JP3599356B2 - エレクトロルミネッセンス素子 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、例えば、計器類のバックライト用の面発光源などに使用されるエレクトロルミネッセンス(Electroluminescence)素子(以下、EL素子という)に関する。
【0002】
【従来技術】
従来、EL素子は、硫化亜鉛(ZnS)等の蛍光体に電界を印加したときに発光する現象を利用したもので、自発光型の平面ディスプレイを構成するものとして注目されている。
図5は、従来のEL素子10の典型的な断面構造を示した模式図である。
EL素子10は、絶縁性基板であるガラス基板1上に、光学的に透明なITO膜から成る第1電極2、五酸化タンタル(Ta2O5)などから成る第1絶縁層3、発光層4、第2絶縁層5及びITO膜から成る第2電極6を順次積層して形成されている。
ITO(Indium Tin Oxide)膜は、酸化インジウム(In2O3)に錫(Sn)をドープした透明の導電膜で、低抵抗率であることから従来より透明電極用として広く使用されている。
発光層4としては、例えば、硫化亜鉛を母体材料とし、発光中心としてマンガン(Mn)やテルビウム(Tb)を添加したものが使用される。
EL素子の発光色は、硫化亜鉛中の添加物の種類によって決まり、例えば、発光中心としてマンガン(Mn)を添加した場合には黄橙色、テルビウム(Tb)を添加した場合には緑色の発光が得られる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述の構造から成るEL素子10において、発光層4の構成材料として、赤色発光を得るため発光中心としてサマリウム(Sm)や青色発光を得るため発光中心としてツリウム(Tm)を添加した硫化亜鉛(ZnS)等が検討されている。
通常、希土類元素からのEL発光は、電子配置における軌道のうち4f内殻準位間の電子遷移によるものである。例えば、サマリウム(Sm)を硫化亜鉛(ZnS)に添加したときに得られる赤色発光は、4G5/2準位→6H7/2準位間(610nm発光)及び4G5/2準位→6H9/2準位間(655nm発光)の電子遷移によるものである。
一般に、これらの準位間の電子遷移は禁制遷移(スピン−軌道相互作用を考慮しないとき遷移モーメントが0)であり、遷移確率は低いものである。希土類元素の4f内殻準位の場合、スピン−軌道相互作用及び結晶場との相互作用によって禁制が解け、ある程度の遷移が可能となる。しかし、本来、希土類元素の4f内殻準位は禁制遷移であるため高い遷移確率が得られないため希土類を添加した硫化亜鉛から成る発光層を有するEL素子においても高い発光輝度は得られていない。
【0004】
一方、発光層4に発光中心として希土類元素を添加する場合、フッ素(F)又は塩素(Cl)等のハロゲン元素を同時に添加すると、発光輝度が向上することが知られている。
この場合発光中心の原料として、例えば、三塩化サマリウム(SmCl3) 、三フッ化ツリウム(TmF3)等が用いられる。
しかしながら、これらのハロゲン化希土類元素を添加して発光層4を形成しても、EL素子10の発光輝度は、最大でも赤色発光に関して1000cd/m2(5KHz 駆動)、青色発光に関して10cd/m2(5KHz 駆動)と非常に低く、現状ではELパネル等の表示器としては実用性に乏しいものである。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、高輝度なEL素子を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための発明の構成における第1の特徴は、絶縁性基板上に第1電極、第1絶縁層、発光層、第2絶縁層及び第2電極を、少なくとも光取り出し側の材料を光学的に透明なものにて順次積層したエレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層は発光中心として希土類元素と塩素(Cl)とを添加した母体材料をII−VI族化合物とする半導体薄膜から成り、塩素(Cl)が前記希土類元素の近傍のVI族元素の格子位置に置換されることにより、前記希土類元素の発光スペクトルのピーク中心波長を含む波長幅10nmの範囲内に複数のピーク分裂スペクトルを有し、前記発光層は、前記 II 族元素、前記 VI 族元素、前記希土類元素、塩素(Cl)を各々別個の化学物質として導入することにより形成されることである。
