JP3599716B2 - 表面外観および曲げ加工性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
表面外観および曲げ加工性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建材、家電などの分野で広く利用されている溶融Al−Zn系合金めっき鋼板に係り、とくにインラインでも製造可能な表面外観および曲げ加工性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
表面に、Alを25〜75質量%含有する溶融Al−Zn系合金めっき被膜を有する溶融AlーZn系合金めっき鋼板は、通常の溶融亜鉛めっき鋼板に比べ耐食性に優れるため、建材、家電等の分野で広く利用されている。さらに溶融Al−Zn系合金めっき鋼板は、熱反射性やスパングル外観に優れているため、住宅、倉庫、公共建築などの屋根、壁材として利用されることが多い。
【0003】
最近では、塩水噴霧試験での赤錆発生までの時間で評価した耐食性が、通常の溶融亜鉛めっき鋼板や5%Al−Znめっき鋼板の3〜5倍と優れていることから、とくに耐食性が要求される用途では、従来使用されていた溶融亜鉛めっき鋼板や5%Al−Znめっき鋼板に代えて、これら溶融Al−Zn系合金めっき鋼板が用いられる傾向となっている。
【0004】
しかし、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板のめっき被膜は、溶融亜鉛めっき鋼板や5%Al−Znめっき鋼板に比べ硬質であるため、とくに厳しい曲げ加工が付与される箇所ではクラックを発生しやすいという問題がある。このため、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板を、商品価値の高い意匠性に富む複雑な形状に成形加工することは難しく、また、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板ではスパングルサイズや表面光沢性のムラが発生しやすいため、未塗装で使用する場合には問題を残していた。
【0005】
このような問題に対し、例えば、特公昭61−28748号公報には、めっき後、鋼板を、93〜427 ℃の温度に加熱し、この温度で、logt=7102.4/T−11.04 (ここで、t: 時間(s)、T:加熱温度(K))で算出される最小時間tにわたって保持し、ついで室温までゆっくり冷却する、いわゆる過時効処理を施し、めっきを軟質化させ加工性を向上させる方法が提案されている。しかし、特公昭61−28748号公報に記載された方法では、過時効処理に長時間を要し、インラインでの製造は不可能であるという問題があった。
【0006】
また、“Aluzinc Plus:A new continuous hot−dip 55%Al−Zn protective coating ”(Roc.of Galvatech 92,p412(AMSTERDAM) )には、めっき被膜へのSr、V、Crの複合添加により、加工性が改善される可能性があることが言及されている。しかしこの報告には、適正な組成範囲や加工性改善効果の程度等が明確にされていない。
【0007】
また、Richard Ley は、”Theorized Effect of Strontium Addition on Al−Si Alloys”なる報告(Inter ZAC 98 Conference, Los Angels, CA USA September 1998)で、めっき被膜へのSr添加により55%Al−Zn めっき鋼板の加工性が改善される可能性があることを示した。しかし、厳しい加工に耐えられるほどの十分な加工性改善ではなかった。
【0008】
また、特開平9−256132号公報には、めっき被膜にMo、W、Nb、Taを微量添加してめっき被膜を微細化する方法、あるいはCr、Vを微量添加してめっき被膜中の合金層でのクラック発生を抑制する方法が記載されている。しかしながら、Mo、W、Nb、Taの微量添加による第二相形成により組織の微細化を図る方法は、めっき条件によるスパングルサイズの変動などの外観不良を生じやすいという問題がある。また、これら金属は、めっき浴に溶けにくく、添加歩留が低いため、ドロスの発生量が増加しめっき浴の管理に多大の労力を必要とするという問題もあった。
【0009】
