JP3598322B2 - ヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼ - Google Patents

ヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼ Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ヒトマンガンスーパーオキシドジスムターゼに関し、更に詳細には、ヒトマンガンスーパーオキシドジスムターゼ(ヒトMn−SOD)のペプチド配列を構成するアミノ酸の一部を置換することにより、他のアミノ酸に変異した新規なMn−SOD、該Mn−SODのアミノ酸配列をコードするDNA遺伝子、宿主細胞、該Mn−SODの製造法およびその用途に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
酸素は、生体にとって必須であり、紫外線、放射線などの外界因子などの作用を受けて生体内組織において種々の活性酸素種になることが知られている。通常の状態では、酸素の約1%が活性酸素の状態で存在しているといわれている。この活性酸素種は、生体内において、マクロファージなどの貪食作用によって、細菌などに対して直接作用して強力な殺菌効果を示し、生体内における感染防御機構として重要な役割を担っていると考えられる。
しかし、酸素も高濃度で生体内に存在すると、逆に生体にとって有害な影響を及ぼすことも知られている。このことも、生体組織内で酸素が還元されて生成された種々の活性酸素が作用することによるものと考えられている。
【0003】
活性酸素は、親水性環境よりも疎水性環境でのほうがその寿命が長く、他方、リン脂質の不飽和脂肪酸は活性酸素に対して極めて敏感に作用し、過酸化状態になりやすいことが知られている。従って、生体膜の不飽和脂肪酸は、過酸化反応を受けると過酸化脂質になり、この過酸化脂質が構造蛋白質などに作用して、細胞障害の原因になり、動脈硬化、老化、発癌などの有害な作用を及ぼしている。
この活性酸素は、生体が紫外線や放射線などに照射されることにより生成される。従って、日光、特に紫外線に露出される皮膚などの生体膜には、スクワランなどの不飽和脂肪酸が含まれる皮脂が存在することから、この不飽和脂肪酸が活性酸素の作用を受けて過酸化脂質になり、炎症、色素沈着、老化などの原因となっている。また、その過酸化脂質の量が著しく増加した場合には、メラミンの生成が促進され、メラミンの沈着を惹起すると推測されている。
更に、火傷や外傷などで皮膚が損傷を受けて皮膚細胞が直接空気と接触する場合には、その細胞膜では活性酸素が生成されて、この活性酸素が更に皮膚細胞中の不飽和脂肪酸に作用して過酸化脂質が生成されることになる。この過酸化脂質の形成が皮膚の損傷部位の治癒を遅らせる原因となっている。
上にも述べたように、最近、この活性酸素は、各種炎症性疾患や発癌、未熟児網膜症、老人性疾患などの原因の一つであるとの報告がなされている。さらには、免疫にも深い係わりがあると推定されている。
【0004】
ところで、酸素を呼吸して生活する生物(好気性生物)は、当然取入れた酸素を全身に供給することになり活性酸素も同時に供給されることになるが、こうして体内に入った活性酸素を酵素分解し消去しているのが各種のスーパーオキシドジスムターゼ(以後SODと呼称)である。従って、SODは好気性生物が生存を続けるのに必須の成分であると言える。実際、各種生物間の体内SOD量の濃度差はその生物の寿命と明白な相関関係があることが知られている。
また、局所的なSODの濃度の減少が上記した非常に多くの疾患を引き起こすことは数多くの文献にて報告されている。
【0005】
例えば、癌細胞ではマンガンスーパーオキシドジスムターゼ(Mn−SOD)の低下が著しいことが報告されている(大柳義彦:トキシコロジーフォーラム11巻(1)、62ー70、1988等)。
従って、SODは、局所的SODの濃度の減少によって起きる多くの疾患の原因療法として治療あるいは予防に用いられる可能性を秘めている。
【0006】
前述したような作用を有するスーパーオキシドジスムターゼ(以後SODと略称する)としては、例えば、マンガンーSOD(Mn−SOD)、銅亜鉛−SOD(CuZn−SOD)、鉄−SOD(Fe−SOD)等が挙げられる。
このうち、動物由来のSODをヒトに投与する場合には、抗原抗体反応に由来するような拒絶反応等の問題があるため、医薬として開発するには多くの困難が予想される。これに対して、ヒト由来のSODはかかる問題がない分だけ、医薬品として開発するに当たっては好ましい。
この意味で、Fe−SODは細菌および植物由来であるために不適当であるといえる。
しかしながら、ヒト由来のSODについても製造および供給面で極めて大きな問題があると同時にウィルス等の混入に起因する感染の心配などがある。従って、前記問題を解決する手段として遺伝子工学的手段によりヒト型SODを製造する試みがなされている。つまり、マンガンーSOD(Mn−SOD)と、銅亜鉛−SOD(CuZn−SOD)とについて、遺伝子工学的手法により製造が可能であるので、これらのSODについて薬剤、化粧品などへの応用の可能性が検討されている。また、銅亜鉛−SOD(CuZn−SOD)については、その寿命が短いために、医薬、化粧品などに応用する場合には、より体内半減期が長いMn−SODの方がより好ましいといえる。
【0007】
ところで、Mn−SODは、ヒトを含む動物には主として細胞中のミトコンドリアに多く含まれていて、その分子量が約20,000のペプチドよりなる4量体を形成していて、Mnイオンを各ペプチドあたり1個づつ含む金属蛋白質である。酵素活性には、このMnイオンが必須である。
Mn−SODは、CuZn−SODに比して体内半減期が約10倍も長いこと、さらにSODの代謝産物である過酸化水素に対して耐性であるため、CuZn−SODよりもMn−SODの方が薬剤としてより有用と考えられる。
【0008】
