)
である。なお各層における括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0159】
た、上記スピンバルブ型薄膜素子を成膜した後、200(Oe)の磁場を印加しながら260℃で4時間の熱処理を施した。その実験結果を図6及び図7に示す。
【0160】
図6に示すように、第1の固定磁性層(P1)の膜厚tP1を20オングストロームで固定した場合、第2の固定磁性層(P2)の膜厚tP2を、20オングストロームにすると、急激に交換結合磁界(Hex)は低下し、且つ、前記膜厚tP2を厚くすることにより、前記交換結合磁界は徐々に低下していくことがわかる。また前記第1の固定磁性層(P1)の膜厚tP1を40オングストロームで固定した場合、第2の固定磁性層(P2)の膜厚tP2を40オングストロームにすると急激に交換結合磁界は低下し、且つ前記膜厚tP2を40オングストロームよりも大きくすると、徐々に交換結合磁界は低下していくことがわかる。また、前記膜厚tP2を40オングストロームよりも小さくしていくと、約26オングストロームまでは交換結合磁界は大きくなるが、前記膜厚tP2を26オングストロームよりも小さくしていくと、交換結合磁界は小さくなっていくことがわかる。
【0161】
ところで第1の固定磁性層(P1)の膜厚tP1と第2の固定磁性層(P2)の膜厚tP2とがほぼ同じ膜厚で形成されると、急激に交換結合磁界が低下するのは、前記第1の固定磁性層(P1)の磁化と第2の固定磁性層(P2)の磁化とが、互いに反平行に磁化されない、いわゆるフェリ状態になりにくいからではないかと推測される。
【0162】
上述した膜構成に示すように、第1の固定磁性層(P1)と第2の固定磁性層(P2)は共にCo膜で形成されているので、同じ飽和磁化(Ms)を有している。さらにほぼ同じ膜厚で形成されることにより、第1の固定磁性層(P1)の磁気モーメント(Ms・tP1)と第2の固定磁性層(P2)の磁気モーメント(Ms・tP2)は、ほぼ同じ値で設定されている。
【0163】
強磁性層にPtMn合金を使用しているので、成膜後磁場中アニールを施すことにより、第1の固定磁性層(P1)との界面で交換結合磁界を発生させ、前記第1の固定磁性層(P1)をある一定方向に固定しようとしている。
【0164】
ところが、第1の固定磁性層(P1)と第2の固定磁性層(P2)の磁気モーメントがほぼ同じ値であると、磁場を印加して熱処理を施したときに、前記第1の固定磁性層(P1)と第2の固定磁性層(P2)とが、共に磁場方向に向こうとする。本来なら、第1の固定磁性層(P1)と第2の固定磁性層(P2)との間には交換結合磁界(RKKY相互作用)が発生し、前記第1の固定磁性層(P1)の磁化と第2の固定磁性層(P2)の磁化は、反平行状態(フェリ状態)に磁化されようとするが、第1の固定磁性層(P1)と第2の固定磁性層(P2)の磁化が互いに磁場方向に向こうとするため、反平行状態に磁化されにくく、第1の固定磁性層(P1)と第2の固定磁性層(P2)の磁化状態は、外部磁界などに対し非常に不安定な状態となっている。
【0165】
このため、第1の固定磁性層(P1)の磁気モーメントと第2の固定磁性層(P2)の磁気モーメントとの差をある程度つけることが好ましいが、図6に示すように、第1の固定磁性層(P1)の膜厚tP1と第2の固定磁性層(P2)の膜厚tP2の差が大きくなりすぎ、第1の固定磁性層(P1)と第2の固定磁性層(P2)の磁気モーメントの差がありすぎると、交換結合磁界が低下し、反平行状態が崩れやすいという問題がある。
【0166】
図8、図9は、第2の固定磁性層(P2)の膜厚tP2を30オングストロームで固定し、第1の固定磁性層(P1)の膜厚tP1を変化させたときの、前記第1の固定磁性層の膜厚tP1と交換結合磁界(Hex)及びΔMRとの関係を表すグラフである。この実験で使用したスピンバルブ型薄膜素子の膜構成は以下の通りである。
【0167】
Si基板/アルミナ/Ta(30)/PtMn(150)/第1の固定磁性層;Co(X)/非磁性中間層;Ru(7)/第2の固定磁性層;Co(30)/非磁性導電層;Cu(25)/フリー磁性層;Co(10)+NiFe(40)/Ta(30)である。なお各層における括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0168】
た、上記スピンバルブ型薄膜素子を成膜した後、200(Oe)の磁場を印加しながら260℃で4時間の熱処理を施した。