【0007】
又、第2の特徴は、第1の特徴に加えて、前記半導体薄膜は、硫化亜鉛(ZnS)であることである。
【0008】
又、第3の特徴は、第1又は第2の特徴に加えて、前記希土類元素は、サマリウム(Sm)であることである。
【0009】
又、第4の特徴は、発光層をMOCVD法により形成したことである。
【0010】
【作用及び効果】
本発明は、EL素子において、発光中心として希土類元素とハロゲン元素とを添加した母体材料をII−VI族化合物とする半導体薄膜から成る発光層を形成する場合、上記ハロゲン元素を母体材料のうちのVI族元素の格子位置に置換すると共に希土類元素の近傍に位置させる。これにより、発光中心の周りの結晶対称性が低下し、希土類元素の電子配位における軌道のうち4f内殻準位に結晶場との相互作用を生じ、そのエネルギー準位が分裂するという発明者等の見出した実験的結果に基づいた技術的手段を採用している。
上記EL素子の構造は、ハロゲン元素が塩素(C l) であることにより達成できる。或いは、発光層の形成に際して、II族元素、VI族元素、希土類元素及びハロゲン元素を別々に供給することにより達成できる。
本来、禁制遷移である希土類元素の4f内殻準位間の電子遷移が、結晶場との相互作用を通して可能となり、電子の遷移確率が高くなる。これにより、EL素子は希土類元素の発光スペクトルのピーク中心波長を含む波長幅10nmの範囲内に複数のピーク分裂スペクトルを有することとなり、EL発光強度が著しく増大する。
このように、本発明のEL素子においては、電子の遷移確率を増大させ、希土類元素の4f内殻準位間の発光を効率的に行うことが可能となる。このため、従来、実用的な発光輝度に達していない発光色を呈するEL素子においても、著しく発光輝度の高いものを形成することが可能となる。
【0011】
【実施例】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るEL素子100の断面構造を示した模式図である。
尚、図1のEL素子100では、矢印方向に光を取り出している。
EL素子100は、絶縁性基板であるガラス基板11上に順次、以下の薄膜が積層形成され構成されている。尚、以下各層の膜厚はその中央部分を基準として述べてある。
ガラス基板11上には、光学的に透明な酸化亜鉛(ZnO)から成る第1透明電極(第1電極)12が形成され、その上面には光学的に透明な五酸化タンタル(Ta2O5)から成る第1絶縁層13、発光中心としてサマリウム(Sm)及び塩素(Cl)を添加した母体材料が硫化亜鉛(ZnS)から成る発光層14、光学的に透明な五酸化タンタル(Ta2O5)から成る第2絶縁層15、光学的に透明な酸化亜鉛(ZnO)から成る第2透明電極(第2電極)16が形成されている。
【0012】
次に、上述の薄膜EL素子100の製造方法を以下に述べる。
先ず、ガラス基板11上に第1透明電極12を成膜した。
蒸着材料としては、酸化亜鉛(ZnO)粉末に酸化ガリウム(Ga2O3)を加えて混合し、ペレット状に成形したものを用い、成膜装置としてはイオンプレーティング装置を用いた。
具体的には、上記ガラス基板11の温度を一定に保持したままイオンプレーティング装置内を真空に排気した。その後、アルゴン(Ar)ガスを導入して圧力を一定に保ち、成膜速度が 6〜18nm/minの範囲となるようビーム電力及び高周波電力を調整した。
【0013】
次に、上記第1透明電極12上に、五酸化タンタル(Ta2O5)から成る第1絶縁層13をスパッタ法により形成した。
具体的には、上記ガラス基板11の温度を一定に保持し、スパッタ装置内にアルゴン(Ar)と酸素(O2)の混合ガスを導入し、1KWの高周波電力で成膜を行った。