ところで、Mn−SODのアミノ酸配列については、ヒト型Mn−SODの全アミノ酸198個のうち、196個からなるアミノ酸配列が報告された[バラ等(Barra et al, J. Biol. Chem259, 12595−12601, 1984)]。
次いで、上記論文のアミノ酸配列を引用してDNAプローブを作製し、ヒトT細胞からMn−SODの全アミノ酸配列である198個のアミノ酸をコードするクローンが同定されたと開示されている(特開昭64ー27470号公報)。
【0009】
更に、特開昭64ー63383号公報には、ヒト型Mn−SODが記載されていて、そのうちのIVaと表示されたポリペプチド(野生株)に対応するものの等電点がpIが8. 15であったと記載されている。しかしながら、同公報に記載されたhMn−SODは、野生株の天然型Mn−SODに対して他のアミノ酸残基を何ら置換されたものではなく、更に同公報に記載されたDNA配列は、後述する本発明に係るヒト変異Mn−SODとは著しく異なっている。また、この等電点がどのような方法で測定されたのか一切不明であるうえに、文献[B.A. Omar & J.M. McCord: J. Mol Cell Cardiol 23, 149−159 (1991)] にも、このペプチドに該当するものの等電点が7. 4であると記載されているように、これまでのヒト型Mn−SODの等電点が通常7. 0から7. 4の間にあるとされていることをも勘案すれば、上述した等電点は通例に比べて余りにも高すぎて唐突過ぎると言わざるを得ない。
【0010】
また、ヒト型SODのアミノ酸配列のN末端部から3番目のアミノ酸SerがArgに変異したものが同定されたとの報告がある(S.L. Church: Biochimica et Biophysica Acta, 1087,250−252, 1990)。しかしながら、その後著者自身がこのアミノ酸配列は誤報であったとの訂正がなされている(S.L. Church: BBA, 1171, 341, 1993) 。
【0011】
ところで、Mn−SODは高分子であるため組織浸透性が良好とは言えない。一方、酸素ラジカルは、酸素が生体内中隙間なく分布するため何れの組織あるいは器官においても発生する。従って、体外より投与されたMn−SODが体内で治療あるいは予防作用を効果的に発揮するためには組織浸透性のよいことが要求される。
【0012】
しかしながら、従来のMnーSODをSOD欠乏に起因する各種の炎症性疾患、癌、未熟児網膜症、高血圧症、糖尿病等に対して投与した場合、もともと必要な局所に存在する内在性のSODと異なり、必要な局所に浸透せず治療効果は不充分であった。従って、組織浸透性の良いヒト型Mn−SODの開発が強く要望されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
前述したようにMn−SODは組織浸透性が良好でないといっても、CuZnを含むSODに比べると、Mn−SODはウサギの心筋組織への浸透能力が高いことが報告されている[B.A. Omar & J.M. McCord: J. Mol Cell Cardiol. 23,149−159 (1991)] 。このことは、Mn−SODの示す等電点がCuZn−SODより高いことと関係があると言われている。また関節滑膜への親和性も等電点の高い分子の方がより効果的である。ちなみにヒトの場合CuZn−SODの等電点はpI約5.1であるのに対し、Mn−SODのそれはpI約7. 0〜7. 4である。このように、等電点のより高いMn−SODは組織への浸透性が高まり薬理効果の増大が予想される。
【0014】
従って、本発明は、組換えMn−SOD(rMn−SOD)遺伝子を用いて各種変異操作を行なった後得られたヒト型変異Mn−SODを提供するものである。
また、本発明は、天然型のMn−SODの等電点よりも高い等電点を有する組み換え変異Mn−SODを創製することを課題とする。
さらに、本発明の他の課題は、Mn−SODの等電点が高くなることによって酵素活性が低下せずまた持続性も天然型と同等以上である新規Mn−SODの創製を課題とする。
さらに、本発明のその他の課題は、等電点が高く、かつ、組織浸透性が高くなったことにより、従来の公知であるMn−SODに比べて、各種の炎症性疾患、癌、未熟児網膜症、高血圧、糖尿病等に対してより強力な薬理効果を発揮する新規組み換えヒト変異Mn−SODを提供することを課題とする。
これらに加えて、本発明は、ヒト型変異Mn−SODをコードした遺伝子、その遺伝子配列を含む発現プラスミド、その発現プラスミドを含む宿主細胞、ヒト型変異Mn−SODの製造方法、およびそれを使用した疾病の予防または治療方法を提供することを課題としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
これまでは、Mn−SODのアミノ酸配列の中のたとえひとつのアミノ酸でもその他の塩基性アミノ酸で置換変異させると、その酵素活性は低下してしまい、充分な目的を達成することできなかった。
ところが、極めて驚いたことには、ヒトMn−SODのアミノ酸配列のN末端から3番目のアミノ酸残基であるセリン残基(Ser) をアルギニン残基(Arg) に変えたヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼにおいては、その等電点がpI約7.1〜7. 4からpI8.1〜8.4と有意に上昇したのに対して、酵素活性、体内半減期、過酸化水素に対する耐性に関しては変化が見られず、上記課題を満たしたものであることを見出した。なお、ヒトMn−SODを大腸菌に組換える場合には、そのN末端にメチオニン残基(Met )が付加されるため、組み換えヒト変異Mn−SODにおいてはN末端より4番目のセリン残基(Ser )がアルギニン残基(Arg )に変換することになる。