【0169】
図8に示すように、第1の固定磁性層(P1)の膜厚tP1を30オングストロームにした場合、すなわち第2の固定磁性層(P2)の膜厚tP2と同じ膜厚で形成した場合、交換結合磁界(Hex)は急激に低下することがわかる。これは上述した理由による。
【0170】
また、第1の固定磁性層(P1)の膜厚tP1が約32オングストロームのときも交換結合磁界は小さくなっていることがわかる。これは熱拡散層の発生により、第1の固定磁性層の磁気的な膜厚が実際の膜厚tP1よりも小さくなり、第2の固定磁性層の膜厚tP2(=30オングストローム)に近づくからである。
【0171】
前記熱拡散層は、反強磁性層と第1の固定磁性層との界面において、金属元素が拡散することによって形成されるが、前記熱拡散層は、この実験で使用した膜構成に示すように、フリー磁性層よりも下側に反強磁性層及び固定磁性層を形成した場合に発生しやすくなる。
【0172】
図10は、デュアルスピンバルブ型薄膜素子を製作し、前記デュアルスピンバルブ型薄膜素子の2個の第2の固定磁性層を共に20オングストロームに固定し、2個の第1の固定磁性層のそれぞれの膜厚を変化させた場合における、前記第1の固定磁性層の膜厚と、交換結合磁界(Hex)との関係を示すグラフである。この実験で使用したスピンバルブ型薄膜素子の膜構成は以下の通りである。
【0173】
Si基板/アルミナ/Ta(30)/反強磁性層;PtMn(150)/第1の固定磁性層(P1 下);Co(X)/非磁性中間層;Ru(6)/第2の固定磁性層(P2 下);Co(20)/非磁性導電層;Cu(20)/フリー磁性層;Co(10)+NiFe(40)+Co(10)/非磁性導電層;Cu(20)/第2の固定磁性層(P2 上);Co(20)/非磁性中間層;Ru(8)/第1の固定磁性層(P1 上);Co(X)/反強磁性層;PtMn(150)/保護層;Ta(30)である。なお各層における括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0174】
た、上記スピンバルブ型薄膜素子を成膜した後、200(Oe)の磁場を印加しながら260℃で4時間の熱処理を施した。
【0175】
なお、実験では、フリー磁性層よりも下側に形成された第1の固定磁性層(P1 下)を25オングストロームで固定して、フリー磁性層よりも上側に形成された第1の固定磁性層(P1 上)の膜厚を変化させ、前記第1の固定磁性層(P1 上)の膜厚と、交換結合磁界(Hex)との関係について調べた。
【0176】
また、フリー磁性層よりも上側に形成された第1の固定磁性層(P1 上)を25オングストロームで固定して、フリー磁性層よりも下側に形成された第1の固定磁性層(P1 下)の膜厚を変化させ、前記第1の固定磁性層(P1 下)の膜厚と交換結合磁界との関係について調べた。
【0177】
図10に示すように、第1の固定磁性層(P1 下)を25オングストロームで固定し、第1の固定磁性層(P1 上)の膜厚を20オングストロームに近づけていくと、徐々に交換結合磁界は大きくなっていくが、前記第1の固定磁性層(P1 上)の膜厚が約18〜22オングストロームになると、第2の固定磁性層(P1 上)の膜厚とほぼ同じ膜厚になることから、上述した理由により、急激に交換結合磁界は低下してしまう。また前記第1の固定磁性層(P1 上)の膜厚を22オングストロームから30オングストロームまで徐々に大きくしていくと、徐々に交換結合磁界は低下していくことがわかる。
【0178】
また図10に示すように、第1の固定磁性層(P1 上)を25オングストローム7で固定し、第1の固定磁性層(P1 下)の膜厚を20オングストロームに近づけると、徐々に交換結合磁界は大きくなっていくが、前記第1の固定磁性層(P1 下)の膜厚が約18〜22オングストロームになると、急激に交換結合磁界は低下している。また前記第1の固定磁性層(P1 下)の膜厚を22オングストロームよりも大きくすると、前記膜厚が約26オングストロームまで交換結合磁界は大きくなるが、前記膜厚を26オングストローム以上にすると、交換結合磁界は低下することがわかる。
【0179】