また、特開平9−209109号公報には、Al:40〜70%、Si:0.5 〜1.5 %を含有し、さらにZr、Hf、Vの1種または2種以上を各0.01〜0.4 %、および/またはTiを0.40%以下含有するスパングル粒径が0.7mm 以下のZn−Al 系合金めっき被膜を有する溶融Zn−Al 系合金めっき鋼板が開示されている。特開平9−209109号公報に記載された技術では、Zr、Hf、V添加でスパングルサイズを微細化し、意匠性に優れた溶融Zn−Al 系合金めっき鋼板とすることを目的としている。本発明者らの検討によれば、特開平9−209109号公報に記載された技術で製造されためっき鋼板は、スパングルサイズの微細化により意匠性は向上するが、合金層の凹凸が増大し、またインターデンドライト領域が増加して、加工性はむしろ低下する傾向となるという問題がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、めっき被膜中にAlを30質量%以上含む溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の曲げ加工性が、溶融亜鉛めっき鋼板やAl濃度の低い5%Al−Znめっき鋼板などに比べて劣るのは、鋼板地鉄との界面側に生成するAl−Fe−Si系の合金層やめっき被膜中に析出するSi析出物が基点となりクラックが発生し、このクラックがSi析出物や、主相である初晶Al(デンドライト領域)の間(インターデンドライト)にめっき被膜の厚み方向に晶出するAl−Zn共晶組織を伝播しやすいためであると考えられている。このようなことから、前記した従来技術では、
(1)初晶Al(デンドライト領域)を軟質化し、インターデンドライトへの応力集中を緩和し、クラックを伝播しにくくする、
(2)合金元素を微量めっき被膜へ添加し、めっき被膜の組織を微細化する
の2つの系統に大別できる、曲げ加工性改善方法が提案されている。
【0011】
しかしながら、上記した2つの系統の曲げ加工性改善方法のうち、前記(1)ではバッチ処理の設備が必要となり、生産性が低く、また前記(2)では溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の曲げ加工性を十分な高いレベルまで向上させることができていないのが現状である。
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、煩雑な浴管理を行なうことなく、またインラインで生産性高く製造できる、表面外観および曲げ加工性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、めっき浴中のSi、Sr含有量およびめっき浴温、侵入板温、めっき後の冷却速度をさまざまに変化させて、低炭素鋼板にめっきして、めっき被膜の組織および曲げ加工性について調査した。その結果、めっき浴のSi含有量を低減し、めっき被膜中の界面合金層厚みがめっき被膜厚みの20%以下になるように制御することにより、めっき被膜中の界面合金層の凹凸が少なくなり、しかもめっき被膜中のSi析出物が大幅に減少し、曲げ加工性が改善することを見出した。まためっき浴中にSrをSi添加量に応じ適量添加し、めっき被膜中にSrを適量含有させることにより、めっき鋼板の表面外観が改善することを見出した。
【0013】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)表面に溶融Al−Zn系合金めっき被膜を形成してなる溶融Al−Zn系合金めっき鋼板であって、前記溶融Al−Zn系合金めっき被膜がAlを30〜70mass%、Siを0.1 〜1.0 mass%、SrをSi含有量の0.5 〜2%含有する組成と、少なくともデンドライト領域と、界面合金層とを含む組織を有し、該界面合金層の厚みが、前記溶融Al−Zn系合金めっき被膜の厚みの20%以下であることを特徴とする表面外観および曲げ加工性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板。
(2)鋼板を、溶融Al−Zn 系合金めっき浴に浸漬し表面に溶融Al−Zn系合金めっき被膜を形成する溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法において、前記溶融Al−Zn 系合金めっき浴を、溶融Al−Zn系合金めっき被膜がAlを30〜70mass%、Siを0.1 〜1.0mass %、SrをSi含有量の0.5 〜2%含有する組成となるように、調整し、浴温が 600℃以下としためっき浴とし、前記鋼板の該溶融Al−Zn 系合金めっき浴への侵入板温を 600℃以下として、前記鋼板を前記溶融Al−Zn 系合金めっき浴に浸漬後引き上げ、540 ℃までを20℃/s以上で冷却することを特徴とする表面外観および曲げ加工性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の溶融Al−Zn系合金めっき鋼板は、鋼板 (めっき原板)表面に溶融Al−Zn系合金めっき被膜を形成してなるめっき鋼板である。溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の表面に形成される溶融Al−Zn系合金めっき被膜は、少なくともデンドライト領域と、鋼板地鉄との界面側に界面合金層とを含む組織を有する。このデンドライト領域は、AlにZnが固溶したα相からなる、めっき被膜の主たる構成相である。このデンドライト領域の間に存在するインターデンドライト領域は、Al−Zn 共晶で構成され、Si含有量によってはAl−Zn 共晶の間にSi析出物(Si結晶)が析出する場合もある。また、めっき被膜の鋼板地鉄との界面側に形成される界面合金層は、Znをわずかに含有するFe−Si−Al系の金属間化合物、FeAl4Si0.2(τ5c)、あるいはFeAl3 (θ)からなっている。
【0015】
本発明の溶融Al−Zn系合金めっき鋼板表面に形成される溶融Al−Zn系合金めっき被膜は、めっき被膜全体の平均で、Alが30〜70mass%、Siが0.1 〜1.0mass %、SrがSi含有量の0.5 〜2%含有し、残部が実質的にZnからなる組成のめっき被膜である。めっき被膜中のAlが、30mass%未満では耐食性が不十分である。一方、70mass%を超えると端面耐食性が劣化するとともに、めっき被膜が硬質化し、めっき鋼板の曲げ加工性が著しく劣化する。なお、より好ましくは40〜60mass%である。
【0016】
めっき被膜中のSiは、めっき被膜の鋼板地鉄側に形成される界面合金層の厚みを適正範囲内に調整可能とするために、0.1 〜1.0mass %含有させる。めっき被膜中のSiが、0.1mass %未満では、界面合金層がめつき被膜厚みの20%を超えて厚く成長し、めっき鋼板の曲げ加工性が低下する。一方、1.0mass %を超えると、めっき被膜中にSi析出物が増加し、めっき鋼板の曲げ加工性が低下する。
【0017】
図1にSi含有量を変化させた試料のめっき層断面のSEM写真( 反射電子による組成像) を示す。めっき層中のSiは黒いコントラストを持つ。このようなSi析出物は、従来のSi:1.61mass %含有のめっき被膜ではインターデンドライト領域に多数観察されるが、含有量を1.0mass %以下の0.73mass%まで低減するとほとんど観察されなくなる。このため、本発明では、めっき被膜中のSiは0.1 〜1.0mass %の範囲に限定した。
【0018】
さらに本発明では、めっき被膜中にSrをSi含有量の0.5 〜2%含有させる。めっき被膜中のSrは、めっき被膜の表面に濃化して表面欠陥の発生を防止し、表面外観を改善する作用を有し、本発明では重要な元素である。めっき被膜中のSr含有量がSi含有量の0.5 %未満では、SrがSiの表面濃化に消費されて、めっき被膜の表面外観改善に寄与できない。一方、めっき被膜中のSr含有量がSi含有量の2%を超えて過剰にSrを含有すると、Sr/Si 系の粗大な析出物が分布するようになり、めっき鋼板の曲げ加工性が劣化する。
【0019】
めっき被膜中には、上記したAl,Si,Sr以外に、加工性を大幅に劣化させない範囲で耐食性向上をはかるために、めっき被膜中に2mass%以下のMgを含有してもよい。
本発明の溶融Al−Zn系合金めっき鋼板表面に形成される溶融Al−Zn系合金めっき被膜では、界面合金層の厚みをめっき被膜厚みの20%以下とする。界面合金層の厚みをめっき被膜厚みの20%以下とすることにより、めっき鋼板の曲げ加工性が改善される。これは、界面合金層のめっき被膜表面側、すなわち界面合金層最上層、の粒子が微細化し、界面合金層のめっき被膜側表面が平滑化し、硬質であるAl−Zn共晶組織の生成が抑制されるため、曲げ加工性が改善されるものと考えられる。
【0020】
界面合金層の厚みがめっき被膜厚みの20%を超えて厚くなると、界面合金層のめっき被膜表面側、すなわち最上層の凹凸が大きくなり、粗大な界面合金層粒子が成長する。この粗大な界面合金層粒子からはクラック伝播経路となりやすいAl−Zn 共晶組織がめっき被膜表面に向かって成長しやすく、めっき鋼板の曲げ加工性劣化の要因となる。また、界面合金層の厚みが、めっき被膜厚みの20%を超えて厚くなると、界面合金層から粗大なθ粒子と考えられる針状の粗大粒子が生成しやすくなる。このθ相は硬くて脆いため、クラック伝播経路となりやすく、めっき鋼板の曲げ加工性劣化の要因となる。なお、界面合金層の厚みは、めっき被膜厚みの5%以上とすることが好ましい。界面合金層の厚みがめっき被膜厚みの5%未満では、デンドライト領域間のインターデンドライト領域でのSi析出物の析出を抑制することが難しくなる。
【0021】