同様に、ヒトMn−SODのアミノ酸配列のN末端から3番目のアミノ酸残基であるセリン残基(Ser) をアルギニン残基(Arg) に変えると共に、42番目のアミノ酸残基であるグルタミン酸残基(Glu) をバリン残基(Val) で置換したヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼも、その等電点が、野生株のヒトMn−SODのpI約7.1〜7. 4からpI8.5〜9.4と有意に上昇することを見いだした。
【0016】
その結果を踏まえて、本発明者等は、更に上記課題を解決するために鋭意努力した結果、Mn−SODの場合には極性アミノ酸残基の総和が等電点に反映されることを見出した。つまり、たとえば、Mn−SODの酸性アミノ酸の総数は19個であり、また塩基性アミノ酸数は29であって、合計で塩基性アミノ酸数が10個多いことが知られるが、この塩基性アミノ酸の数を減らすと等電点は減少し、一方増加させると等電点が増加することが見い出された。
【0017】
換言すると、ヒト型変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(以下「hMn−SOD」と略称することがある)のペプチド配列において、他のアミノ酸残基に置換しても酵素活性に影響を及ぼさない部位に、よりプラスに荷電したアミノ酸で置換することによって、等電点が所望の値以上に上昇したヒト型変異Mn−SODが得られることを見いだして、本発明を完成させるに至った。
【0018】
つまり、本発明に係るヒト型変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼ(以下「hMn−SOD」と略称することがある)は、そのペプチド配列において、他のアミノ酸残基に置換しても酵素活性に影響を及ぼさない部位に、よりプラスに荷電したアミノ酸で置換したヒト型変異Mn−SODである。
【0019】
本発明においては、ヒト型変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼのペプチド配列における他のアミノ酸残基に置換しても酵素活性に影響を及ぼさない複数の部位のそれぞれに、よりプラスに荷電したアミノ酸で置換させて、等電点を上昇させたヒト型変異Mn−SODも提供される。
【0020】
更にまた、本発明においては、ヒト型変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼのペプチド配列において、他のアミノ酸残基に置換しても酵素活性に影響を及ぼさない部位に存在するアミノ酸残基を中性アミノ酸残基または塩基性アミノ酸残基にて置換することによってその等電点が上昇したヒト型変異Mn−SODが提供される。
【0021】
ところで、ヒトMn−SODのアミノ酸配列を系統的に比較した場合のヒトMn−SODのアミノ酸配列を中心にした保存アミノ酸配列のみを表示すると以下の通りである[()で囲むアミノ酸が保存アミノ酸であり、アミノ酸略称の上の数値はヒト組換Mn−SODのアミノ酸配列におけるN末端からのアミノ酸の位置を示す]。
【0022】
Figure 0003598322
【0023】
このヒトMn−SODのアミノ酸配列において、アミノ酸残基が欠失、重複、置換等により異なる配列に変異した組み換えヒト変異Mn−SODを得ることができる。例えば、N末端より4番目のセリン残基をアルギニン残基(ヒト由来原料より精製した天然Mn−SODにおいてはメチオニン残基がN末端に欠けているので3番目)に変えることによって、pIを8.1〜8.4に上げることが可能である。
【0024】
更に詳細には、例えば、天然型(野生株)のヒトMn−SODのアミノ酸配列のN末端から3番目のアミノ酸残基であるセリン残基(Ser) をアルギニン残基(Arg) に置換したヒト変異Mn−SODを大腸菌に組換えた場合には、ヒトMn−SODのN末端にはメチオニン残基(Met )が付加されるので、N末端部のアミノ酸配列を示すと次のとおりである。つまり、
N 末端ーMet Lys His Ser Leu Pro Asp Leu…

N 末端ーMet Lys His Arg Leu Pro Asp Leu…
この場合には、組み換えヒト変異Mn−SODにおいてはN末端より4番目のセリン残基(Ser )がアルギニン残基(Arg )に変異されることになる。このセリン残基は、アルギニン残基の他に、リジン、ヒスチジン残基などの塩基性アミノ酸残基で置換されることもできる。
【0025】
更に、ヒト組換Mn−SODのアミノ酸配列におけるN末端から4番のセリン残基を、アルギニン残基または別のアミノ酸残基で置換すると共に、同N末端から43番目のグルタミン酸残基をバリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、アラニン残基などの中性アミノ酸残基またはリジン、アルギニン、ヒスチジン残基などの塩基性アミノ酸残基で置換されたアミノ酸配列をもつヒト変異Mn−SODは、酵素活性、体内半減期、過酸化水素に対する耐性については変化を及ばさないのに、その等電点だけを約pI8.5〜9.4にも上昇させることを見いだした。
【0026】
更にまた、ヒト組換Mn−SODのアミノ酸配列におけるN末端から43番目のグルタミン酸残基だけをバリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、アラニン残基などの中性アミノ酸残基またはリジン、アルギニン、ヒスチジン残基などの塩基性アミノ酸残基で置換されたアミノ酸配列をもつヒト変異Mn−SODも、前述した2つの部位を変異させたアミノ酸配列をもつヒト変異Mn−SODよりも若干劣る程度に上昇した等電点を示すことが判明した。
【0027】