ここで、第1の固定磁性層(P1)の膜厚を約22オングストローム程度にした場合の、第1の固定磁性層(P1 上)における交換結合磁界と、第1の固定磁性層(P1 下)における交換結合磁界とを比較すると、第1の固定磁性層(P1 上)の膜厚を約22オングストローム程度にした場合の方が、第1の固定磁性層(P1 下)を約22オングストローム程度にした場合に比べ交換結合磁界を大きくできることがわかる。これは前述したように、第1の固定磁性層(P1 下)と、反強磁性層との界面には、熱拡散層が形成されやすいので、前記第1の固定磁性層の磁気的な膜厚は、実質的に小さくなり、第2の固定磁性層(P2 下)の膜厚とほぼ同程度になってしまうからである。
【0180】
以上、図6、図8、及び図10に示す実験結果により、500(Oe)以上の交換結合磁界を得ることができる(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)を調べた。
【0181】
まず図6に示すように、第1の固定磁性層(P1)を20オングストロームに固定した場合、500(Oe)以上の交換結合磁界を得るには、(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)を、0.33以上0.91以下、あるいは1.1以上にしなければいけないことがわかる。なおこのときの第2の固定磁性層(P2)の膜厚は、10〜60オングストローム(18〜22オングストロームを除く)の範囲内である。
【0182】
次に図6に示すように、第1の固定磁性層(P1)を40オングストロームに固定した場合、500(Oe)以上の交換結合磁界を得るには、(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)を、0.57以上0.95以下、1.05以上4以下にしなければいけないことがわかる。なおこのときの第2の固定磁性層(P2)の膜厚は、10〜60オングストローム(38〜42オングストロームを除く)の範囲内である。
【0183】
次に、図8に示すように、第2の固定磁性層(P2)を30オングストロームに固定した場合、500(Oe)以上の交換結合磁界を得るには、(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)を、0.33以上0.93以下、あるいは1.06以上2.33以下にしなければいけないことがわかる。なおこのときの第1の固定磁性層(P1)の膜厚は、10〜70オングストローム(28〜32オングストロームを除く)の範囲内である。
【0184】
さらに図10に示すように、デュアルスピンバルブ型薄膜素子の場合にあっては、(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)の範囲のうち、0.9以上1.1以下の範囲を外せば、500(Oe)以上の交換結合磁界を得ることができることがわかる。
【0185】
ここで500(Oe)以上の交換結合を得ることができる最も広い膜厚比の範囲を取ると、(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)は、0.33〜0.95、あるいは1.05〜4の範囲内となる。
【0186】
ただし、交換結合磁界は膜厚比のみならず、第1の固定磁性層(P1)と第2の固定磁性層(P2)の膜厚も重要な要素の一つであるので、さらに、上述した膜厚比の範囲内で、しかも第1の固定磁性層(P1)の膜厚及び第2の固定磁性層(P2)の膜厚を、10〜70オングストロームの範囲内とし、且つ第1の固定磁性層(P1)の膜厚から第2の固定磁性層(P2)の膜厚を引いた絶対値を2オングストローム以上にすれば、500(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能になる。
【0187】
に、1000(Oe)以上の交換結合磁界を得ることができる(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)を調べた。
【0188】
まず図6に示すように、第1の固定磁性層(P1)を20オングストロームにした場合、(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)を0.53〜0.91、あるいは1.1以上にすれば1000(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能である。なおこのときの第2の固定磁性層(P2)の膜厚は、10〜38オングストローム(18〜22オングストロームを除く)の範囲内である。
【0189】