【0014】
上記第1絶縁層13上に、II−VI族化合物の硫化亜鉛(ZnS)を母体材料とし、発光中心として希土類元素のサマリウム(Sm)及びハロゲン元素の塩素(Cl)を添加した発光層14を、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長)法により形成した。
具体的には、上記ガラス基板11を 450℃に保持し、反応室内を減圧雰囲気下にした後、水素キャリヤガスを用いてジエチル亜鉛(Zn(C2H5)2)及び水素希釈した硫化水素(H2S)を流した。又、発光中心の希土類元素の添加のために、トリジピバロイルメタン化サマリウム(Sm(DPM)3)を反応室へ導入した。この時、トリジピバロイルメタン化サマリウム(Sm(DPM)3)ソースの温度を 150℃以上に加熱し、キャリヤガスとして水素(H2)を用いた。更に、ハロゲン元素の添加のために、塩化水素(HCl)ガスを水素(H2)で希釈し、この混合ガスを反応室内に導入した。そして、反応室の全圧力を一定に維持し、発光層14を形成した。
この時、サマリウム(Sm)及び塩素(Cl)の硫化亜鉛(ZnS)膜中の濃度は共に 0.2at%であることが、EPMA(Electron Probe Micro Anarysis:電子線微量分析)により確認された。
【0015】
次に、上記発光層14上に、五酸化タンタル(Ta2O5)から成る第2絶縁層15を上述の第1絶縁層13と同様の方法で形成した。そして、酸化亜鉛(ZnO)膜から成る第2透明電極16を上述の第1透明電極12と同様の方法により、第2絶縁層15上に形成した。
各層の膜厚は、第1透明電極12及び第2透明電極16が 300nm、第1絶縁層13及び第2絶縁層15が 400nm、発光層14が 600nmである。
【0016】
図2は、本実施例に係るEL素子の室温でのEL発光スペクトル(波長(nm)に対するEL発光強度(任意単位))を示した特性図である。
尚、上述の実施例に基づくEL素子の特性を本発明品(I) として実線、ハロゲン元素の添加なしのEL素子の特性を比較品(II)として点線にて示した。この比較品(II)は、上述の実施例の製造方法において塩化水素(HCl)ガスを反応室に導入しなかったものである。
本発明品(I) と比較品(II)とには、希土類元素であるサマリウム(Sm)の4f準位の発光スペクトルのピーク中心波長(P1,P2,P3)が認められる。ここで、ピーク中心波長P1,P2,P3は各々 570nm, 610nm, 655nm付近にある。更に、本発明品(I) では、ピーク中心波長(P1,P2,P3)の各々に対して、複数のピーク分裂スペクトル(P1a・P1b,P2a・P2b,P3a・P3b)が認められる。
上記ピーク分裂スペクトルは、ピーク中心波長(P1,P2,P3)を含んで、それぞれ波長幅10nmの範囲内に人の目で数えられる程度に複数に分裂している。
又、このピーク分裂スペクトルは、ハロゲン元素である塩素(Cl)が母体材料のVI族元素である硫黄(S)の格子位置を置換し、且つ、サマリウム(Sm)の近傍に位置し、サマリウム(Sm)の4f準位の結晶場分裂を起こしていることを示したものである。
このように本発明品(I) は、比較品(II)と比べて、複数のピーク分裂スペクトルを有するため面積が大きくなり(実線(I) の下側の面積と点線(II)の下側の面積とを比較して)発光強度も著しく増加している。
【0017】
更に、図3は、本実施例に係るEL素子の室温でのフォトルミネッセンス(PL)スペクトル(波長(nm)に対するPL発光強度(任意単位))を示した特性図である。
このスペクトルにおいて、 460nmを中心としたブロードな(幅の広い)発光ピークが認められる。この発光は、母体材料である硫化亜鉛(ZnS)の硫黄(S
)の格子位置に置換した塩素(Cl)と亜鉛(Zn)空孔に関係したものである。従って、この発光の観測により、本実施例により作成したEL素子の発光層では、塩素(Cl)が確実に硫黄(S)に置換していることが確認された。
【0018】