なお、上述したヒトMn−SODのアミノ酸配列において、上記保存アミノ酸以外は大幅な構造の変化をもたらさない限り全て変異可能なアミノ酸である。つまり、理論的には、他のアミノ酸で置換されてもそのポリペプチドとしての酵素活性を喪失しない部位に存在するアミノ酸残基の全てまたは多くを、よりプラスに荷電(チャージ)されたアミノ酸残基、または、中性アミノ酸残基または塩基性アミノ酸残基で置換することも可能である。しかしながら、余りにも多くの部位を別のアミノ酸残基で置換すれば、場合によっては、全く別の蛋白質に変化する可能性があり、かかる蛋白質を医薬品として開発するには全くの新規物質として取り扱わなければならなくなり、ヒトMn−SODとして開発する利点が損なわれてしまい現実味がなくなる。また、前述した数よりも多い部位のアミノ酸を他のアミノ酸残基で置換することによってえられる新規ヒトMn−SODについても、抗原抗体反応などの克服困難な拒絶反応等の問題が生じる可能性があるので、かかるMn−SODを医薬品として開発するのは、かなりの困難が予想される。
【0028】
従って、医薬品、化粧品などの開発に当たって、拒絶反応などの問題を考慮した場合には、本発明においては、hMn−SODのペプチド配列における他のアミノ酸で置換される部位は、1個ないし4個が好ましい。
【0029】
hMn−SODのペプチド配列において、他のアミノ酸残基で置換されても酵素活性が変わらない位置にあるアミノ酸残基を置換される他のアミノ酸残基としては、例えば、アルギニン残基の他に、リジン、ヒスチジン、グルタミン、アスパラギンなどの塩基性アミノ酸残基、または、例えば、バリン残基の他に、ロイシン、イソロイシン、アラニン、グリシンなどのアミノ酸残基を挙げることができる。
【0030】
また、本発明において、hMn−SODのペプチド配列において他のアミノ酸で置換される部位に存在するアミノ酸残基を他のアミノ酸残基で置換することによって達成される等電点は、約pI7. 6以上、好ましくは約pI8. 0以上、更に好ましくは約pI8. 1〜9. 4である。このように等電点を上昇させることにより、ヒトMn−SODの組織浸透性を上昇させることができる。
【0031】
また、本発明には、上記ヒト変異Mn−SODのアミノ酸配列を組換えたヒト変異Mn−SOD蛋白質および該ヒト変異Mn−SODのアミノ酸配列をコードする遺伝子配列ならびにそれを形質転換された微生物をも包含される。
【0032】
また、本発明には、例えばエリザベス・デー・ゲッツォフ等(Elizabeth D.Getzoff et al; Nature: 358, 23 July, No. 6384, 1992 )によってCuZn−SODについて報告されるように、活性中心の酸性アミノ酸(例えば、グルタミン酸)残基をグルタミン等の塩基性アミノ酸に変えることによって活性を数倍上昇させた後、例えば、N末端からの所定の位置のアミノ酸残基をその他のアミノ酸残基で置換することによって等電点を上昇させ、これによって組織透過性を増進させたヒト変異Mn−SODおよび該ヒト変異Mn−SODのアミノ酸配列をコードする遺伝子配列ならびにそれを形質転換された微生物をも包含される。
【0033】
本発明に係る組換ヒト変異Mn−SODは、例えば、ヒトMn−SOD遺伝子配列における組換アミノ酸残基のアミノ酸配列に該当するアミノ酸残基を指令する遺伝子配列部分に変異を加えて置換されたアミノ酸残基を指令する遺伝子配列を有するプライマーを用いてPCR法による増幅を行なう方法によって製造することができる。
【0034】
つまり、例えば、ヒトMn−SOD遺伝子配列におけるN末端から4番目のセリン残基のアミノ酸配列に該当するアミノ酸残基を指令する遺伝子配列部分に変異を加えて置換されたアルギニン残基またはその他のアミノ酸残基を指令する遺伝子配列を有するプライマーを用いて、および・または同N末端から43番目のグルタミン酸残基のアミノ酸配列に該当するアミノ酸残基を指令する遺伝子配列部分に変異を加えて置換されたバリン残基またはその他のアミノ酸残基を指令する遺伝子配列を有するプライマーを用いて、PCR法による増殖することによって製造することができる。
【0035】
従って、本発明に用いることのできるプライマーのうち、Mn−SODのN末端側のプライマーとしては次のものが挙げられる。
HMSー5: 5’ AT CTG GGC GAA TTC ATG AAG CAC CGC CTC CCC GA 3’
(配列表1)
または
HMSー7: 5’ C ATG AAG CAC CGC CTC CCC GAC CTG CCC T 3’
(配列表3)
また、Mn−SODのC末端側プライマーとしては次のものが挙げられる。
HMSー6: 3’ GCTAGC AATACGACGT CTACAATTC 5’
(配列表2)
【0036】
また、上記ヒトMn−SODのN末端ペプチド配列の一部を指令する遺伝子配列を有するN末端側プライマーのうち、Met Lys His Ser Leu Pro Asp Leu …配列のセリン残基を指令する遺伝子配列としては、他の塩基性アミノ酸配列を指令する遺伝子配列に変えるようなN末端側プライマーの変異配列の全てが包含される。
【0037】
なお、例えば、天然型N末端側から1番目ないし7番目のMn−SODのペプチド配列の一部分は次のとおりである。
…Lys His Ser Leu Pro Asp Leu …
上記に対応する天然型N末端側Mn−SODペプチド配列を指令する遺伝子配列は次のとおりである。
…AAG CAC AGC CTC CCC GAC …
【0038】
上記の天然型末端側Mn−SODのペプチド部分配列に対応する、N末端側変異Mn−SODのペプチド配列部分の1つの例は下記のとおりである。
…Lys His Arg Leu Pro Asp Leu …
上記に対応するN末端側変異Mn−SODペプチド配列を指令する遺伝子配列は次のとおりである。
部分遺伝子配列1: …AAG CAC CGC CTC CCC GAC …
部分遺伝子配列2: …AAG CAC AGG CTC CCC GAC …
部分遺伝子配列3: …AAG CAC AGA CTC CCC GAC …
【0039】
上記の天然型末端側Mn−SODのペプチド部分配列に対応する、N末端側変異Mn−SODのペプチド配列部分の別の例は下記のとおりである。
…Lys His Asn Leu Pro Asp Leu …