界面合金層の厚みがめっき被膜厚みの20%を超えて厚いめっき被膜を有する溶融Al−Zn系合金めっき鋼板(界面合金層厚み:26%)について、めっき被膜の断面と界面合金層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果(SEM写真)の一例を図2に示す。図2(a)はめっき被膜の断面を示し、(b)は界面合金層の表面を示す。界面面合金層の表面は、めっき被膜の上層を10%ヨウ素−エタノール溶液で溶解して界面合金層を露出させた後、SEM観察した。なお、このめっき鋼板ではめっき被膜中のSi含有量は0.82mass%である。
【0022】
図2から、めっき被膜には、5μm 以上の粗大な界面合金層の粒子(図中aで示す)が多数観察され、界面合金層の表面が大きな凹凸を示している。図2(a)からわかるように、この粗大粒子aからは、クラックの伝播経路となるAl−Zn共晶組織(白斑状の組織)がめつき層の表面に向かって成長している。さらに従来の溶融Al−Zn系合金めっき層には存在しなかった針状の粗大粒子(bで示す)も観察される。針状の粗大粒子bは、組成を示すコントラストが界面合金層とほぼ同じであり、また、界面合金層を露出させてX線回折パターンを測定すると、τ5c(FeAl4Si0.2 ) とθ(FeAl3 )しか検出されず、また、結晶形状から、この針状の粗大粒子bは、θ(FeAl3 )相粒子であると推定される。このθ相はτ5cと同様に、硬くて脆いため、めっき被膜に存在するとクラックの伝播経路となやすく、めっき鋼板の曲げ加工性が劣化するものと推察される。
【0023】
次に本発明の溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法について説明する。
本発明では、めっき原板とする鋼板は、通常の方法で製造された鋼板、例えば、低炭素アルミキルド鋼板、極低炭素鋼板などの熱延板、冷延板から用途に応じ適宜選択して利用できる。
めっき原板である鋼板は、好ましくは表面を電解脱脂、酸洗等により洗浄され、再結晶を兼ねた熱処理を施された後、めっき浴に浸漬され、表面にめっき被膜を形成される。本発明では、鋼板を浸漬するめっき浴は、溶融Al−Zn 系合金めっき浴とする。溶融Al−Zn 系合金めっき浴は、溶融Al−Zn 系合金めっき被膜がAlを30〜70mass%、Siを0.1 〜1.0mass %、SrをSi含有量の0.5 〜2%含有し、残部が実質的にZnである組成となるように、調整した溶融めっき浴である。この溶融めっき浴組成に加えてさらに、Mgを含有しても何ら問題はない。
【0024】
本発明では、溶融めっき浴の温度 (浴温)は、600 ℃以下とする。浴温が600 ℃を超えて高くなると、他の要因を変化させても、めっき被膜中の界面合金層の厚みをめっき被膜厚みの20%以下に調整することができない。
また、本発明では、鋼板がめっき浴へ侵入する際の板温(侵入板温)を、600 ℃以下とする。侵入板温が600 ℃を超えて高くなると、めっき被膜中の界面合金層厚みのばらつきが大きくなり、これに起因してスパングルサイズのムラが発生しやすくなる。なお、侵入板温は、浴温より5℃以上低くすることが、界面合金層厚みの平坦化の観点から好ましい。
【0025】
上記しためっき条件で、鋼板 (めっき原板)表面に溶融Al−Zn系合金めっき処理を施したのち、溶融めっき浴から引き上げ、冷却し、溶融Al−Zn合金めっき層を形成する。冷却は、めっき浴から引き上げ 540℃までの冷却速度を20℃/s以上とする。540 ℃までの冷却速度が20℃/s未満では、界面合金層厚みを所定範囲の厚みに調整することが困難となる。540 ℃までの冷却速度が20℃/s以上とするには、ガス冷却、ミスト冷却等の方法があり、いずれも好適に利用できる。540 ℃以下の冷却条件はとくに限定する必要はなく、空冷等通常の冷却方法で何ら問題はない。めっき鋼板は、冷却後コイル状に巻き取られる。
【0026】
なお、めっき被膜を形成したのちコイル状に巻き取る前の冷却途中で、滞留処理を施してもよい。滞留処理は、冷却途中の、 170〜 250℃の温度範囲を60s以下の徐冷、または短時間保持 (滞留)させる処理である。この滞留処理により、曲げ加工性がさらに改善される。短時間保持は、例えば、コイル巻き取り直前にオーブンを設置して、 170〜 250℃の温度範囲に60s以下加熱する方法としてもよい。
【0027】
上記した本発明の溶融Al−Zn 系合金めっき鋼板の製造設備としては、従来から用いられている連続焼鈍ライン、めっき浴、冷却設備、コイル巻き取り設備があればよい。
このようにして製造されためっき層を有する溶融Al−Zn 系合金めっき鋼板に化成処理を施し、化成処理層を形成し、その上に、プライマ−処理により形成されたプライマ−層を介して、あるいは化成処理層の上に直接に有機塗装処理を施し、有機塗膜層を形成し、塗装溶融Al−Zn 合金めっき鋼板とすることができる。これらの手段は、通常の塗装鋼板、PCM を製造するのに採用されているものを用いればよい。