又、図4は、本実施例に係るEL素子の印加電圧(任意単位)に対する発光輝度(任意単位)を示した特性図である。
尚、図では、上述の実施例に基づくEL素子の特性を本発明品、ハロゲン元素の添加なしのEL素子の特性を比較品として示した。この比較品は、図2と同様に、上述の実施例の製造方法において塩化水素(HCl)ガスを反応室に導入しなかったものである。
本実施例により作成したEL素子では、発光輝度の最高値がハロゲン元素の添加なしのEL素子に較べて約1ケタ向上すると共に発光の立ち上がり特性も急峻となった。このように、本発明のEL素子は著しく高輝度なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の具体的な一実施例に係るEL素子の断面構造を示した模式図である。
【図2】同実施例に係るEL素子のEL発光スペクトルを示した特性図である。
【図3】同実施例に係るEL素子のフォトルミネッセンススペクトルを示した特性図である。
【図4】同実施例に係るEL素子の印加電圧に対する発光輝度を示した特性図である。
【図5】従来のEL素子の断面構造を示した模式図である。
【符号の説明】
11…ガラス基板(絶縁性基板)
12…第1透明電極(第1電極)
13…第1絶縁層
14…発光層
15…第2絶縁層
16…第2透明電極(第2電極)
100…EL素子(エレクトロルミネッセンス素子)
【産業上の利用分野】
本発明は、例えば、計器類のバックライト用の面発光源などに使用されるエレクトロルミネッセンス(Electroluminescence)素子(以下、EL素子という)に関する。
【0002】
【従来技術】
従来、EL素子は、硫化亜鉛(ZnS)等の蛍光体に電界を印加したときに発光する現象を利用したもので、自発光型の平面ディスプレイを構成するものとして注目されている。
図5は、従来のEL素子10の典型的な断面構造を示した模式図である。
EL素子10は、絶縁性基板であるガラス基板1上に、光学的に透明なITO膜から成る第1電極2、五酸化タンタル(Ta2O5)などから成る第1絶縁層3、発光層4、第2絶縁層5及びITO膜から成る第2電極6を順次積層して形成されている。
ITO(Indium Tin Oxide)膜は、酸化インジウム(In2O3)に錫(Sn)をドープした透明の導電膜で、低抵抗率であることから従来より透明電極用として広く使用されている。
発光層4としては、例えば、硫化亜鉛を母体材料とし、発光中心としてマンガン(Mn)やテルビウム(Tb)を添加したものが使用される。
EL素子の発光色は、硫化亜鉛中の添加物の種類によって決まり、例えば、発光中心としてマンガン(Mn)を添加した場合には黄橙色、テルビウム(Tb)を添加した場合には緑色の発光が得られる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述の構造から成るEL素子10において、発光層4の構成材料として、赤色発光を得るため発光中心としてサマリウム(Sm)や青色発光を得るため発光中心としてツリウム(Tm)を添加した硫化亜鉛(ZnS)等が検討されている。
通常、希土類元素からのEL発光は、電子配置における軌道のうち4f内殻準位間の電子遷移によるものである。例えば、サマリウム(Sm)を硫化亜鉛(ZnS)に添加したときに得られる赤色発光は、4G5/2準位→6H7/2準位間(610nm発光)及び4G5/2準位→6H9/2準位間(655nm発光)の電子遷移によるものである。
一般に、これらの準位間の電子遷移は禁制遷移(スピン−軌道相互作用を考慮しないとき遷移モーメントが0)であり、遷移確率は低いものである。希土類元素の4f内殻準位の場合、スピン−軌道相互作用及び結晶場との相互作用によって禁制が解け、ある程度の遷移が可能となる。しかし、本来、希土類元素の4f内殻準位は禁制遷移であるため高い遷移確率が得られないため希土類を添加した硫化亜鉛から成る発光層を有するEL素子においても高い発光輝度は得られていない。
【0004】