上記に対応するN末端側変異Mn−SODペプチド配列を指令する遺伝子配列は次のとおりである。
部分遺伝子配列4: …AAG CAC AAC CTC CCC GAC …
部分遺伝子配列5: …AAG CAC AAT CTC CCC GAC …
【0040】
上記の天然型末端側Mn−SODのペプチド部分配列に対応する、N末端側変異Mn−SODのペプチド配列部分の更に別の例は下記のとおりである。
…Lys His Lys Leu Pro Asp Leu …
上記に対応するN末端側変異Mn−SODペプチド配列を指令する遺伝子配列は次のとおりである。
部分遺伝子配列6: …AAG CAC AAA CTC CCC GAC …
部分遺伝子配列7: …AAG CAC AAG CTC CCC GAC …
【0041】
上記の天然型末端側Mn−SODのペプチド部分配列に対応する、N末端側変異Mn−SODのペプチド配列部分の更に別の例は下記のとおりである。
…Lys His Gln Leu Pro Asp Leu …
上記に対応するN末端側変異Mn−SODペプチド配列を指令する遺伝子配列は次のとおりである。
部分遺伝子配列8: …AAG CAC CAA CTC CCC GAC …
部分遺伝子配列9: …AAG CAC CAG CTC CCC GAC …
【0042】
また、例えば、天然型N末端側から41番目ないし43番目のMn−SODのペプチド配列の一部分は次のとおりである。
…Arg Glu Ile …
上記に対応する天然型N末端側Mn−SODペプチド配列を指令する遺伝子配列は次のとおりである。
…CGC GAG ATA …
【0043】
上記の天然型末端側Mn−SODのペプチド部分配列に対応する、N末端側変異Mn−SODのペプチド配列部分の1つの例は下記のとおりである。
…Arg Val Ile …
上記に対応するN末端側変異Mn−SODペプチド配列を指令する遺伝子配列は次のとおりである。
部分遺伝子配列10: …CGC GTG ATA …
【0044】
その他、各種変異アミノ酸とそれをコードする各種コドンを含む遺伝子の配列を挙げることができる。
【0045】
従って、本発明には、例えば、前述したような置換アミノ酸残基のアミノ酸配列に対応する遺伝子配列を含むプライマーも包含されるのは当然である。さらには上記プライマーを用いて作成された組み換えヒト変異Mn−SOD遺伝子DNA配列、それによって作成されたcDNAおよび該cDNAを形質転換された大腸菌などの微生物も包含される。
【0046】
さらに、前記形質転換微生物を培養後、DEAEセファロース(ファルマシア)、CMセファロースなどを用いてカラムクロマトグラフィーなどを行なって活性画分を集め、集めた活性画分より常法に従ってエンドトキシン等のパイロゲンを除去することによって等電点を高めたヒト変異Mn−SODを製造することができる。
【0047】
本発明の組み換えヒト変異Mn−SODには各種の安定化剤、賦形剤例えばアルブミン、ラクトアルブミン、ポリエチレングリコール、アミノ酸、単糖類、2単糖類、3単糖類等を添加することができる。例えば、上記の2糖類の一層好ましい例としてトレハロース(αー[Dーグルコピラノシル]αーDーグルコピラノース)の0.02〜1M濃度を含む溶液が挙げられる。
【0048】
本発明に係るヒト変異Mn−SODの製剤例としては、例えば、組み換えヒトMn−SODのN末端より4番目のセリン残基をアルギニンに置換した組み換えヒト変異Mn−SODを下記処方のような注射用溶液に配合したものなどが挙げられる。つまり、
MHS:SOD 100mg
トレハロ−ス 0.23M(最終濃度)
グルタミン酸ナトリウム 10mM
希釈水酸化ナトリウム pH7.2〜7.4に調整後、
蒸留水(パイロゼンフリ−)を加えて全量を10mlにする。
この溶液をバイアルに分注して保存する。
【0049】
本発明の組み換えヒト変異Mn−SODの投与量は、例えば、0. 01mg〜1g/ kg/ 日、好ましくは0. 1mg〜50mg/ kg/ 日であり、点滴、静注、筋注、皮下注、坐剤ないしは点鼻薬としてまたは関節腔へも投与することができる。なお、投与料や等よ方法などは、疾患の種類や程度、患者の状態などにより、適宜変えることができる。
なお、本発明に係る組み換えヒト変異Mn−SODの毒性は極めて少なく、例えば組み換えヒトMn−SODのN末端より4番目のセリン残基をアルギニンに変えた組み換えヒト変異Mn−SODはSD雄ラットへの50mg/ kgの尾静脈からのボーラス投与によって何等の毒性も観察されなかった。
【0050】
こうして得られた本発明に係るヒトMn−SODのアミノ酸配列のN末端より4番目がアルギニン残基に変異した組み換えヒト変異Mn−SODは、これまで効果が明確でなかった関節炎のラットモデル等に対して有意の抗炎症作用を発揮した。
【0051】
【実施例】
以下に本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって何等制限されるものではない。
【0052】
遺伝子操作についての実験は、基本的にはサンブロック等(Sambrook et al, Cold Spring Harbor Lab., 1989)の「モレキュラークローニング、ア ラボラトリーマニュアル」(「Molecular Cloning, A Laboratory Manual」)に従って行なった。蛋白化学、精製その他の手法についてはパッカー編[(Lester Packer,ed)Method in Enzymology Vol.105 1984 Academic Press]を参考にした。
【0053】
実施例1ー1:cDNAの作成
常法に従ってヒト培養細胞より抽出したmRNAあるいは公知のphMnSOD4cDNAを鋳型として用い、次にN末端から4番目のアミノ酸残基セリンをアルギニン残基に変異させた配列を有するN末端側プライマーとしてHMSー5プライマー(配列表1)を化学合成し、これにC末端プライマーHMS−6(配列表2)を化学合成し、HMSー5およびHMSー6の両プライマーを用いて遺伝子増幅法によりヒト変異Mn−SOD遺伝子を増幅させた。