【0028】
すなわち、化成処理としては通常のクロメ−ト処理、燐酸塩処理などを用いることができ、プライマー層は、エポキシ樹脂、ポリエステル、変成ポリエステル、変成エポキシ樹脂等に必要に応じて防錆顔料(たとえばジンククロメート、クロム酸ストロンチウム、クロム酸バリウム等)、硬化剤(メラミン、イソシアネート樹脂等)を混じたもの(プライマー)を塗布することによって得ることができる。また、有機塗膜層は、一般に知られているポリエステル系塗料、フッ素樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、塩化ビニル塩ビニル系塗料、シリコーン系塗料等の上塗り塗料を適当量塗布・焼き付けすることによって得ることができる。なお、プライマーに着色顔料を適宜添加すること、あるいは上塗り塗料に種々の着色顔料や体質顔料を添加して、高加工性を持つ有機塗膜層とすることも可能である。また、これら塗料の塗布厚さ、塗布方法(スプレー塗装、ロールコーティング、はけ塗り等)も通常のPCM で採用されている程度で十分である。
【0029】
なお、上記化成処理、プライマー処理、有機塗装処理における焼付け(乾燥)条件は過時効処理に必要な条件(130 〜260 ℃、30秒以上)を満足することが好ましく、かかる場合には、スキンパス圧廷後、連続して塗装工程に移行できる。また、このようにして製造されためっき層を有する溶融Al−Zn系合金めっき鋼板に潤滑被覆を施し、潤滑被覆層を形成することができる。この潤滑被覆層を構成する樹脂としては、公知の樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂等を用いることができ、潤滑剤としてはポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂、シリコーン系樹脂のほかステアリン酸、オレフィン酸等の脂肪酸やそれらのエステル類を利用できる。また、潤滑被覆層には防錆顔料としてクロム酸系の防錆剤(ジンククロメート、クロム酸ストロンチウム、クロム酸バリウム等)や燐酸塩系防錆剤、モリブテン酸系防錆剤、ホウ酸塩系防錆剤等の非クロム酸系防錆剤を配合することができる。
【0030】
これらの樹脂、潤滑剤及び防錆剤を目的に応じて配合し、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板に塗布することができる。樹脂に対する潤滑剤の配合割合は、適正な潤滑剤を付与する観点から質量比で0.1 〜5%とするのがよい。また、防錆顔料の配合割合は質量比で樹脂に対して0.2 〜5%とするのがよい。さらに潤滑被覆層の厚さは0.5 〜10μm とするのがよい。潤滑被覆層の厚さが薄すぎると耐食性が劣り、一方、厚すぎると潤滑被膜層そのものの加工性が劣化するからである。
【0031】
【実施例】
mass%で、C:0.040 %、Si:0.01%、Mn:0.18%、P:0.018 %、S:0.007 %、Al:0.014 %を含有する鋼板(板厚:0.8mm 、低炭素Alキルド鋼冷延板)を、連続溶融めっき設備により、表1に示す侵入板温となるように加熱したのち、表1に示す浴温( 580〜 610℃)の溶融Al−Zn系合金めっき浴に1秒間浸漬し、鋼板表面に溶融Al−Zn系合金めっき被膜を形成した。なお、めっき被膜厚は、めっき浴から引き上げ、ガスワイピングにより両面付着量が 180g/m2となるように調整した。溶融Al−Zn系合金めっき浴は、99.99 %Zn、99.99 %Al、15%Si−Al母合金および10%Sr−Al母合金、10%Cr−Al合金、2%V−Zn合金を適宜使用し、表1に示すめっき被膜組成となるように浴組成を調整した。
【0032】
ついで鋼板は、めっき浴から引き上げられ、冷却設備により、板温をめっき浴温から 540℃までを表1に示す冷却速度で冷却した。なお、冷却速度は、冷却装置に取り付けた放射温度計で板温を測定し、調整した。
なお、一部の鋼板には、540 ℃から230 ℃までを平均30℃/sで冷却したのち、230 〜180 ℃を約5℃/sで徐冷する滞留処理を施した。滞留処理を行わない鋼板は、540 ℃から150 ℃までを平均30℃/sで冷却した。
【0033】
冷却後、テンションレベラーで平滑化した後、コイル状に巻き取り、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板とした。
得られた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板について、めっき被膜の組成および界面合金層厚さを含むめっき被膜厚さ、表面性状、曲げ加工性を調査した。