また図6に示すように、第1の固定磁性層(P1)を40オングストロームにした場合、(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)を0.88〜0.95、あるいは1.05〜1.8の範囲内にすれば、1000(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能である。なおこのときの第2の固定磁性層(P2)の膜厚は、22〜45オングストローム(38〜42オングストロームを除く)の範囲内である。
【0190】
さらに図8に示すように、第2の固定磁性層(P2)を30オングストロームに固定した場合、(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)を0.56〜0.93、あるいは1.06〜1.6の範囲内であれば1000(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能である。なおこのときの第1の固定磁性層(P1)の膜厚は、10〜50オングストローム(28〜32オングストロームを除く)の範囲内である。
【0191】
また図10に示すように、デュアルスピンバルブ型薄膜素子の場合にあっては、(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)を0.5〜0.9、あるいは1.1〜1.5程度の範囲内にすれば、1000(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能となっている。
【0192】
従って、1000(Oe)以上の交換結合磁界を得るには、第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)を、0.53〜0.95、あるいは1.05〜1.8の範囲内にし、さらに、第1の固定磁性層(P1)と第2の固定磁性層(P2)の膜厚を10〜50オングストロームの範囲内で、しかも第1の固定磁性層(P1)の膜厚から第2の固定磁性層(P2)の膜厚を引いた絶対値が2オングストローム以上であることが好ましい。
【0193】
なお図7及び図9に示すように、上述した膜厚比及び膜厚の範囲内であれば、ΔMRもそれほど低下せず、約6%以上のΔMRを得ることが可能である。このΔMRの値は従来のスピンバルブ型薄膜素子(シングルスピンバルブ型薄膜素子に限る)のΔMRと同程度か若干低い値である。
【0194】
また図7に示すように、第1の固定磁性層(P1)を40オングストロームにした場合、第2の固定磁性層(P1)を20オングストロームにした場合に比べて、ややΔMRは小さくなることがわかる。
【0195】
前記第1の固定磁性層(P1)は、実際にはΔMRに関与しない層であり、前記ΔMRは、第2の固定磁性層(P2)の固定磁化と、フリー磁性層の変動磁化との関係で決定される。ところがセンス電流は、ΔMRに関与しない第1の固定磁性層(P1)にも流れるため、いわゆるシャントロス(分流ロス)が発生し、このシャントロスは、第1の固定磁性層(P1)の膜厚が厚くなるほど大きくなる。以上のような理由から、第1の固定磁性層(P1)の膜厚が厚くなるほど、ΔMRは低下しやすい傾向にある。
【0196】
次に、第1の固定磁性層(P1)と第2の固定磁性層(P2)の間に形成される非磁性中間層の適正な膜厚について測定した。なお、実験には、フリー磁性層よりも下側に反強磁性層が形成されたボトム型と、フリー磁性層よりも上側に反強磁性層が形成されたトップ型の2種類のスピンバルブ型薄膜素子を製作し、前記非磁性中間層の膜厚と交換結合磁界との関係について調べた。実験に使用したボトム型のスピンバルブ型薄膜素子の膜構成は、下から、
Si基板/アルミナ/Ta(30)/反強磁性層;PtMn(200)/第1の固定磁性層;Co(20)/非磁性中間層;Ru(X)/第2の固定磁性層;Co(25)/非磁性導電層;Co(10)/フリー磁性層;Co(10)+NiFe(40)/Ta(30)であり、トップ型のスピンバルブ型薄膜素子の膜構成は、下から、
Si基板/アルミナ/Ta(30)/フリー磁性層;NiFe(40)+Co(10)/非磁性導電層;Cu(25)/第2の固定磁性層;Co(25)/非磁性中間層;Ru(X)/第1の固定磁性層;Co(20)/反強磁性層;PtMn(200)/Ta(30)である。なお括弧内の数値は膜厚を表しており、単位はオングストロームである。
【0197】
また各スピンバルブ型薄膜素子を成膜後、200(Oe)の磁場を印加しながら、260℃で4時間の熱処理を施している。その実験結果を図11に示す。