一方、発光層4に発光中心として希土類元素を添加する場合、フッ素(F)又は塩素(Cl)等のハロゲン元素を同時に添加すると、発光輝度が向上することが知られている。
この場合発光中心の原料として、例えば、三塩化サマリウム(SmCl3) 、三フッ化ツリウム(TmF3)等が用いられる。
しかしながら、これらのハロゲン化希土類元素を添加して発光層4を形成しても、EL素子10の発光輝度は、最大でも赤色発光に関して1000cd/m2(5KHz 駆動)、青色発光に関して10cd/m2(5KHz 駆動)と非常に低く、現状ではELパネル等の表示器としては実用性に乏しいものである。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、高輝度なEL素子を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための発明の構成における第1の特徴は、絶縁性基板上に第1電極、第1絶縁層、発光層、第2絶縁層及び第2電極を、少なくとも光取り出し側の材料を光学的に透明なものにて順次積層したエレクトロルミネッセンス素子であって、前記発光層は発光中心として希土類元素と塩素(Cl)とを添加した母体材料をII−VI族化合物とする半導体薄膜から成り、塩素(Cl)が前記希土類元素の近傍のVI族元素の格子位置に置換されることにより、前記希土類元素の発光スペクトルのピーク中心波長を含む波長幅10nmの範囲内に複数のピーク分裂スペクトルを有し、前記発光層は、前記 II 族元素、前記 VI 族元素、前記希土類元素、塩素(Cl)を各々別個の化学物質として導入することにより形成されることである。
【0007】
又、第2の特徴は、第1の特徴に加えて、前記半導体薄膜は、硫化亜鉛(ZnS)であることである。
【0008】
又、第3の特徴は、第1又は第2の特徴に加えて、前記希土類元素は、サマリウム(Sm)であることである。
【0009】
又、第4の特徴は、発光層をMOCVD法により形成したことである。
【0010】
【作用及び効果】
本発明は、EL素子において、発光中心として希土類元素とハロゲン元素とを添加した母体材料をII−VI族化合物とする半導体薄膜から成る発光層を形成する場合、上記ハロゲン元素を母体材料のうちのVI族元素の格子位置に置換すると共に希土類元素の近傍に位置させる。これにより、発光中心の周りの結晶対称性が低下し、希土類元素の電子配位における軌道のうち4f内殻準位に結晶場との相互作用を生じ、そのエネルギー準位が分裂するという発明者等の見出した実験的結果に基づいた技術的手段を採用している。
上記EL素子の構造は、ハロゲン元素が塩素(C l) であることにより達成できる。或いは、発光層の形成に際して、II族元素、VI族元素、希土類元素及びハロゲン元素を別々に供給することにより達成できる。
本来、禁制遷移である希土類元素の4f内殻準位間の電子遷移が、結晶場との相互作用を通して可能となり、電子の遷移確率が高くなる。これにより、EL素子は希土類元素の発光スペクトルのピーク中心波長を含む波長幅10nmの範囲内に複数のピーク分裂スペクトルを有することとなり、EL発光強度が著しく増大する。
このように、本発明のEL素子においては、電子の遷移確率を増大させ、希土類元素の4f内殻準位間の発光を効率的に行うことが可能となる。このため、従来、実用的な発光輝度に達していない発光色を呈するEL素子においても、著しく発光輝度の高いものを形成することが可能となる。
【0011】
【実施例】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るEL素子100の断面構造を示した模式図である。
尚、図1のEL素子100では、矢印方向に光を取り出している。
EL素子100は、絶縁性基板であるガラス基板11上に順次、以下の薄膜が積層形成され構成されている。尚、以下各層の膜厚はその中央部分を基準として述べてある。