【0054】
Figure 0003598322
【0055】
続いて、得られたヒト変異SOD遺伝子を制限酵素PstIおよびEcoRIによって消化し、制限酵素PstIおよびEcoRIによって消化された発現ベクター(A)に前記ヒト変異SOD遺伝子を連結した。発現ベクター(A)は蛋白質の過剰発現用に用いられ、強力なtacプロモーターをもち、適当な宿主中(JM105)でlacリプレッサーによって調節され、培地へのイソプロピルーβーDーチオガラクトシド(IPTG)の添加によって誘導される(図1ーA)。
【0056】
実施例1ー2:
常法に従ってヒト培養細胞より抽出したmRNAあるいは公知のphMnSOD4cDNAを鋳型として用い、次にN末端から4番目のアミノ酸残基セリンをアルギニン残基に変異させた配列を有するN末端側プライマーとしてHMS−7プライマー(配列表3)を化学合成し、これにC末端プライマーHMS−6(配列表2)を化学合成し、HMSー7およびHMSー6の両プライマーを用いて遺伝子増幅法によりヒト変異SOD遺伝子を増幅させた。
Figure 0003598322
続いて得られたヒトMn−SOD遺伝子をムングビーンヌクレアーゼ(mung− bean nuclease )および制限酵素PstIによって消化し、制限酵素NcoIおよびムングビーンヌクレアーゼによって消化後PstIで処理した発現ベクターに前記ヒト変異SOD遺伝子を連結した(図1ーB)。
【0057】
実施例2:プロモーターおよびベクターの選択
大腸菌用プロモーターとしてPacやその改良型Ptac* の下流にヒト変異Mn−SOD遺伝子を含むcDNAを連結することによって目的の発現プラスミドを作成した。Mn−SOD遺伝子の両端にはそれぞれEcoRIかNcoIおよびPstIサイトを設置しプロモーターと連結した。こうして得られたヒト変異Mn−SOD遺伝子を含む発現プラスミドを宿主大腸菌に導入しアンピシリン耐性菌として形質転換体を選抜した(図1)。
【0058】
実施例3:培養および分離精製
ヒト変異Mn−SOD遺伝子を含む発現プラスミドで形質転換された大腸菌菌株E.coliJM105をアンピシリン40mg/lおよび塩化マンガン15mMを含む培地中で37℃15時間撹拌培養した。培養後ブレンダーにて細胞を破砕し低速遠心によって上清をえた。
こうして得た上清をDEAEセファロースに負荷してリン酸緩衝液を用いてクロマトグラフィーを行なう。続いて活性画分をCMセファロースを行なって高濃度リン酸緩衝液により溶出し活性画分を集める。集めた活性画分より常法に従ってエンドトキシン等のパイロゲンを除去した。
得られた精製組み換えヒト変異Mn−SODをマッコード等(McCord, J.M., Friedovich, I., J.Biol.Chem.,244, 6049〜6055,1969 )の方法に従って測定したところ、約4900単位/mg蛋白質の活性を示した。一方対照に用いた組み換えヒトMn−SODは約4800単位/mgの活性を示し、両者間に違いは見られなかった。
こうして本実施例によって得られた変異Mn−SODはMHS:Mn−SODと略称した。
【0059】
このMHS:MnSODのアミノ酸配列と遺伝子配列は次のとおりである。
Figure 0003598322
Figure 0003598322
【0060】
実施例4:精製MHS:Mn−SODの酵素学的性質
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分子量約20000の単一バンドを示した。天然型およびMHS:Mn−SODを各10μg 含むスラブ型ポリアクリルアミドゲルを含有するpI3.0〜9.0の等電点電気泳動を行なった結果、天然型Mn−SODはpI約7.2を示した。一方、MHS:Mn−SODはpI約8.2を示し明らかに天然型のMn−SODと異なっていた(図2)。
各種濃度の過酸化水素およびシアンの存在下でのMHS:Mn−SODの安定性を検討したところ、CuZn−SODの失活する過酸化水素濃度でMHS:Mn−SODは失活せず、シアン耐性もMn−SODと変らなかった。
【0061】
得られた本発明のMHS:Mn−SODのアミノ酸配列を上記に示したが、N末端より4番目のセリンがアルギニンに変異したヒト変異Mn−SODであることがN末端分析により確認された。
【0062】
実施例5:他のヒト変異Mn−SOD遺伝子におけるセリン残基の置換
N末端より59番目のイソロイシン残基がスレオニン残基に置換しこれによって酵素活性が約50%に落ちた組み換え変異Mn−SODのN末端ーMet Lys His Ser Leu Pro Asp Leu …配列部分のセリン残基(Ser )を実施例1〜4の方法に従ってアルギニン残基(Arg )に変えた組み換えヒト変異Mn−SODの場合においては、酵素活性は天然型に比較して約50%のままで等電点のみがpl約7.0からpl8.1〜8.3と上昇したのが確認された。これによって組織浸透性も上昇したことが確認できた。
【0063】
実施例6:MHS:Mn−SODの体内持続性
ラット尾静脈よりCuZn−SOD、Mn−SODおよびMHS:Mn−SODの各10mg/ Kgを投与後頚動脈より経時的に採血し持続性を測定した結果、それぞれ半減期6分、74分および82分を示した(図3)。
【0064】
実施例7:アジュバント関節炎に対するMHS:Mn−SODの治療効果
レービス(Lewis)雄ラット(6〜7週齢)体重250〜300gのものを用いる。エーテル麻酔後尾部皮下にツベルクリン針を用いて0.1mlの結核菌(5mg/ml流動パラフィン)液を投与する。
MHS:Mn−SODの1000単位/ラットを後足関節に3日目より投与を開始し、2日に1回の割合で週3回投与を行なった。MHS投与群で5週目より有意に抑制効果が見られた(図4)。
【0065】
実施例8:再開通不整脈へのMHS:Mn−SODの治療効果