【0198】
図11に示すように、トップ型とボトム型とでは、Ru膜(非磁性中間層)の膜厚に対する交換結合磁界の挙動が大きく異なっていることがわかる。
【0199】
00(Oe)以上の交換結合磁界を得ることができる範囲を好ましいとしているので、トップ型のスピンバルブ型薄膜素子において、500(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能なRu膜の膜厚は、2.5〜6.4オングストローム、あるいは6.6〜10.7オングストロームの範囲内であることがわかる。さらに好ましくは1000(Oe)以上の交換結合磁界が得られる範囲内であり、前記Ru膜の膜厚を、2.8〜6.2オングストローム、あるいは6.8〜10.3オングストロームの範囲内にすれば、1000(Oe)以上の交換結合磁界が得られることがわかる。
【0200】
次にボトム型のスピンバルブ型薄膜素子において、500(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能なRu膜の膜厚は、3.6〜9.6オングストロームの範囲内であることがわかる。さらに、4.0〜9.4オングストロームの範囲内とすれば、1000(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能になる。
【0201】
ところで、トップ型のスピンバルブ型薄膜素子と、ボトム型のスピンバルブ型薄膜素子とで、非磁性中間層の適性な膜厚の範囲が異なるのは、第1の固定磁性層と第2の固定磁性層との間に作用する交換結合磁界(RKKY相互作用)が、下地膜の格子定数との関係や、あるいは、磁性層の伝導電子のエネルギーバンドの値の変化に非常に敏感に反応するためであると推測される
【0202】
に、2種類のデュアルスピンバルブ型薄膜素子を製作し、各スピンバルブ型薄膜素子における反強磁性層(PtMn合金)の膜厚と、交換結合磁界との関係について測定した。
【0203】
実施例は、固定磁性層が非磁性中間層を介して第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の2層に分断して形成された本発明のデュアルスピンバルブ型薄膜素子、比較例は、固定磁性層が単層で形成された従来のデュアルスピンバルブ型薄膜素子である。
【0204】
まず実施例のスピンバルブ型薄膜素子における膜構成は、下から、
Si基板/アルミナ/Ta(30)/反強磁性層;PtMn(x)/第1の固定磁性層;Co(20)/非磁性中間層;Ru(6)/第2の固定磁性層;Co(25)/非磁性導電層;Cu(20)/フリー磁性層;Co(10)+NiFe(40)+Co(10)/非磁性導電層;Cu(20)/第2の固定磁性層;Co(20)/非磁性中間層;Ru(8)/第1の固定磁性層;Co(25)/反強磁性層;PtMn(X)/Ta(30)であり、比較例のスピンバルブ型薄膜素子における膜構成は、下から、
Si基板/アルミナ/Ta(30)/反強磁性層;PtMn(X)/固定磁性層;Co(30)/非磁性導電層;Cu(20)/フリー磁性層;Co(10)+NiFe(40)+Co(10)/非磁性導電層;Cu(20)/固定磁性層;Co(30)/反強磁性層;PtMn(X)/Ta(30)である。
【0205】
なお各スピンバルブ型薄膜素子の膜構成における括弧内の数値は膜厚を示しており、単位はオングストロームである。
【0206】
また各スピンバルブ型薄膜素子を成膜後、実施例では、200(Oe)の磁場を、比較例では2k(Oe)の磁場を印加しながら260℃で4時間の熱処理を施している。その実験結果を図12に示す。
【0207】
図12に示すように、比較例ではPtMn合金の膜厚を約200オングストローム以上で形成しないと、500(Oe)以上の交換結合磁界を得ることができないとわかる。
【0208】
これに対し、実施例では、PtMn合金の膜厚を、100オングストローム以上で形成すれば500(Oe)以上の交換結合磁界を得ることができるとわかる。そこで、好ましい反強磁性層の膜厚を100〜200オングストロームの範囲内に設定している。さらに実施例では、PtMn合金の膜厚を110オングストローム以上で形成すれば、1000(Oe)以上の交換結合磁界を得ることが可能であるためより好ましい反強磁性層の膜厚を110〜200オングストロームの範囲内に設定している。
【0209】
また図13は、PtMn合金の膜厚と、ΔMRとの関係を示すグラフである。