めっき被膜の組成は、めっき被膜を溶解しICP発光分光分析法を用いて測定した。また、めっき被膜と界面合金層の厚さは、各鋼板について、5箇所から試料を採取し、幅方向断面について、走査型電子顕微鏡で組織を観察し、各視野におけるめっき被膜厚さ、界面合金層厚さをそれぞれ測定し、それらの平均値をその鋼板の値とした。
【0034】
また、得られためっき鋼板の表面外観を目視により観察し、スパングルサイズのムラを評価した。スパングルサイズのムラが全くない場合を◎、ほとんど認められない場合を○、わずかに認められる場合を△、明瞭に認められる場合を×として評価した。また、得られためっき鋼板について、触針式粗さ計により、JIS B 0601の規定に準拠して表面粗さを測定し、Ra (μm )、Rv (μm )を求めた。なお、測定領域は15×15mm2 とした。
【0035】
また、得られためっき鋼板について、JIS Z 2248の規定に準拠して2t曲げ試験を実施し、2t曲げのクラック占有面積率を測定し、曲げ加工性を評価した。2t曲げ加工部のクラックを、走査型電子顕微鏡を用いて50倍の反射電子像を撮影し、曲げ線を挟む幅1mm長さ5mmの範囲を画像処理して2t曲げクラック占有面積率を算出した。
【0036】
得られた結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
本発明例はいずれも、Ra:0.90μm 以下、Rv :9.00μm 以下と表面は平坦であり、さらにスパングルサイズのムラがない優れた表面外観を有し、しかも2t曲げクラック占有面積率は3%以下と曲げ加工性にも優れためっき鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、表面外観が低下するか、および/または曲げ加工性が劣化している。
【0039】
【発明の効果】
本発明によれば、表面外観と曲げ加工性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板が、煩雑な浴管理を行なう必要もなく容易にしかも、インラインで生産性高く安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。本発明では、特別な設備を必要とすることなく、従来の連続めっき設備を利用して製造できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】Si含有量の異なる溶融Al−Zn系合金めっき鋼板のめっき被膜断面の走査型電子顕微鏡組織写真の比較である。
【図2】界面合金層の厚みがめつき被膜厚の20%超であるめっき被膜を有するめっき鋼板の、(a)はめっき被膜断面の走査型電子顕微鏡組織写真であり、(b)は界面合金層表面の走査型電子顕微鏡組織写真である。
Claims (2)
- 表面に溶融Al−Zn系合金めっき被膜を形成してなる溶融Al−Zn系合金めっき鋼板であって、前記溶融Al−Zn系合金めっき被膜がAlを30〜70mass%、Siを0.1 〜1.0 mass%、SrをSi含有量の0.5 〜2%含有する組成と、少なくともデンドライト領域と、界面合金層とを含む組織を有し、該界面合金層の厚みが、前記溶融Al−Zn系合金めっき被膜の厚みの20%以下であることを特徴とする表面外観および曲げ加工性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板。
- 鋼板を溶融Al−Zn 系合金めっき浴に浸漬し表面に溶融Al−Zn系合金めっき被膜を形成する溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法において、前記溶融Al−Zn 系合金めっき浴を、溶融Al−Zn系合金めっき被膜がAlを30〜70 mass%、Siを0.1 〜1.0mass %、SrをSi含有量の0.5 〜2%含有する組成となるように, 調整し、浴温が 600℃以下としためっき浴とし、前記鋼板の該溶融Al−Zn系合金めっき浴への侵入板温を 600℃以下として、前記鋼板を前記溶融Al−Zn系合金めっき浴に浸漬後引き上げ540 ℃までを20℃/s以上で冷却することを特徴とする表面外観および曲げ加工性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
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JP2002076496A JP3599716B2 (ja) | 2002-03-19 | 2002-03-19 | 表面外観および曲げ加工性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板およびその製造方法 |
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