JP3599831B2 - 疑似ステレオ化装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、モノラルの音声信号を疑似ステレオ化する装置に関し、テレビジョン放送及びラジオ放送の受信機、ビデオテープ、オーディオテープ、及びコンパクトディスクなどを再生するオーディオ機器などに利用される。なお、本明細書において、音声信号とは、映像信号に対する語句であって、いわゆる音声のみならず音楽や自然音など全ての音の信号又はデータを含む概念で用いられる。
【0002】
【従来の技術】
近年のオーディオ・ビジュアルの世界において、テレビ画面の大型化、音声のステレオ化、サラウンドシステムの採用などによって、より豊かな臨場感と迫力を生み出すような工夫がなされている。しかしながら、オーディオソフト、ビジュアルソフト、その他の各種音源が必ずしもマルチチャネルで供給されるものではなく、現状ではむしろモノラルの音源であることの方が多い。そのため、モノラルの音源、つまりモノラルの音声信号の再生の音場に臨場感を与えるために、モノラルの音声信号の疑似ステレオ化が注目されている。
【0003】
通常、疑似ステレオ化は、モノラルの音声信号から相関の小さい2つの音声信号を作成することにより行われる。そのための従来の方法として、位相制御による方法、櫛形フィルタを用いる方法などがある。
【0004】
前者の方法では、元の音声信号に対して位相のずれた音声信号を作成し、それら互いに位相のずれた2つの音声信号を左右のスピーカーから再生する。また後者の方法では、モノラルの音声信号を通過周波数帯域の互いに異なる2つのフィルタを通過させ、周波数帯域によって分別された2つの音声信号を左右のスピーカーから再生する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前者の方法では、左右の音声信号の相関を余り小さくすることができないため充分な拡がり感が得られず、また、逆位相感によって音が耳についたりするような不自然さがあるという問題がある。
【0006】
後者の方法では、元の音声信号に対して周波数特性が大きく変化し、例えば同一の楽器が音程によって左右に別れて聞こえることとなり、音像の極端な移動が生じてしまって自然な再生音が得られないという問題がある。
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、充分な拡がり感を得ることが可能であり、しかも自然な再生音を得ることのできる疑似ステレオ化装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明に係る装置は、モノラルの音声信号を疑似ステレオ化する装置であって、前記モノラルの音声信号の周波数を高域側又は低域側にシフトさせて第1チャネルの音声信号とする周波数シフト手段と、前記モノラルの音声信号を遅延させて第2チャネルの音声信号とする遅延手段と、を備え、前記周波数シフト手段は、デジタル化された前記モノラルの音声信号を窓関数によって切り出して有限区間毎の音声信号とする切出し手段と、切り出された音声信号を周波数領域に変換するフーリエ変換手段と、周波数領域に変換された音声信号の周波数をシフトさせるシフト手段と、シフトされた音声信号を時間領域に変換する逆フーリエ変換手段と、を有してなる。
【0011】
請求項2の発明に係る装置は、前記シフト手段は、高域側へシフトさせる高域側シフト手段と、低域側へシフトさせる低域側シフト手段とを有し、前記高域側シフト手段と前記低域側シフト手段とによって、前記音声信号が前記有限区間毎に交互にシフトされるように構成される。
【0012】
【作用】
本発明の原理を図1に基づいて説明すると、モノラルの音声信号MSを、周波数シフト手段Aによって、その周波数を高域側又は低域側にシフトさせ、それを第1チャネルの音声信号S2Rとする。
【0013】
遅延手段Bは、音声信号MSを周波数シフト手段Aの処理による信号遅れと同じだけ遅延させ、それを第2チャネルの音声信号S2Lとする。これによって第1チャネルと第2チャネルの音声信号S2R,S2Lが同時に再生される。
【0014】
第1チャネル及び第2チャネルの音声信号S2R,S2Lを、例えば左右に配置したスピーカによって再生することにより、左右の再生音は互いに相関が小さいので、聴取者は拡がり感を得ることができる。周波数のシフト量を元の音声信号の周波数の大きさに比例させると、より自然な拡がり感を得ることができる。
【0015】