ガラス基板11上には、光学的に透明な酸化亜鉛(ZnO)から成る第1透明電極(第1電極)12が形成され、その上面には光学的に透明な五酸化タンタル(Ta2O5)から成る第1絶縁層13、発光中心としてサマリウム(Sm)及び塩素(Cl)を添加した母体材料が硫化亜鉛(ZnS)から成る発光層14、光学的に透明な五酸化タンタル(Ta2O5)から成る第2絶縁層15、光学的に透明な酸化亜鉛(ZnO)から成る第2透明電極(第2電極)16が形成されている。
【0012】
次に、上述の薄膜EL素子100の製造方法を以下に述べる。
先ず、ガラス基板11上に第1透明電極12を成膜した。
蒸着材料としては、酸化亜鉛(ZnO)粉末に酸化ガリウム(Ga2O3)を加えて混合し、ペレット状に成形したものを用い、成膜装置としてはイオンプレーティング装置を用いた。
具体的には、上記ガラス基板11の温度を一定に保持したままイオンプレーティング装置内を真空に排気した。その後、アルゴン(Ar)ガスを導入して圧力を一定に保ち、成膜速度が 6〜18nm/minの範囲となるようビーム電力及び高周波電力を調整した。
【0013】
次に、上記第1透明電極12上に、五酸化タンタル(Ta2O5)から成る第1絶縁層13をスパッタ法により形成した。
具体的には、上記ガラス基板11の温度を一定に保持し、スパッタ装置内にアルゴン(Ar)と酸素(O2)の混合ガスを導入し、1KWの高周波電力で成膜を行った。
【0014】
上記第1絶縁層13上に、II−VI族化合物の硫化亜鉛(ZnS)を母体材料とし、発光中心として希土類元素のサマリウム(Sm)及びハロゲン元素の塩素(Cl)を添加した発光層14を、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長)法により形成した。
具体的には、上記ガラス基板11を 450℃に保持し、反応室内を減圧雰囲気下にした後、水素キャリヤガスを用いてジエチル亜鉛(Zn(C2H5)2)及び水素希釈した硫化水素(H2S)を流した。又、発光中心の希土類元素の添加のために、トリジピバロイルメタン化サマリウム(Sm(DPM)3)を反応室へ導入した。この時、トリジピバロイルメタン化サマリウム(Sm(DPM)3)ソースの温度を 150℃以上に加熱し、キャリヤガスとして水素(H2)を用いた。更に、ハロゲン元素の添加のために、塩化水素(HCl)ガスを水素(H2)で希釈し、この混合ガスを反応室内に導入した。そして、反応室の全圧力を一定に維持し、発光層14を形成した。
この時、サマリウム(Sm)及び塩素(Cl)の硫化亜鉛(ZnS)膜中の濃度は共に 0.2at%であることが、EPMA(Electron Probe Micro Anarysis:電子線微量分析)により確認された。
【0015】
次に、上記発光層14上に、五酸化タンタル(Ta2O5)から成る第2絶縁層15を上述の第1絶縁層13と同様の方法で形成した。そして、酸化亜鉛(ZnO)膜から成る第2透明電極16を上述の第1透明電極12と同様の方法により、第2絶縁層15上に形成した。
各層の膜厚は、第1透明電極12及び第2透明電極16が 300nm、第1絶縁層13及び第2絶縁層15が 400nm、発光層14が 600nmである。
【0016】
図2は、本実施例に係るEL素子の室温でのEL発光スペクトル(波長(nm)に対するEL発光強度(任意単位))を示した特性図である。
尚、上述の実施例に基づくEL素子の特性を本発明品(I) として実線、ハロゲン元素の添加なしのEL素子の特性を比較品(II)として点線にて示した。この比較品(II)は、上述の実施例の製造方法において塩化水素(HCl)ガスを反応室に導入しなかったものである。
本発明品(I) と比較品(II)とには、希土類元素であるサマリウム(Sm)の4f準位の発光スペクトルのピーク中心波長(P1,P2,P3)が認められる。ここで、ピーク中心波長P1,P2,P3は各々 570nm, 610nm, 655nm付近にある。更に、本発明品(I) では、ピーク中心波長(P1,P2,P3)の各々に対して、複数のピーク分裂スペクトル(P1a・P1b,P2a・P2b,P3a・P3b)が認められる。
上記ピーク分裂スペクトルは、ピーク中心波長(P1,P2,P3)を含んで、それぞれ波長幅10nmの範囲内に人の目で数えられる程度に複数に分裂している。