SDラット雄(300〜350g)の心臓を摘出しランゲンドルフ法にて潅流を行なった。虚血5分前にMn−SODまたはMHS:Mn−SODの100単位/mlを投与後、30分間虚血を実施し、再潅流後不整脈の出現頻度とその持続時間を測定した。
その結果、図5に示したようにMn−SODに比べて有意の頻度低下作用と持続時間短縮効果が見られた。
【0066】
実施例9:血しょうクレアチニンキナーゼの放出抑制作用
フィンケ等は冠動脈血栓溶解時にウロキナーゼとともにMn−SODを併用することによりクレアチニンキナーゼの放出が防御されることを観察している[フィンケ等(Fincke,U. Arzneim Forcsch 38Nr.1:138−142,1988)]。本発明の実施例1〜4で作成した組み換えヒト変異Mn−SODの10mg/kgと高分子ウロキナーゼ3mg/kgをフィンケ等のイヌ心臓虚血再潅流モデルでの実験系にて虚血後に併用し検討し6時間後採血して血しょうクレアチニンキナーゼの測定を行なったところ大幅な血しょうクレアチニンキナーゼの放出抑制作用がみられ心筋の保護作用が観察された(図6)。
【0067】
実施例10:MHS:Mn−SODに対する安定剤の効果
MHS:Mn−SODは組み換えヒトMn−SODと同様に高純度に精製された状態で不安定であり凍結融解、また長期保存等により活性が低下することがある。
そこでMHS:Mn−SODの5mg/ml溶液(0.06Mリン酸緩衝液pH6.8)にトレハロース0.2Mあるいはマルトース120mg/mlを添加して凍結乾燥後55℃3週間保存し活性の低下を検討した。その結果、糖無添加群では約70%に活性が低下したが糖添加群では活性の低下が見られなかった。
【0068】
実施例11:MHS2:MnSOD調整におけるcDNAの作成
実施例1ー1に示した方法に従ってヒト変異Mn−SOD遺伝子を増幅させ、発現ベクターに前記ヒト変異SOD遺伝子を連結した。
続いて、ヒト培養細胞より抽出したmRNAあるいは公知のphMnSOD4cDNAを鋳型として用い、次にN末端から4番目のアミノ酸残基セリンをアルギニン残基に変異させた配列を有するN末端側プライマーとしてHMSー7プライマー(配列表3)を化学合成し、これにC末端プライマーHMS−6(配列表2)を化学合成し、HMSー7およびHMSー6の両プライマーを用いて遺伝子増幅法によりヒト変異SOD遺伝子を増幅させた。続いて図8の遺伝子コードにおいて134番目の塩基アデニンがチミンとなるように塩基置換したプライマーをもちいてN末端より43番目のグルタミン酸残基をバリン残基に置換した。
続いて、得られたヒトMn−SOD遺伝子をムングビーンヌクレアーゼ(mung−bean nuclease)および制限酵素PstIによって消化し、制限酵素NcoIおよびムングビーンヌクレアーゼによって消化後PstIで処理した発現ベクターに前記ヒト変異SOD遺伝子を連結した。
【0069】
実施例12:MHS2:Mn−SODのプロモーターおよびベクターの選択
大腸菌用プロモーターとしてPtacやその改良型Ptac* の下流にヒト変異Mn−SOD遺伝子を含むcDNAを連結することによって目的の発現プラスミドを作成した。Mn−SOD遺伝子の両端にはそれぞれEcoRIかNcoIおよびPstIサイトを設置しプロモーターと連結した。こうして得られたヒト変異Mn−SOD遺伝子を含む発現プラスミドを宿主大腸菌に導入しアンピシリン耐性菌として形質転換体を選抜した。
【0070】
実施例13:MHS2:Mn−SODの培養および分離精製
MHS2:Mn−SODの遺伝子を含む発現プラスミドで形質転換された大腸菌菌株E.coliJM105を実施例3の方法に従って培養した後、得られたMHS2:Mn−SODを常法により分離精製した。
得られた精製MHS2:Mn−SODをマッコード等(McCord, J.M., Friedovich, I., J. Biol. Chem., 244, 6049 〜6055, 1969)の方法に従って測定したところ、約4950単位/mgの蛋白質の活性を示した。一方、対照に用いた組み換えヒトMn−SODは約4830単位/mgの活性を示し、両者間に違いは見られなかった。適当量のトレハロース等を添加して凍結乾燥し保存した。
こうして本実施例によって得られた変異Mn−SODはMHS2:Mn−SODと略称した。
【0071】
このMHS2:MnSODのアミノ酸配列と遺伝子配列は次のとおりである。
Figure 0003598322
Figure 0003598322
【0072】
実施例14:精製MHS2:Mn−SODの酵素学的性質
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分子量約20000の単一バンドを示した。天然型およびMHS:Mn−SODを各10μg 含むスラブ型ポリアクリルアミドゲルを含有するpI3.0〜9.0の等電点電気泳動を行なった結果、天然型Mn−SODはpI約7.2を示した。一方、MHS:Mn−SODはpI約8.5〜9.4を示し、明らかに天然型のMn−SODの異なっていた。
各種濃度の過酸化水素およびシアンの存在下でのMHS2:Mn−SODの安定性を検討したところ、CuZn−SODの失活する過酸化水素濃度でMHS2:Mn−SODは失活せず、シアン耐性もMn−SODと変らなかった。
得られた本発明のMHS2:Mn−SODのアミノ酸配列を上記に示したが、N末端より4番目のセリンがアルギニンに変異したヒト変異Mn−SODであり42番目がバリンであることが遺伝子構造解析により確認された。
【0073】
実施例15:MHS2:Mn−SODの体内持続性
ラット尾静脈よりCuZn−SOD、Mn−SODおよびMHS2:Mn−SODの各10mg/Kgを投与後頚動脈より経時的に採血し持続性を測定した結果、それぞれ半減期6分、76分および88分を示した。
【0074】
実施例16:MHS2:Mn−SODに対する安定剤の効果
MHS2:Mn−SODは組み換えヒトMn−SODと同様に高純度に精製された状態で不安定であり凍結融解、また長期保存等により活性が失われる。