図13に示すように、比較例では、PtMn合金の膜厚を200オングストローム以上で形成すると、約10%以上のΔMRを得ることが可能となっているが、実施例においては、PtMn合金の膜厚を100オングストローム程度に薄くしても、従来とほぼ同じ程度のΔMRを確保できることがわかる。
【0210】
ところで、スピンバルブ型薄膜素子における積層膜のうち、最も膜厚の厚いのは反強磁性層である。このため本発明によれば、図12に示すように、前記反強磁性層の膜厚を薄くしても、具体的には従来のスピンバルブ型薄膜素子の反強磁性層の膜厚の半分以下で形成しても、大きい交換結合磁界を得ることが可能となっている。このため、スピンバルブ型薄膜素子全体の膜厚を薄くすることができ、図5に示すように、前記スピンバルブ型薄膜素子122の上下に形成されるギャップ層121,125の膜厚を絶縁性を確保できる程度に充分に厚くしても、ギャップ長Glを小さくでき、狭ギャップ化を実現できる。
【0211】
【発明の効果】
以上詳述した本発明によれば、デュアルスピンバルブ型磁気素子において、固定磁性層を構成する第1の磁性層と第2の磁性層の磁気モーメントの大小を適正に調節し、さら前記熱処理中に印加する磁場の方向及びその大きさを適正に調節することによって、前記第1の固定磁性層の磁化と第2の固定磁性層の磁化とを反平行状態に適正に制御することができ、しかも、第1の固定磁性層の磁化及び第2の固定磁性層の磁化を得たい方向に向けて固定できる。
【0212】
さらに本発明では、フリー磁性層の上下に形成される各第2の磁性層の磁化を共に同じ方向に向けることができるので、大きな抵抗変化率を得ることが可能である。
【0213】
また請求項1記載の発明では、フリー磁性層の上下に形成される固定磁性層の合成磁気モーメントを互いに逆方向に向けることができるので、センス電流を流すことによって形成されるセンス電流磁界の方向と、前記合成磁気モーメントの方向とを一致させることができ、前記各固定磁性層の磁化状態をさらに熱的に安定させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における第1実施形態のスピンバルブ型薄膜素子の横断面図、
【図2】図1に示すスピンバルブ型薄膜素子を記録媒体との対向面側から見た断面図、
【図3】本発明における第2実施形態のスピンバルブ型薄膜素子の横断面図、
【図4】図3に示すスピンバルブ型薄膜素子を記録媒体との対向面側から見た断面図、
図5】読み出しヘッド(再生ヘッド)を記録媒体との対向面からみた断面図、
図6】第1の固定磁性層(P1)の膜厚を20、あるいは40オングストロームで固定した場合の、第2の固定磁性層(P2)の膜厚と、交換結合磁界との関係、及び(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)と、交換結合磁界(Hex)との関係を示すグラフ、
図7】第1の固定磁性層(P1)の膜厚を20、あるいは40オングストロームで固定した場合の、第2の固定磁性層(P2)の膜厚と、ΔMR(%)との関係を示すグラフ、
図8】第2の固定磁性層(P2)を30オングストロームで固定した場合の、第1の固定磁性層(P1)の膜厚と、交換結合磁界との関係、及び(第1の固定磁性層(P1)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2)の膜厚)と交換結合磁界(Hex)との関係を示すグラフ、
図9】第2の固定磁性層(P2)を30オングストロームで固定した場合の、第1の固定磁性層(P1)の膜厚と、ΔMR(%)との関係を示すグラフ、
図10】デュアルスピンバルブ型薄膜素子において、第1の固定磁性層(上)の膜厚及び第1の固定磁性層(下)の膜厚と交換結合磁界(Hex)との関係、さらに(第1の固定磁性層(P1 上)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2 上)の膜厚)及び(第1の固定磁性層(P1 下)の膜厚)/(第2の固定磁性層(P2 下)の膜厚)と交換結合磁界(Hex)との関係を示すグラフ、
図11】第1の固定磁性層と第2の固定磁性層の間に介在するRu(非磁性中間層)の膜厚と交換結合磁界(Hex)との関係を示すグラフ、
図12】2種類のデュアルスピンバルブ型薄膜素子を使用し、各デュアルスピンバルブ型薄膜素子のPtMn(反強磁性層)の膜厚と、交換結合磁界(Hex)との関係を示すグラフ、