又、このピーク分裂スペクトルは、ハロゲン元素である塩素(Cl)が母体材料のVI族元素である硫黄(S)の格子位置を置換し、且つ、サマリウム(Sm)の近傍に位置し、サマリウム(Sm)の4f準位の結晶場分裂を起こしていることを示したものである。
このように本発明品(I) は、比較品(II)と比べて、複数のピーク分裂スペクトルを有するため面積が大きくなり(実線(I) の下側の面積と点線(II)の下側の面積とを比較して)発光強度も著しく増加している。
【0017】
更に、図3は、本実施例に係るEL素子の室温でのフォトルミネッセンス(PL)スペクトル(波長(nm)に対するPL発光強度(任意単位))を示した特性図である。
このスペクトルにおいて、 460nmを中心としたブロードな(幅の広い)発光ピークが認められる。この発光は、母体材料である硫化亜鉛(ZnS)の硫黄(S
)の格子位置に置換した塩素(Cl)と亜鉛(Zn)空孔に関係したものである。従って、この発光の観測により、本実施例により作成したEL素子の発光層では、塩素(Cl)が確実に硫黄(S)に置換していることが確認された。
【0018】
又、図4は、本実施例に係るEL素子の印加電圧(任意単位)に対する発光輝度(任意単位)を示した特性図である。
尚、図では、上述の実施例に基づくEL素子の特性を本発明品、ハロゲン元素の添加なしのEL素子の特性を比較品として示した。この比較品は、図2と同様に、上述の実施例の製造方法において塩化水素(HCl)ガスを反応室に導入しなかったものである。
本実施例により作成したEL素子では、発光輝度の最高値がハロゲン元素の添加なしのEL素子に較べて約1ケタ向上すると共に発光の立ち上がり特性も急峻となった。このように、本発明のEL素子は著しく高輝度なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の具体的な一実施例に係るEL素子の断面構造を示した模式図である。
【図2】同実施例に係るEL素子のEL発光スペクトルを示した特性図である。
【図3】同実施例に係るEL素子のフォトルミネッセンススペクトルを示した特性図である。
【図4】同実施例に係るEL素子の印加電圧に対する発光輝度を示した特性図である。
【図5】従来のEL素子の断面構造を示した模式図である。
【符号の説明】
11…ガラス基板(絶縁性基板)
12…第1透明電極(第1電極)
13…第1絶縁層
14…発光層
15…第2絶縁層
16…第2透明電極(第2電極)
100…EL素子(エレクトロルミネッセンス素子)
Claims (4)
- 絶縁性基板上に第1電極、第1絶縁層、発光層、第2絶縁層及び第2電極を、少なくとも光取り出し側の材料を光学的に透明なものにて順次積層したエレクトロルミネッセンス素子であって、
前記発光層は発光中心として希土類元素と塩素(Cl)とを添加した母体材料をII−VI族化合物とする半導体薄膜から成り、塩素(Cl)が前記希土類元素の近傍のVI族元素の格子位置に置換されることにより、前記希土類元素の発光スペクトルのピーク中心波長を含む波長幅10nmの範囲内に複数のピーク分裂スペクトルを有し、前記発光層は、前記 II 族元素、前記 VI 族元素、前記希土類元素、塩素(Cl)を各々別個の化学物質として導入することにより形成されることを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。 - 前記半導体薄膜は、硫化亜鉛(ZnS)であることを特徴とする請求項1記載のエレクトロルミネッセンス素子。
- 前記希土類元素は、サマリウム(Sm)であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のエレクトロルミネッセンス素子。
- 前記発光層はMOCVD法により形成したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
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