そこで、MHS2:Mn−SODの5mg/ml溶液(0.06Mリン酸緩衝液pH6.8)にトレハロース0.2Mあるいはマルトース120mg/mlを添加して凍結乾燥後55℃3週間保存し活性の低下を検討した。その結果、糖無添加群では約70%に活性が低下したのに対して、糖添加群では活性の低下が見られなかった。
【0075】
【発明の効果】
本発明により、等電点が有意に上昇したMn−SODを得ることができこれによって、組織浸透性を上げ各種の炎症性疾患、癌、未熟児網膜症、高血圧症、糖尿病等に対してより強力な薬理効果を発揮すると共に、化粧品としても使用することができる新規なMn−SODを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】発現ベクター:大腸菌宿主においてPtacプロモーターの下流に組み換えヒト変異Mn−SOD(=MHS:Mn−SOD)遺伝子を結合した。図中において、(a)はPtac−hMnSODへの組み込みを示し、(b)はPtac* −hMnSODへの組み込みを示す。
【図2】MHS2:Mn−SODのラット血中における体内持続性を示すグラフ。グラフにおいて、○印はMHS:Mn−SODを、●印は組み換えヒトMn−SODを示し、□印はCuZn−SODを示す。
【図3】MHS2:Mn−SODの等電点電気泳動(アンフォライト、pH3〜9、ファーマシア社製)を示すグラフ。グラフにおいて、(a)は組み換えヒトMn−SOD、(b)はMHS2:Mn−SOD、(c)は蛋白質スタンダードを示す。
【図4】MHS:Mn−SODのアジュバント関節炎に対する抗炎症作用(ラット)を示すグラフ。グラフにおいて、○印はMHS:Mn−SOD、●印は組み換えヒトMn−SODを示す。
【図5】MHS:Mn−SODの冠動脈再開通後の不整脈出現頻度とその持続時間に対する作用を示すグラフ。グラフにおいて、(a)は組み換えヒトMn−SOD、(b)はMHS:Mn−SODを示す。
【図6】心臓虚血再潅流モデルでの心筋保護作用を示すグラフ。グラフにおいて、(a)はコントロール、(b)は組み換えヒトMn−SOD、(c)はMHS:Mn−SODを示す。
【配列表】
Figure 0003598322

Claims (11)

  1. ヒトマンガンスーパーオキシドジスムターゼのペプチド配列において、そのN末端から3番目のセリン基をアルギニン基で置換していることを特徴とするヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼ。
  2. ヒトマンガンスーパーオキシドジスムターゼのペプチド配列において、そのN末端から42番目のグルタミン基をバリン基で置換していることを特徴とするヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼ。
  3. 請求項1または2に記載のヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼにおいて、そのN末端から3番目のセリン基をアルギニン基で、またそのN末端から42番目のグルタミン基をバリン基で置換していることを特徴とするヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼ。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項に記載のヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼにおいて、等電点pIが7.6以上であることを特徴とするヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼ。
  5. ヒトマンガンスーパーオキシドジスムターゼのペプチド配列において、そのN末端から3番目のセリン基がアルギニン基で置換されていること、および/またはそのN末端から42番目のグルタミン基がバリン基で置換しているヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼのペプチド配列をコードしていることを特徴とするヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼの遺伝子。
  6. 請求項5に記載のヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼをコードする遺伝子において、上記置換部位を含む部分遺伝子配列を含むことを特徴とするヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼのプライマー。
  7. 請求項5または6に記載の遺伝子を含むことを特徴とする発現プラスミド。
  8. 請求項7に記載の発現プラスミドを含むことを特徴とする宿主細胞。
  9. 請求項5に記載のヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼの遺伝子を含む発現プラスミドを含む宿主細胞を培養することを特徴とするヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼの製造方法。
  10. 請求項6に記載のヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼのプライマーを用いてヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼの遺伝子を増幅することを特徴とするヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼの製造方法。
  11. 請求項1ないし4のいずれかの1項に記載のヒト変異マンガンスーパーオキシドジスムターゼを活性成分として含有する医薬品用または化粧品用組成物。
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