音声信号MSのシフトに当たって、有限区間毎に高域側と低域側とに交互にシフトさせることによって、拡がり感がより効果的に得られる。
【0016】
【実施例】
図2は本発明に係る疑似ステレオ装置1のブロック図、図3は音声データDaを区間SC毎に切り出す様子を示す図、図4は音声データDfのシフトの様子を示す図である。
【0017】
図2において、疑似ステレオ装置1は、音声入力端子Ta、AD変換部11、切出し部12、FFT(高速フーリエ変換)部13、周波数シフト部14、IFFT(逆高速フーリエ変換)部15、遅延部16、DA変換部17R,17L、パワー増幅部18R,18L、及びスピーカSPR,SPLから構成されている。
【0018】
AD変換部11は、音声入力端子Taに入力されたアナログ信号であるモノラルの音声信号S1を、サンプリングクロックCLK1に合わせてデジタル信号である音声データDaに変換する。サンプリング周波数は例えば44.1KHzである。
【0019】
切出し部12は、図3に示すように、音声データDaを窓関数によって切り出して一定の時間幅の区間SC毎の音声データDaとするものである。窓関数として、例えばハニング窓が使用される。区間SCは、例えば1つの区間SCに500個の音声データDaが含まれるように設定する。その場合には、1つの区間SCの時間幅は、約11.3msec(=500/44100)となる。
【0020】
FFT部13は、各区間SCの音声データDaに対して高速フーリエ変換を行い、時間領域の音声データDaを周波数領域の音声データDfに変換する。
周波数シフト部14は、周波数領域の音声データDfを高域側と低域側とに区間毎に交互にシフトさせる。周波数シフト部14には、メモリ31a,31b、高域側シフト処理部32、低域側シフト処理部33が設けられている。FFT部13から出力される1つの区間SC分の音声データDfは、メモリ31aに格納される。メモリ31aに格納された音声データDfは、高域側シフト処理部32により高域側へシフトする処理が施され、又は低域側シフト処理部33により低域側へシフトする処理が施され、処理後の音声データDfsはメモリ31bに格納される。高域側シフト処理部32と低域側シフト処理部33とにおける処理は、区間毎に交互に行われる。
【0021】
高域側シフト処理部32及び低域側シフト処理部33におけるシフトは、シフト前の音声データDfの周波数をfとすると、シフト後の音声データDfsの周波数Fは、対数グラフ上に表すことを考慮に入れて次の(1)式で表される。
【0022】
log(F)=log(f×p) ……(1)
ここで、pはシフト量及びシフト方向を定める定数であり、定数pが1よりも大きい場合には高域側へ、1よりも小さい場合には低域側へ、それぞれシフトする。定数pは、例えば1.01、1.02、1.05などとされる。
【0023】
図4に示すように、横軸をログスケール(対数目盛)とした対数グラフ上に音声データDf,Dfsを表すと、シフト後の音声データDfsは、元の音声データDfをその形状を維持した状態でプラス側又はマイナス側へシフト量Qsだけ平行移動したものとなる。対数グラフ上でのシフト量QsはLog(p)である。このようにログスケールでのシフトを行うことによって、後述するIFFT部15によって時間領域に逆変換された後の音声データDaRは、元の音声データDaに対して音程のみが変化し音色及び音圧は変化しない。
【0024】
IFFT部15は、メモリ31bから読み出された音声データDfsを逆フーリエ変換し、時間領域の音声データDaRに戻す。
遅延部16は、AD変換部11から出力される音声データDaを、切出し部12からIFFT部15までの各部での処理時間の合計と同じ時間だけ遅延させ、音声データDaRとの同期をとる。
【0025】
DA変換部17R,17Lは、サンプリングクロックCLK1と同じ周期で出力される音声データDaR,DaLをDA変換し、アナログ信号である音声信号S2R,S2Lに変換する。
【0026】
パワー増幅部18R,18Lは、音声信号S2R,S2Lを増幅して右側及び左側のスピーカSPR,SPLをそれぞれ駆動する。これによって、右側のスピーカSPRからは、元の音声信号S1の周波数を一定時間毎に高域側と低域側とに交互にシフトさせた音声信号S2Rが再生され、左側のスピーカSPLからは、元の音声信号S1と同じ音声信号S2Lが再生される。つまり、元の音声信号S2Lと周波数をシフトさせた音声信号S2Rとが、2つのスピーカSPR,SPLから再生される。元の音声信号S2Lと周波数をシフトさせた音声信号S2Rとは相関が小さいので、聴取者には充分に拡がりのあるステレオ感が得られるとともに、周波数をシフトさせた右側の音声信号S2Rは音色及び音圧が変化しないので聴取者に違和感がなく、自然な拡がり感が得られる。また、位相制御による方法のような逆位相感による不自然さがなく、櫛型フィルタを用いた場合のように周波数特性の変化がなく、音像の定位が良好である。定数pを適当な値に設定して周波数のシフト量Qsを調整することによって、違和感が少なく拡がり感が適度に得られるように調整することができる。