図13】2種類のデュアルスピンバルブ型薄膜素子を使用し、各デュアルスピンバルブ型薄膜素子のPtMn(反強磁性層)の膜厚と、ΔMR(%)との関係を示すグラフ、
図14】本発明におけるスピンバルブ型薄膜素子、及び従来におけるスピンバルブ型薄膜素子におけるヒステリシスループ、
図15】反強磁性層をPtMnで形成した場合、NiOで形成した場合、及びFeMnで形成した場合の各スピンバルブ型薄膜素子における環境温度(℃)と交換結合磁界(Hex)との関係を示すグラフ、
図16】従来におけるスピンバルブ型薄膜素子を記録媒体との対向面からみた断面図、
【符号の説明】
10、 下地層
11、 反強磁性層
12、 第1の固定磁性層
13、 非磁性中間層
14、 第2の固定磁性層
15、 非磁性導電層
16、 フリー磁性層
19、 保護層
32、93 第1の固定磁性層(下)
34、95 第2の固定磁性層(下)
41、105 第2の固定磁性層(上)
43、107 第1の固定磁性層(上)
130 ハードバイアス層
131 導電層
114 センス電流

Claims (7)

  1. フリー磁性層の上下に積層された非磁性導電層と、一方の前記非磁性導電層の上に形成された上側固定磁性層と、他方の非磁性導電層の下に形成された下側固定磁性層と、上側固定磁性層の上、及び下側固定磁性層の下に形成された反強磁性層とを有する積層体と、この積層体の両側に設けられ前記積層体に導電層が設けられているスピンバルブ型薄膜素子の製造方法において、
    前記各固定磁性層を、反強磁性層に接する第1の磁性層と、前記第1の磁性層と非磁性中間層を介して重ねられる第2の磁性層の2層で形成し、このとき、
    前記上側と前記下側の一方の固定磁性層で、第1の磁性層の磁気モーメント(飽和磁化Ms・膜厚t)を、第2の磁性層の磁気モーメントよりも大きくし、他方の固定磁性層で、第1の磁性層の磁気モーメントを、第2の磁性層の磁気モーメントよりも小さくする工程と、
    磁場中熱処理を施して、前記各第1の磁性層と反強磁性層との界面にて交換結合磁界を発生させる際に、前記上側固定磁性層および前記下側固定磁性層の第1の磁性層と第2の磁性層との間に発生する交換結合磁界(RKKY相互作用)より大きい磁場を印加して、前記各第1の磁性層の磁化を前記磁場方向と同一方向に固定し、各第2の磁性層の磁化を前記磁場方向と反対方向に固定することで、前記上側固定磁性層の第1の磁性層と第2の磁性層との磁気モーメントを足し合わせた合成磁気モーメントと、前記下側固定磁性層の第1の磁性層と第2の磁性層との磁気モーメントを足し合わせた合成磁気モーメントとを互いに逆方向に向ける工程と、
    を有することを特徴とするスピンバルブ型薄膜素子の製造方法。
  2. 前記導電層を介して前記積層体に流される前記センス電流が作るセンス電流磁界の前記フリー磁性層より上側での方向と前記上側固定磁性層の第1の磁性層と第2の磁性層との磁気モーメントを足し合わせた合成磁気モーメントの方向並びに、前記センス電流磁界の前記フリー磁性層より下側での方向と前記下側固定磁性層の第1の磁性層と第2の磁性層との磁気モーメントを足し合わせた合成磁気モーメントの方向を一致させる請求項1に記載のスピンバルブ型薄膜素子の製造方法。
  3. 前記反強磁性層を、PtMn合金で形成する請求項1または請求項2に記載のスピンバルブ型薄膜素子の製造方法。
  4. 前記反強磁性層を、X―Mn(ただしXは、Pd,Ir,Rh,Ruのいずれか1種または2種以上の元素である)で形成する請求項1または請求項2に記載のスピンバルブ型薄膜素子の製造方法。
  5. 前記反強磁性層を、Pt―Mn―X′(ただしX′は、Pd,Ir,Rh,Ru,Au,Agのいずれか1種または2種以上の元素である)で形成する請求項1または請求項2に記載のスピンバルブ型薄膜素子の製造方法。
  6. 前記第1の磁性層と第2の磁性層の間に形成される非磁性中間層を、Ru、Rh、Ir、Cr、Re、Cuのうち1種あるいは2種以上の合金で形成する請求項1ないしのいずれかに記載のスピンバルブ型薄膜素子の製造方法。
  7. 下部シールド層の上にギャップ層を介して請求項1ないし請求項のいずれかに記載のスピンバルブ型薄膜素子を形成し、さらに前記スピンバルブ型薄膜素子の上にギャップ層を介して上部シールド層を形成することを特徴とする薄膜磁気ヘッドの製造方法。
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