【0027】
上述の実施例において、切出し部12、FFT部13、高域側シフト処理部32、低域側シフト処理部33、IFFT部15、遅延部16などは、例えばDSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)を用いて実現することができる。メモリ31a,31bは、DSPに内蔵されたメモリ領域を使用してもよいし、外部に接続したメモリを使用してもよい。
【0028】
上述の実施例においては、アナログ信号である音声信号S1を入力するようにしたが、例えばDATなどのデジタル機器から出力されるデジタル信号を入力するときはAD変換部11は不要である。周波数シフト部14は種々の構成とすることができる。
【0029】
上述の実施例においては、遅延部16によって音声データDaを遅延させ、左右の音声信号S2R,S2Lが同時に再生されるようにしたが、適当な時間だけずれるようにしてもよい。また、遅延部16を省略することも可能である。音声信号S2R,S2Lを左右のスピーカSPR,SPLによって再生したが、音声信号S2R,S2Lをサラウンドシステムのリア側の音声信号に加えて再生してもよい。音声データDfを高域側と低域側とに交互にシフトさせたが、高域側又は低域側の一方のみにシフトさせてもよい。高域側と低域側とでシフト量を異ならせてもよい。区間SCの時間幅は適当な値に設定することができる。サンプリング周波数、AD変換のビット数などは種々変更することができる。その他、疑似ステレオ装置1の全体又は各部の構成、処理内容、処理順序、処理タイミングなどは、本発明の主旨に沿って種々変更することができる。
【0030】
【発明の効果】
請求項1乃至請求項5の発明によると、充分な拡がり感を得ることが可能であり、しかも自然な再生音を得ることのできる疑似ステレオ化方法及び装置を提供することができる。
【0031】
請求項2の発明によると、周波数をシフトさせた音声信号は音色及び音圧が変化しないので聴取者に違和感がなく、一層自然な拡がり感が得られる。
請求項5の発明によると、左右の拡がり感がより効果的に得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の原理を説明するための図である。
【図2】本発明に係る疑似ステレオ装置のブロック図である。
【図3】音声データDaを区間毎に切り出す様子を示す図である。
【図4】音声データDfのシフトの様子を示す図である。
【符号の説明】
1 疑似ステレオ装置(疑似ステレオ化装置)
12 切出し部(切出し手段)
13 FFT部(フーリエ変換手段)
14 周波数シフト部(周波数シフト手段)
15 IFFT部(逆フーリエ変換手段)
16 遅延部(遅延手段)
32 高域側シフト処理部(シフト手段)
33 低域側シフト処理部(シフト手段)
A 周波数シフト手段
B 遅延手段

Claims (2)

  1. モノラルの音声信号を疑似ステレオ化する装置であって、
    前記モノラルの音声信号の周波数を高域側又は低域側にシフトさせて第1チャネルの音声信号とする周波数シフト手段と、
    前記モノラルの音声信号を遅延させて第2チャネルの音声信号とする遅延手段と、を備え、
    前記周波数シフト手段は、デジタル化された前記モノラルの音声信号を窓関数によって切り出して有限区間毎の音声信号とする切出し手段と、切り出された音声信号を周波数領域に変換するフーリエ変換手段と、 周波数領域に変換された音声信号の周波数をシフトさせるシフト手段と、シフトされた音声信号を時間領域に変換する逆フーリエ変換手段と、を有してなることを特徴とする疑似ステレオ化装置。
  2. 前記シフト手段は、高域側へシフトさせる高域側シフト手段と、低域側へシフトさせる低域側シフト手段とを有し、
    前記高域側シフト手段と前記低域側シフト手段とによって、前記音声信号が前記有限区間毎に交互にシフトされるように構成されてなる、請求項1記載の疑似ステレオ化装置。
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